
バリウム検査は、造影剤を用いて胃の粘膜や形状を詳細に映し出し、胃癌や潰瘍などの病変を早期に発見するための重要な画像診断法です。
特殊な液体を服用し、X線撮影台の上で体位を変えながら胃全体の影を記録することで、内視鏡では捉えにくい胃全体の膨らみまで評価できます。
本記事では、検査の科学的な原理から当日の食事制限、具体的な撮影手順、そして終了後のケアに至るまで、受診者の疑問を徹底的に解説します。
バリウム検査の基礎知識と胃癌検診における役割
バリウム検査は、硫酸バリウムというX線を透過しにくい造影剤を服用し、胃の内部構造を影絵のように浮かび上がらせる診断手法です。
胃の粘膜にバリウムを薄く付着させ、同時に発泡剤で胃を大きく膨らませることで、粘膜のわずかな凹凸を精密に確認することが可能です。
消化管造影検査としての位置づけ
医療現場においてバリウム検査は、食道から胃、十二指腸までの通り道を連続的に確認できる上部消化管造影検査として分類されます。単なる静止画の記録にとどまらず、バリウムが喉を通る様子や胃の中に流れ込む様子をリアルタイムのモニターで観察できる点が特徴です。
消化器科の診断において、全体の形状異常を広範囲に把握するための土台となる検査であり、多くの集団検診で採用されています。
胃内視鏡検査との使い分け
胃の検査には内視鏡(胃カメラ)も存在しますが、これらは得意とする診断領域が異なるため、目的によって使い分けられます。内視鏡が粘膜の色味や微細な血管の変化を直接見ることに長けている一方、バリウム検査は胃全体の「形」を俯瞰的に捉えることに優れます。
胃の壁が硬くなるタイプの癌などは、バリウム検査による胃の膨らみ具合の評価が、早期発見のための重要な端緒となる場合が多いです。
検診の目的や個人の体質、過去の病歴に応じて、医師は受診者にとって適切な手法を選択し、精度の高い診断を目指します。
バリウム検査で発見対象となる主な疾患
| 疾患分類 | 具体的な疾患名 | 主な確認ポイント |
|---|---|---|
| 悪性腫瘍 | 早期胃癌、進行胃癌 | 粘膜の乱れ、壁の硬直 |
| 良性腫瘍 | 胃ポリープ、粘膜下腫瘍 | 隆起の形、表面の状態 |
| 潰瘍・炎症 | 胃潰瘍、十二指腸潰瘍 | 粘膜の欠損、ひだの集中 |
受診が推奨される頻度と重要性
自治体や職場の健康診断では、一般的に40歳以上の男女を対象に年1回の受診を推奨する指針が多く示されています。自覚症状がない段階で定期的に検査を受けることは、癌を完治が望める段階で見つけるために非常に重要な意味を持ちます。
早期の胃癌は多くの場合無症状で進行するため、客観的な画像診断を繰り返す習慣が、将来的な健康維持の大きな支えとなります。
X線とバリウムが癌を描き出す仕組み
バリウム検査が癌を映し出す原理は、X線の透過性の差を利用した高度な影絵の技術によって成り立っています。金属成分を含むバリウムはX線を遮断する性質を持つため、胃の壁にバリウムの膜を作ることで、胃の形を白く鮮明に画像化できます。
造影剤バリウムが果たす役割
硫酸バリウムは水に溶けない重い粉末を懸濁液にしたもので、服用すると食道から胃の壁面に沿ってゆっくりと流れていきます。
撮影台を動かして体を回転させることで、胃の全周にバリウムをまんべんなく行き渡らせ、壁をコーティングする作業を行います。
この作業により、粘膜に存在する小さな隆起や陥凹が影として浮かび上がり、癌細胞による微細な変化を検知できるようになります。
空気を注入する二重造影法
現代の検査では、バリウムと一緒に発泡剤を飲み、胃をガスでパンパンに膨らませた状態で撮影する二重造影法が主流です。しぼんだ風船の表面は見えにくいですが、大きく膨らませることで、表面にある数ミリ単位の微細な傷も容易に発見可能となります。
空気によって引き伸ばされた胃壁に、薄く均一なバリウムの膜が張ることで、写真のような鮮明な描写力が得られるようになります。
異常所見として捉えられる影の正体
専門家は、画像上の「影の欠損」や「不自然な溜まり」を注視することで、病変の有無やその性質を詳細に分析します。癌が盛り上がっていればバリウムが弾かれて薄く見え、逆に癌が粘膜を削り取っていれば、その窪みにバリウムが濃く溜まります。
こうした複数の視覚的サインを組み合わせ、胃全体の柔軟性を評価することで、目に見えない癌の広がりまで推測することが可能です。
画像上で観察される主な異常サイン
| 所見名 | 状態の説明 | 疑われる病態 |
|---|---|---|
| 充盈欠損 | バリウムが押し除けられた影 | 隆起型の癌、ポリープ |
| ニッシェ | バリウムが窪みに溜まった影 | 陥凹型の癌、胃潰瘍 |
| 壁の硬直 | 胃の膨らみが悪い直線的な壁 | スキルス胃癌、浸潤病変 |
検査前日からの準備と当日の手順
正確な診断を下すための環境作りは、検査前日の食事制限からすでに始まっており、受診者の協力が結果を左右します。胃の中に食べ物が残っていると、それがバリウムの付着を妨げたり、あるいは食べ物自体が癌のように写ってしまったりします。
検査前夜と当日の飲食制限
検査前日は消化の良い食事を早めに済ませ、午後9時以降の食事を禁止するルールが一般的となっています。
当日は起床時から絶食を守り、胃液の分泌を抑えるためにタバコやガムの摂取も控えることが、鮮明な画像を撮るために大切です。胃液が多いとバリウムが薄まり、粘膜にうまく付着しなくなるため、空腹の状態を維持することが非常に重要なポイントとなります。
発泡剤とバリウムの服用方法
検査室に入ると、まず発泡剤を少量のバリウムで飲み込みます。胃の中でガスが発生しゲップが出そうになりますが、これを我慢します。
ゲップをして空気が抜けると、胃がしぼんで正確な診断ができなくなります。続いて、コップ一杯程度のバリウムを速やかに飲み干します。最近のバリウム液はフレーバーが工夫されており、粘度も調整されているため、以前に比べると格段に飲みやすく進化しています。
撮影台の上での体位変換と動き
撮影が始まると、放射線技師の指示に従って撮影台の上で体を回転させたり、うつ伏せになったりといったアクションを繰り返します。
これは重力を使って胃の全方位にバリウムを流し、すべての粘膜をムラなくコーティングするために行われる一連の作業です。台が大きく傾くこともありますが、これは胃の上部など死角になりやすい場所を確実に撮影するために必要なプロセスとなります。
技師はモニター越しにバリウムの広がりを秒単位で確認しながら、癌が隠れやすい場所を狙ってシャッターを切り続けます。
撮影中の主な動作と指示
- 左右へのローリング:胃壁全体にバリウムを均一に広げるための回転
- 息止め:画像がぶれないように、シャッターを切る瞬間に呼吸を停止
- うつ伏せ:胃の前壁や、特定の角度からしか見えない病変の確認
バリウム検査によって判明する主な病変
バリウム検査は胃癌の早期発見だけでなく、食道から十二指腸に至るまで広範囲な消化器疾患の診断に役立つ情報を提供します。癌以外にも、放置すると悪化する恐れがあるポリープや、出血を伴う潰瘍など、多くの疾患を捉えることが可能となっています。
早期癌と進行癌の写り方の特徴
早期癌は粘膜のわずかな色ムラや数ミリの隆起として現れますが、バリウム検査ではこれを粘膜の「ひだの途切れ」として捉えます。
進行癌になると、大きな塊としての盛り上がりや、深いクレーターのような潰瘍形成、あるいは胃全体の不自然な変形として写ります。特に壁が厚く硬くなるスキルス胃癌の場合、胃が十分に膨らまないという全体像の異常が、発見に至るための決定的なサインとなります。
胃潰瘍や十二指腸潰瘍の診断
ストレスや感染が原因で起こる胃潰瘍や十二指腸潰瘍も、バリウムがえぐれた部分に溜まる特徴的な影によって明瞭に確認できます。過去に潰瘍を患った跡である「瘢痕」も、周囲の粘膜が引き寄せられた形状として記録され、現在の活動性などを判断する基準になります。
この確認作業を通じて、緊急性の高い治療が必要な状態なのか、経過観察で良いのかという方針を医師が迅速に決定できます。
ポリープや粘膜下腫瘍の判別
胃の中にできる良性の盛り上がりであるポリープは、表面の滑らかさや茎の有無を観察し、切除が必要なタイプかどうかを推測します。
また、粘膜の下の深い層から発生する粘膜下腫瘍も、表面がなだらかに押し上げられた様子として描出され、早期の対応が可能となります。これらの所見は画像として正確に保存されるため、数年後に変化がないかを見比べる際の貴重なデータとしての役割も果たします。
確認される主な良性疾患
| 部位 | 主な疾患 | 画像上の見え方 |
|---|---|---|
| 胃 | 胃ポリープ | 小さく丸いバリウムの欠損 |
| 胃 | 慢性胃炎 | 粘膜のひだが太くなる、乱れる |
| 十二指腸 | 十二指腸球部変形 | 潰瘍の影響による形状のゆがみ |
検査に伴うリスクと事前に知っておくべき副作用
バリウム検査は安全性が高い検査ですが、少なからず体への負担やリスクが伴うため、正しい知識を持っておくことが大切です。
放射線を用いた被曝の影響や、体内に取り込む薬剤による副作用を理解しておくことで、安心して受診に臨むことができます。
X線照射による放射線被曝の影響
レントゲン撮影である以上、放射線による被曝は避けられませんが、1回あたりの線量は健康に影響を及ぼさない範囲に抑えられています。
医療上のメリットがリスクを大きく上回ると考えられていますが、妊娠中の方やその可能性がある方は検査を受けることはできません。
最新の機器では被曝量を最小限に抑える機能が備わっており、受診者の安全を守るための技術革新が日々進められています。
便秘や腸閉塞などの消化器トラブル
最も注意すべき副作用は検査後の便秘であり、バリウムが腸内で水分を吸収して石のように硬くなってしまう性質が原因です。元々便秘がちな方や、検査後の水分摂取が不足した場合、バリウムが腸内に停滞し、腹痛や最悪の場合は腸閉塞を引き起こす恐れがあります。
このようなトラブルを未然に防ぐため、検査後には必ず下剤が処方され、多めの水分を摂取するようにスタッフから強く促されます。
バリウム過敏症によるアレルギー症状
非常に稀ではありますが、バリウムや添加物に対してアレルギー反応を示す方がおり、発疹や息苦しさなどの症状が現れることがあります。
過去に薬で気分が悪くなった経験がある方は、事前に申告を行うことで、別の検査手法を検討するなどの安全策を講じることが可能です。
注意を要する具体的な症状
- 検査直後の発疹、痒み、呼吸困難(アレルギー反応)
- 数日が経過しても白い便が出ない(バリウムの停滞)
- 激しい腹痛、腹部の張り、嘔気(腸閉塞の兆候)
検査終了後の過ごし方とアフターケア
検査が終了したからといって安心せず、服用したバリウムがすべて体外に排出されるまで注意深く過ごすことが大切となります。
提供される下剤の服用方法や、当日の生活習慣について正しい知識を持つことで、深刻な体調不良を招くリスクを大幅に軽減できます。
下剤を服用するタイミングと注意点
検査終了後、速やかに下剤を服用することが基本であり、多くの施設ではその場で1回目の服用を済ませるよう指導されます。下剤の効果は数時間後に現れるため、帰宅までの道のりやその後の予定を調整し、トイレにすぐ行ける環境を確保しておくと安心です。
もし数時間が経過しても排便がない場合は、予備の下剤を追加で服用するなど、状況に応じた臨機応変な対応が必要になります。
排便を促すための食事と水分の取り方
バリウムをスムーズに排出させるためには、普段の倍以上の水分を意識的に摂取し、便が硬くなるのを防ぐことが重要です。水やお茶など、糖分やカフェインの少ない飲み物を中心に選び、腸の動きを活発にするよう促すことが良い結果につながります。
アルコールは体内の水分を奪って便を硬くしてしまうため、白い便を完全に出し切るまでは、お酒を控えるのが賢明な判断です。
白い便が出ない場合の対処法
検査後の便はバリウムが混ざるため白色になりますが、これが通常の茶色い便に戻るまでが、体調管理を継続すべき期間となります。
翌日になっても排便がない場合や、お腹が張って苦しいと感じる時は、我慢せずに検査を受けた医療機関へ相談してください。時間が経過するほどバリウムは硬くなり、自然な排出が困難になるため、早めの対処が重篤な合併症を防ぐための唯一の手段です。
帰宅後に徹底すべきセルフケア
| 項目 | 具体的なアクション | 期待される効果 |
|---|---|---|
| 水分補給 | 1時間おきにコップ1杯の水を飲む | バリウムの固着を防止する |
| 下剤服用 | 指示された時間に必ず飲む | 腸の動きを強制的に促す |
| 便の観察 | 排便の有無と色を毎回確認する | 排出完了を正確に把握する |
よくある質問
バリウム検査中にゲップを我慢できない場合はどうなりますか?
胃がしぼんでしまい、粘膜の表面をきれいに撮影できなくなります。その結果として、正確な診断が困難になり、癌を見逃すリスクが高まる可能性があります。
ゲップをしてしまった場合は、発泡剤を再度飲み直す手間や再検査の負担が生じます。可能な限り我慢することが、一度の検査で精度の高い結果を得るために重要です。
過去に便秘で苦労したことがありますが検査を受けても大丈夫ですか?
慢性の便秘がある方は、バリウムが腸内に残りやすいため注意が必要ですが、事前の相談によって適切な処置を受けることが可能です。
問診時にその旨を伝えることで、下剤の量を増やしたり、強力な薬剤を処方したりといった配慮をしてもらえます。検査後の水分補給を通常以上に徹底することで、トラブルを防ぎながら検査を完結させられます。
バリウム検査で「再検査(要精密検査)」となったら必ず癌なのですか?
いいえ、必ずしも癌であるとは限りません。バリウム検査はあくまで癌の疑いがある方を抽出するためのスクリーニング検査です。
胃炎や良性のポリープ、あるいは撮影時の胃の動きや残渣が影として写ることもあります。要精密検査となった場合は、内視鏡検査で直接粘膜を確認し、確定診断をつけるステップへ進むことになります。
検査当日に血圧の薬などの常用薬を飲んでも良いですか?
血圧や心臓の薬は、通常、検査当日の早朝に少量の水で服用するよう指示されることが一般的ですが、薬の種類により異なります。
糖尿病の薬などは絶食状態で使用すると低血糖を引き効こす危険があるため、制限される場合が多いです。必ず事前に主治医や検診機関へ確認し、その指示に従うことが、安全に検査を行うために大切です。
Reference
KHALID, Aneeqa, et al. Frequency of Gastrointestinal Diseases Diagnosed on Barium Contrast Studies: Frequency of Gastrointestinal Diseases. Pakistan BioMedical Journal, 2022, 325-329.
ZHAO, G. N., et al. Comparison of clinical value and diagnostic rate between barium meal radiography and spectral CT scan in the diagnosis and treatment of gastric cancer and benign gastric tumor. International Journal of Radiation Research, 2023, 21.4: 639-645.
DOOLEY, CORNELIUS P., et al. Double-contrast barium meal and upper gastrointestinal endoscopy: a comparative study. Annals of internal medicine, 1984, 101.4: 538-545.
LAI, Cheng-Shih, et al. Differential Effects of Laxatives on Barium Sulfate Coating and Image Quality in Double-Contrast Barium Enema. Current Medical Imaging Reviews, 2023, 19.11: 1337-1345.
SRIBOONLERT, Jetsada, et al. The Food Program With Phone Recall Improves the Colon Cleansing in Patient Preparing for Double-Contrast Barium Enema Procedure: A Single-CenterTrial. Journal of Radiology Nursing, 2023, 42.1: 18-25.
HSU, Wen‐Feng, et al. Double‐contrast barium enema is no longer justified as a backup examination for colonoscopy in the population screening program: Population study in an organized fecal immunochemical test‐based screening program. Journal of Gastroenterology and Hepatology, 2023, 38.8: 1299-1306.
CHITCA, Dumitru-Dragos, et al. Advancing Colorectal Cancer Diagnostics from Barium Enema to AI-Assisted Colonoscopy. Diagnostics, 2025, 15.8: 974.
NAJJAR, Reabal. Clinical applications, safety profiles, and future developments of contrast agents in modern radiology: A comprehensive review. Iradiology, 2024, 2.5: 430-468.
BUKHARI, Syed Waleed Ahmad; DUNN, Joel. Utility of Barium Swallows in Patients Who Have Had a Recent Upper Gastrointestinal Endoscopy. Journal of Medical Imaging and Radiation Oncology, 2026.
VU, Nhu Thi Hanh, et al. Population-based X-ray gastric cancer screening in Hiroshima prefecture, Japan. World Journal of Clinical Oncology, 2024, 15.2: 271.
KANG, EunKyo, et al. Trends in cancer-screening rates in Korea: Findings from the national cancer screening survey, 2004-2023. Cancer Research and Treatment: Official Journal of Korean Cancer Association, 2025, 57.1: 28-38.
この記事を書いた人 Wrote this article
前田 祐助 医学博士 / 医師
慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医