血液検査で癌を見逃す可能性はある?腫瘍マーカーの限界と見落としのリスク

血液検査で癌を見逃す可能性はある?腫瘍マーカーの限界と見落としのリスク

血液検査は手軽に受けられる優れた検査ですが、それだけで癌の有無を完全に判断することは困難です。腫瘍マーカーが正常でも癌が隠れているリスクは存在し、逆に異常値でも癌ではないケースもあります。

この記事では、血液検査で見落としが起こる具体的な理由や各部位の特性を詳しく紐解きます。正確な知識を身につけることが、健康維持に向けた賢い検査の受け方や早期発見の鍵となります。

血液検査だけで癌の有無を完全に判断できない理由

血液検査は体内の異変を探る重要な手がかりですが、確定診断を下すための万能な道具ではありません。腫瘍マーカーが特定の数値を示すには、癌がある程度の大きさになり、血中に物質を放出する必要があるためです。

血液中に物質が現れるタイミングの問題

癌細胞が発生した直後のごく初期段階では、血中に放出される腫瘍マーカーの量は極めて微量です。検査機器が検出できる限界を下回っている場合、結果は正常範囲内として判定されてしまいます。

癌が数ミリ単位の大きさであっても、周囲の血管に物質が漏れ出す経路が十分に確保されていない場合もあります。この状況では、体内に癌が存在していても数値が上昇することはありません。

血液検査の役割と主な目的

検査の種類主な役割判定の限界
スクリーニング癌の疑いを探す初期癌は見逃しやすい
経過観察治療後の再発確認画像検査との併用が必要
治療効果判定薬の効き目を見る数値のみでの断定不可

個体差による基準値の捉え方

血液検査の基準値は、多くの健康な人のデータから算出された統計的な範囲に基づいています。しかし、人間の体質には大きな個体差があり、元々のベースラインが低い人もいれば高い人もいます。

元々の数値が非常に低い人の場合、癌の発症によって数値が上昇しても基準値内に収まることがあります。こうした背景から、一回きりの数値ではなく、自分自身の平常時との比較が重要になります。

癌以外の疾患による数値の上昇

腫瘍マーカーは癌特有の物質であるとは限らず、体内の炎症や良性腫瘍によっても変動します。加齢や喫煙習慣、あるいは持病の影響で数値が上がる現象は、偽陽性として知られています。

肝臓の数値が高い場合でも、それが癌によるものか肝炎や脂肪肝によるものかを血液検査のみで切り分けるのは困難です。確定診断には、必ず超音波検査やCT検査といった視覚的な情報を取り入れる必要があります。

腫瘍マーカーが陰性でも安心できない背景

腫瘍マーカーが陰性であることは、現時点で重大な懸念がない可能性を示唆しますが、癌の不在を保証するものではありません。癌の種類や進行状況によっては、沈黙の癌が存在することを忘れてはいけません。

癌細胞が特定の物質を産生しない可能性

すべての癌細胞が腫瘍マーカーを放出するわけではなく、組織型によって反応が大きく異なります。同じ臓器の癌であっても、特定のマーカーに全く反応を示さないタイプが一定数存在します。

例えば肺癌には複数の種類がありますが、検査項目に含まれない特殊な癌であればどれほど進行しても数値は動きません。こうした性質を持つ癌に対しては、血液検査以外の手段でアプローチする必要があります。

腫瘍マーカーで偽陰性が起きる要因

  • 癌細胞の性質による非分泌型
  • 微小癌のため放出量が不足
  • 検査項目に含まれない特殊な癌

腫瘍のサイズが小さく血中に漏れ出さない段階

癌の早期発見は生存率を左右しますが、腫瘍マーカーが威力を発揮するのは腫瘍がある程度成長してからです。一般的に、直径1センチメートル以下の腫瘍を血液検査だけで見つけるのは非常に困難と言われています。

腫瘍が小さいうちは細胞から分泌される物質が組織に留まり、血流に乗る量が不足しがちです。早期発見を目指すのであれば、血液検査の結果のみに頼らず、定期的な画像診断を組み合わせる視点が大切です。

血液循環や代謝による濃度の変化

体内の代謝機能や循環状態も、検査結果に影響を及ぼす要因となります。腎機能が低下している場合、本来排出されるべき物質が体内に留まり、数値が実際より高く出ることがあります。

逆に代謝が非常に活発な場合や採血のタイミングにより、一時的に数値が低く出る可能性も否定できません。こうした変動があるため、ある一点の結果が健康状態を完璧に反映していると考えるのは早計です。

偽陽性と偽陰性が検査結果に与える影響

検査結果には常に偽りの判定が混じる可能性があり、それらが引き起こす影響を正しく理解しなければなりません。偽陽性は不要な不安を招き、偽陰性は治療の遅れに繋がる致命的な見落としを招くリスクを持ちます。

偽陽性による心理的負担と追加検査

数値が基準値を超えたとき、多くの人は強いショックを受けますが、実際には癌ではないケースも多いのです。偽陽性と判定されると、確認のために体への負担や費用の掛かる精密検査を受けなければなりません。

結果的に何事もなかったと判明すれば安心ですが、それまでの精神的なストレスは計り知れません。血液検査はあくまで疑いの端緒を見つけるためのものと捉え、冷静に対応することが重要です。

判定結果のパターンと解釈の注意点

判定結果実際の状態必要な対応
真陽性癌が存在する速やかな精密検査と治療
偽陽性癌は存在しない原因の特定と定期観察
偽陰性癌が存在する自覚症状の重視と画像診断

偽陰性がもたらす偽りの安心感のリスク

最も警戒すべきは、癌があるにもかかわらず異常なしと判定される偽陰性です。検査結果を信じ込み、体に現れている微かな異変を放置してしまうことで、発見が遅れる事態を招きます。

数値が正常であっても、自覚症状がある場合は迷わず医師に相談し、画像検査を要望する勇気を持つべきです。その判断が結果的に、自分自身の命を守ることに直結するからです。

検査の感度と特異度のバランス

検査には癌がある人を正しく陽性と判定する感度と、癌がない人を陰性と判定する特異度があります。腫瘍マーカーは特異度は比較的高いものの、初期癌に対する感度は決して高いとは言えません。

この偏りを理解せずに検査を受けると、結果の解釈を誤り、見落としのリスクを軽視してしまいます。検査の特性を踏まえ、複数の検査を賢く使い分けるリテラシーが求められます。

部位別に見る腫瘍マーカーの得意不得意

癌が発生する部位によって、血液検査が有効に機能するかどうかは大きく異なります。発見しやすい癌と、血液検査がほとんど役に立たない癌があることを知ることで、適切な検査計画が立てられます。

前立腺癌におけるPSA検査の有用性

前立腺癌の指標となるPSAは、腫瘍マーカーの中でも非常に優れた感度を誇る検査項目です。血液だけで比較的精度高く癌の疑いを指摘できるため、スクリーニングとして広く活用されています。

しかし、PSAが高いからといって即座に癌とは限らず、肥大症や炎症でも数値は上昇します。それでも他の部位に比べれば、早期発見に寄与する力が格段に強いという特徴があります。

部位別腫瘍マーカーの特徴比較

対象部位代表的なマーカー検査の得意度
前立腺PSA高い(初期発見に有用)
大腸・胃CEA低い(進行してから反応)
卵巣CA125普通(炎症の影響大)

消化器系癌におけるマーカーの限界

胃癌や大腸癌、膵臓癌などで用いられるマーカーは、初期段階での感度が低いことで知られています。これらは癌がある程度進行した状態でなければ高い数値を示さないことが多く、見逃しのリスクが高い項目です。

特に膵臓癌は血液検査で異常が出る頃にはかなり進行しているケースが目立ちます。消化器系に関しては、血液検査を過信せず、内視鏡検査を第一の選択肢とすべきです。

婦人科系癌と生活習慣の影響

卵巣癌などで用いられるCA125は、生理周期や妊娠、子宮内膜症などの影響を強く受けます。このため、数値が上昇しても癌以外の原因であることが非常に多く、慎重な判断を要する項目です。

一方、治療後の経過を見る際には非常に有効な指標となり、再発の兆候をいち早く捉えることができます。部位や状況によって役割が変化するため、画一的な判断を避ける姿勢が大切です。

血液検査の精度を高めるための併用検査

血液検査の見落としリスクを最小限に抑えるには、画像診断などの異なるアプローチを組み合わせる必要があります。多角的に体を調べることで、一つの検査では捉えきれなかった小さなサインを拾い上げることが可能です。

画像診断による視覚的な確認

CTやMRI、超音波検査などの画像診断は、腫瘍の有無を直接目で確認できるため、血液検査の弱点を補完します。血液検査で数値に変化がなくても、画像上で小さな影が見つかることは珍しくありません。

特に深部にある臓器は、血液検査と画像検査をセットで行うことが早期発見の鉄則です。画像診断は、腫瘍の正確な位置や形状といった具体的な情報をもたらしてくれます。

推奨される併用検査の例

  • 胸部・腹部CT検査
  • 胃・大腸内視鏡検査
  • 乳房・腹部超音波検査

内視鏡検査による直接観察

胃や大腸の癌については、内視鏡検査が最も信頼できる手法であり、超早期の発見を可能にします。血液検査で異常が出るのを待つのではなく、直接粘膜の状態を確認することで前癌状態も見つけることができます。

最近の技術では拡大観察や特殊光を用いた高度な診断が可能になっており、精度は飛躍的に向上しています。負担を軽減する工夫も進んでいるため、定期的な受診を強く推奨します。

マイクロRNAや循環腫瘍細胞の活用

既存の腫瘍マーカーの限界を打破するために、より微量なサインを検出する新しい手法も登場しています。血中に漂うマイクロRNAや循環腫瘍細胞を解析する検査は、従来よりも早期に兆候を捉える力を秘めています。

これらは自費診療として提供されることが多いですが、見逃しを極限まで減らしたい方には有力な選択肢です。技術の進歩に伴い、血液検査の可能性は広がり続けています。

癌の早期発見に向けた検査の受け方と心構え

検査を受ける目的は安心することではなく、早期に見つけて適切に対処することにあるはずです。血液検査の結果に一喜一憂せず、長期的な視点で自分の体と向き合う姿勢こそが、見落としを防ぐ最大の防御となります。

一回限りの結果ではなく推移を重視する

血液検査で最も価値があるのは、一回ごとの絶対値ではなく、時間の経過とともに数値がどう変化しているかです。基準値内であっても、前年に比べて徐々に数値が上がっている場合は、体内の変化を疑うべきです。

過去の検査結果をすべて保管し、医師と一緒にそのトレンドを確認する習慣をつけましょう。自分自身の基準を知ることが、異常を早期に察知するための最良の手順となります。

検査を受ける際の確認ポイント

確認すべき内容理由期待できる効果
家族歴の共有遺伝的リスクの把握重点検査部位の特定
前回の数値と比較経時変化の確認微かな上昇の察知
自覚症状の伝達検査の方向性を修正見落とし防止の徹底

リスクに応じたカスタマイズされた検査

年齢や家族歴、生活習慣によって、重点的に調べるべき部位は一人ひとり異なります。全員が同じ項目を調べる一律の検査だけでは、個別のリスクに対応しきれないのが実状です。

自分のリスク要因を正しく把握し、それに基づいた適切な検査メニューを主治医と相談して作成すべきです。専門家のアドバイスを受けながら、自分だけの検診プランを構築することが重要になります。

自覚症状を軽視しない直感の重要性

どんなに高度な検査技術であっても、本人が感じるなんとなく体調がおかしいという直感は無視できません。急な体重減少や長引く咳などの症状がある場合、検査結果が正常であっても放置してはいけません。

検査機器は特定の物質を測ることは得意ですが、体全体の不調を総合的に判断することはできません。自分の体の声を聴き、異常を感じたらすぐに専門医の門を叩く決断力が必要になります。

よくある質問

血液検査の数値が基準値より少し高かったのですが、癌と考えて間違いありませんか?

基準値を超えたからといって、すぐに癌であると断定することはできません。

腫瘍マーカーは炎症や喫煙、良性の疾患によっても上昇することが多々ありますので、まずは冷静な判断が求められます。

まずは再検査を行い、数値の推移を確認するとともに、超音波検査やCT検査などの画像診断を行うことが大切です。

多角的なデータを通じて、実際に腫瘍が存在するかどうかを確かめる手順を踏んでください。

毎年血液検査を受けていれば、癌を見逃すことはありませんか?

残念ながら、血液検査を毎年受けていても、癌を見落とす可能性は否定できません。

特に初期の癌や特定の物質を放出しないタイプの癌は、血液検査で見つけるのが困難だからです。

血液検査はあくまで補助的な手段と捉え、年齢やリスクに応じて内視鏡や画像検査を組み合わせる必要があります。

一つの検査に依存せず、多角的な検診を組み立てることが見落とし防止には不可欠です。

腫瘍マーカーの種類を増やせば、発見率は上がりますか?

マーカーの種類を増やすことで、より多くの種類の癌のサインを拾える可能性は高まります。

一方、比例して偽陽性の確率も上がってしまうため、不要な不安を煽る結果になることもあります。

むやみに種類を増やすのではなく、自分にリスクがある部位に絞って適切な項目を選ぶことが大切です。

医師と相談し、家族歴や生活習慣に合わせた効果的な組み合わせを検討してください。

腫瘍マーカーが正常値なら、その年はもう癌の心配をしなくて大丈夫ですか?

正常値であっても、それは現時点で血液中に異常が検出されなかった事実に過ぎません。

検査直後に癌が成長する場合や、検査自体が捉えきれなかった微小な癌がある可能性を否定できません。

もし検査後に強い体調不良や違和感を感じた場合は、前回の結果を過信せず受診してください。

定期的な検査を継続するとともに、自分の体の変化に敏感であり続ける姿勢が重要になります。

血液検査の前に気を付けるべきことはありますか?

検査結果に影響を及ぼす要因を極力排除することが、正確な測定には必要です。

激しい運動や飲酒、喫煙は数値に変動を与える可能性があるため、前日は控えめに過ごしてください。

また、服用している薬やサプリメントがある場合は、事前に医師へ伝えておくべきです。

正確なベースラインを把握するために、検査当日の食事制限などの指示も厳守してください。

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医