甲状腺のしこりを調べる超音波検査とは?癌の疑いがある場合の判定基準と手順

甲状腺のしこりを調べる超音波検査とは?癌の疑いがある場合の判定基準と手順

甲状腺のしこりは日常的に見つかるものですが、その多くは良性です。しかし、隠れた甲状腺癌を早期に発見するために超音波検査は非常に重要な役割を担います。

医師は超音波画像を通じて、しこりの形状や内部の微細な変化を観察し、癌の可能性を評価します。判定基準を理解することで、検査への不安を軽減できます。

異常が見つかった際の手順や細胞診への移行基準を体系的に解説します。検査結果を正しく理解し、適切な医療を受けるための指針としてお役立てください。

甲状腺超音波検査が果たす役割

甲状腺の超音波検査は、のどぼとけの下にある小さな臓器の状態を詳細に映し出します。放射線を使用しないため身体に優しく、組織の内部構造を観察できる点が大きな利点です。

触診では捉えきれない数ミリ単位の微細な変化を捉え、治療の必要性を正確に判断します。首の違和感や健康診断での指摘がきっかけとなることが一般的です。

首の違和感やしこりを可視化する利点

首の腫れや違和感がある際、最初に検討するのが超音波です。目に見えない甲状腺内部の状況をモニターに投影し、しこりの大きさや形状を正確に数値化します。

単なる嚢胞なのか、固形腫瘍なのかを迅速に判別し、診断方針の決定を助けます。痛みがないため、気になる症状がある場合にすぐ受けられる簡便さがあります。

身体的負担がない安全な検査環境

検査は皮膚の上にゼリーを塗り、プローブと呼ばれる端子を当てるだけで完了します。X線やCTのような放射線被曝を伴わないため、どなたでも繰り返し受けられます。

検査時間は通常10分から15分程度であり、精神的な緊張も少なく済みます。短時間で精度の高い情報を得られることが、甲状腺診療において重宝される理由です。

検査の主要な特徴

項目内容メリット
非侵襲性放射線不使用身体負担ゼロ
解像度ミリ単位観察早期発見可能
運用性即時結果確認迅速な判断

診断の方向性を決定する情報収集

検査で得られる画像情報は、その後の経過を左右します。輪郭の明瞭さや内部の石灰化の有無など、視覚的特徴を一つずつ確認し、記録に残していきます。

経過観察で十分なのか、あるいは精密検査が必要なのかという重要な判断を下します。この仕組みを活かすことで、不要な手術を避けることにも繋がります。

超音波画像で注目すべきしこりの特徴

しこりの外観だけでなく内部の微細な構造まで徹底的に観察します。癌の疑いがあるしこりには特有のパターンが見られるため、複数の要素を組み合わせて評価します。

良性と悪性を分ける境目は非常に繊細であり、画像から得られる兆候を丁寧に見極めます。判定には経験に基づいた高い専門性が求められる場面も少なくありません。

形状と輪郭から読み取る異常の兆候

しこりの形が「縦長」であるか「横長」であるかは、重要な指標です。良性腫瘍は周囲を押し退けて横に広がりますが、悪性腫瘍は縦方向に浸潤する傾向があります。

輪郭がギザギザしていたり、境界が不明瞭であったりする場合は警戒が必要です。周囲の組織へ侵入している可能性を考慮し、特に慎重な観察を続けます。

内部の輝度とエコー像の変化

画像での明るさをエコー輝度と呼び、正常な組織より黒く映る「低エコー」は癌のリスクを考慮します。内部が均一でなく、ムラがある場合も注意が必要です。

小さな白い点として映る「微細石灰化」は、乳頭癌などで頻繁に見られる特徴です。こうした視覚的なサインを逃さず、病変の性質を深く分析していきます。

悪性が疑われる画像所見

  • 縦の長さが横より長い形状
  • 境界がギザギザし不明瞭
  • 内部に点状の微細石灰化
  • 全体的に色が黒い低エコー

血流の分布パターンによる評価

ドプラ法という手法を使い、しこり内部の血流を確認します。癌細胞は増殖のために新しい血管を作るため、内部に乱れた血流が豊富だと悪性を疑います。

周囲を囲むような規則正しい血流は、良性腫瘍によく見られる特徴とされています。血流情報は、形状や輝度と並ぶ重要な判断材料の一つとして扱われます。

癌の疑いを判定するための客観的基準

客観的な診断のために国内外で標準化された判定基準が活用されています。医師の主観に頼りすぎることなく、しこりを点数化してリスクを分類することが可能です。

科学的な根拠に基づいた分類を行うことで、どの程度の緊急性があるかを明確にします。結果として、誰もが納得できる適切な次の段階へと繋げることが可能です。

TIRADSによるリスク分類の活用

TIRADSは超音波所見をスコア化して癌の確率を予測する体系的な手法です。成分や形状、石灰化の有無を点数化し、合計点でカテゴリを決定します。

世界共通の物差しを使うことで、どの医療機関でも一定の精度で診断を共有できます。患者様にとっても、自身の状況が数値化されるため理解しやすくなります。

リスクカテゴリと対応

カテゴリ癌の確率主な方針
低リスク3%未満経過観察
中等度5-20%サイズで判断
高リスク20%超精密検査

甲状腺結節取扱い規約に基づいた評価

日本国内では、学会が定める取扱い規約を基に診断を進めるのが一般的です。画像を「充実性」や「嚢胞性」などの類型に分け、悪性所見を定義しています。

国内の豊富な臨床データに基づいた基準であり、日本の患者様に即した判断が下されます。信頼性の高い基準があることで、見落としや過剰診断を防ぐことができます。

サイズと成長速度による重症度判定

しこりの大きさは、精密検査を行うかどうかの重要な分かれ目になります。通常は10ミリを超える場合に検査を検討しますが、形状次第では5ミリでも行います。

短期間でサイズが急激に増大している場合は、組織の悪性度が高い可能性を考えます。成長の勢いを見極めることが、迅速な対応を決定するための鍵となります。

精密検査へ移行する際の具体的な判断条件

癌を否定しきれない場合には、穿刺吸引細胞診という精密検査が必要となります。全てのしこりに対して行うわけではなく、性質と大きさを天秤にかけて判断します。

検査の有益性がリスクを上回る場合にのみ、次のステップへと進みます。単なる画像の観察から、組織学的な確定診断へと一歩踏み込むための決断です。

細胞診を強く推奨する臨床的状況

画像で微細な石灰化が見られたり、リンパ節の腫れが併発したりする場合は強く推奨します。サイズが小さくても、悪性を示唆する要素が重なれば猶予はできません。

家族に既往がある方や、過去に放射線治療を受けた経験がある場合も慎重を期します。リスク因子を総合的に考慮し、手遅れにならないタイミングを模索します。

良性と悪性の判断に迷う場合の対応

画像だけでは良し悪しを断定できないグレーゾーンのケースも存在します。すぐに検査を行わず、3ヶ月から半年後の再検査で変化を確認することもあります。

不安が強い場合や、微細な変化も見逃したくない場合には、確定診断を優先します。患者様の気持ちと医学的な必要性のバランスを取りながら方針を決定します。

細胞診移行の判断材料

  • 10ミリを超える充実性結節
  • 砂粒状の石灰化がある場合
  • 周囲組織への浸潤の疑い
  • 急速に増大している結節

年齢や生活背景を考慮した総合判断

診断は画像データだけで決まるものではありません。若年層で見つかったしこりや、高齢者で急速に大きくなるものなど、年齢層で警戒すべき点は異なります。

患者様の全身状態を鑑みながら、今検査を行うべきかどうかを丁寧に見極めます。最良の結果を得るために、個々の背景に寄り添った柔軟な判断が大切です。

穿刺吸引細胞診の手順と安全性

細胞診は確定診断において最も信頼性の高い手法で、細い針で直接細胞を吸い出します。大きな切開は不要で、採血のような感覚で受けられるのが特徴です。

局所麻酔すら必要としないケースがほとんどで、身体への負担は最小限です。病理学的な裏付けを得ることで、迷いのない治療方針を立てることが可能になります。

超音波ガイド下での正確なアプローチ

検査中は、常に超音波で針先をモニターし続け、安全を確保します。血管や神経を避けながら、しこりの最も疑わしい部分から的確に細胞を採取します。

ミリ単位で針を操作し、誤穿刺のリスクを極限まで抑える工夫がなされています。モニター越しに確認しながら進めるため、非常に精度の高い採取が可能です。

検査の具体的な流れ

段階実施内容所要時間
準備位置の再確認約3分
採取細針での吸引約2分
後処置止血と絆創膏約5分

採取後の痛みと生活への影響

針を刺す際の痛みは一瞬で、検査全体も数分で終了します。終了後は数分間、刺した部位を指で押さえて止血するだけで、日常生活にすぐ戻ることが可能です。

激しい運動や入浴を当日に控える程度のアドバイスはありますが、制限は軽微です。仕事の合間に受けられるほどの手軽さでありながら、得られる情報は絶大です。

病理診断の結果が出るまでの期間

採取した細胞は顕微鏡で詳しく調べられ、癌に特有の変化がないかを分析します。細胞の並び方や核の形状など、細部にわたるチェックを専門家が行います。

最終的な結果が出るまでは通常1週間から2週間程度の時間が必要です。結果を待つ間は過度に不安がらず、普段通りの生活を送ることが心の健康に繋がります。

検査結果から導き出される治療方針

結果が判明した後は、その内容に基づいて個別の治療計画を組み立てます。癌であれば手術が検討されますが、急いで結論を出す必要がないケースも多いです。

良性と判明した場合でも、しこりの大きさ次第では別の処置を検討します。患者様の体調や希望を第一に考え、納得のいく道を選択することが重要になります。

癌と診断された場合の主な選択肢

悪性と出た場合、甲状腺の全部または一部を摘出する手術を検討します。しかし、最近は進行が非常に遅いものについて「経過観察」を選ぶこともあります。

癌の種類や広がり、本人の価値観を尊重しながら、最良の道を探ります。無理のない範囲で、病気と上手く付き合っていく方法を見つけることが大切です。

診断後の主な方針

  • 悪性:手術または厳重な観察
  • 良性:年1回の超音波フォロー
  • 判定不能:再検査または再採取

良性結節に対する継続的な見守り

良性の結果であっても、将来的に変化する可能性は否定できません。そのため、1年に1回程度の頻度で超音波検査を続け、サイズの変化を追い続けます。

こうした継続的な見守りにより、もし異変が起きた際にも早期に対応できます。安心を維持するためのメンテナンスとして、定期検査を習慣にしましょう。

薬物療法による症状の緩和と管理

機能に異常がある場合やホルモンバランスが崩れている時は、薬を併用します。しこり自体を消すのは難しいですが、成長を抑える効果を狙うこともあります。

生活の質を維持することを最優先に、最適なバランスを医師と相談します。自分の体の状態を把握し、主体的、積極的に治療に関わることが良い結果を呼びます。

早期発見がもたらす長期的な予後の改善

甲状腺癌は予後が良好な部類であり、早期発見が治療の成功率を大きく高めます。超音波検査は手術範囲を小さく留め、再発リスクを抑えることに直結します。

定期的な健診を習慣化し、自分の状態を把握することは将来への投資です。知識を持ち、異変に早く気づく仕組みを作ることが、自分自身を守ることに繋がります。

しこりが小さいうちに見つける意義

早期に見つければ、声を司る神経を傷つけるリスクを避け、後遺症を軽減できます。また、リンパ節への転移を防ぐことで、大規模な治療を回避可能になります。

治療の選択肢が広がるため、より自分らしい生活を維持しやすくなります。早めの行動が、身体的にも精神的にも大きな余裕をもたらす結果となります。

甲状腺に関する正しい知識と予防意識

どのようなしこりが危険かという知識を持つことで、過度な不安を払拭できます。甲状腺はストレスの影響を受けやすい臓器であることも知っておくべきです。

バランスの良い食事や自己チェックを習慣化し、異変への感度を高めましょう。自分を大切にする意識が、病気の芽を小さいうちに摘む原動力になります。

健康を守るための三原則

原則具体的な内容期待される効果
早期発見年1回の検査確実な治療
正しい理解知識の習得不安の解消
継続受診定期的観察再発の防止

信頼できる専門医との関係を築く

甲状腺の病気は長く付き合っていくことが多いため、医師との信頼関係が大切です。説明が丁寧で、疑問に答えてくれる通院先を選ぶことが安心感を生みます。

良好な関係性は治療の継続性を高め、生活の質の向上にも寄与します。納得できる医療を受けるために、自分に合ったパートナーを見つける努力をしましょう。

よくある質問

超音波検査でしこりが見つかったら必ず癌なのでしょうか?

いいえ、決してそうではありません。

統計的には超音波で見つかる甲状腺のしこりのうち、癌である確率は数パーセントから10パーセント程度とされています。

その多くは良性の結節や、水が溜まった嚢胞(のうほう)です。

超音波検査はあくまで癌の「疑い」を振り分けるためのものであり、発見されたこと自体が病気を確定させるものではないため、まずは落ち着いて次の精密検査の必要性を確認してください。

甲状腺癌の疑いがある場合、自覚症状はありますか?

多くの場合、初期の甲状腺癌にはほとんど自覚症状がありません。

痛みが出ることは稀で、健康診断や別の病気で首の画像検査を受けた際に偶然見つかることが大半です。

ただし、癌が進行して周囲の組織に広がると、声が枯れる(しわがれ声)、飲み込みにくさを感じる、喉に圧迫感がある、といった症状が出ることがあります。

こうした症状がある場合は、早めに超音波検査を受けることが重要です。

検査で癌の疑いありと言われたら、すぐに手術が必要ですか?

超音波検査で疑いがあると言われただけでは、すぐに手術とはなりません。

まずは細胞診を行って診断を確定させます。

たとえ癌だと判明しても、甲状腺癌の多くは非常に進行が遅いため、手術の時期や方法を慎重に選ぶ時間的な猶予があります。

最近では10ミリ以下の微小な癌であれば、手術をせずに厳重に経過を観察する方針を採る医療機関も増えています。

超音波検査の精度はどのくらい高いのでしょうか?

甲状腺の超音波検査は、ミリ単位の異変も見逃さない極めて高い解像度を持っています。

ただし、画像だけで100パーセント確実に癌と良性を判別することは不可能です。

あくまで「癌の確率がどの程度高いか」というリスク評価を行う検査です。

そのため、画像で一定以上のリスクがあると判断された場合にのみ、細胞を直接調べる細胞診を組み合わせて診断の精度を極限まで高めます。

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医