ドラッグラグとは?海外の最新がん治療薬が日本で使えない理由と背景

ドラッグラグとは?海外の最新がん治療薬が日本で使えない理由と背景

海外で承認された抗がん薬を日本にいる患者さんが使うには、海外承認とは別の確認が必要です。国内で承認されているかに加え、自分のがんの種類、広がり、遺伝子の特徴、これまでの治療が薬の対象条件に合うかを別々に確かめます。

ドラッグラグは、海外と日本で同じ薬が承認される時期に差がある状態を指します。差は薬を人へ投与する前の評価から臨床試験、承認審査へ進む長い流れの各所で生じるため、「日本の審査だけが遅い」という捉え方は不正確です。

治療中なら、海外の情報だけを追うより、国内で受けられる標準治療を確認するのが出発点です。そのうえで病名と病期に合う承認薬があるか、話題の薬が自分の治療に関係するかを主治医へ尋ねると、遠い制度の話を自分の判断に結び付けられます。

ドラッグラグとは承認時期の差を指す

ドラッグラグとは、ある薬が海外で承認された後、日本で承認されるまでに時間差がある状態です。比較の中心は、海外と日本でそれぞれ承認された日付です。この言葉自体は、薬の効果が低いという評価でも、海外なら誰でも使えるという意味でもありません。

承認は国ごとに判断される

承認とは、提出された品質、効果、安全性の資料を規制当局が確認し、どの病気や条件に使う薬として販売を認めるかを決める行政上の判断です。海外の規制当局が認めても、その判断は日本へ自動的に移らず、国内で別に判断されます。

同じ成分でも、対象となるがんの種類や治療の時期、併用する薬が国によって異なる場合があります。したがって、薬の名前が同じかだけでなく、自分の状態に対応する「適応」、すなわち承認された使い方まで照合する必要が生じます。

時間差は海外の承認日と日本の承認日で捉える

時間差を見るときは、同じ薬について基準にした海外の承認日と日本の承認日を比べます。どの国を基準にするか、最初の承認を比べるか、追加された使い方を比べるかによって数字は変わるため、単一の期間ですべてを表すのは困難です。

確かめる言葉指している内容それだけでは分からない内容
海外承認海外の当局が特定の使い方を認めた日本で同じ使い方が認められているか
国内承認日本で対象や用法が認められた目の前の患者さんに適するか
承認時期の差海外と日本の承認日の隔たり治療効果の大小や薬の優劣

個人の待ち時間を示す数字ではない

公表された時間差は、集団として薬の承認時期を比べた指標です。個人があと何か月待てば使えるかを示す数字ではありません。承認後に自分へ効果が見込めるかという予告とも異なります。

承認前の薬には日本での申請時期が決まっていないものもあり、審査中でも結果や時期は未確定です。個人の治療計画は、将来の承認を前提に止めるのではなく、現在選べる治療の根拠と目的から組み立てます。

海外で承認された薬が自分に使えるとは限らない

海外で使われているという情報は、薬が存在する証拠になります。一方、自分に合うという結論とは別であり、国内承認の有無と、承認された対象に自分が当てはまるかという2段階の確認が必要です。

対象はがんの名前以外の条件でも分かれる

抗がん薬の対象は臓器の名前だけで決まるとは限らず、同じ肺がんや乳がんでも条件は異なります。細胞を顕微鏡で見た型、病気の広がり、がん細胞に見つかった遺伝子の変化、過去に受けた治療によって、検討できる薬が分かれます。

年齢、臓器の働き、日常生活をどの程度送れるかという全身状態も治療判断に関わります。承認された範囲に入っていても、安全に投与できるか、期待できる利益が負担を上回るかは診察と検査を基に個別に判断されます。

人で確かめるまで効果と安全性には不確かさが残る

薬の候補は、細胞や動物を使った評価で働き方や毒性を調べてから、人を対象とする臨床試験へ進みます。がんの複雑な性質や人の体内での薬の動きは事前の評価だけでは十分に予測できず、人に投与して初めて分かる効果や副作用が残ります。

自分への適否は、試験に参加した人と自分の状態がどれほど近いかを確かめたうえで判断します。対象となったがんの種類や病期、治療歴が異なれば、示された効果と副作用をそのまま自分に当てはめることは困難です。期待できる利益と負担を治療目標に照らすことが、承認の有無とは別に必要です。

標準治療と海外の薬は同じ物差しで比べる

標準治療は、現時点の科学的根拠に基づき、多くの患者さんに勧められる治療です。「古い治療」を意味せず、期待できる効果、副作用への対応、適切な使い方について一定の情報が蓄積されています。

確認する対象最初に見る点治療判断で加える点
国内の承認薬自分の病名と病期が適応に入るか治療目標、持病、副作用の見込み
海外で承認された薬日本で同じ適応が承認済みか自分と試験参加者の条件が近いか
報道や体験談薬名と対象疾患が正確か比較対象と数値の出どころがあるか

海外の薬を使えないと知ると、治療の機会を失ったように感じるのは自然です。まず国内で根拠のある選択肢を確認し、話題の薬が自分に関係するなら、何と比べてどの程度の利益と負担が示されたのかを主治医と整理すると判断の軸が戻ります。

承認までの差はどの順番で生まれるのか?

承認時期の差は、最後の審査だけで突然生まれるものではありません。薬の候補を人に試す前の評価、日本での臨床試験の開始、承認申請、審査へと進む間に積み重なります。どの段階の差が大きいかは、薬の開発状況によって異なります。

薬の候補は人へ投与する前に絞り込まれる

研究の初期には、がん細胞の増殖を抑えるか、体内でどのように分解されるか、臓器への害が生じないかを調べます。有望に見えた候補がすべて人を対象とする試験へ進むのではなく、期待した働きが得られない場合や安全上の懸念がある場合には開発が止まります。

この段階は通常、海外と日本の承認日の差には直接数えられないものの、全体像を捉えるうえで大切です。薬が患者さんへ届くまでには、承認申請よりかなり前から評価と絞り込みが続いています。

臨床試験の開始時期が後ろにずれる

臨床試験では、少人数で安全な投与量を探り、対象を広げて効果と副作用を評価し、既存の治療などと比べる段階へ進みます。各段階で継続できるだけの結果が得られた候補だけが次へ進むため、開始から申請までには相応の時間が必要です。

海外で試験が始まった後に日本での開発が始まれば、その出発時点の差が後の承認時期へ影響します。米国との比較では、審査に入ってからの時間だけでなく、日本で開発を始める時期の遅れも全体の差に関係していました。

申請資料の提出後に審査が行われる

必要な試験結果がまとまると、開発する側が品質、効果、安全性に関する資料を日本の規制当局へ提出します。審査では、薬を製造する品質が保たれるか、期待される利益が有害な影響を上回るか、対象や使い方が妥当かが検討されます。

提出された資料の確認や、開発する側への追加の照会には時間がかかります。とはいえ、日本で申請されていない薬を審査だけで承認へ進めることはできません。「海外では承認済みで日本では審査中」と「日本では開発や申請がまだ始まっていない」とでは、同じ未承認でも現在地が異なります。

進む順番行われる評価時期の差との関係
人への投与前働き方、体内での動き、毒性を調べる候補が臨床試験へ進めるか決まる
臨床試験人で投与量、効果、副作用を確かめる日本での開始時期が後なら差が生じる
申請と審査提出資料から利益と害、使い方を評価する申請時期と審査期間の双方が影響する

複数の時間差が最終的な承認日に表れる

開発をどの地域から始めるか、各国を同じ臨床試験へ含めるか、いつ日本へ申請するかという判断は互いに関連します。開発する側の地域戦略によっても差は変わるため、すべての薬を1つの理由で説明するのは正確さを欠きます。

患者さんにとって大切なのは、責任の所在を推測するより、気になる薬が現在どの段階にあるかを区別する点です。海外だけで承認済みなのか、日本で試験中なのか、申請後の審査中なのかが分かれば、承認時期を断定できなくても情報を読み違えにくくなります。

ドラッグラグとは一律に遅れる状態ではない

日本のがん領域では、海外との承認時期の差が以前より縮んだ部分がある一方、差が残る薬や対象もあります。平均値だけで自分に関係する薬の状況を推測せず、薬ごとの開発と承認の段階を見る必要があります。

がん領域では差が縮んだ部分がある

日本と海外の承認日を過去の薬と近年の薬で比べると、がん領域全体では時間差が小さくなってきた傾向が報告されています。国際的に同じ計画で臨床試験へ参加する動きや、国内での開発を早い時期から進める取り組みが続いています。

日本での開発を早めるため、規制当局と開発する側が早期から相談し、海外の試験結果をどのように利用できるかを検討する動きもあります。これは承認までの流れを前へ進める取り組みであり、個々の薬の承認や時期を保証するものではありません。

新しい仕組みの薬では差が残りやすい

従来と異なる働き方をする新規性の高い薬では、国内承認までの時間が長くなりやすいという分析があります。こうした薬には評価の経験が少なく、必要な資料や適切な対象を定めるために検討を重ねるものも含まれます。そのため、既存の型に近い薬と同じ速さで進むとは限りません。

小児用の薬を調べた研究でも、海外より承認が遅れる課題が示されています。小児の結果は成人のがんへ直接適用できないものの、対象となる人数が限られ、試験の実施や資料の収集が難しい領域では差が残り得る例です。

平均の改善と個別の未承認は両立する

複数の薬をまとめた平均の時間差が短くなっても、特定の薬が日本で未承認のままという状況は起こります。平均は全体の変化を見るには役立ちますが、薬ごとの申請予定や自分への適応を示してはいません。

見た情報読み取れる範囲個別に追加確認する点
領域全体の平均承認時期の差が長期的にどう変化したか気になる薬の国内での段階
海外の承認発表海外で認められた対象と使い方日本の承認状況と適応
国内の承認情報日本で認められた対象と用法自分の病状と治療歴への適合

改善という言葉を「もう差はない」と読み替えず、未承認という言葉を「今後も届かない」と読み替えない姿勢が大切です。公表日、対象疾患、承認された国、国内での段階を分けて確認すると、強い見出しの情報に振り回されにくくなります。

治療中の患者さんが受け止めたい現在地

治療中の患者さんは、まず現在の病状に対して国内で勧められる治療を確認する必要があります。がんは、将来使えるかもしれない薬を待つ間にも変化し得ます。承認時期が決まっていない薬を中心に治療計画を立てることには、病状に合う治療の機会を逃す危険があります。

標準治療は現在選べる根拠の出発点になる

標準治療の候補は、がんの種類、病期、検査結果、全身状態を基に絞られます。治療の目的が治癒を目指すものか、進行を抑えて生活を保つものかによっても、効果と副作用のどちらをどの程度重く見るかが変わります。

国内に複数の選択肢があるなら、それぞれで期待される効果、起こり得る副作用、通院の頻度、生活への影響を比べます。海外の薬に関する情報は、この比較を飛び越える近道ではなく、現在の選択肢に加えて主治医へ確認する材料です。

海外の情報は自分への適応まで分けて読む

報道やウェブ記事で薬を見つけたら、薬の一般名、承認した国、対象となったがん、必要な検査所見を分けて控えます。「がんに効く薬」のように対象が広く書かれた情報だけでは、自分との関係を判断する材料が不足します。

次に、日本で同じ使い方が承認されているかを確認します。承認済みでも、自分の病期や過去の治療が対象外なら通常の選択肢には入らず、未承認なら海外の結果だけから日常診療で使えるとは判断できません。

治療を待つ判断には病状の変化を含める

承認を待つ間に治療を控えるかどうかは、情報収集だけでは決まりません。診察では、今のがんがどの速さで変化しているか、症状があるかを評価します。さらに、現在の治療を遅らせたときに取り戻せない不利益が生じるかを確認します。

治療の延期や中止を自分だけで決めず、話題の薬を知った時点で主治医へ伝えてください。承認の見込みが不明でも、今の治療を続ける理由、切り替えを検討する条件、次に評価する時期を明確にすれば、待つか進むかを現実的に判断できます。

主治医へは確認内容を順番に伝える

主治医への相談では、海外の薬を使いたいと結論から迫るより、自分の病名と病期で国内にどの選択肢があるかを最初に確認します。その後に気になる薬の名前と情報源を示し、自分が承認対象に当たるかを尋ねると話が整理されます。

自分の診断情報を手元にそろえる

薬との関係を確かめるには、正式な病名、組織型、病期、遺伝子検査などの結果、これまでに使った薬が基礎情報になります。自分で全部を読み解く必要はなく、診察でどの項目が治療選択に関係しているかを確認すれば十分です。

  • 現在の病名、組織型、病期が書かれた説明書や検査結果
  • 受けた手術、放射線治療、薬物療法の名称と時期
  • 気になる薬の一般名、承認国、情報を見た日付と出どころ

薬の商品名しか分からない場合も、そのままメモを持参できます。似た名前の薬や別の成分を取り違えないよう、画面の写しや印刷物を示すと、主治医が対象疾患と国内承認の状況を確認しやすくなります。

質問は国内の選択肢から始める

最初の質問は、「私の病名と病期で、国内で承認されている薬には何がありますか」と具体化できます。選択肢が複数あるなら、どの治療を先に勧めるか、その理由、期待できる利益、注意したい副作用を続けて尋ねます。

  • この薬は日本で私のがんに承認されていますか
  • 海外で承認された対象と私の検査結果は一致しますか
  • 現在の治療を待つ不利益と、続ける利益は何ですか

診察時間内にすべてを聞けないときは、質問に優先順位を付けます。現在の治療を続けるかどうかに直結する内容を先に確認してください。承認時期が公表されていない薬の予測を後へ回すと、今日必要な判断を置き去りにせずに済みます。

答えは使えるか使えないかの二択にしない

主治医の答えが「今は対象にならない」でも、理由を分けて聞くと次の判断につながります。国内未承認なのか、承認済みでも自分のがんが適応外なのか、検査条件が一致しないのか、体の状態から負担が大きいのかでは意味が違います。

説明を聞いたら、現在勧められる治療、その治療を評価する時期、効きにくい場合や副作用が強い場合に再検討する選択肢を確認します。発熱、息苦しさ、意識の変化など治療中に指示された緊急症状が出たときは、次の予約日を待たず医療機関へ連絡してください。

よくある質問

海外で承認された薬は日本でまったく使えないのですか?

日本でも同じ薬が別のがんや別の使い方で承認されている場合があるため、薬名だけでの判断は困難です。自分の病名、病期、検査結果に対応する適応が国内にあるかを主治医へ確認すると、現在の選択肢が分かります。

承認を待てば自分にも使えますか?

承認後も対象となるがんの種類や検査条件が決まるため、待てば使えるとは限りません。現在の治療を遅らせる不利益を主治医と確認し、今選べる治療と評価時期を決めたうえで、公表された承認情報が自分の条件に合うかを改めて確かめます。

国内承認が遅い薬は効果が高いのですか?

承認の遅さから効果の高さは判断できず、両者は別の評価です。承認の時間差には、開発の開始時期、臨床試験、申請と審査の時期が関わります。効果については、試験で何と比べ、どの患者さんに、どの程度の差が示されたかを確認します。

気になる薬があれば、海外承認という言葉だけでなく、対象疾患、比較した治療、利益の大きさ、重い副作用を主治医と確認します。

主治医が海外の薬を勧めないのは情報不足だからですか?

勧めない理由は情報不足とは限らず、国内未承認、自分のがんが対象外、現在の標準治療を先に行う利益が大きい、安全面の負担が大きいなど複数あります。

納得できないときは、使えない理由を承認状況、適応、効果、安全性に分けて説明してもらい、今勧められる治療と見直す条件を確認します。

次の診察までに何を準備すればよいですか?

正式な病名と病期、検査結果、これまでの治療歴、気になる薬の名前と情報源をそろえると相談しやすくなります。

最優先の質問を「国内で私に使える薬は何か」と決め、次に気になる薬の国内承認と自分への適応を尋ねます。治療中なら、今の治療を続ける理由と次に効果を評価する時期もメモに残します。

References

Tachibana, Y., & Narukawa, M. (2023). Oncology drug lag in Japan: has it improved over the last decade? International Journal of Clinical Oncology, 28(11), 1451-1460. https://doi.org/10.1007/s10147-023-02395-x

Nakamura, H., et al. (2022). An empirical analysis of Japan’s drug development lag behind the United States. Journal of Clinical Pharmacology, 62(7), 847-854. https://doi.org/10.1002/jcph.2023

Miyazaki, T., et al. (2022). Lag time for new innovative, first-in-class, drug approval in Japan. Biological & Pharmaceutical Bulletin, 45(4), 477-482. https://doi.org/10.1248/bpb.b21-00898

Hidaka, M., Hanaoka, H., & Uyama, Y. (2024). Different development strategies affecting Japan’s drug lag between Japan-based and foreign-based companies. Therapeutic Innovation & Regulatory Science, 58(4), 714-720. https://doi.org/10.1007/s43441-024-00649-y

Kohno, Y., et al. (2025). Expediting drug development in Japan: A PMDA perspective. Clinical Pharmacology & Therapeutics, 118(6), 1262-1264. https://doi.org/10.1002/cpt.70022

Ueyama, E., Kaneko, M., & Narukawa, M. (2021). Analysis of pediatric drug approval lag in Japan. Therapeutic Innovation & Regulatory Science, 55(2), 336-345. https://doi.org/10.1007/s43441-020-00218-z

Wong, C. H., Siah, K. W., & Lo, A. W. (2019). Estimation of clinical trial success rates and related parameters. Biostatistics, 20(2), 273-286. https://doi.org/10.1093/biostatistics/kxx069

Honkala, A., Malhotra, S. V., & Kummar, S. (2022). Harnessing the predictive power of preclinical models for oncology drug development. Nature Reviews Drug Discovery, 21(2), 99-114. https://doi.org/10.1038/s41573-021-00301-6

この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医