
子宮頸がんは、HPV(ヒトパピローマウイルス)の持続感染が原因で発症するがんです。年間約60万人以上が世界で新たに診断されており、女性の健康を脅かす深刻な疾患といえます。
しかし、HPVワクチンを適切な時期に接種すれば、子宮頸がんの発症リスクを大幅に下げられることが大規模な研究で明らかになっています。とくに性交渉を経験する前の若い年齢での接種が高い効果を発揮します。
この記事では、HPVワクチンの効果に関するエビデンスや接種の適切な時期、安全性、検診との併用など、がん予防のために知っておきたい情報をわかりやすくお伝えします。
子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)はどのようにがんを防ぐのか
HPVワクチンは、子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルスへの感染を予防することで、がんの発生そのものを防ぎます。ウイルスに感染する前にワクチンを接種しておくことで、体内に抗体が作られ、将来の感染リスクを大きく減らせるのです。
HPV(ヒトパピローマウイルス)とはどんなウイルスなのか
HPVは性的接触を通じて感染するごく一般的なウイルスで、200種類以上の型が確認されています。多くの型は自然に排除されるため、感染しても気づかないケースがほとんどです。
ただし、一部の「高リスク型」と呼ばれるタイプが長期間にわたり感染を続けると、細胞の異常を引き起こし、やがてがんへ進展する恐れがあります。
とくにHPV16型と18型は、子宮頸がん全体の約70%に関与しています。性交渉の経験がある女性の約80%が、生涯で一度はHPVに感染するとされており、決して珍しいウイルスではありません。
ワクチンがウイルス感染を防ぐ仕組み
HPVワクチンには、ウイルスの殻の一部を人工的に再現した「ウイルス様粒子(VLP)」が含まれています。この粒子は感染力を持たないため安全でありながら、体の免疫系を強く刺激して抗体の産生を促します。
接種後に体内で作られた抗体は、実際のHPVが侵入してきたときに速やかにウイルスを排除します。感染そのものを防ぐため、ウイルスが細胞に定着して異常を引き起こす前に対処できるわけです。
現在使われているHPVワクチンの種類と対応型
| ワクチンの種類 | 対応するHPV型 | 予防できるがんの割合 |
|---|---|---|
| 2価ワクチン | 16・18型 | 約70% |
| 4価ワクチン | 6・11・16・18型 | 約70%+尖圭コンジローマ |
| 9価ワクチン | 6・11・16・18・31・33・45・52・58型 | 約90%+尖圭コンジローマ |
感染前の接種がカギになる理由
HPVワクチンはあくまで「予防」を目的としたものであり、すでに感染しているウイルスを治療する作用はありません。そのため、ウイルスに曝露される前――つまり性交渉を経験する前に接種を済ませておくことが、効果を引き出す上で極めて大切です。
初めての性交渉後に接種した場合でも一定の効果は期待できますが、予防できる範囲は限られてきます。早期の接種が推奨されるのは、こうした科学的根拠に基づいています。
HPV感染から子宮頸がんに至るまでの経過を知っておこう
HPVに感染してから子宮頸がんが発症するまでには、通常10年から20年以上の長い年月がかかります。この間に段階的な変化が起こるため、早期発見と予防の両面で対策が可能です。
HPV感染から前がん病変への進行
HPVに感染しても、約90%の方は免疫の働きによって1〜2年以内にウイルスが自然に排除されます。しかし残りの約10%の方では、ウイルスが子宮頸部の細胞に長期間とどまり続け、「持続感染」の状態に入ります。
持続感染が数年にわたって続くと、子宮頸部の細胞に「異形成」と呼ばれる変化が生じます。軽度異形成(CIN1)から高度異形成(CIN2・CIN3)へと進む可能性があり、CIN3はがんの一歩手前の状態です。
前がん病変から浸潤がんへの移行
高度異形成の段階でも、すべてががんに進むわけではありません。一部は自然に正常へ戻ることもあります。ただし、CIN3を放置すると数年から十数年かけて浸潤がん(周囲の組織に広がるがん)に進展するリスクが高まります。
子宮頸がんの5年相対生存率は、早期に発見された場合は90%を超えるものの、進行してから見つかると大きく下がってしまいます。だからこそ、感染予防と定期検診の組み合わせが重要なのです。
日本における子宮頸がんの現状と課題
日本では毎年約1万1000人が子宮頸がんと診断され、約2900人がこの病気で命を落としています。とくに20代後半から40代の女性に増加傾向がみられ、妊娠・出産を考える年代に直撃する深刻な問題です。
ワクチン接種率が一時的に低迷した時期があり、他の先進国と比べて予防対策が遅れている面も否めません。接種勧奨が再開された現在、正しい情報に基づいて行動することが求められています。
HPV感染から子宮頸がん発症までの流れ
| 段階 | 期間の目安 | 状態 |
|---|---|---|
| HPV感染 | 感染直後 | 自覚症状なし |
| 持続感染 | 1〜2年以上 | 免疫で排除されず定着 |
| 軽度異形成(CIN1) | 数年 | 自然消退の可能性あり |
| 高度異形成(CIN2/3) | 数年〜十数年 | 前がん状態 |
| 浸潤がん | 10〜20年以上 | がんの確定診断 |
子宮頸がんワクチンの予防効果はどれほど高いのか
大規模な疫学研究により、HPVワクチンは子宮頸がんの発症リスクを最大で約90%低減することが実証されています。臨床試験だけでなく、実社会での観察データからも、その効果は確かなものと裏付けられました。
スウェーデンの大規模研究が示した驚きの数値
2020年に発表されたスウェーデンの全国規模の研究では、約170万人の女性を対象にHPVワクチンと子宮頸がんの関連が調べられました。17歳未満でワクチンを接種した女性は、未接種の女性と比べて子宮頸がんの発症率が約88%低下していたのです。
17〜30歳で接種した場合でも約53%の低下が認められましたが、若年での接種がいかに効果的であるかが際立つ結果でした。
デンマークとイギリスでも再現された効果
デンマークの研究では、16歳以下で接種した女性の子宮頸がん発症リスクが86%低下したことが報告されています。イギリスの研究でも、12〜13歳で接種を受けた世代では子宮頸がんが87%減少し、CIN3(高度異形成)も97%減少していました。
各国のHPVワクチン効果に関する主要研究
| 研究実施国 | 対象者数 | がんリスク低下率 |
|---|---|---|
| スウェーデン | 約170万人 | 最大88%(17歳未満接種) |
| デンマーク | 約88万人 | 最大86%(16歳以下接種) |
| イギリス | 約1370万人年 | 最大87%(12〜13歳接種) |
集団免疫(ハードイフェクト)による間接的な恩恵
ワクチンの効果は、接種した本人だけにとどまりません。接種率が高い地域では、ワクチンを受けていない人々のHPV感染率も低下することが確認されています。いわゆる「集団免疫」と呼ばれる現象です。
60か国以上のデータを分析したメタアナリシスでは、接種プログラム開始後5〜8年で、未接種の女性においてもHPV16・18型の感染率が大幅に減少していました。社会全体で接種率を上げることが、コミュニティ全体の予防につながるといえるでしょう。
接種する年齢で効果が変わる|HPVワクチンは何歳までに打つべきか
HPVワクチンの効果は接種時の年齢によって大きく異なり、9〜14歳で接種した場合に74〜93%という高い有効性が報告されています。年齢が上がるほど効果は低下するため、できるだけ早い時期の接種が望ましいでしょう。
9〜14歳の接種が推奨される根拠
WHOや各国の保健機関が小学校高学年から中学生の年代での接種を推奨しているのは、性交渉によるHPVへの曝露前に免疫を確立するためです。この年齢層は免疫応答も活発で、ワクチンによる抗体産生量が成人よりも多いことがわかっています。
日本では小学6年生から高校1年生相当の女子が定期接種の対象とされています。この時期を逃さずに接種を済ませることが、将来の子宮頸がん予防において重要です。
キャッチアップ接種という選択肢
定期接種の時期を過ぎてしまった方でも、キャッチアップ接種の制度を利用して接種を受けることが可能です。過去に接種機会を逃した1997年度〜2007年度生まれの女性を対象に、期間限定で公費での接種が行われています。
すでにHPVに感染していた場合でも、まだ感染していない型に対しては予防効果を得られるため、あきらめる必要はありません。ただし、年齢が上がるほど効果は限定的になるため、迷っている方は早めの相談を検討してみてください。
男性のHPVワクチン接種も広がっている
HPVは子宮頸がんだけでなく、中咽頭がんや肛門がん、陰茎がんなど男性にも関連するがんを引き起こす場合があります。そのため、多くの国で男女ともにワクチン接種が推奨されるようになりました。
男性への接種は本人のがん予防に加え、パートナーへのHPV感染を防ぐ効果も期待できます。性別に関係なく接種率を高めることが、社会全体のHPV関連疾患の減少につながります。
- 9〜14歳での接種が最も高い予防効果を発揮する
- 定期接種の対象は小学6年生から高校1年生相当の女子
- キャッチアップ接種は期間限定のため早めの確認が必要
- 男性への接種も多くの国で推奨されている
子宮頸がんワクチンの副反応と安全性が気になる方へ
HPVワクチンの安全性は世界中で数億回以上の接種実績と多数の臨床試験を通じて確認されており、重篤な副反応の頻度は極めて低いことが明らかになっています。
よく報告される副反応とその頻度
接種後に最も多くみられるのは、注射部位の痛み、腫れ、赤みといった局所的な反応です。これは他の一般的なワクチンでも起こる症状であり、通常は数日以内に自然に治まります。
全身的な症状としては、倦怠感、頭痛、筋肉痛、発熱などが報告されていますが、いずれも一時的なものがほとんどです。接種直後にまれに起こる失神(迷走神経反射)への対策として、接種後15分程度は院内で安静にすることが勧められています。
大規模調査で確認された長期的な安全性
30件以上のシステマティックレビューを包括的に分析したアンブレラレビューでは、HPVワクチン接種後に重篤な有害事象が増加したという証拠は認められませんでした。
HPVワクチンの主な副反応と頻度
| 副反応の種類 | 頻度 | 持続期間 |
|---|---|---|
| 注射部位の痛み | 50%以上 | 1〜3日 |
| 倦怠感 | 約20〜30% | 1〜2日 |
| 頭痛 | 約10〜20% | 1〜2日 |
| 発熱 | 約5〜10% | 1〜2日 |
| 重篤な副反応 | 極めてまれ | 個別対応 |
日本でのワクチン接種勧奨再開までの経緯
日本では2013年に接種後の多様な症状に関する報告を受け、積極的勧奨が一時差し控えられました。その後、国内外の専門機関による大規模な調査が行われた結果、ワクチンとこれらの症状に因果関係は認められないと結論づけられています。
2022年4月に積極的勧奨が再開され、定期接種とキャッチアップ接種がふたたび広く行われるようになりました。不安を感じる方は、かかりつけ医に相談してご自身の状況に合った判断をすることをおすすめします。
ワクチン接種だけで安心してはいけない|子宮頸がん検診との両立が大切
HPVワクチンは子宮頸がんの予防に高い効果を発揮しますが、すべてのHPV型をカバーできるわけではありません。ワクチン接種後も定期的な子宮頸がん検診を続けることで、見逃しのない万全な予防体制を築くことが大切です。
ワクチンが防げるHPV型には限りがある
9価ワクチンは子宮頸がんの原因となるHPV型の約90%をカバーしていますが、残りの約10%のがんはワクチンの対象外の型によって引き起こされます。また、接種前にすでに感染していた型に対しては効果が期待できません。
そのため、ワクチンを受けたからといって検診を省略してよいということにはなりません。両方を組み合わせることが、最も確実な予防法です。
子宮頸がん検診ではどのような検査を行うのか
子宮頸がん検診では、子宮頸部の細胞を採取して異常がないかを調べる「細胞診」が一般的です。近年ではHPV検査(ウイルスの有無を直接調べる検査)を併用する方法も広がっています。
検診によって前がん病変の段階で異常を見つけることができれば、がんに進展する前に適切な対処が可能です。20歳以上の女性は2年に1回の検診が推奨されています。
検診とワクチンの組み合わせで子宮頸がん撲滅へ
WHOは2030年までに、15歳までのHPVワクチン接種率90%、35歳と45歳までの検診受診率それぞれ70%、治療アクセス90%という目標を掲げ、子宮頸がんの「撲滅」を目指しています。
ワクチンと検診のどちらか一方ではなく、両輪で予防に取り組むことで、将来的に子宮頸がんで命を失う女性をゼロに近づけることが見えてきました。私たち一人ひとりの行動が、その目標達成を後押しします。
- 9価ワクチンでもカバーできないHPV型が約10%存在する
- 20歳以上の女性は2年に1回の子宮頸がん検診が推奨される
- 検診で前がん病変を早期発見すれば、がんへの進展を防げる
HPVワクチンの接種回数とスケジュール|2回接種と3回接種の違い
HPVワクチンは接種を開始する年齢によって、必要な回数が2回または3回に分かれます。近年では1回接種でも十分な効果が得られるとする研究も報告されており、接種回数に関する議論が世界的に進んでいます。
年齢別に異なる推奨接種回数
日本では、9〜14歳で接種を開始する場合は2回接種(0か月目と6か月目)が標準です。15歳以上で開始する場合は3回接種(0か月目・2か月目・6か月目)が推奨されています。
年齢別のHPVワクチン接種スケジュール
| 接種開始年齢 | 回数 | 接種時期 |
|---|---|---|
| 9〜14歳 | 2回 | 0か月目・6か月目 |
| 15歳以上 | 3回 | 0か月目・2か月目・6か月目 |
1回接種でも効果があるという報告
ケニアで実施された臨床試験では、1回のHPVワクチン接種でも持続的なHPV感染を効果的に防げることが示されました。WHOは2022年にガイドラインを改訂し、9〜20歳の女性に対して1回または2回接種を推奨しています。
1回接種で済むようになれば、ワクチンの供給が限られている地域でも多くの人に接種を届けやすくなるため、世界的な子宮頸がん撲滅に大きく貢献する可能性を秘めています。
規定の回数を確実に完了させることが肝心
接種回数の研究は進んでいるものの、現時点で日本国内の公式な推奨は2回または3回接種です。途中で接種を中断してしまうと、十分な免疫が得られない恐れがあります。
とくに3回接種が必要な方は、6か月間にわたるスケジュールを最後まで完遂することが大切です。スケジュールが合わない場合は医療機関に相談し、できる限り規定の間隔に近い形で接種を完了させましょう。
よくある質問
子宮頸がんワクチンは何歳まで接種できるのか?
日本で承認されている9価HPVワクチン(シルガード9)は、9歳以上の女性が対象です。海外では45歳まで接種が認められている国もあり、年齢の上限は各国の承認状況によって異なります。
定期接種の対象年齢を過ぎていても、自費での接種は可能です。年齢が高くなるほど効果は限定されますが、まだ感染していないHPV型に対する予防効果は得られます。接種を検討したい方は、まず医療機関に相談することをおすすめします。
子宮頸がんワクチンを接種すれば検診は受けなくてよいのか?
ワクチンを接種していても、子宮頸がん検診は引き続き受ける必要があります。ワクチンはすべてのHPV型を防げるわけではなく、接種前にすでに感染していた型に対しては効果が及びません。
ワクチンと検診を組み合わせることで、子宮頸がんの予防効果は飛躍的に高まります。20歳以上の女性は2年に1回の検診を続けてください。
子宮頸がんワクチンの副反応で重い症状が出ることはあるのか?
注射部位の痛みや腫れ、倦怠感、頭痛などの軽い副反応は比較的よくみられますが、いずれも一時的なものです。重篤な副反応が発生する頻度は極めてまれであり、世界中の大規模調査でワクチンの安全性は繰り返し確認されています。
接種後に体調の変化が長く続く場合は、速やかに接種した医療機関に相談してください。日本には接種後の症状に対応する協力医療機関の体制も整備されています。
子宮頸がんワクチンは男性も接種したほうがよいのか?
HPVは子宮頸がんだけでなく、中咽頭がんや肛門がんなど男性にも関連するがんの原因になります。男性がワクチンを接種することで、本人のがんリスクを減らせるだけでなく、パートナーへのHPV感染を防ぐ効果も期待できます。
多くの先進国では男女ともに定期接種の対象とされており、日本でも男性への接種が認められています。性別を問わず接種率を高めることが、社会全体のHPV関連疾患の減少に直結します。
子宮頸がんワクチンの効果はどのくらいの期間持続するのか?
臨床試験のデータでは、HPVワクチンの効果は接種後少なくとも10年以上にわたって持続することが確認されています。9価ワクチンについても、接種後5年以上の抗体持続が報告されており、長期間の観察研究が現在も継続中です。
現時点では追加接種(ブースター)が必要だという証拠は見つかっていません。ワクチンによって誘導された免疫記憶が長期間にわたり体を守り続けると考えられていますが、今後の研究結果にも注目が必要です。
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前田 祐助 医学博士 / 医師
慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医