ACP(アドバンス・ケア・プランニング)とは?がん療養で大切にしたい「人生会議」

ACP(アドバンス・ケア・プランニング)とは?がん療養で大切にしたい「人生会議」

ACP(アドバンス・ケア・プランニング)は、これからの医療やケアについて、大切にしたい暮らしを出発点に繰り返し話し合う取り組みです。「人生会議」という愛称でも呼ばれ、本人と家族、医療者が一緒に話します。

がんの説明を受けて「治療の話は聞けたけれど、家でどう過ごしたいかまでは話せなかった」と感じている方もいるでしょう。その思いも、話し合いの大事な話題です。

この記事では、ACPで話し合う内容、がん療養での意味、家族や医療者の関わり、事前指示書との違い、気持ちが変わったときや話すのをためらうときの対応を解説します。

ACPとは、これからの暮らしと医療を話し合う取り組み

ACPでは、本人が家族や身近な人、医療者と、将来受けたい医療やケアについて前もって話し合います。「人生会議」は、その取り組みに親しみやすく触れるための愛称です。

人生会議の中心にあるのは本人の希望

話し合いで大切にするのは、本人がどのような生活を望み、医療を受けるうえで何を優先したいかです。将来、自分の気持ちを伝えるのが難しくなったときにも、周囲の人が本人の希望に沿って判断できるよう備えます。

話題の中心は、続けたい日常や大切な人との時間です。散歩を楽しみたい、食事を家族と囲みたいという希望から、その生活を支えるために必要な医療へ話をつなげられます。

話す内容は医療の希望から頼りたい人まで

ACPで扱う内容には、日々の過ごし方に加えて、受けたい医療や、自分が話せなくなったときに思いを伝えてほしい相手も含まれます。すべての項目に答えが出ている必要はなく、迷っている部分も話し合う内容です。

話題本人が伝える内容の例
大切にしたい暮らし家族と食卓を囲む時間を大切にしたい
受けたい医療やケア治療の負担を知ったうえで、痛みへの対応も受けたい
過ごしたい場所家で過ごしたいが、介助が必要になったら再び考えたい
代わりに思いを伝える人自分が話せないときは、信頼する人に希望を伝えてほしい

治療名だけを選ぶより、その希望を持つ理由も伝わると、体調が変わった場面でも本人が大切にしたい点を踏まえて話し合えます。

答えを決める速さも自分で選べる

ACPに参加するか、どの話題まで扱うかは、本人の気持ちに合わせて選べます。「家での生活については話したいが、将来の医療の細かい希望はまだ分からない」という状態でも、その範囲から話を始めれば十分です。

始める時期や進め方は本人の準備に合わせ、話した内容を必要に応じて記録し、誰に伝えるかを本人と医療者で決めます。

がん療養でACPが大切にされる理由

がんの療養では、病状や治療に伴って暮らしの負担が変わるため、医療で目指すものと本人の希望を結び付ける話し合いが大切です。自分で判断できる間の言葉は、将来の判断を支える材料にもなります。

治療の目標に、守りたい生活を重ねる

がんへの治療を受けながら、仕事や家庭での時間を大切にしたいという希望も話せます。手術、薬を使う薬物療法、放射線治療を検討する場面では、期待できる効果に加えて、その治療が日々の活動にどう影響するかも判断に関わります。

たとえば、通院の負担を抑えて家で過ごす時間を確保したい人と、入院を伴っても治療を受けたい人では、重視する点が違うものです。希望の理由が伝わると、実際に可能な医療の中で何を優先するかを検討しやすくなります。

言葉にしにくい場面で本人の思いを支える

体調の悪化や意識の変化によって希望を伝えにくくなったときには、それまでに話した価値観が周囲の判断を支えます。どの治療を受けるかに答えていなくても、「家族と話せる時間を大切にしたい」という言葉から、本人が望む生活を考えられます。

  • 治療の負担と、続けたい日常との調整
  • 入院や介助が必要になったときの過ごし方の検討
  • 本人が話せない状況での、家族と医療者による判断

本人が自分で希望を伝えられる場面では、その時点の本人の考えが話し合いの中心です。

病状の説明だけでは伝わらない希望がある

検査結果が同じでも、生活で何を大切にするかまでは分かりません。病気に関する説明を聞く時間とは別に、自分の生活や家族との関係について言葉にする時間があると、医療者も療養の支え方を検討できます。

外来で治療の説明を聞き終えたあと、家で一人になる時間が心配なら、「治療の話に加えて、家での過ごし方も話したい」と主治医や看護師に伝えましょう。

ACPで医療と家族の気持ちはどう変わる?

ACPは、希望を医療に反映させるための話し合いですが、受ける医療や気持ちへの影響は一様ではありません。助けにつながる面と、話し合っても不安が残る面の両方を知ったうえで利用しましょう。

希望を言葉にするとケアを検討しやすくなる

希望が言葉になると、本人と医療者は、その希望に近づくために必要なケアを具体的に話せます。緩和ケアとは、病気に伴う体や心のつらさを和らげ、生活を支えるケアです。

進行がんの患者さんを対象にした研究をまとめた結果では、ACPによって、将来の医療の希望を記す事前指示書の作成や緩和ケアの利用が増えた一方、不安や抑うつには差が出ていません1)。日本で利用するときも、気持ちが必ず軽くなるという期待より、困りごとを医療者に伝える機会として捉えられます。

家族の負担への影響は研究によって異なる

欧州の進行がんの患者さんを支える家族を対象にした試験では、ACPの支援を受けても、医療の判断への関わりや心理的な苦痛に統計的に確かな差は認められませんでした2)。家族に本人の希望が伝わったあとも、病状への悲しみや介助への不安には、それぞれに応じた支えが必要です。

一方、米国の進行がんの患者さんを支え、死別後に調べられた家族では、進行役がつくACPの群で、本人が進める群よりも、強い体験のあとに続く心的外傷後ストレス症状が少なかった試験があります3)。日本でも、本人だけで話を進める負担を感じるときに、進行を支える医療者を含めるかを考える参考になります。

希望と実際に受けられる医療をすり合わせる

実際に受ける医療は、本人の希望に加えて、病状や治療の見込み、利用できる支援を踏まえて決まります。ACPで「家で過ごしたい」と話していても、必要な介助や家族の暮らしを含めて、どのような環境なら実現できるかを検討します。

希望した形が難しいときも、その理由をほどくと、近づけられる部分が見つかるでしょう。「家にいること」そのものを望むのか、「家族と気兼ねなく過ごせる時間」を望むのかによって、医療者と検討する内容が変わります。

話し合う相手は、信頼できる人と医療者

本人の話を聴き、本人が大切にしているものを受け止められる人が、話し合いの相手になります。家族や身近な人に加え、病状や生活の支えを説明できる医療者が関わります。

身近な相手を本人の希望で選ぶ

話し合いに加わる人は、親族という関係だけでなく、安心して思いを話せるかを基に選べます。配偶者や子どもに限らず、日常をよく知る友人なども、本人が希望するなら話し合いの相手です。

家族がいる場では話しにくい内容もあるため、本人だけで医療者と話す時間にも意味があります。誰にどこまで知らせたいかという希望も尊重されるべき点であり、家族全員の同席をそろえることが出発条件ではありません。

主治医と看護師は医学と暮らしの両面を支える

医療者には、本人の言葉を聴く働きと、病状に応じて受けられる医療を説明する働きがあります。話し合いの訓練を受けた看護師など、医師以外の人が進行を支える形もあります。

関わる人話し合いで担う内容
本人大切にしたい暮らしや、迷っている点を伝える
家族や身近な人本人の希望を聴き、自分が担える支援も伝える
主治医病状に応じた医療の見込みや負担を説明する
看護師生活のつらさや言葉にしにくい思いを聴く
医療ソーシャルワーカー生活や福祉の相談を受け、利用できる支援を検討する

誰が話し合いを支えるかは施設で異なるため、担当が分からないときは、通院先の主治医や外来看護師に相談しましょう。

代わりに判断する人も本人の思いを基にする

代理意思決定者とは、本人が自分で判断を伝えられないときに、本人の希望を踏まえて医療の判断に関わる人です。本人が何を大切にしていたかを知っていると、医療者に伝える内容を具体的にできます。

その人には、自分なら何を望むかと、本人なら何を望むかを分けて考える支えが必要です。代わりに判断する相手を思い浮かべておく意味は、決断の責任を1人に集める点にはなく、本人の思いを医療者へつなぐ点にあります。

事前指示書・遺言と人生会議の違い

ACPは話し合いを重ねる取り組みで、事前指示書は医療の希望を記す文書、遺言は主に死後の財産などについて意思を示すものです。本人の意思を扱う点は共通していても、内容と形が異なります。

話し合いと文書では扱う範囲が異なる

人生会議では、受けたい医療だけでなく、その希望を持つ理由や、まだ答えの出ていない思いも話せます。事前指示書は、そうした話し合いで言葉になった医療の希望を残すために使えます。

名称扱う内容形
ACP・人生会議将来の医療やケア、暮らしで大切にしたい点繰り返す話し合い
事前指示書自分で伝えられなくなったときの医療の希望意思を記した文書
遺言主に死後の財産などについての意思定められた方式で意思を示すもの

医療で何を大切にしたいかを伝えるには、文書の有無にかかわらず、希望の背景まで話す時間が役立ちます。

事前指示書は話し合いの一部を残す文書

事前指示書に書かれた言葉を受け止めるには、どのような状況を思い浮かべて書いたかが大切です。「負担の大きい治療を望まない」という一文でも、どの負担を避けたいかによって、実際の病状に応じた判断が異なります。

そのため、文書があっても、本人が話せるときは現在の考えが話し合いの中心です。文書にすべての医療場面の答えを持たせるより、本人の希望を周囲が受け止めるために使います。

遺言を用意していても医療の希望は話せる

遺言を用意している人も、療養中にどう過ごしたいかは、家族や医療者と話せます。死後について意思を示していても、現在から将来にかけて受けたいケアの希望まで、周囲に伝わっているとは限りません。

「何を残したいか」という思いと、「療養の時間をどう過ごしたいか」という思いを分けると、医療者に伝えたい内容が具体的になります。どちらを先に扱うかより、本人が今話したい内容を選べる点が大切です。

気持ちが変わったら、今の希望を優先する

以前に話した希望は、気持ちや状況に合わせて変えられます。自分で意思を伝えられるときは、過去の言葉に合わせるより、今の自分が何を望んでいるかを話すのが基本です。

希望が変わるのは療養を経験したあとの判断でもある

療養を経験すると、想像していた負担と実際の負担の違いが分かり、優先したいものが変わることがあります。以前は通院の負担を重く捉えていた人も、生活を支える方法が見つかれば、医療への希望を考え直せます。

人生の最終段階に受けたい医療の希望は、がんに限らず多くの人で比較的安定している一方、時間とともに変わる人もいます4)。変化を前提に話し合えることも、ACPの大切な部分です。

体調や暮らしの変化は話し合い直すきっかけ

希望を見直す理由は、病状の変化だけに限られません。支える人の暮らしが変わったり、利用できる支援が増えたりすると、以前は難しいと思った過ごし方を再び検討できます。

  • 体調や日常の動きやすさの変化
  • 治療に期待する内容や、負担の受け止め方の変化
  • 家族が支えられる範囲や、利用できる支援の変化

目立った出来事がなくても、本人が「前と気持ちが違う」と感じるだけで、話し合い直す理由になります。

前の発言を気にして遠慮するとき

希望を変えると家族を困らせるのではと感じても、今の気持ちは話してよい内容です。考えが変わった理由が分かると、家族も以前の発言だけで判断せず、本人が現在大切にしている点を受け止めやすくなります。

言い出しにくいときは、「前に話した希望から変わった部分がある」と、家族や主治医に伝えましょう。

話すのをためらう気持ちも尊重される

将来の医療について話すのがつらいときは、話題を限ったり、いったん休んだりできます。ACPは本人の準備に合わせる取り組みであり、周囲が答えを急がせるほどよい話し合いになるわけではありません。

元気なうちに話すのが怖いと感じたら

今の生活を続けたいと感じている人も、その希望を人生会議の話題にできます。将来を細かく想像すると不安が強まるなら、今日の暮らしで大切にしたい内容に話題を限る選び方があります。

ためらいの理由負担を抑えて話す方法
先の病状を想像するのが怖い今の暮らしで続けたい活動から話す
自分の希望が分からない迷っている内容をそのまま話す
家族に心配をかけそう看護師などと、話す範囲について話す
話すとつらさが強くなるその日は休み、話したい範囲に戻る

話題を小さくしてもつらい日は、話し合いよりも本人が落ち着いて過ごせる時間を優先できます。

家族の心配と本人の希望を分けて話す

家族への気遣いがあっても、自分が望む過ごし方を話せます。「家族に負担をかけたくない」という思いの中には、体力への心配、仕事への影響、気持ちの負担などが含まれ、何を心配しているかで検討する支援が変わります。

また、家族が望む過ごし方と本人が望む過ごし方は、同じとは限りません。どちらかが相手に合わせて黙るより、それぞれの希望と担える範囲が分かると、医療者も実際の暮らしを支える方法を検討できます。

途中で休む希望も医療者に伝えられる

話し合いを休んでいる間も、痛みや不安など、現在困っている症状へのケアは受けられます。ACPを進めるかどうかと、今必要な医療を受けることは分けて扱われます。

話している途中につらくなったときは、「今日はこの話を休みたい」と、同席する医療者に伝えましょう。

よくある質問

ACPを話題にすると、今のがん治療が終わるのでしょうか?

ACPを話題にしただけで、今のがん治療が終わることはありません。治療を受けながら大切にしたい生活も話し合えるため、治療を続けたい気持ちがあるなら、その希望も話題にできます。

家族がいなくても人生会議はできますか?

家族がいなくても、人生会議はできます。信頼できる友人や身近な人、主治医や看護師が話し合いの相手になります。

頼れる人が思い浮かばないときは、通院先の看護師にその状況を伝えましょう。本人が話せなくなったときに希望をどう踏まえるかも、医療者と検討する内容です。

自分と家族の希望が違うときは、家族に合わせるべきですか?

本人が希望を伝えられるときは、本人の考えを中心に話し合います。家族が違う希望を持つ理由には、病状への心配や、支援を担う負担などがあり、それぞれの理由を分けて扱います。

家族だけでは話が進みにくいときは、主治医や看護師に同席を頼みましょう。医学的に可能な範囲と、家族が実際に担える支援を含めて、本人の希望を実現する方法を検討できます。

医療者に勧められましたが、今は話したくないと伝えてもよいですか?

今は話したくないと伝えて大丈夫です。何をどこまで話すかは本人の準備に合わせて決めるため、理由を詳しく説明できなくても、休みたいという希望は伝えられます。

将来の話は休みたいが、今日の痛みや生活の困りごとは話せるというように、話題を分ける方法もあります。現在つらい症状があるときは、将来の話し合いを再開するまで待たずに、医療者へ伝えてください。

References

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医