
抗PD-L1抗体は、がん細胞が免疫の攻撃をかわすために使う「ブレーキ」を外し、体にもともと備わった免疫の力でがんを攻撃しようとする、新しいタイプの薬です。
PD-1やCTLA-4という似た言葉と混同されがちですが、相手にする分子も働く場所も別物です。名前の違いがわかると、治療の全体像はぐっとつかみやすくなるはずです。
この記事では、抗PD-L1抗体とは何か、PD-1やCTLA-4との違い、そして止まっていた免疫が再び動き出す筋道まで、専門用語をかみくだいて順番に整理していきます。
抗PD-L1抗体とはどんな薬かをやさしく解説
抗PD-L1抗体は、がん細胞の表面にあるPD-L1という分子をふさいで、免疫細胞ががんを攻撃しやすい状態に戻す薬です。免疫の力を新たに加えるのではなく、かかっていたブレーキを外すという発想が大きな特徴といえます。
抗PD-L1抗体に関わる言葉を整理すると、登場するのは主に次の3つです。
- PD-L1:がん細胞などの表面に出るタンパク質
- PD-1:免疫細胞(T細胞)の側にある受け皿
- 抗PD-L1抗体:両者の結びつきをさえぎる薬
PD-L1はがん細胞がまとう「攻撃させない目印」
PD-L1は、CD274やB7-H1とも呼ばれるタンパク質で、がん細胞や一部の免疫細胞の表面に現れます。これが免疫細胞のPD-1という分子と結びつくと、攻撃にブレーキがかかります。
本来この仕組みは、過剰な免疫反応から自分の体を守るための安全装置です。ところが、がん細胞はこの装置を逆手にとり、免疫の目をかいくぐって生き延びてしまうのです。
抗PD-L1抗体ががん側のブレーキを外す
抗PD-L1抗体は、がん細胞が掲げるPD-L1にふたをするように結合します。PD-1とPD-L1が手をつなげなくなることで、止まっていた免疫の攻撃が再び動き出すわけです。
つまり薬そのものががんを直接たたくのではありません。主役はあくまで自分の免疫であり、薬はその足かせを外す役回りを担っているといえるでしょう。
抗体医薬と呼ばれる新しい治療薬
抗PD-L1抗体は、特定の分子だけをねらって結合する「抗体医薬」の一種です。手術・放射線・抗がん剤に続く、4つ目の治療の柱として位置づけられつつあります。
従来の抗がん剤ががん細胞そのものをたたくのに対し、この薬は免疫とがんの関係に働きかけます。出発点が違う治療だと考えると、効き方の違いがわかりやすいかもしれません。
免疫の力を生かす治療は、がんに対する新しい選択肢を広げてきました。抗PD-L1抗体は、その代表格として多くのがんで研究や活用が進んでいます。
PD-1とPD-L1の違いをやさしく整理
PD-1は免疫細胞の側にある受け皿、PD-L1はがん細胞の側に現れる相手役で、両者がはまり合うと免疫の攻撃が止まります。抗PD-1抗体と抗PD-L1抗体は、この同じ流れを別の場所で断ち切る薬だといえます。
PD-1は免疫細胞側の「受け皿」
PD-1は、活性化したT細胞の表面に現れる受け皿のような分子です。相手の分子と結合すると、T細胞の中に「動きを止めよ」という信号が伝わります。
この信号は、ふだんは免疫の暴走を防ぐ働きをしています。がんの場面では、この受け皿が攻撃を弱める入り口になってしまうわけです。
PD-L1はがん細胞側の「鍵」
PD-L1は、PD-1という受け皿にぴたりとはまる鍵のような分子です。がん細胞は、このPD-L1をたくさん表面に出すことで、T細胞のブレーキを意図的に押し続けます。
なおPD-1には、PD-L2というもう一つの相手も存在します。PD-L1だけをねらう薬は、このPD-L2との関わりには手をつけない点が、後で触れる違いにつながっていきます。
抗PD-1抗体と抗PD-L1抗体は何が違う?
抗PD-1抗体は受け皿の側、抗PD-L1抗体は鍵の側をふさぎます。ねらう場所は違いますが、どちらもPD-1とPD-L1の結合を断ち切り、免疫の攻撃を取り戻すという目的は共通です。
細かな違いとして、抗PD-1抗体はPD-L1とPD-L2の両方の結合を止め、抗PD-L1抗体はPD-L1との結合だけを止めます。どちらが向くかは、がんの種類や体の状態をふまえて主治医が判断します。
PD-1をめぐる2つの抗体の比べ方
| 項目 | 抗PD-1抗体 | 抗PD-L1抗体 |
|---|---|---|
| 結合する相手 | 免疫細胞のPD-1 | がん細胞などのPD-L1 |
| 止める結合 | PD-L1とPD-L2の両方 | PD-L1のみ |
| 共通する目的 | 免疫のブレーキ解除 | 免疫のブレーキ解除 |
表のとおり、入り口は違っても行き着く先は同じです。違いを完璧に覚える必要はなく、「免疫のブレーキを別の角度から外す薬」とつかんでおけば十分でしょう。
CTLA-4と抗PD-L1抗体はどこが違うのか
CTLA-4と抗PD-L1抗体は同じ免疫のブレーキを外す薬と思われがちですが、働く場所もタイミングも別物です。CTLA-4は免疫の「始まり」を、PD-1とPD-L1は「攻撃の現場」を抑えています。
働く場所と時間の違いを並べると、二つの輪郭がはっきりしてきます。
| 項目 | CTLA-4 | PD-1・PD-L1 |
|---|---|---|
| 働く時期 | 免疫が立ち上がる始動の時期 | 攻撃が行われる現場 |
| 主な舞台 | リンパ節など | がんの周辺組織 |
| 代表的な薬 | 抗CTLA-4抗体 | 抗PD-L1抗体など |
表からわかるように、二つは免疫の異なる段階に働きかけます。だからこそ、組み合わせて使うことで効果を高められる場合があると考えられています。
CTLA-4は免疫の「始動」を抑える
CTLA-4は、T細胞が活性化し始めるごく初期に現れる分子です。T細胞を立ち上げるCD28という装置と、燃料役のB7分子を奪い合い、出だしの勢いを抑えます。
主な舞台は、免疫の司令塔が集まるリンパ節です。攻撃部隊が出動する前の段階で、人数そのものを絞るようなイメージだと考えるとわかりやすいでしょう。
PD-1とPD-L1は「攻撃の現場」を抑える
一方のPD-1とPD-L1は、すでに出動したT細胞ががんを攻める現場で働きます。がん周辺でT細胞の攻撃が空回りするように仕向け、その場の勢いをそぐのです。
つまりCTLA-4が「出動の人数」を、PD-1とPD-L1が「現場での攻撃力」を左右するという住み分けがあります。抑える段階が違うことが、両者の最大の違いといえます。
働く場所とタイミングの違いが治療を分ける
抑える段階が違うため、薬として使ったときの効き方や副作用の出方にも差が生まれます。一般に抗PD-L1抗体や抗PD-1抗体は、抗CTLA-4抗体に比べて重い副作用が出にくい傾向があると報告があります。
ただしこれは全体的な傾向であり、誰にでも当てはまるわけではありません。実際の選択は、がんの種類や進み具合、体の状態をふまえて主治医が決めていきます。
がん免疫療法で抗PD-L1抗体ががんを攻撃する仕組み
抗PD-L1抗体の働きは、3つの場面で整理できます。免疫ががんを見つけ、いったん攻撃を止められ、そして薬がその足かせを外す、という流れです。
T細胞ががん細胞を見つけて攻撃する流れ
免疫の主役であるT細胞は、目印をたよりにがん細胞を見分け、近づいて攻撃します。本来はこの働きだけで、小さながんの芽を摘み取れることも少なくありません。
免疫ががんを攻撃するまでの流れ
- 目印をたよりにがん細胞を見つける
- T細胞ががん細胞に近づく
- がん細胞を攻撃して壊す
この一連の動きは、見張りと掃除を兼ねた巡回のようなものです。ところが、がんが大きくなるとこの巡回をかいくぐる工夫を身につけてしまいます。
PD-1とPD-L1が結びつくと攻撃が止まる
がん細胞が表面にPD-L1を掲げると、T細胞のPD-1とがっちり結びつきます。すると、T細胞の中で攻撃力を支える信号がそがれ、動きが鈍ってしまうのです。
この状態は、アクセルを踏んでもブレーキが同時にかかっているようなものです。せっかく見つけたがんを前にして、T細胞が力を出し切れなくなります。
抗体がブレーキを外して攻撃を取り戻す
抗PD-L1抗体は、がん細胞のPD-L1にふたをして、PD-1との結びつきを断ち切ります。ブレーキが外れたT細胞は、再びがんへの攻撃力を取り戻していきます。
薬が新しい力を加えるのではなく、もともとあった力を呼び戻す働きだといえます。だからこそ、自分の免疫の状態が効果を大きく左右するでしょう。
代表的な抗PD-L1抗体薬と治療対象になるがん
抗PD-L1抗体には、アテゾリズマブ・アベルマブ・デュルバルマブといった薬があり、肺がんや膀胱がんなど複数のがんで使われています。どの薬をどのがんに用いるかは、種類ごとに細かく定められています。
国内外で使われる主な抗PD-L1抗体
代表的な抗PD-L1抗体として、アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブの3つが挙げられます。いずれもPD-L1にねらいを定めて結合する抗体医薬です。
主な抗PD-L1抗体と対象になりやすいがん
| 一般名 | 対象になりやすいがんの例 |
|---|---|
| アテゾリズマブ | 肺がん、膀胱がん など |
| アベルマブ | メルケル細胞がん、膀胱がん |
| デュルバルマブ | 肺がん、膀胱がん など |
同じ抗PD-L1抗体でも、対象として認められたがんは薬ごとに異なります。同じ系統だからどれでも使えるわけではない、という点には注意したいところです。
どんながんが治療の対象になりやすい?
抗PD-L1抗体が使われる代表的ながんには、肺がん、膀胱(尿路上皮)がん、メルケル細胞がんなどがあります。免疫が関わりやすいがんで、効果が期待されやすいと考えられています。
ただし同じがんでも、進み具合や体の状態によって使えるかどうかは変わります。対象や使い方は見直されることもあるため、今の状況は主治医に確認すると安心です。
ほかの治療と組み合わせる併用療法
抗PD-L1抗体は、抗がん剤やほかの免疫の薬と組み合わせて使われることもあります。働く段階の違う薬を重ねることで、効果を引き出そうというねらいがあります。
一方で、薬を組み合わせると副作用が出やすくなる場合もあります。利点と負担のバランスを見ながら、一人ひとりに合った形が選ばれていきます。
どの薬を組み合わせるかは、がんの種類や進み具合に応じて細かく決まっています。同じ病名でも、人によってすすめられる形が変わる点を知っておくと安心でしょう。通院の間隔や検査の頻度も、治療の組み立てによって違ってきます。
抗PD-L1抗体治療の副作用と効果を調べる検査
新しい治療と聞くと副作用が気になるものですが、抗PD-L1抗体では免疫が過剰に働いて起こる症状に注意が必要です。効果には個人差があり、PD-L1の発現を調べる検査が手がかりになります。
免疫が過剰に働くことで起こる副作用
抗PD-L1抗体の副作用は、免疫が自分の正常な組織にも向かってしまうことで起こります。皮膚、腸、甲状腺、肺など、さまざまな場所に症状が現れることがあります。
注意したい主な副作用の例
| 起こりやすい場所 | 症状の例 |
|---|---|
| 皮膚 | 発疹、かゆみ |
| 消化器 | 下痢、腹痛 |
| 甲状腺 | だるさ、体重の変化 |
| 肺 | せき、息切れ |
多くは軽いうちに気づいて対応できますが、まれに重くなることもあります。気になる変化があれば、早めに医療機関へ相談することが安心につながります。
PD-L1の発現を調べる検査
治療の前には、がん組織のPD-L1がどれくらい現れているかを調べる検査を行うことがあります。発現の程度は、効果を予測する手がかりの一つとされています。
検査にはいくつかの方法があり、薬ごとに対応する検査が決められている場合もあります。数値の読み方には専門的な判断が必要なため、結果は主治医が総合的に評価します。
検査の結果が出るまでには、少し時間がかかることもあります。あわてず説明を聞き、わからない点をたずねながら進めると、治療への理解が深まります。納得して次の一歩へ向かう支えにもなるはずです。
効果に個人差が出る理由
抗PD-L1抗体は誰にでも同じように効くわけではなく、効果を実感できる人は一部にとどまるとも報告があります。PD-L1の発現だけで効果を完全に見通せるわけではありません。
免疫の状態やがんの性質など、関わる要素が多いことが背景にあります。だからこそ、検査の結果と体の状態を合わせて、一人ひとりに合った判断が大切になります。
抗PD-L1抗体による治療を受ける前に確認したいこと
抗PD-L1抗体での治療を考えるなら、効果の見込みと副作用の両方を理解したうえで、主治医とよく相談することが何より大切です。自分のがんが対象かどうか、検査の結果も含めて確認していきます。
治療を始める前に確認したいこと
治療の前には、がんの種類や進み具合、これまでの治療歴などが詳しく確認されます。PD-L1の発現を調べる検査の結果も、判断の材料の一つになります。
持病やこれまでにかかった病気も、治療の向き不向きに関わることがあります。気になることは遠慮なく主治医に伝えておくと、納得して治療に進めるでしょう。
治療中に気をつけたい体のサイン
治療が始まったら、体に現れる小さな変化に気を配ることが大切です。だるさ、発疹、下痢、せきなどは、副作用の初期のサインであることがあります。
早めに相談したい体のサインの例
| 気になるサイン | 関わりやすい場所 |
|---|---|
| 続くせき・息切れ | 肺 |
| 強い下痢・腹痛 | 消化器 |
| 強いだるさ | 甲状腺・全身 |
これらは必ずしも副作用とは限りませんが、自己判断で見過ごさないことが肝心です。早めに伝えるほど、軽いうちに対応できる見込みが高まります。
後悔しないために主治医と相談しながら進める
抗PD-L1抗体は、効果も副作用も一人ひとり異なる治療です。だからこそ、わからないことをそのままにせず、納得しながら進めることが満足につながります。
治療の選択肢は一つとは限りません。ほかの方法も含めて、自分の希望や暮らしを主治医に伝えながら一緒に考えていく姿勢が、後悔の少ない選択を助けてくれます。
よくある質問
抗PD-L1抗体とはどのような薬ですか?
抗PD-L1抗体は、がん細胞の表面にあるPD-L1という分子をふさぐ薬です。免疫細胞のブレーキを外し、体本来の力でがんを攻撃しやすい状態に戻します。
薬が直接がんを壊すのではなく、止まっていた免疫を働かせ直す治療です。効果や向き不向きには個人差があるため、主治医とよく相談して進めることが大切といえます。
抗PD-L1抗体とPD-1阻害薬の違いは何ですか?
抗PD-L1抗体はがん細胞側のPD-L1を、PD-1阻害薬は免疫細胞側のPD-1をふさぎます。ねらう場所は異なりますが、どちらもPD-1とPD-L1の結合を断ち切る点は共通です。
抗PD-1抗体はPD-L1とPD-L2の両方の結合を止め、抗PD-L1抗体はPD-L1との結合だけを止めます。どちらが向くかは、がんの種類や体の状態をふまえて主治医が判断します。
抗PD-L1抗体とCTLA-4阻害薬はどう違いますか?
CTLA-4阻害薬は免疫が立ち上がる始動の段階を、抗PD-L1抗体は攻撃が行われる現場をそれぞれ抑えます。働く場所と時間が違うことが、二つの大きな違いです。
一般に抗PD-L1抗体は、CTLA-4阻害薬に比べて重い副作用が出にくい傾向があると報告があります。ただし個人差が大きいため、実際の選び方は主治医の判断にゆだねられます。
抗PD-L1抗体にはどのような副作用がありますか?
抗PD-L1抗体の副作用は、免疫が自分の正常な組織にも向かうことで起こります。皮膚の発疹、下痢、だるさ、せきなど、現れる場所はさまざまです。
多くは軽いうちに対応できますが、まれに重くなることもあります。気になる変化があれば、早めに医療機関へ相談することが、安心して治療を続ける助けになります。
抗PD-L1抗体は誰にでも効果がありますか?
抗PD-L1抗体は、誰にでも同じように効く薬ではありません。効果を実感できる人は一部にとどまるとも報告があり、効き方には大きな個人差があります。
がん組織のPD-L1の発現は効果を予測する手がかりになりますが、それだけで結果を見通せるわけではありません。検査の結果と体の状態を合わせて、主治医が総合的に判断します。
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この記事を書いた人 Wrote this article
前田 祐助 医学博士 / 医師
慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医