免疫チェックポイント阻害薬のバイオマーカー|PD-L1発現率やMSI検査の重要性

免疫チェックポイント阻害薬のバイオマーカー|PD-L1発現率やMSI検査の重要性

免疫チェックポイント阻害薬は、誰にでも同じように効く薬ではありません。だからこそ、効きやすさを治療前に推し量る手がかりになるのが、PD-L1発現率やMSI検査といったバイオマーカーです。

PD-L1の発現率、MSIやMMRの状態、腫瘍遺伝子変異量(TMB)。これらはそれぞれ違う角度からがんの性質を映し出し、薬を選ぶときの大切な判断材料になります。

各バイオマーカーが何を調べ、どこまで効果を見通せるのか。さらに、一つの数値だけで結論づけてはいけない理由まで、順を追ってやさしく整理していきます。

免疫チェックポイント阻害薬が効く人と効かない人がいるのはなぜ?

同じ免疫チェックポイント阻害薬を使っても、効果がはっきり出る人と、ほとんど反応しない人がいます。その違いを大きく左右しているのが、がん側に隠れた性質の差なのです。

免疫の「ブレーキ」を外して、がんと闘う力を取り戻す

私たちの体には、免疫が暴走しないように働く「ブレーキ」が備わっています。がん細胞はこのブレーキを巧みに利用し、免疫からの攻撃をかわしながら増えていきます。

免疫チェックポイント阻害薬は、その踏み込まれたブレーキを解除する薬です。眠っていた免疫本来の力を呼び戻し、がんを再び攻撃できる状態へと導いていきます。

がん細胞の表面には、PD-L1という分子が現れることがあります。これが免疫細胞側のPD-1という受け皿と結びつくと、免疫にブレーキがかかります。薬はこの結びつきを邪魔して、免疫が再び働ける状態を取り戻すのです。

同じ薬でも、効果には大きな差が出る

多くのがんで、明らかな効果を実感できるのは2〜4割ほどとされています。残りの方には十分な効果が現れにくいことが、長く課題となってきました。

効かない薬を続ければ、副作用や時間、心の負担だけが重なってしまいます。だからこそ、効きやすい人を前もって見分ける工夫が、治療では何より大切になります。

  • がん細胞のPD-L1発現の程度
  • MSIやミスマッチ修復(MMR)の状態
  • 腫瘍遺伝子変異量(TMB)の多さ
  • 免疫細胞ががんへ入り込みやすいかどうか

効きやすさを示す手がかりがバイオマーカー

こうした効きやすさを、客観的な数値や状態で示してくれる指標がバイオマーカーです。検査の結果を踏まえることで、治療の見通しがぐっと立てやすくなります。

次の章から、代表的なバイオマーカーを一つずつ見ていきましょう。

治療を始める前に確かめたい、がん免疫療法のバイオマーカー

バイオマーカーは、治療の方向を決める道しるべです。薬を選ぶ前に調べておくことで、効果が期待できるかどうかをある程度見通せます。

指標調べる対象関わる主な検査
PD-L1がん細胞などに現れるPD-L1の量免疫染色(IHC)
MSI・MMR遺伝子の修復機能が働いているかMSI検査・MMR免疫染色
TMBがんが抱える遺伝子変異の数遺伝子パネル検査

バイオマーカーは治療選択の道しるべになる

がんの種類や進行度が同じでも、一人ひとりで薬の効きやすさは異なります。バイオマーカーは、その見えにくい違いを数値や状態として映し出してくれます。

検査結果をもとにすれば、効果が見込みやすい治療から順に選んでいけます。遠回りを減らし、限られた時間を有効に使うことにもつながるでしょう。

とくに進行したがんでは、使える薬の種類が増え、どれを選ぶか迷いが生じやすくなります。バイオマーカーの結果があれば、効果を見込みやすい薬から順に検討していけます。限られた治療の機会を、無駄なく生かすことにもつながります。

コンパニオン診断で薬と検査がひとつに結びつく

特定の薬の効果を予測するために行う検査を、コンパニオン診断と呼びます。「この薬を使う前に、この検査を」という形で、薬と検査が一組になっているのが特徴です。

PD-L1やMSIの一部は、このコンパニオン診断として扱われています。検査の結果が、その薬を使えるかどうかの判断に直結する場合もあります。

たった一つの指標だけで決まるわけではない

バイオマーカーはとても便利ですが、決して万能ではありません。一つの数値が高いか低いかだけで、効果のすべてを言い当てられるわけではないのです。

複数の指標を組み合わせ、がん全体の性質をとらえる視点が欠かせません。この点については、記事の後半で改めて触れていきます。

PD-L1発現率は治療効果をどこまで予測できるのか

PD-L1発現率が高ければ必ず効く、というわけではありません。発現率は効きやすさの目安にはなりますが、それだけで結果が決まるものではないのです。

PD-L1発現率が示しているもの

PD-L1は、がん細胞や周りの免疫細胞の表面に現れるタンパク質です。これが多いほど、がんが免疫のブレーキを強く踏み込んでいる状態だと考えられます。

その量を全体に対する割合で表したものが、PD-L1発現率です。発現率が高い場合、ブレーキを外す薬の効果が出やすい傾向があるといえます。

ただし、PD-L1の量はいつも一定とは限らず、時期や場所によって変わることがあります。同じがんでも、採った部位や時期が違えば、発現率の数字が動く場合もあります。だからこそ、一度の数値だけにとらわれすぎないことが大切なのです。

TPSとCPS、二つの数え方

PD-L1発現率の評価には、主にTPSとCPSという2つの数え方があります。どちらを使うかは、がんの種類や薬によって細かく定められています。

PD-L1発現率の主な評価方法

評価方法数える対象主に使う場面
TPSがん細胞のみ肺がんなど
CPSがん細胞+免疫細胞胃がん・頭頸部がんなど

同じ検体でも、数え方が違えば数値の持つ意味は変わってきます。検査結果を見るときは、どの方法で測った値なのかを確かめておくと安心です。

発現率が高くても低くても、結果を言い切れない

発現率が高くても効果が乏しい人もいれば、低くても効果が現れる人もいます。PD-L1だけでは説明しきれない部分が残るのが、実際のところです。

米国での承認薬をまとめて分析した研究でも、PD-L1が効果を予測できたのは一部にとどまったと報告されています。あくまで手がかりの一つとして受け止めるのが現実的でしょう。

検査に使われる複数の抗体と判定のばらつき

PD-L1の検査には、性質の異なる複数の抗体(試薬)が使われています。抗体や判定の基準が違うと、同じがんでも結果がそろわないことがあります。

こうしたばらつきは、検査の数値を読み解くうえで知っておきたい注意点です。施設や薬ごとに定められた基準を踏まえて、結果を判断していきます。

MSI検査とミスマッチ修復(MMR)が開くもう一つの治療の道

MSI検査は、がんの発生部位を問わずに治療選択へつながる、注目度の高い検査です。遺伝子の修復機能がうまく働かないタイプのがんを見つけ出します。

マイクロサテライト不安定性(MSI)とは何か

細胞は分裂のたびにDNAを複製し、その際に生じる小さな誤りを直す修復の仕組みを持っています。この修復がうまく働かないと、遺伝子の特定の部分に変化が積み重なっていきます。

その状態がマイクロサテライト不安定性、略してMSIです。MSIが強く出たがんは「MSI-High」と呼ばれ、免疫療法が効きやすいタイプと考えられています。

MSI検査とMMR免疫染色、二つの調べ方

MSIを調べる方法は、大きく2つに分かれます。遺伝子そのものを解析するMSI検査と、修復に関わるタンパク質の有無を見るMMR免疫染色です。

MSI検査とMMR検査の比べ方

検査調べる方法わかること
MSI検査遺伝子の繰り返し配列を解析不安定性の程度
MMR免疫染色4種類の修復タンパク質を染色機能の欠落の有無

多くの場合、この2つの結果はよく一致します。どちらの方法でも、免疫療法が効きやすいタイプかどうかを推し量れるため、施設の状況に応じて選ばれます。

がんの発生部位を問わない治療選択につながる

MSI-Highやミスマッチ修復の異常は、大腸がんだけでなく子宮体がんや胃がんなど、幅広いがんで見つかります。そのため、臓器の種類を超えて治療を選ぶ手がかりになります。

実際、こうした状態のがんに対しては、発生部位を問わずに使える薬が登場しました。同じ一つの指標が、さまざまながんの治療を同じように導けるようになったのです。

リンチ症候群と関わる遺伝的な背景

ミスマッチ修復の異常には、生まれ持った遺伝子の変化が関わることがあります。その代表が、リンチ症候群と呼ばれる体質です。

MSI検査をきっかけに、こうした遺伝的な背景が見つかる場合もあります。必要に応じて、専門の外来で家族も含めて相談する流れにつながっていきます。

遺伝的な背景が分かると、本人だけでなく血縁者の健康管理にも生かせます。早めに検査や経過観察を始めれば、別のがんを早い段階で見つけやすくなります。検査結果をどう受け止めるかは、専門の外来でじっくり相談していくとよいでしょう。

腫瘍遺伝子変異量(TMB)が示す第三のバイオマーカー

がんの遺伝子変異が多いほど、免疫療法の効果は期待しやすくなります。この変異の数を表した指標が、腫瘍遺伝子変異量、すなわちTMBです。

TMBが高いと効果が期待できる背景

遺伝子変異が多いがんは、免疫から見ると「異物らしい目印」をたくさん抱えています。その目印が多いほど、免疫はがんを標的として見つけ出しやすくなります。

結果として、ブレーキを外す薬が働きやすい土台が整っていきます。TMBの高いがんで効果が出やすいのは、まさにこうした理由によるものでしょう。

免疫が見つける目印は、ネオアンチゲンと呼ばれる変異由来のタンパク質です。変異が多いほどこの目印も増え、免疫ががんを攻撃の的として捉えやすくなります。数の多さが、薬の効きやすさを後押しする一因になると考えられています。

  • 喫煙によるDNAのダメージ
  • 紫外線の長年の影響
  • ミスマッチ修復の異常
  • DNA修復に関わる遺伝子の変化

TMBはPD-L1やMSIとどう違うのか

PD-L1が「ブレーキの強さ」を見るのに対し、TMBは「目印の多さ」を見ています。MSIとは重なる部分もありますが、まったく同じものではありません。

研究でも、PD-L1とTMBは多くのがんで別々に働く指標だと報告されています。だからこそ、両者を組み合わせて読み解くことに意味が生まれます。

TMB-Highに対する治療選択

変異がとくに多いがんは「TMB-High」と呼ばれます。こうしたがんでは、発生部位を問わずに免疫療法を検討できる場合があります。

ただし、どの数値を境にするかは、検査や状況によって幅があります。数値が持つ意味は、主治医とよく確認しておきたいところです。

バイオマーカー検査を受けるときに知っておきたい検体とタイミング

検査と聞くと身構えてしまうかもしれませんが、多くは治療のために採った組織を使って調べられます。そのため、新たに大きな負担がかかることは多くありません。

検体採り方特徴
組織検体生検や手術で採取多くの検査の基本
血液採血で取得体への負担が軽い
細胞診検体胸水・腹水などから組織が採りにくい時に

組織検体と血液(リキッドバイオプシー)

もっとも基本となるのは、生検や手術で採った組織検体です。PD-L1やMSI、TMBの多くは、この組織を使って詳しく調べていきます。

近ごろは、採血だけで遺伝子の変化を調べるリキッドバイオプシーも広がってきました。組織が採りにくいときの、心強い選択肢になりつつあります。

血液を使う検査は体への負担が軽く、状態に応じてくり返し調べやすい利点があります。一方で、組織検体に比べて分かることが限られたり、変異を捉えきれなかったりする場合もあります。どちらを選ぶかは、がんの状態や検査の目的に合わせて決めていくものなのです。

治療方針を決める前に調べておきたい

バイオマーカー検査は、治療方針を決める前の段階で行うのが基本です。結果を踏まえることで、効果が見込める薬から順に選んでいけます。

治療の途中で、がんの性質そのものが変わることもあります。その場合には、改めて検査を検討することもあるでしょう。

結果が出るまでの流れ

免疫染色のように比較的早くわかる検査もあれば、遺伝子解析のように数週間かかるものもあります。検査の種類によって、待つ期間は大きく変わってきます。

結果を待つ間も、主治医と治療の見通しを共有しておくと安心です。気になることがあれば、遠慮なく尋ねてみましょう。

バイオマーカーだけで治療効果は決まらない

バイオマーカーは強力な手がかりですが、それだけで治療の結果が決まるわけではありません。数値を絶対視せず、全体を見渡して判断する姿勢が欠かせません。

一つの数値で結果を決めつけない

PD-L1が低くても効果が出る人もいれば、高くても反応しない人もいます。一つの数値だけを頼りに、希望を持ったりあきらめたりする必要はありません。

複数のバイオマーカーに、これまでの治療歴や全身の状態も合わせて考えます。総合的に見ることで、より納得のいく選択へと近づいていけます。

数値はあくまで、治療の見通しを描くための材料の一つにすぎません。検査の結果だけに一喜一憂せず、自分の体の状態や希望とていねいに向き合うことが大切です。迷いがあれば、その気持ちも含めて主治医に伝えてみるとよいでしょう。

検査結果が「陰性」でも望みはないのか?

あるバイオマーカーが陰性でも、別の指標で効果が見込めることがあります。一つの結果だけで、治療の道がすべて閉ざされるわけではありません。

検査や判定には、ばらつきや誤差もつきものです。気になる結果は、追加の検査や再評価でていねいに確かめていきます。

主治医とともに総合的に判断する

バイオマーカーの結果は、専門的で分かりにくく感じるかもしれません。納得して治療を選ぶために、主治医にかみくだいて説明してもらうとよいでしょう。

分からないことをそのままにせず、一緒に考えていく姿勢が大切です。それが、あなたに合った治療を選ぶための確かな土台になります。

三つのバイオマーカーの比べ方

バイオマーカー主な調べ方治療選択との関わり
PD-L1免疫染色で発現率を測定効きやすさの目安
MSI・MMR遺伝子解析や免疫染色部位を問わない選択の手がかり
TMB遺伝子パネル検査変異の多さから効果を予測

三つの指標は、それぞれ違う角度からがんを照らし出します。組み合わせて読み解くことで、治療の見通しはより確かなものになっていくでしょう。

よくある質問

PD-L1発現率が低いと、免疫チェックポイント阻害薬は使えないのですか?

PD-L1発現率が低くても、免疫チェックポイント阻害薬を使えないとは限りません。がんの種類や薬によっては、発現率が低くても効果が見込める場合があります。

ほかの薬との併用で、効果を高める選び方もあります。発現率だけで判断せず、主治医と総合的に検討していくことをおすすめします。

MSI検査とMMR検査は、どちらを受ければよいのですか?

MSI検査とMMR検査は、調べ方は違っても、ほぼ同じことを別の角度から確かめる検査です。多くの場合は、どちらか一方で十分に判断できます。

施設によって使える方法が異なるため、どちらを行うかは医療機関で決まることが多いです。結果が分かりにくいときには、もう一方の検査で確かめることもあります。

免疫チェックポイント阻害薬のバイオマーカー検査は、どのくらいで結果が出ますか?

検査の種類によって、結果が出るまでの期間は変わります。免疫染色なら数日ほど、遺伝子解析では数週間かかることもあります。

急いで治療を始めたい場合は、早く結果が出る検査から進めることもあります。具体的な期間は、検査を受ける医療機関に確認しておくと安心です。

TMB(腫瘍遺伝子変異量)が高いと、必ず効果がありますか?

TMBが高いと効果が出やすい傾向はありますが、必ず効くと約束されるわけではありません。あくまで、効きやすさを示す目安の一つです。

どの数値を高いとみなすかにも幅があります。TMBの結果は、ほかのバイオマーカーと合わせて読み解くことが大切です。

免疫チェックポイント阻害薬のバイオマーカーは、一度調べれば十分ですか?

多くの場合は、治療前の検査結果をもとに方針を立てられます。ただし、治療の経過とともに、がんの性質が変わることもあります。

そのため、状況によっては再検査を検討することもあります。気になる変化があれば、主治医に相談してみるとよいでしょう。

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医