
がん治療のインフォームド・コンセントは、説明を理解し、自分の意思で治療を受けるか決めるための話し合いです。同意書へのサインは、その同意を記録する意味を持ちます。
説明のあとに用紙を渡され、治療の目的をうまく言えないままペンを持っているなら、理解が追いついていない部分を言葉にしてよい場面です。サインの前に、聞いた内容を自分の言葉で言い直せるかを確かめましょう。
この記事では、インフォームド・コンセントと署名の違い、説明を自分の言葉で確かめる方法、考える時間の取り方、同意後の変更と家族の関わりを解説します。
インフォームドコンセントは理解して自分で決めるための話し合い
同意の中心にあるのは、患者さんが説明を自分の病状と結びつけ、治療を受ける意思を示すことです。サインは、話し合いを経て決めた内容を残す記録に当たります。
説明を聞くところから署名までの違い
インフォームド・コンセントとは、必要な説明を受けて内容を理解し、自由な意思で同意することを指します。診断名や治療名を聞いたあとに、何を目指して受けるのかを捉え、自分の希望も踏まえて決める流れです。
| 話し合いの要素 | 患者さんがすること |
|---|---|
| 説明を受ける | 提案された治療について、何をするのか聞く |
| 理解する | 自分の言葉で言い直し、意味が合っているか確かめる |
| 自分で決める | 説明と希望を踏まえ、受ける意思や保留したい気持ちを伝える |
| サインする | 同意した治療と同意書の内容が対応しているか読み、意思を記録する |
この流れは、途中へ戻りながら進められます。説明の途中で新たな疑問が生じたら、理解し直したうえで決定へ進む形です。
自分で決めるときも医療者の助けを受けられる
自分で決めるときも、医療上の判断について専門家の助言を受けられます。手術や薬物療法などが自分の病状に合う理由を主治医から聞き、勧められた内容を受け入れる判断も、本人の意思による同意です。
決めるために大切なのは、自分が何を受け入れようとしているかをつかむことです。専門知識の量を増やすだけでなく、治療への希望や決めにくい部分を話すと、患者さん自身の意思が話し合いに反映されます。
主治医の勧めを聞いたうえで決めたいときは、「先生の勧めと、その理由を聞いてから決めたいです」と伝えましょう。
署名後も説明を受ける関係は続く
署名した内容は、その時点で説明を受けて同意した治療です。新しい検査結果が出たり、予定していた方法に変更が生じたりしたときは、変更内容について改めて説明を受ける対象になります。
同意書があるだけで、患者さんがどこまで理解したかは分かりません。署名の有無と、治療の目的や見込みについて患者さんと主治医の受け止めが一致しているかは、それぞれ確かめる必要があります。
同意のあとに疑問が生じても、質問を続けられます。疑問を伝える時期を署名の前だけに限らず、治療についての理解を更新しながら関われる関係です。
サインの前にインフォームドコンセントの内容を言い直す
聞いた内容を短く自分の言葉にすると、分かった部分と曖昧な部分が分かれます。何のために何を受けるのかを、主治医と同じ意味で捉えることが目標です。
治療名より「何のために受けるか」を言葉にする
言い直すときは、治療の名前に提案された理由をつなげます。「薬でがんの進行を抑えるための治療だと受け取りました」のように、聞き取った意味をそのまま表す形です。
- 受ける治療 … 自分の体にどのような治療を行うのか
- 治療の目的 … 何を目指してその治療を受けるのか
- 期待できる変化 … どのような結果が得られる見込みなのか
- 決める理由 … 説明のどの部分を踏まえて受けたいと感じたのか
全項目を流ちょうに話す必要はなく、言葉が止まった部分が説明を受け直す場所になります。
言い直しは理解を合わせるために使う
説明を自分の言葉で言い直し、意味が合っているか確かめる方法をティーチバックと呼びます。答えを採点する試験として受け止める必要はなく、説明した内容が意図どおり伝わったかを互いに確かめる方法です。
がん診療に限らない医療の研究をまとめた検討では、説明のあとに自分の言葉で言い直す工夫は、理解や記憶の助けになり、同意の理解を高める傾向が示されています1)2)。日本の診察でも、治療名を覚えるだけで終えず、自分の理解を言葉に戻す方法として使えます。
主治医には「私の理解ではこういう意味ですが、合っていますか」と、説明をどう受け取ったか伝えましょう。
うまく言えない部分から説明を受け直す
言葉が出てこないときは、「治療名は分かりますが、何を目指すのかがまだ曖昧です」と、分かる部分と分からない部分を分けて表すと、意味がつながらなくなった場所が分かり、必要な説明を受け直しやすくなります。
たとえば、診察室で署名欄を前に「早く返事をしないと」と焦り、目的を言い直せなくなったなら、「少し頭を整理したいです」と伝えるのも良いでしょう。説明を受け直す時間が取れると分かるだけでも、落ち着いて話を聞く助けになります。
説明後も迷いが残るときは、意味が分からないのか、意味は分かるが決めきれないのかで、次に話す内容が変わります。前者で要るのは説明の補足、後者で要るのは決めるための時間や本人の希望です。
同意書が読みにくいときは言葉と文のまとまりをほどく
同意書の読みにくさは、専門用語や長い文、数字の意味が重なることで生じます。自分に行われる治療として意味をつなげられるかが大切です。
専門用語を日常の言葉へ置き換える
日常では使わない言葉が続くと、文を読めても治療の場面を思い浮かべにくくなります。同じ単語が説明中と同意書の両方にあっても、音や文字を覚えた状態と、意味を捉えた状態には違いがあります。
| 読みにくくなる要因 | その場でできる対処 |
|---|---|
| 専門の言葉 | 分からない単語を示し、自分の体で何が起きる意味か聞く |
| 1文に多くの内容がある | どこまでが同じ話か区切り、1つずつ説明を受ける |
| 数字だけが示されている | 何についての数字か、対象となる人や期間を聞く |
専門用語は、日常の言葉に置き換えた説明と結びつけて捉えると、治療の意味をたどりやすくなります。
長い文章は「誰に何をするか」で区切る
1文の中に治療の説明と条件が続くと、どの言葉が自分に当てはまるのか見失いやすくなります。まず予定されている治療の文を取り出し、そのあとに条件の説明をつなぐと、書かれた内容が整理されるでしょう。
同意書には、同じ治療を受ける複数の患者さんに共通する説明が含まれます。書かれた文すべてを自分に同じ程度で当てはめるのではなく、自分の病状に関係する説明として読み解く必要があります。
文章がつながらなくなった箇所は、「この文は、私の場合はどういう意味ですか」と尋ねましょう。
数字の意味まで分かると文章につながる
数字は、何を数えたのかが分かって初めて治療の説明として受け取れます。「効果がある割合」と書かれていても、がんが小さくなる割合なのか、別の変化を示す割合なのかで意味が異なります。
また、一定の期間に観察された集団の数字が、自分に同じ結果が起きる保証になるわけではありません。どこまで当てはまるかは、がんの種類や広がり、体の状態を踏まえて捉える必要があります。
数字を覚える負担が大きいときは、まず「何の見込みを表す数値か」という意味に戻れます。治療の目的と結びつけて説明できるかが、理解を確かめる目安です。
治療の目的と「効果がある」の意味をそろえる
「効果がある」という説明だけでは、治ることを目指すのか、進行を抑えるのかは決まりません。治療を受ける目的と期待できる変化を分けると、受け止めを合わせやすくなります。
治す・進行を抑える・症状を和らげる目的の違い
がん治療には、がんを取り除いて治す、増える勢いを抑える、痛みなどの症状を和らげるといった目的があります。治療名が同じでも、病状によって何を主な目標にするかは異なるため、自分の治療としての意味が大切です。
| 治療の目的 | 主治医に確かめる内容 |
|---|---|
| 治すことを目指す | 自分の病状で、治すことを目標にしているか |
| 進行を抑える | がんの増え方や広がりを、どのように抑える見込みか |
| 症状を和らげる | 痛みなど、自分のどの症状を軽くする目的か |
複数の目的が重なる治療もあります。主な目標が何かを捉えると、説明された効果がどの目的に結びつくかを整理できます。
希望する結果と見込まれる結果を分ける
「治ってほしい」という願いを持ちながら、今回の治療が実際に何を目指すかを聞くことは両立します。期待できる結果を具体的に捉えると、受けたい理由を自分の言葉で説明しやすくなります。
米国で、転移のある肺がんや大腸がんのために薬でがんを治療する化学療法を受ける患者さんを調べた研究では、治療の目的や治る見込みを実際より楽観的に受け取る患者さんが少なくありませんでした3)。日本で説明を受けるときも、「効く」という言葉を自分がどう受け取ったか示すと、目的の食い違いを確かめられます。
主治医には「この治療は、私の場合、治すことを目指すのでしょうか。それとも進行を抑える目的でしょうか」と確かめましょう。
まだ決まっていない見込みも説明の一部になる
治療前の情報だけでは、どの程度の効果が得られるかを個人について正確に言い切れない場面があります。検査結果がそろう前なのか、治療を始めて反応を見る必要があるのかで、残っている不確かさの中身も違うものです。
そのため、理解した内容には、分かっている目標と、まだ判断できない結果の両方を含められます。「進行を抑える目的で、実際の効き方は治療後に調べる」と捉えられれば、不確かな部分も含めて説明を受けた状態です。
見込みが幅を持つときでも、何を目指す治療かという目的まで曖昧にする必要はありません。結果の予測と治療の目標を分けると、署名する意思を判断するための土台ができます。
考える時間は病状に応じて主治医と決める
その場で決めきれないときは、考える時間を求められます。どこまで待てるかは病状と治療の緊急性によるため、返事の期限には医学的な理由を伴う説明が必要です。
返事の期限と治療開始日を分けて聞く
「早めに治療しましょう」と言われても、その日のうちに返事が必要なのか、次の診察まで考えられるのかは言葉だけでは分かりません。治療を始める時期と、意思を伝える時期を分けると、使える時間が具体的になります。
- 返事の期限 … いつまでに治療を受ける意思を伝える必要があるか
- 期限の理由 … 病状の面で、その時期を過ぎると何が心配されるか
- 説明を受け直す機会 … 返事をする前に、いつ主治医と再度話せるか
急いで対処する必要がある病状では、使える時間が短くなるため、疑問の解消も同じ診療の中で進める必要があります。
保留するときは何を決めきれないかを伝える
返事を保留する理由は、説明の意味が分からない場合も、自分の気持ちを整理したい場合もあります。何に時間が必要かを伝えると、再説明を受けるのか、いったん診察を終えて考えるのかを具体的に決められるでしょう。
治療の目的は分かったものの、説明が続いて頭に入らなくなっているなら、返事だけ先に求められると負担になります。「目的は分かりましたが、今は決めるために少し時間が必要です」という表現で、理解と決定の状況を分けて示せます。
考える時間が必要なときは、「いつまで考えられますか」と主治医に確かめましょう。
待つ間の連絡先を具体的にする
考える時間を取るときは、次に誰へ意思を伝えるかまで決めると、保留のまま治療の予定が曖昧になるのを防げます。主治医へ返事をするのか、担当の看護師を通じて連絡するのかが分かれば、再説明を希望するときにも迷わずに済むでしょう。
診療の説明を受ける場をうまく調整できないときは、看護師が主治医との連絡を手伝うことがあります。がんについての療養相談を受けるがん相談支援センターも、困っている内容を整理し、誰に伝えるかを相談できる相手です。
ただし、待てる期間の判断は主治医と行います。相談先が見つかっただけで治療開始を延ばしてよいとは判断せず、決めた期限と病状に応じた連絡方法を保つ必要があります。
同意後に考えが変わったらインフォームドコンセントを続ける
一度同意したあとも、気持ちが変わったことや同意を取り消したい意思は、いつでも主治医に申し出られます。実際に治療をどう変更するかは、すでに行った処置と今後の予定を分けて話し合います。
治療前なら今の意思を早く伝える
署名後でも治療を始める前に考えが変わったなら、今の意思を伝える場を持てます。「いったん同意した治療ですが、受けるかどうかもう一度話したいです」と、予定に関わる申し出として伝えましょう。
治療の準備が進んでいると、来院してから初めて意思を伝えた場合に、再説明の時間や予定の調整が必要になります。迷いが生じた時点で知らせる意味は、患者さんの意思と実際に進んでいる準備を合わせる点にあります。
治療が迫っているときは、主治医または担当の看護師へ、同意について話し直したい旨を連絡してください。
治療開始後は安全な変更方法を相談する
治療を始めたあとも、続けるかどうかについて希望を伝えられます。今後の治療への意思を変えることと、すでに受けた手術や投与された薬の影響を元に戻すことは、分けて捉える必要があります。
薬の種類や投与の方法によっては、中断時の対応や、そのあとに体の状態を調べる計画が必要です。同意を取り消したい気持ちを伝えたあと、主治医と中止・変更の方法を決めると、本人の希望と安全への対応を一緒に扱えます。
服用中の薬を自分で中止したり、予定の診療を無断で休んだりする前に、主治医へ連絡してください。
同意の範囲と今の説明が合うかを見直す
新しい説明を聞いて以前の理解と違うと気づいたときも、同意について話し直せます。何を受け入れたつもりだったかを伝えると、説明が十分に伝わっていなかった部分と、病状の変化に伴う新しい話を分けられます。
また、主治医から治療の変更を提案されたときは、以前の署名だけで自分の意思を示したつもりになる必要はありません。新たに提案された内容について説明を受け、今の希望を伝える場が必要です。
話し合いの対象は、これから受ける治療への意思です。理解した内容と実際の予定を照らし合わせる関係は、治療が始まったあとも続きます。
家族は本人の意思を中心に同意を支える
本人が理解して決められるときは、患者さん自身の意思が中心です。決めるのが難しいときは、理解を助ける方法を試したうえで、家族と医療者が本人の希望に沿う判断を支えます。
自分で決められるときの家族の関わり
家族の意見を聞きながら決めたい人も、自分の考えをまとめてから家族に伝えたい人もいます。本人が望む関わり方を医療者に伝えると、誰の意思なのかを保ちながら、家族の支えを受けられます。
| 本人の状態 | 家族の関わり | 意思の扱い |
|---|---|---|
| 説明を理解して決められる | 本人が望む範囲で話を聞き、気持ちの整理を手伝う | 本人が受ける意思を示す |
| 助けがあれば理解して決められる | 聞こえ方や言葉の困り事を医療者に伝える | 伝え方を調整して本人の意思を確かめる |
| 理解や意思の表明が難しい | 本人の普段の希望を医療者に伝え、判断を支える | 本人の意向を中心に家族と医療者で検討する |
家族への説明や家族の署名が求められる場合も、本人の同意と家族に求められる関わりは区別して扱います。
決めにくさの原因に合わせて説明を調整する
年齢が高い、返事に時間がかかるという理由だけで、本人が決められないと判断することはできません。聞こえにくさや使われる言葉の難しさがあれば、説明の方法を調整すると意思を表せる場合があります。
痛みや強い眠気などでその時点の理解が難しいときは、体調を整えてから改めて説明を受けられるかを、主治医と相談しましょう。緊急性の高い治療を要するときと、体調の回復を待てるときでは、話し合いに使える時間が異なります。
家族の助けを受けたい範囲があるときは、「この部分は家族と一緒に聞きたいです」と主治医に伝えましょう。
本人が決められないときは本人の希望をたどる
本人が理解したり意思を表したりするのが難しい状況では、家族は本人がどのような治療を望みそうかを医療者へ伝えます。家族自身の希望と、本人が普段話していた希望を分けると、判断の中心を本人に置きやすくなります。
日本の医療現場で、本人に代わって判断した人を対象とした調査では、本人の意向が分からない状況は少なくありませんでした4)。希望が分からない部分を推測だけで埋めず、分かる範囲の発言や大切にしていた過ごし方を医療者に伝えましょう。
本人の希望をたどれない場合は、期待される利益と負担を踏まえ、本人にとって望ましい対応を家族と医療者で検討します。なぜその判断が本人のためになるのかを話し合う場になります。
よくある質問
説明を受けた日にサインする必要がありますか?
その日に決めきれなければ、考える時間を求められます。どこまで待てるかは病状によるため、返事の期限を主治医と決める必要があります。
返事の期限と理由を聞き、説明を受け直す機会も含めて次の予定を決めます。急いで治療する必要があると説明されたときは、残っている疑問をその場で伝え、限られた時間で必要な説明を受ける形になります。
言い直すときに医学用語を間違えたら困りますか?
日常の言葉で表して構いません。「がんが増えるのを抑える治療」といった表現でも、主治医と意味を合わせられます。言い直しの途中で意味の違いが分かれば、治療を受ける前に理解を修正できます。
サインしたあとに取り消したくなったら、どうすればよいですか?
主治医に、同意を取り消したい意思を伝えます。治療前か、すでに治療が始まっているかで、そのあとの対応は変わります。
治療が予定されている場合は、担当の看護師を通じて主治医に連絡する方法もあります。開始後は自己判断で薬を中止せず、中止や変更の方法と、そのあとの診療について説明を受けてください。
家族に決めてもらいたいと感じるときは、どう話せばよいですか?
家族の助けを借りて決めたいと主治医へ伝え、どの程度任せたいのかを話し合えます。考える負担が大きいときも、患者さん自身が説明を受け、希望を表す機会を持つことが大切です。
家族と一緒に判断したいのか、意味は分かるが結論を出すのがつらいのかを言葉にすると、必要な支えが具体的になります。本人が決められる状態なら、家族の意見を聞いたあとに本人の意思を確かめる形で進めます。
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この記事を書いた人 Wrote this article
前田 祐助 医学博士 / 医師
慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医