がん治療中の短時間勤務・時差出勤|無理なく仕事を続けるための働き方の調整術

がん治療中の短時間勤務・時差出勤|無理なく仕事を続けるための働き方の調整術

がん治療中に働き方を調整するなら、勤務時間を減らす短時間勤務だけでなく、出勤時刻や働く場所、担当する仕事を変える方法もあります。朝の通勤だけで疲れてしまうのか、午後まで働くと体力が続かないのかで、合う配慮は変わります。

まずは、どの時間帯のどの作業がつらいのかを整理してから、職場に相談しましょう。困りごとが具体的になるほど、上司や人事労務担当も対応を検討しやすくなります。

この記事では、短時間勤務・時差出勤・在宅勤務の選び方、職場への頼み方、給与などの確認点、治療に合わせた見直し方を解説します。

がん治療中に働きづらい時間と作業を整理する

働き方を調整するときは、つらい症状を勤務中の場面に結び付けると、必要な変更が具体的になります。病名だけでは伝わりにくい負担については、いつ、どの作業で困るかが相談の材料です。

疲れやすさと集中しづらさを分けて伝える

体力が続かない負担と、集中して作業を続けにくい負担では、合う調整が違います。

治療に伴う疲労は、立ち仕事や移動の負担に加え、勤務を終えた後の生活にも影響します。認知の問題とは、注意を保つ、覚えておく、複数の情報を扱うといった働きの困りごとです。転移のある乳がんで働く人を調べた研究でも、疲労やこうした困りごとが仕事量を減らす理由に挙がっています。

主治医に相談するために、つらくなる時間帯と、そのとき担当していた作業を短く残しましょう。集中しづらいなら確認を要する作業が重なる場面、疲労なら座って休みたくなる場面など、職場で起きた状況を記すと説明に使えます。

通院には移動と待ち時間も含める

通院日の勤務は、診察や治療の予定だけでなく、病院までの往復や待ち時間を含めて相談します。予約時刻だけを基準に勤務を組むと、職場に戻る時刻が予定からずれたときに調整しづらくなります。

職場へ渡す予定を整理するときは、確定している通院日と、まだ変更し得る予定を分けておきます。治療後の体調が読めない段階では、必ず予定どおり働けると約束せず、変更が必要になったときの連絡相手を上司と決めておきましょう。

勤務時間だけでなく体を使う作業も確認する

働く時間を減らしても、負担の大きい作業が残れば、勤務中のつらさを十分に減らせない可能性があります。

たとえば、立ち続ける接客と、座って行う入力では、同じ勤務時間でも体への負担が違います。ノルウェーの登録研究では、体を使う負担の大きい仕事に就いていた男性のがん経験者で、診断後に働く量が減りやすい関係が見られました。一方、女性では同じ関係が見られておらず、仕事の種類から一律に働ける量を決める根拠にはできません。

通勤を含む負担と仕事内容を主治医へ伝え、今の体調で避けたい作業や必要な休憩について相談しましょう。その内容を基に、時間短縮以外の案も職場に提示します。

短時間勤務と時差出勤は困りごとで選ぶ

長く働き続けるのがつらいなら短時間勤務、通勤する時間帯が負担なら時差出勤が候補です。労働行政を担う厚生労働省の「治療と就業の両立支援指針」には、両立を支える勤務制度の例として挙げられています。

短時間勤務は仕事量も一緒に減らす

短時間勤務は、通常より所定の勤務時間を短くして働く方法です。時間を減らす相談では、その時間内に担当できる仕事量も上司と確認します。

以前と同じ件数や締め切りを抱えたままでは、短い時間に作業を詰め込んだり、退勤後に仕事を持ち越したりしがちです。調整したいのは、勤務時間と、その時間内に終える担当業務の両方です。予定どおり退勤するために、上司と優先する作業を決め、残りを誰に引き継ぐかまで相談しましょう。

ドイツで18〜39歳のときにがんと診断され、仕事に戻った389人を調べた研究では、82.3%が職場の調整を利用し、勤務時間の柔軟化や短縮などが挙げられました1)。ただし、利用状況を調べた研究であり、時間を短くすれば体調が改善するという効果を示した結果ではありません。

時差出勤は勤務する時間帯をずらす

時差出勤は、出勤・退勤の時刻をずらす方法で、勤務時間そのものを短くする調整とは区別して相談します。混雑する通勤を避けたいときや、通院時刻に合わせて働く時間帯を変更したいときの選択肢です。

困りごと候補になる調整一緒に決める内容
午後まで体力が続かない勤務時間の短縮退勤までに終える仕事量
混雑した通勤がつらい出勤・退勤時刻の変更変更後の勤務時間帯
通院と会議が重なる勤務時刻や会議時刻の変更参加が必要な会議の扱い

通勤の負担が減っても終業時刻が遅くなると困る人は、始業時刻だけをずらす案で足りるか、勤務時間の短縮も必要かを確かめましょう。

使える条件は就業規則で確かめる

希望する勤務制度があるかは、勤め先の働くルールを定めた就業規則で確かめ、人事労務担当にも尋ねます。制度名が同じでも、対象者や利用期間、申請に必要な書類は勤め先によって違います。

パートなどで働いている人も、雇用形態だけで相談を諦める必要はありません。治療と仕事の両立支援は、雇用形態を問わず働く人が対象です。自分の契約で使える調整を人事労務担当へ確認しましょう。

ただし、こうした勤務制度がすべての職場に用意されているわけではありません。希望する仕組みがなければ、始業時刻や担当業務を個別に変更できるか、実際の勤務に即して相談できます。

在宅勤務で通勤の負担を減らす

通勤で体力を使い切ってしまう人には、自宅で業務を行う在宅勤務が選択肢になります。ただ、働く場所を変えても仕事量や勤務時間が同じなら、作業そのものによる疲れは残ります。

自宅でできる仕事を切り出す

在宅勤務を相談するときは、自分の担当業務のうち、職場以外でも行える作業を挙げます。在宅勤務の導入の有無や対象業務は、勤め先への確認が必要です。

接客や現場作業が中心なら、仕事全体を自宅へ移すのは難しくなります。一方、資料作成や記録の整理を担当していれば、その業務に限って在宅で行う案を相談できます。在宅勤務を使いやすいかどうかには職種による違いがあり、本人の希望だけで決まる仕組みではありません。

出勤する日と在宅で働く日を組み合わせる

毎日の在宅勤務が難しくても、職場で行う必要のある作業に出勤日を合わせ、残りを自宅で担当する案があります。変更できる範囲を話し合うために、どの日にどの業務が必要かを上司と整理しましょう。

日本の20〜39歳のがん経験者401人を調べた研究では、在宅勤務のみを使った人や、勤務時間の柔軟な調整と組み合わせた人は、どちらも使わなかった人より診断後の退職の危険が低い傾向でした2)。ただし、オンラインで行った横断研究で、在宅勤務ができる職種や職場の違いも影響し得るため、在宅勤務が退職を防いだとまでは判断できません。

自宅でも休憩と終業時刻を決める

在宅勤務を続けるために、休憩を取れる時間と仕事を終える時刻を、連絡方法と一緒に決めておきましょう。自宅にいる時間をすべて勤務に充てる前提にはせず、体調に応じて働ける範囲を示します。

決めておく項目上司と確認する内容
勤務時間始業・終業時刻と休憩の取り方
連絡方法勤務中に応答する手段と不在時の連絡先
担当業務自宅で扱える作業と、その日の仕事量
体調が変わったとき作業を中断する際の報告方法

治療後につらさが増して自宅でも仕事を続けにくい日は、在宅勤務で埋め合わせようとせず、症状を主治医へ、勤務の変更を上司へ相談してください。

がん治療に必要な配慮を職場へ具体的に頼む

職場への相談では、対応を検討してもらうために「困っている場面」「希望する変更」「見直す時期」を伝えます。働き続けたい気持ちと、今は難しい作業の両方を示すのが相談の出発点です。

上司には変更してほしい勤務を示す

周りの負担を気にして、時間を減らしたいと言い出しにくく感じるかもしれません。上司に仕事の振り分けを検討してもらうために、困っている作業と続けられる作業を分けて伝えましょう。

たとえば、午後の接客中に疲れが強まり、立ち続けるのがつらいと感じた場面なら、その日の退勤後に時間帯と作業をメモします。次の相談では「午後の接客で体力が続かないため、退勤時刻を早め、午前の業務を中心に担当したい」と伝えれば、希望が具体的になります。

希望どおりの時間にできないときに備え、優先して変えたい負担も伝えておきます。開始時期や仕事の引き継ぎに加え、試行後に話し合う時期を決めておくと、調整したまま困りごとを抱え込むのを避けやすくなります。

主治医には仕事内容を添えて相談する

仕事に関する意見を主治医に求めるときは、勤務時間と通勤方法に加え、どの作業でどんな負担があるかを伝えます。職種名だけでは、立って働く時間や、集中を切らせない作業の有無まで伝わりにくいためです。

相談する相手伝える内容確認したい点
主治医症状と実際の仕事内容勤務上の制限や必要な配慮
上司困る作業と希望する変更担当業務と仕事量の調整
人事労務担当利用したい勤務制度申請方法と勤務条件
産業医主治医の意見と職場での負担職場で実行できる配慮

産業医は、職場で働く人の健康を支える医師です。勤務の措置は主治医の意見を基に、産業医などの意見も踏まえ、本人と十分に話し合ったうえで事業主が決定するため、診察で得た意見を職場での相談につなげます。

調整が進まないときは理由を確認する

希望する配慮が難しいと言われたら、制度がないのか、希望した時間帯に仕事を振り分けにくいのか、理由を上司や人事労務担当へ確認します。理由に応じて、別の時間帯や作業の変更を相談する余地があるでしょう。

人事労務担当や産業医のいない小さな職場では、治療と仕事の両立について相談や調整を支援する都道府県の産業保健総合支援センターに相談できます。配慮を断られ、社内で話が進まないときにも同センターを利用でき、労働問題としての相談は都道府県労働局の総合労働相談コーナーで受け付けています。

相談には、希望した勤務と会社からの返答を短く整理して持参すると、次に何を確認するかを話し合いやすくなります。

勤務を変える前に給与と契約を確かめる

短時間勤務を始める前に、変更後の給与と社会保険の扱いを人事労務担当へ確認しておくと、働ける時間と生活の見通しを合わせて検討できます。影響は契約や勤め先の扱いによって変わるため、手取り額を一律には見積もれません。

変更後の給与を具体的に確認する

給与は、希望する勤務時間を示したうえで、どの項目が変わるかを確認します。月給か時給かという違いだけで判断せず、手当を含めた扱いを人事労務担当から説明してもらうと、自分の条件に当てはめられます。

確認項目人事労務担当への質問例
給与この勤務時間に変えると、給与はどう計算されるか
手当勤務時間や出勤日数の変更で変わる手当はあるか
社会保険加入や保険料の扱いに変更があるか
反映時期変更が給与明細に反映されるのはいつか

複数の勤務案で迷うときは、体調面で実行できる案に絞ってから、それぞれの給与の扱いを確かめて比較しましょう。

社会保険への影響は自分の条件で尋ねる

健康保険や年金などの社会保険については、加入の扱いと給与から差し引かれる保険料を分けて尋ねます。勤務時間を短くするという情報だけでは判断できないため、変更後の契約内容を前提とした説明が必要です。

また、調整が一時的なものか、契約そのものを変更するのかも人事労務担当へ確認しておきましょう。口頭の説明で分かりにくい点は、就業規則や変更内容を記した書面の該当箇所を示してもらうと、後から見直せます。

収入の見通しと続けられる勤務をすり合わせる

収入を保ちたい気持ちがあっても、今の体調で続けにくい勤務案を先に確定するのは避けたいところです。短時間勤務だけで負担を調整するのか、時差出勤や在宅勤務、業務の変更を組み合わせられるのか、上司と人事労務担当へ相談できます。

職場の配慮は、種類によって勤務時間を減らす方向にも、働く時間を保つ方向にも働きます。大切なのは制度の数ではなく、実際に負担が軽くなり、治療と勤務を続けられる条件がそろうかです。

自営業やフリーランスでは、勤め先の制度を使う形とは異なるため、治療中に引き受ける仕事量や納期を取引先と個別に調整します。

がん治療の経過に合わせて勤務を見直す

調整した勤務が合っているかを確かめる材料は、実際に働いた後の疲れや仕事の終わり方です。治療や回復の段階が変わったときには、以前に決めた勤務を続ける前提で抱え込まず、配慮の内容を見直します。

勤務中と帰宅後の負担を確かめる

勤務時間を守れたかに加え、働いた後にどれほど負担が残ったかも相談材料にします。予定どおり退勤できても、帰宅後に身の回りの用事が難しくなるほど疲れるなら、その状態を主治医に相談しましょう。

上司との振り返りでは、残ってしまった仕事と、つらさが出た作業を分けて伝えると、次に減らす業務を検討しやすくなります。勤務時間の枠だけを守れていても、持ち帰り作業が生じていれば、実際の負担は減っていない可能性があります。

治療の変更や症状の増加を相談の合図にする

治療内容や通院日程が変わったときは、今の勤務条件で対応できるかを改めて確認します。予定していた面談日が先でも、仕事に影響するつらさが増したら、主治医への相談と上司への連絡を前倒しにできます。

そのため、勤務の調整を決める時点で、見直しの予定と、予定外に相談する場合の連絡相手を決めておくと安心です。何が変わったかを共有すれば、短縮した時間を延長して利用する、仕事量をさらに調整するといった案を検討できます。

勤務時間を増やす前に負担の戻り方を見る

体調がよい日があっても、その日だけを基準に勤務時間を増やす約束はせず、通勤と作業を含めて負担が続かないかを確認します。治療が続く人と、治療後の回復を待つ人では、見直す条件も違います。

働く時間を増やす希望があるときは、主治医や産業医に今の状態を相談し、上司には増やす予定の作業を確認しましょう。時間の延長と重い作業への変更が同時に重ならないよう、何を変えるかを具体化して話し合えます。

調整は一度決めて終わるものではなく、本人が困りごとを伝え、職場と相談しながら内容を変えていく取り組みです。

よくある質問

短時間勤務は何時間にすればよいですか?

がん治療中の勤務時間に、全員共通の目安はありません。通勤にかかる負担や作業内容を主治医へ伝え、必要な制限について意見を受けてから、上司や人事労務担当と勤務時間を相談します。

働いてみて午後に疲れが強まるなら、何時ごろから、どの作業がつらくなるかを記録して見直しに使えます。短くした時間に以前と同じ仕事量が詰まっていないかも、上司と一緒に確認しましょう。

短時間勤務と在宅勤務は併用できますか?

併用できるかは、勤め先の制度と担当業務によって変わります。通勤と長時間の作業の両方が負担なら、それぞれを減らしたい理由を示して、人事労務担当へ利用条件を尋ねると具体的に相談できます。

併用する際は、自宅で担当する業務、始業・終業時刻、体調が悪くなったときの連絡方法を上司と決めます。出勤日と在宅勤務日で仕事量が偏らないかも、始めた後に確かめたい点です。

仕事を続けたいのに、希望する配慮を断られたらどうすればよいですか?

まず、難しいとされた理由を上司や人事労務担当へ確認し、別の勤務時間や業務の変更が可能かを相談します。希望する配慮と、仕事を続けるうえで困っている点を対応させると、代案を検討しやすくなります。

社内で調整が進まなければ、産業保健総合支援センターへ、希望した内容と職場の返答を伝えて相談できます。労働問題として判断に迷う点は、都道府県労働局の総合労働相談コーナーに確認する方法があります。

調整した勤務を、途中で変えてもよいですか?

治療や体調が変わったら、途中でも勤務条件の見直しを相談できます。予定より早く疲れる、通院日が変更されたなどの変化を上司へ伝え、必要に応じて主治医の意見を受けながら、変える内容と開始時期を話し合います。

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医