拡大治験(コンパッショネートユース)とは?治験外で未承認薬を使うための制度

拡大治験(コンパッショネートユース)とは?治験外で未承認薬を使うための制度

拡大治験は、生命に重大な影響がある病気で既存の治療法がなく、通常の治験にも参加できない患者さんが、承認前の薬を使える場合を設ける仕組みです。コンパッショネートユースと呼ばれる考え方を、日本では治験の枠内で運用します。

治験の条件から外れたという理由だけで利用できる制度ではなく、薬の開発段階、期待される利益と危険性、医療機関の実施体制、開発企業の供給判断がそろう必要があります。開始まで待てるかという時間の問題も、現在の治療と並べた検討が必要です。

まず利用の前提を確かめ、治験との目的の違い、限られた情報の読み方、主治医へ相談するときの確認点へ順に進みます。

拡大治験は誰でも未承認薬を使える窓口ではない

拡大治験の対象は、重い病気があり、承認された治療も通常の治験への参加も現実的でない患者さんに限られます。薬を使いたいという希望は相談の出発点になりますが、利用を決める条件とは別です。

治験に参加できない理由だけでは決まらない

治験には、病気の種類や進行度、臓器の働き、これまで受けた治療などに関する参加条件があります。条件から外れた場合でも、まず承認済みの治療に有効な選択肢が残っていないかを確認し、そのうえで病状の重大性と薬を待つ余裕を見ます。

年齢や検査値が治験の条件に合わないとき、その同じ要素が承認前の薬による危険を高める場合もあります。治験へ入れなかった理由は、拡大治験なら無視できる条件ではなく、安全に投与できるかを判断する材料です。

日本では治験の管理下で行われる

コンパッショネートユースは、治験の外にいる患者さんへ承認前の薬を届ける国際的な考え方です。日本の拡大治験では治験として実施計画を定め、参加する医療機関が説明と同意、投与、検査、有害事象の報告を担います。

患者申出療養は患者さんの申し出を起点に検討する仕組みであり、拡大治験とは別制度です。名称が似た説明を見かけたら、どの制度に基づく提案なのかを主治医へ確かめると混同を避けられます。

対象かどうかを分ける3つの軸

対象の判断では、患者さんの病状だけでなく、薬の開発状況と実施側の準備も同時に確認されます。拡大治験による投与と経過評価は実際に報告されていますが、報告例があるという事実と別の薬や病気での利用保証は別の話です。

確認する軸主な確認内容対象外になりうる例
患者さんの状態病状の重大性、ほかの治療法、投与に耐えられる体調有効と考えられる承認済み治療が残っている
薬の状態開発段階、得られた有効性と安全性の情報、供給量人での情報が乏しく利益と危険を評価できない
実施体制担当医、検査設備、緊急時対応、審査と報告の体制安全に投与し追跡する準備が整わない

コンパッショネートユースが想定する場面

想定されるのは、生命に重大な影響がある病気に対してほかの治療法がなく、開発が進んだ薬を通常の治験で受けられない場面であり、単に新しい薬を早く使いたいという希望とは出発点が異なります。

現在使える治療法が残っていない

「ほかに治療法がない」は、薬の名前が尽きた状態より広い概念です。がんの性質、過去の治療効果、副作用、心臓や肝臓などの機能を踏まえ、承認済み治療から期待できる利益が乏しい状態を医師が医学的に判断します。

標準的な治療を本人が望まないという理由は、承認前の薬を自動的に優先する根拠にはならないのが原則です。既存治療を選ばない理由を整理し、負担を減らした投与法や症状を和らげる治療も含めて比較する必要があります。

薬の開発が終わりに近づいている

拡大治験は、人への投与を始めたばかりの薬を自由に試す枠とは異なります。通常は主要な治験が終了したか終了に近く、一定の有効性が期待され、安全性についても利益との釣り合いを検討できる段階が前提になります。

新薬候補の開発には複数段階の試験と長い評価期間があり、途中で開発が終了する候補も多くあります。開発の早い段階では結果の不確実さが大きく、患者さんへ広げる判断に必要な情報や供給量も足りないためです。

通常の治験へ参加できない事情

主要な治験が参加者の募集を終えている、実施場所へ通えない、参加条件の一部から外れるといった事情が検討の入口になります。その事情が拡大治験の実施計画でも除外条件に当たれば、利用は難しくなります。

検討される場面確認される内容注意点
治験の募集が終わった主要な治験の進み具合と拡大治験の計画募集終了だけで実施が決まるわけではない
治験の条件から外れた外れた理由と投与時の危険性同じ理由で対象外になる場合がある
治験施設へ通えない近くの医療機関が実施可能か薬だけを別施設へ送れない場合がある

開始を待つ時間も医学的な条件になる

実施計画の作成、医療機関内の審査、薬の準備には時間を要します。がんの進行が速いと見込まれ、その間に体調が変わる恐れが高いときは、利用できるかだけでなく、待つ利益が現在受けられる治療の利益を上回るかが大切です。

待っている間に痛みや息苦しさが増す、食事や水分が取れない、意識がぼんやりするといった変化があれば注意が必要です。制度の回答を待たず主治医へ連絡してください。症状への治療は、承認前の薬を検討している間も続けます。

拡大治験は患者さんの希望だけでは始まらない

開始には、主治医と実施医療機関が医学的に適切と判断し、開発企業が薬を提供でき、審査を経た実施計画へ本人が同意するという複数の条件が要ります。どれか1つが欠けても投与に進めない仕組みです。

主治医が確認する病状と既存の選択肢

主治医は診断名だけで判断せず、病理検査の結果、遺伝子などの検査結果、治療歴、現在の臓器機能を照合します。薬が作用すると考えられる特徴があっても、重い副作用の危険が高ければ勧められない場合があります。

別の医療機関が実施する場合には、診療情報を共有し、通院や入院が可能かも調べます。投与後の急変へ対応できる設備と専門職が必要なので、実施施設の決定には主治医の希望に加えて受け入れ側との調整が要ります。

開発企業は供給と開発への影響を判断する

開発企業は、使用できる薬の量、品質を保つ配送、治験参加者への供給、承認申請に向けた開発計画を踏まえて提供の可否を決めます。薬の製造量が限られる時期には、医学的に候補となっても供給できない状況が生じます。

企業が提供を断った場合、患者さんの病状への評価よりも、薬全体の管理が理由になっている場合があります。安全性の情報が不足している、主要な治験へ必要な量を確保できない、投与後の情報を適切に集める体制がないなどの事情です。

安全の土台となる審査と説明同意

治験外で承認前の薬を使うには、期待される利益と危険性、対象者の選び方、重い有害事象が起きた際の対応を第三者の視点でも確認する必要があります。患者さんの希望だけに任せず、公平性と安全性を検討する点が倫理審査の中心です。

説明文書では、期待できる効果だけでなく、分かっていない副作用、代わりに選べる治療、途中で中止する条件、健康被害が起きた際の対応を読みます。同意書へ署名する前なら疑問を持ち帰ってよく、参加後も本人の意思で同意を撤回できます。

実施に進めない場合の理由の具体化

利用できないと伝えられたときは、次のように理由を分けて確かめると、その後に選べる診療が見えやすくなります。

  • 患者さんの体調や病気の状態が実施計画に合わない
  • 薬の有効性と安全性の情報がまだ不足している
  • 薬の供給量や実施医療機関の体制が整わない
  • 準備期間が病状からみて長すぎる

理由によっては、体調を整えて再評価できる余地があります。供給や実施体制が整う時期を待てない場合には、現在利用できる治療と症状を和らげる診療を止めず、短い間隔で方針を見直します。

治験と何が違うのか?

通常の治験は薬の有効性と安全性を科学的に確かめ、承認へつなげる研究です。拡大治験は、通常の治験へ参加できない患者さんに治療の機会を設ける目的が中心で、集まる情報の性質も異なります。

目的は比較研究より治療機会に重きを置く

通常の治験では、対象者をそろえ、あらかじめ決めた評価項目に沿って結果を集めます。薬によっては無作為に複数の治療群へ分け、どの治療を受けるかを公平な方法で決めるため、希望した薬の投与は保証されていません。

拡大治験にも実施計画とデータ収集はありますが、主眼は対象となる患者さんへ薬を届けながら安全を管理する点にあります。研究の目的や通院日程がなくなるわけではなく、通常診療より検査や記録が増える場合もあります。

参加者の背景がそろいにくい

拡大治験には、年齢、臓器機能、過去の治療歴などが主要な治験の参加者と異なる患者さんが含まれます。体調の幅が広い集団で観察された効果や副作用を、背景のよくそろった集団で得た結果と単純に比べると誤った解釈につながります。

治療を受けなかった比較群が置かれない場合、がんの自然な経過と薬の影響を切り分けるのも難しくなります。米国の拡大アクセスと第3相試験の数字を見比べるときも、対象者や評価方法の違いを確認する必要があります。両者は同じ物差しで効果を確定した結果ではありません。

同じ数字でも意味が変わる

「何人中何人に変化があった」という数字には、誰を数えたか、画像をいつ評価したか、途中で投与を終えた人をどう扱ったかが影響します。少人数の拡大治験で示された高い割合を、自分にも同じ確率で効くという意味で読むのは不適切です。

比較点通常の治験拡大治験
中心となる目的有効性と安全性を研究として評価する治験に参加できない人へ治療機会を設ける
参加者決められた条件に合う集団主要な治験とは背景が異なる集団
結果の読み方決めた評価方法や比較に沿って読む比較群や人数の限界を踏まえて読む

分かっている情報が少ない中で効果と安全性を読む

承認前の薬には、有効性がまだ確定せず、知られていない副作用も残るという性質があります。期待できる点と不確かな点を分け、結果の数字より先に、どの段階まで人で確かめられた薬なのかを確認します。

動物や細胞での結果は人の効果を保証しない

細胞や動物を使う臨床前試験は、人へ投与する根拠を作る大切な評価です。人のがんは体内の環境や免疫、同時に使う薬の影響を受けるため、臨床前の反応だけによる治療効果や適切な量の予測には限界があります。

人での初期試験でも、最初の主な目的が安全に使える量を探る点に置かれる場合があります。腫瘍が小さくなった人がいたという初期結果は期待の材料ですが、長く病気を抑えられるかを答えるには観察人数と期間が不足しがちです。

新しい薬への期待と確認済みの事実を分ける

治験に関する理解を調べた研究では、患者さんや家族の期待と研究上の目的に隔たりが生じうると報告されています。「新しい」「開発中」という情報は、既存治療よりよく効くという比較結果を示す表現ではない点に注意が要ります。

効果を見る際は、腫瘍の縮小、症状の変化、病気が進むまでの期間、生存期間を区別します。画像上の変化があっても症状や生存への影響がまだ分からない段階があり、別々の評価項目を同じ意味として扱わない姿勢が要ります。

副作用は頻度と重さを分けて確認する

少人数でしか投与されていない薬では、吐き気や発熱など比較的よく見つかる症状は把握できても、まれで重い副作用の頻度は未確定です。ほかの病気を持つ人や臓器機能が低い人で危険が増えるかも、情報が限られます。

拡大アクセスの副作用情報を読むときは、報告された人数と記録方法を確かめます。報告数が少なく方法にばらつきがあれば、頻度の評価には限界があります。がん以外の領域から得た知見を、がんの具体的な頻度へ置き換えるのは不適切です。

情報確認できる内容残りやすい不確かさ
初期の臨床試験投与量、起こりやすい副作用、初期の反応長期の効果、まれな重い副作用
主要な治験決めた条件の集団での有効性と安全性条件から外れる人での結果
拡大治験実際に投与した人の経過と有害事象比較群がない影響、少人数による偏り

体調変化に備えて連絡方法を決める

投与前に、日中と夜間の連絡先、すぐ報告する症状、次の受診日まで記録する症状を確認します。発熱、息苦しさ、意識の変化、急な発疹などは薬によって緊急度が異なるため、一般論ではなく説明文書の基準に従ってください。

「期待した効果が見えない」「副作用が生活を大きく損なう」「病状が進んだ」と判断した場合の中止基準も先に聞きます。中止は失敗ではなく、危険を抑えて次の診療へ移るための医学的な判断です。

主治医への相談と待てる時間の整理

現実的な第一歩は、薬の名前だけを尋ねるのではなく、自分がなぜ通常の治験に参加できず、現在の病状でどれほど待てるのかを主治医と整理する作業です。相談中も現在の治療や症状への対応は続けます。

相談前に診療情報をそろえる

病理診断、がんの広がり、遺伝子などの検査結果、これまでの治療と中止理由、現在使っている薬を整理すると、候補になりうるかを医学的に検討しやすくなります。検査結果は要約だけでなく、可能なら報告書そのものを用意します。

インターネットで見た薬がある場合は、薬の一般名、開発番号、情報を見た日付と出典を控えます。似た名前の薬や古い募集情報を避ける準備であり、情報の持参と提供依頼は別です。

主治医へ尋ねる内容を絞る

限られた診察時間では、利用の可否だけでなく、判断の根拠と時間軸を尋ねると次の選択へつながります。複数の選択肢を同じ項目で整理すると、違いを理解し、自分が重視する条件に沿って決めやすくなります。

  • 現在使える承認済み治療には何があり、期待できる利益はどの程度か
  • 通常の治験に参加できない理由は、安全面でも問題になるか
  • 候補薬はどの開発段階にあり、何が分かっていて何が未確定か
  • 返答や開始までの見込みと、その間に続ける診療は何か

利用が難しいという回答でも、その理由を記録します。体調の変化や新しい情報が出た際に、再評価すべき点が分かるためです。医学的な理由、供給上の理由、実施体制の理由を分けて聞くのが有用です。

待つ利益と現在失うものを並べる

開始時期が未定なら、待っている間にがんが進む危険、体力が低下して投与できなくなる危険、現在選べる治療を始める利益を並べます。回答を待つ期限を主治医と決め、その日までに進展がなければ別の方針へ移るという区切りも選択肢です。

治療を受けたいという強い気持ちがあるほど、断られたときの落胆は大きくなります。その気持ちと薬の医学的な評価は別に扱い、痛みや息苦しさ、食欲低下などへの診療を同時に続けると、待機中の負担を減らせます。

費用と通院負担は内訳で確かめる

費用は、薬そのもの、投与に伴う診察や検査、入院、交通や宿泊などに分けて確認します。誰がどの費用を負担するかは実施計画や医療機関で異なり、治験薬が提供されても周辺の負担が残る場合があります。

保険診療として扱われる部分と自己負担になる部分、健康被害が起きた際の補償、予定外の入院や追加検査の扱いを文書で確認します。遠方へ通う場合は付き添い、仕事や介護の調整も含め、開始後に継続できる負担かを家族と話し合います。

よくある質問

治験の条件から外れたら拡大治験を利用できますか?

治験の条件から外れただけでは利用の可否は決まらず、別途判断されます。生命に重大な影響がある病気でほかに有効な治療法がないか、候補薬の開発が進み利益と危険を評価できるか、実施体制と供給が整うかを確認します。

まず主治医に、治験へ参加できない理由が拡大治験でも安全上の問題になるかを尋ねます。利用できない場合は、その理由と現在選べる治療を確認します。さらに、返答を待てる期限も一緒に確かめます。

患者さん本人から開発企業へ薬の提供を頼めますか?

本人の依頼だけで薬の提供が始まる仕組みではなく、医療側の手続きが要ります。主治医と実施医療機関による医学的な検討、開発企業の供給判断、必要な審査と説明同意がそろって初めて投与へ進めます。

企業へ直接連絡する前に、主治医へ候補薬の名前と情報源を示し、自分の病状で検討に値するかを確認します。医療機関から正式に照会する必要がある場合は、担当する部署と必要資料を聞きます。

海外で使われている未承認薬なら対象になりますか?

海外で使用例があるだけでは対象と判断されず、個別の確認が要ります。日本での開発計画、主要な治験の進み具合、有効性と安全性の情報、薬の供給、国内で安全に実施できる医療機関の有無を調べます。

効果が見られなければ途中で中止できますか?

本人は途中でも同意を撤回できます。医師も、病状の進行、重い副作用、投与を続ける利益が乏しいと判断した場合には、実施計画に沿って中止します。

中止を考える基準と、中止後に受ける診療を投与前に確認します。つらい症状を我慢して続けず、変化を連絡する目安と夜間の連絡先を手元に置いてください。

相談してから投与開始までどのくらいかかりますか?

一律の期間はありません。実施計画と審査の進み具合に加え、医療機関の準備や薬の供給状況で変わります。主治医には回答の見込み日と、その日までに体調が変わった場合の連絡方法を尋ね、待機中の治療を自己判断で中断しないようにします。

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医