定位放射線治療(ピンポイント照射)の特徴|対象となるがん種と短期間での治療

定位放射線治療(ピンポイント照射)の特徴|対象となるがん種と短期間での治療

がんと診断されたとき、多くの方が「できるだけ体に負担の少ない治療を受けたい」と考えるのではないでしょうか。定位放射線治療は、がん病巣にピンポイントで高線量の放射線を集中照射する治療法です。

周囲の正常な組織へのダメージを抑えながら、短期間で治療を完了できる点が大きな特徴といえます。肺がんや肝転移、前立腺がんなど対象となるがん種も幅広く、手術が難しい患者さんにとって有力な選択肢となっています。

この記事では、定位放射線治療の仕組みから対象疾患、副作用、治療スケジュールまでを、わかりやすく丁寧に解説していきます。

定位放射線治療とは何か?従来の放射線照射との決定的な違い

定位放射線治療は、多方向から放射線を1点に集中させてがん細胞を破壊する照射法です。従来の放射線治療が広い範囲に均一な線量を当てるのに対し、ピンポイント照射では腫瘍だけを狙い撃ちにできるため、正常組織への影響を大幅に軽減できます。

がん病巣だけを狙い撃ちにする高精度な照射技術

定位放射線治療では、CT画像やMRI画像を用いて腫瘍の位置と形状を精密に把握します。そのうえで、複数の角度から放射線ビームを腫瘍の一点に収束させることで、病巣にのみ高い線量を集中させる仕組みです。

この照射法は英語で「Stereotactic Body Radiation Therapy(SBRT)」と呼ばれ、体幹部の腫瘍を対象とする場合に広く使われています。脳腫瘍に対して同じ原理で行うものは「定位放射線手術(SRS)」と呼ばれることもあります。

従来の放射線治療では何回にも分けて照射していた

一般的な放射線治療は、1回あたりの線量を低く抑え、30回から35回程度に分割して照射するのが標準的です。治療期間は6週間から7週間に及ぶことも珍しくありません。

一方、定位放射線治療は1回あたりに高い線量を投与できるため、照射回数を3回から5回程度まで圧縮できます。通院にかかる負担が少なく、仕事や日常生活を維持しながら治療を受けやすい点が患者さんにとって大きなメリットでしょう。

定位放射線治療と従来照射法の比較

項目定位放射線治療従来の放射線治療
照射回数1〜5回程度25〜35回程度
1回あたりの線量高線量低線量
治療期間1〜2週間5〜7週間
照射範囲腫瘍にピンポイントやや広い範囲
正常組織への影響少ない比較的大きい

「ピンポイント照射」と呼ばれる理由は線量の集中度にある

定位放射線治療が「ピンポイント照射」と表現されるのは、腫瘍周辺のわずか数ミリ先で線量が急激に低下する急峻な線量勾配を実現しているためです。周囲の臓器や組織を傷つけにくいという特性が、この呼び名の由来になっています。

照射計画では、腫瘍が呼吸によって動く場合でもその動きを考慮した補正が行われます。呼吸同期照射や体幹固定具などの技術を組み合わせることで、照射の精度をさらに高めているのです。

定位放射線治療で使われる照射装置と技術をわかりやすく紹介

定位放射線治療には専用の高精度な照射装置が使われており、それぞれに得意とする領域があります。装置の種類と照射技術を知ることで、治療への理解がより深まるでしょう。

リニアック(直線加速器)ベースの照射装置

多くの医療機関で採用されているのが、リニアック(直線加速器)をベースにした照射装置です。ガントリーと呼ばれる照射ヘッドが患者さんの周囲を回転しながら、多方向からビームを病巣に集中させます。

画像誘導放射線治療(IGRT)の機能を備えた装置では、照射直前にCT撮影を行い、腫瘍の位置をリアルタイムで確認します。位置ズレがあれば自動補正するため、精度の高い照射が可能です。

サイバーナイフやガンマナイフなど専用装置の違い

サイバーナイフはロボットアームに小型のリニアックを搭載した装置で、体幹部の腫瘍から脳腫瘍まで幅広い部位に対応します。照射中も腫瘍の位置をリアルタイムで追尾するため、呼吸で動く臓器の治療にも適しています。

ガンマナイフは脳に特化した装置で、約200本のコバルト60からのガンマ線を一点に集中させます。頭蓋内の腫瘍や転移性脳腫瘍の治療で豊富な実績を持っています。

呼吸管理と固定技術が治療精度を支えている

定位放射線治療において、照射精度を左右するのが患者さんの体の固定と呼吸管理です。体幹部の治療では、専用のボディフレームや真空パッドで体を固定し、治療中の体動を抑えます。

呼吸によって腫瘍が動く肺がんや肝臓がんの照射では、呼吸同期システムが活躍します。息を吐いたタイミングや特定の呼吸位相にのみビームを照射する方法で、腫瘍の動きに合わせた正確な治療を実現しています。

装置名対象部位特徴
リニアック全身汎用性が高く多施設で導入
サイバーナイフ脳・体幹部リアルタイム追尾が可能
ガンマナイフ脳腫瘍治療に特化

定位放射線治療の対象となるがん種は意外と幅広い

定位放射線治療は当初、肺がんや脳腫瘍を中心に普及してきましたが、現在では肝臓がん、前立腺がん、脊椎転移など多くのがん種に適用されています。対象疾患の広がりを具体的にみていきましょう。

早期肺がんの根治的な治療として高い局所制御率を誇る

定位放射線治療が広く認められるきっかけとなったのが、早期の非小細胞肺がんに対する治療成績です。手術が困難な患者さんに対しても、3年局所制御率が90%を超える報告が多く寄せられています。

通常は3回から5回の照射で治療が完了し、入院の必要がないケースも少なくありません。高齢であったり心肺機能に問題があったりして手術を受けにくい方にとって、体への負担が少ない治療法として大きな期待が寄せられています。

肝臓がんや肝転移にも定位照射が有効な場面がある

肝臓の原発がんや他臓器からの転移性肝がんに対しても、定位放射線治療の有効性が確認されています。手術や局所焼灼療法(RFA)が難しい症例では、SBRTが代替の治療手段として検討されるようになりました。

肝臓は呼吸によって大きく動く臓器ですが、呼吸同期照射や体内マーカーを使った追尾技術の進歩により、安全かつ高精度な照射が実現しています。局所制御率は80%から90%台と報告されており、有望な治療成績です。

定位放射線治療の主な対象疾患

がん種・疾患照射回数の目安適応条件
早期非小細胞肺がん3〜5回腫瘍径5cm以下
肝転移・原発性肝がん3〜5回病変数3個以下
前立腺がん4〜5回限局性がん
脊椎転移1〜5回脊髄圧迫が軽度
転移性脳腫瘍1回(SRS)腫瘍径3cm以下

前立腺がんや脊椎転移にもSBRTの適用が広がっている

前立腺がんでは、5回程度の照射で治療を終える超寡分割照射としてSBRTが注目されています。従来の照射法と同等以上の治療成績が報告されており、通院回数の少なさから患者さんの生活の質を維持しやすい利点があります。

脊椎転移に対しても、従来の緩和的放射線照射よりも高い痛みの改善率が得られるという臨床試験の結果が示されています。骨転移による痛みに悩む患者さんにとって、定位放射線治療は症状緩和の有力な手段となり得るでしょう。

通院回数は数回で済む|定位放射線治療の治療期間とスケジュール

定位放射線治療の大きな魅力の一つは、治療期間が短いことです。一般的には1日から2週間で全照射が完了するため、長期の入院や通院が不要で日常生活への影響も少なく済みます。

初回相談から照射開始までの流れ

まず主治医との相談を経て、定位放射線治療の適応があるかどうかが判断されます。適応と認められた場合は、治療計画用のCTやMRIを撮影し、照射範囲と線量配分を設計する「治療計画」の工程に入ります。

治療計画には通常1週間から2週間ほどかかります。その間に固定具の作成や呼吸管理の練習も行い、照射日に備えます。

1回の照射にかかる時間は30分から60分が目安

実際の照射時間は装置や治療部位によって異なりますが、おおむね30分から60分程度です。照射前に画像照合を行い、腫瘍の位置を確認してから照射に入るため、準備を含めた在室時間はやや長くなります。

照射自体に痛みはなく、じっと横になっているだけで治療が進みます。終了後はすぐに帰宅できるケースがほとんどで、体力を大きく消耗することもありません。

短期間で治療が完了する定位放射線治療の通院スケジュール

照射回数は1回で終わるSRS(脳)から、3回や5回に分けて行うSBRT(体幹部)までさまざまです。分割照射の場合は1日おきまたは連日で照射を行い、最短で1週間以内に全治療を終えることも珍しくありません。

たとえば早期肺がんの場合、3回照射であれば約1週間、5回照射であれば約2週間で治療が完了します。従来の放射線治療と比べると通院回数が大幅に少なく、患者さんの経済的・時間的な負担を軽くできるでしょう。

  • SRS(脳定位照射)は1回の照射で完了する場合が多い
  • SBRT(体幹部)は3〜5回を1〜2週間で実施する
  • 照射前の治療計画に1〜2週間を要する
  • 照射後の経過観察は定期的な画像検査で行う

定位放射線治療を受ける前に確認しておきたい副作用と注意点

ピンポイント照射は周囲の組織への影響が少ない治療法ですが、副作用が全くないわけではありません。治療前に副作用のリスクと対処法を正しく把握しておくことで、安心して治療に臨めます。

照射部位によって現れやすい副作用は異なる

定位放射線治療の副作用は、照射する部位に応じて種類や程度が変わります。肺への照射では放射線肺臓炎(一時的な肺の炎症)が起きることがあり、軽い咳や息切れを感じる方もいらっしゃいます。

肝臓への照射では一過性の肝機能値の上昇がみられる場合がありますが、重篤な肝障害に至るケースはまれです。脊椎転移への照射では、まれに放射線脊髄症のリスクがあるため、脊髄への線量を厳密に管理して治療計画が立てられます。

副作用の多くは軽度で自然に回復する

定位放射線治療で生じる副作用の大半は軽度であり、時間の経過とともに自然に軽快していきます。倦怠感や照射部位の皮膚の赤みなどは一般的にみられますが、日常生活に大きな支障が出ることは少ないでしょう。

部位別にみる主な副作用

照射部位起こり得る副作用頻度・程度
放射線肺臓炎・軽度の咳約10〜20%に軽度
肝臓一過性の肝機能値上昇多くは自然回復
前立腺排尿障害・直腸刺激軽度が中心
脊椎一時的な疼痛増悪照射後数日で軽快
浮腫・頭痛ステロイドで管理

治療を受けられない場合もあるため事前の検査が大切

すべてのがん患者さんが定位放射線治療の対象になるわけではありません。腫瘍が大きすぎる場合や、多数の転移がある場合には適応外となることがあります。

過去に同じ部位へ放射線照射を受けた経験がある方は、再照射の線量制限から定位放射線治療が困難になるケースもあるため、主治医と十分に相談することが大切です。治療前の全身状態や臓器機能の評価も、安全に治療を進めるうえで欠かせない確認事項となります。

従来の放射線治療や手術と比べて定位放射線治療が選ばれる理由

定位放射線治療が他の治療法と比較して選ばれる場面は、患者さんの状態やがんの進行度によって異なります。それぞれの治療法との違いを整理しておくと、ご自身に合った選択がしやすくなるでしょう。

手術と同等の局所制御率が期待できるケースがある

早期肺がんに関しては、定位放射線治療による局所制御率が手術に匹敵するレベルに達しているとする報告があります。手術を受けることが難しい高齢の患者さんや、全身麻酔のリスクが高い方にとって、SBRTは根治を目指せる選択肢です。

もちろん、手術が可能な方にとっては外科的切除が標準治療であることに変わりはありません。定位放射線治療は手術の代替手段として位置づけられることが多く、患者さんごとに適した治療法を慎重に選ぶ必要があります。

体への侵襲が少なく高齢者にも適用しやすい

手術には全身麻酔や切開を伴うため、体力の低下した高齢者にとって大きな負担となります。定位放射線治療は外来通院のみで治療が完結するため、入院が不要で回復期間もほとんどかかりません。

また、抗がん剤治療との併用が検討される場合でも、定位放射線治療は短期間で終わるため、全体の治療スケジュールに組み込みやすいという利点があります。

少数転移(オリゴ転移)に対する積極的治療としての定位照射

がんが少数の部位にだけ転移している「オリゴ転移」の状態では、転移巣をすべて治療することで生存期間の延長が期待できるという考え方が広まっています。定位放射線治療は、このオリゴ転移に対する治療手段として国際的な臨床試験でも良好な結果が報告されてきました。

転移があっても治療をあきらめる必要はなく、定位放射線治療によって積極的に病巣を制御するアプローチが注目されています。主治医と相談しながら、ご自身に合った治療戦略を検討してみてください。

比較項目定位放射線治療手術
体への侵襲低い(非侵襲)高い(切開・全身麻酔)
入院の要否原則不要通常1〜2週間
治療期間1〜2週間術後回復含め数週間
高齢者への適用適用しやすい慎重な判断が必要

定位放射線治療を検討する際に主治医へ相談すべきポイント

定位放射線治療を受けるかどうかを決めるためには、主治医との十分な対話が大切です。治療を検討するときに確認しておきたい具体的なポイントをまとめます。

自分のがんが定位放射線治療の適応になるか確認する

まず確認すべきは、ご自身のがんの種類・ステージ・腫瘍の大きさが、定位放射線治療の適応基準を満たしているかどうかです。腫瘍が5cmを超える場合や、リンパ節への広範な転移がある場合には、別の治療法が勧められることがあります。

また、過去の治療歴も重要な判断材料です。以前に同じ部位へ放射線治療を受けている方は、再照射の可否について放射線治療の専門医へ相談してください。

  • 腫瘍の大きさや個数は適応基準に合致しているか
  • 手術やその他の治療法と比較したときの利点と欠点
  • 過去に受けた放射線治療の照射部位と線量
  • 現在の全身状態(体力・肝機能・肺機能など)

治療実績のある医療機関を選ぶことが安心につながる

定位放射線治療は高度な照射技術と専用の装置を必要とするため、すべての医療機関で実施できるわけではありません。治療実績が豊富な施設であれば、照射計画の精度や安全管理体制の面でも安心感があるでしょう。

受診先を決める際には、施設のホームページや地域のがん診療連携拠点病院の情報を参考にするとよいかもしれません。必要に応じてセカンドオピニオンを求めることも、納得のいく治療選択につながります。

治療後のフォローアップ体制について事前に聞いておく

定位放射線治療が終わった後も、定期的な画像検査による経過観察が必要です。治療後のフォローアップの頻度や、副作用が出た場合の対応窓口について、治療前の段階で確認しておくと安心でしょう。

治療後3か月ごとにCTやMRIで腫瘍の変化を確認するのが一般的です。放射線治療の効果は照射直後ではなく、数週間から数か月かけて現れることが多いため、焦らず経過を見守ることも大切になります。

よくある質問

定位放射線治療は入院が必要ですか?

定位放射線治療は多くの場合、外来通院のみで治療が完了します。1回の照射にかかる時間は30分から60分程度で、照射後はそのまま帰宅できるケースがほとんどです。

ただし、患者さんの全身状態や照射部位によっては安全管理のために短期入院を勧められることもあります。入院の要否については、事前に担当医へご確認ください。

定位放射線治療にはどのような副作用がありますか?

定位放射線治療で生じる副作用は照射部位によって異なりますが、多くの場合は軽度です。肺への照射では軽い咳や一時的な倦怠感、肝臓への照射では肝機能値の一過性の変動がみられることがあります。

重篤な副作用が生じる頻度は低いとされていますが、ゼロではありません。治療前に担当の放射線治療医から副作用の説明を受け、不安な点は遠慮なく質問してみてください。

定位放射線治療はどのがん種に対応していますか?

定位放射線治療の適応となるがん種は幅広く、早期の非小細胞肺がん、原発性肝がん、肝転移、前立腺がん、脊椎転移、転移性脳腫瘍などが代表的です。近年ではオリゴ転移と呼ばれる少数転移の状態に対しても、積極的に定位照射を行う治療戦略が注目を集めています。

ただし、腫瘍の大きさや個数、全身の状態によっては適応外となる場合もあります。ご自身のがんが対象になるかどうかは、放射線治療の専門医に直接お尋ねになることをお勧めします。

定位放射線治療は何回くらい通院すれば終わりますか?

照射回数はがんの種類や部位によって異なりますが、一般的には1回から5回で全治療が完了します。脳腫瘍への定位照射(SRS)であれば1回のみ、体幹部のSBRTであれば3回から5回に分割して行うことが多いです。

分割照射の場合でも1〜2週間以内にすべての照射を終えるのが標準的であり、従来の放射線治療と比べて通院回数が大幅に少なくて済みます。

定位放射線治療は高齢者でも受けられますか?

定位放射線治療は体への侵襲が少ない治療法であるため、高齢の患者さんにも適用しやすいとされています。全身麻酔や切開を伴う手術が難しい方でも、外来通院で治療を完結できる場合が多いです。

年齢だけで適応が決まるわけではなく、全身の体力や臓器の機能を総合的に評価したうえで、担当医が治療の可否を判断します。まずは主治医にご相談いただくのがよいでしょう。

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医