
がん治療に革命をもたらすと期待される「ウイルス療法」は、遺伝子改変したウイルスでがん細胞だけを破壊する新しいアプローチです。国内ではすでにG47Δ(デリタクト)が脳腫瘍の治療薬として承認され、世界でも複数の製剤が臨床試験を進めています。
従来の手術・放射線・抗がん剤に加わる「第5の治療法」として、免疫も同時に活性化できる点が大きな特長でしょう。この記事では、次世代ウイルス療法の仕組みや開発状況、研究の方向性までを患者目線でわかりやすく解説します。
がん治療の選択肢を広く知りたい方、新しい治療法に関心のある方にとって、判断材料となる情報をお届けします。
ウイルスでがんを退治する?次世代ウイルス療法はこうして生まれた
がんウイルス療法とは、遺伝子を改変したウイルスをがん細胞に感染させ、ウイルスの増殖によって直接がんを破壊する治療法です。正常な細胞には影響を与えず、がん細胞だけを標的にできる点が従来の治療とは大きく異なります。
病気の原因であるウイルスが治療の味方に変わった経緯
ウイルスといえば風邪やインフルエンザなど、病気を引き起こすものというイメージが強いかもしれません。しかし20世紀初頭には、ウイルス感染後にがんが縮小する症例が報告されていました。
1950年代から研究が始まりましたが、当時の技術ではウイルスの制御が困難だったため、実用化には至りませんでした。転機となったのは1990年代以降の遺伝子工学の発展です。
遺伝子組み換え技術によって、がん細胞の中だけで増殖し正常細胞では増えないウイルスを人工的に作り出せるようになりました。そこから本格的な臨床応用への道が開けたのです。
第一世代から第三世代へと進化した腫瘍溶解性ウイルス
腫瘍溶解性ウイルス(がん細胞を溶かして破壊するウイルス)は、世代を重ねるごとに安全性と治療効果が向上してきました。第一世代は自然界に存在するウイルスをそのまま使う方法で、正常細胞への影響が課題でした。
第二世代ではウイルスの遺伝子を1〜2か所改変し、がん細胞への選択性を高めています。第三世代になると3つ以上の遺伝子改変を施し、安全性と抗がん作用を飛躍的に高めることに成功しました。
| 世代 | 特徴 | 代表例 |
|---|---|---|
| 第一世代 | 野生型ウイルスを使用、正常細胞にも影響あり | 天然レオウイルスなど |
| 第二世代 | 遺伝子を1〜2か所改変、がん選択性を向上 | G207 |
| 第三世代 | 3つの遺伝子改変で高い安全性と治療効果 | G47Δ(デリタクト) |
手術・放射線・抗がん剤に続く「第5のがん治療」として注目される背景
がん治療はこれまで手術、放射線、薬物療法(抗がん剤)の3本柱に、免疫療法が加わって4つの柱で構成されてきました。ウイルス療法は、これらとは全く異なる作用で働く「第5の治療法」として位置づけられています。
特に注目すべきは、ウイルスが直接がんを破壊するだけでなく、体の免疫を活性化する「二段構え」の効果を持つ点です。抗がん剤が効きにくいがん幹細胞(がんの大元となる細胞)にも作用するとされ、再発防止への期待も高まっています。
腫瘍溶解性ウイルスはなぜがん細胞だけを狙い撃ちできるのか
がんウイルス療法で使われるウイルスは、正常な細胞では増殖できず、がん細胞の内部でのみ爆発的に増えて破壊する仕組みを持っています。この「選択性」が治療の安全性を支える土台です。
遺伝子改変で「がん細胞専用」に設計されたウイルスの仕組み
正常な細胞には、ウイルスの侵入を感知して増殖を止める防御システムが備わっています。がん細胞ではこの防御システムが壊れていることが多いため、ウイルスが効率よく増殖できるのです。
遺伝子改変によって、正常細胞の防御が働いている環境では増えられないよう設計されたウイルスは、がん細胞だけを狙って感染・増殖します。増えたウイルスが細胞膜を破って外に出る際、がん細胞は内側から壊されます。
ウイルスが免疫を呼び覚ます「抗腫瘍免疫」とは何か
ウイルス療法のもう一つの大きな強みは、免疫を活性化する作用です。ウイルスによって壊れたがん細胞の破片が、いわば「目印」となって免疫細胞に認識されます。
この現象を「抗腫瘍免疫の誘導」と呼びます。一度免疫ががんの目印を覚えると、ウイルスを投与した場所だけでなく、離れた場所に転移したがんにも免疫が攻撃を仕掛けることが期待されます。
これは「アブスコパル効果」とも呼ばれ、全身への治療効果につながる仕組みです。
がんの大元を断つ「がん幹細胞」への作用にも期待が高まる
がん幹細胞は、通常の抗がん剤や放射線に抵抗性を持ち、治療後の再発原因になるとされています。腫瘍溶解性ウイルスは、このがん幹細胞も効率よく破壊できることが基礎研究で示されてきました。
がんの根本に迫るアプローチとして、再発や転移を抑える新たな手段になりうるかもしれません。現在も複数の研究機関がこの方向での検証を続けています。
| 作用 | 内容 | 期待される効果 |
|---|---|---|
| 直接破壊 | がん細胞内でウイルスが増殖し細胞を内部から壊す | 腫瘍の縮小・消失 |
| 免疫誘導 | 破壊されたがん細胞の破片が免疫を活性化 | 転移がんへの攻撃 |
| 幹細胞攻撃 | 抗がん剤に強いがん幹細胞にも感染・増殖 | 再発の抑制 |
国内で承認されたG47Δ(デリタクト)が切り拓いたがんウイルス治療の道
日本は世界に先駆けて、脳腫瘍に対するウイルス療法薬G47Δ(一般名テセルパツレブ、製品名デリタクト)を2021年に承認しました。この成果は国内のウイルス療法開発を大きく前進させるものでした。
単純ヘルペスウイルスを三重改変した世界初の第三世代製剤
G47Δは、口唇ヘルペスの原因ウイルスである単純ヘルペスウイルス1型の遺伝子を3か所改変して作られました。東京大学医科学研究所の研究グループが開発した世界初の第三世代がん治療用ウイルスです。
3つの遺伝子改変により、がん細胞での増殖力を高めながら正常細胞での安全性を格段に向上させています。さらに免疫細胞ががん細胞を認識しやすくなる工夫も施されたことで、免疫療法としての側面も兼ね備えています。
悪性脳腫瘍(膠芽腫)に対する臨床試験で示された治療成績
G47Δの第II相臨床試験では、手術や放射線治療後に腫瘍が残存・再発した膠芽腫(こうがしゅ)の患者19名を対象として有効性と安全性が評価されました。主要評価項目である治療開始後の1年生存割合は84.2%に達しています。
生存期間の中央値は治療開始から20.2か月で、初回手術からでは28.8か月でした。膠芽腫は悪性度の高い脳腫瘍であり、この数値は従来治療と比較して注目に値する結果といえるでしょう。
| 評価項目 | 結果 |
|---|---|
| 1年生存割合 | 84.2%(19名中16名) |
| 全生存期間中央値(治療開始から) | 20.2か月 |
| 全生存期間中央値(初回手術から) | 28.8か月 |
| 主な副作用 | 一時的な発熱、リンパ球数の減少 |
脳腫瘍以外のがんへ適応を広げる取り組みも進んでいる
G47Δはすべての固形がんに対して同じ仕組みで作用することが基礎研究で確認されています。現在、前立腺がんや食道がん、悪性黒色腫(メラノーマ)など、脳腫瘍以外への適応拡大を目指した臨床試験が複数進行中です。
2025年1月には、G47Δに免疫刺激機能を追加した新型ウイルスT-hIL12の悪性黒色腫に対する治験で、奏効率77.8%という高い治療効果が中間解析で報告されました。機能を強化した次世代型の開発も着実に前進しています。
テロメライシンやT-VECなど世界で進む腫瘍溶解性ウイルス製剤の開発
ウイルス療法の研究開発は世界各国で活発に行われており、G47Δ以外にも複数の有望な製剤が臨床段階に進んでいます。使用するウイルスの種類や標的とするがんの種類もさまざまです。
世界で初めて承認されたT-VEC(メラノーマ治療薬)の成果
2015年、米国でT-VEC(タリモジーン・ラハーパレプベク、製品名イムリジック)が世界初のウイルス療法薬として承認されました。単純ヘルペスウイルス1型を改変した製剤で、悪性黒色腫(メラノーマ)の治療に使われています。
T-VECはがん細胞を破壊すると同時に、免疫刺激物質であるGM-CSFを産生するよう設計されています。局所だけでなく遠隔転移部位への免疫効果も確認され、ウイルス療法の実用性を世界に示した画期的な製剤です。
国産アデノウイルス製剤「テロメライシン」が食道がんで承認申請へ
岡山大学の研究グループが開発したテロメライシンは、風邪ウイルスの一種であるアデノウイルスを遺伝子改変した製剤です。がん細胞で活性化するテロメラーゼ(細胞の寿命に関わる酵素)をスイッチとして利用し、がん細胞内でのみ増殖します。
食道がんを対象に放射線治療との併用で治験が進められ、2025年12月に承認申請が予定されています。承認されれば2026年中の実用化も見込まれ、アデノウイルス型としては世界初の治療薬になるとされています。
ヘルペスウイルス以外にも広がる多様なウイルスの応用
現在、がん治療への応用が研究されているウイルスはヘルペスウイルスやアデノウイルスだけにとどまりません。レオウイルス、ワクシニアウイルス、ニューカッスル病ウイルスなども候補として検討されています。
ウイルスごとに得意とするがん種や投与経路が異なるため、将来的にはがんの種類や患者さんの状態に合わせてウイルスを使い分ける時代が来るかもしれません。
- ヘルペスウイルス型(G47Δ、T-VEC、T-hIL12など)は固形がん全般に幅広く研究が進行
- アデノウイルス型(テロメライシンなど)は食道がんや進行固形がんで臨床試験中
- レオウイルス型(ペラレオレプなど)は膵臓がんや乳がんで併用療法の研究が進む
- ワクシニアウイルス型は肝臓がんを中心に海外で臨床試験が実施されている
免疫チェックポイント阻害薬との併用でがんウイルス療法の効果はどう変わるのか
ウイルス療法単独でも免疫を活性化する作用がありますが、免疫チェックポイント阻害薬と組み合わせることで、さらに強力な抗がん効果を引き出せる可能性が研究されています。
がん細胞が免疫から逃げる仕組みとチェックポイント阻害薬の働き
がん細胞は、免疫細胞の攻撃にブレーキをかける「免疫チェックポイント」という仕組みを悪用して、免疫から逃れることがあります。オプジーボ(ニボルマブ)などのチェックポイント阻害薬は、このブレーキを解除して免疫の攻撃力を回復させる薬です。
ただし、もともと免疫ががんを認識できていない場合(「冷たい腫瘍」と呼ばれる状態)、ブレーキを外しても効果が限られることがあります。そこで期待されるのが、ウイルス療法との組み合わせです。
ウイルスが「冷たい腫瘍」を「熱い腫瘍」に変える
腫瘍溶解性ウイルスは、がん細胞を壊す過程で大量の腫瘍抗原(がんの目印)と炎症性シグナルを放出します。免疫細胞がこれらを認識することで、それまで免疫に気づかれていなかった「冷たい腫瘍」が、免疫が集まる「熱い腫瘍」へと変化するのです。
この状態でチェックポイント阻害薬を併用すると、活性化した免疫のブレーキが外れ、がんへの攻撃力が一気に高まると考えられています。ウイルスとチェックポイント阻害薬は、互いの弱点を補い合う関係といえるでしょう。
| 治療法 | 得意なこと | 苦手なこと |
|---|---|---|
| ウイルス療法 | がんを免疫に見つけてもらう(抗原の提示) | 免疫のブレーキを解除する力は限定的 |
| チェックポイント阻害薬 | 免疫のブレーキを解除する | 免疫がそもそもがんを認識していない場合は効きにくい |
| 併用療法 | 認識と攻撃の両面を同時に強化できる | 副作用管理や投与タイミングの研究が必要 |
T-hIL12とオプジーボの併用試験で奏効率77.8%の速報値
信州大学と東京大学の研究グループが進めている医師主導治験では、G47Δに免疫刺激因子IL-12を追加したT-hIL12をオプジーボ(ニボルマブ)と併用しています。
悪性黒色腫の未治療患者9名を対象とした中間解析で、奏効率(がんが縮小または消失した割合)が77.8%に達しました。
オプジーボ単独での奏効率は34.8%と報告されているため、併用による上乗せ効果は顕著です。副作用は一時的な発熱やリンパ球数の減少が中心で、安全性の面でも良好な結果が示されています。
がんウイルス療法を受けるとき気になる副作用と安全性の実態
ウイルスを体に入れると聞いて不安を感じるのは当然のことです。しかし臨床試験のデータからは、適切に管理された条件下での安全性が繰り返し確認されています。
発熱やリンパ球減少など報告されている主な副作用
がんウイルス療法でもっとも多く報告されている副作用は一時的な発熱です。ウイルスが体内で免疫反応を引き起こすことが原因で、多くの場合は数日以内に治まります。
そのほか、リンパ球数の一時的な減少、吐き気、頭痛などが報告されていますが、いずれも重篤化するケースはまれです。抗がん剤に見られるような強い吐き気や脱毛、末梢神経障害といった副作用とは性質が異なります。
遺伝子改変ウイルスが正常細胞を傷つけないよう設計されている理由
治療に使われるウイルスは、複数の遺伝子を改変して正常細胞では増殖できないようにしてあります。たとえばG47Δの場合、3つの遺伝子変異によりがん細胞のみで増殖が許される設計になっています。
正常細胞にはウイルスの増殖を阻止する防御が正常に機能しているため、治療用ウイルスが入り込んでも速やかに排除されます。動物実験でも、投与部位以外へのウイルス拡散は認められていないと報告されています。
従来の抗がん剤と比べた場合の身体への負担
抗がん剤は、増殖の早い細胞を広く攻撃するため、髪の毛の細胞や消化管の細胞なども影響を受けやすく、脱毛や強い吐き気の原因となります。一方、ウイルス療法はがん細胞を選んで攻撃するため、こうした全身的な副作用が起こりにくい特徴があります。
また、手術のように体を切開する必要もなく、腫瘍への直接注射で投与できる点も身体的な負担を抑える要因です。既存の治療法との併用も検討されており、患者さんの体力を温存しながら治療効果を高められる手段として注目されています。
- 発熱は免疫反応の一種であり、通常は一時的で管理しやすい
- 脱毛や強い消化器症状といった抗がん剤特有の副作用は報告されていない
- 局所投与が基本のため、全身への影響が抑えられる設計になっている
- 手術・放射線・薬物療法いずれとの併用も検討が進んでいる
第三世代から機能付加型へ|次世代ウイルス療法の研究が向かう先
第三世代ウイルスの承認によって基盤が築かれた日本のウイルス療法は、さらに治療効果を高めた「機能付加型」へと進化しつつあります。遺伝子工学の進歩が、新たな治療の扉を開こうとしています。
免疫刺激因子を搭載した機能付加型ウイルスの開発が加速
G47Δの基本構造に、IL-12やGM-CSFなどの免疫刺激因子を産生する遺伝子を追加した新型ウイルスの開発が進んでいます。前述のT-hIL12はその代表格であり、ウイルスによる直接的ながん破壊に加え、より強力な免疫活性化を実現しています。
機能付加型が承認されれば、世界初の機能強化型第三世代がん治療用ウイルス薬の誕生になるとされています。日本のウイルス療法開発技術が世界を牽引しているといえるでしょう。
| 分類 | 特徴 | 開発状況 |
|---|---|---|
| 第三世代(G47Δ) | 三重遺伝子改変で安全性と治療効果を向上 | 脳腫瘍で承認済み |
| 機能付加型(T-hIL12) | G47Δに免疫刺激因子IL-12を搭載 | 悪性黒色腫で治験進行中 |
| 武装型(今後の方向性) | 抗体や酵素など多様な機能を追加 | 前臨床研究段階 |
CRISPR技術やナノ粒子を活用した新しいウイルス送達の研究
従来のウイルス療法は腫瘍への直接注射が基本でしたが、体の深部にあるがんや転移したがんへの投与が難しいという課題がありました。
近年、ナノ粒子でウイルスを包んで血流に乗せる技術や、幹細胞にウイルスを載せて脳の血管関門を突破する手法が研究されています。
またCRISPR/Cas9(遺伝子編集技術)を使って、より精密にウイルスの機能を設計する取り組みも始まっています。将来的には、患者さんのがんの特徴に合わせてウイルスをカスタマイズする「個別化ウイルス療法」も視野に入ってくるかもしれません。
あらゆる固形がんへの応用を目指す適応拡大の動き
G47Δは基礎研究で、がんの種類に関係なくすべての固形がんに作用することが示されています。脳腫瘍での承認をきっかけに、前立腺がん、食道がん、膵臓がん、乳がん、大腸がんなど多くのがん種への適応拡大研究が国内外で進行中です。
複数の製剤が異なるがん種で同時に開発を進めている現状は、ウイルス療法という分野そのものの成熟を物語っています。がん治療の選択肢がさらに広がる未来は、そう遠くないでしょう。
よくある質問
次世代ウイルス療法で使われるウイルスは体に害を及ぼさないのか?
がんウイルス療法で使われるウイルスは、遺伝子を複数か所改変して正常な細胞では増殖できないよう設計されています。たとえばG47Δは3つの遺伝子改変により、がん細胞の中でのみ増える仕組みです。
正常細胞にはウイルスの増殖を食い止める防御が正しく機能しているため、治療用ウイルスが侵入しても速やかに排除されます。臨床試験でも重篤な副作用の報告はまれで、主な症状は一時的な発熱やリンパ球数の減少にとどまっています。
次世代ウイルス療法はどのような種類のがんに効果が期待されているのか?
腫瘍溶解性ウイルスは、基礎研究においてほぼすべての固形がんに作用することが示されています。現在、臨床試験が行われている主ながん種は脳腫瘍(膠芽腫)、悪性黒色腫、前立腺がん、食道がんなどです。
今後は膵臓がんや乳がん、大腸がんなどへの適応拡大も見込まれています。血液がんなどの非固形がんについてはまだ研究段階であり、現時点では固形がんが主な対象となっています。
次世代ウイルス療法と免疫チェックポイント阻害薬を併用するとどのような効果があるのか?
ウイルス療法は、がん細胞を壊して免疫に「がんの目印」を見せる作用があります。一方、免疫チェックポイント阻害薬は免疫にかかったブレーキを外す薬です。両者を組み合わせることで、免疫の認識力と攻撃力を同時に高められると考えられています。
実際に、T-hIL12とオプジーボを併用した治験では、悪性黒色腫に対する奏効率が77.8%と報告されました。単独療法よりも高い効果が確認されており、併用療法は今後の研究で重要なテーマとなっています。
次世代ウイルス療法の「機能付加型」とは従来の製剤と何が違うのか?
従来の第三世代ウイルス(G47Δ)は、遺伝子改変によってがん細胞だけで増殖する安全性と、がんを直接破壊する効果を持っていました。機能付加型は、この基本構造にIL-12などの免疫刺激因子を産生する遺伝子をさらに組み込んだ製剤です。
ウイルスが増殖しながら免疫刺激物質を腫瘍の中で持続的に放出するため、より強力かつ持続的な抗がん免疫を誘導できると期待されています。T-hIL12がその代表例として治験が進められています。
次世代ウイルス療法は日本国内でどこまで実用化が進んでいるのか?
2021年にG47Δ(デリタクト)が悪性神経膠腫(脳腫瘍の一種)を対象に条件付きで承認され、同年11月より販売が開始されています。脳腫瘍に対するウイルス療法薬としては世界初の承認例です。
さらに、食道がんを対象としたテロメライシンが承認申請の段階に進んでおり、悪性黒色腫に対するT-hIL12の治験も高い効果を示しています。複数のウイルス製剤が実用化に向けて着実に歩みを進めている状況です。
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この記事を書いた人 Wrote this article
前田 祐助 医学博士 / 医師
慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医