
術前化学放射線療法は、手術の前に抗がん剤と放射線を組み合わせ、がんを小さくしてから切除を目指す治療です。手術だけで臨むより、がんを取り切りやすくする狙いがあります。
もう一つの大きな目的が、肛門や声を出す力といった大切な働きをできるだけ残す機能温存です。体への負担と治療効果のバランスを整える考え方といえます。
この記事では、直腸がんや食道がんでの目的や治療の流れ、期待できる効果とわかっている限界をやさしくお伝えします。副作用との付き合い方や、検診とのつながりまで丁寧に解説します。
術前化学放射線療法はがんを小さくしてから手術する治療
術前化学放射線療法は、手術の前に抗がん剤と放射線をあわせて行い、がんを縮小させてから切除に進む治療です。まず結論をお伝えすると、その目的は「より確実に、より体にやさしく取り切る」ことにあります。
抗がん剤と放射線を同時に使う併用療法
この治療は、抗がん剤と放射線という性質の違う2つの方法を同じ時期に組み合わせます。抗がん剤が全身に効き、放射線がねらった場所を集中して攻めるため、互いの弱点を補い合えるのが特徴です。
2つを重ねると、放射線の効きが高まりやすいことも知られています。そのため、片方だけよりもがんを小さくしやすくなると考えられています。
「術前」と「術後」では狙いがどう違う?
術後に行う治療が「取り残しを抑える後始末」だとすれば、術前の治療は「手術を有利にする下ごしらえ」にあたります。先にがんを小さくしておくと、切る範囲を抑えやすくなります。
手術の前は血の巡りが保たれているため、薬や放射線が届きやすい利点もあります。同じ組み合わせでも、行う時期によって意味合いが変わってくるのです。
局所進行がんで検討されることが多い
術前化学放射線療法は、がんがその場所で少し広がった「局所進行」と呼ばれる段階でよく検討されます。早期すぎる場合は手術だけで十分なことも多く、必ずしも全員に行うわけではありません。
- ダウンステージング
- 集学的治療
- 根治切除
- 局所制御
これらは治療を説明するときによく出てくる言葉です。意味がつかめると、主治医からの説明がぐっと理解しやすくなります。
治療を始める前に体の状態を確かめる
治療に入る前には、心臓や腎臓の働き、栄養の状態などを検査で確かめます。体が治療に耐えられるかを見きわめ、安全に進めるための準備にあたります。
持病や飲んでいる薬がある人は、前もって医療チームに伝えておきましょう。情報がそろうほど、その人に合った計画を立てやすくなります。
手術の前にがんを小さくし機能温存を目指す目的
術前化学放射線療法の目的を一言でまとめると、「小さくして、残して、抑える」の3つです。がんを縮め、体の働きを守り、再発の芽をたたく。この3本柱が治療を支えています。
| 主な目的 | 治療で行うこと | 期待すること |
|---|---|---|
| 縮小(ダウンステージング) | がんを小さくする | 切除しやすくする |
| 機能温存 | 臓器や働きを守る | 生活の質を保つ |
| 微小ながんへの対策 | 散った細胞をたたく | 再発を抑える |
がんを縮小させて切除しやすくする
がんが大きいままだと、まわりの神経や血管を巻き込みやすく、手術が難しくなります。先に縮めておけば、安全に取り切れる範囲が広がります。
取り残しを減らせると、その後の経過にも良い影響が期待できます。まず小さくする、という発想が治療全体の土台になっています。
肛門や声をできるだけ残す機能温存の狙い
機能温存とは、がんを取り除きながらも、暮らしに欠かせない働きをできるだけ守る考え方です。直腸がんなら肛門の働き、食道がんなら飲み込む力が代表例にあたります。
がんが小さくなれば、大きく切らずに済む見込みが高まります。その結果、治療後の生活のしやすさを保ちやすくなるのです。
体に隠れた微小ながんをたたく
目に見えるがんのほかに、画像では映らないほど小さな細胞が散っていることがあります。全身に効く抗がん剤を早い段階で使うと、こうした見えない芽にも働きかけられます。
手術の前から全身を意識して治療する点が、術前ならではの強みです。再発をできるだけ遠ざける備えともいえるでしょう。
術前化学放射線療法の治療の流れと期間の目安
放射線治療は、平日に少しずつ照射し、およそ5〜6週間かけて進めるのが一つの目安です。同じ時期に抗がん剤を重ね、治療後はしばらく体を休めてから手術へと向かいます。
放射線と抗がん剤を5〜6週間かけて同時に進める
放射線は1回あたりの量を抑えて毎日少しずつ当て、体への負担を分散させます。抗がん剤は点滴や内服でこの期間に合わせて使い、放射線の効果を後押しします。
通院しながら続けられる場合が多く、仕事や家事と両立する人もいます。体調にあわせて休む日を入れることもあり、無理のない進め方を医療チームと相談できます。
治療後は数週間あけてから手術する
治療を終えてすぐ手術するのではなく、数週間ほど間をあけます。この時間にがんがさらに縮み、傷んだ組織が落ち着くため、手術がより安全になります。
待つことそのものに意味がある、という点が見落とされがちです。あせらず体を整える期間と受け止めると、気持ちも楽になります。
効果はどうやって確かめる?
治療の効きは、CTやMRIなどの画像検査、内視鏡、血液検査を組み合わせて確かめます。がんの大きさや形の変化を見ながら、次の手術計画を立てていきます。
一つの検査だけでは判断しきれないことも多く、複数の結果を重ねて総合的に見ます。効果の出方には個人差があり、思ったほど縮まない場合の進め方も前もって相談しておくと安心です。
治療中も仕事や家事を続けられることが多い
放射線は通院で受けられることが多く、5〜6週間の治療中も日常を大きく崩さずに過ごせる人がいます。体力に余裕のある日は、これまでどおりの暮らしを保ちやすいでしょう。
ただし治療の後半はだるさが出やすく、休息を増やす工夫が役立ちます。周囲に事情を伝え、無理のない範囲で予定を調整しておくと、最後まで続けやすくなります。
治療の流れと期間のめやす
| 段階 | 主な内容 | 期間のめやす |
|---|---|---|
| 同時併用治療 | 放射線と抗がん剤 | 5〜6週間 |
| 休止と効果判定 | 体力の回復と検査 | 数週間 |
| 手術 | がんの切除 | 治療後6〜8週ごろ |
あくまで一般的な目安であり、がんの状態や体調で前後します。実際の予定は主治医と確認すると安心して臨めます。
直腸がんや食道がんで行う術前化学放射線療法
術前化学放射線療法がよく検討されるのは、直腸がんと食道がんです。どちらも、残したい大切な働きが近くにあるため、機能温存をねらう意味が大きいがんといえます。
直腸がんでは肛門を残せる可能性が広がる
肛門に近い直腸がんでは、何もせず手術すると人工肛門が必要になることがあります。先に治療でがんを小さくできれば、肛門を残す手術を選べる見込みが高まります。
排便の働きを守れるかどうかは、暮らしの満足度に直結します。だからこそ、縮小をねらう治療の意味が重く受け止められています。
食道がんでは飲み込む力を守る助けになる
食道がんでは、がんが大きいと食べ物の通り道が狭くなり、飲み込みづらくなります。治療でがんを縮められると、手術で取り切りやすくなり、飲み込む力を守る助けになります。
食べる楽しみは、回復への力にもつながります。そのため、機能を意識した治療計画が大切にされています。
がんの場所や進み具合で適応は変わる
同じがんでも、できた場所や広がり方によって向き不向きがあります。早期なら手術だけ、進んでいれば別の組み合わせ、と方針は一人ひとり変わります。
持病や体力、年齢なども、治療を選ぶうえで欠かせない判断材料です。だからこそ画一的に決めず、その人の状態に合わせて方針を組み立てていきます。
胃や膵臓のがんでも検討されることがある
術前化学放射線療法は直腸がんや食道がんでよく使われますが、対象はそれだけにとどまりません。膵臓がんでは、手術で取り切れる状態に近づける目的で行う方法の研究が進んでいます。
胃がんなど他のがんでも、状況に応じて検討する場面があります。どのがんに向くかは進み具合や全身の状態で変わるため、専門の医療機関での見立てが大切です。
直腸がんと食道がんでの目的のちがい
| がんの種類 | 主な目的 | 残したい働き |
|---|---|---|
| 直腸がん | 肛門の近くを温存 | 排便の機能 |
| 食道がん | 取り切りやすくする | 飲み込む力 |
| 共通の狙い | 再発を抑える | 生活の質 |
どのがんでも、治療の根っこにある思いは共通しています。がんを抑えつつ、その人らしい生活を守ることです。
術前化学放射線療法に期待できる効果とわかっている限界
大切な前提をお伝えすると、この治療でがんが必ず消えるわけではありません。再発を抑えて切除を確実にする効果は示されていますが、得られる利益はがんの種類で違います。
再発を抑え切除の確実性を高める
研究では、治療を加えると元の場所での再発が抑えられ、がんを取り切れる割合が高まると報告されています。手術の質を底上げする役割を担っているといえます。
- 局所制御
- ダウンステージング
- 切除断端の状態
- 画像での縮小
これらは効果をはかるときの主な目安です。複数を組み合わせて、治療がうまく働いたかを総合的に判断します。
生存期間への効果はがんの種類で異なる
食道がんでは、治療を加えることで長く生きられる可能性が高まると示されています。一方で直腸がんでは、再発は減らせても生存期間の延びにはつながりにくい、という結果もあります。
同じ枠組みの治療でも、答えはがんごとに分かれます。だからこそ、自分のがんでは何が期待できるのかを主治医に尋ねることが大切です。
すべての人に同じ効果が出るわけではない
がんがよく縮む人もいれば、思ったほど反応しない人もいます。効きやすさは体質やがんの性質によって変わり、前もって完全には読み切れません。
うまくいかなかった場合に備え、別の手立ても用意しておきます。期待と限界の両方を知っておくと、落ち着いて治療に向かえます。
術前化学放射線療法の副作用とつらさを和らげる工夫
副作用はある程度起こりうるものですが、多くは対処の方法が整っています。だるさや皮膚の炎症、お腹の不調などが代表的で、治療が終われば和らいでいくものが中心です。
だるさ・皮膚炎・下痢などが起こりやすい
放射線を当てた場所では、皮膚や粘膜が赤くなったりしみたりすることがあります。抗がん剤の影響で、だるさや吐き気、お腹の調子の乱れが出る人もいます。
起こりやすい副作用と和らげる工夫
| 起こりやすい症状 | 出やすい時期 | 和らげる工夫 |
|---|---|---|
| だるさ | 治療の後半 | 休息と水分をとる |
| 皮膚炎・粘膜炎 | 治療の中盤以降 | 保湿とやさしいケア |
| 下痢・腹痛 | 治療中 | 食事の工夫と水分補給 |
| 血液の数値の低下 | 治療中から治療後 | 定期的な血液検査 |
同じ治療でも、感じ方には個人差があります。表はあくまで目安として、自分の体調と照らし合わせてください。
副作用はいつごろ強くなる?
多くの副作用は治療の後半にかけて強まり、終了後しばらくして落ち着いてきます。血液の数値は治療中に下がりやすく、感染を防ぐために定期的に確かめます。
いつ何が起こりやすいかを先に知っておくと、心構えができます。見通しが立つだけでも、不安はずいぶん軽くなります。
つらい症状は早めに主治医へ伝える
がまんしすぎると、対処が遅れて症状が長引くことがあります。痛みや食べにくさ、強いだるさを感じたら、早めに医療チームへ伝えてください。
薬の調整や生活の助言で、つらさを和らげられる場面は多くあります。一人で抱え込まないことが、治療を続ける支えになります。
副作用に備えて生活面でできる準備
治療が始まる前に暮らしを少し整えておくと、副作用が出ても落ち着いて対処できます。栄養のとれる食事や十分な睡眠は、体力を保ち、回復を支える土台になるでしょう。
皮膚をこすらない、保湿を続けるといった日々のケアも助けになります。困りごとを書き留めておき、受診時に伝えると、必要な手当てを受けやすくなります。
がん検診で早期に見つかれば治療の選択肢は広がる
早く見つかるほど、体にやさしい治療を選びやすくなります。検診によって早期発見できれば、大がかりな治療に頼らずに済む場面が増えるのです。
| 見つかった時期 | 治療の選びやすさ | 体への負担 |
|---|---|---|
| 早期 | 選択肢が広い | 軽めで済みやすい |
| 進行 | 集学的な治療が中心 | やや大きくなりやすい |
| 検診の活用 | 早期発見につながる | 抑えやすい |
早期発見なら体の負担が軽い治療を選びやすい
がんが小さいうちなら、手術だけ、あるいは内視鏡での処置で済む場合があります。術前化学放射線療法のような集学的な治療が必要になるのは、ある程度進んだ段階です。
早く気づけば、それだけ選べる道が広がります。検診は、その後の選択肢を増やすための備えともいえます。
定期的ながん検診が将来の選択肢を守る
症状がなくても、がんは静かに育つことがあります。定期的に検診を受けておくと、自覚する前の段階で見つけられる可能性が高まります。
未来の自分にやさしい選択肢を残す行動が、いまの検診です。負担の少ない治療を選べる土台づくりにつながります。
気になる症状があるときは受診をためらわない
排便の変化や飲み込みにくさ、体重の急な減りなどは、体からのサインのことがあります。気になる変化が続くときは、検診を待たずに受診してください。
早く相談するほど、軽い負担で対処できる見込みが高まります。受診をためらう気持ちは自然なものですが、確かめて何もなければ大きな安心につながります。
家族歴や生活習慣がある人は検診の間隔を意識する
血のつながった家族にがんを経験した人がいる場合、平均より早めの検診が役立つことがあります。喫煙や多めの飲酒など、リスクを高める生活習慣も見直したいところです。
自分に合う検診の種類や間隔は、年齢や体質によって変わります。気がかりがあるときは、かかりつけ医に相談して受け方を決めると安心でしょう。
よくある質問
術前化学放射線療法は必ず手術とセットで行うのですか?
術前化学放射線療法は、その名のとおり手術の前に行う治療なので、原則として手術とあわせて計画します。がんを小さくしてから切除し、できるだけ体の働きを残すことが大きな狙いです。
ただし治療後の反応がとても良い場合には、すぐ手術をせず慎重に経過を見る方法が検討されることもあります。どの方針が合うかは、がんの種類や進み具合をふまえて主治医と相談しながら決めていきます。
術前化学放射線療法を受けるときは入院が必要ですか?
放射線治療の多くは通院で受けられ、平日に少しずつ照射していくのが一般的です。抗がん剤の種類によっては、点滴のために短い入院や通院治療を組み合わせることがあります。
体調や副作用の程度しだいで、入院して様子を見たほうが安心なこともあります。生活の事情も含めて、無理のない通い方を医療チームと一緒に整えていくと続けやすいでしょう。
術前化学放射線療法で髪は抜けてしまいますか?
髪が抜けるかどうかは、使う抗がん剤の種類と放射線を当てる場所によって変わります。直腸がんや食道がんで使う薬では、頭髪が大きく抜けないことも少なくありません。
放射線による脱毛は、照射が当たった部分に限られるのが特徴です。気になるときは事前に主治医へ確認しておくと、心の準備や対策がしやすくなります。
術前化学放射線療法はどのくらいの期間がかかりますか?
放射線と抗がん剤を同時に行う期間は、およそ5〜6週間が目安になることが多いです。その後は体を休めながら効果を確かめ、数週間あけてから手術に進みます。
治療全体では、準備から手術までに2〜3か月ほどかかる場合もあります。がんの状態や体調で前後するため、具体的な予定は主治医に確認すると安心です。
術前化学放射線療法のあとに手術をしない選択肢はありますか?
直腸がんなどでは、治療後にがんが見えなくなるほどよく反応した場合に、すぐ手術をせず慎重に経過を見る方法が研究されています。臓器を残せる見込みがあるのが利点です。
一方で、再発を見逃さないためには、こまめな検査と通院が欠かせません。手術をしない方針が向くかどうかは、専門の医療機関でよく相談して判断することが大切です。
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この記事を書いた人 Wrote this article
前田 祐助 医学博士 / 医師
慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医