精度はどのくらい?線虫がん検査の感度と特異度から見る信頼性を専門的に解説

精度はどのくらい?線虫がん検査の感度と特異度から見る信頼性を専門的に解説

「自宅で簡単にがん検査ができる」という手軽さから、線虫がん検査に関心を持つ人が急増しています。しかし、いざ受診を検討する段階になると、「本当に尿だけでがんが見つかるのか」「誤って陽性と判定されることはないのか」といった不安が頭をよぎるのではないでしょうか。

命に関わる病気だからこそ、なんとなくのイメージではなく、科学的な根拠に基づいた正確な情報を知っておきたいと願うのは当然のことです。

本稿では、検査の信頼性を測る上で欠かせない「感度」と「特異度」という指標を深く掘り下げます。現在の技術レベルでどこまで信用できるのか、そして検査結果をどう受け止めるべきかを、専門的な視点から包み隠さず解説します。

曖昧な期待ではなく、確かな知識を持って判断したいあなたのためのガイドです。

線虫がん検査の「感度」が高いという噂は本当か?見逃しリスクの現実を徹底解剖

線虫がん検査について調べると、まず目にするのが「高い感度」という言葉です。これは、がんに罹患している人を正しく「陽性」と判定できる確率のことを指します。

多くのメディアや広告では、この数字が非常に高いことが強調されていますが、私たちはこの数値を鵜呑みにするのではなく、その背景にある意味を正しく理解する必要があります。

感度が高いということは、理論上はがんを見逃す確率(偽陰性)が低いことを意味します。しかし、これは「100%発見できる」ことと同義ではありません。どんなに優れた検査であっても、技術的な限界は必ず存在します。

その限界を知っておくことが、検査結果を受け取ったあとの冷静な行動につながります。ここでは、感度の数値が持つ本当の意味と、どうしても避けられない見逃しリスクについて詳しく見ていきます。

早期発見における感度の役割と数値の解釈

がん検診を受ける最大の目的は、症状が出る前の早期段階で病変を発見し、治療の選択肢を広げることにあります。線虫がん検査が注目される理由は、線虫の優れた嗅覚受容体が、がん患者特有の微量な代謝物の匂いに反応する能力に基づいています。

一般的な画像診断では、ある程度の大きさになった「塊」でないと発見できません。しかし、匂いという化学物質の変化として捉えることができれば、視認できないレベルの微細ながん細胞であっても、理論上は極めて早い段階での検出が可能になります。

ただし、公表されている感度の数値は、特定の条件下で行われた臨床研究の結果に基づいていることを忘れてはいけません。実際の検査環境では、個体差やさまざまな要因が結果に影響を与える可能性があります。

感度が高い検査でも起こりうる「偽陰性」の落とし穴

どれほど高感度な検査であっても、「偽陰性(がんがあるのに陰性と判定されること)」のリスクを完全にゼロにすることは不可能です。

たとえば、線虫の反応が一時的に弱かったり、がんの種類によっては特有の匂いが線虫の好むものと異なったりする場合、検査結果は「陰性(リスクなし)」と出る可能性があります。

このとき、「陰性だから絶対に大丈夫だ」と過信してしまうことは非常に危険です。特に、すでに何らかの自覚症状がある場合や、血縁者に特定のがん患者が多い場合などは注意が必要です。

この検査の結果だけで安心せず、医療機関での精密な検査を併用することを強くお勧めします。偽陰性の存在を前提とした上で、リスク管理の一環として検査を利用する姿勢が求められます。

統計データと個人の結果の乖離をどう埋めるか

私たちが目にするデータはあくまで統計的な全体像であり、あなた個人の結果を保証するものではありません。

実社会での運用においては、検体の保存状態や輸送中の温度変化、被検者の当日の体調や食事内容などが、微妙に結果へ影響を与える可能性があります。

高い感度を維持するためには、定められた採尿ルールを厳格に守ることが受診者側に求められます。数字だけを見て安心するのではなく、その数字を叩き出すための前提条件をクリアしているかどうかが重要です。

あなたの手元に届く結果の信頼性は、あなた自身の準備と理解度にも左右されるということを心に留めておいてください。

感度と偽陰性に関する用語整理

用語定義受診者が知っておくべき点
感度(Sensitivity)がんがある人を「陽性」と判定する確率高いほど「見逃し」が減るが、100%ではないことを理解する。
偽陰性(False Negative)がんがあるのに「陰性」と判定されること「陰性=がんゼロ」の証明にはならないため、定期的な受診が必要。
検出限界検査機器や生物が反応できる最小の物質量極めて微量でも反応するが、匂いの種類によっては反応しないこともある。

健康なのに陽性と判定される「偽陽性」の恐怖と、特異度が低い場合に起こる弊害

感度と対をなす重要な指標が「特異度」です。これは、「がんがない健康な人を、正しく陰性と判定できる確率」のことを指します。

もしこの特異度が低いと、健康であるにもかかわらず「陽性(がんの疑いあり)」と判定される「偽陽性」のケースが増加してしまいます。

線虫がん検査を受診する際、この特異度の数値がどの程度であるかを知ることは非常に重要です。陽性結果を受け取った際の精神的な負担や、その後の不要な精密検査による身体的・経済的負担を予測するためです。

ここでは、なぜ健康な人に陽性反応が出てしまうのか、そしてその結果がもたらす影響について詳しく解説します。

健康なのに陽性が出る「偽陽性」が発生する背景

線虫はがんの匂いに引き寄せられる性質を持ちますが、それ以外にも線虫が好む匂いや、反応してしまう要因が日常生活の中に存在する可能性があります。

たとえば、体内の慢性的な炎症反応や、特定の食品、薬物の代謝産物などが尿中に排泄された場合、線虫がそれを感知して陽性反応を示すことが考えられます。

これは検査の不具合というよりも、生物を利用した検査特有の「反応の広さ」に起因するものです。機械のように特定の化学式だけに反応するわけではないため、どうしてもノイズを拾ってしまうことがあるのです。

特異度が一定水準あっても、受診者の母数が多ければ、確率論的に必ず一定数の偽陽性は発生してしまいます。

特異度の低さが招く心理的および経済的なコスト

もし特異度が低い検査であれば、多くの健康な人が突然「がんの疑い」という告知を受けることになります。このときに生じる不安は計り知れません。

慌てて高額なPET-CT検査や内視鏡検査を受けた結果、「異常なし」となるケースは少なくありません。医学的には「病気がなくてよかった」という結論になりますが、個人の体験としては複雑な感情が残ります。

「無駄な出費をしてしまった」「結果が出るまでの間、生きた心地がしなかった」と感じる人もいるでしょう。

特異度は、このような「空振り」の回数を減らすための指標であり、検査の質を評価する際には感度と同じくらい、あるいはそれ以上に重視すべき数値と言えます。

陽性的中率と特異度の関係性を正しく把握する

特異度が高いことと、陽性が出たときに本当にがんである確率(陽性的中率)は密接に関係していますが、イコールではありません。

がんの有病率が低い一般集団において検査を行う場合、たとえ特異度が高くても、陽性結果の中に含まれる偽陽性の割合は相対的に高くなる傾向があります。

つまり、「陽性」という結果は「がん確定」の宣告ではなく、あくまで「がんのリスクが通常より高い状態であるため、詳しく調べる必要がある」というスクリーニングの合図です。

この点を理解しておくだけで、万が一陽性通知が届いたときの受け止め方が大きく変わります。過度な恐怖に陥らず、冷静に次のステップへ進むための準備が必要です。

なぜ小さな線虫ががんを嗅ぎ分けられるのか?嗅覚受容体と尿中代謝物の科学的メカニズム

なぜ体長1ミリメートル程度の線虫が、最新の医療機器でも発見困難な微細ながんを見つけることができるのでしょうか。その仕組みは決してオカルトではなく、科学的な根拠に基づいています。

その秘密は、線虫が持つ驚異的な嗅覚メカニズムと、がん細胞の特異な代謝活動にあります。この両者の関係を紐解くことで、この検査が単なる偶然や統計のマジックではないことが深く理解できます。

ここでは、線虫の能力の源泉と、がん特有の匂い物質について、生物学的な視点から詳細に解説します。

犬の約1.5倍とも言われる線虫の嗅覚受容体遺伝子

線虫(C. elegans)は、その小さな体に似合わず、非常に多くの嗅覚受容体遺伝子を持っています。その数は約1200個とも言われ、優れた嗅覚を持つとされる犬の約800個と比較しても圧倒的です。

視覚や聴覚を持たない線虫にとって、匂いは世界を認識するためのもっとも重要な情報源です。餌を探し、危険を回避し、生殖相手を見つけるために、嗅覚が極限まで進化しました。

この遺伝子レベルでの識別能力のポテンシャルこそが、線虫検査の核となります。人間には無臭に感じる液体でも、線虫にとっては情報の宝庫であり、わずかな成分の違いを敏感に察知することができるのです。

がん患者の尿に含まれる揮発性有機化合物(VOCs)

がん細胞は、正常な細胞とは異なる異常な増殖を行います。その過程で、エネルギー代謝の方法が変化し、特定のアミノ酸代謝物や揮発性有機化合物(VOCs)が生成されます。

これらの物質は血液を通じて全身を巡り、最終的に尿として体外に排出されます。この尿中に含まれる微量なVOCsが、線虫にとっての「標的」となります。

興味深いことに、線虫はこのがん特有の匂いを「好ましい餌の匂い」に似たものとして認識し、近づいていく習性(正の走性)を示します。逆に、健康な人の尿に対しては反応しないか、避けるような行動をとります。

この習性を利用し、シャーレの上で線虫が尿に寄っていくかどうかを観察することで、がんリスクの有無を判定しているのです。

生物診断ゆえの変動要因と標準化への取り組み

機械による化学分析とは異なり、生き物を使用する検査には、生物特有の「ゆらぎ」が存在します。

線虫の飼育環境、日齢、検査時の温度や湿度などが、その動きに微妙な影響を与える可能性があります。そのため、検査機関では厳格な品質管理が求められます。

常に一定の反応を示すよう線虫の状態をコントロールし、解析にはAI(人工知能)を用いた画像解析を導入することで、人間の主観を排除した判定基準の標準化が進められています。

線虫と他の生物・機器の嗅覚比較

比較対象特徴がん検知のアプローチ
線虫(C. elegans)受容体遺伝子が多く、飼育が容易で低コスト尿中の微量な匂いに対する走性行動を解析
探知犬高い学習能力と嗅覚を持つが、育成に時間がかかる呼気や尿の匂いを嗅ぎ分け、合図を送る
ガスクロマトグラフィー物質の成分分析が可能だが、大型で高価特定の化学物質のピークを検出して分析

ステージ0やステージ1で見つけることにどれだけの価値があるのか?生存率と治療負担の真実

線虫がん検査が社会的に大きな意義を持つとされる最大の理由は、ステージ0やステージ1といった、極めて初期の段階での反応が期待できる点にあります。

従来のがん検診で見つかるがんは、ある程度の大きさ(数ミリから数センチ)に成長していることが多く、その時点でリンパ節転移などのリスクを伴うことも少なくありません。

しかし、生存率を劇的に向上させるためには、目に見えるしこりになる前の段階でリスクを察知することが極めて重要です。ここでは、早期発見がもたらす具体的なメリットについて解説します。

5年生存率の壁を超えるための早期発見の重要性

がんの統計において、ステージ1で見つかった場合と、進行してから見つかった場合では、5年生存率に天と地ほどの開きがあります。

多くの主要ながんにおいて、ステージ1で治療を開始できれば、9割以上の確率で完治や長期生存が望めます。これは単に「生きられる」だけでなく、「元通りの生活に戻れる」可能性が高いことを意味します。

線虫がん検査は、この「治る可能性が極めて高い時期」にアラートを鳴らすことを目指しています。

早期であれば、体に負担の少ない内視鏡手術や、通院で済む治療法を選択できる可能性が高まります。結果として、仕事や生活への影響も最小限に抑えることができるのです。

全身網羅的なスクリーニングとしての位置づけ

特定のがん(胃がんや肺がんなど)を狙い撃ちする検査とは異なり、線虫がん検査は全身のどこかにがんがある可能性を示唆する「一次スクリーニング」としての役割を担います。

現時点では、どのがんであるか、どの臓器にあるかまでは特定できません。しかし、「体の中にリスクが潜んでいるかもしれない」ということを知らせる役割は十分に果たします。

これにより、これまで忙しくて検診に行かなかった人が精密検査を受けるきっかけとなり、結果として無症状の段階での早期発見につながるケースが期待されます。

定期的な受診がもたらすリスク管理の変化

一度の検査で陰性だったとしても、がんは日々発生し、成長する可能性があります。細胞は毎日コピーエラーを繰り返しており、いつがん化するかは誰にもわかりません。

線虫がん検査の手軽さを活かし、定期的に受けることで、体の変化を時系列でモニタリングすることができます。「前回は低リスクだったが、今回は高リスクになった」という変化に気づくことが重要です。

リスクが高まっていないかを確認し続ける習慣こそが、早期発見の網の目を細かくし、見逃しを防ぐためのもっとも現実的な戦略となります。

早期発見のメリットまとめ

  • 生存率が大幅に向上し、完治を目指せる可能性が高まること
  • 内視鏡手術など、身体的負担の少ない治療法を選択できる余地が生まれること
  • 治療期間が短縮され、経済的な負担や社会復帰への影響が軽減されること
  • 「がん=死」という恐怖心ではなく、管理可能な病気として前向きに向き合えること

腫瘍マーカーやPET検査とは何が違う?それぞれの得意分野と線虫検査が補うべき役割

医療機関で一般的に行われている血液検査(腫瘍マーカー)や画像診断(CT、MRI、PET)と、線虫がん検査はどのように異なるのでしょうか。

これらは対立するものではなく、それぞれが得意とする領域と苦手とする領域を持っています。両者の違いを明確に理解することで、線虫がん検査をどのタイミングで、どのような目的で活用すべきかがクリアになります。

ここでは、コスト、精度、身体的負担の観点から比較を行い、最適な使い分けについて考察します。

腫瘍マーカーとの決定的な感度の違い

血液を用いた腫瘍マーカー(CEAやCA19-9など)は、がんがある程度進行し、特定のタンパク質が血液中に大量に漏れ出して初めて数値が上昇します。

そのため、早期がんの発見においては感度が十分とは言えず、どちらかといえば進行がんの発見や、治療後の経過観察、再発の監視などに主に用いられます。

一方、線虫がん検査は、がん細胞の代謝の変化そのものを捉えるため、腫瘍マーカーでは反応しないような早期段階でも反応を示すことが報告されています。

この「検出タイミングの早さ」が最大の違いであり、スクリーニング検査としての優位性と言えるでしょう。

画像診断で見えない領域を補完する可能性

CTやMRIは、形のある「塊」を見つける検査です。したがって、数ミリ以下の小さながんや、平坦に広がるタイプのがんは、画像の解像度の限界で見つけられないことがあります。

PET検査は糖代謝を見ますが、炎症部位にも反応してしまうため、がんとの区別がつきにくい場合もあります。

線虫がん検査は、形ではなく「匂い物質」という分子レベルの情報を検知します。そのため、画像には写らないレベルの異常を拾い上げる可能性があります。

画像診断の前段階のフィルターとして機能し、リスクが高い人だけを効率的に精密検査へ誘導する役割が期待されています。

コストパフォーマンスと被曝リスクのなさ

CTやPET検査は高額であり、放射線被曝のリスクも伴うため、健康な人が頻繁に受けることは推奨されません。また、検査には予約が必要で、時間的な拘束も発生します。

対して線虫がん検査は、自宅で採尿して提出するだけで済みます。痛みも被曝もなく、費用も画像診断に比べれば安価で済みます。

この手軽さは、多くの人にとって検査のハードルを下げ、がん検診の受診率向上に寄与する強力なメリットとなります。特に、忙しい現役世代にとっては大きな魅力です。

判定結果と実際の状態の組み合わせ

判定実際にがんがある場合実際にがんがない場合
陽性判定真陽性(正しい判定)偽陽性(過剰な警告)
陰性判定偽陰性(見逃し)真陰性(正しい判定)

もし検査結果が「陽性」だったらどう動くべきか?パニックにならずに進むための具体的な道筋

もし線虫がん検査で「陽性(リスクあり)」という結果が出た場合、多くの人は動揺し、すぐに「どこの病院に行けばいいのか」「死んでしまうのか」とパニックになるかもしれません。

しかし、前述の通り、陽性は「がんの確定」ではありません。ここからが本当の意味での健康管理のスタートです。

冷静かつ迅速に、確定診断へとつなげるための具体的なステップを知っておくことが、不安を解消する一番の近道となります。ここでは、陽性通知後の具体的なアクションプランを提示します。

まずは慌てず、全身をチェックできる検査を検討する

線虫がん検査では「体のどこか」にリスクがあることしかわかりません。したがって、次に行うべきは、全身を網羅的に調べる検査、あるいは自身がもっとも懸念する部位の検査です。

もっとも効率的なのは、PET-CT検査や全身MRI(DWIBS法など)といった、一度で全身をスクリーニングできる画像診断です。これにより、線虫が反応した原因となる病変があるかどうかを視覚的に確認します。

これらの検査は自費診療になることが多いですが、安心を買うための投資として検討する価値は十分にあります。

特定のリスク因子がある場合は専門医へ相談する

もし、以前から胃の調子が悪い、血痰が出る、便に血が混じるといった自覚症状がある場合や、家系的に特定のがんが多い場合は、全身検査を飛ばして専門医を受診するのも賢明な判断です。

消化器内科や呼吸器内科などで「線虫検査で陽性だった」ことを医師に伝え、内視鏡検査や詳細なCT検査を依頼しましょう。

ただし、すべての医師が線虫検査に精通しているわけではないため、あくまで「検診を受けるきっかけとして来た」と伝える柔軟さも必要です。医師と対立するのではなく、協力して原因を探る姿勢が大切です。

高リスク判定向けの相談サービスの活用

検査を提供している会社によっては、陽性者専用の相談窓口や、提携医療機関の紹介サービスを設けている場合があります。

自分一人で病院を探すのが難しい場合や、どこの科にかかればよいかわからない場合は、こうしたサポートを積極的に活用しましょう。

看護師や専門スタッフが、個別の状況に合わせて適切な受診行動をアドバイスしてくれるため、精神的な支えにもなります。孤独に悩まず、専門家の力を借りることが早期解決への近道です。

医学界はどう見ている?専門家が指摘するエビデンスの課題と、これから期待される進化

新しい技術である線虫がん検査に対して、医学界からは期待の声とともに、慎重な意見や課題の指摘もなされています。これらは批判というよりも、この技術が真に国民の健康に寄与するための「通過儀礼」とも言えるプロセスです。

専門家たちがどのような点を懸念し、どのようなデータが揃えば標準的な検査として認められると考えているのかを知ることは、私たちがこの検査を正しく利用するためのリテラシーとなります。

ここでは、現状の課題と将来の展望について、客観的な視点から解説します。

大規模な臨床研究によるエビデンスの蓄積状況

現在、もっとも求められているのは、数万人規模の一般市民を対象とした長期的な追跡調査のデータです。

これまでのデータの多くは、すでにがんと診断された患者の尿を用いた研究結果が含まれており、純粋に「健康だと思っている人」の中からどれだけの精度でがんを見つけられたかという実証データは、まだ発展途上の段階にあります。

医学的に「推奨される検診」となるためには、この実社会でのパフォーマンスを証明するデータが不可欠です。現在進行形で多くの研究が行われており、数年後にはより確かな評価が定まってくるでしょう。

がんの種類による反応差の解明

一口に「がん」と言っても、胃がん、膵臓がん、乳がんなど、その性質は多岐にわたります。線虫がすべてのがん種に対して一様に高い感度を示すのか、あるいは特定のがん種に対して特に反応しやすいのか、といった詳細な特性の解明が進められています。

これが明らかになれば、「膵臓がんのリスクが高い人は線虫検査を優先すべき」といった、より個別化された受診勧奨が可能になります。

現在、特定のがん種の匂いに特化して反応するように遺伝子改変された線虫の開発も進んでおり、将来的には「どのがんか」までわかるようになることが期待されています。

検査結果の標準化と再現性の確保

生物を使う以上、どうしても避けられない個体差や環境差を、いかに技術的に制御し、いつでもどこでも同じ精度の結果を出せるようにするか。これは工学的な課題でもあります。

自動解析装置の精度向上や、線虫の培養技術の革新など、技術は日々進化しています。

専門家たちは、これらの技術革新が安定した検査体制につながることを期待しつつ、現時点ではあくまで「補助的な検査」として位置づけています。過信も否定もせず、適切に付き合う姿勢が重要です。

よくある質問

線虫がん検査の陽性判定の的中率はどのくらいですか?

陽性的中率は、受診する集団のがん有病率に大きく依存します。
一般的に、がん有病率が低い健康な集団で検査を行った場合、陽性と判定された人のうち実際にがんであった人の割合(陽性的中率)は、感度・特異度が高くても数字上は低くなる傾向があります。
これは線虫検査に限らず、あらゆるスクリーニング検査に共通する統計的な特性です。
詳細な数値は検査会社が公表している最新の臨床研究データを参照する必要がありますが、陽性は「確定」ではなく「要精密検査」のサインであると理解してください。

線虫がん検査で反応しやすいがんの種類はありますか?

現在、線虫がん検査は胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、膵臓がん、肝臓がんなど、全身の主要な15種類のがんに反応することが確認されています。
ただし、現段階の技術では「どのがんに反応したか」までを特定することはできません。
特定のがん種に対する反応の強さや検知しやすさについては研究が進められており、将来的にはがん種の特定が可能になるよう開発が行われています。

生理中や妊娠中でも線虫がん検査は受けられますか?

生理中の方については、血液が混入することで検査結果に影響が出る可能性があるため、検査を受けることは推奨されていません。生理期間を避けて採尿する必要があります。
妊娠中の方に関しては、ホルモンバランスの変化などが尿の匂いに影響を与える可能性が完全に否定できないものの、基本的には受診可能としている場合が多いです。
念のため、受診する検査会社の注意事項を確認するか、事前に問い合わせることを強くお勧めします。

ピロリ菌除去後でも線虫がん検査の結果に影響はありますか?

ピロリ菌自体やその除去治療が直接的に線虫の反応を阻害するという明確なデータはありませんが、薬の服用中は代謝物が尿に出るため注意が必要です。
一般的に、薬の服用休止期間を設けるなどのガイドラインがある場合はそれに従います。
ピロリ菌陽性は胃がんのリスク因子ですが、線虫検査は「現在のがんリスク」を見るものなので、除菌後であっても、胃がんが発生していないかをチェックする目的で利用することは有意義です。

線虫がん検査で陰性だった場合、他のがん検診は不要ですか?

いいえ、不要ではありません。線虫がん検査で陰性であっても、偽陰性の可能性はゼロではありません。
また、国が推奨する定期的ながん検診(胃バリウム、マンモグラフィ、便潜血検査など)は、それぞれ異なるアプローチでがんを探すものであり、確実なエビデンスがあります。
線虫検査はあくまでリスクスクリーニングの一つとして捉え、従来の検診と併用することで、より強固な見逃し防止体制を作ることが大切です。

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医