
がん治療に使われる腫瘍溶解性ウイルスには、アデノウイルスや単純ヘルペスウイルスをはじめ、レオウイルス、ワクシニアウイルス、麻疹ウイルスなど多くの種類があります。それぞれのウイルスは、がん細胞への感染のしかたや得意とするがんの種類が異なるため、特徴を知っておくことが大切です。
この記事では、代表的な腫瘍溶解性ウイルスを1つずつ取り上げ、どのような仕組みでがん細胞を破壊するのか、臨床試験や承認の状況はどうなっているのかを、わかりやすく整理しました。がん治療の選択肢として関心をお持ちの方に向けて、正確な情報を丁寧にお届けします。
腫瘍溶解性ウイルスとは?がん細胞だけを破壊する治療法の全体像
腫瘍溶解性ウイルスとは、がん細胞に感染して増殖し、がん細胞を内側から破壊するウイルスの総称です。正常な細胞にはほとんど害を与えず、がん細胞だけを狙い撃ちできる性質を持っています。
がん細胞の中だけでウイルスが増える仕組み
健康な細胞はウイルスに感染すると、インターフェロンと呼ばれる防御物質を出してウイルスの増殖を食い止めます。一方、多くのがん細胞ではこの防御機能が壊れており、ウイルスが入り込むと細胞内で自由に増殖できるのです。
増殖したウイルスはやがて細胞を破裂させ、新たなウイルス粒子が周囲のがん細胞へ次々と感染していきます。こうした連鎖反応によって、腫瘍を縮小させることが期待されています。
免疫を味方につけるダブルの攻撃力
腫瘍溶解性ウイルスの魅力は、がん細胞を直接破壊するだけにとどまりません。破壊されたがん細胞の中身が体内に放出されると、免疫細胞がそれを「敵」として認識し、全身の抗腫瘍免疫が活性化されます。
つまり、ウイルスが届かなかった離れた場所のがん細胞まで免疫が攻撃してくれる可能性があるということです。この二段構えの仕組みが、従来の治療法との併用効果を高めるとして注目を集めています。
腫瘍溶解性ウイルスに使われる代表的なウイルスの分類
| 分類 | 代表的なウイルス | 核酸の種類 |
|---|---|---|
| DNAウイルス | アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス | 二本鎖DNA |
| RNAウイルス(プラス鎖) | コクサッキーウイルス、ポリオウイルス、セネカバレーウイルス | 一本鎖RNA |
| RNAウイルス(マイナス鎖) | 麻疹ウイルス、ニューカッスル病ウイルス、水疱性口内炎ウイルス | 一本鎖RNA |
| RNAウイルス(二本鎖) | レオウイルス | 二本鎖RNA |
100年以上前から研究されてきた歴史がある
ウイルスでがんを治すという発想は、20世紀初頭にまでさかのぼります。ウイルス感染後に腫瘍が縮小する現象が偶然発見され、研究者たちの関心を引きました。
1960年代にはポリオウイルスやアデノウイルスを使った実験が始まりましたが、当時は遺伝子工学の技術がなく、安全性の面で多くの課題を抱えていました。遺伝子改変技術が発展した1990年代以降、腫瘍溶解性ウイルスの研究は飛躍的に進歩し、臨床試験を経て承認に至る製剤も登場しています。
アデノウイルス型の腫瘍溶解性ウイルスは世界初の承認を勝ち取った
アデノウイルスを基盤とした腫瘍溶解性ウイルスは、2005年に中国で頭頸部がんの治療薬として世界で初めて承認されました。風邪の原因ウイルスとして知られるアデノウイルスは、ゲノム構造が比較的単純で遺伝子改変がしやすいため、研究が盛んに行われてきた代表的な存在です。
Onyx-015とH101が切り開いた道
1990年代後半、E1B-55K遺伝子を欠失させたアデノウイルスOnyx-015が注目されました。この改変によって、p53遺伝子(がん抑制遺伝子)が正常に働いている細胞ではウイルスが増殖しにくくなり、p53が機能を失ったがん細胞で選択的に増える設計になっています。
Onyx-015は臨床試験で一定の成果を示しましたが、単剤での効果が限定的だったこともあり、欧米での承認には至りませんでした。一方、中国ではほぼ同じ設計のH101(商品名Oncorine)が化学療法との併用で承認され、腫瘍溶解性ウイルス療法の扉を開いたのです。
アデノウイルス型のがん選択性はどう実現されているのか?
アデノウイルスを腫瘍溶解性ウイルスとして使うには、正常細胞での増殖を抑え、がん細胞でだけ増えるよう遺伝子を改変する必要があります。代表的な手法は2つです。
1つ目は、正常細胞でのウイルス増殖に必要な遺伝子を削除する方法で、前述のE1B欠失がこれに当たります。2つ目は、がん細胞で活発に働くプロモーター(遺伝子のスイッチ)をウイルスに組み込むことで、がん細胞の中でだけウイルス遺伝子が発現するように制御する方法です。
現在も続くアデノウイルス型の臨床開発
H101の承認後も、アデノウイルス型の腫瘍溶解性ウイルスは改良を重ねています。免疫を活性化するGM-CSF遺伝子を搭載したタイプや、腫瘍内の血管新生を抑える遺伝子を組み込んだタイプなど、さまざまなアプローチが臨床試験段階にあります。
ただし、アデノウイルスに対する中和抗体を多くの人がすでに持っているため、全身投与では効果が減弱しやすいという課題も残っています。腫瘍への直接注入が主な投与法となっているのは、そうした理由からです。
| 製剤名 | 特徴 | 承認・開発状況 |
|---|---|---|
| H101(Oncorine) | E1B-55K欠失、p53異常がん細胞で選択的に増殖 | 2005年中国で承認 |
| Onyx-015 | H101とほぼ同じ設計 | 臨床試験実施後に開発中止 |
| CG0070 | GM-CSF搭載、膀胱がん対象 | 臨床試験進行中 |
単純ヘルペスウイルス(HSV)型はがん治療で確かな実績を積み上げてきた
単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)をベースにした腫瘍溶解性ウイルスは、臨床試験の実績が豊富であり、実際に複数の国で承認を取得しています。ヒトの細胞への感染効率が高く、遺伝子改変も比較的容易なことから、もっとも研究が進んだ腫瘍溶解性ウイルスの1つといえるでしょう。
T-VEC(タリモジン ラヘルパレプベク)が悪性黒色腫で承認された
T-VECは、HSV-1にGM-CSF遺伝子を搭載し、がん細胞内でのみ増殖するよう遺伝子改変を施した製剤です。2015年にアメリカFDAと欧州で承認され、皮膚やリンパ節の悪性黒色腫(メラノーマ)に対する治療薬として使われています。
臨床試験では、T-VEC投与群の完全奏効率が16.9%に達し、完全奏効した患者の5年生存率は88.5%という成績が報告されました。進行期メラノーマでは5年生存率が50%を下回ることが多いため、この結果は大きなインパクトを与えたのです。
日本発のデリタクト(G47Δ)は脳腫瘍で世界初の承認を得た
デリタクト(一般名テセルパツレブ)は、東京大学の研究チームが開発した第三世代のHSV-1改変型ウイルスです。3つのウイルス遺伝子に改変を加えることで、がん細胞でのみ増殖し、かつ抗腫瘍免疫を強力に刺激する設計になっています。
2021年6月に日本で悪性神経膠腫(グリオーマ)を対象に条件付き承認を取得しました。脳腫瘍に対する腫瘍溶解性ウイルス製剤の承認は世界初の快挙であり、第一三共が製造・販売を担っています。
HSV型腫瘍溶解性ウイルスの代表的な製剤比較
| 製剤名 | 対象がん | 承認状況 |
|---|---|---|
| T-VEC(IMLYGIC) | 悪性黒色腫 | 2015年 米国・欧州で承認 |
| デリタクト(G47Δ) | 悪性神経膠腫 | 2021年 日本で条件付き承認 |
| HSV1716 | 膠芽腫、悪性黒色腫など | 臨床試験段階 |
| HF10 | 乳がん、膵がんなど | 臨床試験段階 |
HSV型が多くの研究者に選ばれる理由
HSV-1は約152kbという大きなゲノムを持ち、複数の外来遺伝子を組み込む余裕があります。GM-CSFのような免疫刺激因子だけでなく、放射性ヨウ素を集積させるための遺伝子など、さまざまな「武器」を搭載できる柔軟性が魅力です。
加えて、HSV-1はヒトの細胞に効率よく感染できるため、体内での治療効果が発揮されやすいという利点もあります。正常細胞への影響は口唇ヘルペス程度にとどまるケースが多く、安全性の面でも研究が進んでいるウイルスです。
レオウイルスとワクシニアウイルスは異なる戦略でがんに挑んでいる
腫瘍溶解性ウイルスには、遺伝子改変を加えなくても天然の状態でがん細胞を好んで攻撃するタイプがあります。レオウイルスはその代表格であり、ワクシニアウイルスは天痘ワクチンとして長い使用歴を持つ安全性の高いウイルスです。
レオウイルスはRas経路が活性化したがん細胞を狙い撃つ
レオウイルスは、呼吸器や消化管に感染する二本鎖RNAウイルスです。名前の由来は「Respiratory Enteric Orphan virus(呼吸器腸管性孤児ウイルス)」の頭文字にあります。ヒトに感染してもほとんど症状を引き起こしません。
このウイルスは、がん細胞に多く見られるRasシグナル経路の異常を利用して選択的に増殖します。Rasが活性化された細胞では抗ウイルス防御が弱まっているため、遺伝子改変なしでもがん細胞を優先的に攻撃できるのです。
ワクシニアウイルスは大きなゲノムで多彩な改変ができる
ワクシニアウイルスは天然痘の撲滅に貢献したワクチン株として200年以上の使用歴があり、ヒトでの安全性データが豊富に蓄積されています。約190kbという大きなゲノムを持つため、複数の治療遺伝子を搭載しやすい点が大きな強みです。
代表的な開発候補であるJX-594(Pexa-Vec)は、チミジンキナーゼ遺伝子を不活化してがん細胞選択性を高め、さらにGM-CSF遺伝子を組み込んで免疫活性化を狙った設計です。肝細胞がんなどを対象に臨床試験が進められています。
静脈投与への期待と課題
レオウイルスもワクシニアウイルスも、腫瘍への直接注入だけでなく静脈投与での研究が進んでいます。全身投与が実現すれば、転移したがんへのアプローチも視野に入ります。
しかし血中での中和抗体による排除が大きなハードルです。レオウイルスでは、免疫細胞にウイルスを運ばせる「キャリア細胞」戦略の研究が進んでおり、ワクシニアウイルスでも静脈投与型の開発が複数の企業で行われています。
| ウイルス | がん選択性の仕組み | 主な対象がん |
|---|---|---|
| レオウイルス(Reolysin) | Ras経路活性化がん細胞で選択的に増殖 | 頭頸部がん、膵がん、悪性黒色腫 |
| ワクシニアウイルス(JX-594) | TK遺伝子不活化+GM-CSF搭載 | 肝細胞がん、大腸がん |
| ワクシニアウイルス(ASP9801) | IL-7/IL-12搭載で免疫活性化を強化 | 固形がん(臨床試験段階) |
麻疹ウイルスとコクサッキーウイルスも臨床試験で有望な成果が出ている
RNAウイルスの中でも、麻疹ウイルスとコクサッキーウイルスはそれぞれ独自の感染経路を活かして腫瘍溶解性ウイルスとしての実力を発揮しています。ワクチン株や自然のウイルスをベースにしている点が特徴的です。
麻疹ウイルスのワクチン株はがん細胞表面のCD46を標的にする
腫瘍溶解性ウイルスに使われる麻疹ウイルスは、ワクチン接種に使われるEdmonston株をベースにしています。このウイルスは、多くのがん細胞の表面で過剰に発現しているCD46というたんぱく質を足がかりにして細胞内へ侵入します。
正常細胞にもCD46はありますが、がん細胞のほうが発現量がはるかに多いため、ウイルスはがん細胞に優先的に感染するのです。卵巣がん、多発性骨髄腫、膠芽腫などを対象にした臨床試験で安全性と有効性の評価が続いています。
コクサッキーウイルスA21型は「風邪のウイルス」からがん治療薬へ転身した
- コクサッキーウイルスA21型(CVA21)は、いわゆる風邪の原因ウイルスの1つ
- がん細胞表面のICAM-1受容体に結合して細胞内へ侵入する
- 遺伝子改変なしの天然ウイルスとして臨床試験に進んだ数少ない例
- CAVATAK(カヴァタック)の名称で悪性黒色腫を対象にFDAが希少疾病用医薬品指定
CVA21は遺伝子改変を施さない天然型の腫瘍溶解性ウイルスです。がん細胞が正常細胞より多くICAM-1を発現している性質を利用し、がん細胞に選択的に感染して破壊します。悪性黒色腫のほか、膀胱がんや肺がんでも臨床試験が行われています。
麻疹ウイルスに治療遺伝子を搭載する試み
麻疹ウイルスは遺伝子改変が比較的容易で、放射性ヨウ素を取り込むためのNIS遺伝子や、免疫チェックポイント阻害抗体の遺伝子を搭載する研究も進んでいます。こうした「武装化」によって、ウイルス本来の腫瘍溶解作用に加えて、放射線治療や免疫療法の効果を上乗せすることが狙いです。
一方、麻疹ワクチンの接種歴がある人では中和抗体が存在するため、ウイルスが血中で排除されてしまうリスクがあります。キャリア細胞を使ってウイルスを腫瘍まで運ぶ研究や、近縁のイヌジステンパーウイルスの外殻を借りて免疫をかいくぐる手法も試みられています。
ニューカッスル病ウイルスやポリオウイルスにも、がん治療の道が開かれている
腫瘍溶解性ウイルス療法に利用されるウイルスは、前述の主要なものだけではありません。ニューカッスル病ウイルス、ポリオウイルス、パルボウイルス、水疱性口内炎ウイルス(VSV)など、多様なウイルスが研究対象となっています。
ニューカッスル病ウイルスは鳥のウイルスなのにヒトのがんを攻撃する
ニューカッスル病ウイルス(NDV)は本来、ニワトリなどの家禽に感染するパラミクソウイルスです。ヒトに対しては軽い結膜炎を起こす程度で、重篤な症状を引き起こすことはほとんどありません。
NDVはインターフェロン応答が低下したがん細胞で選択的に増殖でき、遺伝子改変なしでも腫瘍溶解活性を示します。免疫活性化作用も強く、ドイツを中心に長年にわたる臨床経験の蓄積があるウイルスです。
ポリオウイルスは脳腫瘍への応用が期待されている
ポリオウイルスは神経系への親和性が高いウイルスですが、その性質を逆手にとり、脳腫瘍(膠芽腫)の治療に応用する研究が進んでいます。
PVSRIPOと呼ばれる改変型では、ポリオウイルスの内部リボソーム進入部位をライノウイルスのものに置き換えることで、正常な神経細胞では増殖せず、がん細胞でのみ増殖する安全設計が施されています。
デューク大学で実施された臨床試験では、再発膠芽腫の患者において長期生存が見られたケースが報告されており、難治性の脳腫瘍に対する新たな希望として注目を集めています。
水疱性口内炎ウイルス(VSV)やパルボウイルスも研究が進んでいる
VSVはインターフェロン応答が正常な細胞では速やかに排除されますが、この応答が破綻したがん細胞では効率よく増殖します。ベーリンガーインゲルハイムがVSVベースの腫瘍溶解性ウイルスの開発を進めており、臨床試験が行われています。
パルボウイルスH-1PVは非常に小さなDNAウイルスで、ヒトにはほとんど病原性がありません。膠芽腫を対象にした臨床試験で安全性が確認されており、がん細胞に対する選択的な増殖能が報告されています。
- NDV(ニューカッスル病ウイルス)は家禽由来で、ヒトへの病原性が低い
- PVSRIPO(改変ポリオウイルス)は膠芽腫での長期生存例が報告されている
- VSV(水疱性口内炎ウイルス)はインターフェロン欠損がん細胞で増殖する
- パルボウイルスH-1PVは小型で安全性が高い
腫瘍溶解性ウイルスの種類を比べるとき、患者が押さえておきたい判断基準
腫瘍溶解性ウイルスには多くの種類がありますが、どのウイルスがどの患者に適しているかは、がんの種類や病期、投与方法などによって大きく異なります。主治医と相談する際に知っておきたい比較のポイントを整理しました。
がんの種類と腫瘍溶解性ウイルスの相性は一律ではない
腫瘍溶解性ウイルスの種類別の主な対象がん
| ウイルスの種類 | 主な対象がん | 投与経路 |
|---|---|---|
| アデノウイルス(H101) | 頭頸部がん | 腫瘍内注入 |
| HSV-1(T-VEC) | 悪性黒色腫 | 腫瘍内注入 |
| HSV-1(デリタクト) | 悪性神経膠腫 | 腫瘍内注入 |
| レオウイルス | 頭頸部がん、膵がん | 静脈投与・腫瘍内注入 |
| ワクシニアウイルス | 肝細胞がん | 腫瘍内注入・静脈投与 |
| 麻疹ウイルス | 卵巣がん、多発性骨髄腫 | 腹腔内・静脈投与 |
| コクサッキーウイルス | 悪性黒色腫、膀胱がん | 腫瘍内注入・膀胱内注入 |
投与方法の違いが治療の実際に影響する
腫瘍溶解性ウイルスの投与方法は大きく分けて、腫瘍内への直接注入と静脈からの全身投与があります。腫瘍内注入は高い局所濃度を確保できる一方、注射針が届かない深部のがんには適用が難しいことがあります。
静脈投与は全身の転移巣にもウイルスを届けられる可能性がありますが、血中の中和抗体によってウイルスが排除されやすいという難点があります。どちらの投与法が適しているかは、がんの部位や広がり方によって異なるため、担当医との相談が大切です。
他の治療法と組み合わせることで効果が高まる場合がある
腫瘍溶解性ウイルスは、免疫チェックポイント阻害薬や化学療法との併用で相乗効果が期待されています。T-VECと免疫チェックポイント阻害薬を併用した臨床試験では、それぞれの単独使用よりも高い奏効率が報告されました。
ウイルスががん細胞を破壊することで免疫細胞ががんを認識しやすくなり、そこに免疫チェックポイント阻害薬が加わることで免疫の攻撃力がさらに増強される仕組みです。今後は併用療法を前提とした開発がますます活発になるでしょう。
よくある質問
腫瘍溶解性ウイルスは全部で何種類くらい研究されている?
腫瘍溶解性ウイルスとして研究されているウイルスは、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、レオウイルス、ワクシニアウイルス、麻疹ウイルス、コクサッキーウイルス、ニューカッスル病ウイルス、ポリオウイルス、水疱性口内炎ウイルス、パルボウイルスなど10種類以上にのぼります。
それぞれのウイルスから複数の改変型が開発されているため、個別の製剤レベルで数えるとさらに多くなります。DNAウイルスとRNAウイルスの両方が含まれており、各ウイルスの特性を活かした多様なアプローチが試みられています。
腫瘍溶解性ウイルスで承認されている製剤にはどんなものがある?
規制当局の承認を受けた腫瘍溶解性ウイルス製剤は、2005年に中国で承認されたアデノウイルス型のH101(Oncorine)、2015年に米国とEUで承認されたHSV-1型のT-VEC(IMLYGIC)、2021年に日本で条件付き承認されたHSV-1型のデリタクト(G47Δ)が代表的です。
いずれも特定のがん種を対象としており、対象外のがんに使えるわけではありません。現在も多くの腫瘍溶解性ウイルスが臨床試験段階にあり、今後さらに承認される製剤が増えることが見込まれています。
腫瘍溶解性ウイルスの副作用として多いのはどのような症状?
腫瘍溶解性ウイルスの副作用として報告が多いのは、投与部位の痛みや発赤、発熱、倦怠感、悪寒といったウイルス感染に伴う全身症状です。多くの場合は軽度から中等度にとどまり、数日以内に回復する傾向があります。
ただし、使用するウイルスの種類や投与量、患者の免疫状態によって副作用の出方は異なります。重篤な副作用の頻度は低いと報告されていますが、治療を受ける際には担当医から十分な説明を受けたうえで判断することが大切です。
腫瘍溶解性ウイルスの治療は正常な細胞にも感染してしまわない?
腫瘍溶解性ウイルスは、がん細胞で選択的に増殖するよう遺伝子改変が施されているか、もともとがん細胞を好む性質を持つウイルスが選ばれています。正常な細胞はウイルスの侵入を防ぐ免疫応答が機能しているため、ウイルスが増殖しにくい環境です。
完全にゼロリスクというわけではなく、ヘルペスウイルス型では口唇ヘルペス程度の症状が出ることもあります。しかし、従来の抗がん剤と比べると正常組織へのダメージは格段に少ないと考えられており、安全性については多くの臨床試験で確認が進んでいます。
腫瘍溶解性ウイルスと免疫チェックポイント阻害薬の併用で効果は上がる?
腫瘍溶解性ウイルスと免疫チェックポイント阻害薬の併用は、現在もっとも注目されている組み合わせの1つです。ウイルスががん細胞を破壊すると、がん抗原が放出されて免疫細胞ががんを認識しやすくなります。
そこに免疫チェックポイント阻害薬が加わると、がんが免疫から逃れるために使っている「ブレーキ」が解除されるため、相乗的な抗腫瘍効果が期待できます。T-VECとペムブロリズマブの併用試験では、いずれか単剤よりも高い奏効率が示されました。今後も併用療法を軸とした開発が加速していくと見られています。
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この記事を書いた人 Wrote this article
前田 祐助 医学博士 / 医師
慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医