ガーダント360(Guardant360)の特徴|リキッドバイオプシー検査の適応とメリット

ガーダント360(Guardant360)の特徴|リキッドバイオプシー検査の適応とメリット

がんの治療方針を決めるうえで、遺伝子レベルの情報は欠かせない手がかりになりつつあります。ガーダント360(Guardant360)は、血液だけでがん関連遺伝子を幅広く調べられるリキッドバイオプシー検査として注目を集めています。

従来の組織生検のように手術や針を使った採取が難しい場合でも、採血で検体を得られるため、患者さんの体への負担が小さいことが大きな利点です。

この記事では、ガーダント360の基本的な仕組みから検査の流れ、対象となる方の条件、そして組織検査との違いまでを丁寧に解説します。治療の選択肢を広げたい方、主治医からがん遺伝子パネル検査を提案された方は、ぜひ最後までお読みください。

ガーダント360とは何か|血液だけでがん遺伝子を調べるリキッドバイオプシーの仕組み

ガーダント360は、血液中に漂うがん細胞由来のDNA断片(ctDNA)を捉えて、がんに関わる遺伝子の変異を網羅的に解析する検査です。米国ガーダントヘルス社が開発し、2020年にFDA承認、2022年に日本でも製造販売承認を取得しました。

血中循環腫瘍DNA(ctDNA)から遺伝子情報を読み取る

がん細胞は増殖や死滅の過程で、自身のDNAの一部を血液中に放出します。このDNA断片をセルフリーDNA(cfDNA)と呼び、そのなかに含まれるがん由来の成分がctDNAです。

ガーダント360は、このctDNAを高感度のデジタルシークエンシング技術で検出し、塩基置換・挿入欠失・遺伝子増幅・融合遺伝子といった4種類の変異を一度に調べます。わずか0.02~0.04%のアレル頻度まで検出できる精度をもち、微量な遺伝子異常も見逃しにくい設計です。

ガーダント360とガーダント360 CDxの違い

ガーダント360には、自費診療で利用される「ガーダント360」と、承認検査として使われる「ガーダント360 CDx」の2つがあります。ガーダント360は739種類のがん関連遺伝子を解析対象としており、腫瘍遺伝子変異量(TMB)の評価も含まれます。

項目ガーダント360ガーダント360 CDx
解析対象遺伝子数739種類74種類
TMB評価ありなし
コンパニオン診断なしあり(複数薬剤)
MSI-High検出ありあり

デジタルシークエンシング技術がもたらす高い精度

ガーダント360が採用するデジタルシークエンシングは、cfDNAの各分子に固有のバーコードを付与し、シークエンシング後にもとの分子配列を再構成する技術です。一般的な次世代シークエンサーよりも偽陽性を大幅に減らせるため、アレル頻度が非常に低い変異でも正確に捉えられます。

臨床バリデーション試験では、陽性適中率98%以上が確認されており、組織生検で得られた結果との高い一致率が報告されています。

ガーダント360 CDxが対象とするがん遺伝子パネル検査の適応と条件

ガーダント360 CDxは、標準治療がない固形がん、または標準治療が終了もしくは終了見込みの固形がん患者さんを対象にしたがんゲノムプロファイリング(CGP)検査です。すべての固形がんに対して使用でき、対象がん種を限定しないのが特長といえます。

対象となる患者さんの条件

ガーダント360 CDxの適応は、局所進行もしくは転移が認められ、標準治療が終了または終了見込みの固形がん患者さんです。主治医がCGP検査施行後に化学療法の適応があると判断した場合に検査を受けられます。

ステージ3やステージ4の進行がんで、次の治療を探している段階にある方が対象になるケースが多いでしょう。血液での検査となるため、組織採取が難しい部位に腫瘍がある患者さんにも選択肢を広げてくれます。

コンパニオン診断としての機能

ガーダント360 CDxは、包括的がんゲノムプロファイリングとしてだけでなく、特定の薬剤の適応判定を補助するコンパニオン診断機能も備えています。

たとえば、MSI-Highの固形がんに対するペムブロリズマブや、KRAS G12C変異陽性の非小細胞肺がんに対するソトラシブなど、複数の治療薬との組み合わせで承認を取得しています。

2025年10月には、トラスツズマブ デルクステカンのHER2陽性固形がんに対するコンパニオン診断としても新たに承認されました。リキッドバイオプシーでERBB2コピー数異常を検出する国内初の事例です。

74遺伝子を一度に解析できる包括性

ガーダント360 CDxは、74のがん関連遺伝子について塩基置換および挿入・欠失変異を検出し、さらに18の遺伝子増幅と6の融合遺伝子、MSI-Highの有無を報告します。

一回の採血で多数の遺伝子を同時に調べられるため、がんの治療標的を効率的に見つけ出せます。

解析カテゴリ対象遺伝子数代表的な遺伝子
塩基置換・挿入欠失74遺伝子EGFR, KRAS, BRAF, PIK3CA
遺伝子増幅18遺伝子ERBB2, MET, FGFR1, CCNE1
融合遺伝子6遺伝子ALK, RET, ROS1, NTRK1
MSI-High全固形がん対象マイクロサテライト不安定性

採血だけで完結する検査の流れ|ガーダント360の検体採取から結果報告まで

ガーダント360の検査は、通常の採血とほぼ変わらない手順で進みます。患者さんにとっての負担は血液を20mL採取するだけであり、入院の必要もありません。結果が返ってくるまでの期間は原則14日以内とされています。

検体採取は専用の採血管を2本使用する

ガーダント360では、Streck社製のセルフリーDNA専用採血管(BCT)を2本用いて、合計20mLの全血を採取します。通常の静脈採血と同じ方法で、21Gまたは22Gの注射針を使います。

採血後は8~10回ゆっくりと転倒混和し、細胞の破壊によるゲノムDNAの混入を防ぎます。採血当日に臨床検査会社が検体を回収できるよう手配するのが原則です。

解析機関への検体輸送と品質管理

採取した血液は常温で輸送され、ガーダントヘルスの解析施設に届けられます。検体到着後、速やかに血漿分離が行われ、cfDNAが抽出されます。

5ng以上のcfDNAが回収された検体は全体の98.5%にのぼり、ほとんどの患者さんで十分な量の検体を確保できるとされています。

工程所要目安備考
採血約10分専用採血管2本
検体輸送翌日到着常温輸送
解析・結果報告原則14日以内電子レポートで返却

結果報告までの期間は組織検査より短い

日本国内で実施されたGOZILA研究では、リキッドバイオプシーの結果報告までの中央値は11日であり、組織検査の33日と比べて約22日短縮されたと報告されています。進行がんの治療は時間との闘いでもあるため、結果が早く届くことは治療開始のタイミングにも大きく関わってきます。

検査結果レポートの読み方

返却されるレポートには、検出された遺伝子変異の種類や変異アレル頻度、該当するコンパニオン診断の判定結果などが記載されます。

レポートの解釈は、がんゲノム医療に精通した医師やがんゲノム医療中核拠点病院のエキスパートパネルによって行われます。患者さんご自身でも内容を確認できますが、治療方針の決定は必ず主治医と相談してください。

組織検査との比較でわかるリキッドバイオプシーのメリット

ガーダント360のようなリキッドバイオプシーには、従来の組織生検にはない複数のメリットがあります。体への負担が少ないだけでなく、検査のスピードや繰り返し実施できる柔軟性においても優位性があります。

体への負担がほとんどない低侵襲性

組織生検では、がん組織を直接採取するために針を刺したり手術を行ったりする必要があり、出血や感染症などの合併症リスクが伴います。一方、リキッドバイオプシーは通常の採血だけで済むため、患者さんの体にかかる負担は格段に軽いといえるでしょう。

とくに多発転移を抱える方や、腫瘍の位置が深部にあり組織採取が難しい方にとっては、血液検査だけで遺伝子プロファイルが得られることは大きな安心材料になります。

腫瘍の全体像を反映しやすい

がんには「腫瘍内不均一性」という性質があり、同じ腫瘍のなかでも場所によって遺伝子変異が異なることが知られています。

組織生検では採取した一部分の情報しか得られませんが、リキッドバイオプシーは全身の腫瘍から血液中に流れ出たctDNAを拾い上げるため、がんの全体像をより広く捉えやすい特性があります。

再発・転移時にも繰り返し検査できる

がんは治療の過程で遺伝子変異のパターンが変化することがあり、いわゆる「耐性変異」が出現する場合もあります。リキッドバイオプシーは採血だけで実施できるため、再発や転移が疑われるたびに繰り返し検査し、その時点での遺伝子プロファイルに基づいた治療薬の選択が可能です。

  • 採血のみで検体が得られるため、繰り返しの検査でも体への負担が少ない
  • 治療途中に出現した新たな遺伝子変異(耐性変異)を追跡できる
  • 転移した部位ごとに異なる遺伝子変異を包括的に把握しやすい

NILE試験やGOZILA研究が示したガーダント360の臨床的な有用性

ガーダント360の有用性は、複数の大規模臨床試験によって裏付けられています。組織検査と同等以上のバイオマーカー検出率を示しつつ、結果返却までの期間を大幅に短縮したというデータは、臨床現場に大きなインパクトを与えました。

NILE試験が証明したバイオマーカー検出率

2019年に発表されたNILE試験(Noninvasive versus Invasive Lung Evaluation)は、北米28施設で282人の進行非小細胞肺がん患者を対象に、ガーダント360と組織検査のバイオマーカー検出率を比較した前向き試験です。

その結果、ガイドラインで推奨されるバイオマーカーの検出率は組織検査が21.3%、ガーダント360が27.3%であり、リキッドバイオプシーが組織検査に劣らないことが統計的に示されました。結果返却までの中央値も9日対15日と、リキッドバイオプシーのほうが有意に短い結果となっています。

評価項目組織検査ガーダント360
バイオマーカー検出率21.3%(60名)27.3%(77名)
結果返却中央値15日9日
一致率(両方陽性)90%以上

GOZILA研究で実証された臨床試験への登録促進効果

日本の国立がん研究センターを中心に実施されたGOZILA研究は、進行消化器がん1,687人を対象に、リキッドバイオプシー(ガーダント360)による臨床試験スクリーニングの有用性を組織検査と比較しました。

結果は目を見張るものでした。リキッドバイオプシーによるスクリーニング期間の中央値は11日で、組織検査の33日から大幅に短縮。臨床試験への登録率も9.5%対4.1%と2倍以上の差がつき、治療効果は両群で遜色ないことが確認されています。

韓国の大規模研究でも高い組織検査との一致率を確認

韓国で行われたKorean Lung Liquid Versus Invasive Biopsy Programでは、進行非小細胞肺がん患者421人を対象に、ガーダント360と組織検査の一致率を調べました。

治療未実施の患者群では77.6%の一致率が報告されており、とくに臨床的に重要な遺伝子変異については高い一致が確認されています。

ガーダント360を受ける前に知っておきたい注意点と限界

リキッドバイオプシーには多くのメリットがある一方で、いくつかの限界や注意点も存在します。ガーダント360による検査をより有効に活用するためには、事前にこれらの点を理解しておくことが大切です。

陰性結果が必ずしも「変異なし」を意味しない

リキッドバイオプシーで陰性(遺伝子変異が検出されない)だった場合でも、実際にはがん細胞にその変異が存在する可能性があります。ctDNAの血中への放出量は、がんの種類や進行度、腫瘍の部位によって異なるためです。

とくに中枢神経系(脳)の原発腫瘍ではctDNAの放出量が少ない傾向があり、検出感度が低下することが指摘されています。FDAも、リキッドバイオプシーで陰性だった場合は組織検査による確認を推奨しています。

クローン性造血による偽陽性のリスク

高齢者では、がんとは無関係にTP53やKRASなどの遺伝子に変異が蓄積する「クローン性造血(CHIP)」が起こることがあります。リキッドバイオプシーではこのCHIP由来の変異を腫瘍由来と区別しにくい場合があり、偽陽性の原因になりうるという課題があります。

ガーダント360では独自のバイオインフォマティクス解析でCHIPの影響を低減する工夫が施されていますが、結果の解釈には腫瘍学に精通した専門医のサポートが欠かせません。

検査を受けるタイミングと主治医との相談

ガーダント360をいつ受けるべきかは、がんの種類や進行度、現在の治療状況によって異なります。一般的には、標準治療が効かなくなった段階や、次の治療選択肢を検討する場面で検査を行うことが多いでしょう。

検査のタイミングや結果の活かし方については、主治医やがんゲノム医療の専門チームとよく話し合うことが重要です。

  • リキッドバイオプシー陰性でも組織検査での再確認が推奨される
  • クローン性造血(CHIP)による偽陽性に注意が必要
  • 脳腫瘍などctDNA放出量が少ないがん種では感度が低下しやすい

がんゲノム医療におけるガーダント360の活用と分子標的薬との関係

ガーダント360は、がんゲノム医療の実践において中心的な検査ツールの一つです。検出された遺伝子変異に基づいて分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を選択する「精密医療」を支えています。

遺伝子変異と分子標的薬のマッチング

遺伝子変異対応する薬剤の例対象がん種の例
EGFR変異オシメルチニブ非小細胞肺がん
KRAS G12C変異ソトラシブ非小細胞肺がん
MSI-Highペムブロリズマブ固形がん全般
ERBB2増幅トラスツズマブ デルクステカンHER2陽性固形がん

エキスパートパネルで検査結果を多角的に検討する

ガーダント360 CDxの結果は、がんゲノム医療中核拠点病院や連携病院に設置された「エキスパートパネル」で検討されます。腫瘍内科医、病理医、遺伝カウンセラー、バイオインフォマティシャンなど多職種のチームが集まり、検出された遺伝子変異の臨床的な意味を議論し、治療方針を提案します。

患者さん一人ひとりのがんの特徴に合った治療を届けるために、このような多角的な検討が行われていることは、がんゲノム医療の大きな強みといえるでしょう。

治療薬到達率はリキッドバイオプシーでも遜色ない

がんゲノムプロファイリング検査において重視される指標の一つが「薬剤到達率」、つまり検査結果に基づく治療薬が実際に患者さんに届く割合です。日本臨床腫瘍学会の検討でも、リキッドバイオプシーと組織検査の薬剤到達率には大きな差が認められないことが報告されています。

GOZILA研究の追加解析では、リキッドバイオプシーに基づいて標的治療を受けた患者群の全生存期間が、マッチしない治療を受けた群と比較して有意に良好だったとする結果も出ています。

よくある質問

ガーダント360の検査で調べられる遺伝子は何種類ですか?

ガーダント360(自費診療版)は739種類のがん関連遺伝子を解析対象としています。一方、承認検査であるガーダント360 CDxは74種類の遺伝子について塩基置換・挿入欠失変異を検出し、さらに18の遺伝子増幅、6の融合遺伝子、MSI-Highの有無も報告します。

どちらの検査を受けるかは、治療の段階や目的によって異なりますので、主治医とご相談のうえ選択されることをおすすめします。

ガーダント360の検査結果が届くまでにどのくらい時間がかかりますか?

ガーダント360 CDxの結果報告は、解析機関が検体を受領してから原則14日以内とされています。臨床試験では、結果返却までの中央値が11日だったとする報告もあり、組織検査の33日と比べて大幅に短い点が大きなメリットです。

ただし、測定や解析の状況によっては所要日数が前後する場合もあります。具体的なスケジュールは担当の医療機関に確認すると安心でしょう。

ガーダント360のリキッドバイオプシーは組織検査の代わりになりますか?

リキッドバイオプシーは組織検査を完全に置き換えるものではなく、互いを補完する関係にあると考えられています。NILE試験では、ガーダント360と組織検査を併用することでバイオマーカーの検出率が48%向上したとの結果が出ています。

リキッドバイオプシーで陰性だった場合には、組織検査での再確認が推奨されています。一方で、組織採取が難しい場合や結果を急ぐ場合には、リキッドバイオプシーが有力な選択肢となります。

ガーダント360の検査は何回でも受けられますか?

リキッドバイオプシーは採血のみで実施できるため、理論上は繰り返し検査を受けることが可能です。治療中にがんが進行した場合や、再発・転移が疑われる場合に再度検査を行うことで、その時点での遺伝子変異プロファイルを確認し、新たな治療薬の選択に活かせます。

ただし、CGP検査の回数については制度上の制約がある場合もあるため、検査を検討される際は主治医にご確認ください。

ガーダント360の検査を受けたら必ず分子標的薬が見つかりますか?

必ずしも治療に直結する遺伝子変異が見つかるとは限りません。GOZILA研究では約57%の患者さんに治療標的となる遺伝子異常が見つかったと報告されていますが、残りの約43%では治療に結びつく変異が検出されませんでした。

それでも、検査を受けることで「現時点で有効な標的治療がない」という情報が得られること自体が、今後の治療方針を考えるうえで重要な判断材料になります。主治医とともに検査結果を踏まえた治療計画を検討してください。

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医