支持療法(サポーティブケア)とは?がん治療を支え、QOLを保つための仕組み

支持療法(サポーティブケア)とは?がん治療を支え、QOLを保つための仕組み

支持療法(サポーティブケア)とは、がんそのものや治療によって生じるつらい症状をやわらげ、生活の質(QOL)を保ちながら治療を続けていくための医療の総称です。

吐き気や痛み、強いだるさ、食欲の低下、気持ちの落ち込みなど、治療中に起こりやすい幅広い困りごとが対象になります。決して特別な人だけのものではありません。

つらさを我慢することが、よい治療結果につながるわけではありません。症状を整えることは、治療を最後までやり遂げる力になります。

この記事では支持療法の中身や緩和ケアとの違い、相談の進め方まで、知っておきたい知識を順番に整理しました。

支持療法(サポーティブケア)とは、がん治療を支える医療です

支持療法とは、がんや治療で起こるつらい症状をやわらげ、生活の質を保ちながら治療を続けるための医療です。

特別な人だけの選択肢ではなく、診断のときから治療後まで、すべての患者さんが受けられる支えといえます。

支持療法が扱う困りごとは、体の症状だけにとどまりません。代表的なものを挙げてみます。

  • 吐き気・嘔吐、痛み、だるさといった体の症状
  • 食欲の低下や口内炎などの食べることの悩み
  • 不安や気持ちの落ち込みといった心のつらさ
  • 仕事やお金、家族との暮らしに関わる困りごと

このように、支持療法は体・心・暮らしの全体を見渡して支えます。だからこそ、治療の早い段階から取り入れる意味があるのです。

がん治療の「副作用」と「症状」の両方を受け止める

がん治療では、抗がん剤や放射線などによる副作用と、がんそのものが引き起こす症状の両方が起こります。支持療法は、その両方をまとめて受け止める役割を担います。

たとえば抗がん剤による吐き気は治療の副作用ですが、がんが神経を圧迫して生じる痛みは病気そのものの症状です。

原因が違っても、つらさをやわらげる工夫はどちらにも用意されています。我慢せずに伝えることが、最初の一歩になります。

どちらのつらさも、放っておけば食事や睡眠、気力に響きます。早めに支えを受けることで、治療に向き合う体と心の余力を保てるのです。

いつから始める? 治療と同時に進める支え方

支持療法は、がん治療が一段落してから始めるものではありません。むしろ、診断や治療の開始と同時に進めるほうが力を発揮しやすいといえます。

早くから症状に手を打っておくと、つらさが重くなる前に対応できます。その結果、予定どおりの治療を続けやすくなります。

進行したがんでも、早い時期から支えを組み合わせた患者さんのほうが、生活の質や気分の面でよい経過をたどったという研究も報告されています。

早く始めて困ることは、ほとんどありません。気になった時点が、相談を始めるよい時期だと考えてよいでしょう。

一人の主治医だけでなくチームで支える

支持療法は、主治医だけで完結するものではありません。看護師や薬剤師、管理栄養士、リハビリの専門職など、多くの職種が関わります。

痛みには痛みの専門家、栄養には栄養の専門家というように、それぞれの強みを持ち寄り、チームとして患者さんを支えます。

困りごとの種類に応じて頼れる相手が変わる、と考えるとわかりやすいでしょう。一人で抱え込む必要はありません。

チームの中心にいるのは、ほかでもない患者さん自身です。どの支えを望むかは、本人の気持ちを大切にしながら決めていきます。

なぜ支持療法ががん治療に欠かせないのか

つらさを我慢することが、よい治療結果を生むわけではありません。

症状を整えることは、治療を予定どおり続け、体力を保つための土台になります。

つらさを我慢しても治療成績は上がらない

強い吐き気や痛みを抱えたまま治療を続けても、がんへの効果が高まるわけではありません。むしろ食事や睡眠が乱れ、体力が落ちてしまいます。

つらさを伝えることは、わがままでも弱さでもありません。症状を正確に共有してはじめて、適切な支えにつながります。

我慢を続けた場合と、支持療法で症状を整えた場合とでは、その後の経過に差が出やすくなります。

つらさは目に見えないぶん、医師には伝えられた範囲でしか分かりません。だからこそ、感じたままを言葉にすることが支えの質を左右します。

我慢した場合と支持療法を受けた場合の違い

場面我慢を続けると支持療法を受けると
食事食欲が落ち体重が減りやすい食べやすい工夫で栄養を保ちやすい
睡眠痛みや不安で眠れない症状が和らぎ休みやすくなる
治療中断や延期が増えやすい予定どおり続けやすい

表からもわかるとおり、症状を放っておくことは治療全体の足を引っ張りかねません。早めの対応こそが、結果として治療を支えます。

症状が治療の中断につながる理由

抗がん剤の副作用が強く出ると、量を減らしたり治療を先延ばしにしたりせざるを得ない場面があります。これが続くと、本来の治療計画から外れてしまいます。

支持療法で副作用をやわらげておけば、こうした中断を防ぎやすくなります。治療を続けられること自体が、大切な目標のひとつなのです。

QOLを保つことが治療を続ける力になる

生活の質(QOL)とは、体の調子だけでなく、心の状態や日常の過ごしやすさまで含めた幅広いものです。

これが保たれていると、治療に前向きに向き合いやすくなります。気持ちの余裕が、毎日の支えになるからです。

つらさが減れば、食べる・眠る・動くといった当たり前の営みを取り戻せます。その積み重ねが、治療を最後まで続ける力になります。

反対に、つらさを抱えこんだままだと、何をするにも気力がわきません。心と体は深くつながっていて、片方の負担がもう片方に響くからです。

がん治療で起こりやすい症状と支持療法の中身

がん治療では吐き気や痛み、強い倦怠感などが起こりやすいものです。

その一つひとつに、つらさをやわらげる方法が用意されています。代表的な症状と支え方を順に見ていきましょう。

まず、よく相談される症状と、それぞれに対する支え方の全体像をまとめました。

症状主な原因支え方の例
吐き気・嘔吐抗がん剤・放射線吐き気止め(制吐薬)の予防的な使用
痛みがん・治療の影響痛み止めの調整、神経の痛みへの薬
倦怠感(だるさ)治療・貧血・睡眠不足休息と軽い運動の組み合わせ
食欲低下吐き気・口内炎食べやすい形への工夫、栄養相談

それぞれの症状には、原因に応じた支え方があります。次から、特に相談の多い症状を詳しく見ていきます。

吐き気・嘔吐を抑える制吐療法

抗がん剤による吐き気や嘔吐は、薬でかなり抑えられるようになりました。

吐き気が起こってから慌てて対応するのではなく、起こる前から予防的に薬を使うのが基本になります。

使う薬の組み合わせは、その治療がどのくらい吐き気を起こしやすいかに応じて選びます。専門家の指針でも、こうした予防の考え方が勧められています。

それでも吐き気が残るときは、薬を足したり種類を変えたりして調整します。我慢せずに伝えれば、まだ打てる手は残っています。

痛みを我慢しないための疼痛管理

がんの痛み(疼痛)は、進行した段階では多くの患者さんが経験するといわれます。痛みは我慢するものではなく、薬で和らげられるものという理解が大切です。

痛みの強さや種類に合わせて、飲み薬や貼り薬、医療用麻薬などを段階的に調整します。眠気や便秘といった薬の副作用にも、あわせて手を打ちます。

痛みが和らぐと、夜よく眠れ、日中も動きやすくなります。その積み重ねが、治療への前向きさを取り戻す助けになるでしょう。

痛みの感じ方は日によっても時間によっても変わります。そのつど主治医に伝えれば、薬の量や使い方を細かく見直せます。

だるさ・倦怠感とのつき合い方

治療中の強いだるさ(倦怠感)は、休めば必ず取れるとは限りません。原因には、治療そのものや貧血、睡眠不足、気持ちの落ち込みなどが重なっています。

対策としては、十分に休むことと、無理のない範囲で体を動かすことを組み合わせます。じっと寝ているより、軽く動いたほうが楽になる場合もあります。

倦怠感は目に見えにくく、まわりに伝わりにくいつらさです。気のせいと片づけず、率直に相談してよい症状といえます。

活動と休息のリズムをつかむと、だるさとつき合いやすくなります。調子のよい時間に用事を済ませる工夫も助けになるでしょう。

食べられないときの栄養サポート

吐き気や口内炎、味覚の変化などで食べられないときは、栄養サポートの出番です。無理にたくさん食べようとせず、食べやすい形に変えることから始めます。

少量でも栄養がとれる食品を選んだり、口当たりのよい料理に変えたりと、工夫の幅は広いものです。管理栄養士に相談すると、自分に合った方法が見つかります。

思うように食べられない日があっても、自分を責める必要はありません。食べられる範囲で続けることが、何よりの栄養になります。

支持療法と緩和ケアの違いはどこにあるのか

支持療法と緩和ケアは、別物ではありません。

大きく重なり合いながら、目的とする時期や幅にゆるやかな違いがあるだけです。

終末期のためだけ、ではありません

緩和ケアと聞くと、終末期や最期の時間だけのものと感じる方が少なくありません。

実際には、診断の早い時期から、つらい症状をやわらげるために行われるものです。誤解で遠ざけてしまうのは、もったいないといえます。

支持療法も緩和ケアも、つらさを減らして生活の質を保つという目的は同じです。怖いもの、特別なものと身構える必要はありません。

早い時期からの緩和ケアは、最期の準備ではなく今を楽に過ごすための支えです。前向きに使ってよい選択肢といえます。

二つが重なり合う場面

痛みをやわらげる、吐き気を抑える、気持ちの落ち込みを支えるといった場面では、支持療法と緩和ケアの中身は大きく重なります。

実際の現場では、両者をはっきり線引きしないことも珍しくありません。大切なのは名前ではなく、今のつらさに合った支えを受けることです。

支持療法と呼ぶか緩和ケアと呼ぶかは、医療者の側の言い方の違いにすぎないこともあります。名前にとらわれず、気軽に相談してよいのです。

言葉の使い分けに迷ったときの目安

言葉の使い分けに迷ったら、おおまかな目安として整理しておくと安心です。

支持療法は治療の副作用や症状を幅広く支える言葉、緩和ケアはつらさ全般をやわらげる言葉、と考えるとよいでしょう。

二つの言葉の違いを、おおまかに見比べてみます。

支持療法と緩和ケアの主な違い

観点支持療法緩和ケア
主な目的治療の副作用・症状をやわらげるつらさ全般をやわらげQOLを保つ
始める時期診断・治療開始のころから診断のころから最期まで
重なり多くの場面で共通する多くの場面で共通する

こうして並べると、両者がいかに近い存在かが見えてきます。どちらも、安心して頼ってよい医療です。

QOLを保つために支持療法ができること

体調が許す範囲であれば、運動や心のケア、周囲の支えは、QOLを保つ大きな助けになります。

特別な道具はいりません。日常の中でできる工夫から始められます。

体を動かす運動の取り入れ方

治療中であっても、無理のない運動は体力や気分の面でよい影響をもたらします。

多くの研究をまとめた分析でも、運動が生活の質や体の働きを支えることが示されています。取り入れやすいのは、次のような軽い動きです。

無理なく取り入れやすい体の動かし方

  • 短い距離の散歩やゆっくりした歩行
  • 椅子に座ったままできる手足の運動
  • 深い呼吸やかんたんなストレッチ
  • 家事など日常の動作を少しずつ

大切なのは、強くがんばることではなく、続けられる量を見つけることです。始める前に、主治医へ相談しておくと安心できます。

体調や治療の内容によっては、避けたほうがよい動きもあります。何をどこまでやってよいか、主治医と一緒に確認しておきましょう。

眠れない・気持ちが沈むときの心のケア

治療中は、眠れない夜が続いたり、気持ちが沈んだりすることがあります。これは弱さではなく、つらい状況に向き合う中で自然に起こる反応です。

つらさが続くときは、医師や看護師、心理の専門職に相談できます。話を聞いてもらうだけでも気持ちが軽くなり、必要なら睡眠や不安への対応も受けられます。

心のつらさを一人で抱えこまないことが、回復への近道になります。家族や友人に弱音を吐くことも、立派な支えのひとつです。

気持ちの落ち込みが長く続くときは、早めに専門職へ相談してください。心の不調も、体の症状と同じように手当てできるものです。

家族や周囲の支えも支持療法の一部

支持療法は、患者さん本人だけを対象とするものではありません。日々を支える家族や身近な人もまた、不安や疲れを抱えやすいものです。

家族が安心して支えられるよう、相談の場や情報も用意されています。周囲が無理なく支え続けられることは、結果として患者さん自身の安心にもつながります。

支える側もときには休み、つらさを誰かに話してかまいません。共倒れを防ぐことが、長く支え続けるための知恵といえるでしょう。

支持療法を受けるための相談先と進め方

症状のつらさは、伝えなければ相手に届きません。

まずは主治医や看護師に具体的に伝えることが、支持療法への入り口になります。

まずは主治医や看護師に伝える

支持療法を受けたいときに、特別な手続きはいりません。診察のときに、つらい症状をそのまま言葉にして伝えるところから始まります。

遠慮して症状を小さく伝えてしまうと、必要な支えが届きにくくなります。困っていることは、困っているとはっきり伝えてよいのです。

言葉にしづらいときは、紙に書いて渡す方法もあります。うまく話せなくても、伝えたいという思いはきっと届きます。

症状を正確に伝える記録のコツ

診察の時間は限られています。短い時間で正しく伝えるには、ふだんの症状を簡単に記録しておくと役立ちます。記録しておくと診察で役立つのは、次のような項目です。

主治医に伝えると役立つ記録の項目

記録する項目書き方の例伝わりやすさ
いつから「3日前の朝から」始まりが分かる
どのくらい「10段階で7くらい」強さが伝わる
どんなとき「食後に強くなる」原因を探せる

こうしてメモを持参すると、限られた時間でも症状が正確に伝わります。その結果、自分に合った支えにたどり着きやすくなります。

記録は毎日きちんとつけなくてもかまいません。気になったことを、ひと言だけ書き留めておくだけでも十分役立ちます。

頼れる専門外来やセカンドオピニオン

通っている医療機関に支持療法や緩和ケアの専門外来があれば、より詳しい相談ができます。まずは主治医に、相談できる窓口があるか尋ねてみるとよいでしょう。

今の説明に納得しきれないときは、別の医師の意見を聞くセカンドオピニオンも選べます。納得して治療を進めることは、安心につながる大切な一歩です。

セカンドオピニオンは、主治医を信頼していないという意味ではありません。よりよい選択のための、前向きな行動と受け止めてよいでしょう。

よくある質問

支持療法(サポーティブケア)は誰でも受けられますか?

はい、支持療法はがんと診断されたすべての患者さんが対象になります。年齢や病気の進み具合、治療の種類にかかわらず受けられる支えです。

特別な条件を満たした人だけのものではありません。つらい症状があるなら、遠慮なく相談してよいものとお考えください。

支持療法はがん治療と同時に始めてよいのですか?

はい、むしろ治療と同時に始めることが勧められています。症状が重くなる前から支えておくほうが、つらさをためこまずにすむからです。

治療が一段落するまで待つ必要はありません。気になる症状が出たら、その時点で主治医に伝えていただくのがよいでしょう。

支持療法と緩和ケアは何が違いますか?

両者は大きく重なり合う医療で、はっきりと線を引けるものではありません。支持療法は、治療の副作用や症状を幅広く支える言葉として使われます。

緩和ケアは、つらさ全般をやわらげて生活の質を保つことを指します。どちらも診断の早い時期から受けられる点は共通しています。

支持療法を受けるとがん治療の効果に影響しますか?

支持療法そのものが、がんを攻める治療の効果を弱めることはありません。むしろ副作用をやわらげることで、予定どおりの治療を続けやすくなります。

つらさをためこまずにすめば、体力や気持ちの面でも余裕が生まれます。治療を最後までやり遂げる支えになるとお考えください。

支持療法はどこに相談すればよいですか?

まずは、いつも診てもらっている主治医や看護師に伝えるのが基本です。日々の診察が、もっとも身近な相談の窓口になります。

医療機関によっては、支持療法や緩和ケアの専門外来が設けられています。窓口があるかどうか、一度尋ねてみるとよいでしょう。

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医