
肺がんと診断された方やご家族にとって、どのような治療を受けるかは大きな関心事でしょう。近年、抗がん剤だけでなく免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせる「併用療法」が広がり、治療成績は着実に向上しています。
この記事では、非小細胞肺がん・小細胞肺がんそれぞれの併用療法について、ステージや検査結果による治療の選び方、副作用への備えまでを丁寧に解説します。
主治医との治療相談に臨む前の予備知識として、ぜひ最後までお読みください。
肺がんの併用療法とは?複数の治療を組み合わせて生存率を高める治療戦略
肺がんにおける併用療法とは、抗がん剤・免疫チェックポイント阻害薬・放射線治療など異なる治療法を組み合わせることで、単独治療よりも高い効果を目指す方法です。がん細胞を多方面から攻撃することで、治療抵抗性が生じにくくなるメリットがあります。
「併用療法」は単独治療の弱点を補い合う
がん治療では、1つの薬剤だけでは効果が限定的になる場合があります。たとえば抗がん剤はがん細胞の増殖を直接抑えますが、免疫を活性化する力は持っていません。
一方、免疫チェックポイント阻害薬は免疫の力を回復させる薬ですが、すべての患者さんに十分な効果を発揮するわけではありません。両者を組み合わせることで、互いの弱点を補い合い、がんに対してより強い攻撃を仕掛けることができます。
非小細胞肺がんと小細胞肺がんで併用の組み合わせが異なる
肺がんは大きく「非小細胞肺がん」と「小細胞肺がん」に分類され、それぞれ有効な薬剤や併用パターンが異なります。非小細胞肺がんでは、遺伝子変異やPD-L1発現率に応じた個別化治療が進んでいます。
小細胞肺がんでは進行が速いため、プラチナ製剤を中心とした化学療法に免疫チェックポイント阻害薬を加える治療が標準となっています。肺がんの種類を正確に診断することが、適切な併用療法を選ぶ出発点です。
肺がんの種類と主な併用療法の組み合わせ
| 肺がんの種類 | 主な併用パターン | 対象ステージ |
|---|---|---|
| 非小細胞肺がん | プラチナ製剤+免疫チェックポイント阻害薬 | Ⅲ期〜Ⅳ期 |
| 非小細胞肺がん | 抗がん剤+PD-1阻害薬+CTLA-4阻害薬 | Ⅳ期 |
| 小細胞肺がん(進展型) | プラチナ製剤+エトポシド+PD-L1阻害薬 | Ⅳ期 |
| 小細胞肺がん(限局型) | 化学放射線療法+維持免疫療法 | Ⅰ〜Ⅲ期 |
抗がん剤・免疫療法・放射線を組み合わせる3つの柱
肺がんの併用療法を支えるのは、化学療法(抗がん剤)、がん免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)、そして放射線治療の3つです。化学療法はがん細胞のDNAに直接ダメージを与え、免疫療法は体の免疫力を回復させます。
放射線治療は局所のがんに高いエネルギーを照射して縮小させる方法で、化学療法と同時に行う「化学放射線療法」も広く実施されています。これら3つの柱を患者さんの状態に合わせて組み合わせることが、治療効果の向上につながります。
主治医と一緒に治療方針を決めることが大切
併用療法にはさまざまなパターンがあり、どれを選ぶかは患者さんの全身状態、がんの種類・ステージ、遺伝子変異の有無、PD-L1発現率などを総合的に判断して決定します。治療の選択は主治医とよく相談し、ご自身が納得したうえで進めることが何より大切です。
ステージ別に変わる肺がんの併用療法|手術前後からⅣ期まで徹底解説
非小細胞肺がんの併用療法は、ステージによって目的も内容も大きく異なります。手術前にがんを縮小させる術前補助療法から、Ⅳ期の薬物療法まで、段階に応じた治療選択を解説します。
手術前の併用療法(術前補助療法)でがんを縮小させる
Ⅱ期〜ⅢB期の非小細胞肺がんでは、手術の前にプラチナ製剤を中心とした抗がん剤治療を行う場合があります。これを「術前補助療法(ネオアジュバント療法)」と呼びます。
近年はさらにPD-1/PD-L1阻害薬を加えた併用が実施されるようになりました。手術前にがんを縮小させることで、手術の成功率を高め、術後の再発リスクを下げることが期待できます。
術後の再発予防に抗がん剤と免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせる
手術でがんを切除した後も、目に見えないがん細胞が体内に残っている可能性があります。そのため、再発予防を目的とした術後補助療法が行われるケースがあります。
従来はプラチナ製剤を用いた化学療法が中心でしたが、PD-1/PD-L1阻害薬を組み合わせた術後治療や、免疫チェックポイント阻害薬の単独投与も選択肢に加わっています。術後の治療方針は、病理検査の結果やPD-L1発現率をもとに決定されます。
手術できないⅢ期には化学放射線療法と維持療法を組み合わせる
がんが限られた範囲にとどまっているものの手術が難しいⅢ期の患者さんに対しては、抗がん剤と放射線を同時に行う「化学放射線療法」が標準治療です。プラチナ製剤と他の抗がん剤を決められたスケジュールで点滴し、並行して放射線を照射します。
化学放射線療法後にがんが進行していない場合は、PD-L1阻害薬を用いた維持療法を1年間続けることが推奨されています。この維持療法によって、生存期間の延長が複数の臨床試験で確認されています。
Ⅳ期の薬物療法は免疫チェックポイント阻害薬を含む併用が中心
進行・再発のⅣ期では手術や放射線による根治が難しいため、薬物療法が治療の柱になります。ドライバー遺伝子変異(EGFR変異やALK転座など)が見つかった場合は、対応する分子標的薬による治療を優先的に検討します。
ドライバー遺伝子変異が陰性の場合は、PD-L1発現率に応じてプラチナ製剤と免疫チェックポイント阻害薬の併用、あるいはPD-1阻害薬とCTLA-4阻害薬の組み合わせなど、複数の選択肢から治療法を決定します。
非小細胞肺がんのステージ別併用療法
| ステージ | 併用療法の内容 | 治療の目的 |
|---|---|---|
| Ⅱ〜ⅢB期(手術可能) | プラチナ製剤+PD-1/PD-L1阻害薬(術前・術後) | がん縮小・再発予防 |
| Ⅲ期(手術不能) | 化学放射線療法→PD-L1阻害薬維持療法 | 根治・長期生存 |
| Ⅳ期(遺伝子変異陰性) | プラチナ製剤+免疫チェックポイント阻害薬 | 生存期間延長 |
| Ⅳ期(遺伝子変異陽性) | 分子標的薬中心(必要に応じ併用) | がん制御 |
免疫チェックポイント阻害薬と抗がん剤の併用で治療成績が大きく変わった
複数の大規模臨床試験により、プラチナ製剤と免疫チェックポイント阻害薬を併用することで、化学療法単独と比べて全生存期間が有意に延長することが証明されています。この併用レジメンが現在の標準治療の1つとして確立しました。
プラチナ製剤とPD-1/PD-L1阻害薬の併用が標準治療になった経緯
2015年以降、日本でも免疫チェックポイント阻害薬が使えるようになり、肺がん治療は大きく変わりました。当初は免疫チェックポイント阻害薬の単剤投与が中心でしたが、その後の臨床試験でプラチナ製剤との併用がさらに効果的であることが示されました。
たとえばKEYNOTE-024試験では、PD-L1高発現の非小細胞肺がんに対してペムブロリズマブ(キイトルーダ)が化学療法を上回る成績を示し、さらにプラチナ製剤との併用試験でもPD-L1の発現率を問わず生存期間の延長が確認されました。
免疫チェックポイント阻害薬はがん細胞の「免疫逃避」を防ぐ薬
私たちの体にはもともと、がん細胞を異物として認識し攻撃する免疫の仕組みが備わっています。しかし、がん細胞の中には表面にPD-L1というタンパク質を出して、免疫細胞(T細胞)にブレーキをかけるものがいます。
PD-1阻害薬やPD-L1阻害薬は、このブレーキを解除してT細胞の攻撃力を取り戻す薬です。また、CTLA-4阻害薬はT細胞の別の抑制経路に働きかけ、免疫の活性化をさらに促します。免疫チェックポイント阻害薬は、従来の抗がん剤とはまったく異なる作用で、がんと闘う力を引き出してくれます。
肺がん治療に用いられる主な免疫チェックポイント阻害薬
| 薬剤の種類 | 一般名(商品名) | 作用する標的 |
|---|---|---|
| PD-1阻害薬 | ペムブロリズマブ(キイトルーダ) | T細胞のPD-1 |
| PD-1阻害薬 | ニボルマブ(オプジーボ) | T細胞のPD-1 |
| PD-L1阻害薬 | アテゾリズマブ(テセントリク) | がん細胞のPD-L1 |
| PD-L1阻害薬 | デュルバルマブ(イミフィンジ) | がん細胞のPD-L1 |
| CTLA-4阻害薬 | イピリムマブ(ヤーボイ) | T細胞のCTLA-4 |
抗がん剤との併用で免疫チェックポイント阻害薬の効果がさらに高まる
抗がん剤ががん細胞を破壊すると、がん細胞の内部にあった抗原(がん細胞の目印となるタンパク質)が放出され、免疫細胞がそれを認識しやすくなると考えられています。その状態で免疫チェックポイント阻害薬を投与すると、免疫細胞ががん細胞をより効率的に攻撃できるようになります。
つまり、抗がん剤が「がんの目印」をさらけ出し、免疫チェックポイント阻害薬が「免疫のブレーキ」を外すという連携によって、相乗的な抗腫瘍効果が期待できるのです。
PD-L1発現率が併用療法の治療選択を左右する
非小細胞肺がんの治療では、がん細胞のPD-L1発現率を調べることが治療方針の決定に直結します。PD-L1の値によって、免疫チェックポイント阻害薬を単剤で使うか、抗がん剤と併用するかが変わってきます。
PD-L1検査とは?がん細胞の免疫回避能力を数値で評価する
PD-L1検査は、がん組織の標本を用いて、がん細胞表面にPD-L1タンパク質がどの程度発現しているかを調べる検査です。結果はTPS(Tumor Proportion Score)という数値で表され、がん細胞全体のうちPD-L1を発現している細胞の割合を示します。
この検査は生検(組織の一部を採取する検査)で得られた検体を用いて行われ、治療開始前に実施するのが一般的です。PD-L1発現率が高いほど、免疫チェックポイント阻害薬が効きやすい傾向にあります。
PD-L1が50%以上なら免疫チェックポイント阻害薬の単剤でも効果を期待できる
PD-L1 TPSが50%以上の強発現と判定された場合は、免疫チェックポイント阻害薬がよく効くグループに該当します。この場合、ペムブロリズマブやアテゾリズマブの単剤療法でも高い治療効果が報告されています。
もちろん、プラチナ製剤との併用療法を選択することも可能です。主治医は患者さんの全身状態や合併症、治療に対する希望なども踏まえて、単剤にするか併用にするかを提案してくれるでしょう。
PD-L1が1〜49%や陰性の場合は抗がん剤との併用が推奨される
PD-L1 TPSが1〜49%の場合、免疫チェックポイント阻害薬の単独投与では十分な効果が得られにくいとされています。そのため、プラチナ製剤と免疫チェックポイント阻害薬の併用が推奨されます。
PD-L1が1%未満(陰性)の場合も同様に、抗がん剤との併用が基本方針です。加えて、PD-1阻害薬とCTLA-4阻害薬を組み合わせ、さらにプラチナ製剤を併用するレジメンも選択肢の1つとなっています。
PD-L1発現率別の推奨併用療法
| PD-L1 TPS | 推奨される治療法 | 特徴 |
|---|---|---|
| 50%以上 | 免疫チェックポイント阻害薬単剤またはプラチナ併用 | 単剤でも高い効果が期待できる |
| 1〜49% | プラチナ製剤+免疫チェックポイント阻害薬 | 併用による生存期間の延長が確認済み |
| 1%未満(陰性) | プラチナ製剤+免疫チェックポイント阻害薬 | PD-1+CTLA-4の二重併用も選択肢 |
免疫チェックポイント阻害薬の併用で気をつけたい副作用(irAE)と対処法
免疫チェックポイント阻害薬を用いた併用療法では、従来の化学療法とは性質の異なる副作用が現れることがあります。免疫関連有害事象(irAE)と呼ばれるこの副作用は、免疫が過剰に活性化することで自分自身の臓器を攻撃してしまう現象です。早期発見と早期対処が回復への鍵となります。
irAE(免疫関連有害事象)は従来の抗がん剤とは異なる副作用が出る
抗がん剤の代表的な副作用といえば、吐き気、脱毛、骨髄抑制(白血球や血小板の減少)などが知られています。一方、irAEは免疫のブレーキが外れることで起こるため、皮膚、腸、肝臓、肺、甲状腺、下垂体など、さまざまな臓器に炎症が生じる可能性があります。
多くの場合、投与開始後2〜3か月以内に発症しますが、治療終了後数か月経ってから出現するケースも報告されています。
間質性肺炎や甲状腺機能障害など臓器ごとに症状が異なる
irAEの中でも特に注意が必要なのは、間質性肺炎(息切れ・空咳・呼吸困難)、甲状腺機能障害(倦怠感・体重変化)、大腸炎(下痢・腹痛)、肝障害(黄疸・食欲低下)などです。副腎不全や1型糖尿病といったホルモン系の障害が出ることもあります。
いずれも早期に発見して適切な対応を行えば、多くの場合はコントロールが可能です。重症化を防ぐためにも、少しでも気になる症状があれば速やかに主治医に相談してください。
主なirAEの種類と自覚症状
| 発症する臓器 | 主な自覚症状 | 頻度の傾向 |
|---|---|---|
| 皮膚 | 発疹、かゆみ、水疱 | 比較的多い |
| 消化管(大腸) | 下痢、腹痛、血便 | やや多い |
| 肝臓 | 黄疸、食欲低下、倦怠感 | 時にみられる |
| 肺 | 息切れ、空咳、呼吸困難 | 注意が必要 |
| 甲状腺 | 倦怠感、体重増減、動悸 | 比較的多い |
| 副腎・下垂体 | 強い倦怠感、低血圧、めまい | 頻度は低いが重篤化リスクあり |
副作用を早期に発見するために自覚症状を医療チームに伝えよう
irAEの早期発見には、患者さん自身が体調の変化に気づき、医療チームに伝えることが何より大切です。「いつもと違う」と感じた症状は、たとえ些細に思えても遠慮なく報告してください。
医療チーム側でも、定期的な血液検査や画像検査を行い、irAEの兆候をモニタリングしています。併用療法では副作用のパターンが複雑になることもあるため、治療を開始する前に起こりうる症状について説明を受けておくと安心です。
小細胞肺がんにも広がる免疫チェックポイント阻害薬の併用療法
小細胞肺がんは進行が速い反面、抗がん剤への感受性が高いという特徴があります。長年、化学療法のみが治療の柱でしたが、免疫チェックポイント阻害薬の併用が加わったことで治療の選択肢が増えています。
進展型小細胞肺がんでは抗がん剤と免疫チェックポイント阻害薬の併用が標準
ステージⅣに相当する進展型小細胞肺がんの一次治療は、プラチナ製剤(シスプラチンまたはカルボプラチン)とエトポシドの化学療法に、PD-L1阻害薬であるアテゾリズマブ(テセントリク)またはデュルバルマブ(イミフィンジ)を加える併用療法が標準となっています。
化学療法を4サイクル行った後は、免疫チェックポイント阻害薬のみを継続投与する維持療法に移行します。20年以上にわたり化学療法だけだった小細胞肺がんの治療に、新たな武器が加わった形です。
限局型小細胞肺がんでも化学放射線療法後の維持療法が加わった
限局型小細胞肺がんの治療は、プラチナ製剤とエトポシドによる化学療法と放射線治療を同時に行う化学放射線療法が中心です。2025年からは、この化学放射線療法で効果が得られた患者さんに対して、再発予防のための維持療法として免疫チェックポイント阻害薬を投与する治療が選択できるようになりました。
限局型は小細胞肺がん全体の約20%と少数ですが、維持療法の追加により根治の可能性が高まることが臨床試験で示されています。
小細胞肺がんの併用療法で治療の選択肢は確実に広がっている
小細胞肺がんは予後が厳しいがん種として知られてきましたが、免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせた併用療法の登場によって状況は変わりつつあります。進展型に加え限局型にも免疫療法が使えるようになったことで、患者さんの治療の幅が広がりました。
さらに近年では、新しい抗体薬(BiTE抗体など)と免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせる研究も進んでおり、今後の治療成績のさらなる向上が期待されています。
- 進展型:プラチナ製剤+エトポシド+PD-L1阻害薬が一次治療の標準
- 限局型:化学放射線療法後の免疫チェックポイント阻害薬維持療法が追加
- 維持療法:化学療法終了後に免疫チェックポイント阻害薬の単独投与を継続
- 新規治療の研究:BiTE抗体など新しい薬剤との併用開発が進行中
主治医に併用療法について相談する前に知っておきたい基礎知識
治療方針の決定は主治医に任せきりにせず、患者さん自身も基本的な知識を持ったうえで相談に臨むことが望ましいでしょう。がんの個別検査の結果や全身状態が、治療法の選択に深く関わっています。
遺伝子検査やPD-L1検査の結果をもとに治療方針が決まる
- EGFR、ALK、ROS1、BRAF、MET、RET、NTRK、KRAS G12C、HER2の遺伝子異常
- PD-L1 TPS(腫瘍細胞におけるPD-L1発現率)
- 組織型(腺がん、扁平上皮がんなど)
非小細胞肺がんの治療では、まずドライバー遺伝子変異の有無を調べます。遺伝子変異が見つかれば、対応する分子標的薬を用いた治療が第一選択です。
遺伝子変異が陰性の場合は、PD-L1検査の結果と組織型をもとに、免疫チェックポイント阻害薬を含む併用療法を検討します。これらの検査結果は治療方針を左右する極めて重要な情報ですので、主治医から結果の説明を受ける際にはしっかりと内容を確認してください。
全身状態(PS)が治療の選択に大きく影響する
PS(パフォーマンスステータス)とは、患者さんの日常生活における活動能力を0〜4の5段階で評価する指標です。PS 0は「まったく問題なく活動できる」、PS 4は「完全に床に伏している」状態を指します。
併用療法は複数の薬剤を使うため体への負担が大きくなる場合があり、一般的にPS 0〜1の患者さんが対象となります。全身状態が良好であれば治療の選択肢が広がるため、日頃から体力の維持に努めることも治療を支える要素となるでしょう。
治療中の体調変化は些細なことでも主治医に報告する
併用療法は効果が高い反面、副作用のパターンも複雑になりがちです。化学療法による骨髄抑制や消化器症状に加え、免疫チェックポイント阻害薬によるirAEも起こりえます。
「この程度は大丈夫だろう」と自己判断するのは危険です。体調に少しでも異変を感じたら、早めに主治医や看護師、薬剤師に相談してください。日々の体調を日記やメモに記録しておくと、診察時に正確に伝えやすくなります。
よくある質問
肺がんの併用療法ではどのような薬剤を組み合わせるのが一般的ですか?
肺がんの併用療法で多く用いられる組み合わせは、プラチナ製剤(シスプラチンやカルボプラチン)を軸とした化学療法に、PD-1阻害薬またはPD-L1阻害薬といった免疫チェックポイント阻害薬を加えるパターンです。
非小細胞肺がんの場合は、ペムブロリズマブ(キイトルーダ)やアテゾリズマブ(テセントリク)がよく使われます。さらにPD-1阻害薬とCTLA-4阻害薬を組み合わせるレジメンも選択肢の1つです。
小細胞肺がんでは、プラチナ製剤とエトポシドにPD-L1阻害薬を加える併用が標準治療となっています。いずれも患者さんのがんの種類やステージ、全身状態をもとに主治医が判断します。
肺がんの免疫チェックポイント阻害薬を使った併用療法に年齢制限はありますか?
免疫チェックポイント阻害薬の使用に明確な年齢制限は設けられていません。ただし、治療の適否を判断するうえで重視されるのは年齢よりも全身状態(PS)や臓器機能です。
高齢の患者さんでも、PSが良好で主要な臓器機能に問題がなければ、併用療法の対象になりえます。一方で、併用による副作用リスクは年齢とともに高まる傾向があるため、主治医と十分に相談したうえで治療方針を決めることが大切です。
肺がんの併用療法で使われる免疫チェックポイント阻害薬の投与期間はどのくらいですか?
投与期間は薬剤の種類や治療レジメンによって異なりますが、一般的には効果が持続している限り、あるいは許容できない副作用が出るまで継続する方針が多いです。
臨床試験では、2年間治療を継続した時点で病状が安定している場合に投与を中止しても、生存期間に大きな影響がなかったという報告もあります。維持療法として化学放射線療法後にPD-L1阻害薬を使う場合は、1〜2年間の投与が推奨されています。
投与終了の判断は主治医が定期検査の結果を踏まえて行いますので、自己判断で中断せず、治療スケジュールを守ることが重要です。
肺がんの併用療法中に副作用が出た場合、治療は中止になりますか?
副作用が出たからといって、ただちに治療がすべて中止になるわけではありません。副作用の種類や重症度に応じて、投与の一時休止、用量の調整、あるいは副作用を抑える薬の追加といった対応がとられます。
たとえばirAE(免疫関連有害事象)では、軽度であればステロイド薬の投与で改善するケースが多く、症状が治まれば治療を再開できる場合もあります。ただし、重篤なirAEが発生した場合は、該当する免疫チェックポイント阻害薬の投与を永続的に中止する判断がなされることもあります。
肺がんでドライバー遺伝子変異が見つかった場合でも免疫チェックポイント阻害薬の併用療法は受けられますか?
EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子など、ドライバー遺伝子変異が陽性の非小細胞肺がんでは、まず対応する分子標的薬による治療が優先されます。免疫チェックポイント阻害薬の併用は、ドライバー遺伝子変異陽性の患者さんに対しては十分な効果が得られにくいことが臨床試験で示されています。
ただし、分子標的薬で治療を行った後に病状が進行した場合は、二次治療以降で化学療法や免疫チェックポイント阻害薬を含む治療を検討するケースもあります。遺伝子検査の結果をもとに、主治医と治療の優先順位を話し合うことが大切です。
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この記事を書いた人 Wrote this article
前田 祐助 医学博士 / 医師
慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医