リンチ症候群の予防手術(リスク低減手術)|子宮や卵巣の切除を検討する基準

リンチ症候群の予防手術(リスク低減手術)|子宮や卵巣の切除を検討する基準

リンチ症候群と診断された女性にとって、子宮や卵巣を予防的に切除する「リスク低減手術」は、将来の婦人科がんを防ぐための有力な選択肢です。とはいえ、臓器を摘出する決断は簡単ではありません。

この記事では、遺伝子変異の種類ごとに異なるがんリスクや、手術を検討すべき年齢・条件、術後の生活への影響までを整理しました。「自分にとって手術は必要なのか」「いつ決断すればいいのか」と悩んでいる方が、納得して次の一歩を踏み出せるようお手伝いします。

リンチ症候群と診断されたら子宮・卵巣がんのリスクはどれくらい高くなるのか

リンチ症候群の女性は、一般の女性と比べて子宮体がんや卵巣がんを発症するリスクが著しく高まります。どの遺伝子に変異があるかによってリスクは異なりますが、生涯リスクが40%を超えるケースも珍しくありません。

MLH1・MSH2変異をもつ女性の子宮体がんリスクは40〜60%に達する

リンチ症候群の原因となるDNAミスマッチ修復遺伝子(MMR遺伝子)のうち、MLH1またはMSH2に病的変異がある女性は、70歳までに子宮体がんを発症する累積リスクが40〜60%にのぼると報告されています。一般女性の生涯リスクが約2〜3%であることを考えると、その差は歴然でしょう。

リンチ症候群というと大腸がんのイメージが強いかもしれませんが、女性にとっては婦人科がんへの備えも同じくらい大切です。

卵巣がんの生涯リスクは遺伝子の種類で大きく異なる

卵巣がんの累積リスクは、MLH1変異で約20%、MSH2変異で約24%と報告されています。一般女性の卵巣がん生涯リスクが約1〜2%であることと比較すると、やはり高い数値といえるでしょう。

一方で、MSH6変異では卵巣がんリスクが約1%にとどまるとする研究もあり、すべてのリンチ症候群で一律にリスクが高いわけではありません。遺伝子検査の結果をもとに、自分がどの程度のリスクを抱えているかを具体的に把握することが、適切な予防策を選ぶ出発点になります。

リンチ症候群の遺伝子変異別がんリスク

遺伝子変異子宮体がんリスク(70歳まで)卵巣がんリスク(70歳まで)
MLH1約54%約20%
MSH2約21〜48%約24%
MSH6約16%約1%
PMS2低い(明確な上昇なし)低い(明確な上昇なし)

40歳を超えてからリスクが急激に上昇する

リンチ症候群であっても、子宮体がんや卵巣がんの累積リスクは40歳まではそれほど高くありません。子宮体がんの累積リスクは40歳時点で2%を超えず、卵巣がんは1%に達しないという研究データがあります。つまり、若い年齢でいきなり発症する確率は比較的低いといえます。

ただし40歳を過ぎると、特にMLH1やMSH2変異の方ではリスクが急カーブで上昇していきます。予防手術のタイミングを考えるうえで、40歳前後という年齢が一つの分水嶺になる理由はまさにこの点にあります。

MSH6・PMS2変異の場合はリスクが比較的低い傾向にある

MSH6変異では子宮体がんのリスクは約16%と、MLH1やMSH2変異に比べると低めです。卵巣がんに至っては約1%であり、一般的な女性のリスクと大きく変わりません。PMS2変異に至っては、婦人科がんリスクの明確な上昇は確認されていないとする報告もあります。

こうした遺伝子ごとの差があるため、「リンチ症候群だから全員すぐに手術を」という画一的な対応は適切ではありません。遺伝子検査の結果を主治医や遺伝カウンセラーとともに読み解き、一人ひとりに合った予防策を検討していくことが求められます。

リスク低減手術(予防的子宮全摘・両側卵管卵巣切除術)で癌はどこまで防げるのか

予防的に子宮と両側の卵管・卵巣を切除するリスク低減手術は、リンチ症候群の女性における子宮体がんと卵巣がんの発症を大幅に抑えることが複数の研究で確認されています。手術を受けた女性では子宮体がんの発症例がほぼゼロという結果も出ています。

予防的子宮全摘で子宮体がんの発症はほぼゼロになった

リンチ症候群のMMR遺伝子変異保持者を対象にした研究で、予防的子宮全摘術を受けた61名の女性のうち子宮体がんを発症した方はいませんでした。一方、手術を受けなかった対照群では33%の方が子宮体がんを発症しています。

この差は統計的にも有意であり、予防的子宮全摘術が子宮体がんの発症をきわめて効果的に防ぐ手段であることを示す強力なエビデンスとなっています。

両側卵管卵巣切除術は卵巣がんの予防にも有効と報告されている

同じ研究では、両側卵管卵巣切除術を受けた47名のうち卵巣がんを発症した方は一人もいませんでした。ただし、もともと卵巣がんの発症率が子宮体がんに比べて低いため、統計的有意差には至らなかったと報告されています。

とはいえ、卵巣がんは発見が遅れやすく、予後が厳しいがんの一つです。発症率が低くても予防的に卵巣を切除する意義は小さくないと考えられます。

手術を受けた群と受けていない群ではっきり差がついた

複数の研究を総合すると、手術を受けた群では婦人科がんの発症がほぼみられないのに対し、手術を受けなかった群では長期経過観察で一定の割合でがんが見つかっています。特にMLH1やMSH2変異をもつ女性で差が顕著でした。

定期検診だけでは防ぎきれないケースがあることを示しており、リスクの高い遺伝子変異を持つ方にとってリスク低減手術は検討に値する選択肢です。

術後に注意すべき点は閉経関連の症状管理

閉経前にリスク低減手術を受けると、卵巣を摘出したことで人工的な閉経状態に入ります。ホットフラッシュや発汗、骨密度の低下、腟の乾燥感といった更年期症状が急激に現れる場合があります。

こうした症状はホルモン補充療法(HRT)でかなりの程度コントロールできます。リンチ症候群の方にエストロゲン単独HRTを行っても子宮体がんリスクを高めないとする見解が示されており、術後のQOL維持のために活用を検討してよいでしょう。

  • ホットフラッシュや寝汗などの血管運動神経症状
  • 骨粗しょう症リスクの上昇
  • 性交痛や腟の乾燥感
  • 気分の変動や睡眠障害
  • 心血管疾患リスクへの長期的な影響

リンチ症候群の予防手術を受ける年齢とタイミングの目安

リスク低減手術を受ける時期は、早すぎても遅すぎてもリスクがあります。国際的なガイドラインでは35〜40歳以降、挙児希望を終えた時点が一つの目安とされており、40歳より前に手術を行っても予防効果に大きな上乗せがないことがデータで示されています。

国際ガイドラインは35〜40歳以降を推奨している

マンチェスター国際コンセンサスグループは、MLH1・MSH2・MSH6変異をもつ女性に対して、挙児の完了後かつ35〜40歳以降にリスク低減手術を提案するよう強く推奨しています。これは、40歳までは婦人科がんの累積リスクがそれほど高くないという疫学データに基づいた判断です。

一方で、手術のタイミングを遅らせすぎると40歳以降のリスク上昇期に入ってしまうため、出産計画との兼ね合いを考慮しながら適切な時期を見定めることが大切です。

出産の希望がある場合はどこまで手術を延期できるのか

リスク低減手術を受けると子宮と卵巣を失うため、自然妊娠は不可能になります。将来の出産を希望する場合、手術の時期は慎重に検討する必要があるでしょう。前述のとおり40歳まではリスクの絶対値が低いため、30代のうちに出産計画を完了し、その後にリスク低減手術を受けるという流れが現実的です。

ただし、家族歴で若年発症のがんが多い場合などは、より早い時期から婦人科医と遺伝カウンセラーに相談しておくことをおすすめします。

リスク低減手術のタイミングと予防効果

手術の実施年齢子宮体がん予防効果卵巣がん予防効果
25歳50歳までに15〜18%予防(MLH1/MSH2)50歳までに6〜11%予防
40歳50歳までに13〜16%予防(MLH1/MSH2)50歳までに4〜8%予防
差分25歳と40歳で大差なし25歳と40歳で大差なし

大腸手術と同時に予防手術を受けるという選択肢もある

リンチ症候群の方が大腸がんの手術を受ける場合、その際にリスク低減手術を同時に行うことも検討されます。一度の全身麻酔と入院で両方の手術を済ませられるため、身体的・経済的な負担を軽減できます。

同時手術には手術範囲が広がるリスクも伴いますので、担当の外科医や婦人科医とメリット・デメリットを十分に話し合ったうえで判断してください。

手術前に子宮内膜生検を受けておくべき理由

リスク低減手術を受ける前に、子宮内膜生検(子宮内膜の組織を採取して顕微鏡で確認する検査)を行うことが推奨されています。予防手術で摘出した標本を調べたところ、5〜6%の方で子宮体がんが偶発的に見つかったという報告があるためです。

術前に生検を行っておけば、がんが存在した場合に手術範囲や術後方針を適切に変更できます。

リンチ症候群の子宮・卵巣がんを早期発見するための検診と限界

リスク低減手術を受けない場合、あるいは手術を延期する間は、定期的な婦人科検診でがんの早期発見を目指すことになります。ただし、現時点の検診法には限界があり、見落としのリスクをゼロにすることは困難です。

経腟超音波検査だけでは見落としが多い

経腟超音波検査は子宮内膜の厚さを画像で観察する検査ですが、リンチ症候群の女性を対象にした研究では、子宮体がんの検出感度は約34%にとどまると報告されました。超音波だけでは3人に2人のがんを見逃してしまう計算であり、単独でのスクリーニングは推奨されていません。

子宮内膜生検のほうが検出率は高いが万全ではない

子宮内膜生検の検出感度は約57%であり、経腟超音波よりは高いものの、それでも半分近いがんを捉えきれていないことを意味します。内膜生検は外来で行える検査ですが、痛みを伴うことがあり、すべての方に継続的に受けてもらうハードルは決して低くありません。

そのため、子宮内膜生検と経腟超音波を組み合わせることで検出率を高める工夫がなされていますが、それでもリスク低減手術ほどの確実性は得られないのが現状です。

CA-125による卵巣がんスクリーニングにも限界がある

CA-125は卵巣がんの腫瘍マーカーとして広く用いられていますが、リンチ症候群の卵巣がんスクリーニングにおける感度は約55%にとどまるとされています。卵巣がんは早期の自覚症状が乏しいうえ、検診の精度も十分とはいえないため、見つかったときにはすでに進行しているケースが少なくありません。

卵巣がんの予後の厳しさを考慮すると、スクリーニングに過度な期待を寄せるよりも、リスクの高い方はリスク低減手術を選択肢に入れておくほうが安全といえます。

検診よりリスク低減手術のほうが信頼度は高い

系統的レビューの結論として、「リスク低減手術は、リンチ症候群の子宮体がん・卵巣がんリスクを減らすもっとも信頼性の高い手段である」と明記されています。検診はがんの早期発見を目指すものであり、発症そのものを防ぐわけではありません。

遺伝子変異の種類やリスクの高さ、年齢、家族計画などを総合的に考慮し、主治医と相談のうえで決断することが望ましいでしょう。

検診方法別の検出感度

検診方法対象がん検出感度
経腟超音波検査子宮体がん約34%
子宮内膜生検子宮体がん約57%
CA-125卵巣がん約55%
リスク低減手術子宮体がん・卵巣がんほぼ100%の予防

遺伝子変異の種類別に見たリスク低減手術の判断基準

リンチ症候群のリスク低減手術は、すべての変異保持者に同じように推奨されるわけではありません。変異している遺伝子の種類によってがんリスクが大きく異なるため、手術の必要性や時期も一人ひとり違ってきます。

MLH1・MSH2変異の方はリスク低減手術が強く推奨される

MLH1またはMSH2に病的変異をもつ女性は、子宮体がんと卵巣がん双方のリスクが高いため、挙児完了後のリスク低減手術がもっとも強く推奨されるグループです。国際的な調査でも、95%の施設がこれらの変異保持者にリスク低減手術を提案していると回答しています。

40歳を過ぎてからリスクが急上昇するため、30代後半から40歳前後が手術の検討時期として妥当と考えられます。

MSH6変異の方は手術の時期を慎重に検討する必要がある

MSH6変異保持者も91%の施設でリスク低減手術が提案されていますが、子宮体がんリスクは約16%、卵巣がんリスクは約1%と比較的低めです。手術の時期については主治医とよく話し合い、リスク・ベネフィットに納得したうえで決めることが大切です。

遺伝子変異別のリスク低減手術推奨状況

遺伝子変異手術提案率推奨される手術時期
MLH195%の施設35〜40歳以降、挙児完了後
MSH295%の施設35〜40歳以降、挙児完了後
MSH691%の施設個別のリスク評価で判断
PMS267%の施設原則として経過観察を優先

PMS2変異の方は予防手術の恩恵が限定的とされる

PMS2変異保持者に対しては、リスク低減手術を提案している施設は67%と、他の変異に比べて低い割合です。婦人科がんリスクが有意に上昇するというエビデンスが限られていることが背景にあります。

ただし、家族歴や生活背景によっては予防手術が有益な場合もあり、PMS2変異だから手術は不要と一概にはいえません。

遺伝カウンセリングを受けてから手術を決断しても遅くない

遺伝子検査でリンチ症候群と判明しても、すぐに手術を決める必要はありません。40歳までのがんリスクは相対的に低く、遺伝カウンセリングで自分のリスクを正確に把握する時間的余裕は十分にあります。

遺伝カウンセラーは検査結果を分かりやすく説明し、家族への影響や心理面も含めた支援を行ってくれます。焦らず十分な情報を得てから判断することが、後悔のない選択につながります。

予防手術以外のリンチ症候群の婦人科がん予防策

リスク低減手術はもっとも確実な予防法ですが、手術以外にも婦人科がんリスクを下げる可能性が示唆されている方法があります。ただし、いずれも手術と同等の効果を保証するものではなく、あくまで補助的な選択肢と位置づけられています。

経口避妊薬は子宮体がんリスクを下げる可能性がある

一般女性を対象にした研究では、経口避妊薬の使用が子宮体がんと卵巣がん双方のリスクを下げることが知られています。リンチ症候群でも同様の効果が期待されており、マンチェスター国際コンセンサスグループは手術を希望しない変異保持者に対して経口避妊薬の使用を考慮するよう推奨しています。

ただし、リンチ症候群に特化した大規模臨床試験は十分に行われておらず、予防効果の程度は今後の研究で明らかになる段階です。

プロゲスチン製剤が子宮内膜に与える防御効果

プロゲスチン(黄体ホルモン)製剤は子宮内膜の増殖を抑える作用があり、子宮体がんの予防に寄与する可能性が指摘されています。経口剤や注射剤、子宮内装置(IUD)など複数の投与形態があり、患者の希望に応じた選択が可能です。

臨床試験では、デポプロベラや経口避妊薬がリンチ症候群女性の子宮内膜増殖を抑制したと報告されていますが、がん発症を実際に減らすかどうかはさらなる検証が必要です。

アスピリンの長期服用が大腸がん予防に寄与したデータ

婦人科がんの予防法ではありませんが、リンチ症候群の大腸がん予防としてアスピリンの長期服用が注目されています。大規模なランダム化試験(CAPP2試験)で、2年以上の服用が大腸がんリスクの低下に関連したという結果が出ました。

婦人科がんへの予防効果はまだ明確ではありませんが、リンチ症候群全体の癌予防戦略の一環として主治医と相談のうえ検討されることがあります。

薬物療法だけで手術と同等の予防効果は得られない

経口避妊薬やプロゲスチン製剤は有望な予防候補ですが、リスク低減手術と同等のエビデンスには達していません。手術を受けた方では婦人科がん発症がほぼゼロになる一方、薬物療法はリスクをある程度下げる可能性があるにとどまります。

これらの薬剤は「手術までのつなぎ」や「手術を希望しない方への代替手段」として位置づけられています。

  • 経口避妊薬(子宮体がん・卵巣がんリスクを下げる可能性)
  • プロゲスチン製剤(子宮内膜の増殖を抑制する作用が期待される)
  • アスピリン(大腸がん予防目的、婦人科がんへの効果は研究途上)
  • 定期的な婦人科検診(経腟超音波+子宮内膜生検の併用)

リンチ症候群のリスク低減手術を受ける前に確認したい準備と心構え

リスク低減手術を決断したあとも、術前の準備や術後の生活設計など、事前に知っておくと安心な情報がいくつかあります。手術の方法や副作用への対処、家族への情報共有など、実際に手術を受ける前に押さえておきたいポイントをまとめました。

手術の術式と身体への影響を事前に知っておく

リスク低減手術は一般的に「子宮全摘術+両側卵管卵巣切除術(TH-BSO)」として行われます。近年は腹腔鏡を用いた低侵襲手術が普及しており、開腹手術に比べて出血量や入院期間が少なく済む場合が多くなっています。

手術には全身麻酔のリスクや術後の感染症の可能性などが伴い、子宮と卵巣を失うことによるホルモン環境の変化も避けられません。術前に婦人科腫瘍の専門医から十分な説明を受け、不安な点は遠慮なく質問しておきましょう。

手術前に確認しておくべき項目

確認項目内容
術式の選択腹腔鏡手術か開腹手術かを主治医と検討
術前検査子宮内膜生検で潜在的ながんの有無を確認
術後のHRT閉経前の手術ではHRTの計画を事前に立てる
回復期間の見通し仕事や家庭の役割分担について事前調整

ホルモン補充療法(HRT)で術後の更年期症状を和らげる

閉経前にリスク低減手術を受けた場合、51歳前後までエストロゲン単独のHRTを行うことが国際コンセンサスグループから推奨されています。経皮吸収型(貼り薬)の投与が望ましいとされ、更年期症状の緩和に加えて骨密度の維持にもつながります。

子宮をすでに摘出しているため、プロゲスチンを併用する必要はありません。エストロゲン単独HRTがリンチ症候群のがんリスクを高めるという根拠は現時点で示されておらず、安心して使用できると考えられています。

家族への遺伝情報の共有と二次検査のすすめ

リンチ症候群は常染色体優性遺伝(顕性遺伝)の疾患であり、血縁者が同じ変異を持つ確率は50%です。ご自身が診断された場合、兄弟姉妹やお子さんにも遺伝子検査の機会を知らせることが家族全体のがん予防につながります。

遺伝カウンセラーのサポートを受けながら進めることで、家族間の話し合いを円滑に保ちやすくなるでしょう。早期にリスクを把握できれば、家族それぞれに合った検診や予防策を開始できます。

よくある質問

リンチ症候群のリスク低減手術は何歳くらいで受けるのが望ましいですか?

国際的なガイドラインでは、MLH1・MSH2・MSH6変異をもつ女性に対して、挙児の完了後かつ35〜40歳以降にリスク低減手術を検討するよう推奨されています。40歳までは子宮体がんや卵巣がんの累積リスクがそれほど高くないため、25歳で手術を受けても40歳で受けても予防効果に大きな差はないと報告されています。

ただし、家族歴で若い年齢でのがん発症が目立つ場合は、より早期の検討が必要になるケースもあります。主治医や遺伝カウンセラーと十分に話し合い、個別の状況に合ったタイミングを見定めてください。

リンチ症候群でPMS2変異と診断された場合でも予防手術を受けたほうがよいですか?

PMS2変異では、婦人科がんのリスクが有意に上昇するというエビデンスが限られています。国際調査でもPMS2変異保持者にリスク低減手術を提案している施設は67%にとどまり、MLH1やMSH2変異に比べると積極的には推奨されていません。

とはいえ、家族歴やご自身の健康状態によっては手術を検討する価値がある場合もあります。遺伝カウンセリングで個別のリスクを評価し、手術の利益と負担を比較したうえで判断されることをおすすめします。

リンチ症候群のリスク低減手術後にホルモン補充療法を受けても安全ですか?

閉経前にリスク低減手術を受けた女性には、エストロゲン単独のホルモン補充療法(HRT)が推奨されています。子宮を摘出しているため、プロゲスチンの併用は必要ありません。マンチェスター国際コンセンサスグループでは、51歳前後までのエストロゲン補充を推奨しています。

現時点で、リンチ症候群の方にエストロゲン単独HRTを行った場合にがんリスクが高まるという報告はありません。更年期症状の緩和や骨密度維持のためにも、主治医と相談のうえ積極的に活用を検討してよいでしょう。

リンチ症候群の婦人科がん検診だけでは不十分なのですか?

現在推奨されている検診方法(経腟超音波や子宮内膜生検、CA-125)には、いずれも検出感度に限界があります。経腟超音波の感度は約34%、子宮内膜生検でも約57%であり、がんを見逃す可能性は否定できません。

系統的レビューでも「リスク低減手術がもっとも信頼性の高い予防手段」と結論づけられています。検診はがんの早期発見手段であり発症を防ぐものではないため、リスクの高い変異をお持ちの方にはリスク低減手術の検討が推奨されます。

リンチ症候群の予防手術は腹腔鏡で受けることができますか?

はい、リスク低減手術は腹腔鏡を用いた低侵襲手術で行われるケースが増えています。腹腔鏡手術は開腹手術に比べて術中の出血量が少なく、入院期間の短縮や術後の回復が早い傾向があります。

大腸がんの手術と同時に行うことも検討可能で、一度の手術で婦人科臓器と大腸の処置を終えられる場合もあります。術式の選択は患者さんの状態や施設の体制によりますので、婦人科腫瘍の専門医と相談のうえ決定してください。

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医