自家がんワクチンの効果とエビデンス|肝臓がんや脳腫瘍での臨床データ

自家がんワクチンの効果とエビデンス|肝臓がんや脳腫瘍での臨床データ

がんと診断された後、「手術の次に何ができるのか」と治療の選択肢を探している方は少なくないでしょう。自家がんワクチンは、患者さん自身のがん組織を原料に作る免疫療法の一つです。

肝臓がんの術後再発リスクを大幅に抑えた臨床試験や、治療が難しい脳腫瘍(膠芽腫)で生存期間の延長を示した報告など、医学論文として公表されたエビデンスが存在します。

この記事では、臨床試験の具体的な数値データとともに、治療の仕組みや安全性、受診の流れまでをわかりやすく解説します。正確な情報をもとに、主治医との相談に役立てていただければ幸いです。

自家がんワクチンとは?自分のがん組織で作る免疫療法の仕組み

自家がんワクチンは、手術で摘出した患者さんご自身のがん組織をもとに作製する、いわゆるオーダーメイドの免疫療法です。がん細胞の「目印」をリンパ球に学習させ、体内に残ったがんを攻撃させることを目指します。

ホルマリン固定した手術検体がワクチンの原料になる

手術後、病理検査のためにがん組織はホルマリンで固定されます。通常であれば保管されるだけのこの組織が、自家がんワクチンの原料として活用されるのです。

ホルマリン固定されたがん組織からワクチンが作れるという発見は、2007年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)で世界の研究者に大きな驚きをもって迎えられました。約2グラムの組織があれば作製が可能とされています。

CTL(細胞傷害性Tリンパ球)ががん細胞を狙い撃ちする

私たちの体には、がん細胞を攻撃するリンパ球が備わっています。その中でも中心的な働きを担うのが、CTL(細胞傷害性Tリンパ球)と呼ばれる免疫細胞です。

自家がんワクチンは、がん細胞の表面にある「がん抗原」という目印を際立たせた形でCTLに提示します。その結果、CTLががん細胞だけを標的として認識・攻撃するよう教育される仕組みです。正常な細胞を傷つけにくい点が大きな特徴といえます。

自家がんワクチンと他のがん免疫療法の比較

項目自家がんワクチン一般的な免疫療法
原料患者自身のがん組織人工合成ペプチド等
標的個別のがん抗原共通抗原
作製一人ひとり専用既製品

手術後の再発予防や残存がんへの対策として用いられる

自家がんワクチンは、がんの手術後に行う補助的な免疫療法として使われるケースが多いです。術後に体内へ残っている微小ながん細胞を免疫の力で排除し、再発や転移を防ぐことを目的としています。

放射線治療と併用することで、さらに高い効果が期待できるという報告もあります。治療は通院で完結するため、入院を必要としない点も、患者さんにとって負担が軽い一因でしょう。

自家がんワクチンの効果を裏付けるエビデンスは存在するのか

自家がんワクチンの効果については、国内外の医学雑誌に掲載された複数の臨床試験データが存在します。治療成績は「ハードクライテリア」と「ソフトクライテリア」の2つの基準で評価されています。

医学論文として査読を経て公表された臨床試験がある

自家がんワクチンに関する主要な臨床データは、Clinical Cancer Research(2004年)やJournal of Neurosurgery(2014年)といった国際的な医学雑誌に論文として掲載されています。いずれも専門家による査読を経ており、科学的な検証を受けた情報です。

こうした論文があるという事実は、効果を保証するものではありませんが、一定のエビデンスに基づく治療法であることを示しています。

3790例を超える投与実績から見えてきた改善傾向

2024年11月時点で、自家がんワクチン療法は累計3790例以上の症例に実施されてきました。経過報告があった症例をソフトクライテリア(緩やかな評価基準)で評価した結果、全体の約44%で何らかの改善効果が確認されています。

改善効果には、腫瘍サイズの縮小、腫瘍マーカーの低下、推定余命の2倍以上の延命、QOL(生活の質)の向上などが含まれます。ただし、ソフトクライテリアは学術的に厳密な基準とは異なるため、参考情報として捉えるのが適切でしょう。

臨床試験データの読み方で注意したいポイント

臨床データを見る際に大切なのは、「どのような試験デザインで行われたか」を確認することです。ランダム化比較試験(患者さんを無作為にグループ分けして比較する方法)は、エビデンスの質が高いとされます。

一方、前後比較や症例報告だけでは因果関係の証明は難しいため、あくまでも傾向を示すデータと理解しましょう。主治医と一緒にデータを読み解くことが、納得のいく治療選択への近道です。

臨床試験の主なエビデンスレベル

試験デザイン特徴信頼度
ランダム化比較試験無作為割り付けで比較高い
前向き臨床試験計画的に追跡調査中程度
症例報告個別事例の記録参考程度

肝臓がんの再発リスクを81%抑えた|ランダム化第II相試験が示した数値

自家がんワクチンのエビデンスとして注目度が高いのが、肝臓がんを対象としたランダム化第II相臨床試験です。術後の再発リスクを81%抑制したというデータが、2004年にClinical Cancer Research誌で報告されました。

ワクチン投与群18例 vs 対照群21例のランダム化試験

この臨床試験では、同時期に肝臓がんの手術を受けた患者さんをランダムに2つのグループに分けました。ワクチンを投与した18例と、投与しなかった対照群21例で、再発抑制効果と生存率を比較したのです。

ランダム化によってグループ間の偏りを減らしているため、結果の信頼性は比較的高いと評価されています。

追跡調査15か月で再発リスク81%の抑制を確認

中央値15か月の追跡調査の結果、ワクチンを投与したグループでは肝臓がんの再発リスクが81%低下しました。統計学的にも有意な差(P=0.003)が認められています。

肝臓がん臨床試験の主な結果

評価項目ワクチン群対照群
症例数18例21例
再発リスク抑制81%低下基準
試験期間中の死亡1例(6%)8例(38%)
延命効果P=0.01で有意基準

対照群38%に対しワクチン群6%という死亡率の差

試験期間中の死亡率にも大きな差が見られました。対照群では21例中8例(38%)が亡くなったのに対し、ワクチン投与群では18例中わずか1例(6%)にとどまりました。この差は統計学的にも有意(P=0.01)であり、延命効果を示唆するデータです。

ただし、第II相試験は規模が限られているため、より大規模な第III相試験による確認が待たれる段階です。今後の研究の進展に注目しておきたいところでしょう。

脳腫瘍(膠芽腫)で生存期間が延びた|自家がんワクチン併用試験の成績

がんの中でも治療が極めて難しいとされるグレードIVの膠芽腫(こうがしゅ)。標準治療に自家がんワクチンを併用した臨床試験では、生存期間の中央値が22.2か月まで延びたことが報告されています。

膠芽腫(グリオブラストーマ)は標準治療でも予後が厳しい

膠芽腫は脳腫瘍の中でも悪性度が高く、初回手術後にほぼ再発するとされる病気です。日本では2006年7月以降、「手術+放射線治療+テモゾロミド(テモダール)投与」が標準的な治療法として行われてきました。

しかし、この標準治療を行っても全生存期間の中央値は14.6か月にとどまります。手術と放射線治療だけの場合は12.1か月であり、テモゾロミドを加えても中央値がわずか2.5か月の延長にすぎません。

標準治療+自家がんワクチンで生存期間中央値22.2か月に到達

この標準治療に自家がんワクチンを追加した臨床試験では、生存期間の中央値が22.2か月まで改善されたことが、Journal of Neurosurgery誌(2014年)に掲載されました。標準治療のみの14.6か月と比べると、約7.6か月の延長です。

さらに近年の研究では、IDH野生型(がんの遺伝子変異の型の一つ)でワクチンを受けた患者さんの生存期間中央値が34.2か月に達したというデータも報告されています。腫瘍の分子的な特徴によって効果が異なる可能性が示唆されました。

10年以上の長期生存を達成した症例も報告されている

膠芽腫は10年生存率がほぼ0%とされる病気ですが、自家がんワクチンを接種した患者さんの中に、術後10年以上にわたり再発なく生存した症例が複数報告されています。

たとえば巨細胞膠芽腫と診断された患者さんが、2本のワクチン接種後に10年間無再発で過ごしたという記録があります。また別の患者さんは、ワクチン接種後に完全寛解に至り、18年以上にわたって生存を続けました。

もちろん個別の症例報告はエビデンスとして十分とはいえませんが、これほど難治性のがんにおいて長期生存例が存在することは、研究者や臨床医の間でも注目されています。

膠芽腫における治療別の生存期間(中央値)

治療法生存期間中央値
手術+放射線のみ12.1か月
手術+放射線+テモゾロミド14.6か月
上記+自家がんワクチン22.2か月

自家がんワクチンの副作用は軽い|抗がん剤のような強い負担がない

自家がんワクチンの副作用は、注射部位の一時的な腫れや1~2日程度の発熱が中心で、抗がん剤に見られるような脱毛や白血球の激減といった強い副作用は報告されていません。

注射部位の腫れと軽度の発熱が主な副反応

自家がんワクチンを接種した部位に一時的な腫れが出ることがありますが、これは免疫が反応している証拠でもあります。また、1~2日ほど微熱が出るケースもありますが、いずれも自然に収まる範囲です。

70人以上に投与した前向き臨床研究においても、安全性に関する重大な問題は確認されていません。日常生活に大きな支障をきたすような副作用がほとんどない点は、患者さんにとって安心材料の一つでしょう。

抗がん剤のような白血球減少や脱毛が起きにくい

  • 白血球の激減が起こらないため感染リスクが増えにくい
  • 脱毛の心配がなく外見への影響が少ない
  • 吐き気や強い倦怠感といった全身症状が出にくい
  • 通院のみで治療でき、入院が不要なケースがほとんど

正常細胞を傷つけにくい仕組みが安全性を支えている

自家がんワクチンは、患者さん自身のがん細胞に含まれる抗原を免疫に学習させる治療法です。そのため、攻撃対象はがん抗原を持つ細胞に限定され、正常な細胞へのダメージが生じにくい仕組みになっています。

抗がん剤が増殖の速い細胞を広く攻撃するのとは対照的に、自家がんワクチンは「狙い撃ち」型の免疫応答を促すため、体への負担が軽い傾向があります。ただし、すべての方に同じ結果が保証されるわけではないため、主治医と十分に相談した上で判断してください。

自家がんワクチンを受けるまでの流れ|治療期間は約6週間で完了する

自家がんワクチン療法は通常1クールで完了し、治療期間は長くても約6週間です。繰り返し通院を続ける必要がない点は、患者さんの生活への負担を軽くする大きなメリットといえます。

手術で摘出したがん組織を提供することから始まる

自家がんワクチンの作製には、手術で摘出してホルマリン固定されたがん組織が約2グラム必要です。これは大人の小指の3分の1ほどの大きさに相当します。

すでに手術を終えている場合でも、手術を受けた病院にがん組織が保管されていれば、そこから作製が可能です。まずは手術を受けた医療機関に組織の有無を確認することが第一歩となります。

事前テスト・ワクチン接種3回・事後テストが基本の1クール

治療は3つの段階で構成されます。まず事前のDTH反応テスト(皮膚テスト)を1回実施し、免疫の状態を確認します。その後、隔週で計3回のワクチン接種を行い、事後のDTH反応テストで効果を判定するという流れです。

事後のテストは省略される場合もあり、通常は1クールで治療が完了します。抗がん剤治療のように何か月も通い続ける必要がない点は、精神的にも身体的にも楽に感じる方が多いかもしれません。

通院のみで治療できるため日常生活を維持しやすい

自家がんワクチン療法は入院を必要とせず、通院で受けられます。仕事や家事を続けながら治療できるため、生活リズムを大きく崩さずに済むでしょう。

また、放射線治療や化学療法と併用できる場合もあるため、主治医と相談の上で治療計画に組み込むことが可能です。

自家がんワクチン療法の治療スケジュール

  • 事前テスト(DTH反応テスト-1)を実施し、判定を受ける
  • 隔週でワクチンを計3回接種する(約4~5週間)
  • 事後テスト(DTH反応テスト-2)で免疫応答を確認する
  • 通常は1クールで終了し、繰り返す必要がない

自家がんワクチンの効果を左右するDTH反応とは|免疫が動いた証拠

自家がんワクチン療法では、DTH反応(遅延型皮膚反応)という検査で免疫が活性化したかどうかを判定します。ワクチン接種後にこの反応が陽性に転じた方は、再発までの期間が長く、生存期間も延びる傾向が報告されています。

DTH反応テストはツベルクリン反応と同じ原理で判定する

DTH反応テストは、結核感染の有無を調べるツベルクリン反応と同じ原理に基づいています。ワクチン製造時に使用したがん抗原を少量だけ皮膚に注射し、2日後に注射部位にできる紅斑(赤み)の大きさを測定する方法です。

DTH反応テストの判定基準と臨床的な意味

項目テスト-1(接種前)テスト-2(接種後)
判定基準紅斑10mm以上で陽性紅斑10mm以上で陽性
通常の結果ほとんど陰性陽性なら免疫が活性化
臨床的な意味免疫の基準値を確認CTL誘導の指標となる

テスト-2で陽性に転じた患者は予後が良好な傾向がある

ワクチン接種前のDTH反応テスト-1は、ほとんどの患者さんで陰性(免疫が反応していない状態)です。がんが存在している以上、がん細胞を攻撃する細胞性免疫が十分に働いていないのは当然ともいえます。

注目すべきは、ワクチン接種後のテスト-2で陽性に転じたケースです。この反応が見られた患者さんでは、再発までの期間が有意に延長し、生存期間も長くなる傾向があったと報告されています。

免疫応答の「見える化」が治療の手がかりになる

DTH反応テストの意義は、目に見えにくい免疫の働きを数値として把握できる点にあります。陽性であれば体内でCTLが誘導されたと期待でき、治療効果を間接的に予測する手がかりとなるのです。

逆に陰性のまま終わった場合は、免疫が十分に活性化していない可能性を示唆します。こうした情報を医師と共有することで、次の治療方針を検討する際の判断材料となるでしょう。

よくある質問

自家がんワクチンはどのようながん種に対応できるのか?

自家がんワクチンは、手術で摘出したがん組織があれば、がんの種類を問わず作製が可能です。肝臓がんや脳腫瘍(膠芽腫)のほか、肺がん、胃がん、大腸がん、乳がん、腎臓がん、膵臓がん、卵巣がん、子宮がんなど、多くのがん種で投与実績があります。

ただし、約2グラムのがん組織が必要となるため、組織が十分に確保できない場合は作製が難しいケースもあります。まずは手術を受けた医療機関にがん組織の保管状況を問い合わせてみてください。

自家がんワクチンは手術後どのくらい経ってからでも受けられるのか?

自家がんワクチンの原料は、手術時に摘出してホルマリン固定された組織やパラフィン包埋ブロックです。これらは病院に長期間保管されていることが多いため、手術から数年が経過していても作製できる場合があります。

組織の保管期間は医療機関によって異なるため、なるべく早い段階で手術を受けた病院に確認しておくことをおすすめします。組織さえ残っていれば、時間が経過していても治療の選択肢に加えられる可能性があるでしょう。

自家がんワクチンの治療中に抗がん剤や放射線治療を併用できるのか?

自家がんワクチンは、放射線治療や化学療法と併用して行われるケースがあります。実際に膠芽腫を対象とした臨床試験では、「手術+放射線+テモゾロミド+自家がんワクチン」という併用療法で生存期間の延長が報告されました。

併用の可否や適切なタイミングは、患者さんの体の状態やがんの進行度によって異なります。担当の主治医とよく相談した上で、治療計画に組み入れるかどうかを判断してください。

自家がんワクチンの効果はどのくらいの期間持続するのか?

自家がんワクチンによって体内に作られたメモリーT細胞(免疫記憶を担うリンパ球)が生きている限り、同じがん抗原を持つがん細胞に対する免疫応答は持続すると考えられています。

実際に、膠芽腫の患者さんで10年以上、あるいは18年以上にわたって再発なく生存した例が報告されています。ただし効果には個人差が大きく、すべての方に同様の持続を保証するものではありません。定期的な経過観察を続けることが大切です。

自家がんワクチンは現在、薬事承認されている治療法なのか?

自家がんワクチンは、現時点では国内外ともに医薬品としての承認を受けていません。国内の大学病院を中心に臨床試験(治験)が進行中であり、膠芽腫を対象としたランダム化比較対照試験なども実施されています。

承認前の治療法であるため、治療を検討する際は、未承認である点をご理解いただいた上で、担当医と十分に話し合ってから判断してください。今後の治験結果によって評価が変わる可能性もあるため、情報のアップデートにも気を配っておくとよいでしょう。

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医