
「うちは大腸がんの家系だから、自分もいつか…」と不安を感じている方は少なくありません。大腸がんの約5%は遺伝子の変異が直接的な原因となる「遺伝性大腸がん」であり、代表的な疾患として家族性大腸腺腫症やリンチ症候群が挙げられます。
ただし、遺伝的な素因があるからといって必ず発症するわけではなく、適切な検査と予防策を講じることでリスクを大幅に下げられます。
この記事では、遺伝性大腸がんの仕組みから具体的な検査法・予防対策まで、家族歴が気になる方に向けてわかりやすく解説していきます。
大腸がんは遺伝で発症するケースが確かに存在する
大腸がん全体のうち約5%は遺伝子の変異が原因で発症し、さらに約20〜30%は家族内に複数の患者が見られる「家族性大腸がん」に該当します。
つまり、大腸がんの発症には遺伝的な要素が確かに関与しているのです。
遺伝が関わる大腸がんは全体の約5〜10%を占める
大腸がんの大半は生活習慣や加齢など後天的な要因で起こりますが、一部は生まれつき持っている遺伝子の変異が引き金となります。
特定の遺伝子に異常がある場合、通常よりもはるかに若い年齢でがんを発症する傾向があり、50歳未満での大腸がんと診断された方の中には遺伝性疾患が隠れていることも珍しくありません。
家族の中に大腸がん経験者が複数いる場合は、単なる偶然ではなく遺伝的な背景が影響しているかもしれません。早い段階で専門医に相談することが、早期発見への第一歩となるでしょう。
遺伝性と散発性では発症の仕組みがまったく異なる
散発性の大腸がんは、長い年月をかけて細胞の遺伝子が少しずつ傷つき、やがてがん化するという経過をたどります。一方、遺伝性大腸がんでは生まれた時点で特定の遺伝子にすでに変異があるため、がんへのハードルが低い状態からスタートしています。
そのため、散発性に比べて発症年齢が若く、同じ家系の中で複数の方ががんにかかるという特徴が見られます。同時に複数の部位にがんが発生したり、一度治療した後に別の場所で新たながんが見つかったりすることも珍しくありません。
遺伝性大腸がんと散発性大腸がんの比較
| 項目 | 遺伝性大腸がん | 散発性大腸がん |
|---|---|---|
| 発症年齢 | 若年(50歳未満が多い) | 60〜70歳代が中心 |
| 原因 | 先天的な遺伝子変異 | 後天的な遺伝子損傷 |
| 家族歴 | 複数の血縁者に発症 | 明確な家族歴なしが多い |
| 多発がん | 複数部位に発生しやすい | 単発が一般的 |
| 割合 | 全大腸がんの約5% | 全大腸がんの約70〜75% |
家族に大腸がん経験者がいるなら早めの検査が安心
親や兄弟姉妹など第1度近親者(血のつながりが近い家族)に大腸がんの方がいると、自分自身の発症リスクは一般の方よりも高くなります。特に、若い年齢で発症した家族がいる場合や、家系内に複数のがん患者がいる場合は注意が必要です。
「自分には症状がないから大丈夫」と安心せず、40歳を迎える前に一度は大腸内視鏡検査を受けることをおすすめします。遺伝性大腸がんは早期に見つければ予後が良好なケースも多く、検査を先延ばしにしない姿勢が大切です。
家族性大腸腺腫症(FAP)は10代から大腸にポリープが増え続ける
家族性大腸腺腫症(FAP)はAPC遺伝子の変異によって引き起こされ、大腸に100個以上のポリープが多発する遺伝性疾患です。
10代から大腸にポリープが現れ始め、放置すると高い確率で大腸がんへ進行するため、できるだけ早い時期からの定期的な検査と治療が求められます。
APC遺伝子の変異が家族性大腸腺腫症を引き起こす
APC遺伝子は細胞の増殖を制御する「ブレーキ」のような働きを持つがん抑制遺伝子です。この遺伝子に生まれつき変異があると、大腸の粘膜細胞が異常に増殖しやすくなり、多数のポリープが形成されます。
家族性大腸腺腫症は常染色体顕性遺伝(かつて「優性遺伝」と呼ばれていた形式)で親から子へ伝わります。片方の親がこの遺伝子変異を持っている場合、子どもに受け継がれる確率は50%です。
数百から数千のポリープが大腸を埋め尽くす
典型的な家族性大腸腺腫症では、10代後半から20代にかけて大腸に100個以上のポリープが出現し始めます。密生型と呼ばれるタイプでは1,000個を超えるポリープが大腸全体を覆い尽くすこともあるでしょう。
ポリープの一つひとつは良性ですが、数が多いためそのうちのいくつかが時間とともにがん化するリスクは非常に高いといえます。治療をしなかった場合には60歳頃までに90%以上の方が大腸がんを発症するとされています。
なお、ポリープの数が100個に満たない「軽症型(AFAP)」もあり、発症時期がやや遅く進行も緩やかですが、油断は禁物です。
家族性大腸腺腫症の治療は予防的な手術が中心となる
ポリープの数が多すぎて内視鏡での切除だけでは対応しきれないため、大腸がんの発症を予防する目的で大腸を切除する手術が選択されるケースが一般的です。手術方法は、大腸の一部を残す亜全摘術と、大腸すべてを摘出する全摘術があります。
手術後は排便回数の増加など生活に影響が出ることもあるため、担当医や看護師と術後の生活について十分に相談しておくことが大切です。
加えて、家族性大腸腺腫症では胃や十二指腸にもポリープが発生することがあり、上部消化管の内視鏡検査や甲状腺の超音波検査も定期的に受ける必要があります。
家族性大腸腺腫症で注意が必要な合併病変
| 部位 | 主な病変 | 検査方法 |
|---|---|---|
| 胃・十二指腸 | 胃底腺ポリープ・十二指腸腺腫 | 上部消化管内視鏡 |
| 甲状腺 | 甲状腺乳頭がん | 超音波(エコー)検査 |
| 腹部 | デスモイド腫瘍 | CT・MRI検査 |
| 骨・軟組織 | 骨腫、表皮嚢胞 | 視診・画像検査 |
リンチ症候群は大腸がん以外の癌リスクも引き上げる遺伝疾患
リンチ症候群は大腸がん全体の2〜4%を占め、遺伝性大腸がんの中で最も頻度が高い疾患です。大腸がんにとどまらず子宮体がんや卵巣がんなど複数のがんの発症リスクを高める点が特徴であり、本人だけでなく血縁者全体の健康管理にも大きく関わります。
ミスマッチ修復遺伝子の異常がリンチ症候群を発症させる
リンチ症候群の原因は、MLH1、MSH2、MSH6、PMS2という4種類の「ミスマッチ修復遺伝子」のいずれかに生まれつき変異があることです。
ミスマッチ修復遺伝子とは、DNAの複製時に生じたエラーを修正する働きを持つ遺伝子で、いわば「校正係」のような存在といえます。
この校正係が正しく機能しないと、DNA上にエラーが蓄積していき、がん化のリスクが高まります。リンチ症候群も常染色体顕性遺伝であり、親から子への遺伝確率は50%です。
リンチ症候群で注意が必要な大腸がん以外の癌
リンチ症候群の特徴的なポイントは、大腸がん以外にも多くのがんにかかりやすいという点にあります。女性の場合は子宮体がんのリスクが特に高く、70歳までの累積発生リスクは12〜46%と報告されています。
そのほかにも卵巣がん、胃がん、小腸がん、腎盂・尿管がん、膀胱がんなど幅広い臓器でがんの発症リスクが上昇します。どの遺伝子に変異があるかによってリスクが高くなるがんの種類も異なるため、遺伝子検査の結果に基づいた個別の検診計画が重要です。
リンチ症候群における70歳までの累積発生リスク
| がんの種類 | 累積発生リスク | 主な検査方法 |
|---|---|---|
| 大腸がん | 3〜75% | 大腸内視鏡検査 |
| 子宮体がん | 12〜46% | 婦人科診察・超音波検査 |
| 卵巣がん | 3〜17% | 婦人科診察・画像検査 |
| 胃がん | 2〜16% | 上部消化管内視鏡 |
| 腎盂・尿管がん | 2〜16% | 尿検査・画像検査 |
リンチ症候群の診断に使われるアムステルダム基準とベセスダ基準
リンチ症候群は家族性大腸腺腫症のようにポリープの数だけでは診断できないため、国際的な診断基準が設けられています。「アムステルダム基準II」は、近親者3人以上にリンチ症候群関連のがんがあるなど厳格な条件を満たす場合に適用される基準です。
一方で「改訂ベセスダガイドライン」はやや緩やかな基準で、50歳未満での大腸がん発症や、本人に複数の関連がんの既往がある場合など、より幅広い対象者をスクリーニングできます。
これらの基準に該当する方は、腫瘍組織のマイクロサテライト不安定性(MSI)検査や免疫組織化学検査を受け、さらに遺伝子検査へ進むことで確定診断に至ります。
遺伝性大腸がんを早期発見できる検査と遺伝子検査の受け方
遺伝性大腸がんは、定期的な大腸内視鏡検査と遺伝子検査を組み合わせることで早期発見が可能です。家族歴から遺伝性疾患が疑われる場合は、通常よりも早い時期から検査を開始し、適切な間隔でフォローアップを続けることが命を守る鍵となります。
大腸内視鏡検査が遺伝性大腸がん発見の要となる
大腸内視鏡検査は、大腸の内側を直接カメラで観察できるため、ポリープやがんの早期発見に最も有効な手段です。
家族性大腸腺腫症が疑われる家系では10代前半からの検査開始が推奨されており、リンチ症候群が疑われる場合は20〜25歳頃から1〜2年ごとの検査が勧められています。
検査中にポリープが見つかれば、その場で切除することも可能です。「痛そうで怖い」と感じる方もいらっしゃるでしょうが、鎮静剤を使用して眠っている間に検査を終えられる施設も増えていますので、担当医に相談してみてください。
遺伝子検査でリスクの有無を正確に判定できる
遺伝子検査では血液を採取し、家族性大腸腺腫症の原因であるAPC遺伝子や、リンチ症候群の原因であるミスマッチ修復遺伝子に変異がないかを調べます。
変異が確認されれば確定診断となり、その後のサーベイランス(定期的な経過観察)計画を具体的に立てられるようになります。
ただし、遺伝子検査は結果が本人だけでなく血縁者にも影響を及ぼすという特性があります。そのため、検査を受ける前には必ず遺伝カウンセリングを受け、検査の意味や心理的な影響、社会的な配慮について十分に説明を受けることが望ましいでしょう。
検査を受けるタイミングと頻度の目安
検査の開始時期や頻度は疾患の種類や家系内の発症年齢によって異なります。家族性大腸腺腫症では、家系内で最も若い発症年齢よりも10歳程度早い時期から大腸内視鏡検査を始めるのが目安です。
リンチ症候群の場合は、20〜25歳頃あるいは家系内で最も若い発症年齢よりも5〜15歳若い時期から、1〜2年間隔での大腸内視鏡検査が推奨されています。
女性は婦人科検診も並行して行います。ただし、これらはあくまで一般的な目安であり、主治医の判断により個別に調整されるものです。
- 家族性大腸腺腫症:10〜12歳頃から大腸内視鏡検査を開始
- リンチ症候群:20〜25歳頃から1〜2年ごとに大腸内視鏡検査
- リンチ症候群の女性:30〜35歳頃から婦人科検診を併用
- 上部消化管内視鏡:家族性大腸腺腫症では20歳代から定期的に実施
遺伝カウンセリングで家族全体の大腸がんリスクに備える
遺伝性大腸がんが疑われる場合、遺伝カウンセリングを受けることで、自分と家族のリスクを正しく把握し、今後の検査計画や生活の方針を専門家と一緒に考えることができます。
「遺伝」というデリケートなテーマだからこそ、専門知識を持ったスタッフのサポートが大きな助けとなります。
遺伝カウンセリングでは何を相談できるのか
遺伝カウンセリングでは、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーが対応し、家族歴の詳しい聞き取りから始まります。
遺伝性大腸がんの仕組み、遺伝子検査の内容や得られる結果、検査を受けた場合のメリットとデメリットまで、一人ひとりの状況に合わせて丁寧に説明を受けることができます。
また、遺伝子検査の結果が判明した後も、結果の解釈や今後の対応についてフォローアップを受けられます。不安や疑問をその都度相談できるため、精神的な支えとしても大切な場です。
遺伝カウンセリングを受けられる医療機関の探し方
全国の遺伝カウンセリング対応施設は、日本遺伝性腫瘍学会のウェブサイトに掲載されている「遺伝性腫瘍専門医一覧」から検索できます。がん拠点病院の中にも「遺伝子診療部門」や「遺伝外来」を設けているところが増えています。
遺伝カウンセリングの主な相談内容
| 相談段階 | 主な内容 | 対応する専門職 |
|---|---|---|
| 検査前 | 家族歴の整理、遺伝子検査の説明 | 臨床遺伝専門医・認定遺伝カウンセラー |
| 検査中 | 検査方法の選択、同意確認 | 臨床遺伝専門医 |
| 結果説明 | 結果の解釈、今後のサーベイランス計画 | 臨床遺伝専門医・各科担当医 |
| フォローアップ | 心理的サポート、血縁者への情報共有 | 認定遺伝カウンセラー・心理士 |
遺伝情報を家族で共有するときに大切にしたい配慮
遺伝子検査で変異が見つかった場合、同じ遺伝子変異を持つ可能性がある血縁者にも検査を受けてもらうことが望ましいとされています。しかし、遺伝に関する情報は非常にプライベートなものであり、本人の意思を尊重することが何より大切です。
「検査を受けるべきだ」と一方的に伝えるのではなく、まずは遺伝カウンセリングで得た情報を穏やかに共有し、相手が自分のタイミングで判断できるよう配慮しましょう。
家族間でのやり取りに困ったときは、遺伝カウンセラーが間に入ってサポートしてくれる場合もあります。
大腸がんの遺伝リスクを下げるために見直したい食事と生活習慣
遺伝的なリスクを持っていても、日々の生活習慣を整えることでがんの発症を遠ざけることは十分に期待できます。食事内容、運動習慣、嗜好品との付き合い方を見直すことが、遺伝リスクと向き合いながら健康を守るための現実的な対策となるでしょう。
食物繊維を意識した食事が大腸の環境を守る
食物繊維には便のかさを増やして腸内の有害物質が大腸の粘膜に触れる時間を短くする働きがあります。野菜、果物、豆類、全粒穀物などを日常的に取り入れることで、大腸にとって良好な腸内環境を維持しやすくなります。
反対に、加工肉(ハムやソーセージなど)や赤身肉の過剰な摂取は大腸がんのリスクを高めるとされています。完全に避ける必要はありませんが、量と頻度を意識したバランスのよい食事を心がけることが大切です。
適度な運動は大腸がんリスクの低減に直結する
定期的な身体活動は大腸の蠕動運動(腸が内容物を送り出す動き)を活発にし、便通の改善にもつながります。1日30分程度のウォーキングや軽いジョギングなど、無理なく続けられる運動を日課にするとよいでしょう。
肥満も大腸がんのリスク因子の一つです。適正体重の維持を意識し、デスクワークが中心の方は意識的に立ち上がってストレッチを行うなど、座りっぱなしの時間を減らす工夫も効果的といえます。
飲酒・喫煙の習慣がある方は特に注意が必要
喫煙はあらゆるがんのリスクを引き上げますが、大腸がんも例外ではありません。遺伝的素因がある方にとって、喫煙は火に油を注ぐようなものだと考えてください。禁煙によるメリットは計り知れず、始めるのに遅すぎるということはないでしょう。
飲酒についても、過度なアルコール摂取は大腸がんリスクの上昇と関連が示されています。まったくお酒を飲んではいけないわけではありませんが、量を控えめにし、休肝日を設けるなど節度ある付き合い方を心がけましょう。
- 食物繊維が豊富な食品(野菜、果物、豆類、海藻、きのこ類)
- 控えたい食品(加工肉、赤身肉の過剰摂取、高脂肪食)
- 推奨される運動量(1日30分以上の有酸素運動を週5日程度)
- 禁煙と節酒(休肝日を週2日以上確保)
家族に大腸がん患者がいる方が今日から始められる具体的な対策
「遺伝の話は難しくてよくわからない」「自分に何ができるのかイメージが湧かない」という方も多いかもしれません。
以下で紹介するのは、専門的な知識がなくても今日から実行に移せる具体的な行動です。まず一歩を踏み出すことが、大腸がんの予防と早期発見につながります。
かかりつけ医に家族歴を正確に伝える
まず取り組んでほしいのは、自分の家族の病歴を整理して、かかりつけ医に正確に伝えることです。誰が何歳でどのがんと診断されたか、できるだけ具体的に把握しておくと、医師が遺伝性大腸がんの可能性を判断するうえで大きな助けとなります。
家族の中にはがんの話をしたがらない方もいるかもしれませんが、お互いの健康を守るための大切な情報共有です。帰省の機会や電話でさりげなく尋ねてみるのも一つの方法でしょう。
家族歴を整理するときに確認したい情報
| 確認項目 | 具体的に聞いておきたい内容 |
|---|---|
| がんの種類 | 大腸がん、子宮体がん、卵巣がんなど |
| 診断時の年齢 | 何歳でがんが見つかったか |
| 該当する家族 | 親、兄弟姉妹、祖父母、おじ・おばなど |
| 治療内容 | 手術の有無、治療経過など |
| 複数がんの有無 | 同じ人が別のがんにもかかったか |
定期検診のスケジュールを自分で管理する
遺伝性大腸がんの予防で最も効果的なのは、適切な間隔で検査を受け続けることです。医療機関から次回の検査案内が届かないこともあるため、自分自身でスケジュールを管理する意識が大切になります。
スマートフォンのカレンダーにリマインダーを設定したり、手帳に検査予定日を書き込んだりするだけでも、うっかり忘れてしまうリスクを減らせます。
家族歴のある方は、一般的な健診のタイミングよりも早く・頻繁に検査を受ける必要があるため、主治医と相談してスケジュールを決めておきましょう。
不安を一人で抱え込まないための相談先
「自分も遺伝しているのでは」という不安を誰にも話せずに過ごしている方は少なくありません。しかし、一人で悩み続けるよりも、専門家に気持ちを打ち明けたほうが具体的な行動につなげやすくなります。
遺伝カウンセリングの窓口だけでなく、がん相談支援センター(全国のがん拠点病院に設置)でも無料で相談を受け付けています。匿名での電話相談に対応している機関もあるため、敷居が高いと感じる方はまず電話から始めてみてはいかがでしょうか。
よくある質問
遺伝性大腸がんは親から子へ必ず遺伝するのか?
家族性大腸腺腫症やリンチ症候群の遺伝形式は常染色体顕性遺伝であり、片方の親に原因遺伝子の変異がある場合、子どもへ受け継がれる確率は50%です。つまり、必ず遺伝するわけではなく、2人に1人の割合で変異を受け継がない可能性があります。
また、変異を受け継いだとしても必ずがんを発症するわけではありません。定期的な検査による早期発見と、生活習慣の改善によってリスクを低減させることが可能です。
遺伝性大腸がんの遺伝子検査は何歳から受けられるのか?
遺伝子検査の対象年齢は疾患によって異なります。家族性大腸腺腫症の場合、10代前半で大腸内視鏡検査を開始する関係上、それより前に遺伝子検査を受けるケースもあります。
リンチ症候群については、関連腫瘍の発症が成人期以降であることから、遺伝子検査も成人期以降に行うのが原則です。未成年の場合は保護者と遺伝カウンセラーが十分に話し合い、本人の意思も尊重したうえで判断されます。
リンチ症候群と診断された場合、大腸がん以外にどのようながんに注意すべきか?
リンチ症候群では大腸がんに加えて、子宮体がん、卵巣がん、胃がん、小腸がん、腎盂・尿管がん、膀胱がんなどのリスクが一般の方よりも高くなります。特に女性は子宮体がんのリスクが顕著で、定期的な婦人科検診が重要です。
どの遺伝子に変異があるかによって、注意が必要ながんの種類やリスクの度合いは異なるため、遺伝子検査の結果をもとに主治医と個別のサーベイランス計画を立てることが大切です。
遺伝性大腸がんの予防のために食事や生活習慣で気をつけることはあるか?
遺伝的なリスクを持つ方であっても、生活習慣の見直しはがん予防に有効とされています。食物繊維を多く含む野菜や果物を積極的に摂取し、加工肉や赤身肉の過剰な摂取は控えるとよいでしょう。
加えて、1日30分程度の適度な運動を続けること、禁煙、節度ある飲酒を心がけることが推奨されています。適正体重を維持することも、大腸がんリスクの軽減につながるといわれています。
遺伝カウンセリングはどこで受けられるのか?
遺伝カウンセリングは、がん拠点病院や大学病院に設置されている「遺伝子診療部門」や「遺伝外来」で受けることができます。日本遺伝性腫瘍学会のウェブサイトでは、全国の遺伝性腫瘍専門医とその所属医療機関を検索可能です。
まずはかかりつけ医に相談し、紹介状を書いてもらうのがスムーズな流れとなります。遺伝カウンセリングでは、家族歴の整理から遺伝子検査の説明、結果の解釈まで一貫したサポートを受けられるので、不安を感じている方はぜひ利用を検討してみてください。
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この記事を書いた人 Wrote this article
前田 祐助 医学博士 / 医師
慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医