
「子宮頸がんの手術」と聞くだけで、不安な気持ちが押し寄せてくる方は少なくないでしょう。子宮頸がんの手術にはいくつかの方法があり、がんの進行度や腫瘍の大きさ、妊娠の希望によって適した術式は異なります。
この記事では、円錐切除術から広汎子宮全摘術まで代表的な術式の違いと特徴を整理し、術後の生活や合併症への対策までをわかりやすくまとめました。ご自身やご家族が治療方針を考えるうえで、確かな判断材料となれば幸いです。
それぞれの手術がどのような場面で選ばれ、体にどんな影響を及ぼすのか、順を追って丁寧にお伝えしていきます。
子宮頸がんの手術はステージで変わる|治療方針を左右する3つの要素
子宮頸がんの手術方法はがんのステージ(進行度)によって大きく変わります。腫瘍の大きさ、浸潤(しんじゅん:がんが周囲に入り込むこと)の深さ、リンパ節転移の有無が治療方針を決める3つの柱です。
FIGO分類に基づく子宮頸がんのステージと手術の対応
子宮頸がんのステージはFIGO(国際産婦人科連合)の基準で分類されます。IA期は顕微鏡でようやく確認できるほど小さな微小浸潤がんです。IB期になると肉眼で腫瘍が確認できる段階になり、IIA期までは手術中心の治療が選ばれるケースが多いでしょう。
IIB期以降は放射線治療と化学療法を併用する同時化学放射線療法が治療の柱になります。ただし患者さんごとに状況は異なるため、担当医としっかり話し合うことが大切です。
腫瘍の大きさと浸潤の深さが術式選択を決める
ステージ別の代表的な術式と5年生存率の目安
| ステージ | 代表的な術式 | 5年生存率の目安 |
|---|---|---|
| IA1期 | 円錐切除術・単純子宮全摘術 | 約98%以上 |
| IA2期 | 準広汎子宮全摘術 | 約95%前後 |
| IB1期(2cm以下) | 単純~広汎子宮全摘術 | 約90~95% |
| IB2~IIA期 | 広汎子宮全摘術 | 約80~90% |
年齢や妊娠希望も手術の選択に影響する
若い方で将来の妊娠を望む場合、子宮を温存できる術式が積極的に検討されます。円錐切除術や広汎子宮頸部摘出術(トラケレクトミー)がその代表です。
一方、閉経後の方や妊娠の希望がない方には、再発リスクをより確実に抑えられる広汎子宮全摘術が勧められる場合が多いといえます。個々の状況に合わせて医師と相談し、納得のいく選択をしましょう。
円錐切除術は子宮頸がんの「入り口」になる手術|子宮を残したい方の味方
円錐切除術(えんすいせつじょじゅつ)は子宮頸部の一部を円錐形に切り取る手術で、診断と治療を同時に行えるのが特徴です。子宮を温存できるため、妊娠の希望がある方にとって心強い選択肢となります。
円錐切除術の手順と入院日数の目安
手術は全身麻酔か腰椎麻酔のもとで行い、LEEP(ループ電気メス)やレーザーを使って子宮頸部の異常な組織を円錐状にくり抜きます。手術時間はおよそ20~30分と短く、入院も1~3日程度で済むのが一般的です。
切除した組織は病理検査に回し、切り口の縁(断端)にがん細胞が残っていないかを確認します。断端が陰性であれば、多くの場合はそのまま経過観察に入れるでしょう。
円錐切除のあとも妊娠できる?|出産への影響
円錐切除術を受けた後も妊娠は十分に可能です。ただし子宮頸部が短くなることで早産のリスクがやや上がるとされています。とくに切除量が多かった場合は、子宮頸管無力症を予防するために縫縮術が検討されることもあります。
妊娠を希望する方は、術後の経過を担当医と共有しながらタイミングを相談してみてください。
円錐切除だけでは足りないと判断される場合もある
病理検査の結果、断端に病変が残っていたり、浸潤が予想より深かったりした場合には、追加の手術やリンパ節の精査が必要になります。円錐切除はあくまで治療の出発点であり、その結果を踏まえて次の方針を組み立てる流れです。
| 確認項目 | 陰性の場合 | 陽性の場合 |
|---|---|---|
| 切除断端 | 経過観察で管理可能 | 追加手術を検討 |
| 脈管侵襲 | リスク低め | リンパ節評価を追加 |
| 浸潤の深さ | 円錐切除のみで完結 | 子宮全摘術を考慮 |
単純子宮全摘術と準広汎子宮全摘術|低リスクの子宮頸がんに選ばれる2つの術式
単純子宮全摘術と準広汎子宮全摘術は、早期の子宮頸がんに対して行われる代表的な術式です。2024年のSHAPE試験の結果、低リスクの早期子宮頸がんでは単純子宮全摘術でも広汎子宮全摘術と同等の治療成績が得られることが示され、手術の縮小化が進んでいます。
単純子宮全摘術は体への負担が比較的軽い
単純子宮全摘術は子宮のみを摘出する手術で、周囲の靱帯(じんたい)や組織を大きく切除しません。そのため術後の排尿トラブルが起きにくく、回復もスムーズです。
SHAPE試験では、腫瘍径2cm以下の低リスク例において、単純子宮全摘術と広汎子宮全摘術の3年間の骨盤内再発率に差がなかったことが報告されました。術後の尿失禁も単純子宮全摘術のほうが大幅に少なく、患者さんの負担軽減につながっています。
準広汎子宮全摘術は「中間」に位置する手術
3つの術式の切除範囲と主な適応の比較
| 術式 | 切除範囲 | 主な適応 |
|---|---|---|
| 単純子宮全摘術 | 子宮のみ | IA1期(低リスク) |
| 準広汎子宮全摘術 | 子宮+頸部周囲組織の一部 | IA2期~IB1期 |
| 広汎子宮全摘術 | 子宮+基靱帯+腟の一部 | IB2期~IIA期 |
術後に排尿障害が心配なら担当医に遠慮なく相談を
単純・準広汎子宮全摘術は周囲の神経を傷つけるリスクが低いため、膀胱機能は良好に保たれることがほとんどです。万が一、術後に排尿の違和感があっても、数週間から数か月で改善に向かう方が多いでしょう。
退院後は無理のない範囲で日常生活に戻りつつ、定期通院でフォローアップを受けることが回復への近道です。
広汎子宮全摘術が必要な子宮頸がんとは|手術範囲と合併症のリスク
広汎子宮全摘術(こうはんしきゅうぜんてきじゅつ)は、子宮・基靱帯(きじんたい)・腟壁の一部・骨盤リンパ節を広く摘出する大がかりな手術です。IB2期以上の子宮頸がんに対して根治を目指す場合に選ばれます。
広汎子宮全摘術で切除する組織と手術にかかる時間
子宮体部・子宮頸部に加え、子宮を支える基靱帯、仙骨子宮靱帯、膀胱子宮靱帯、腟壁の上部を一塊として摘出します。同時に骨盤リンパ節郭清(かくせい:リンパ節を取り除くこと)も行い、手術時間は3~5時間程度が一般的です。
2018年に報告されたLACC試験では、腹腔鏡手術よりも開腹手術のほうが再発率・生存率ともに良好であることが明らかになりました。そのため現在は広汎子宮全摘術において開腹アプローチが標準として推奨されています。
術後に起こりやすい合併症|膀胱障害とリンパ浮腫
広汎子宮全摘術では子宮周囲の自律神経を損傷する可能性があり、膀胱機能の低下が術後に起こることがあります。尿意を感じにくくなったり残尿が増えたりする症状が代表的ですが、多くは6~12か月かけて徐々に回復していきます。
リンパ節郭清に伴う下肢リンパ浮腫も注意したい合併症です。弾性ストッキングの着用やリンパマッサージによる予防が大切で、術後早い段階からケアを始めると効果的でしょう。
開腹手術と腹腔鏡手術、どちらを選ぶべきか
LACC試験の結果を踏まえ、広汎子宮全摘術では開腹手術が第一選択です。一方、腫瘍を腟側から被覆して腹腔内への拡散を防ぐ「ノールック・ノータッチ法」や術前円錐切除の併用など、腹腔鏡の安全性向上を目指す研究も続いています。
どのアプローチを選ぶかは腫瘍の条件や施設の実績を踏まえて判断されるため、担当医との十分な話し合いが大切です。
| 比較項目 | 開腹手術 | 腹腔鏡手術 |
|---|---|---|
| 再発リスク | 低い(標準治療) | やや高い報告あり |
| 出血量 | やや多い | 少ない傾向 |
| 入院期間 | 7~14日程度 | 3~7日程度 |
| 術後の痛み | やや強い | 比較的軽い |
妊娠をあきらめたくない方へ|子宮頸がんの妊孕性温存手術という道がある
若くして子宮頸がんと診断された方にとって、「子どもを産む力を残したまま治療できるか」は切実な問題です。条件を満たせば子宮を温存しながらがんを治療する「妊孕性温存手術」が選択肢に入ります。
広汎子宮頸部摘出術(トラケレクトミー)の適応と実績
トラケレクトミーは子宮頸部と周囲組織を切除しつつ、子宮体部を温存する術式です。1994年にフランスで開発され、世界各国で多数の症例が蓄積されてきました。腫瘍径2cm以下のIA2~IB1期が適応の中心です。
術後の再発率は3~6%と報告されており、広汎子宮全摘術と同等の治療成績を示す研究が多くみられます。ただし実施できる施設が限られるため、専門施設への紹介が必要になることもあるでしょう。
トラケレクトミー後の妊娠成績と気をつけたいこと
妊孕性温存手術後の妊娠に関する主なデータ
| 項目 | 報告値 | 備考 |
|---|---|---|
| 妊娠率 | 約50~70% | 自然妊娠が中心 |
| 生児獲得率 | 約60~75% | 施設差あり |
| 早産リスク | 通常より高い | 頸管短縮が原因 |
円錐切除のみで経過をみる試みも広がっている
腫瘍が非常に小さく低リスクと判断された場合、円錐切除とセンチネルリンパ節生検の組み合わせで治療を完結させるアプローチも増えてきました。GOG-278試験では円錐切除後の良好な無再発生存率が報告されています。
ただし全員に適用できるわけではありません。腫瘍の種類・浸潤の深さ・脈管侵襲(みゃっかんしんしゅう:リンパ管や血管へのがんの広がり)の有無を総合的に見極めた上での判断になります。
子宮頸がんの手術後はどう過ごす?|回復を早める術後のポイント
手術が無事に終わっても、術後の過ごし方で回復のスピードは大きく変わります。退院後に気をつけるべきポイントを押さえて、スムーズな社会復帰を目指しましょう。
退院から日常生活復帰までの期間の目安
円錐切除術であれば退院後1~2週間で日常生活にほぼ支障なく戻れる方が大半です。単純子宮全摘術の場合は2~4週間、広汎子宮全摘術では4~8週間を回復の目安として見込んでおくとよいでしょう。
重い物を持つ動作や激しい運動は、術後4~6週間控えるのが一般的です。焦らず自分のペースで活動量を少しずつ増やすことが回復を後押しします。
広汎子宮全摘術後は膀胱ケアが欠かせない
広汎子宮全摘術を受けた場合、膀胱機能の回復に時間がかかることがあります。退院後もしばらく自己導尿(じこどうにょう:カテーテルで尿を出す方法)が必要なケースもあるため、入院中に看護師から指導を受けておきましょう。
卵巣を同時に摘出した場合は更年期症状が出る可能性があります。ほてりや発汗、気分の落ち込みが辛いときは、ホルモン補充療法について担当医に相談してみてください。
再発を見逃さないための定期検診スケジュール
術後は再発の早期発見に向けた定期検診が大切です。一般的には術後2年間は3か月ごと、その後3年間は6か月ごと、合計5年間のフォローアップが推奨されています。
診察では内診や細胞診に加え、必要に応じて画像検査も行います。少しでも気になる症状があれば、次の予約を待たず早めに受診することが安心につながるでしょう。
- 出血や異常なおりものが続くとき
- 足のむくみが急にひどくなったとき
- 腰や下腹部に強い痛みを感じるとき
- 排尿や排便に異変を覚えるとき
センチネルリンパ節生検で子宮頸がんの手術が変わりつつある
従来の子宮頸がん手術では骨盤リンパ節を広く切除する「リンパ節郭清」が標準的でしたが、近年はセンチネルリンパ節生検(前哨リンパ節だけを調べる方法)の導入が進んでいます。リンパ浮腫のリスクを下げながら同等の治療成績が得られると報告されました。
センチネルリンパ節生検の手順と狙い
- 色素やICG蛍光色素を子宮頸部に注入する
- がんが最初に流れ着くリンパ節(前哨リンパ節)を特定する
- 前哨リンパ節のみを摘出して詳しく病理検査にかける
- 転移がなければ広範なリンパ節郭清を省略できる
骨盤リンパ節郭清と比べた治療成績
複数の比較研究で、センチネルリンパ節生検のみの群と骨盤リンパ節郭清を行った群で無再発生存率・全生存率に有意な差がなかったと報告されています。SENTICOL-2試験ではセンチネルリンパ節生検のみの群でリンパ関連の合併症が明らかに減りました。
転移の検出率も97%を超える高い精度が確認されており、早期がんにおけるリンパ節評価の新たな標準として期待が高まっています。
すべての患者さんに適用できるわけではない
センチネルリンパ節生検の適応は主に早期がんに限られます。腫瘍が大きい場合や進行がんでは従来のリンパ節郭清が依然として必要です。片側のみしか前哨リンパ節を検出できなかった場合は、対側のリンパ節郭清を追加するルールが一般的となっています。
| 比較項目 | センチネルリンパ節生検 | 骨盤リンパ節郭清 |
|---|---|---|
| リンパ浮腫リスク | 低い | 5~20% |
| 転移検出精度 | 97%以上 | 標準的 |
| 手術時間 | 短い | 長い |
よくある質問
子宮頸がんの円錐切除術を受けた後、どのくらいで仕事に復帰できる?
円錐切除術はからだへの負担が軽い手術のため、デスクワーク中心であれば術後1~2週間程度で復帰される方がほとんどです。立ち仕事や力仕事の場合は2~3週間を目安にすると安心でしょう。
ただし術後の出血や体調の回復には個人差があります。無理をすると出血が長引くこともあるため、担当医に相談した上で復帰時期を決めてください。
子宮頸がんの広汎子宮全摘術を受けると妊娠は完全にできなくなる?
広汎子宮全摘術は子宮を摘出するため、術後にご自身での妊娠・出産はできなくなります。妊娠を望まれる方は手術前に必ず担当医へ伝えてください。
年齢やがんの進行度によっては、子宮を温存するトラケレクトミーや円錐切除術が検討される場合もあります。治療方針の相談段階で妊娠の希望をしっかり伝えることが大切です。
子宮頸がん手術後のリンパ浮腫はどうやって予防する?
リンパ浮腫は骨盤リンパ節郭清を受けた場合に起こりやすい合併症で、足のむくみやだるさが主な症状です。術後早期から弾性ストッキングの着用と適度な運動を続けることが予防に効果的とされています。
長時間同じ姿勢を避ける、足を少し高くして休むといった習慣も有効でしょう。むくみが急にひどくなった場合はリンパ浮腫外来など専門のケアを受けることで悪化を防げます。
子宮頸がんの手術後に追加で放射線治療が必要になるのはどんなとき?
摘出した組織の病理検査でリンパ節転移、切除断端の陽性、子宮傍組織への浸潤などが判明した場合に、術後の放射線治療や化学放射線療法が追加されることがあります。
リスク因子が複数重なる場合も追加治療の対象になりやすいです。結果が出るまでの数週間は不安かもしれませんが、担当医の説明をていねいに聞いて理解を深めてください。
子宮頸がんの手術で卵巣を残すことはできる?
卵巣を温存できるかどうかは、がんの組織型やステージ、患者さんの年齢によって変わります。扁平上皮がんは卵巣に転移するリスクが低いため、閉経前の方で卵巣温存が選ばれるケースも珍しくありません。
一方、腺がんでは卵巣転移のリスクがやや高く、摘出される場合があります。卵巣を摘出すると更年期症状が出るため、術前に担当医と温存の可否について話し合っておくことが大切です。
References
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前田 祐助 医学博士 / 医師
慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医