医療扶助で受けられるがん治療の範囲|標準治療・手術・入院から先進医療の扱いまで

医療扶助で受けられるがん治療の範囲|標準治療・手術・入院から先進医療の扱いまで

生活保護を受けていても、必要ながんの検査や手術、薬による治療、入院は、医療扶助として保険診療に準じた範囲で受けられます。生活保護を受けたら治療の選択肢がなくなるのでは、と心配な患者さんも、まずは主治医から示された治療内容をもとに相談できます。

一方で、希望する医療や入院中の出費がすべて給付されるわけではありません。先進医療や自由診療、希望して使う個室などは、通常の診療と分けて費用の扱いを確かめましょう。

この記事では、医療扶助で受けられるがん治療の範囲と、薬の選び方、緩和ケアや在宅医療、先進医療・治験の扱い、通院費の確認点を解説します。

医療扶助で受けるがんの検査と標準治療

医療扶助の診療は、公的医療保険の診療方針に準じて行われます。がんを調べる段階から治療後の診察まで、医学的に必要な医療が給付の対象です。

給付は病名だけでなく診療内容で決まる

生活保護を受けている患者さんは、指定医療機関、つまり生活保護の医療を担当する指定を受けた病院や診療所で、必要と認められた治療を受けるのが基本です。医療扶助は、患者さんに治療費を渡して自由に購入してもらう仕組みではなく、診療そのものを給付する仕組みになっています。

「肺がんならすべて対象」という決め方ではなく、具体的な検査や薬が病状に合い、給付の範囲に入るかを確認します。診療方針と指定医療機関の扱いは、生活保護制度を案内する東京都福祉局の医療扶助の説明でも示されています。

標準治療は効果と安全性の根拠がある治療

標準治療とは、科学的な根拠に基づき、そのがんに対して推奨される治療です。「標準」という言葉は、安価な治療だけに制限する意味ではなく、効果と副作用を調べた結果に基づく位置づけを表します。

同じがんでも、広がりや体力、臓器の働きが違えば、勧められる治療は変わります。主治医とは、治療で目指す結果と身体への負担を中心に話し合いましょう。こうした治療選択の基本は、がんの診療情報を公開する国立がん研究センターのがん情報サービスでも説明されています。

日本の頭頸部がん、つまり口やのどなどに生じるがんの患者さん409人を振り返った研究では、生活保護を受けている群で、ほかの保険の群よりがんによる死亡の成績が劣る結果は認められなかったと報告されています1)。対象のがんと人数が限られるため、ほかのがんの治療結果まで保証する報告としては読めません。

診断の検査と治療後の確認も相談できる

がんの確定や広がりを調べる検査も、診療上必要で給付の条件を満たせば医療扶助で受けられます。採取した組織を顕微鏡で調べる病理検査や、体内を画像で調べる検査などが、治療方法を決めるために行われます。

治療が終わった後も、再発の有無や治療による身体の変化を確かめる診察は、必要性に応じて続きます。医療扶助だから検査の回数が一律に決まるのではなく、がんの種類や治療後の状態に応じて予定が組まれるため、次の検査の目的と時期を主治医に確かめましょう。

手術・薬・放射線治療と入院で受けられる医療

手術や薬物療法、放射線治療は、必要な治療として給付の条件を満たせば医療扶助で受けられます。治療を組み合わせる場合も、それぞれの内容と入院の必要性に沿って扱われます。

手術は前後の診療も含めて治療計画を確認する

がんを取り除く手術だけでなく、必要な麻酔や術後の処置も診療に含まれます。手術を受けるかどうかは、取り除ける範囲と予想される身体の負担を踏まえて判断されます。

手術名だけでは、入院中に受ける医療の全体までは分かりません。手術の説明を受けるときに、術後に予定する治療や退院までに必要な回復の目安も聞くと、外来へ移ってからの予定を整理できます。

抗がん剤は薬の種類と使う条件で判断される

薬物療法には、従来の抗がん剤のほか、がんの増殖に関わる特定の働きを狙う分子標的薬などがあります。免疫ががんを攻撃する働きを助ける免疫チェックポイント阻害薬も、保険診療の条件に合う治療なら医療扶助の対象になり得ます。

高額な薬という理由だけで対象外と決まるわけではなく、そのがんに使える薬か、使用条件を満たすかが判断の中心です。同じ薬でも、がんの種類や過去の治療、検査で調べるがんの性質によって使える範囲が変わります。

点滴の治療では、投与日に加えて、身体の状態を調べる診察や採血が組まれる場合もあります。薬の名前と治療予定を主治医に確認しておくと、福祉事務所のケースワーカーにも、通院の頻度や期間を具体的に伝えられます。

放射線治療はがんを抑える目的にも痛みの軽減にも使う

放射線治療は、がんのある場所に放射線を当てる治療で、単独で行う場合も、手術や薬と組み合わせる場合もあります。がんを抑える目的に加え、骨などに広がったがんによる痛みを和らげる目的でも使われます。目的による違いはがん情報サービスの放射線治療の説明で確認できます。

通院で受けるときは、照射の予定に沿って病院へ通えるかどうかも確かめておきましょう。治療の対象範囲に加え、通える体調か、移動にどの程度の費用がかかるかを、開始前の説明で確認しておくと相談が進めやすくなります。

入院中の診療と希望による追加費用を分ける

医療上必要な入院は給付の対象です。対象となる診療費と、患者さんの希望などによって生じる追加費用を分けて、入院の説明書で確認します。

入院に伴う内容確認する点
手術や投薬、必要な看護治療計画と医療扶助での扱い
希望して使う個室の差額ベッド代通常の入院費への追加料金と、その発生条件
日用品や貸し出し品など利用が任意か、診療費とは別の請求か

差額ベッド代などの保険外の費用は、医療扶助の対象外とされています。公的な説明としてさいたま市の生活保護のしおりでも区別されているため、入院に関係する請求だからすべて給付される、とは判断できません。

たとえば、入院前に病院で受け取った説明書に個室の料金があったら、利用を希望する前に、病院の医療ソーシャルワーカーへ費用の扱いを相談しましょう。医療ソーシャルワーカーは、療養に伴う経済面や生活面の相談を受ける専門職です。

後発医薬品とバイオシミラーを使うとき

薬の価格が低いというだけで、がんへの効き目が弱いと判断する必要はありません。後発医薬品とバイオシミラーは、もとの薬との比較を経て承認される薬ですが、製造方法や確かめ方には違いがあります。

後発医薬品は使えると判断された場合に原則となる

医療扶助では、医師が医学的に使用できると判断した薬について、後発医薬品を使うのが原則です。後発医薬品はジェネリック医薬品とも呼ばれ、先に発売された薬と同じ有効成分を含み、効き目や安全性が同等と認められています。

後発医薬品の薬価(公的に定められた薬の価格)が一般に低いのは、開発費用を抑えられるためです。後発医薬品を使う原則は、医療の質を保ちながら医療費を効率的に使うためのもので、変更できるかは患者さんの病状に応じて医師が判断します。

過去に薬で具合が悪くなった経験があれば、薬名と症状を主治医に伝えましょう。飲みやすさや添加物の違いも含め、実際に使えるかは個別に確認されます。

バイオシミラーは生物の働きで作る薬の後続品

バイオ医薬品は、細胞などの生物の働きを利用して作られる薬です。その後続品であるバイオシミラーは、もとの薬と品質や効き目、安全性が同等・同質と認められており、日本のがん治療でも使用が広がっています。

薬の呼び方もとの薬との関係説明で確認する点
後発医薬品同じ有効成分を含む薬同じ効能で使えるか、飲み方や形の違い
バイオシミラーバイオ医薬品と同等・同質と認められた薬使うがんや治療目的、投与後の観察

バイオシミラーは、化学合成で作る薬の後発医薬品とは性質が異なり、医療扶助の後発医薬品の原則をそのまま当てはめて説明するのは適切ではありません。薬の特徴は、医薬品の情報を案内する厚生労働省のバイオ後続品の説明に沿って確認し、処方の理由や変更後の診察について主治医から説明を受けます。

効き目の根拠と自分の副作用を分けて確かめる

大腸がんや乳がんなどの成人約2万2千人を含む55試験をまとめた検討では、ベバシズマブ、リツキシマブ、トラスツズマブのバイオシミラーは、もとの薬と比べて、がんの進行を抑える期間や生存、重い副作用がおおむね同じと考えられています2)。対象は限られた薬とがんで、含まれた試験はすべて製薬企業の資金によるものでした。

一方、安全性が同等という評価は、副作用が起こらないという意味ではありません。治療中に現れた症状は、薬の価格や種類で軽く扱わず、いつ始まり、生活にどう影響しているかを主治医へ伝えてください。

緩和ケアと在宅医療も医療扶助の対象

痛みなどを和らげる治療や、必要な在宅での診療も、医療扶助の対象に含まれます。がんを小さくする治療を終えた後も、症状に対する医療は続けられます。

緩和ケアはがん治療と並行して受けられる

緩和ケアは、がんに伴う身体や心のつらさを和らげる医療やケアです。痛みへの薬物治療や、不安で眠れないときの相談など、診断された時点からがんの治療と並行して受けられます。開始時期や受ける場所はがん情報サービスの緩和ケアの説明でも整理されています。

費用の心配が重なると、痛みまで相談してよいのかと遠慮したくなるかもしれません。痛みで食事や睡眠が妨げられているなら、その状態を主治医に伝えてください。症状を和らげる治療も、必要な診療に含めて相談できます。

通院が難しいときは訪問診療や訪問看護を相談する

訪問診療は医師が定期的に自宅を訪れて診察する医療で、訪問看護は看護師などが自宅で療養上の世話や診療の補助を行うサービスです。自宅で継続した療養が必要な患者さんでは、病状に応じて利用が検討されます。

ただし、訪問看護は年齢や介護の必要度、病気によって使う制度が分かれます。末期がんなどの扱いも含め、どの給付区分に当たるかは、予定する訪問の内容を主治医とケースワーカーに伝えて確認します。

自宅で過ごすための診療体制を退院前に整える

自宅で過ごすには、薬を処方する医師だけでなく、夜間につらくなったときの連絡先や、必要時に入院できる体制も確認します。退院前に主治医と病院の医療ソーシャルワーカーへ希望を伝えると、自宅で必要な診療と利用できる体制を具体的に相談できます。

カナダのがんで亡くなった患者さんを調べた研究では、地域の経済状況による緩和ケアの受けやすさの差があり、緩和ケアの利用が療養の質の差の一部を縮める関連が報告されています。日本の給付条件を示す研究ではないものの、経済的な困難がある患者さんも症状を和らげる医療につながる大切さを裏づけています。

先進医療・治験・自由診療は個別に扱いを確認する

通常の保険診療と異なる枠組みの治療は、医療扶助で受けられると一括して判断できません。治療の名称と制度上の区分を確認し、主治医とケースワーカーに費用の扱いを確かめます。

先進医療の通常診療部分も給付を即断しない

先進医療は、将来の保険導入に向けて評価する医療のうち、国が定めた枠組みで実施されるものです。新しい治療をすべて指す呼び方ではなく、実施できる施設や対象となる病気にも条件があります。

公的医療保険では、先進医療の技術にかかる費用は全額自己負担となり、通常の診療と共通する部分は保険給付されます。この区分は厚生労働省の先進医療の説明で示されています。

ただし、医療扶助では、保険診療と保険外の医療を組み合わせる「保険外併用療養費」に係るものは原則として適用外です。東京都福祉局の給付範囲の説明にもこの区別があるため、通常診療に相当する部分まで自動的に医療扶助で支払われると見込まず、実施前に扱いを確認します。

治験は参加条件と費用の負担者を確かめる

治験は、薬などの承認を得るために効果や安全性を調べる試験で、参加条件や費用の負担範囲は治験ごとに決められています。医療扶助を受けながら参加できるかは、主治医と治験を担当する病院の職員、福祉事務所に確認しましょう。

治験で確かめる内容具体的な確認点
参加の条件病状や過去の治療が条件に合うか
治療に伴う費用治験側が負担する範囲と、通常の診療分の扱い
通院に伴う出費来院回数、交通費などの負担と補助

参加を決める前に優先して確かめたいのは、患者さん自身にどの支払いが残るかです。米国で治験への参加を検討したがんの患者さんでは、お金への心配が強いほど判断の準備が整わず、迷いが大きい傾向が報告されています。

さらに、治験に参加した米国の患者さんでは、交通費など診療以外の出費も経済的な負担として報告されています。これらは日本の給付条件を示す結果ではないため、説明書をもとに、病院の医療ソーシャルワーカーにも生活保護を利用中と伝え、費用の疑問を整理してから参加を判断しましょう。

自由診療は契約前に標準治療との関係を確認する

自由診療は、公的医療保険を使わずに受ける診療で、費用は原則として患者さんの負担です。通常の医療扶助の給付範囲から外れるため、治療費を後から給付してもらう前提では契約しないようにしましょう。

同じ「免疫療法」という言葉でも、通常の診療で使う薬と、自由診療で行う治療では内容が違います。治療名だけで効果や費用を比べず、勧められた方法の具体名を主治医に示し、根拠と身体への負担、今の治療を中断する影響を確認します。

医療扶助の交通費と支払い済み費用の確認点

通院の交通費は、必要性や経路などの条件を満たせば医療扶助の移送費として給付を受けられます。支払い後にすべて戻ると見込むより、予定する通院と費用をケースワーカーに伝えておくのが基本です。

移送費は必要な通院と合理的な経路が基準

生活保護を受けている患者さんが通院する際の移送費は、診療に必要な移動の費用を支える給付です。給付の範囲は、病状に合った経済的で合理的な交通手段や経路をもとに判断され、必要最小限度の実費が基準となります。

ケースワーカーに伝える情報確認する理由
通院先と治療内容その病院へ通う医学的な理由の確認
治療予定と通院日必要な通院の頻度の確認
交通手段と経路、見込みの運賃病状に合う移動方法と給付範囲の確認

遠方の病院に通う場合は、近くでは受けられない専門的な治療が必要かも判断に関わるため、主治医から説明された理由をケースワーカーへ伝えます。

歩行や電車・バスでの通院が難しいときはタクシー代の給付を相談する

タクシー代は、がんで通院しているという理由だけで一律に給付されるものではなく、歩行や公共交通機関での通院が病状から難しいかが判断に関わります。利用の条件は、自治体の例として川口市の医療移送費の説明でも示されています。

生活保護を受けていて、治療後の体調の変化で電車やバスに乗るのが難しくなったら、困る動作や移動区間を主治医に伝え、ケースワーカーへ相談しましょう。前に認められた経路でも、病状や通院先が変われば改めて確認を受けます。

支払った医療費は領収書と受診日をもとに相談する

生活保護を受けている患者さんが、やむを得ず医療費を支払った場合は、領収書と支払いに至った事情をケースワーカーに伝えます。支払い済みの費用が自動的に返る仕組みではなく、給付の条件に合うかどうかが確認されます。

これから生活保護を申請する患者さんも、受診日と支払日が分かる書類を残しておきます。保護がさかのぼって決定された場合などには、申請後にやむを得ず支払った医療費が金銭給付の対象となることがあります。ただし、申請前を含む過去の支払いすべてが返るわけではありません。

よくある質問

治療の途中で生活保護を受けると、がんの治療は変わりますか?

生活保護を受けたという理由だけで、必要な治療を一律に変更するわけではなく、病状と治療上の必要性に沿って判断されます。使う薬については、後発医薬品を使用できるかなどの確認が行われます。

今の治療内容と次回の予定を主治医に確かめ、ケースワーカーに継続中の治療があると伝えましょう。通院先や薬の扱いが不明なまま、自己判断で予定を取りやめるのは避ける必要があります。

バイオシミラーへの変更が不安なときは、どうすればよいですか?

変更を決める前に、薬の名前と変更理由、効き目や副作用について主治医から説明を受けると、不安の内容を整理できます。バイオシミラーは、もとの薬と品質や効き目、安全性を比べて承認される薬です。

以前の薬で起きた症状が心配なら、その症状と発生した時期を伝えましょう。変更後も気になる症状を記録して相談すれば、治療を続けるうえで必要な対応を検討できます。

抗がん剤を受けている間も緩和ケアを頼めますか?

抗がん剤の治療中も、痛みや不眠などのつらさに対して緩和ケアを受けられます。がんへの治療と症状を和らげる治療は並行できるため、食事や睡眠が妨げられているなど、生活への影響を主治医へ伝えてください。

治験を勧められたら、ケースワーカーにも伝えるべきですか?

医療扶助を受けている患者さんは、参加前にケースワーカーへ治験の提案を受けたと伝え、費用の扱いを確認しましょう。参加の条件や負担の範囲は治験ごとに異なります。

主治医から治験の説明を受けたら、病院の医療ソーシャルワーカーにも相談し、診療費と通院に伴う出費の確認を進めます。費用の疑問が残る段階では、説明を追加で受けてから参加を判断しましょう。

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医