
化学放射線療法(CRT)は、抗がん剤と放射線を同じ時期に組み合わせて行い、薬と放射線の相乗効果でがんを叩く治療法です。
放射線だけや手術だけでは届きにくい部分にも働きかけ、からだへの負担をおさえつつ臓器を残して根治を目指せる場面が多くあります。
その一方で、吐き気や倦怠感、皮膚や粘膜の炎症といった副作用をともなうことがあり、治療前に不安を抱える方は少なくないでしょう。
この記事では効果の仕組みから対象となるがん、副作用とのつき合い方、治療を始めるまでの流れまで、知っておきたいことを順に整理しました。
化学放射線療法とは薬と放射線を組み合わせるがん治療
化学放射線療法とは、抗がん剤と放射線を同じ時期に組み合わせて行うがん治療です。薬ががん細胞を放射線に弱くし、放射線が病巣をたたく、という役割分担で成り立っています。
| 治療の要素 | 主な働き | 具体例 |
|---|---|---|
| 放射線 | がんの局所をねらって直接たたく | 体の外から照射する外部照射など |
| 抗がん剤 | 放射線の効きを高め全身にも作用する | シスプラチンなどの薬 |
| 同時に行う併用 | 相乗効果で治療成績を底上げする | 多くのがんで標準的な進め方 |
抗がん剤と放射線を同じ時期に行う同時併用が基本
化学放射線療法の中心は、抗がん剤と放射線をほぼ同じ時期に行う「同時併用」という進め方です。先に薬だけ、あるいは放射線だけを順番に行う方法もありますが、効果の点で同時併用がすぐれる場面が多いと報告されています。
放射線は毎日コツコツと照射し、抗がん剤は決められた日に組み合わせます。2つの治療が体の中で重なり合う時間をつくることで、がんへの攻撃力を引き上げる狙いがあるのです。
放射線だけ・薬だけの治療と何が違う?
放射線だけの治療は、あてた場所のがんには働きますが、目に見えないほど小さく広がった細胞には手が届きにくい弱点があります。抗がん剤だけでは、かたまりになった病巣を消しきれないこともあるでしょう。
そこで両者を同時に使い、互いの弱点を補い合うのが化学放射線療法の考え方です。局所をしっかり抑えつつ、全身に散った可能性のある細胞にもアプローチできる点が大きな違いといえます。
根治をめざす治療と症状をやわらげる治療の使い分け
化学放射線療法は、がんを治しきる「根治」をめざして行うことが多い治療です。手術が難しい場所のがんや、臓器を残したい場合に選ばれます。
一方で、進行したがんによる痛みや通りの悪さをやわらげる目的で、放射線や薬を組み合わせることもあります。同じ治療でも、めざすゴールによって量や期間の組み立てが変わってくるのです。
どちらをめざす場合でも、治療の見通しを担当の医師と共有しておくことが安心につながります。目的がはっきりすると、副作用とのつき合い方も前もって考えやすくなるでしょう。
なぜ抗がん剤と放射線を同時に行うと効果が高まるのか?
同時に行うと効果が高まるのは、薬と放射線が互いを助け合う相乗効果が生まれるからです。抗がん剤ががん細胞を放射線に弱くし、放射線では届きにくい小さな病巣を薬が補う、という関係が成り立ちます。
抗がん剤が放射線の効きをよくする放射線増感の働き
一部の抗がん剤には、がん細胞を放射線に弱くする「放射線増感」と呼ばれる働きがあります。傷ついた細胞が自分を修復しようとする動きを妨げ、放射線のダメージを残りやすくするのです。
その結果、同じ放射線の量でもがんへの効きが高まります。薬と放射線を別々に行うより、重ねて使うほうが大きな手ごたえにつながりやすいといえるでしょう。
全身に散らばった小さながん細胞へのアプローチ
放射線はあてた範囲にしか作用しませんが、抗がん剤は血液にのって全身をめぐります。検査では見えないほど小さく散った細胞にも、薬なら働きかけられる可能性があります。
局所は放射線、全身は薬という二段構えにすることで、再発のもとになりうる細胞を取りこぼしにくくなります。治療後の安心感にもつながる大切な視点です。
局所の制御と生存率を高めてきた臨床試験の積み重ね
薬と放射線の同時併用が放射線単独より良い成績を示したことは、食道がんや子宮頸がんなど複数のがんで報告されてきました。長年にわたる臨床試験の積み重ねが、いまの標準治療を支えています。
がんの局所をどれだけ抑えられたか、どれだけ長く元気に過ごせたか、という両面で上乗せが確かめられてきました。こうした背景から、多くの場面で第一の選択肢として勧められています。
正常な細胞をできるだけ守りながらがんをねらう工夫
放射線も抗がん剤も、がん細胞だけをねらい撃ちするわけではなく、まわりの正常な細胞にも少なからず影響します。そこで治療では、がんに集まりやすい性質や、正常な組織のほうが回復しやすいという差を上手に利用していきます。
照射する範囲をしぼり込む技術や、薬の量と投与のタイミングをこまやかに整える工夫も重ねられてきました。正常な細胞への負担をおさえることが、副作用をやわらげ、治療を最後まで続けやすくする支えになります。
- 放射線によるダメージの修復を妨げる
- がん細胞の分裂のタイミングをそろえる
- 治療中のがん細胞の増え直しをおさえる
- 全身に散った小さな病巣にも届く
化学放射線療法が選ばれる主ながんの種類と進行度
化学放射線療法は、食道がん・子宮頸がん・頭頸部がん・肺がん・直腸がんなど、さまざまながんで選ばれる治療です。手術が難しいときや、臓器の機能を残したいときに力を発揮します。
食道がん・子宮頸がんで確立した標準治療のひとつ
食道がんでは、体力や持病の関係で手術が難しい方を中心に、化学放射線療法が根治をめざす柱になります。飲み込みにかかわる臓器を残せる点でも意味のある選択です。
子宮頸がんでも、進行した病変に対してシスプラチンを使った同時併用が標準的に行われています。長く使われてきた実績があり、安心して受けやすい治療といえるでしょう。
頭頸部がんで声や飲み込みの機能を残す選択肢
のどや舌などにできる頭頸部がんでは、声を出す、食べる、飲み込むといった日々の働きを守ることがとても大切になります。化学放射線療法は、こうした機能をできるだけ残しながらがんを抑える方法です。
手術で切除する範囲が大きくなりそうな場合に、薬と放射線で病巣をたたく道を検討します。生活の質を保つうえで、患者さんにとって大きな意味を持つ治療です。
切除がむずかしい肺がんや直腸がんでの活用
手術でとりきれない進行した肺がんでは、薬と放射線を組み合わせて病巣を抑え、その後に治療を上乗せする進め方が広がっています。延命と生活の維持の両立をめざす流れです。
直腸がんでは、手術の前に化学放射線療法を行って病巣を小さくし、肛門を残せる可能性を高める使い方があります。手術とうまく組み合わせることで、より良い結果につなげる工夫です。
再発を防ぐために手術後へ加える組み合わせ
がんを手術で取りきったあとでも、目に見えないほど小さな細胞が残り、再発の引き金になることがあります。そうしたリスクが高いと考えられる場合に、手術のあとから薬と放射線を加えて再発を防ぐ進め方が選ばれます。
頭頸部がんや、すい臓がんの一部などで検討されてきた方法です。手術と化学放射線療法を組み合わせることで、取りきれなかったかもしれない部分を補い、より確かな治療成績につなげる狙いがあります。
| がんの種類 | 主な狙い | 補足 |
|---|---|---|
| 食道がん | 手術が難しい場合の根治 | 薬と放射線で病巣を抑える |
| 子宮頸がん | 進行した病変の制御 | シスプラチン併用が標準的 |
| 頭頸部がん | 声や飲み込みの機能を残す | 臓器を温存しやすい |
| 肺がん(切除不能のⅢ期) | 局所の制御と延命 | 治療後に追加の薬も検討 |
| 直腸がん | 手術前に病巣を縮小 | 肛門を残せる可能性が高まる |
治療中から治療後にあらわれる副作用とその対策
副作用は、抗がん剤による全身性のものと、放射線をあてた部位に出る局所のものに大きく分かれます。多くは治療の終了とともにやわらぎ、対策によって負担を減らせます。
抗がん剤による全身性の副作用とそのケア
抗がん剤による副作用としては、吐き気や食欲の低下、だるさ、血液をつくる力の一時的な低下などがあらわれることがあります。感染症にかかりやすくなる時期もあるため、体調の変化に気を配りたいところです。
吐き気には予防の薬が用意され、血液の状態は検査で確認しながら進めます。つらい症状は我慢せず、早めに伝えていただくことが負担を軽くする近道です。
放射線をあてた部位に出る局所の副作用
放射線の副作用は、あてた場所に集中して出るのが特徴です。皮膚が日焼けのように赤くなったり、照射の範囲によっては口やのど、腸の粘膜に炎症が起きたりします。
治療の後半になるほど目立ちやすく、治療が終わると少しずつ落ち着いていくことが多いです。どの部位にどんな症状が出やすいかを、あらかじめ知っておくと心の準備になります。
- 頭頸部:口内炎、味覚の変化、口の乾き
- 胸部:飲み込むときの痛み、せき
- 腹部・骨盤:下痢、膀胱炎のような症状
- 皮膚全般:赤みやヒリつき
治療後に長く続くことのある晩期の副作用
多くの副作用は数週間で和らぎますが、なかには時間がたってからあらわれたり、長く続いたりするものもあります。あてた部位の組織がかたくなる、唾液が出にくくなる、といった変化が代表例です。
こうした晩期の症状は、定期的な通院で早めに気づき、ケアにつなげることが助けになります。気になる点はためらわず相談していきましょう。
つらい症状をやわらげる支持療法とセルフケア
治療を支えるための「支持療法」も近年は充実してきました。痛みや吐き気をおさえる薬、口の中を清潔に保つケア、栄養を補う工夫などを組み合わせ、治療を最後まで続けやすくします。
ご自身でできることとして、保湿や十分な水分補給、無理のない休息も大切です。小さな工夫の積み重ねが、つらさを和らげる支えになります。
つらさを一人で抱え込まないことも、治療を支える大切なケアの一つです。不安が強いときは、医師や看護師、相談の窓口に気持ちを話すことで、心の負担が軽くなることもあります。
| 主な副作用 | あらわれやすい時期 | おもな対策 |
|---|---|---|
| 吐き気・食欲低下 | 治療中 | 制吐薬と食事の工夫 |
| 血液をつくる力の低下 | 治療中〜直後 | 血液検査と感染予防 |
| 皮膚炎・粘膜炎 | 治療の後半 | 保湿と口の中のケア |
| 倦怠感 | 治療中〜治療後 | 休息と無理のない生活 |
手術や放射線単独治療と化学放射線療法の違い
手術と比べると、化学放射線療法はメスを入れずに臓器を残せる可能性があります。放射線だけより高い効果が期待できる代わりに、副作用はやや強めに出やすい治療です。
| 治療法 | 主な利点 | 主な負担 |
|---|---|---|
| 手術 | 病巣をまとめて取り除ける | 体への負担、臓器を失うことも |
| 放射線単独 | 体の負担が比較的軽い | 進行例では効果が物足りないことも |
| 化学放射線療法 | 臓器を残しつつ高い効果 | 副作用が強めに出やすい |
からだへの負担と臓器を残せる可能性
手術は病巣をまとめて取り除ける強みがありますが、体への負担が大きく、臓器の一部を失うこともあります。化学放射線療法なら、切らずに治療できるぶん、声や飲み込みなどの働きを残せる場合があります。
高齢の方や持病のある方にとって、体への負担の少なさは見逃せない利点です。どちらが向くかは、一人ひとりの状況によって変わってきます。
放射線単独より高い治療成績、その代わりの副作用
放射線だけの治療と比べると、抗がん剤を加える化学放射線療法のほうが、がんを抑える力が高いことが多くの試験で示されてきました。再発を減らし、生存の見込みを底上げする効果が期待できます。
その代わり、薬の副作用が重なるぶん、体への負担は増えやすくなります。得られる効果と副作用のバランスを見ながら、治療の量を調整していきます。
どの治療を選ぶかを決める判断材料
治療法を決めるときは、がんの種類や進行度に加えて、年齢や持病、ふだんの生活で何を大切にしたいかが判断材料になります。臓器を残したいのか、できるだけ早く取りきりたいのか、思いは人それぞれです。
正解はひとつではありません。担当の医師とよく話し合い、納得できる道を一緒に選んでいくことが、後悔の少ない治療につながります。
セカンドオピニオンも活用して納得して選ぶ
治療方針に迷うときは、別の医師の意見を聞くセカンドオピニオンという方法も役に立ちます。今の担当医の説明を否定するものではなく、選択肢を広げて気持ちを整理し、納得につなげるための前向きな取り組みです。
紹介状や検査結果をそろえれば、ほかの医療機関でも同じように相談できます。気になることは遠慮なく主治医に伝え、家族とも話し合いながら、心から納得できる治療を選んでいきましょう。
治療を始める前の準備と通院スケジュールの流れ
治療の前には、放射線の照射計画を立てる検査や、全身の状態を確かめる検査を行います。実際の治療は、数週間にわたって平日に通院しながら進めるのが一般的です。
治療計画のための検査と全身状態のチェック
治療を始める前に、CTなどの画像でがんの位置や広がりを確認し、放射線を正確にあてるための計画を立てます。あわせて、抗がん剤に耐えられる体力や腎臓・肝臓の働きも調べます。
体に小さな印をつけて、毎回同じ場所に照射できるよう準備することもあります。こうした事前の確認が、効果を高め副作用をおさえる土台になります。
数週間にわたる通院と1日の過ごし方
放射線は平日に毎日、合計でおよそ5〜7週間続けることが多く、抗がん剤は決められた日に組み合わせます。1回の照射そのものは数分で終わり、通院の負担は思ったより軽いと感じる方もいます。
通院しながら治療を受けられる場合が多いものの、副作用が強いときや全身の管理が必要なときには、一時的に入院をすすめられることもあります。日々の予定は担当医に確認しておくと安心です。
治療のスケジュールは、カレンダーや手帳に書き込んでおくと管理しやすくなります。予定が見えると気持ちにも余裕が生まれ、生活のリズムを保ちながら通いやすくなるでしょう。
治療中の食事と体調管理で気をつけたいこと
治療中は、栄養と水分をしっかりとることが体調の維持につながります。口やのどに炎症があるときは、やわらかく刺激の少ないものを少量ずつとる工夫が役立ちます。
体重や食事量の変化は、治療を続ける力に直結します。気になる変化があれば、栄養の相談ができるスタッフに早めに声をかけてみてください。
家族や周囲の支えを受けながら治療を続ける
数週間にわたる治療は、ご本人だけでなく支える家族にとっても負担になりがちです。通院の付き添いや家事の分担など、周囲の協力を得ながら進めると気持ちが楽になります。
不安や疑問は一人で抱え込まず、医療スタッフや家族と分け合うことが大切です。支え合える環境づくりも、治療を最後までやり遂げる力になります。
よくある質問
化学放射線療法はどのくらいの期間がかかりますか?
一般には、放射線を平日に毎日行い、合計でおよそ5〜7週間ほど続けることが多いです。抗がん剤は、その間の決められた日に組み合わせて投与します。
がんの種類や進行度、体調によって前後しますので、具体的な予定は担当の医師に確認していただくと安心です。
化学放射線療法の副作用は治療が終わると軽くなりますか?
治療中に出る吐き気や皮膚の炎症などは、治療が終わってから数週間ほどかけて、少しずつ和らいでいくことが多いです。
ただし、一部には時間がたっても残る症状があります。気になる変化は早めに相談していただくと、適切なケアにつなげやすくなります。
化学放射線療法は入院せずに通院でも受けられますか?
体調や治療の内容によりますが、多くの場合は通院しながら受けられます。1回の放射線の照射は数分で終わるため、日常生活と両立しやすい方もいます。
副作用が強いときや、全身の状態を細かく管理する必要があるときには、一時的な入院をすすめられることもあります。
化学放射線療法と手術はどちらを選べばよいのでしょうか?
どちらが向くかは、がんの種類や進行度、年齢や持病などによって変わります。臓器を残したいか、体への負担をどこまで受け入れられるかも大切な判断材料です。
正解はひとつではありませんので、担当の医師とよく話し合い、ご自身が納得できる方法を一緒に選んでいきましょう。
化学放射線療法を受けている間の食事で気をつけることはありますか?
治療をあてる部位によって、食べやすいものが変わります。口やのどに炎症が出ているときは、やわらかく刺激の少ない食事が向いています。
少量をこまめにとり、水分を意識して補うと、体調を保ちやすくなります。食事が進まないときは、栄養の相談ができるスタッフに声をかけてみてください。
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この記事を書いた人 Wrote this article
前田 祐助 医学博士 / 医師
慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医