ネオアンチゲン療法の治験情報と現状|国内・海外での研究進捗と参加の道

ネオアンチゲン療法の治験情報と現状|国内・海外での研究進捗と参加の道

がん細胞だけが持つ「ネオアンチゲン」を標的にした治療法が、世界中で臨床試験の段階に入っています。手術や抗がん剤とは異なる仕組みで免疫の力を引き出すこの療法に、希望を感じている方も多いのではないでしょうか。

国内では大学病院や研究機関が樹状細胞ワクチンと組み合わせた臨床研究を進めており、海外ではmRNA技術を活用した個別化ワクチンの第3相試験が動いています。治験への参加を検討するにあたっては、正確な情報収集が欠かせません。

この記事では、ネオアンチゲン療法の基本的な仕組みから、国内外の治験の進捗、そして実際に治験へ参加するための具体的な方法まで、わかりやすくお伝えします。

ネオアンチゲン療法はがん治療の「個別化」を実現する免疫療法である

ネオアンチゲン療法は、患者一人ひとりのがん細胞が持つ固有の目印(ネオアンチゲン)を標的にして免疫を活性化させるがん免疫療法です。従来の治療では対応しきれなかった「がんの個人差」に正面から向き合える点が大きな特長といえます。

ネオアンチゲンとは何か|がん細胞だけが持つ「固有の目印」

ネオアンチゲンとは、がん細胞の遺伝子変異によって新たに生まれた異常なタンパク質の断片を指します。正常な細胞には存在せず、がん細胞の表面にだけ現れるため、免疫細胞がこの目印を認識すればがん細胞だけを攻撃できます。

たとえるなら、がん細胞が掲げている「不審な看板」のようなものです。健康な細胞にはその看板がないため、免疫細胞が誤って正常細胞を傷つけるリスクが低いとされています。

従来のがんワクチンとネオアンチゲン療法の決定的な違い

これまでのがんワクチンは、多くのがん患者に共通する腫瘍関連抗原(WT1など)を使って免疫を刺激するものでした。しかし、腫瘍関連抗原は正常細胞にもわずかに存在しており、免疫が正常な組織を攻撃してしまう可能性が完全にはなくなりません。

主な違いの比較

比較項目従来のがんワクチンネオアンチゲン療法
標的とする抗原多くの患者に共通する腫瘍関連抗原患者ごとに異なるネオアンチゲン
正常細胞への影響わずかに存在するため攻撃リスクあり正常細胞には存在しないためリスクが低い
対応できる患者の範囲特定抗原を発現する患者に限定ほぼすべてのがん患者に対応可能

なぜ今、ネオアンチゲン療法が注目を集めているのか

背景には2つの技術革新があります。1つは、次世代シーケンサーによるゲノム解析技術の飛躍的な進歩です。患者のがん組織から遺伝子変異を短期間で特定できるようになりました。

もう1つは、AIを活用したネオアンチゲン予測技術の発展です。NECなどの企業がAI技術を用いて、免疫反応を強く引き起こすネオアンチゲンの候補を効率的に選び出すシステムを開発しています。この2つの技術の組み合わせにより、個別化がんワクチンの実用化が現実味を帯びてきました。

免疫チェックポイント阻害剤との併用で相乗効果が期待される

ネオアンチゲンが多いがんは免疫チェックポイント阻害剤(キートルーダなど)と好相性であることが、複数の研究で示唆されています。

ネオアンチゲン療法で免疫細胞にがんの目印を教え、同時にチェックポイント阻害剤でがん細胞の「ブレーキ」を外すという二段構えの戦略が、臨床試験の主流になりつつあります。

海外のネオアンチゲン治験は第3相試験に到達|モデルナとBioNTechが先行

海外では、mRNA技術を基盤とした個別化ネオアンチゲンワクチンの臨床試験が急速に進んでいます。モデルナ社とメルク社の共同開発、BioNTech社とロシュ社の共同開発の2つが世界をリードしており、第3相試験の結果が待たれる段階に入りました。

モデルナとメルク社のmRNA-4157(V940)|悪性黒色腫で再発リスクを49%低減

モデルナ社とメルク社が共同開発するmRNA-4157(V940)は、患者の腫瘍に存在する最大34種類のネオアンチゲンを組み込んだ個別化mRNAワクチンです。第2b相試験(KEYNOTE-942)では、免疫チェックポイント阻害剤ペムブロリズマブとの併用により、悪性黒色腫の再発・死亡リスクを49%低減させました。

遠隔転移のリスクも62%減少し、FDAはこの併用療法にブレークスルーセラピー(画期的治療薬)の指定を付与しています。現在は第3相試験(INTerpath-001)が進行中で、非小細胞肺がんを対象とした試験も並行して実施されています。

BioNTech社のautogene cevumeran(BNT122)|膵臓がんで長期免疫記憶を確認

BioNTech社はメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターと共同で、膵臓がんを対象にしたネオアンチゲンmRNAワクチンの第1相試験を実施しました。手術後の患者16名のうち半数でワクチン特異的なT細胞反応が確認されています。

免疫応答が認められた患者は18か月時点で再発がなく、一部の患者ではワクチンで誘導された免疫細胞が約4年間持続していたことも報告されました。膵臓がんは従来の免疫療法が効きにくいがん種であるだけに、大きな反響を呼んでいます。

がん種ごとに広がるネオアンチゲン治験の対象疾患

ネオアンチゲン療法の臨床試験は、悪性黒色腫や膵臓がんにとどまらず、非小細胞肺がん、大腸がん、腎細胞がん、頭頸部がんなど、さまざまながん種に広がっています。世界全体で60を超えるmRNAがんワクチンの候補が開発段階にあり、個別化医療の時代が着実に近づいています。

主な海外ネオアンチゲン治験の一覧

開発企業ワクチン名主な対象がん種
モデルナ+メルクmRNA-4157(V940)悪性黒色腫、非小細胞肺がん
BioNTech+ロシュautogene cevumeran膵臓がん、大腸がん
TransgeneTG4050頭頸部がん、卵巣がん
Gritstone bioGRANITE/SLATE大腸がん、非小細胞肺がん

国内のネオアンチゲン臨床研究は樹状細胞ワクチンが中心|大学・研究機関の取り組み

日本国内では、ネオアンチゲンを樹状細胞ワクチンと組み合わせた臨床研究が進んでいます。九州大学、国立がん研究センター、瀬田クリニックグループなどがそれぞれのアプローチで研究を推進しており、海外とは異なる独自の道を歩んでいます。

九州大学の膵臓がん研究で免疫応答と治療効果の関連を確認

九州大学大学院の研究グループは、16名の膵臓がん患者を対象に個別化ネオアンチゲン樹状細胞ワクチンの臨床研究を実施しました。患者のゲノム情報からネオアンチゲンを特定し、それを樹状細胞に取り込ませて投与するという治療法です。

この研究ではネオアンチゲンに対するT細胞の免疫反応が治療効果と関連していることが明らかになり、2025年4月に国際科学誌「Frontiers in Immunology」に成果が発表されました。

国立がん研究センターとブライトパス・バイオの共同研究

国立がん研究センターは、創薬ベンチャーであるブライトパス・バイオ株式会社と共同で、ネオアンチゲンワクチンによる完全個別化がん免疫療法の研究を進めています。患者ごとに異なるネオアンチゲンを迅速に見出す手法の開発を目指しており、この成果は個別化がんワクチンの実用化に向けた基盤となるものです。

国内の主な研究機関と取り組み内容

研究機関対象がん種アプローチ
九州大学膵臓がん個別化ネオアンチゲン樹状細胞ワクチン
国立がん研究センター固形がん全般ネオアンチゲン予測手法の開発
瀬田クリニックグループ各種固形がんネオアンチゲン由来ペプチド感作樹状細胞ワクチン
NEC複数のがん種AI活用によるネオアンチゲン予測と個別化ワクチン

瀬田クリニックグループの臨床研究|有償研究として提供中

瀬田クリニックグループでは、ネオアンチゲン由来ペプチド感作樹状細胞ワクチンの有効性を検討する臨床研究を実施しています。安全性に関する臨床研究で安全に治療を実施できたことが確認されたのを受けて、厚生労働省への届出が受理された有償研究として現在も提供が続けられています。

臨床研究実施計画番号はjRCTc030190182であり、参加にはいくつかの条件があります。がん組織の入手からネオアンチゲン解析、ペプチド合成、樹状細胞の採取・製造・投与まで、一連の流れが確立されている点が特徴です。

NEC独自のAIネオアンチゲン予測技術と治験への応用

NECは遺伝子解析技術とAI技術を組み合わせ、患者ごとに免疫反応を強く引き起こすネオアンチゲンを効率的に同定するシステムを開発しました。この手法を用いた個別化がん免疫療法の治験はすでに開始されています。

ネオアンチゲン治験に参加するための具体的な手順と条件を知っておこう

ネオアンチゲン療法の治験に参加するには、まず情報を正しく集め、主治医と相談のうえで応募するという流れが基本です。日本国内の治験情報はjRCT(臨床研究等提出・公開システム)で検索でき、がん情報サービスなどの公的サイトも心強い味方になります。

jRCTでネオアンチゲン関連の治験情報を探す方法

日本国内で実施されている治験や臨床研究の情報は、厚生労働省のjRCT(臨床研究等提出・公開システム)で公開されています。jRCTの検索画面で「ネオアンチゲン」「がんワクチン」「樹状細胞」などのキーワードを入力すると、関連する臨床試験の一覧を閲覧できます。

治験の実施医療機関名も含めて情報が掲載されているため、自宅から通える範囲の医療機関を探すことも可能です。日本製薬工業協会が作成した「治験の探し方~jRCTのみかた~」という資料も参考になります。

治験への参加条件と事前に確認すべきポイント

治験にはそれぞれ参加条件(適格基準)が設定されています。がんの種類や病期(ステージ)、年齢、全身の健康状態、過去の治療歴などが細かく定められており、すべての条件を満たさなければ参加できません。

また、募集人数に上限があるため、条件を満たしていても定員に達していれば参加できないケースもあります。治験情報はjRCTの更新タイミングによっては実際の進捗と異なる場合があるため、気になる治験を見つけたら試験の問い合わせ先に直接確認してみてください。

主治医への相談から参加までの一般的な流れ

治験への参加を検討する際は、まず現在の主治医に相談することが大切です。主治医は患者の病状や治療歴を把握しているため、治験が適切かどうかの判断材料を提供してくれます。

主治医からの紹介状を持って治験実施医療機関を受診し、担当医師からインフォームド・コンセント(十分な説明にもとづく同意)を受けたのち、スクリーニング検査を経て参加が決まります。参加の意思は患者自身の自由意志が尊重され、途中で辞退することも可能です。

海外のネオアンチゲン治験に日本から参加できるか

海外の治験に日本から直接参加するのは、言語や渡航、フォローアップ通院の問題から容易ではありません。ただし、国際共同治験に日本の医療機関が含まれていれば、国内で参加できる可能性もあります。ClinicalTrials.govで「neoantigen」「Japan」と検索してみてください。

情報源特徴URL
jRCT日本国内の治験・臨床研究を横断的に検索jrct.mhlw.go.jp
がん情報サービス国立がん研究センターが運営するがん情報総合サイトganjoho.jp
ClinicalTrials.gov米国NIH運営の国際的な臨床試験データベースclinicaltrials.gov

mRNA技術がネオアンチゲンがんワクチン開発を加速させた理由

新型コロナウイルスのパンデミックで広く知られるようになったmRNA技術が、ネオアンチゲン療法の開発を飛躍的に加速させました。迅速な設計・製造が可能なmRNAの特性は、患者ごとに異なるネオアンチゲンに対応するオーダーメイド治療と極めて相性がよいからです。

コロナワクチンで確立されたmRNA技術のがん治療への転用

モデルナ社やBioNTech社が新型コロナワクチンの開発で培ったmRNA技術の基盤は、がんワクチンの開発にそのまま応用されています。mRNAを脂質ナノ粒子(LNP)で包んで体内に届ける技術、製造工程の標準化、品質管理の手法など、パンデミックで蓄積された知見が大きな推進力となりました。

mRNAの設計変更は比較的容易であるため、患者ごとに異なるネオアンチゲンの配列に合わせたワクチンを数週間で製造できます。これは従来のペプチドワクチンやウイルスベクターワクチンにはない、mRNA技術ならではの強みです。

脂質ナノ粒子(LNP)による効率的な免疫細胞へのmRNA送達

mRNAワクチンの効果を左右する鍵が、脂質ナノ粒子(LNP)と呼ばれる送達技術です。mRNAは体内で分解されやすいため、LNPという脂質の「カプセル」に包むことで安定的に免疫細胞まで届けます。

  • mRNAを酵素分解から守り、抗原提示細胞まで安定的に送達する
  • 細胞内に取り込まれた後、mRNAが放出されてネオアンチゲンが合成される
  • 合成されたネオアンチゲンがMHC分子に提示され、T細胞を活性化させる

AI技術がネオアンチゲン選定の精度と速度を劇的に改善した

AIを使ったネオアンチゲン予測技術は、治験の成功率を左右する重要な要素です。患者のゲノムデータから得られる膨大な遺伝子変異情報のなかから、免疫反応を強く誘導するネオアンチゲンの候補を絞り込む作業は、人間の力だけでは限界があります。

AIは、ペプチドとMHC分子の結合親和性の予測やT細胞が認識しやすい配列の選定、患者ごとのHLAタイプに合った候補の抽出を高速かつ高精度に処理します。モデルナ社のmRNA-4157では、1人あたり最大34種類のネオアンチゲンをワクチンに搭載できるようになっています。

個別化ワクチン製造の課題|製造期間とコストの壁はまだ高い

個別化ネオアンチゲンワクチンの課題として、製造に4~6週間を要することが挙げられます。進行がんの患者にとって、この待ち時間は決して短くありません。1人あたりの製造コストが高額であることも普及への障壁です。

ただし、AI技術の進化と製造工程の効率化により、2026~2027年頃にはターンアラウンドタイムの短縮とコスト削減が見込まれています。

ネオアンチゲン治験の副作用やリスク|患者として事前に知りたい安全性情報

ネオアンチゲン療法の臨床試験では、これまでのところ重篤な副作用は少なく、管理可能な安全性が報告されています。ただし治験段階の治療であるため、安全性データは今後さらに蓄積される必要があります。

臨床試験で報告されている主な副作用は軽度なものが中心

海外の臨床試験(KEYNOTE-942など)では、注射部位の痛みや腫れ、発熱、倦怠感、筋肉痛といった軽度から中等度の副作用が報告されています。これらは一般的なワクチン接種後に見られる反応と同様のものです。

ネオアンチゲンはがん細胞だけに存在する目印を標的としているため、正常な細胞を攻撃する自己免疫反応のリスクは従来のがんワクチンより低いと考えられています。しかし、すべてのリスクが排除されたわけではなく、まれな副作用が後から判明する可能性は残っています。

免疫チェックポイント阻害剤との併用時に注意すべき点

ネオアンチゲンワクチンは免疫チェックポイント阻害剤と併用されることが多く、その場合の副作用にも注意が必要です。チェックポイント阻害剤の副作用としては、間質性肺炎、甲状腺機能障害、大腸炎、肝機能障害などの免疫関連有害事象が知られています。

併用療法では、ネオアンチゲンワクチン単体の副作用とチェックポイント阻害剤の副作用を区別しにくい場合があります。治験に参加する際は、担当医師から副作用の種類や対処法について十分な説明を受けましょう。

治験参加中のフォローアップ体制と中止の判断

治験では定期的な検査や診察が義務づけられており、副作用の早期発見と対応の体制が整えられています。万が一、重大な副作用が生じた場合や患者の体調が悪化した場合には、治験の継続を中止する判断が速やかに下されます。

患者自身も、体調の変化を感じたら遠慮なく担当医師に報告してください。治験中であっても、患者の安全が何よりも優先されます。この点は国際的なルール(GCP:医薬品の臨床試験の実施に関する基準)で保障されています。

副作用の種類頻度対応
注射部位の痛み・腫れ比較的多い自然に軽快するケースが多い
発熱・倦怠感比較的多い数日で回復する場合が多い
免疫関連有害事象(併用時)まれ~やや多い早期発見と適切な治療が大切

ネオアンチゲン療法が承認に至るまでのロードマップ|2027年頃の実用化を目指して

ネオアンチゲン療法は現在も治験段階にあり、医薬品として正式に承認されたものはまだ存在しません。海外で進む第3相試験の結果次第では、2026~2027年頃にFDA(米国食品医薬品局)による初の承認が実現する可能性が取りざたされています。

第3相試験の結果が承認の可否を左右する

モデルナ社とメルク社のINTerpath-001試験は、悪性黒色腫の術後補助療法としてmRNA-4157とペムブロリズマブの併用を検証する大規模な第3相試験です。この結果が良好であれば、FDAへの承認申請に進む見込みです。

  • INTerpath-001(悪性黒色腫、術後補助療法)
  • INTerpath-009(非小細胞肺がん、術後化学療法後)
  • BioNTech社の膵臓がん対象試験(第2相進行中)

日本での承認はいつ頃になるのか

日本での承認時期は、海外の承認状況と国際共同治験への日本の参加状況に大きく左右されます。日本の薬事規制では、海外データだけでは承認が難しい場合もあり、国内での臨床データの蓄積が求められるケースが多いです。

もっとも、厚生労働省はがん領域の治療薬について迅速審査制度を設けており、画期的な治療効果が認められれば、海外承認から大幅に遅れることなく日本でも使用可能になる道は開かれています。

承認後の課題|製造体制と供給の安定確保

仮にネオアンチゲンワクチンが承認されたとしても、患者ごとにオーダーメイドで製造する性質上、大量生産は困難です。製造拠点の整備やサプライチェーンの確立が、承認後の普及に向けた大きなハードルとなるでしょう。

モデルナ社は製造能力の増強を進めており、承認取得後の商業化を2027年以降に計画しています。日本国内でこの治療を受けられるようになるまでにはもう少し時間がかかりますが、確実に前進している状況です。

よくある質問

ネオアンチゲン療法の治験は日本国内のどの医療機関で受けられるのか?

ネオアンチゲン療法の臨床研究は、九州大学、国立がん研究センター、瀬田クリニックグループなどで実施されています。また、NECが開発したネオアンチゲン予測技術を用いた治験も国内で開始されています。

具体的な実施医療機関は、jRCT(臨床研究等提出・公開システム)で「ネオアンチゲン」「がんワクチン」などのキーワードで検索すると確認できます。募集状況は時期によって異なるため、関心のある治験を見つけたら早めに問い合わせることをおすすめします。

ネオアンチゲン療法はすべてのがん種に対して治験が行われているのか?

すべてのがん種を対象とした治験があるわけではありません。現在、臨床試験が活発に行われているのは、悪性黒色腫(メラノーマ)、非小細胞肺がん、膵臓がん、大腸がん、腎細胞がんなどです。

がん細胞の遺伝子変異量(TMB)が多いがんほどネオアンチゲンが豊富に生じるため、免疫療法との相性がよいとされています。お持ちのがんの種類で治験が実施されているかどうかは、jRCTやClinicalTrials.govで検索してみてください。

ネオアンチゲンワクチンの製造には患者本人のがん組織が必要なのか?

はい、個別化ネオアンチゲンワクチンを作るためには、患者本人のがん組織が必要です。がん組織から遺伝子変異を解析し、その患者固有のネオアンチゲンを特定する工程が治療の出発点となります。

組織は手術で摘出したものやホルマリン固定されたものを使用できる場合もあり、必ずしも新たにがん組織を採取する手術が必要になるとは限りません。ただし、十分な量と品質のがん組織が得られない場合、ワクチンの製造が困難になることもあります。

ネオアンチゲン療法と免疫チェックポイント阻害剤はどのように併用されるのか?

ネオアンチゲンワクチンで免疫細胞にがん特有の目印を覚えさせ、免疫チェックポイント阻害剤でがん細胞が免疫にかけている「ブレーキ」を解除するという二段構えの戦略です。それぞれ異なる角度から免疫を強化するため、単独よりも高い効果が期待されています。

モデルナ社とメルク社の臨床試験では、ネオアンチゲンワクチンmRNA-4157とペムブロリズマブ(キートルーダ)を3週間ごとに投与する計画で進められています。併用の具体的なスケジュールや投与回数は、治験ごとに異なります。

ネオアンチゲン療法の治験に参加するために費用はかかるのか?

企業主導の治験(企業治験)の場合、治験薬の投与にかかる費用は原則として製薬企業が負担します。検査費や通院にかかる交通費についても、治験の内容に応じて一部または全額が支給されることがあります。

一方、医師主導の臨床研究や有償研究として実施されている場合は、患者側の費用負担が生じるケースもあります。治験ごとに費用負担の条件は異なるため、参加を検討する際には事前に実施医療機関へ確認してください。

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医