
癌の早期発見において非常に有用なPET-CT検査ですが、検査に伴う放射線被曝への不安を抱く方は少なくありません。
本記事では、PET-CT検査で受ける放射線量の具体的な数値から、日常生活での自然放射線との比較、健康への実際の影響までを明らかにします。医療現場で行われている厳格な安全管理や、被曝リスクを最小限に抑えつつ検査のメリットを享受する方法を具体的に提示します。
あなたが納得して検査を選択できるための判断材料を提供し、将来の健康維持に役立てていただければ幸いです。
PET-CT検査における放射線被曝の全体像
PET-CT検査の被曝は、投与薬剤とCT撮影の合算で約10ミリシーベルトから15ミリシーベルトであり、健康に悪影響を及ぼすレベルではありません。
PET-CT検査は、陽電子放出断層撮影(PET)とコンピュータ断層撮影(CT)を組み合わせた高度な診断手法です。PET検査では、ブドウ糖に似た性質を持つFDGという放射性薬剤を静脈から注射して体内に取り込みます。
この薬剤から放出されるガンマ線が「内部被曝」の要因となります。一方、CT検査は体の周囲からX線を照射して断面図を構成するため、こちらは「外部被曝」に分類されます。
これら2つの被曝を合わせることで、癌の正確な位置と活動性を同時に把握することが可能になります。検査で使用する主役となるFDGには、放射性フッ素(18F)が組み込まれています。
この物質の最大の特徴は、半減期が約110分と非常に短い点です。体内に投与された後、放射能は急速に弱まっていき、ブドウ糖の代謝に伴って全身に分布します。
特に癌組織などの代謝が活発な部位に集積しますが、その後は尿として体外へ排出されます。この物理的な減衰と生物学的な排出という2つのルートにより、体内にとどまる放射線の影響は限定的なものとなります。
放射線被曝の構成要素
- 内部被曝は薬剤由来で時間と共に減少
- 外部被曝はCT装置からのX線照射
- 短時間での減衰特性が安全性を担保
PET-CT装置におけるCTの役割は、主に画像補正と病変の場所を特定するための形態情報の提供です。医療現場では、診断目的や対象部位に応じて照射強度を最適化する運用が定着しています。
スクリーニング目的の検診では、通常の診断用CTよりも線量を抑えた低線量設定を用いることが一般的です。その結果、全体的な被曝量を大幅に軽減する工夫を凝らしており、受検者の負担を最小限に留めています。
数値で見るPET-CTの被曝量と日常生活の比較
検査一回あたりの実効線量は約10ミリシーベルト程度であり、これは私たちが自然界から受ける放射線量の数年分に相当します。
医療現場で使用される「ミリシーベルト」という単位は、全身への影響を客観的に評価する指標です。PET-CT検査では、投与される薬剤の量とCTの撮影条件によって、受ける線量が決定されます。
概ね一般的な成人で10ミリシーベルト前後の被曝が生じると考えて差し支えありません。これは、胃のバリウム検査や腹部CT検査と同等、あるいはそれよりもわずかに多い程度のレベルです。
放射線量比較一覧
| 項目・検査名 | 推定被曝量 | 比較の目安 |
|---|---|---|
| PET-CT検査 | 約10-15mSv | 精密な癌検診 |
| 腹部CT検査 | 約10-15mSv | 臓器の詳細観察 |
| 日本の一年間(自然) | 約2.1mSv | 日常生活の蓄積 |
私たちは、特別な検査を受けなくても日常生活の中で常に放射線を浴びており、これを自然放射線と呼びます。日本における年間の平均自然被曝量は約2.1ミリシーベルトとされています。
飛行機でニューヨークを往復するだけでも約0.2ミリシーベルト程度の宇宙線による被曝が発生します。PET-CTの一回の検査量は、この日常的な数値と比較すると大きく見えます。
しかし、一度に大量の放射線を浴びて急性障害が出るレベル(数百ミリシーベルト以上)とは、桁違いに低い数値です。癌の早期発見という大きな利益を得るためのトレードオフとして、十分に許容できる範囲と評価されています。
放射線を用いる他の検査と比較すると、胸部レントゲン撮影は約0.06ミリシーベルトと非常に低値です。これに対し、腹部CTやPET-CTは数値として高くなりますが、得られる情報量も格段に異なります。
単なる影を見つけるだけの検査と、細胞の活動を分子レベルで捉える検査では、その診断的価値に大きな差があります。放射線診断は常に、被曝のリスクを上回る診断上の利点がある場合にのみ実施されます。
放射線リスクを正しく評価するための基礎知識
低線量域における放射線の健康影響は統計的に無視できるレベルであり、過度な心配は不要であることを理解してください。
放射線による健康への影響には、一定量を超えると必ず発生する「確定的影響」と、確率論的に発生する「確率的影響」の2種類があります。PET-CT検査の被曝量では重篤な障害が発生する懸念はありません。
確定的影響とは、不妊、脱毛、白内障、皮膚の紅斑などのように、ある一定の線量を超えると症状が現れるものを指します。これらのしきい値は数千ミリシーベルトといった極めて高い値に設定されています。
数ミリから十数ミリシーベルトのPET-CT検査でこれらが起こることは物理的にあり得ません。一方、確率的影響とは「発がん」や「遺伝的影響」のように、線量に応じて発生の確率が上がると仮定されるものです。
現在の放射線防護の考え方では、たとえ微量であってもリスクはゼロではないという保守的な前提に立っています。日常生活における他の発がん要因と比較すると、その影響は非常に小さいと見なされています。
放射線影響の分類
| 分類 | 特徴 | 具体例 |
|---|---|---|
| 確定的影響 | しきい値がある | 脱毛、白内障 |
| 確率的影響 | しきい値がない | 発がん、遺伝影響 |
国際的な研究データによると、100ミリシーベルト以上の被曝を受けた集団において、初めて癌による死亡率のわずかな上昇が確認されています。それ以下の線量では、他の環境要因や生活習慣に隠れてしまうほどのリスクしかありません。
PET-CTの被曝量は10ミリシーベルト程度ですから、この数値を基準に考えると、安全性が高いことが分かります。一回の検査によって生涯の発がん率が劇的に跳ね上がるような事態は想定しづらいのが現実です。
放射線業務従事者には年間50ミリシーベルトという法定の線量限度がありますが、患者様が受ける医療被曝には一律の限度数値が設けられていません。これは、個々の患者様の病状に応じて検査の必要性が異なるためです。
その代わりに、診断に必要な画質を維持しながら、可能な限り低い線量で検査を行うべきであるという指針が徹底されています。現代の医療現場はこの原則に忠実に従って運用されており、安全性が確保されています。
PET-CT検査の安全性を支える技術と運用
装置の進化とスタッフによる厳格な管理体制により、一人ひとりの受検者に適した最小限の線量で検査が行われています。
現代のPET-CT装置には被曝低減のための高度な技術が標準的に搭載されています。患者様の体格や目的に応じて放射線量を自動的に加減するシステムが稼働しており、無駄な照射を徹底的に省いています。
PET-CTのうち、CT部分による被曝を抑えるために「逐次近似再構成法」という画像処理技術が導入されました。その結果として、少ないX線量でもノイズの少ない鮮明な画像を得ることが可能になりました。
特に癌検診のように、健康な方を対象とする場合には、被曝低減を重視した撮影条件が採用されます。AI技術を用いたノイズ除去アルゴリズムの登場により、さらなる低線量化と高画質化が同時に実現されています。
安全管理体制のポイント
- 体重別投与による薬剤量の個別管理
- 低線量撮影の実施による外部被曝低減
- AI技術を活用したノイズ除去と高画質化
FDG薬剤による内部被曝を最小限に抑えるための最も簡便で効果的な方法は、検査後の積極的な水分摂取と排尿です。FDGは腎臓を介して尿として排出される性質があるため、体内に留まる時間を短縮することが重要です。
医療機関では、検査終了後に十分な水を飲むよう指導し、速やかな薬剤の体外排出をサポートしています。尿と共に放射性物質が去ることで、膀胱などの泌尿器系組織への局所的な被曝も軽減することができます。
病院内では、放射線取扱主任者や診療放射線技師が、使用する薬剤の量や装置の出力を厳密に管理しています。一人ひとりの体重に合わせて投与量を細かく調整し、過剰な投与が行われないよう多重のチェックを行っています。
装置の定期的な点検を欠かさず行うことで、常に設定通りの正確な照射が行われるよう維持されています。このような見えない場所での徹底した管理が、検査の信頼性を根底から支えているのです。
検査を受ける際の注意点と被曝軽減への取り組み
検査前後の行動や、受検者ご自身の状況を正しくスタッフに伝えることが、さらなる安全性向上に直結します。
PET-CT検査をより安全に受けるためには、受検者自身の協力も大切です。特に妊娠の可能性や授乳中などの特殊な状況においては、適切な情報共有が必要不可欠となります。
検査当日は、指示された絶食時間を守ることに加え、十分な水分を摂ることが推奨されます。糖分を含む飲料はFDGの集積に悪影響を与えるため、水やお茶などの無糖の飲料を選ぶ必要があります。
水分を十分に摂ることで代謝が活性化し、検査後の放射性薬剤の排出がスムーズになります。これは被曝量を物理的に減らすための、受検者が自分で行える最も有効な対策の一つと言えるでしょう。
検査受診時の心得
| 対策項目 | 具体的な内容 | 理由 |
|---|---|---|
| 水分摂取 | 水やお茶を多めに飲む | 薬剤の排出を早めるため |
| 事前申告 | 妊娠・授乳の有無を伝える | 胎児・乳児の防護のため |
| 安静待機 | 投与後は動かず休む | 余計な筋肉への集積を防ぐ |
胎児や乳幼児は放射線に対する感受性が大人よりも高いため、特別な注意を払う必要があります。妊娠している、あるいはその可能性がある場合は、原則としてPET-CT検査は行われません。
授乳中の場合は、母乳を通じて放射性物質が乳児に移行する可能性があるため、一時的な断乳が必要です。検査後24時間は授乳を控えるなどの具体的な措置を講じることで、乳児への影響を完全に防げます。
また、検査当日は帰宅後もしばらくの間、乳幼児を長時間抱っこするなどの濃厚な接触を避けてください。これが、周囲への不要な被曝を防ぐための大切なエチケットとなります。
「短期間に何度も検査を受けて大丈夫か」という質問をよくいただきますが、医療上の必要性があれば問題ありません。放射線による細胞の損傷はある程度修復されるため、累積線量だけを単純に加算して恐怖を感じる必要はありません。
重要なのは、検査によって得られる治療方針の決定というメリットが、累積する微量なリスクを明確に上回っているかです。この判断は、担当医が患者様の利益を第一に考えて慎重に行っています。
癌検診としてのPET-CTの有用性とリスクの天秤
癌の早期発見によって得られる生存率の向上は、検査による微小な被曝リスクをはるかに凌駕する価値があります。
PET-CT検査の最大の利点は、全身の癌を一度に、かつ初期の段階で発見できる可能性にあります。万が一の癌を見逃すリスクと、微量な放射線を浴びるリスクを比較したとき、検査の正当性が認められます。
癌は早期に発見できれば、根治の可能性が飛躍的に高まります。PET-CTは、従来の形態診断では捉えきれない、細胞の代謝異常を検知できるため、非常に感度が高いです。
数ミリ単位の微小な病変や、転移の有無を正確に把握することに長けています。自覚症状がない段階で癌を見つけることができれば、治療の選択肢が広がり、体への負担も軽減されます。
メリットとリスクの比較
| 項目 | 得られるメリット | 考慮すべきリスク |
|---|---|---|
| 生存率 | 早期治療による根治 | 将来の発がん確率の微増 |
| 検査範囲 | 全身を一括して検索可能 | 偽陽性による再検査の負担 |
いかなる優れた検査にも限界があることを知っておく必要があります。PET-CTでも、炎症部位に薬剤が集まって癌と見間違える「偽陽性」が起こる可能性があります。
これらの可能性を考慮し、医師は血液検査や他の画像検査の結果と併せて総合的に診断を下します。検査のリスクを議論する際には、単に被曝量だけでなく、こうした診断精度の側面も無視できません。
医療現場では、全ての放射線検査において専門家による厳格な判断が介在しています。医師は、患者様の年齢、家族歴、現在の健康状態などを鑑み、検査の妥当性を検討します。
自分一人で被曝のリスクを抱え込まず、専門家に相談することで、納得感のある選択が可能になります。健康を守るための強力な武器として、PET-CTを賢く利用することが重要です。
安心安全に検査を完了するための具体的な流れ
一連の手順は全て患者様の安全を最優先に設計されており、指示に従うだけで被曝の影響を最小限に抑えられます。
検査当日は、スタッフによる丁寧なガイダンスのもとで進行します。問診から撮影、そして終了後のアフターケアまで、スムーズに進むよう体制が整えられています。
受付後、まずは詳細な問診が行われます。ここでは前日からの食事内容や、アレルギーの有無、放射線に対する懸念事項などが再確認されます。
不明な点や不安なことがあれば、このタイミングで技師や医師に直接質問してください。十分な説明を受けた上で検査に臨むことが、心理的な安心につながります。
FDG薬剤の静脈注射自体は、通常の採血と変わらない程度の刺激で、痛みも少ないものです。投与後、薬剤が全身の細胞に行き渡るまで、約1時間ほど静かな個室で安静にする時間があります。
この間、筋肉を動かしたり会話をしたりすると、その部位に薬剤が集まってしまい、画像が不鮮明になります。リラックスして過ごすことが、無駄な再撮影を防ぎ、被曝を抑えることにも貢献します。
実際の撮影時間は20分から30分程度で、装置の中に横たわっているだけで終了します。終了後はすぐに日常生活に戻ることができますが、薬剤を排出させるために水分を積極的に摂りましょう。
体内から放出される微量な放射線も数時間でほとんど消失し、翌日以降は完全に通常通りの生活が可能です。一連の流れを正しく理解することで、余計な不安を感じることなく検査を完了できます。
よくある質問
PET-CT検査の被曝で将来的に癌になる確率はどのくらい上がりますか?
PET-CT検査1回による実効線量は約10ミリシーベルト程度です。
国際的な統計によれば、100ミリシーベルト以下の低線量被曝による発がんリスクの上昇は、喫煙や不摂生な食生活といった日常的なリスクに比べて極めて小さく、明確な数値として証明することが困難なレベルです。
つまり、検査によって癌になるリスクよりも、検査を受けずに癌を見逃すリスクの方が圧倒的に大きいと考えられます。
検査の当日に家族や子供と一緒に過ごしても安全ですか?
検査直後の受検者の体からは、ごく微量の放射線が出ていますが、日常生活で家族と一緒に過ごす分には問題ありません。
ただし、念のための配慮として、検査後数時間は乳幼児や妊婦の方と長時間至近距離で接すること(抱っこや添い寝など)は控えるよう推奨されています。
水分を多く摂って排尿を済ませれば、放射線は急速に体外へ排出されるため、翌日からは全く心配ありません。
短期間に2回PET-CTを受けることになっても大丈夫ですか?
医療上の必要性があれば、短期間に複数回の検査を行うことは可能です。
放射線による一時的な細胞への影響は時間の経過とともに修復されるため、単純な加算でリスクが倍増するわけではありません。
再検査が必要になるのは、治療の効果を確認したり、再発の疑いを否定したりといった、重要な局面です。医師は累積の線量も考慮した上で、その検査がもたらす利益がリスクを上回ると判断して実施を勧めています。
CT検査とPET-CT検査の両方を受けると被曝しすぎになりませんか?
個別のCT検査とPET-CT検査を併用する場合でも、それぞれの目的が明確であれば問題ありません。
PET-CTは全身の代謝状態を把握するのに優れていますが、特定の部位の細かな形態を確認するには、精査CTの方が適している場合もあります。
これらを組み合わせることで診断の精度が飛躍的に高まり、結果として適切な治療への最短ルートを確保できるため、患者様の利益は非常に大きくなります。
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この記事を書いた人 Wrote this article
前田 祐助 医学博士 / 医師
慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医