
ホルモン療法は、前立腺がんや乳がんの治療で欠かせない役割を担う一方、性ホルモンを抑えることで骨密度を下げ、骨粗鬆症や骨折を招きやすくします。
大切なのは、治療を始める前からの備えと、骨密度を定期的に測る検査です。早めに変化をつかめれば、対策を打つ余裕が生まれます。
食事や運動の見直し、そして必要に応じた薬によって、骨の健康は十分に守れます。
この記事では、骨密度が下がる理由から検査の受け方、毎日続けられる予防までを順番に整理しました。読み終えるころには、何から始めればよいかが見えてくるはずです。
ホルモン療法を始めると骨密度が下がりやすい理由
ホルモン療法を受けると骨密度が下がりやすくなるのは、骨を守ってきた性ホルモンの働きを治療が抑えるからです。とくに治療を始めて1年目に、低下が目立ちます。
| 治療の種類 | おもな対象 | 骨への影響 |
|---|---|---|
| アンドロゲン除去療法(ADT) | 前立腺がん | テストステロンが減り骨密度が低下 |
| アロマターゼ阻害薬 | 閉経後の乳がん | エストロゲンが減り骨がもろくなる |
| 卵巣の働きを抑える治療 | 閉経前の乳がん | エストロゲン低下で骨量が減る |
どの治療にも共通するのは、性ホルモンが減ることで骨が弱りやすくなる点です。なぜ骨密度が下がるのか、もう少し詳しく見ていきます。
性ホルモンが骨を守る働き
性ホルモンには、骨を壊しすぎないようにブレーキをかける働きがあります。男性のテストステロンも、女性のエストロゲンも、骨の量を保つ大切な存在といえます。
ホルモン療法は、この性ホルモンの量を意図して減らす治療です。そのため骨を守る力が弱まり、骨の量が少しずつ減っていきます。
これは治療がうまくいっていない証拠ではなく、あらかじめ想定される変化です。仕組みを知っておけば、必要以上に不安にならずに備えを進められます。
骨が作られて壊される入れ替わりのバランス
骨は一度できたら終わりではありません。古い骨を壊し、新しい骨を作る入れ替わりを、一生のあいだ続けています。
健康なときは、壊す量と作る量がほぼ釣り合っています。ところが性ホルモンが減ると壊すほうが優位になり、作るスピードが追いつかなくなります。
この入れ替わりの速さは、年齢やホルモンの状態によって変わります。ホルモン療法では急に性ホルモンが減るぶん、バランスが崩れやすい時期といえるでしょう。
治療開始から1年目に下がりやすい
骨密度の低下は、治療の早い時期にもっとも進みやすいと分かっています。ある研究は、開始から1年のあいだに骨密度が大きく減ることを示しました。
だからこそ、治療を始める前や始めた直後からの備えが効いてきます。早い時期の対策が、その後の骨折リスクを大きく左右するでしょう。
治療を始める前に一度測っておくと、その後の変化を正しく追えます。出発点が分かれば、対策がどれだけ効いているかも見えてきます。
骨密度の低下が骨折や骨粗鬆症のリスクをどう高めるか
骨密度が下がると骨はもろくなり、わずかな衝撃でも折れやすくなります。進めば骨粗鬆症と診断され、背骨や太ももの付け根の骨折につながります。
骨密度と骨粗鬆症のつながり
骨密度とは、骨にどれだけカルシウムなどがつまっているかを示す値です。これが一定の基準を下回った状態を、骨粗鬆症と呼びます。
検査では「Tスコア」という数値で骨の強さを評価します。マイナスの幅が大きいほど、骨がもろくなっているサインといえるでしょう。
具体的には、Tスコアがマイナス1からマイナス2.5の範囲を骨量減少、マイナス2.5を下回ると骨粗鬆症と判断します。まず数値を知ることが、対策の第一歩になります。
骨折が起きやすい部位
ホルモン療法による骨密度低下では、体重や衝撃がかかりやすい部位が折れやすくなります。とくに背骨の圧迫骨折は、気づかないうちに進むことも少なくありません。
骨折が起きやすいおもな部位
- 背骨(腰や背中の圧迫骨折)
- 太ももの付け根(大腿骨の近く)
- 手首(手をついたときの骨折)
こうした骨折は痛みだけでなく、歩く力や暮らしの自由まで奪います。折れる前に骨の状態を知っておくことが、何よりの備えになります。
背骨の圧迫骨折は痛みが軽いこともあり、進行に気づきにくいのが難点です。背が縮んだり、背中が丸くなってきたら、骨からのサインかもしれません。
骨折が暮らしに与える影響
一度骨折すると、安静や入院で体を動かす機会が減り、骨や筋肉がさらに弱る悪い流れに入りがちです。高齢の方では、生活の質が大きく下がることもあります。
がんの治療を続けながら毎日を元気に過ごすためにも、骨折を防ぐ視点はとても大切でしょう。
骨を守ることは、治療を終えたあとの暮らしを守ることにもつながります。自分の足で歩き続ける土台を、今のうちから整えておきたいものです。
ホルモン療法中の骨密度検査はいつ受けるべきか
骨密度検査は、ホルモン療法を始める前に一度受け、その後も定期的に続けるのが基本です。変化を数値で追えれば、対策のタイミングを逃しません。
骨密度を測るDXA検査
骨密度の測定には、DXA(デキサ)と呼ばれる検査が広く使われます。背骨や太ももの付け根に弱いエックス線を当て、骨の量を短い時間で測ります。
痛みはほとんどなく、検査そのものは数分で終わります。結果はTスコアなどの数値となって表れ、骨の状態がひと目で分かります。
エックス線の量はごくわずかで、体への負担は小さく済みます。検査を受けること自体をためらう必要は、ほとんどないといえるでしょう。
検査を受ける頻度の目安
受ける間隔は人によって違いますが、治療開始前の測定を出発点にすることが大切です。その後は骨の状態や治療内容に応じて、1〜2年ごとの再検査がすすめられます。
すでに骨密度が低い方や、ほかに骨折の危険がある方は、より短い間隔で確認することもあります。間隔は主治医と決めていきましょう。
再検査で前回の数値と比べれば、骨密度を保てているのか、下がっているのかがはっきりします。変化が見えれば、次の一手も決めやすくなります。
骨折の危険度をはかる評価
骨密度の数値だけでなく、年齢や過去の骨折、生活習慣も合わせて骨折の危険度を見積もります。FRAXと呼ばれる計算法は、これらをまとめて将来のリスクを示してくれます。
こうした評価をもとに、食事や運動だけで様子を見るか、薬を加えるかを判断していきます。
同じ骨密度でも、年齢や生活習慣によって骨折のしやすさは変わります。数値だけにとらわれず、全体を見て判断することが大切です。
骨密度検査のタイミングの目安
| タイミング | 目的 | 受ける内容 |
|---|---|---|
| 治療を始める前 | 出発点の値を知る | DXA検査・問診 |
| 治療中(1〜2年ごと) | 変化を追う | DXA検査・リスク評価 |
| 数値が下がったとき | 対策を見直す | 再検査・治療の相談 |
カルシウムとビタミンDを軸にした骨を守る食事のとり方
骨を守る食事の中心は、骨の材料になるカルシウムと、その吸収を助けるビタミンDです。この二つにたんぱく質を加えることで、骨はしっかり支えられます。
| 栄養素 | おもな働き | 多く含む食品 |
|---|---|---|
| カルシウム | 骨の主な材料になる | 牛乳・小魚・豆腐 |
| ビタミンD | カルシウムの吸収を助ける | 鮭・きのこ・卵 |
| たんぱく質 | 骨や筋肉の土台を作る | 肉・魚・大豆 |
三つの栄養素は、どれか一つだけでは力を発揮しきれません。日々の食事で、バランスよく組み合わせることがポイントになります。
カルシウムをとるコツ
カルシウムは乳製品や小魚、緑黄色野菜などに多く含まれます。一度にまとめてとるより、毎日の食事にこまめに取り入れるほうが体に入りやすいでしょう。
牛乳やヨーグルトが苦手な方は、豆腐や納豆、小松菜などからも補えます。無理のない範囲で続けることが、何より効いてきます。
サプリメントに頼る前に、まずは日々の食事から見直すのがおすすめです。食品からとれば、骨に役立つほかの栄養素も一緒に補えます。
ビタミンDと日光の関係
ビタミンDは、カルシウムを腸から吸収するのを助ける栄養素です。鮭やきのこ、卵に含まれ、適度に日光を浴びることでも皮膚で作られます。
研究でも、ビタミンDを補うことが骨密度の維持に役立つと分かっています。不足しやすい栄養素なので、意識してとりたいところです。
日光を浴びにくい季節や生活が続くと、ビタミンDは足りなくなりがちです。屋内で過ごす時間が長い方は、食事からしっかり補っていきましょう。
たんぱく質とバランスのよい食事
骨を支えるには、土台となるたんぱく質も欠かせません。肉や魚、大豆製品をバランスよくとることで、骨と筋肉の両方を保てます。
一方で、塩分のとりすぎや極端な食事制限は骨に負担をかけます。特定の食品に偏らず、全体のバランスを整えることを心がけましょう。
食事は、完璧を目指すよりも続けやすさを大切にしたいものです。少しずつでも整えていけば、骨を支える力は着実に積み上がります。
骨に刺激を与える運動と日常生活で気をつけたいこと
体を動かす機会が減りがちな治療中こそ、運動が骨を守る力になります。骨に体重をかける運動が骨を刺激し、転倒を防ぐ工夫が骨折を遠ざけます。
骨に効く運動
骨は刺激を受けると、強くなろうとします。ウォーキングや軽い筋力トレーニングのように、体重や負荷がかかる運動が、骨にはよい刺激になります。
骨を守る運動の例
- ウォーキングや軽いジョギング
- スクワットなどの筋力トレーニング
- 片足立ちなどのバランス運動
激しく動くことより、無理なく続けられる強さを習慣にするのが大切です。体調と相談しながら、できる範囲で動かしていきましょう。
痛みがあるときや体力が落ちているときは、無理は禁物です。短い時間から始めて、少しずつ体を慣らしていくとよいでしょう。
転倒を防ぐ住まいの工夫
どれだけ骨を強くしても、転んでしまえば骨折につながります。家の中の段差や滑りやすい床、暗い廊下は、転倒の引き金になりやすい場所です。
手すりをつける、足元の物を片づける、明るさを確保するといった工夫で、転ぶ危険は減らせます。住まいの見直しも、立派な骨折予防の一つです。
とくに夜間にトイレへ立つときは、暗さと寝起きで足元がふらつきがちです。足元を照らす明かりを用意しておくと、安心して動けます。
毎日の生活に運動を取り入れるコツ
運動はまとまった時間をとらなくても、暮らしの中で積み重ねられます。一駅分を歩く、階段を使う、家事のついでに体を動かすなど、小さな工夫で十分です。
続けるうちに、骨だけでなく気分の張りも変わってくるかもしれません。まずは今日できることから始めてみましょう。
体を動かす習慣が根づけば、それはもう暮らしの一部です。続けるほどに、骨も体も応えてくれるでしょう。
骨密度低下を防ぐ薬物治療と受診のタイミング
薬は骨折が起きてから使うもの、と思われがちですが、骨密度低下を防ぐために早めに使う薬があります。食事や運動で足りないときの、心強い選択肢です。
骨を壊しすぎないようにする薬
代表的な薬に、ビスホスホネートとデノスマブがあります。どちらも骨を壊す働きを抑え、骨密度の低下を防いだり、改善したりする薬です。
研究でも、これらの薬がホルモン療法中の骨密度を保ち、骨折を減らす助けになると報告しています。
骨の状態に合わせて、飲み薬か注射かなど続けやすい形を選べます。どの薬が向いているかは、主治医とよく確認しておきましょう。
骨密度を守るおもな薬
| 種類 | 特徴 | 使われ方 |
|---|---|---|
| ビスホスホネート | 骨を壊す働きを抑える | 飲み薬・点滴 |
| デノスマブ | 骨の吸収を強く抑える | 半年ごとの注射 |
| カルシウム・ビタミンD | 薬の効果を支える | 補助として併用 |
薬を始めるかどうかの判断
薬を使うかどうかは、骨密度の数値や骨折の危険度、年齢などをもとに決めます。だれにでも一律に必要なわけではありません。
食事と運動で十分に保てる方もいれば、早めに薬を加えたほうがよい方もいます。自分に合った方法を、主治医と一緒に選んでいきましょう。
薬を始めたあとも、定期検査で効き目を確かめながら進めていきます。体に合わないと感じたときは、種類を変える選択肢もあります。
気になる症状は早めに受診する
背中や腰の痛み、身長が縮んだ感じ、姿勢の変化などは、骨の異変を知らせるサインかもしれません。気になるときは、早めに相談してください。
ホルモン療法を続けながらでも、骨を守る手立てはいくつもあります。一人で抱え込まず、検査と相談を上手に使っていきましょう。
定期的な検査と日々の予防を組み合わせれば、骨を守りながら治療を続けられます。気がかりなことは、遠慮なく医療者に伝えてください。
禁煙と節酒を中心にした骨を守る生活習慣の見直し
たばことお酒は、骨を弱らせる身近な原因です。禁煙と節酒に加え、適正な体重を保つことも、骨密度低下を食い止める助けになります。
喫煙が骨に与える影響
たばこに含まれる成分は、骨を作る細胞の働きを妨げ、カルシウムの吸収も悪くします。喫煙を続けるほど、骨密度の低下は進みやすくなります。
禁煙は、骨だけでなくがんの治療全体にとってもよい選択です。一人でやめにくいときは、禁煙外来などの力を借りるのも一つの方法でしょう。
禁煙を始めれば、骨の状態は少しずつ上向きに変わっていきます。今からでも遅すぎるということはありません。
お酒は控えめにとどめる
お酒の飲みすぎは、骨を作る働きを抑え、転倒の危険も高めます。骨を守るうえでは、量を控えめにすることが大切です。
まったく飲んではいけないわけではありませんが、毎日の習慣になっている場合は、休肝日をつくるなど見直してみましょう。
まずは飲まない日を決めるところから始めると、取り組みやすくなります。水やお茶を間にはさむ工夫も、酒量を抑える助けになるでしょう。
体重とその他の気をつけたい習慣
やせすぎは骨密度が低くなりやすく、急な体重の減少も骨に響きます。極端な食事制限を避け、適正な体重を保つことが骨を支えます。
コーヒーや塩分のとりすぎにも注意し、規則正しい生活を心がけたいところです。
骨を守る生活習慣は、どれも特別なものではありません。今日の暮らしを少し見直すことが、未来の骨を支える力になります。
骨を守る生活習慣の見直し
| 習慣 | 骨への影響 | 見直しの工夫 |
|---|---|---|
| 喫煙 | 骨を作る力を弱める | 禁煙外来を活用する |
| 飲みすぎ | 骨を作る働きを抑える | 量を控え休肝日を作る |
| やせすぎ | 骨密度が低くなる | 適正な体重を保つ |
よくある質問
ホルモン療法を受けると必ず骨密度は下がりますか?
ホルモン療法を受ける方の多くで骨密度は下がりやすくなりますが、下がり方には個人差があります。もともとの骨の状態や生活習慣によっても変わります。
大切なのは、必要以上に怖がることではなく、早めに備えることです。検査で変化を追い、食事や運動で対策すれば、骨の健康は十分に守れます。
ホルモン療法中の骨密度検査はどのくらいの間隔で受ければよいですか?
まずは治療を始める前に一度測り、その値を出発点にします。その後は骨の状態や治療内容に応じて、1〜2年ごとの再検査が一つの目安です。
すでに骨密度が低い方や骨折の危険が高い方は、より短い間隔で確認することもあります。具体的な間隔は、主治医と相談して決めるとよいでしょう。
骨密度の低下はカルシウムのサプリメントだけで防げますか?
カルシウムは骨の大切な材料ですが、サプリメントだけにたよって防げるとは限りません。吸収を助けるビタミンDや、骨を刺激する運動も合わせて必要です。
まずは毎日の食事でカルシウムとビタミンDをとることを基本にしましょう。不足が心配なときは、とり方を主治医や管理栄養士に相談してください。
ホルモン療法による骨粗鬆症は薬で改善できますか?
ビスホスホネートやデノスマブなどの薬には、骨密度を保ったり高めたりする働きがあります。研究でも、骨折を減らす助けになると報告しています。
ただし、すべての方に薬が必要なわけではありません。骨密度の数値や骨折の危険度をふまえ、使うかどうかを主治医と一緒に決めていきます。
ホルモン療法中に骨密度を守るため、まず始められることは何ですか?
まずは治療開始前に骨密度を測り、自分の出発点を知ることから始めましょう。同時に、カルシウムとビタミンDを意識した食事を心がけてください。
ウォーキングなど骨に刺激を与える運動を習慣にし、禁煙と節酒を意識することも土台になります。小さな積み重ねが、将来の骨折予防につながります。
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この記事を書いた人 Wrote this article
前田 祐助 医学博士 / 医師
慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医