ピロリ菌と胃がんの関係|除菌による予防効果と検査を受けるべき人の特徴

ピロリ菌と胃がんの関係|除菌による予防効果と検査を受けるべき人の特徴

ピロリ菌は、日本人の胃がん発症に深くかかわる細菌です。国内の感染者は約3500万人にのぼり、胃がんの約99%にピロリ菌感染が関与していると報告されています。

除菌治療を受ければ胃がんの発症リスクを約半分にまで下げられるというデータもあり、早期に検査・除菌を行う意義は非常に大きいといえるでしょう。

この記事では、ピロリ菌が胃がんを引き起こす仕組みから、除菌による予防効果、検査方法、そして検査を受けるべき人の特徴まで、わかりやすく解説していきます。

ピロリ菌はなぜ胃がんを引き起こすのか

ピロリ菌は胃の粘膜に慢性的な炎症を起こし、長い年月をかけて胃がんの発生を促します。感染から胃がんに至るまでのルートを知っておくことが、予防の第一歩です。

ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)は胃の粘膜にすみつく細菌

ピロリ菌の正式名称はヘリコバクター・ピロリといい、大きさはわずか1000分の4mm程度のらせん状の細菌です。通常、胃の中は強力な胃酸で満たされているため、ほとんどの細菌は生存できません。

しかしピロリ菌はウレアーゼという酵素で尿素をアンモニアに分解し、胃酸を中和して胃の粘膜に長期間すみつくことができます。

慢性胃炎から萎縮性胃炎へ進むことで胃がんの土台ができる

ピロリ菌が胃の粘膜にすみつくと、免疫反応によって慢性的な炎症が起こります。この慢性胃炎が長い年月をかけて持続すると、胃の粘膜が薄くやせていく「萎縮性胃炎」へと進行していきます。

萎縮性胃炎の状態では、胃液や胃酸を分泌する組織が減少し、粘膜の防御力が大きく低下しています。こうした環境が胃がんの発生しやすい土台となり、年齢を重ねるごとにリスクが高まっていくのです。

ピロリ菌感染から胃がん発症までの流れ

段階胃の状態期間の目安
感染初期急性胃炎が起こるが自覚症状は乏しい感染直後~数週間
慢性胃炎期炎症が持続し粘膜がダメージを受け続ける数年~数十年
萎縮性胃炎期胃の粘膜が薄くなり防御力が低下する十数年~
腸上皮化生期胃の粘膜が腸の粘膜に似た組織に置き換わる萎縮進行後
胃がん発症細胞の異常増殖が始まる感染から20~30年以上

胃がんの約99%にピロリ菌感染が関与している

国内の調査では、日本人がかかる胃がんの約99%がピロリ菌感染によるものとされています。つまり、ピロリ菌に感染していない人が胃がんになる確率は約1%にとどまるということです。

10年間の追跡研究では、ピロリ菌感染者1246人のうち36人が胃がんを発症したのに対し、非感染者280人からは1人も胃がんが発症しなかったという報告もあります。ピロリ菌と胃がんの関連は、科学的に極めて強固なものといえるでしょう。

ピロリ菌に感染しても自覚症状はほとんどない

ピロリ菌感染の厄介な点は、多くの場合、感染していても自覚症状がないことです。気づかないまま何十年も胃の粘膜がダメージを受け続け、発見されたときにはすでに萎縮が進んでいるケースも珍しくありません。

感染経路は幼少期の経口感染が中心

ピロリ菌の感染は、主に5歳頃までの幼少期に起こるとされています。免疫力が未熟な時期に、感染している大人からの食べ物の口移しや食器の共有などを通じて、口から感染するケースが大半です。

現在の日本では上下水道が整備されているため、飲み水を介した感染リスクは極めて低くなりました。一方で家庭内での親子間感染は依然として起こりうるため、親世代の感染状況を把握しておくことが子どもの感染予防にもつながります。

国内の感染者は約3500万人と推定されている

日本国内のピロリ菌感染者は約3500万人と推定されています。年齢が高い方ほど感染率が高く、60歳代以上では60%以上の方が感染しているともいわれています。

若い世代では衛生環境の改善にともなって感染率が下がってきていますが、それでも一定数の感染者がいるのが現状です。成人してからの感染は一時的な胃炎で終わることが多く、菌がすみつく可能性は低いとされています。

症状がないまま胃粘膜のダメージは進む

ピロリ菌に感染している人のうち、何らかの疾患を発症するのは保菌者の約3割程度と考えられています。しかし残りの7割の方も、自覚症状がないだけで胃の粘膜には少しずつ炎症が蓄積しています。

慢性胃炎の段階ではほとんど症状がありません。胃もたれや食欲不振などの軽い不調が出始めたときには、すでに萎縮性胃炎が進んでいる場合もあるでしょう。だからこそ、症状の有無にかかわらず検査を受けることが大切なのです。

年代別にみるピロリ菌感染率の傾向

年代推定感染率背景
20~30代約10~20%衛生環境の改善で感染率は低下傾向
40~50代約30~50%幼少期の環境により感染している場合がある
60代以上約60%以上井戸水の使用など衛生環境の影響を受けた世代

除菌で胃がんリスクは約半分まで下がる

ピロリ菌の除菌治療を受けることで、胃がんの発症リスクを大幅に減らせることが複数の研究で明らかになっています。ただし除菌後もリスクがゼロになるわけではなく、定期的な検査の継続が求められます。

国立がん研究センターの研究で除菌の有効性が証明されている

国立がん研究センターが行った19件の研究を統合した分析(メタ・アナリシス)によると、ピロリ菌の除菌治療を受けたグループは、受けなかったグループに比べて胃がんの発症リスクが約58%低下しました。

とくに、まだ胃がんを発症していない健康な感染者を対象とした分析では、リスクが約3分の1以下にまで減少しています。早期胃がんの内視鏡治療後の患者でも、除菌により新たな胃がんの発生が約半分に抑えられたと報告されています。

除菌しても胃がんリスクはゼロにはならない

除菌に成功したからといって、胃がんの心配が完全になくなるわけではありません。ピロリ菌がいなくなった時点で、すでに検査では見つけられないほど小さながんが潜んでいる可能性があるためです。

また、除菌前の胃炎が進んでいるほど、除菌後も胃がんのリスクは高く残ります。とくに萎縮性胃炎が高度に進行していた方は、除菌後も年に1回の内視鏡検査を続けることが欠かせないでしょう。

除菌による胃がんリスク低下に関する主な知見

  • 健常な感染者では除菌後の胃がんリスクが約66%減少
  • 早期胃がん治療後の患者でも新たな胃がん発生が約50%減少
  • 除菌後5年以内は潜在的ながんが見つかる可能性がある
  • 萎縮が高度な場合は除菌後もリスクが比較的高い

WHOも各国にピロリ菌除菌の推奨を行っている

WHO(世界保健機関)の国際がん研究機関は、ピロリ菌除菌に胃がん予防効果があることを公式に認めています。そのうえで、日本のような胃がんの多い国ではピロリ菌感染者への除菌治療を推奨し、各国が独自の予防戦略を立てるよう勧告しています。

日本では2013年からピロリ菌感染胃炎に対する除菌治療が広く行われるようになり、2020年までに約1000万人が除菌を受けたと推計されています。胃がんによる死亡者数も2010年の約50000人から2022年には約40700人にまで減少しました。

ピロリ菌検査を受けるべき人にはこんな特徴がある

ピロリ菌は自覚症状なく長年にわたって胃の粘膜を傷つけ続けます。下記に当てはまる方は、できるだけ早くピロリ菌の検査を受けることをおすすめします。

家族に胃がん患者やピロリ菌感染者がいる人

ピロリ菌は幼少期に家庭内で感染することが多いため、家族のなかに胃がんを経験した方やピロリ菌感染が判明している方がいれば、自分自身も感染している可能性が高まります。

韓国で行われた研究では、胃がん患者の近親者でピロリ菌陽性の方を対象に除菌治療を行ったところ、胃がん発生率が大幅に低下したことが確認されています。家族歴のある方は、まず検査を受けて感染の有無を確認することが胃がん予防の出発点になるでしょう。

30歳以上で一度もピロリ菌検査を受けたことがない人

ピロリ菌検査は基本的に一度受ければ結果がわかる検査です。成人してからの新たな感染は極めてまれであるため、一度陰性と確認できれば、以後ピロリ菌による胃がんリスクは低いと判断できます。

逆に30歳を過ぎても一度も検査を受けたことがない方は、知らず知らずのうちにピロリ菌が胃にすみついている可能性があります。とくに40代以上の方は感染率が上がるため、早めの検査をおすすめします。

胃の不調が続いていて原因がわからない人

慢性的な胃もたれや食欲不振、胃の痛みが続いているにもかかわらず、原因がはっきりしない場合は、ピロリ菌感染を疑ってみる価値があります。ピロリ菌による慢性胃炎は症状が軽いため、見過ごされがちです。

また、過去に胃潰瘍や十二指腸潰瘍の経験がある方は、ピロリ菌に感染している確率が高いとされています。「なんとなく胃の調子が悪い」という状態が長引いている方は、一度消化器内科を受診してピロリ菌検査について相談してみましょう。

ピロリ菌検査を受けたほうがよい人の特徴一覧

該当する特徴検査の優先度
家族に胃がん患者がいる高い
40歳以上で検査歴がない高い
胃潰瘍・十二指腸潰瘍の経験がある高い
慢性的な胃の不調があるやや高い
30歳以上で検査歴がないやや高い
家族にピロリ菌感染者がいるやや高い

ピロリ菌の検査方法は大きく2種類に分かれる

ピロリ菌の検査方法は、内視鏡(胃カメラ)を使う方法と使わない方法の2種類に大別されます。それぞれに利点と注意点があるため、自分の状況に合った方法を医師と相談して選ぶことが大切です。

内視鏡を使わない検査は体への負担が少ない

内視鏡を使わずにピロリ菌感染を調べる方法には、尿素呼気試験、血液や尿を用いた抗体検査、便中抗原検査などがあります。いずれも比較的短時間で行え、体への負担が小さいのが特徴です。

なかでも尿素呼気試験は精度が高く、検査薬を服用した前後の呼気を採取するだけで判定できるため、多くの医療機関で主流の検査法として採用されています。血液中のピロリ菌抗体を測定する方法は採血だけで済むため、健診やABC検診にも組み込まれています。

内視鏡を使う検査は胃の状態も同時に確認できる

内視鏡を使った検査では、胃カメラで胃の粘膜を直接観察しながら組織の一部を採取し、ピロリ菌の有無を調べます。迅速ウレアーゼ試験、鏡検法、培養法といった方法があります。

この方法の大きな利点は、ピロリ菌の有無だけでなく、胃炎の程度や萎縮の進み具合、さらには胃がんの有無も同時に確認できる点です。とくに萎縮性胃炎や腸上皮化生(胃の粘膜が腸の粘膜のように変化した状態)が見つかった場合は、胃がんリスクが高いと判断されます。

主なピロリ菌検査方法の比較

検査方法内視鏡の要否特徴
尿素呼気試験不要呼気を採取するだけで高精度に判定できる
血中・尿中抗体検査不要採血や採尿で手軽に行えるが偽陽性の場合もある
便中抗原検査不要便を採取して抗原の有無を調べる
迅速ウレアーゼ試験必要採取した組織のウレアーゼ活性で判定する
培養法必要組織を培養してピロリ菌の存在を直接確認する
鏡検法必要染色した組織を顕微鏡で観察して菌を探す

除菌判定には尿素呼気試験がよく使われる

除菌治療が成功したかどうかを判定する検査は、治療終了後4週間以上経過してから行います。判定に使われるのは主に尿素呼気試験で、検査薬を飲んで呼気を採取するだけの簡便な方法です。

判定のタイミングが早すぎると「偽陰性」が出るリスクがあり、実際にはピロリ菌が残っているのに成功と思い込んでしまう恐れがあります。医師の指示する適切な時期に判定検査を受けることが大切です。

除菌治療は1週間の内服で完了する

ピロリ菌の除菌治療は、3種類の薬を1週間服用するだけで完了します。治療自体は比較的シンプルですが、成功率を上げるためにはいくつかのポイントを押さえておく必要があります。

3種類の薬を7日間飲み続けるのが基本

除菌治療では、胃酸の分泌を抑える薬(プロトンポンプ阻害薬)1種類と抗菌薬(抗生物質)2種類の合計3種類を、朝と夕の1日2回、7日間連続で服用します。この3剤併用療法が国内で標準的に行われている治療法です。

近年は制酸薬の性能が向上したこともあり、1次除菌の成功率は約80%から90%まで改善しています。薬の飲み忘れや自己判断による中断は除菌失敗の原因になるため、処方された薬は必ず最後まで飲み切ることが肝心です。

1次除菌の成功率は約80%から90%

1回目の除菌治療(1次除菌)で成功する確率はおよそ80%から90%です。失敗した場合は、抗菌薬の種類を変更して2回目の除菌治療(2次除菌)を行います。2次除菌の成功率も約80%から90%とされており、ほとんどの方が2回目までに除菌に成功しています。

除菌が失敗する主な原因は、ピロリ菌がもともと特定の抗菌薬に対して耐性(抵抗力)を持っているケースです。そのため2次除菌では抗菌薬の組み合わせを変えて治療を行います。

副作用が出ても自己判断で中断しない

除菌治療中に下痢や軟便、味覚の変化、腹部の不快感といった副作用が出ることがあります。多くの場合は薬の服用を終えれば改善しますが、症状がつらい場合は必ず担当医に相談してください。

自己判断で薬を中断すると除菌が不完全に終わる確率が大きく上がります。どうしてもつらいときは中断する前に医師に連絡をとりましょう。

除菌治療で注意したいポイント

  • 処方された3種類の薬を7日間欠かさず服用する
  • 飲み忘れた場合は気づいた時点で服用し、次の服用時間を調整する
  • 副作用が出ても自己判断で中断せず担当医に相談する
  • 治療終了後4週間以上経過してから除菌判定検査を受ける

よくある質問

ピロリ菌に感染していると必ず胃がんになるのか?

ピロリ菌に感染しているからといって、全員が胃がんになるわけではありません。感染者のうち胃がんを発症するのは数%程度とされています。

ただし、ピロリ菌に感染していない人と比較すると胃がんのリスクは約5倍に高まるため、感染がわかった段階で除菌治療を受けることが予防につながります。萎縮性胃炎の進行度や生活習慣によってもリスクは変わるため、医師と相談のうえで対策を講じることが大切です。

ピロリ菌の除菌治療に痛みや強い副作用はあるのか?

除菌治療そのものは飲み薬による治療であり、注射や手術は伴いません。痛みを感じる場面は基本的にないと考えてよいでしょう。

副作用としては下痢や軟便、味覚の変化、発疹などが報告されていますが、いずれも薬の服用が終われば改善するケースがほとんどです。副作用がつらい場合は自己判断で薬をやめず、必ず担当の医師に相談してください。

ピロリ菌の除菌に成功した後も定期的な胃がん検査は受けたほうがよいのか?

除菌に成功しても、胃がんのリスクが完全にゼロになるわけではありません。除菌した時点ですでに目に見えないほど小さな胃がんが存在している場合があるためです。

とくに除菌前に萎縮性胃炎が進んでいた方は、除菌後もリスクが残りやすいとされています。年に1回は内視鏡検査を受けて胃の状態を確認し、万が一胃がんが発生しても早期に発見できる体制を整えておくことが望ましいでしょう。

ピロリ菌は親から子どもにうつる可能性があるのか?

ピロリ菌は主に幼少期の経口感染でうつるため、親から子どもへの家庭内感染は十分に起こりえます。食べ物の口移しや食器の共用が主な感染経路と考えられています。

親御さんがピロリ菌に感染している場合は、お子さんへの感染リスクを意識することが大切です。まず親御さん自身が検査を受け、感染が判明すれば除菌治療を行うことで、家庭内での感染拡大を防ぐ一助になります。

ピロリ菌の検査は何歳くらいから受けるのが望ましいのか?

一般的には20歳以上であればピロリ菌検査を受けられます。除菌治療は基本的に成人を対象としており、若いうちに感染がわかれば萎縮性胃炎が進む前に対処できるため、予防効果はより高くなります。

家族に胃がん患者やピロリ菌感染者がいる方は、20代のうちから検査を受けておくと安心です。30歳を過ぎても一度も検査を受けたことがない方は、早めに医療機関で相談することをおすすめします。

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医