BRCA検査の結果「VUS」とは?判定の難しさと今後の向き合い方を解説

BRCA検査の結果「VUS」とは?判定の難しさと今後の向き合い方を解説

BRCA遺伝子検査を受けた結果、「VUS(意義不明バリアント)」と告げられると、多くの方が戸惑いを感じるでしょう。VUSは「病気を引き起こす変異」とも「問題のない変異」とも断定できない、いわばグレーゾーンの判定です。

しかし、VUSは決して「お手上げ」の結果ではありません。医学の進歩により、多くのVUSが再分類され、判定が明確になるケースも増えています。

この記事では、BRCA検査におけるVUSの意味や判定が難しい背景、今後どのように情報を受け止め、行動していけばよいかを、わかりやすく丁寧に解説します。

BRCA遺伝子検査で「VUS」が出たら、まず知っておきたい基礎知識

BRCA遺伝子検査でVUS(Variant of Uncertain Significance:意義不明バリアント)が報告された場合、それは「がんリスクが高い」とも「問題ない」とも確定できない中間的な結果を意味します。不安を抱えるのは当然ですが、VUSの意味を正しく知ることで、冷静に受け止める土台ができます。

BRCA1・BRCA2遺伝子の働きと遺伝性がんとのつながり

BRCA1とBRCA2は、傷ついたDNAを修復する「相同組換え修復(HDR)」に関わる遺伝子です。これらが正常に機能していれば、細胞のDNA損傷は適切に修復されます。

一方、BRCA1やBRCA2に病的な変異があると、DNA修復がうまく働かず、乳がんや卵巣がん、前立腺がん、膵がんなどの発症リスクが高まります。

VUS(意義不明バリアント)とは何か、わかりやすく説明すると

VUSとは、遺伝子の塩基配列に通常とは異なる変化が見つかったものの、その変化ががんリスクを高めるのか、体に影響のない個人差なのかが現時点では判断できない状態を指します。

判定分類意味臨床対応
病的バリアントがんリスクを高める変異予防や治療方針に反映
良性バリアントがんリスクに影響しない変異通常のフォローアップ
VUS(意義不明)影響が不明な変異家族歴などを参考に経過観察

VUSと判定される割合はどれくらいなのか

BRCA遺伝子検査の結果のうち、およそ5〜20%がVUSと報告されています。この割合は人種・民族的背景によって異なり、ヨーロッパ系の方では比較的低く、アジア系やアフリカ系の方ではやや高い傾向があります。

検査データの蓄積が進むにつれてVUSの割合は徐々に減少しており、かつて13%程度だったBRCA1/2のVUS率が現在では2%前後まで下がっているという報告もあります。

なぜBRCA遺伝子のVUSは「判定が難しい」のか

VUSの判定が困難な理由は、遺伝子変異の影響を確実に見極めるための証拠が十分にそろっていない点にあります。変異の種類が多岐にわたること、検査データの蓄積にまだ偏りがあることなど、複数の要因が重なっています。

遺伝子変異の多様さがもたらすグレーゾーン

BRCA1とBRCA2には数千種類ものバリアントが報告されています。なかでもミスセンス変異(アミノ酸が1つ置き換わるタイプの変異)は、タンパク質の機能にどの程度影響するかの判断が特に難しいとされています。

たとえば、明らかにタンパク質の機能を喪失させるナンセンス変異やフレームシフト変異とは異なり、ミスセンス変異は「わずかに機能が低下する」場合もあれば「まったく影響がない」場合もあります。この微妙な違いがVUS判定の大きな要因です。

人種・民族間のデータ格差がVUS判定を左右する

遺伝子バリアントの臨床的意義を判断するには、大規模な集団データが必要です。しかし、これまでの研究の多くがヨーロッパ系集団を中心に行われてきたため、アジア系やアフリカ系の集団では解析データが不足しがちです。

データが少ない集団では比較対象が限られるため、結果としてVUSにとどまるケースが多くなります。

検査機関ごとに判定が異なるケースもある

同じバリアントであっても、検査機関によって判定が異なることがあります。判定基準の適用方法や参照するデータベースの範囲が機関ごとに違うためです。

ClinVarという公的データベースでは、同一バリアントに対して異なる判定が併存している例も少なくありません。

判定を難しくする要因具体的な内容
ミスセンス変異の多さ機能への影響が軽微〜なしまで幅広い
集団データの偏り非ヨーロッパ系のデータが不足
判定基準の不統一機関ごとの解釈差が残る

BRCA VUSの判定に使われるACMG/AMPガイドラインとIARCの5段階分類

VUSの判定には国際的な分類基準が用いられており、代表的なものがACMG/AMPガイドラインとIARCの5段階分類です。いずれも複数のエビデンスを組み合わせてバリアントの臨床的意義を評価する仕組みになっています。

ACMG/AMPガイドラインの分類とその仕組み

ACMG(米国臨床遺伝学・ゲノム学会)とAMP(分子病理学会)が共同で策定したガイドラインでは、バリアントを「病的」「病的の可能性あり」「意義不明(VUS)」「良性の可能性あり」「良性」の5段階に分類します。

分類にあたっては、バリアントの集団頻度、計算予測ツールの結果、機能解析データ、家系内での共分離情報など、複数の独立した証拠を統合的に評価します。証拠が十分にそろわない場合にVUSと判定されます。

IARCが提唱した5クラス分類の臨床的な活用

WHO(世界保健機関)の下部組織であるIARC(国際がん研究機関)は、BRCA1/2バリアントをクラス1(病的でない)からクラス5(病的)までの5段階に整理する分類体系を提唱しました。

クラス分類名臨床対応の目安
クラス1病的でない一般的な経過観察
クラス2病的の可能性が低い一般的な経過観察
クラス3意義不明(VUS)個別の家族歴に基づく対応
クラス4病的の可能性が高い病的変異と同様の管理
クラス5病的病的変異と同様の管理

ENIGMAコンソーシアムによるBRCA特化型の分類ルール

ENIGMA(Evidence-based Network for the Interpretation of Germline Mutant Alleles)は、BRCA1/2バリアントに特化した分類基準を開発している国際的な研究ネットワークです。

ENIGMAの基準を適用した研究では、従来基準では20%程度しか再分類できなかったVUSの83.5%を良性側に再分類できたとの報告もあり、遺伝子ごとの専門的な分類基準がVUS解消に大きく貢献しています。

飛躍的に進むBRCA VUSの再分類研究と機能解析

近年、VUSの臨床的意義を解明するための研究が急速に進んでいます。特に飽和ゲノム編集(SGE)と呼ばれる技術を用いた大規模な機能解析により、多くのVUSが「病的」または「良性」に再分類され始めました。

飽和ゲノム編集(SGE)がVUS解消を加速させている

飽和ゲノム編集とは、CRISPR-Cas9を用いて特定の遺伝子領域にあり得るすべての塩基変異を人工的に作り出し、それぞれの変異が細胞の機能に与える影響を網羅的に調べる技術です。

2025年にNature誌に掲載された研究では、BRCA2遺伝子のDNA結合ドメイン(エクソン15〜26)について、可能な一塩基変異の96〜97%の機能解析に成功しました。ミスセンスVUSのうち約77%が良性、約20%が病的と分類されたと報告されています。

HDR機能解析とACMG/AMPモデルの組み合わせで再分類が大幅に進む

相同組換え修復(HDR)機能アッセイという検査法では、バリアントがBRCA2タンパク質のDNA修復能力にどの程度影響するかを直接測定できます。このアッセイをACMG/AMPの判定モデルに組み込んだ研究では、対象VUSの92.5%を再分類することに成功しました。

機能解析データが蓄積されるほど、「意義不明」のまま放置されるバリアントは減っていくでしょう。

BRCA1でも飽和ゲノム編集による大規模分類が実現している

BRCA2だけでなくBRCA1でも、飽和ゲノム編集を用いた大規模な機能解析が進んでいます。2018年のNature誌の研究では、BRCA1の重要なドメインをコードする13のエクソンについて、可能な一塩基変異の96.5%が評価されました。

400を超える機能喪失型のミスセンス変異が新たに同定されたことで、BRCA1のVUS判定精度も向上しています。

  • 飽和ゲノム編集(SGE)による網羅的な機能解析
  • HDRアッセイを用いた修復能力の直接測定
  • 多因子モデルによる統合的な病的性評価
  • 国際コンソーシアム(ENIGMA)による継続的なデータ蓄積

BRCA VUSと告げられたあと、日常生活で心がけたいこと

VUSという結果を受け取ったとき、不安になるのは自然な反応です。ただし、VUSは病的変異が確定したわけではないため、過度に心配する必要はありません。

VUS判定を受けたあとの経過観察と定期フォローアップ

VUSの結果が出た場合、通常は病的変異と同じ対応をとる必要はなく、個人の家族歴やがんの既往歴を考慮した経過観察が中心となります。主治医や遺伝カウンセラーと相談しながら、自分に合ったフォローアップの計画を立てましょう。

定期的な検診を続けることは、VUSの有無にかかわらず大切です。乳がん検診や婦人科検診など、年齢やリスクに応じた検査を継続的に受けることが、早期発見の鍵となります。

遺伝カウンセリングを活用して正確な情報を得る

VUSの意味を正しく理解し、今後の方針を一緒に考えてくれるのが遺伝カウンセラーです。検査結果の詳しい説明はもちろん、家族歴の整理や心理的サポートも受けられます。

遺伝カウンセリングで得られること具体例
検査結果の解釈VUSの意味や今後の見通しの説明
家族歴の整理がん発症パターンからのリスク評価
心理面のサポート不安や疑問への対応

VUSは将来再分類される可能性がある

VUSと判定されたバリアントは、研究の進展やデータの蓄積によって「病的」または「良性」に再分類されることがあります。ある調査では、追跡期間中にVUSの約20%が良性に再分類され、病的に再分類されたのはわずか1%だったと報告されています。

再分類が行われた場合、検査を実施した医療機関や遺伝カウンセラーから連絡が届くことが一般的です。検査結果の情報を手元に保管しておき、定期的に現在の分類状況を確認する姿勢も大切でしょう。

BRCA VUSの結果が患者さんの心理や意思決定に与える影響

VUSという曖昧な結果は、患者さんの精神的な負担や治療・予防に関する意思決定に少なからず影響を与えます。しかし、適切な遺伝カウンセリングを受けた場合、過度な手術や極端な不安にはつながりにくいことが研究で示されています。

VUSの結果と予防的手術の選択に強い関連は見られない

VUSの判定を受けた患者さんと変異が見つからなかった患者さんとを比較した研究では、予防的乳房切除術や卵巣卵管切除術の実施率に大きな差は認められませんでした。

ただし、家族歴やがんの既往歴と合わせてVUSの結果を重く受け止め、手術を選択するケースもあります。こうした判断はVUS単独の影響ではなく、複合的な要因で決まることが多いといえます。

がんに対する不安の軽減度には差がある

VUSを告げられた患者さんは、変異陰性の患者さんに比べて、がんに対する不安の軽減幅がやや小さいことがわかっています。「結果がはっきりしない」ことへのもどかしさが心理的負担として残るようです。

こうした影響を和らげるためにも、検査前の段階でVUSが出る可能性を説明するプレテストカウンセリングが重要とされています。

医療者によるVUS結果の誤解を防ぐ取り組みも進んでいる

VUSは「意義不明」であるにもかかわらず、一部の医療者がこれを「病的変異」と誤解して管理するケースが報告されています。

この課題に対し、遺伝カウンセラーや検査機関が医療者向けの教育ツールや再分類情報の共有体制を整備する動きが広がっています。

  • 検査前のプレテストカウンセリングでVUS結果の可能性を共有
  • VUS判定後も定期的な遺伝カウンセリングで情報をアップデート
  • 医療チーム全体でVUSの正しい解釈を共有する体制づくり

BRCA VUS判定後に家族ができること、血縁者への検査をどう考えるか

VUSの結果が出た場合、血縁者への検査をどうするかは悩ましい問題です。VUSは病的変異が確定していないため、血縁者に同じバリアントが見つかっても、がんリスクを直接予測する根拠にはなりません。

血縁者に対する遺伝子検査の推奨は現時点では限定的

一般的に、VUS保有者の血縁者に対して同じバリアントの有無を調べるカスケードスクリーニングは推奨されていません。病的変異と確定していないバリアントでは、臨床的に有用な情報が得られないためです。

検査結果の種類血縁者への検査推奨度
病的バリアントカスケードスクリーニング強く推奨
VUS(意義不明)原則として推奨されない低い
良性バリアント不要なし

家族歴の共有と整理がリスク評価に役立つ

VUS判定を受けた方にとって、血縁者のがん罹患歴を詳しく整理することは、自身のリスク評価に貢献します。親族のがん発症年齢、がんの種類、何親等にあたるかなどを記録し、遺伝カウンセリングの際に共有しましょう。

再分類の情報をキャッチするために医療機関との連携を保つ

VUSは将来的に再分類される可能性があるため、検査を行った医療機関との連絡手段を確保しておくことが大切です。住所や連絡先が変わった場合は、医療機関に更新を伝えておきましょう。

再分類の通知を受け取った際には、改めて遺伝カウンセリングを受けることで、新しい判定に基づいた対応を相談できます。

よくある質問

BRCA遺伝子検査のVUS判定は、がんリスクが高いという意味ですか?

VUS(意義不明バリアント)は、がんリスクが高いとも低いとも確定できない中間的な判定です。病的変異が見つかったわけではないため、VUSだけで「がんリスクが高い」とは判断できません。

VUSの多くは、研究データの蓄積によって良性に再分類される傾向があります。不安を感じた場合は、遺伝カウンセラーや主治医に相談し、総合的なリスク評価を受けることをおすすめします。

BRCA検査でVUSと出た場合、予防的手術を検討すべきでしょうか?

VUSの判定結果のみを根拠に、予防的な乳房切除術や卵巣卵管切除術を行うことは、一般的には推奨されていません。VUSは病的変異ではないため、予防的手術の適応基準を満たさないケースがほとんどです。

ただし、家族歴にがんの集積が強くみられる場合など、VUS以外の要因からリスクが高いと判断されることもあります。手術の是非は、遺伝カウンセラーや専門医と十分に話し合ったうえで、個別の状況に応じて判断してください。

BRCA遺伝子のVUSが将来的に「良性」や「病的」に変わることはありますか?

はい、VUSは研究の進展によって再分類されることがあります。追跡調査では、VUSの約20%が良性に再分類され、病的に変わったのは約1%にとどまるという報告があります。

再分類された場合は、検査を行った医療機関から通知が届くのが通常の流れです。連絡先の変更があれば医療機関に伝えておくと安心でしょう。

BRCA VUSが検出された場合、家族にも遺伝子検査を受けてもらうべきですか?

VUSが検出された場合、血縁者への遺伝子検査(カスケードスクリーニング)は原則として推奨されていません。VUSは病的変異と確定していないため、家族に同じバリアントが見つかっても、がんリスクの予測には活用できないからです。

一方で、家族にがんの既往者が多い場合は、VUSとは別に遺伝カウンセリングを受けることで、家族全体のリスクを評価する機会を得られます。家族歴の情報を丁寧に整理し、専門家と相談することが適切な判断につながります。

BRCA VUSの再分類を早めるために、患者側でできることはありますか?

患者さんができることとして、家族歴をできるだけ詳細に整理し、遺伝カウンセリングの場で共有することが挙げられます。がん罹患者の発症年齢やがんの種類などの情報は、VUS再分類の判断材料として活用されることがあります。

VUSに関する研究やレジストリに参加する機会があれば、検討してみるのも1つの方法です。多くの患者さんのデータが集まるほど、再分類の精度が向上する可能性があります。

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医