医療費控除でいくら戻る?がん治療費の還付金シミュレーションと計算方法

医療費控除でいくら戻る?がん治療費の還付金シミュレーションと計算方法

医療費控除で戻る金額は、1年間に支払った医療費そのものではなく、控除によって減る所得税と住民税です。大まかな合計は「医療費控除額×所得税の限界税率×1.021」と「医療費控除額×住民税率おおむね10%」を足して見積もれます。

がん治療では支払いが同じでも、保険などから補填された金額、総所得金額等、課税所得によって結果が変わります。治療費の重さには個人差があり、海外の研究でも保険設計やがん種によって自己負担が異なると報告されているため、自分の数字を年単位で置く作業が大切です。

還付の見込みが家計の不安をすべて解消するわけではありません。それでも、所得税として振り込まれる見込み額と翌年度の住民税が軽くなる見込み額を分ければ、治療が続く時期の資金計画を立てやすくなります。この二つは反映時期が異なるため、合計額だけで判断しないことがポイントです。

医療費控除で戻るのはどの金額?

最初に押さえたい結論は、医療費控除額と還付金は同額ではないという点です。控除額は税金を計算する所得から差し引く金額であり、その結果として納め過ぎになった所得税が確定申告後に戻ります。

30万円の控除でも30万円は振り込まれない

医療費控除額が30万円で所得税率が10%なら、所得税の減少分は単純計算で3万円です。復興特別所得税も連動するため、概算では3万円に1.021を掛けた3万630円が所得税側の目安になります。

同じ30万円の控除でも所得税率が5%なら約1万5,315円、20%なら約6万1,260円です。所得税率は年収に直接掛ける率ではなく、給与所得控除や所得控除を反映した後の課税所得に対応する率を使います。源泉徴収票では二つの欄を手掛かりに、後段の税率表と照合します。

見積もりは控除額と税額の2段階

計算は、医療費控除額を出してから税金の減少分へ換算する順番です。給与明細の手取りや病院の領収書だけを見ても、還付金の額までは決まりません。

計算する金額概算式結果の意味
医療費控除額支払った医療費-補填金-基準額課税所得から差し引く額
所得税の減少分控除額×限界税率×1.021確定申告後の還付の中心
住民税の減少分控除額×おおむね10%原則として翌年度に反映

概算式の1.021は、所得税額に対して2.1%課される復興特別所得税を含めるための係数です。実際には税額控除、端数処理、課税所得が税率区分をまたぐ影響があるので、最終額は申告書の計算結果で確定します。

源泉徴収された所得税が還付の上限

給与から源泉徴収された所得税が少ない人は、概算式で出した金額の全額が振り込まれるとは限りません。所得税の還付は、その年に納めた所得税の範囲で生じるためです。源泉徴収票の源泉徴収税額も、見積額と一緒に確認します。

住宅ローン控除などで所得税がすでに大きく減っている場合も、医療費控除による振込額は小さくなりえます。一方、所得税の還付が少なくても、住民税側に控除の効果が残るケースがあります。

医療費控除額は10万円または所得の5%から計算します

支払った医療費から補填金を引き、さらに基準額を差し引いた残りが医療費控除額です。基準額は一律10万円ではなく、総所得金額等が200万円未満なら総所得金額等の5%になります。

総所得金額等200万円が分かれ目

総所得金額等が200万円以上なら基準額は10万円です。200万円未満なら5%を使うので、総所得金額等160万円なら8万円、100万円なら5万円を支払医療費から差し引きます。

この違いにより、医療費が10万円以下でも控除が生じる場合があります。計算結果が0円以下なら控除額は0円で、基準額を超えた部分だけが対象です。

総所得金額等基準額医療費50万円・補填なしの控除額
300万円10万円40万円
160万円8万円42万円
100万円5万円45万円

総所得金額等は、会社員の額面年収や手取り額と同じではありません。給与だけなら源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」が確認の手掛かりになり、副業や年金など別の所得があれば合算が必要です。

補填金は基準額より先に差し引く

高額療養費の払い戻しや保険の給付金など、医療費を補う目的で受け取った金額は先に引きます。支払った医療費80万円、補填金50万円、基準額10万円なら、控除額は20万円です。

まだ補填額が確定していない段階では、見込額を置いて一度計算します。後から確定額が変わったときは税額も動くため、支給決定の通知と申告時の数字を照合できる状態にしておきましょう。

控除額には200万円の上限

医療費控除額の上限は200万円です。支払医療費から補填金と基準額を引いた結果が200万円を超えても、所得から差し引ける額は200万円までとなります。

上限は戻る税金が200万円という意味ではありません。仮に控除額が上限の200万円、所得税率が20%なら、所得税側の単純な目安は40万8,400円ですが、税率区分をまたぐと実額はこの計算より小さくなります。

所得税率が還付金の差を生む

同じ医療費控除額でも、適用される所得税の限界税率が高いほど所得税の減少分は大きくなります。限界税率とは、課税所得の最上部にかかっている税率で、所得全体に同じ率がかかるという意味ではありません。控除額が区分の境目を越える場合は、後述のように税率ごとに分けて考えます。

税率は課税所得の欄から選ぶ

所得税は5%から45%までの7段階に分かれています。概算では申告前の課税所得が入る区分を使えますが、控除後に下の区分へ移るなら区分ごとの計算が必要です。

課税所得所得税率控除額30万円の単純な所得税減少分
195万円未満5%1万5,315円
195万円以上330万円未満10%3万630円
330万円以上695万円未満20%6万1,260円
695万円以上900万円未満23%7万449円
900万円以上1,800万円未満33%10万1,079円
1,800万円以上4,000万円未満40%12万2,520円
4,000万円以上45%13万7,835円

表の金額は、控除前後で税率区分が変わらず、十分な所得税が納められている前提です。課税所得は源泉徴収票にそのまま印字されていないため、給与所得控除後の金額から所得控除の額の合計額を引くと、おおよその位置を確かめられます。

税率区分をまたぐと単純な掛け算ではずれる

課税所得340万円から医療費控除30万円を引くと、控除後は310万円です。控除前の最上部には20%、控除後の区分には10%が適用されるため、30万円すべてに20%を掛ける計算は過大になります。

所得税の速算式で比べると、控除前は25万2,500円、控除後は21万2,500円で、差は4万円です。復興特別所得税を含めた減少分は約4万840円となり、単純な6万1,260円とは約2万円の差が出ます。

年収だけでは正しい税率を選べない

年収が同じでも、扶養する家族、社会保険料、生命保険料などの所得控除によって課税所得は変わります。前年の年収だけで率を決めるより、その年の源泉徴収票や確定申告書を使う方が見積もりの誤差を抑えられます。

  • 給与所得者のみの人 源泉徴収票の給与所得控除後の金額と所得控除の額の合計額
  • 確定申告をした人 申告書第一表の所得金額、所得控除、課税される所得金額
  • 複数の所得がある人 給与以外の所得を合算した後の課税所得

治療中の休職や勤務時間の短縮で所得が下がった年は、前年より低い税率区分へ移る可能性があります。医療費が増えた年ほど所得も高いとは限りません。試算では、医療費と所得を必ず同じ年の数字で組み合わせます。

がん治療費が大きい年は3つの数字で試算

治療費が大きい年も、「支払医療費」「補填金」「課税所得」の3つを置けば概算できます。最初は1円単位まで合わせず、年間の領収額と支給見込額を万円単位でまとめると、家計計画に使える幅が見えてきます。

同じ年に支払った金額を集める

医療費控除は1月1日から12月31日までに実際に支払った分で計算します。入院が年をまたいでも、診療を受けた日ではなく支払日を基準に年を分けるため、クレジットカード払いでは決済が成立した年を確認します。

  • 支払医療費 対象年に実際に決済した金額の合計
  • 補填金 高額療養費や保険給付など医療費を補う金額
  • 総所得金額等 10万円と5%のどちらを引くか決める数字
  • 課税所得 所得税率と税額差を計算する数字

対象となる支出の範囲を確定する前でも、明らかに医療費として扱う領収額だけで下限の試算はできます。判断が保留の支出は別に集計し、含めた場合と外した場合の2通りを比べると資金計画が安定します。

3例で見る所得税と住民税の合計

次の試算は、十分な所得税を納めており、他の税額控除や税率区分の移動がない前提です。住民税は控除額の10%、所得税は限界税率に1.021を掛けた概算であり、振込額と翌年度の負担減を分けて示しています。

前提控除額税負担の減少見込み
医療費80万円・補填50万円・税率10%20万円所得税約2万420円+住民税約2万円
医療費150万円・補填30万円・税率20%110万円所得税約22万4,620円+住民税約11万円
医療費50万円・補填なし・総所得金額等160万円・税率5%42万円所得税約2万1,441円+住民税約4万2,000円

1例目の合計効果は約4万420円ですが、確定申告後に一度に約4万円が振り込まれる計算ではありません。振込の中心は所得税の約2万420円で、住民税の約2万円は原則として翌年度の納付額に分散して反映されます。

見積額には幅を持たせて家計へ置く

がん治療の費用負担を扱った系統的レビューでは、負担の感じ方や測定結果に幅があると報告されています。乳がんを対象とした国際的な統合研究でも、経済的な困難が重要な課題として示されました。金額を測れる形にして対応へつなげる必要があるという論説も、早い段階の試算を後押ししています。

還付見込みを治療月の支払いへ直接充てられるとは限らないため、家計簿には所得税の低めの概算だけを先に置く方法が安全です。補填金が未確定なら、受取額を多めに見た控除額と少なめに見た控除額を計算し、還付の範囲を把握しておきましょう。

費用の数字を見るのがつらいと感じるのは、治療中には無理もない反応です。1年分を一度に精密集計せず、領収書、補填金の通知、源泉徴収票の3群に分けるだけでも、見積もりの土台は作れます。

医療費控除は住民税にも翌年度から反映される

住民税への効果は、所得税の還付とは現れ方が異なります。確定申告の内容が自治体へ連携され、原則として翌年度の住民税を計算する所得から医療費控除額が差し引かれます。

住民税は控除額の約10%が目安

住民税の所得割は標準的には合計10%なので、医療費控除額30万円なら約3万円、100万円なら約10万円の負担減が目安です。均等割など定額部分が同じ額だけ戻るわけではなく、自治体から現金が一括で振り込まれる形とも限りません。

所得が低く所得割が少ない場合や、ほかの控除で住民税がすでに小さい場合は、控除額の10%に届かない可能性があります。正確な影響は翌年度の税額決定後に分かります。

給与天引きと自分で納める場合で見え方が違う

会社員の住民税が給与から天引きされている場合、通常は6月から翌年5月までの月額に反映されます。自分で納付する場合は、自治体から届く納税通知書の年税額や各期の金額が変わります。軽減額を確かめる書類も、納め方に応じて見分ける必要があります。

税の種類反映のされ方確認する書類
所得税確定申告後に還付口座へ振込申告書控え・還付金の通知
住民税・給与天引き原則6月以降の月額が減少特別徴収税額決定通知書
住民税・自分で納付翌年度の年税額や各期へ反映納税通知書

治療費を支払った直後の資金には間に合わないため、住民税の軽減分を当月の支払い原資として見込むのは避けます。翌年度の手取りや納付予定を調整する材料として扱うと、時期のずれによる不足を防げます。

6月の税額通知で反映を確認

給与天引きの人は、勤務先から渡される住民税の税額決定通知書で所得控除欄と税額を確認します。自治体によって様式が異なり、医療費控除が単独表示されず、所得控除の合計額へ含まれる形式もあります。

申告した控除額が反映されているか判断できないときは、確定申告書の控えと通知書を手元に置いて自治体の住民税担当へ照会します。所得税の還付先である税務署とは確認先が異なる点に注意が必要です。

試算と実際の還付額を照合する方法

試算は家計の見通しを作る数字で、最終的な税額は確定申告の計算結果で確かめます。差が出たときは、医療費控除額、課税所得、税額控除、源泉徴収税額の順に照合すると原因を探しやすくなります。

申告前に4つの資料をそろえる

見積もりの精度は、医療費だけでなく所得と納税額の資料をそろえると上がります。補填金の支給が翌年になる場合もあるため、支給元、対象となった支払い、見込額を対応させて記録します。

  • 医療費の資料 対象年に支払った額を確認できる領収書など
  • 補填金の資料 支給決定通知、給付内容、入金記録
  • 所得の資料 源泉徴収票、確定申告書の控え
  • 納税の資料 源泉徴収税額、予定納税額、住民税の通知書

海外の質的研究でも、治療費の負担を診療の中で話題にする意味が示されています。日本の税制を説明する根拠にはなりませんが、費用の不安を医療者へ伝えてよいという背景にはなります。院内の相談窓口につながれば、資料整理を始めるきっかけにもなります。

概算との差は税率以外にも生じる

概算より振込額が少ない主な理由は、税率区分をまたいだ、源泉徴収税額が少なかった、住宅ローン控除などが先に税額へ効いた、補填金が増えたという違いです。反対に、補填金の確定額が見込みより少なければ医療費控除額が増える余地があります。

確定申告書では、医療費控除額だけでなく「還付される税金」の欄を確認します。電子申告の計算画面に表示された還付額を保存しておくと、後日の振込額と照合できます。

税務署と自治体へ分けて確認

所得税の計算、還付状況、申告内容の訂正は税務署が確認先です。住民税の反映や税額決定通知書の読み方は、住所地の自治体にある住民税担当へ問い合わせます。

問い合わせる際は、支払医療費、補填金、医療費控除額、課税所得、源泉徴収税額を紙に並べておきましょう。「いくら戻るか」だけでなく、どの数字の扱いを確かめたいか伝えると、確認先とのやり取りが具体的になります。

よくある質問

医療費が10万円を超えれば必ず還付されますか?

必ず還付されるわけではなく、補填金を引いた後の医療費、総所得金額等、納めた所得税によって決まります。総所得金額等が200万円未満なら基準額は10万円より低い5%となるため、医療費が10万円以下でも控除が生じる場合があります。

年収500万円なら、がん治療の医療費控除でいくら戻りますか?

年収だけでは決まらず、医療費控除額と課税所得に対応する税率が必要です。仮に控除額30万円、税率10%なら所得税は約3万630円、住民税は約3万円の負担減が目安ですが、源泉徴収票を使って課税所得と納税額を確かめます。

還付金はいつ振り込まれますか?

所得税の還付時期は申告方法や審査状況で変わり、住民税の軽減分は通常、翌年度の税額へ反映されます。

所得税は申告後に案内される処理状況や還付金の通知を確認し、住民税は6月ごろの税額決定通知書で照合します。

補填金がまだ入金されていなくても計算に入れますか?

補填される見込みがあるなら、入金前でも見込額を差し引いて計算します。支給額が確定したら申告に使った額と照合し、差があれば税務署に訂正方法を確認してください。

支給決定通知は、どの支払いを補う金額なのか分かる形で領収書と一緒に保管します。

所得税の還付が0円でも申告する意味はありますか?

住民税の所得割が課されていれば、所得税の還付が0円でも翌年度の住民税が軽くなる余地があります。住宅ローン控除などで所得税が0円なのか、所得そのものが低く住民税も非課税なのかで結果が違います。

確定申告の計算結果と前年の住民税通知を用意し、所得税は税務署、住民税は自治体へ分けて確認します。

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医