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胃がんは日本で年間約13万人が診断されるがんですが、初期段階では自覚症状に乏しく、気づいたときにはステージが進んでいた、というケースが少なくありません。しかし、早期に発見できれば5年生存率は90%を超えるとされています。
この記事では、胃がんの初期症状セルフチェックから、バリウム検査・胃カメラの選び方、ステージごとの生存率、手術・抗がん剤・分子標的薬の治療法、ピロリ菌除菌による予防、術後の食事管理まで、胃がんに関する情報を幅広くお届けします。
「なんとなく胃が重い」は胃がん初期症状のサインかもしれない
胃がんの初期症状は、胃炎や胃もたれとよく似た「ありふれた不調」として現れます。そのため、市販の胃薬で対処して放置してしまう方が多く、早期発見のチャンスを逃してしまうケースが後を絶ちません。
みぞおちの鈍い痛みや食後の胸焼け、食欲の低下、少量の食事で満腹感を覚える、げっぷの回数が増えたなど、一つひとつは日常的に起こりうる症状です。問題は、こうした不調が「2週間以上続いている」場合でしょう。
一過性であれば心配いりませんが、慢性的に感じるなら胃がんを含む病気の可能性を視野に入れてください。
初期に出やすい胃の不調は「ただの胃炎」と間違えやすい
初期の胃がんが引き起こす症状と、ストレス性の胃炎や逆流性食道炎の症状は非常に似ています。医師であっても、症状だけで鑑別することは困難です。
胃がんの初期に見られやすい症状一覧
| 症状 | 特徴 | 受診の目安 |
|---|---|---|
| みぞおちの痛み | 鈍痛が食後に悪化しやすい | 2週間以上続く場合 |
| 胸焼け・げっぷ | 食事の内容に関わらず出る | 市販薬で改善しない場合 |
| 食欲低下 | 好物にも食欲がわかない | 体重減少を伴う場合 |
| 吐き気 | 朝方に強く出ることがある | 嘔吐を繰り返す場合 |
| 黒色便 | 胃からの出血を示す | すぐに受診 |
とくに黒色便(タール便)は、胃粘膜からの出血が消化されて排出されたものであり、緊急性の高いサインです。この症状が出た場合は速やかに消化器内科を受診してください。
胃痛・胸焼け・食欲不振から自分でチェックする方法を解説
胃がん初期症状のセルフチェックと受診の目安
スキルス胃がんは症状が出にくく発見が難しい
胃がんのなかでもとくに発見が困難とされるのがスキルス胃がん(びまん性胃がん)です。通常の胃がんが粘膜の表面に腫瘍を形成するのに対し、スキルス胃がんは胃壁の内部に広がるため、内視鏡検査でも見つけにくいという特徴があります。
30〜50代の比較的若い年齢層にも発症しやすく、腹部の膨満感や食欲不振が主な訴えです。進行が速い傾向があるため、家族歴がある方や慢性的な胃の不調が続く方は、定期的な内視鏡検査が大切になります。
スキルス胃がんの特徴や見つけにくい理由について詳しくまとめました
スキルス胃がんの症状と早期発見のための検査方法
バリウムか胃カメラか|胃がん検査で後悔しない選び方
胃がんの早期発見には、バリウム検査(上部消化管X線検査)か胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)のいずれかを定期的に受けることが基本です。それぞれにメリット・デメリットがあり、ご自身の状況に合った検査法を選ぶことで、負担を抑えながら精度の高いスクリーニングを受けられます。
バリウム検査は自治体の検診で広く採用されており、費用が安く身体への負担も比較的軽い検査です。一方、胃カメラは粘膜を直接観察でき、疑わしい箇所があればその場で組織を採取(生検)できるため、診断精度が高いといえます。
胃カメラ(内視鏡)なら小さな病変も見逃さない
近年は経鼻内視鏡(鼻から挿入するタイプ)の普及や鎮静剤の併用により、胃カメラの苦痛は大幅に軽減されています。50歳以上の方、ピロリ菌の感染歴がある方、家族に胃がん患者がいる方は、胃カメラによる検診を優先的に検討してみてください。
- バリウム検査は胃全体の形態を把握するのに向いている
- 胃カメラは粘膜の色調変化や小さな隆起・陥凹を直接確認できる
- 胃カメラでは生検(組織の採取)も同時に実施できる
バリウム検査で異常が指摘された場合は、二次検査として胃カメラを受けることになります。最初から胃カメラを選ぶことで、検査の二度手間を省けるメリットもあるでしょう。
バリウム検査と胃カメラの違いや、それぞれの特徴を比較した解説を読む
胃がんのバリウム検査と胃カメラ(内視鏡)の違い
胃がんのステージ別5年生存率、数字が語る早期発見の価値
胃がんのステージ(進行度)は、がんが胃壁のどの深さまで浸潤しているか(T分類)、リンパ節への転移の有無(N分類)、遠隔臓器への転移の有無(M分類)を総合的に評価して決定されます。ステージIであれば5年生存率は約95%ですが、ステージIVになると5〜10%程度まで低下します。
ステージIなら9割以上、でもステージIVでは1割以下
国立がん研究センターが公表している統計データによると、胃がんの5年相対生存率にはステージごとに大きな差があります。
胃がんのステージ別5年生存率(目安)
| ステージ | 5年生存率(目安) | 主な状態 |
|---|---|---|
| ステージI | 約95% | がんが胃の粘膜〜粘膜下層にとどまる |
| ステージII | 約65% | 筋層以深への浸潤やリンパ節転移がある |
| ステージIII | 約30〜45% | 広範なリンパ節転移を伴う |
| ステージIV | 約5〜10% | 肝臓・腹膜など遠隔臓器への転移がある |
これらの数値はあくまで統計上の目安であり、一人ひとりの経過を決定づけるものではありません。とはいえ、ステージIとIVの生存率の差が10倍近くあるという事実は、早期発見がいかに大切かを物語っています。
定期検診を受けてステージIの段階で発見できれば、内視鏡治療で完治が見込めるケースも多くあります。「症状がないから大丈夫」と考えず、年齢やリスク因子に応じた検診スケジュールを組むことが、ご自身の命を守る行動につながります。
5年生存率・10年生存率のデータと進行度ごとの治療方針をチェック
胃がんのステージ別生存率と治療方針の詳細
手術・抗がん剤・分子標的薬|胃がん治療の三本柱
胃がんの治療は、ステージや患者さんの全身状態に応じて手術、抗がん剤(化学療法)、分子標的薬を組み合わせて進めます。ステージIの早期がんであれば内視鏡治療だけで完結することもありますが、進行がんでは複数の治療法を併用する「集学的治療」が基本です。
手術はステージに合わせて内視鏡治療から開腹術まで幅広い
ごく早期の胃がん(粘膜内にとどまり、リンパ節転移のリスクが低いもの)に対しては、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が選択されます。胃を切除せずにがん組織だけを取り除けるため、術後の生活の質が高く保たれます。
がんが筋層以深に達している場合やリンパ節転移が認められる場合は、胃の部分切除(幽門側胃切除術など)または全摘術が検討されます。近年は腹腔鏡手術やロボット支援手術が普及しており、開腹手術に比べて傷が小さく回復が早い傾向です。
- 内視鏡治療(ESD):ステージIの一部。入院は数日〜1週間程度
- 腹腔鏡手術:ステージI〜IIが中心。入院は10日〜2週間程度
- 開腹手術:ステージII〜IIIで広範囲の切除が必要な場合。入院は2〜3週間程度
内視鏡治療・腹腔鏡手術・開腹手術の違いと入院期間の目安を知りたい方へ
胃がんの手術方法と入院期間の比較解説
抗がん剤と分子標的薬HER2で再発リスクを抑える
手術後の再発を防ぐために、ステージII以上の患者さんには術後補助化学療法が行われるのが一般的です。日本では、S-1(ティーエスワン)やカペシタビン+オキサリプラチン(CapeOX)などのレジメン(薬剤の組み合わせ)が標準治療として用いられています。
また、胃がん細胞の表面にHER2(ハーツー)というタンパク質が過剰に発現しているタイプでは、トラスツズマブ(ハーセプチン)を併用する分子標的薬治療が行われます。HER2陽性かどうかは、手術や生検で採取した組織を検査することで判定できます。
抗がん剤の副作用には吐き気、食欲不振、脱毛、倦怠感、白血球減少などがありますが、近年は制吐剤や支持療法の進歩により、副作用のコントロールが格段に向上しました。副作用が出た場合でも、担当医と相談しながら治療を継続する方法を探ることが大切です。
胃がんに使用される抗がん剤の種類と副作用への対処法の解説を読む
胃がんの抗がん剤治療で使われる薬と副作用対策
ピロリ菌と遺伝、2つのリスク因子から胃がんを防ぐ
胃がんの発症リスクを高める因子のなかで、とりわけ影響が大きいのがヘリコバクター・ピロリ菌(ピロリ菌)への感染と、遺伝的な素因です。ピロリ菌は胃粘膜に慢性的な炎症を引き起こし、萎縮性胃炎や腸上皮化生といった前がん状態を経て、胃がん発症のリスクを数倍に高めます。
ピロリ菌検査と除菌が胃がん予防の第一歩
日本では、ピロリ菌感染者に対する除菌治療が健康保険で認められています。除菌には、プロトンポンプ阻害薬と2種類の抗菌薬を1週間服用する三剤併用療法が一般的に用いられます。
除菌に成功すると、胃がんの発症リスクは約3分の1に低下するとされています。ただし、除菌後もリスクがゼロになるわけではないため、除菌後も定期的な内視鏡検査を続けることが大切です。
| 検査方法 | 特徴 |
|---|---|
| 尿素呼気試験 | 検査薬を服用して呼気を採取する。精度が高く痛みがない |
| 血液検査(抗体法) | 採血だけで済むが、除菌後も陽性が続く場合がある |
| 便中抗原検査 | 便を提出するだけの簡便な方法で、精度も高い |
ピロリ菌と胃がんの関係、除菌による予防効果と検査を受けるべき人の特徴をチェック
ピロリ菌の除菌と胃がん予防のための検査ガイド
家族に胃がん患者がいるなら早めの遺伝リスク対策を
胃がんの多くは環境因子(ピロリ菌感染、食生活、喫煙など)によって発症しますが、一部には遺伝的な要因が関与するタイプがあります。代表的なものが「遺伝性びまん性胃がん(HDGC)」で、CDH1遺伝子の変異が原因とされています。
血縁者に若年で胃がんを発症した方がいる場合や、家系内に複数の胃がん患者がいる場合は、遺伝カウンセリングを受けることを検討してみてください。遺伝子検査でリスクが判明すれば、早い段階から重点的な検診スケジュールを組むことが可能です。
家族歴がある方に向けた遺伝リスクと検診頻度の情報を詳しく見る
胃がんの遺伝リスクと家族歴がある場合の検診対策
胃がん術後のダンピング症候群を防ぐ食事と栄養管理
胃の切除手術を受けた後に多くの患者さんが経験するのが、ダンピング症候群です。胃の容量が小さくなったり、胃の出口(幽門)を切除したりすることで、食べ物が急速に小腸へ流れ込み、冷や汗やめまい、動悸、下痢などの症状を引き起こします。
1回の食事量を減らして回数を増やすのが基本
ダンピング症候群の予防には、食事回数を1日5〜6回に分け、1回あたりの量を少なくすることが有効です。よく噛んでゆっくり食べる習慣も胃腸への負担を軽減します。
甘いものや炭水化物を一度に大量に摂取すると、血糖値の急激な変動を招きやすいため注意が必要です。食事中の水分摂取は控えめにし、食後30分ほど安静にするのも効果的な対策でしょう。
- 食事は1日5〜6回に分けて少量ずつ摂る
- よく噛んでゆっくり食べることを意識する
- 甘いものや高糖質の食品を一度にたくさん食べない
- 食事中の水分は控えめにし、食間に飲む
- 食後30分程度は横にならず上体を起こして安静にする
術後の栄養管理では、たんぱく質やビタミン・ミネラルの摂取を意識しながら、体重の回復を目指していきます。退院後も管理栄養士の指導を受けながら、自分に合った食事のペースを見つけていくことが回復への近道です。
術後のダンピング症候群を防ぐ具体的な食べ方と栄養管理について
胃がん術後の食事ガイドとダンピング症候群の対策
よくある質問
胃がんの初期症状は自覚できますか?
胃がんの初期段階では、自覚できる特有の症状はほとんどありません。みぞおちの鈍い痛み、胸焼け、食欲の低下、少量の食事での満腹感など、日常的な胃の不調と区別がつきにくい症状が多いです。
そのため「いつもの胃もたれ」と思い込んで放置してしまう方が大半です。2週間以上続く胃の不調や、体重減少を伴う食欲不振がある場合は、念のため消化器内科で内視鏡検査を受けることをおすすめします。
胃がん検診はいつから受けるべきですか?
日本では、50歳以上の方を対象に2年に1回の胃がん検診(胃カメラまたはバリウム検査)が推奨されています。ただし、ピロリ菌に感染している方や家族に胃がん患者がいる方は、50歳未満であっても早めに検査を始めることが望ましいです。
かかりつけ医と相談のうえ、自分のリスクレベルに合った検診間隔を決めてください。リスクが高い方であれば、毎年の内視鏡検査を受けるケースもあります。
胃がんの手術を受けた後、仕事に復帰できるまでどのくらいかかりますか?
手術の方法や切除範囲、患者さんの体力によって個人差がありますが、内視鏡治療(ESD)であれば退院後1〜2週間で日常生活に戻れる方が多いです。腹腔鏡手術や開腹手術の場合は、退院後さらに2〜4週間程度の自宅療養を経て、デスクワークから徐々に復帰するパターンが一般的です。
体力を使う仕事の場合は、主治医と相談しながら段階的に負荷を上げていくことが大切です。焦らず体調に合わせて復帰スケジュールを組んでください。
胃がんにピロリ菌の除菌は効果がありますか?
ピロリ菌の除菌は、胃がんの発症リスクを約30〜50%低減させるとする研究結果が複数報告されています。とくに、萎縮性胃炎や腸上皮化生といった前がん病変がまだ進行していない段階で除菌を行うほど、予防効果が高いとされています。
一方で、除菌に成功しても胃がんのリスクが完全にゼロになるわけではありません。除菌後も1〜2年に1回の内視鏡検査を続けて、胃粘膜の変化を経過観察することが推奨されています。
胃がんは遺伝で発症することがありますか?
胃がんの大部分はピロリ菌感染や生活習慣などの環境因子によるものですが、全体の1〜3%程度は遺伝的な要因が大きく関与しています。代表的なのがCDH1遺伝子の変異によって起こる「遺伝性びまん性胃がん(HDGC)」で、親から子へ50%の確率で受け継がれます。
血縁者のなかに若くして胃がんを発症した方がいる場合や、家系内に胃がん患者が複数いる場合は、遺伝カウンセリングの受診を検討してください。遺伝子検査でリスクが明らかになれば、内視鏡検査の頻度を増やすなど、早い段階から予防的な対策を講じることが可能です。
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この記事を書いた人Wrote this article
前田 祐助医学博士 / 医師
慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。
【保有資格・所属】
医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医