前立腺・泌尿器 category

前立腺がんは、前立腺の中にとどまる早期の段階で見つかれば、5年相対生存率がほぼ100パーセントに達するがんです。
治療の入り口になるのがPSA検査という採血で、数値に異常があれば直腸診やMRI、生検へと進みます。早期に見つかれば、体への負担が少ない選択肢から治療を選べます。
一方で、がんの進行度や悪性度によって余命も治療方針も大きく変わるため、ステージとリスク分類を知っておくと安心です。
この記事ではPSA値の見方から具体的な検査方法、ステージ別の生存率、手術・放射線・ホルモン療法までを順に解説します。
前立腺がんはどんな病気か、初期症状で気づけるのか
前立腺がんは進行がゆるやかなものが多く、早期に見つかれば治療成績の良いがんです。ただし初期は症状がほとんど出ないため、症状を待っていては早期発見の機会を逃しかねません。
日本人男性で増え続けている理由
前立腺は膀胱の下にあり、精液の一部を作る男性だけの臓器です。前立腺がんはその細胞が異常に増えて発生し、いまや日本人男性の罹患数で上位を占めます。
高齢になるほど増えるのが特徴で、60代から70代で急に増加します。食生活の変化やPSA検査の普及も、見つかる人が増えた一因といえるでしょう。
初期症状が出にくいという落とし穴
やっかいなのは、早期の前立腺がんではほとんど自覚症状が出ない点です。がんは前立腺の外側にできやすく、尿の通り道を圧迫しにくいためと考えられます。
症状が出てから受診すると、すでに進行しているケースも少なくありません。だからこそ、症状の有無に頼らない検査が頼りになります。
見逃したくない排尿や腰のサイン
進行すると、排尿に関する変化があらわれることがあります。代表的なものをまとめました。
気をつけたい主な症状
- 尿が出にくい、勢いが弱い
- 夜間や日中の頻尿
- 残尿感や排尿時の違和感
- 血尿
- 腰や背中、骨の痛み(骨への転移)
これらは前立腺肥大症など別の病気でも起こります。自己判断せず、気になる変化があれば泌尿器科で相談すると安心につながります。
排尿の変化など気になるサインを自分でチェックしたい方へ
前立腺がんの初期症状セルフチェックの手引き
PSA検査を軸にした前立腺がんの検査方法
前立腺がんを見つける検査は、PSA検査という採血から始まり、必要に応じてMRIや生検へと段階的に進みます。最終的にがんの有無を確定できるのは生検だけです。
PSA値の基準と数値が高いときの見方
PSAは前立腺で作られるたんぱく質で、がんがあると血液中に多く漏れ出します。一般にPSA値が4.0ng/mLを超えると、精密検査の対象になります。
ただし数値が高いことが、そのままがんを意味するわけではありません。前立腺肥大症や炎症でも上がるため、年齢も加味して総合的に判断します。
PSA値の目安と対応
| PSA値 | 目安 | 対応の方向 |
|---|---|---|
| 4.0ng/mL未満 | 基準範囲内 | 年齢に応じて定期確認 |
| 4.0〜10ng/mL | 判断が難しい範囲 | MRIや再検査で見極め |
| 10ng/mL超 | がんの可能性が高まる | 生検を検討 |
同じ数値でも、年齢や前立腺の大きさで意味は変わります。数字だけで一喜一憂せず、医師と経過を見ていくことが大切です。
PSA値の基準と精密検査の目安をチェック
PSA基準値と要精密検査のラインの見方
直腸診とMRIで疑いをしぼり込む
直腸診は、医師が指で前立腺の硬さやしこりを確かめる検査です。PSAに表れないがんを触れることもあり、わずか数分で終わります。
MRIは前立腺を細かく描き出し、生検が必要かどうかの判断に役立ちます。近年は、MRIで狙いを定めてから生検する方法も広がってきました。
PSA検査から生検・MRIまで検査の流れを詳しくまとめました
前立腺がんの検査方法と診断までの流れ
確定診断を担う前立腺生検
がんかどうかを最終的に決めるのは、前立腺の組織を針で採る生検です。肛門から行う経直腸生検と、皮膚から刺す経会陰生検があります。
採った組織を顕微鏡で調べ、がん細胞の有無と悪性度を確かめます。出血や感染などの合併症もあるため、事前の説明をよく聞いておきましょう。
病期(ステージ)とリスク分類で治療方針が決まる
同じ前立腺がんでも、どこまで広がっているか(病期)と、性質の悪さ(リスク)の組み合わせで、選ぶ治療はまったく変わります。だからこそ、この2つの見立てが治療方針の土台になります。
TNM分類でがんの広がりを表す
病期は国際的なTNM分類で表します。Tはがんの広がり、Nはリンパ節転移、Mは遠隔転移を示し、これらを組み合わせてステージ1〜4に分けます。
前立腺の中にとどまればステージ1〜2、外へ及べばステージ3、骨やリンパ節などへ転移するとステージ4です。
グリーソンスコアが示す悪性度
悪性度の指標がグリーソンスコアです。組織のパターンを1〜5で評価し、最も多い型と次に多い型を足して6〜10で表します。
同じ7でも3+4と4+3では予後が異なり、後者のほうが悪性度は高めです。最近はグレードグループ1〜5でわかりやすく示すことも増えてきました。
TNM分類やグリーソンスコアの読み方の解説を読む
前立腺がんの病期分類とリスク分類の見方
D’AmicoとNCCNのリスク分類
PSA値、グリーソンスコア、病期を組み合わせると、再発しやすさを見立てるリスク分類になります。低・中間・高リスクなどに分け、治療の選び方の目安にします。
リスク分類のおおまかな目安
| リスク | おおまかな目安 | 治療の傾向 |
|---|---|---|
| 低リスク | PSA低め・グリーソン6 | 監視療法も選べる |
| 中間リスク | 中程度の数値 | 手術や放射線が中心 |
| 高リスク | PSA高値・悪性度が高い | 複数の治療を組み合わせ |
ただし、同じリスク群でも病状には幅があります。数値はあくまで出発点と考え、自分の状態に合った方針を主治医と相談しましょう。
前立腺がんの余命と生存率はステージでどう変わる?
余命と聞くと不安になりますが、前立腺がんは早期なら治療後の見通しがとても良いがんです。前立腺内にとどまる段階での5年相対生存率は、ほぼ100パーセントという報告があります。
早期発見なら生存率はきわめて高い
ステージ1・2のように前立腺内にがんがとどまる段階では、5年相対生存率はほぼ100パーセント、10年後も高い水準が保たれます。
これは前立腺がんでない同年代の男性と、ほとんど変わらない寿命を期待できるという意味になります。
ステージごとに見る生存率の違い
ステージが上がるにつれ生存率は下がりますが、それでも他のがんに比べ良好です。下に目安を整理しました。
ステージ別の5年相対生存率の目安
| ステージ | がんの状態 | 5年相対生存率の目安 |
|---|---|---|
| 1・2 | 前立腺内にとどまる | ほぼ100% |
| 3 | 周囲へ広がる | 高い水準を維持 |
| 4 | 骨やリンパ節へ転移 | およそ30〜60% |
ステージ4の数字は過去の統計に基づくもので、新しいホルモン薬の登場により改善が期待されます。実際、転移があっても長く病気と付き合う方は大勢います。
ステージ別の5年・10年生存率を詳しく知りたい方へ
前立腺がんのステージ別生存率と予後の見通し
数字だけで余命は決まらない
生存率はあくまで集団の傾向であり、一人ひとりの余命を約束する数字ではありません。年齢や体の状態、悪性度、治療の選択によって結果は変わります。
だからこそ、数字に振り回されず、自分の状態に合った治療を選ぶことが何より大切だといえます。
手術という選択と、その後の尿失禁への備え
前立腺がんの手術は、前立腺をまるごと摘出して根治を目指す治療です。近年はダビンチによるロボット支援手術が主流で、体への負担を抑えられます。
ロボット支援手術(ダビンチ)という選択
ダビンチは、医師が3D画像を見ながらロボットアームを精密に操作する手術支援機器です。傷が小さく出血も少ないため、回復が早い利点があります。
日本では2012年から保険が使えるようになり、導入する施設が年々増えています。前立腺を摘出するため、手術後はPSA値の変化で再発の有無を確認しやすくなります。
ダビンチ手術の主な利点
- 傷が小さく痛みが少ない
- 出血量が少ない
- 入院期間が短い傾向
- 骨盤の奥でも精密に操作できる
ただし手術に合併症の可能性はあるため、利点と注意点の両方を知って選ぶことが望ましいでしょう。
ダビンチ手術のメリットや入院期間の情報を詳しく見る
ロボット支援手術ダビンチの特徴と入院の流れ
手術後に起こりうる尿もれと性機能の変化
前立腺は尿道を取り囲む位置にあるため、手術後に一時的な尿失禁が起こるときがあります。多くは時間とともに改善しますが、個人差があります。
また、勃起にかかわる神経が近くにあり、性機能の変化が生じる場合もあるでしょう。心配な点は遠慮せず主治医に伝えておきましょう。
骨盤底筋を鍛えて尿もれに備える
尿もれ対策には、尿道まわりを支える骨盤底筋を鍛える体操が役立ちます。肛門をキュッと締めて緩める動きを繰り返す方法で、手術が決まった時期から始めるとよいとされます。
散歩などで体を動かすことも筋力の維持につながります。あせらず続けることが回復への近道になります。
手術後の尿もれと骨盤底筋トレーニングについてまとめました
手術後の尿失禁と骨盤底筋ケアの進め方
手術以外の選択肢、放射線・ホルモン療法・監視療法
前立腺がんの治療は手術だけではありません。体にメスを入れない放射線治療、進行を抑えるホルモン療法、すぐに治療しない監視療法など、状態に応じて選べます。
| 治療法 | 特徴 | 主に向く人 |
|---|---|---|
| 放射線治療 | 体を切らずに照射 | 手術を避けたい方 |
| ホルモン療法 | がんの進行を抑える | 進行・転移がある方 |
| 監視療法 | 治療せず経過観察 | 低リスクの早期 |
体にメスを入れない放射線治療
放射線治療は、外から当てる外照射と、前立腺の中に線源を入れる小線源治療に大きく分かれます。手術が難しい方や、体への負担を避けたい方の選択肢になります。
頻尿や排尿時の違和感などの副作用が出る場合もありますが、多くは時間とともに落ち着きます。
外照射と小線源治療の違いをチェック
前立腺がんの放射線治療(外照射・小線源)
男性ホルモンを抑えるホルモン療法と副作用
前立腺がんは男性ホルモンを栄養にして育つ性質があります。ホルモン療法はその働きを抑えてがんの勢いを弱める治療で、進行したがんや放射線との併用で使われます。
一方で、ほてりや骨密度の低下、倦怠感などの副作用が出ることがあるでしょう。長く続ける治療のため、副作用と付き合う工夫も大切になります。
ホルモン療法の効果と副作用の解説を読む
ホルモン療法の効果と副作用の基礎知識
すぐに治療しない監視療法も選べる
悪性度が低く進行が遅いと考えられるがんでは、すぐに治療せず定期的な検査で経過を見る監視療法を選べます。治療に伴う副作用を避けながら、必要になった時点で治療へ切り替えます。
定期的なPSA検査や生検で進行の兆しを見逃さないことが前提です。過剰な治療を避ける、賢い選択肢のひとつになります。
よくある質問
前立腺がんのPSA値はいくつから検査が必要ですか?
前立腺がんのPSA検査では、一般にPSA値が4.0ng/mLを超えると精密検査の対象になります。ただし基準値以下でもがんが見つかることがあり、年齢によって目安は変わります。
数値が高い場合も前立腺肥大症や炎症が原因のこともあるため、再検査やMRIで慎重に確かめます。気になる数値が出たら、自己判断せず泌尿器科で相談しましょう。
前立腺がんの余命はステージによってどのくらい違いますか?
前立腺がんは早期であれば5年相対生存率がほぼ100パーセントと、見通しの良いがんです。前立腺内にとどまるステージ1・2では、同年代の男性と変わらない寿命を期待できます。
転移のあるステージ4では生存率は下がりますが、新しい薬の登場で長く付き合える方も増えています。余命は年齢や治療法でも変わるため、数字だけにとらわれないことが大切です。
前立腺がんの検査方法にはどのようなものがありますか?
前立腺がんの検査は、採血で行うPSA検査から始まります。数値や症状から疑いがあれば、直腸診やMRIで状態を調べ、最終的に生検で確定診断します。
PSA検査は体への負担が少なく、早期発見の手がかりになります。MRIで狙いを定めてから生検する方法も広がっており、診断の精度が高まっています。
前立腺がんの手術後に尿もれは必ず起こりますか?
前立腺がんの手術後に一時的な尿失禁が起こることはありますが、必ず続くわけではありません。多くは時間の経過とともに改善していきます。
回復を早めるには、尿道を支える骨盤底筋を鍛える体操が役立ちます。手術が決まった時期から始めると備えになります。不安があれば主治医に相談してみてください。
前立腺がんでホルモン療法をするとどんな副作用がありますか?
前立腺がんのホルモン療法では、ほてりや発汗、倦怠感、骨密度の低下などの副作用が出ることがあります。男性ホルモンを抑える治療のため起こる変化です。
副作用には個人差があり、運動や食事の工夫で和らげられるものもあります。長く続ける治療なので、つらい症状はがまんせず担当医に伝えましょう。
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前田 祐助医学博士 / 医師
慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。
【保有資格・所属】
医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医