がん入院中の上手な過ごし方|体力の維持からメンタルケア、院内リソースの活用術

がん入院中の上手な過ごし方|体力の維持からメンタルケア、院内リソースの活用術

がんで入院していると、点滴や検査の合間に横になる時間が増え、「このまま歩けなくなるのでは」「夜も眠れない」と心細く感じる日もあるでしょう。そうした変化は、病棟の看護師へ伝えるところから支援が始まります。

入院中は、治療に合わせて休みながら、許可された範囲で体を動かし、不安や眠りの困りごとを病棟で相談しましょう。体力も気持ちも睡眠も、ひとりで抱えずに医療者と一緒に整えられます。

この記事では、入院中の体力を保つ工夫、気持ちと睡眠の整え方、院内で頼れる職種や家族とのつながり方を解説します。

がんの入院中は日常の動作で体力の変化を捉える

体力の変化は、立ち上がる、着替える、トイレへ歩くといった身近な動作に表れます。入院前と比べて手助けが必要になった場面は、活動を調整するために大切な情報です。

横になる時間が増えると動きにくくなる

体を動かさない日が続くと、日常の動作を支える力が落ち、ベッドから起きるだけでも負担に感じるようになります。安静の指示がなくても、病室で用事が済む生活では、普段の歩行や立ち座りの機会が減るためです。

入院をきっかけに身の回りの動作が難しくなる変化は、高齢者の入院を対象にした研究でも報告されています。ただし、がんだけを調べた結果ではないため、同じ程度に起こるとはいえず、入院前の動きやすさも踏まえて評価します。

入院直後に、普段はどの程度歩けていたか、着替えに手助けが必要だったかを病棟の看護師と共有しましょう。

だるさを体力低下だけで片づけない

強いだるさがあるときは、運動を増やす前に症状を確かめます。がんや治療の影響に加え、食事の摂取量が落ちている状態や眠れていない状態が重なり、動きにくさにつながる場合があります。

また、血液中で酸素を運ぶ働きが低下する貧血があると、動いたときに息切れや動悸を感じる場合もあります。横になっていてもつらいのか、トイレへ歩くとつらいのかを分けて伝えると、診察時に状態が伝わりやすくなります。

食べられない日が続いているときは、食事を残した量や吐き気も相談に含めてください。活動だけを頑張っても、症状や栄養の問題がそのままなら、無理が重なるおそれがあります。

昨日との違いを短く伝える

変化を伝えるときは、「体力が落ちた」という感覚に、困った動作を添えます。目安にするのは、昨日と比べた立ち上がりや歩きやすさです。歩けた距離だけでなく、途中で休んだ理由も話すと、支援が必要な場面を共有できます。

たとえば、朝に病室のトイレへ向かおうとして足元がふらついたら、その場で座れる場所へ戻り、ナースコールで看護師を呼んでください。次に歩く前に介助の必要性を確かめれば、転びそうな状態で移動を続けずに済みます。

周囲の患者さんが歩いている姿は、自分の活動量を決める基準にはなりません。昨日より動けない日は、距離の達成よりも、治療や体調の変化を確かめるのが先です。

体を動かす量はその日の治療と体調に合わせる

安静の制限がなく、体調に合った方法を選べるときは、入院中にも体を動かす時間を持てます。開始時期や負荷は、担当医やリハビリの専門職の指示に合わせて調整します。

歩き始める前に活動の範囲を確かめる

活動を始める前に確かめたいのは、病室内で動けるか、廊下まで歩けるか、付き添いが必要かという具体的な範囲です。手術後の傷や点滴の管がある状態では、立ち上がる動作や歩く経路にも配慮が要ります。

また、骨にがんが広がっている部位がある場合は、負担を避ける動作を指定してもらいます。血を止める働きのある血小板が少ない状態では、出血の危険も踏まえて運動の可否や内容が判断されます。

確かめる場面病棟で共有する内容
初めて歩くとき介助の有無と歩ける範囲
点滴などの管があるとき管を引っ張らない移動方法
治療や体調が変わったとき前日と同じ活動を続けてよいか

一度歩行の許可が出ても、その後に発熱やふらつきが出た日は、活動してよいかを改めて確かめましょう。

短い活動を生活の中へ分けて置く

体を動かす機会は、まとまった運動時間だけでなく、許可された立ち座りや病棟内の移動から作れます。食事で椅子に座る、洗面に向かうなど、日常の動作に組み込む方法があります。

血液がんの成人1892人を含む18試験をまとめた検討では、歩行などの有酸素運動によって、だるさが和らぐ可能性が示されています1)。有酸素運動とは、歩行のように呼吸を続けながら体を動かす運動です。

ただし、この検討では重い有害事象への影響が不確かで、研究の運動量をそのまま自分に当てはめるのは適切ではありません。体の状態を確かめながら動作の練習を支援する理学療法士に、活動の量や時間帯を相談しましょう。

活動後に疲れて食事や洗面が難しくなるなら、負荷を見直してもらいます。

中止する症状と休む日の過ごし方

歩いている途中に胸の痛み、急な息苦しさ、強いめまいが出たら、活動を中止してナースコールなどでスタッフを呼んでください。休んで様子を見るだけにせず、症状が始まった時点で知らせます。

発熱、新しい痛み、出血があるときも、運動を始める前に病棟へ伝えます。食後なら動きやすいなどの普段の感覚より、その日の症状と医療者の指示が優先です。

安静が必要な日は、起きて過ごせなかった分を後から取り戻そうとせず、指示された範囲で休みます。ベッド上で手足を動かしてよいかも含めて確かめると、許可された動作と避ける動作を区別できます。

がん治療中の不安は病棟で相談できる

眠れないほどの心配や気分の落ち込みは、入院中の診療で相談できる症状です。痛みや息苦しさと同じように、生活への影響を伝えられます。

つらさは気合いで抑えず言葉にする

治療中に前向きでいられない日が続くと、それ自体を責めたくなるかもしれません。つらさを話すために気持ちを整理しきる必要はなく、「夜になると不安が強い」と場面を伝えるところから相談を始められます。

入院中の不安は、眠りの問題や気分の落ち込みなどと関係するとの報告があります。痛みが増す時間に心配も強まるなら、気持ちへの支援と症状への対処を合わせて相談する意味があります。

泣いてしまう、何も手につかないといった変化も、看護師に伝えてよい内容です。診察中には言い出しにくい話は、周囲に聞こえにくい場所で話したいと頼めます。

気分転換は疲れが残らない方法を選ぶ

気分転換には、好きな音楽を聴く、短い文章を読むなど、今の集中力に合う過ごし方を選べます。最後まで続ける義務はなく、疲れたところで切り上げて休めます。

音楽などを楽しむ時間は、入院中の不安を和らげる場合があります。ただし、病棟での生演奏を調べた研究は比較する群がないため、音楽だけの効果や、録音を聴く場合の効果の大きさまでは判断できません。

そのときの状態過ごし方の例
文字を追うと疲れる短い音楽や音声を静かに聴く時間
話すと落ち着く体調のよい時間帯の短い会話
刺激を減らしたい音や画面から離れる静かな時間

趣味に気が向かない状態が続くときは、楽しめる方法を増やすだけで対処せず、その変化を病棟で相談しましょう。

専門的な支援につなぐ目安

不安や落ち込みで食事、睡眠、治療の説明を聞く時間に支障が出ているなら、担当医や看護師へ相談する目安です。いつから続くか、どの時間がつらいかを添えると、必要な支援を検討しやすくなります。

病院の体制に応じて、心理職や精神科など、心のつらさを扱う専門職へつないでもらえます。面談を受けるか迷う段階でも、病棟の看護師に相談方法や話せる内容を尋ねられます。

死にたい、自分を傷つけそうだと感じるときは、その場でナースコールを使ってスタッフに伝えてください。夜間も含めて、ひとりで抱えたまま待たずに援助を求められます。

入院中の眠りは昼の過ごし方と夜の環境から整える

夜中に目が覚めるときは、物音や痛みなど、眠りを途切れさせる要因を分けて伝えると対処を相談できます。薬を検討する前にも、病棟で調整できる環境があります。

眠れない理由を夜の場面ごとに伝える

入院中は、自宅と違う物音や夜間の処置によって眠りが浅く、短くなりやすいと報告されています。眠りにつけなかったのか、眠ってから繰り返し起きたのかも、相談するうえで大切な情報です。

起きた原因を厳密に記録する必要はなく、「痛みで目が覚めた」など覚えている範囲で十分です。夜の痛みや息苦しさは朝まで我慢せず、その時点で看護師に伝えてください。

眠りを妨げる要因相談する内容
照明・周囲の音安全を保ちながら光や音を減らせる範囲
夜間の処置必要な処置の予定と調整の可否
痛み・吐き気・トイレ起きた時間帯と症状、移動の介助

必要な観察や治療があるため、夜間の出入りをすべてなくすのは難しい場合もあります。予定を共有しておくと、処置の時刻が分からないまま待つ負担を減らせます。

朝の明るさと日中の休息を組み合わせる

朝は可能な範囲で明るさに触れ、日中は許可された活動と休息を組み合わせる過ごし方を病棟で相談します。検査後や治療後の眠気が強い日は、回復に必要な休息を取る調整が先です。

一方、日中に長く眠った後で夜の寝つきが悪くなるなら、休む時間帯を相談する余地があります。昼寝を一律に禁止せず、夜の眠りと日中のだるさを合わせて伝えると、体調に合った調整ができます。

就寝前に病気の情報を読み続けて目がさえる場合は、検索を終える時刻を決め、翌日の診察で聞きたい内容を短く残す方法があります。画面を閉じた後も心配が強いなら、情報を探し足すより、その心配を看護師へ話すほうが相談につながります。

睡眠薬は翌朝の状態まで相談する

睡眠薬の使用は、環境の調整や症状への対処と合わせて、担当医に相談して決めます。すでに飲んでいる薬があるときは、自己判断で量を増減せず、眠れなかった時間や翌朝の眠気を伝えましょう。

睡眠薬の種類や体の状態によっては、ふらつきや転倒に注意が要ります。また、急に注意力が落ちて場所や時間が分からなくなる「せん妄」には、薬を含めた複数の要因が関係します。いつもと違う混乱があれば、すぐ病棟へ知らせます。

夜にトイレへ立つときに眠気が残っているなら、ひとりで歩かずスタッフを呼んでください。薬が効いたかどうかは睡眠時間だけで決めず、朝の動きやすさも含めて見直します。

病院の中で頼れる職種と支援

困りごとの相談先に迷ったら、病棟の看護師を最初の窓口にできます。担当する職種や依頼方法は病院によって違うため、今いる病棟から受けられる支援を確かめます。

歩行・食事・薬は専門職へつないでもらう

歩行や食事がつらいときは、実際に困る動作や時間帯を伝えると、専門職への相談内容を絞れます。窓口へ自分で移動するのが難しければ、病室での相談が可能かを看護師に尋ねられます。

相談できる職種頼める内容
病棟の看護師体調変化の共有、日常動作の介助、専門職への取り次ぎ
理学療法士・作業療法士歩行や立ち座りの調整、着替えなどの練習
管理栄養士食べられる量や形に合わせた食事の相談
薬剤師薬の使い方、飲みにくさ、副作用が疑われる変化の相談

作業療法士は、着替えや洗面など、生活の動作を行いやすくする支援を担う専門職です。「洗面をすると疲れ切る」など、困る場面から相談しましょう。

管理栄養士へは口の痛みや飲み込みにくさなど、食事が進まない理由も伝えます。薬剤師には服用後の眠気などを相談でき、症状が強い場合は同時に病棟の看護師へも知らせます。

痛みや気持ちのつらさは緩和ケアにも相談できる

緩和ケアは、がんや治療に伴う痛み、息苦しさ、気持ちのつらさなどを和らげるための支援です。治療中から相談でき、病棟の担当者と専門のチームが連携して症状への対処を検討します。

造血幹細胞移植は、血液を作る細胞を移す治療です。米国でこの治療のために入院した160人を対象とした試験では、緩和ケアの医療者が定期的に関わる群で、2週間後の生活の質の低下や不安の悪化が小さかったと報告されています2)。生活の質は、症状だけでなく日常の過ごしやすさや気持ちも含む状態を指します。

ただし、この結果は米国の単一施設で移植を受ける患者さんを調べたもので、だるさには差がありませんでした。どの症状にも同じ効果を期待するのは適切ではありません。

対処しても残るつらさがあれば、緩和ケアチームへの相談を希望していると看護師へ伝えられます。チームの有無や依頼の仕方は、入院先で確かめておきます。

生活上の心配は相談窓口で整理する

治療以外の心配が頭から離れず休めないときは、生活上の問題を扱う医療ソーシャルワーカーにも相談できます。どこから話せばよいか迷うなら、いちばん気がかりな内容から説明すれば十分です。

がん相談支援センターは、がんに関する悩みや疑問を相談する窓口です。入院先に窓口があるか、予約の方法、病室から相談できるかを病棟の看護師に確かめると、体調に合わせて利用しやすくなります。

また、家族に聞かれず相談したい内容は、面談を申し込む段階でその希望を伝えられます。説明を聞いた後に整理がつかない場合も、何が分かり、何がまだ不明なのかを一緒に整理してもらえます。

家族や外とのつながりを負担なく保つ

人とつながる時間は、入院中の支えになる一方で、体調によっては疲れの原因にもなります。連絡の長さや頻度を自分の状態に合わせ、休む時間を確保できる形に整えます。

返事をする時間と休む時間を分ける

連絡は、治療や検査の予定を見ながら、返事をしやすい時間帯にまとめる方法があります。すぐに返せない日もあると伝えておけば、着信のたびに対応する負担を減らせます。

同じ近況を何度も説明して疲れるなら、本人が了承した内容を家族の代表から共有してもらう方法も選べます。誰にどこまで伝えるかは、自分で決めてよい範囲です。

文字のやり取りが負担なら短い通話へ、会話で疲れるなら返事を急がないメッセージへ切り替えるなど、その日の調子で手段を選べます。通話場所や利用時間は、周囲の休息にも関わる病棟の決まりに沿って決めます。

面会では会いたい気持ちと疲れを両方伝える

面会の予定は、会いたいかどうかに加え、会った後に休む余裕があるかも含めて決めます。話す元気が少ない日は、短く顔を見るだけにするなど、希望する過ごし方を先に家族へ伝えられます。

面会の人数や時間、利用できる場所は、病院や病棟の状況によって違います。予定を決める前に看護師へ確かめ、体調が変わった日は会う時間を短くするか、別の連絡手段に変更します。

人に会った後に疲れが強く残ると分かったら、次の面会は長さや時間帯を調整しましょう。静かに休みたいという希望も、入院中の過ごし方を決めるうえで尊重されるべき内容です。

病棟の日常の用事も支援を頼める

身の回りの用事で疲れるときは、家族の来院だけに頼らず、病棟で利用できるサービスを確かめられます。病衣やタオルの貸し出し、洗濯の手配などは、病院ごとに実施の有無や利用条件が異なります。

サービスを利用したいときは、洗濯物を運ぶ負担が大きいなど、具体的な困りごとから看護師に話して構いません。申し込みが必要なら、窓口と利用方法を尋ねましょう。動くのがつらい場合は、手続きの援助も相談できます。

用事を減らすと、食事や休息に体力を回せます。病棟の支援を使いながら、今の状態で続けられる活動と手助けが必要な用事を分けて過ごすのが基本です。

よくある質問

だるい日も廊下を歩いたほうがよいですか?

だるさが強い日は、歩く量を増やす前に、その日の状態を看護師へ伝えるのが先です。安静の指示や発熱の有無に加え、立ったときのふらつきも踏まえて、活動を続けられるか確認します。

歩行を休む場合も、ベッド上で許可される動作があるかを理学療法士などへ相談できます。胸の痛みや急な息苦しさが出たときは、動くのをやめてスタッフを呼んでください。

夜に眠れないときは朝まで待つべきですか?

痛みや息苦しさで眠れないときは、朝を待たずに看護師へ伝えてください。夜間も症状に合わせた対応を相談できます。

物音で起きる場合は、どの音が気になるかを伝えると、環境を調整できるか確認してもらえます。眠れないからと薬を追加せず、すでに使った薬の効き方も含めて相談するのが基本です。

緩和ケアに相談すると、がんの治療は終わりますか?

緩和ケアへの相談は、がんの治療を終えるという意味ではありません。治療を受けながら、痛みや気持ちのつらさを和らげる支援として利用できます。

夜に痛みで起きる、不安で説明が頭に入らないなど、今困っている場面を病棟の看護師へ伝えると、担当医や緩和ケアチームへの相談につながります。受けられる支援と依頼方法は、入院先で確認が必要です。

家族への返事や面会を休んでもよいですか?

体調がつらい日は、返事や面会を休んで構いません。返事が遅れると心配する相手には、体調に合わせて連絡する予定を先に伝えておくと、休む時間を確保しやすくなります。

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医