肺がんのEGFR遺伝子変異と分子標的薬|薬の仕組みと期待される効果・副作用

肺がんのEGFR遺伝子変異と分子標的薬|薬の仕組みと期待される効果・副作用

肺がんと診断されたとき、「EGFR遺伝子変異」や「分子標的薬」という言葉を主治医から聞いて戸惑った方も多いのではないでしょうか。

EGFR遺伝子変異は日本人の肺腺がん患者の約半数に見つかり、この変異があれば分子標的薬という治療の選択肢が広がります。分子標的薬はがん細胞の増殖シグナルをピンポイントで抑える薬であり、従来の抗がん剤と比べて高い効果と異なる副作用の特徴を持っています。

本記事では、EGFR遺伝子変異の基礎知識から検査の流れ、薬の種類や副作用、耐性への対応までをわかりやすく解説します。不安や疑問を少しでも和らげ、主治医との治療相談に役立てていただければ幸いです。

EGFR遺伝子変異とは?肺がんの約半数に潜むドライバー遺伝子の正体

EGFR遺伝子変異とは、がん細胞の増殖スイッチを常にONにしてしまう遺伝子の異常であり、日本人の肺腺がん患者の約30〜50%で確認されています。この変異があるかどうかで、使える治療薬が大きく変わります。

正常な細胞がなぜ”暴走”してしまうのか

私たちの体の細胞は、増殖が必要なときだけ増殖のシグナルを受け取って分裂します。EGFR(上皮成長因子受容体)は細胞の表面にあるタンパク質で、外部からの成長因子を受け取り「増えてもいいですよ」という信号を細胞内部に伝える受容体です。

ところが、EGFR遺伝子に変異が起きると、外部からの信号がなくても増殖スイッチがONの状態になります。その結果、がん細胞が歯止めなく増え続けてしまうのです。

こうした変異を「ドライバー遺伝子変異」と呼び、がんの発生・増殖を”駆動”する原因として注目されています。

日本人の肺腺がん患者の約半数にEGFR変異が見つかる

EGFR遺伝子変異はアジア人に多いことが知られており、日本人の肺腺がんでは約30〜50%の頻度で検出されます。欧米人では10%以下とされているため、アジア人に特に関連が深い変異といえるでしょう。

また、性別では女性に多く、非喫煙者の腺がんで高頻度に見つかります。ただし、喫煙者の腺がんでも約42%に変異が報告されており、喫煙歴があるからといって検査が不要とはいえません。

EGFR遺伝子変異が多く見られる患者さんの傾向

傾向詳細
人種アジア人(日本人含む)に多い
性別男性より女性に多い
喫煙歴非喫煙者に多いが喫煙者でも検出される
組織型非小細胞肺がんのうち腺がんに多い

エクソン19欠失とL858R変異が全体の約85%を占める

EGFR遺伝子変異にはいくつかのパターンがあり、代表的なものは「エクソン19欠失変異」と「L858R点変異」の2種類です。エクソン19欠失変異は遺伝子の一部が欠損するタイプで、全体の約45%を占めます。

L858R変異はエクソン21の塩基配列が入れ替わるタイプで、全体の約40%です。この2つを合わせると全EGFR変異の約85%になり、「コモンミューテーション(主要な変異)」と呼ばれています。

どちらの変異かによって薬の効き方が異なる場合もあるため、検査で変異のタイプまで確認することが大切です。

EGFR遺伝子変異を見つけるための検査はどう進むのか

非小細胞肺がんと診断された場合、治療方針を決めるうえで遺伝子検査は欠かせない手順です。性別や喫煙歴にかかわらず、すべての非小細胞肺がん患者さんにEGFR遺伝子変異検査が推奨されています。

非小細胞肺がんと診断されたらまず遺伝子検査を受ける

肺がんの約85〜90%は非小細胞肺がんに分類されます。非小細胞肺がんと確定した段階で、EGFR変異をはじめとするドライバー遺伝子変異の有無を調べる検査が行われるのが一般的な流れです。

検査には、気管支鏡検査やCTガイド下生検で採取したがん組織を用います。採取した組織をホルマリンで固定し、遺伝子を抽出して変異の有無を調べます。結果が出るまでには通常1〜2週間程度かかるでしょう。

組織診断と血液検査(リキッドバイオプシー)の違い

従来はがん組織を直接採取して調べる方法が主流でしたが、近年は血液を用いたリキッドバイオプシーという方法も注目されています。血液中に漏れ出したがんの遺伝子(セルフリーDNA)を検出する方法で、体への負担が少ないのが利点です。

ただし、血液中にがんの遺伝子が十分に含まれていない場合は感度が低くなることがあります。組織診断と血液検査の結果が一致しないケースも報告されており、状況に応じて主治医が検査方法を選択します。

検査結果をもとに治療方針を主治医と話し合う

EGFR遺伝子変異が陽性と判明した場合、EGFR阻害薬(分子標的薬)を中心とした治療方針が検討されます。一方、変異が見つからなかった場合には、免疫チェックポイント阻害薬や従来の抗がん剤を組み合わせた治療が選択されるのが一般的です。

検査結果を受け取ったら、治療の選択肢や期待される効果、副作用について主治医としっかり相談しましょう。自分のがんの特徴を知ることが、納得のいく治療選択への第一歩になります。

検査方法の比較

検査方法特徴注意点
組織検査がん組織を直接調べるため精度が高い生検に伴う体への負担がある
リキッドバイオプシー採血のみで実施でき負担が少ない感度がやや低い場合がある
がんゲノムプロファイリング100以上の遺伝子を一度に解析できる対象となる条件が限定される

EGFR分子標的薬は従来の抗がん剤とここが違う

分子標的薬はがん細胞の増殖に関わる特定のタンパク質や遺伝子をピンポイントで攻撃する薬であり、正常な細胞へのダメージが従来の抗がん剤より少ない傾向にあります。

そのため、脱毛や強い吐き気といった従来の抗がん剤に多い副作用が起こりにくいのが特徴です。

がん細胞だけを狙い撃ちにする分子標的薬の仕組み

従来の抗がん剤(細胞障害性抗がん剤)は、細胞が分裂するタイミングを狙って攻撃します。がん細胞も正常な細胞も分裂するため、骨髄や消化管粘膜、毛根など増殖が盛んな正常細胞にもダメージが及びます。

一方、EGFR分子標的薬は変異したEGFRタンパク質に結合し、増殖のシグナル伝達を遮断します。いわば、暴走しているスイッチを「OFF」に戻す働きです。標的が明確なため、がん細胞に対して効率よく作用できるといえます。

飲み薬で治療できる手軽さと高い奏効率

EGFR阻害薬の多くは経口薬(飲み薬)です。点滴のために頻繁に通院する必要がなく、自宅で毎日服用しながら治療を続けられます。生活のリズムを大きく崩さずに治療と向き合える点は、患者さんにとって大きなメリットでしょう。

奏効率(がんが縮小した割合)も高く、EGFR変異陽性の患者さんではオシメルチニブで約80%のケースでがんの縮小が確認されたと報告されています。

従来の化学療法と比べて、無増悪生存期間(がんが進行せずに維持できる期間)も延長する傾向が示されています。

従来の抗がん剤と分子標的薬の主な違い

項目従来の抗がん剤EGFR分子標的薬
攻撃対象増殖中の細胞全般変異したEGFRタンパク質
投与方法主に点滴主に経口薬
代表的な副作用脱毛、骨髄抑制、吐き気皮膚障害、下痢、肝機能障害

分子標的薬が使える条件と使えない場合の対応

EGFR分子標的薬を使うためには、遺伝子検査でEGFR変異が陽性であることが前提条件です。変異が見つからなければ分子標的薬を投与しても効果は期待できません。だからこそ、治療開始前の遺伝子検査が大切なのです。

EGFR変異が陰性の場合は、PD-L1の発現状況や全身状態を考慮して、免疫チェックポイント阻害薬や細胞障害性抗がん剤、あるいはその併用が検討されます。

ALKやROS1など他のドライバー遺伝子変異が見つかれば、対応する別の分子標的薬が選択される場合もあるでしょう。

第1世代から第3世代まで|EGFR阻害薬それぞれの特徴を比較した

現在日本で使用できるEGFR阻害薬は第1世代から第3世代まで複数の薬剤があり、それぞれの世代で作用の仕方や副作用の傾向が異なります。現在は第3世代のオシメルチニブが初回治療の標準として広く使われています。

第1世代のゲフィチニブ・エルロチニブが切り開いた個別化医療

2002年に世界に先駆けて日本で承認されたゲフィチニブ(商品名イレッサ)は、肺がん治療に革命をもたらした薬です。続いてエルロチニブ(商品名タルセバ)も登場し、EGFR変異陽性の患者さんに劇的な効果を示しました。

第1世代の薬はEGFRのチロシンキナーゼ活性を阻害することでがん細胞の増殖を止めますが、変異したEGFRだけでなく正常なEGFRにも一定程度作用します。そのため皮膚障害や下痢などの副作用が見られることがあります。

第2世代アファチニブはEGFRファミリーを幅広く抑える

第2世代のアファチニブ(商品名ジオトリフ)は、EGFRだけでなくHER2やHER4といったEGFRファミリー全体を持続的に阻害する特徴があります。

第1世代が「可逆的」にEGFRに結合するのに対して、アファチニブは「不可逆的」に結合するため、より強力にシグナル伝達を抑えます。

効果が高い半面、下痢の頻度が高い傾向があり、副作用の管理が治療を継続するうえで重要になるでしょう。用量の調整が柔軟にできるため、医師と相談しながら自分に合った服用量を見つけていくことが大切です。

第3世代オシメルチニブが現在の標準治療に選ばれた理由

オシメルチニブ(商品名タグリッソ)は当初、第1・第2世代の薬が効かなくなった際に出現するT790M耐性変異を克服するために開発されました。

ところが臨床試験の結果、初回治療から使った場合にも従来の薬を上回る効果が確認され、現在では初回治療の標準薬として用いられています。

脳転移に対しても効果が期待でき、第1・第2世代と比べて皮膚障害や下痢の頻度がやや少ないといわれています。ただし、心臓への影響(QT延長など)が報告されることがあるため、定期的な心電図検査などのモニタリングを怠らないようにしましょう。

世代別EGFR阻害薬の比較

世代薬剤名(商品名)主な特徴
第1世代ゲフィチニブ(イレッサ)、エルロチニブ(タルセバ)EGFRに可逆的に結合し増殖を抑制する
第2世代アファチニブ(ジオトリフ)EGFRファミリーを不可逆的かつ広範囲に阻害する
第3世代オシメルチニブ(タグリッソ)、ラゼルチニブ(ラズクルーズ)T790M変異にも有効で脳転移にも効果が期待できる

EGFR分子標的薬で注意したい副作用と日常生活での対処法

EGFR分子標的薬は従来の抗がん剤とは異なる独特の副作用が現れやすく、皮膚障害や下痢、肝機能障害、そして頻度は低いものの間質性肺炎には特に注意が必要です。副作用の多くは早期の対処で重症化を防げるため、日頃からセルフケアを意識しましょう。

皮膚障害は「薬が効いている証拠」と言われるが油断は禁物

EGFR阻害薬を使うと、ニキビのような発疹(ざ瘡様皮疹)、皮膚の乾燥、爪周りの炎症(爪囲炎)などが高頻度で現れます。EGFRは正常な皮膚の増殖や分化にも関わっているため、薬でEGFRの働きが抑えられると皮膚にも影響が出るのです。

興味深いことに、国際的な研究では皮膚障害が強く出た患者さんほど薬の抗腫瘍効果も高い傾向が示されています。しかし、皮膚症状がひどくなると日常生活のQOL(生活の質)が大きく低下し、治療の中断につながるおそれもあります。

保湿ケアやステロイド外用薬などを活用して皮膚症状をコントロールしながら治療を続ける姿勢が大切です。

下痢や肝機能障害など消化器系の症状にも気を配る

EGFR阻害薬の種類によっては、下痢が比較的高い頻度で見られます。特にアファチニブでは下痢の発現率が高く、止瀉薬(下痢止め)を常備しておくと安心でしょう。脱水にならないよう、水分補給もこまめに行ってください。

肝機能障害にも注意が必要です。倦怠感が続く、食欲がなくなる、皮膚や白目が黄色くなる(黄疸)といった症状が出た場合は、放置せずに医療チームに相談しましょう。定期的な血液検査で肝機能の数値を確認していれば、早い段階で異変に気づけます。

EGFR阻害薬で報告されている主な副作用

  • ざ瘡様皮疹(ニキビのような発疹)
  • 皮膚乾燥・かゆみ
  • 爪囲炎(爪周りの腫れや痛み)
  • 下痢・口内炎
  • 肝機能障害
  • 間質性肺炎(頻度は低いが重篤になりうる)

間質性肺炎は命に関わる|少しでも異変を感じたらすぐ受診する

頻度は高くないものの、EGFR阻害薬で特に警戒すべき副作用が間質性肺炎です。肺の間質(肺胞の壁の部分)に炎症が起こり、酸素の取り込みが妨げられる病態で、ゲフィチニブが承認された直後に重篤な症例が相次ぎ社会的にも大きな話題となりました。

空咳が続く、少しの動作で息切れする、発熱があるといった症状が急に現れた場合は、すぐに医療機関を受診してください。早期に発見し治療を開始すれば回復が見込めますが、対応が遅れると命に関わることもあります。

普段と違う息苦しさや咳を感じたら「様子を見よう」と思わず、迷わず連絡する姿勢がご自身の命を守ります。

薬が効かなくなった?EGFR阻害薬の耐性と次の治療を考える

EGFR阻害薬は高い効果を発揮しますが、残念ながら多くの場合、1〜数年で薬に対する耐性が生じ、がんが再び進行してしまいます。しかし、耐性が出たからといって治療の選択肢がなくなるわけではありません。

耐性はなぜ生まれるのか|T790M変異が代表的な原因

第1・第2世代のEGFR阻害薬を長期間使用していると、がん細胞の中に新たな遺伝子変異が出現することがあります。代表的な耐性変異がT790Mと呼ばれるもので、耐性が確認された症例の約半数に見られると報告されています。

T790M変異によって薬の結合が妨げられ、がん細胞が再び増殖を始めます。このほかにも、MET遺伝子の増幅やHER2の増幅、がんの組織型が変化する(小細胞がんへの転化など)といった複数の耐性経路が確認されています。

耐性が出ても諦めない|再生検で次の治療方針を探る

薬の効果がなくなってきた場合は、もう一度がん組織を採取して(再生検)、どのような耐性変異が起きているかを調べることが治療方針を決めるうえで大切です。T790M変異が検出されれば、第3世代のオシメルチニブへの切り替えが有効な場合があります。

血液検査(リキッドバイオプシー)で耐性変異を調べられるケースもあるため、再生検が体への負担となる場合は主治医に相談してみてください。耐性の原因が特定できれば、次の治療を効率的に選択できるようになるでしょう。

免疫チェックポイント阻害薬や化学療法への切り替えも選択肢になる

オシメルチニブを含むすべてのEGFR阻害薬が効かなくなった場合には、プラチナ製剤を中心とした細胞障害性抗がん剤による化学療法へ切り替えるのが一般的な治療戦略です。免疫チェックポイント阻害薬の併用が検討されることもあります。

さらに、がんゲノムプロファイリング検査を受けることで、標準治療以外に効果が期待できる薬剤が見つかる場合もあります。臨床試験や治験への参加という選択肢もあるため、「もう手段がない」と思い込まず、担当の医療チームに相談してみましょう。

耐性が出た後の主な治療選択肢

耐性の原因次の治療候補
T790M変異オシメルチニブ(第3世代EGFR阻害薬)
T790M+C797S変異併用療法や治験薬の検討
MET遺伝子増幅MET阻害薬の併用など
組織型の変化変化後の組織型に応じた化学療法
耐性原因が不明プラチナ併用化学療法や免疫療法

主治医と一緒に治療方針を決めるために押さえておきたいポイント

がん治療は主治医に任せきりにするのではなく、患者さん自身が自分の病状や治療内容を理解し、医療チームと一緒に意思決定していくことが大切です。「聞きたいことが聞けなかった」と後悔しないために、診察の前にいくつかの準備をしておきましょう。

遺伝子検査の結果を自分でも把握しておく

EGFR変異のタイプ(エクソン19欠失かL858Rか、あるいはそれ以外のまれな変異か)によって、薬の効きやすさや治療方針が変わることがあります。主治医から説明を受けたら、検査結果の書類やレポートを受け取って手元に保管しておきましょう。

セカンドオピニオンを受ける際や、別の医療機関を受診する際にも、遺伝子検査の結果があるとスムーズに情報共有ができます。不明点があれば遠慮なく主治医や看護師に質問し、納得したうえで治療に臨みたいものです。

診察前に整理しておくと便利な情報

  • 遺伝子検査の結果(変異の種類)
  • 現在服用中の薬(サプリメント含む)
  • 副作用の症状と出現時期の記録
  • 日常生活で困っていることや気になる症状

セカンドオピニオンをためらわない

治療方針に迷いや不安がある場合は、セカンドオピニオンを活用することも有効な手段です。がんゲノム医療中核拠点病院や連携病院では、遺伝子検査の結果を踏まえたより専門的な助言を受けられます。

セカンドオピニオンは主治医の診断を否定するものではなく、別の視点から意見をもらうことで治療方針の理解が深まるものです。

主治医に「セカンドオピニオンを受けたい」と伝えることに遠慮はいりません。多くの医師はセカンドオピニオンの受診に快く紹介状を用意してくれるでしょう。

副作用の記録をつけて診察時に共有する

分子標的薬を服用している間は、日々の体調変化を記録するノートやアプリを活用すると、主治医への報告が具体的になります。「いつ」「どのような症状が」「どの程度」出たかを伝えれば、用量の調整や副作用ケアの方針が的確に決まりやすくなります。

特に皮膚症状の変化は写真に撮っておくと、診察時に言葉だけでは伝えにくい状態を医師に見せることができます。ささいな変化でも記録しておけば、後から振り返ったときに治療経過を把握する手がかりになるはずです。

よくある質問

EGFR遺伝子変異は親から子へ遺伝するのか?

EGFR遺伝子変異の大部分は、生まれつき持っている遺伝子の異常ではなく、がん細胞の中だけで後天的に生じた変異です。そのため、いわゆる「遺伝性のがん」とは性質が異なります。

ご家族に肺がんの方がいるからといって、同じEGFR変異を受け継いでいるわけではありません。ただし、ごくまれに遺伝性の要因が関与するケースも報告されているため、家族歴が気になる場合は主治医や遺伝カウンセラーに相談するとよいでしょう。

EGFR分子標的薬の服用中に食事で気をつけることはあるのか?

薬の種類によって食事の影響が異なります。たとえばエルロチニブは空腹時の服用が推奨されており、食事の1時間以上前か食後3時間以降に飲む必要があります。オシメルチニブは食事の有無にかかわらず服用できるため、比較的自由度が高いといえるでしょう。

グレープフルーツなど一部の食品は薬の代謝に影響を与える場合があるため、服用開始時に主治医や薬剤師に確認しておくことをおすすめします。

EGFR阻害薬の治療効果はどのくらいの期間続くのか?

患者さんごとに差がありますが、一般的には1年から数年程度で薬に対する耐性が生じ、がんが再び進行するケースが多いと報告されています。オシメルチニブを初回治療に用いた臨床試験では、無増悪生存期間の中央値が約18か月前後とされています。

ただし、なかには数年以上にわたって効果が持続する方もいれば、比較的早い段階で効果が弱まる方もいます。治療中は定期的な画像検査や血液検査で効果を確認し、必要に応じて治療方針を見直していくことが大切です。

EGFR分子標的薬を使いながら仕事を続けることはできるのか?

多くの患者さんが分子標的薬を服用しながら仕事や日常生活を続けています。経口薬のため通院の頻度も点滴治療ほど多くなく、副作用の程度も個人差が大きいものの、コントロールできる範囲であれば就労との両立は十分に可能です。

皮膚障害が顔や手に出た場合は、接客業や営業職の方が心理的な負担を感じることもあるかもしれません。職場に事情を伝えるかどうかも含めて、主治医やソーシャルワーカーに相談しながら自分に合った働き方を模索してみてください。

EGFR遺伝子変異が陰性だった場合に分子標的薬は使えないのか?

EGFR変異が陰性の場合、EGFR阻害薬の効果は期待できません。ただし、ALK融合遺伝子やROS1融合遺伝子、BRAF変異、MET変異など、ほかのドライバー遺伝子変異が見つかれば、それぞれに対応した別の分子標的薬を使える場合があります。

どの遺伝子変異も見つからなかった場合は、免疫チェックポイント阻害薬や従来の化学療法が中心になります。それでも近年は新しい薬剤や治療法の開発が進んでおり、治療の選択肢は着実に広がっています。

主治医と相談しながら、自分に合った治療法を一緒に探していきましょう。

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医