CAR-T療法の費用と保険適用|数千万円の薬価に対する高額療養費制度の活用

CAR-T療法の費用と保険適用|数千万円の薬価に対する高額療養費制度の活用

CAR-T療法は1回の薬価が3000万円を超える、血液がんに向けた細胞免疫療法です。数字だけを見ると、とても手が届かない治療に思えるかもしれません。

けれども日本では公的医療保険が使えるため、実際に窓口で支払う金額は高額療養費制度によってぐっと下がります。所得に応じた月ごとの上限を超えた分は、後から戻ってくる仕組みです。

このページでは、CAR-T療法の費用の内訳から保険適用の範囲、自己負担を抑える申請の流れ、海外との違いまで、お金の不安をやわらげる情報をまとめました。

CAR-T療法の費用はいくらかかる?数千万円という薬価の内訳

CAR-T療法の費用は、薬剤そのものの薬価だけで3000万円台にのぼります。国内で承認された製剤の薬価はおおむね3200万〜3500万円で、入院費や手技料がそこに加わります。

ただし、これは保険を使う前の総額です。後で見るように、患者さんが実際に負担する金額はぐっと小さくなります。

国内で使えるCAR-T製剤と薬価の目安

日本では現在、5種類のCAR-T療法が血液がんへの保険診療として使えます。悪性リンパ腫やB細胞性急性リンパ芽球性白血病には3種類、多発性骨髄腫には2種類がそろっています。

国内のCAR-T製剤と薬価の目安

製品名(一般名)主な対象薬価の目安(1回)
キムリア(チサゲンレクルユーセル)悪性リンパ腫・B細胞性白血病約3349万円
ブレヤンジ(リソカブタゲン マラルユーセル)悪性リンパ腫約3264万円
イエスカルタ(アキシカブタゲン シロルユーセル)悪性リンパ腫3000万円台
アベクマ/カービクティ多発性骨髄腫3000万円台

いずれも患者さん自身の血液から作るオーダーメイドの治療のため、ふつうの薬よりはるかに高い価格がつきます。製剤の種類や対象となる病気によって、使える薬が変わってきます。

これらの薬価は国が全国一律に決めており、どの病院で受けても価格は変わりません。製剤ごとに対象年齢や病気の段階の条件も細かく決まっています。

薬価のほかにかかる入院・副作用対策の費用

CAR-T療法でかかるお金は、薬価だけではありません。治療を受けるまでにいくつかの工程があり、それぞれに費用が生じます。

まず、原料となるリンパ球を採るアフェレーシスという手技があります。製剤によって14万〜19万円ほどの手技料が定められ、これも保険診療の対象です。

製造には数週間かかるため、その間に病気を抑えるブリッジング療法が必要になることもあります。投与後は副作用を見守る入院も加わり、費用はさらに膨らみます。

おおまかに、次のような費用が薬価に加わります。

  • リンパ球を採るアフェレーシスの手技料
  • 治療までのつなぎとなるブリッジング療法
  • 投与後の入院費と検査費
  • サイトカイン放出症候群などの副作用対策

これらを合わせると、1人あたりの総額は3000万円台後半に達することもあります。とはいえ、こうした費用もまとめて公的医療保険の枠組みに入ります。

なぜCAR-T療法はこれほど高額なのか

理由のひとつは、製造が完全なオーダーメイドである点です。患者さん一人ひとりの細胞を取り出し、遺伝子を変えて増やすため、大量生産ができません。

もうひとつは、開発に長い年月と多額の研究費がかかることです。一度の投与で長く効く可能性という価値も、価格に反映されています。

細胞を扱う製造設備や品質管理にも、高い基準を保つ必要があります。安全な製剤を一定の品質で届ける体制づくりにも、相応の費用がかかります。

高い薬価には、こうした背景があります。

CAR-T療法の保険適用でカバーされる費用とされない費用

結論から言えば、承認された病気と条件を満たせば、CAR-T療法は公的医療保険の対象になります。薬価も入院費も保険診療の枠に入り、窓口負担は原則3割です。

つまり総額が数千万円でも、全額を自分で払うわけではありません。

CAR-T療法が保険診療として受けられる条件

保険で受けるには、薬ごとに決められた対象疾患と病期の条件を満たす必要があります。多くは、抗がん剤が効かない再発・難治性の血液がんが対象です。

また、治療できる病院は限られています。安全に行える体制が整った施設だけで実施し、主治医が適応を慎重に見きわめます。

対象となる病気は、製剤ごとに添付文書で細かく決まっています。同じ血液がんでも、年齢や過去の治療歴によって使える薬が変わってきます。

窓口でいったん支払う3割負担の重さ

保険診療では、かかった医療費の3割を窓口で払うのが原則です。総額が3500万円なら、単純計算で3割は1000万円を超えます。

この金額を見ると不安になる方も多いでしょう。けれども、その3割負担そのものに上限を設けるのが、次に説明する高額療養費制度です。

先進医療や自由診療との違いに注意

保険が効くCAR-T療法と、保険の効かない自由診療の細胞療法は、まったく別物です。後者は全額自己負担となり、高額療養費制度も使えません。

がんの免疫療法をうたう自由診療には、有効性が確かめられていないものも含まれます。費用を考えるうえでも、保険診療かどうかの見きわめが大切です。

高額療養費制度でCAR-T療法の自己負担を大きく抑えられます

高額療養費制度を使えば、CAR-Tの自己負担は数千万円ではなく、月あたり数十万円の単位まで下がります。1か月の医療費が上限を超えた分は、後から戻ってくるからです。

自己負担の上限額は所得で決まります

1か月の自己負担の上限は、年齢と所得によって変わります。働く世代では、年収によっていくつかの区分に分かれます。

たとえば年収約370万〜770万円の方なら、1か月の上限は8万100円に医療費の一部を足した金額です。具体的には、80,100円+(総医療費−267,000円)×1%で計算します。

70歳未満の1か月あたりの自己負担上限の目安(現行)

年収の目安ひと月の上限額多数回該当の上限
約1,160万円超252,600円+(医療費−842,000円)×1%140,100円
約770万〜1,160万円167,400円+(医療費−558,000円)×1%93,000円
約370万〜770万円80,100円+(医療費−267,000円)×1%44,400円
約370万円以下57,600円44,400円
住民税非課税35,400円24,600円

総医療費が大きいほど計算上の上限はやや増えますが、増え方は医療費の1%にとどまります。3000万円台の治療でも、ひと月の自己負担は多くの方で40万円前後に収まります。

区分は年収に応じて5段階ほどに分かれ、収入が低いほど上限額も下がります。住民税が非課税の世帯では、ひと月の上限がさらに低く抑えられています。

CAR-T療法に当てはめた自己負担のイメージ

実際にあてはめてみましょう。年収約370万〜770万円の方が、総額3500万円のCAR-T療法を1か月で受けたとします。

このとき窓口での3割負担は1000万円を超えます。けれども高額療養費制度があるため、ひと月の自己負担はおよそ40万円台にとどまり、超えた分は後から戻ってきます。

自己負担の上限は月ごとに計算し直すしくみです。入院が月をまたぐと、それぞれの月で上限まで負担が生じる点には気をつけておきましょう。

多数回該当で4か月目からさらに軽くなる

直近12か月の間に上限額の支給を3回以上受けると、4回目から上限がさらに下がります。これを多数回該当と呼びます。

年収約370万〜770万円の区分なら、4回目以降の上限は4万4,400円です。治療が長く続くときの支えになります。

CAR-T療法で高額療養費制度を使うときの手続きと注意点

前もって手続きをしておけば、CAR-Tの窓口負担を最初から上限額までに抑えられます。後から払い戻しを受ける方法と、窓口での支払いを先に抑える方法の2通りがあります。

限度額適用認定証とマイナ保険証で窓口負担を抑える

入院前に限度額適用認定証を用意しておくと、窓口での支払いが最初から上限額までで済みます。健康保険組合や市区町村の窓口で申請できます。

マイナンバーカードを健康保険証として使う場合は、認定証がなくても上限が自動で当てはまります。大きな支払いに備えて、早めにそろえておくと安心でしょう。

申請の時期と払い戻しまでの流れ

認定証が間に合わず、窓口でいったん3割を払った場合でも心配いりません。後から高額療養費の支給を申請すれば、上限を超えた分が戻ってきます。

払い戻しまでには、受診した月から3か月ほどかかるのが一般的です。当面の支払いに備えて、手元の資金も少し見ておきましょう。

申請のときに用意しておきたいものを挙げます。

  • マイナ保険証または限度額適用認定証
  • 加入している健康保険の保険証
  • 高額療養費の支給申請書
  • 医療費の領収書

加入先によって必要な書類が少し異なります。早めに保険者へ問い合わせておくと、手続きがなめらかに運びます。

制度見直しの動きと今の上限額の確かめ方

高額療養費制度は、見直しの議論が続いています。2025年には上限額の引き上げ案が示されましたが、政府は患者団体の反対を受けて当初の引き上げを見送りました。

その後、月ごとの上限に加えて年単位の上限を設ける案などの検討が進んでいます。実際に治療を受けるときは、加入先の保険者で今の上限額を確かめてください。

上限額は数年ごとに見直される可能性があります。治療の時期によって金額が変わることもあるため、今の数字は必ず加入先で確認するようにしましょう。

高額療養費制度以外にCAR-T療法の費用を支える仕組み

高い治療費に不安を抱える方を支える仕組みは、高額療養費制度だけではありません。勤め先の保険の上乗せ給付や税金の還付、休職中の生活費の補償なども組み合わせられます。

使える仕組みどんな支えか主な相談先
付加給付自己負担をさらに引き下げる上乗せ健康保険組合
医療費控除払った医療費に応じて税金が戻る税務署
傷病手当金働けない間の生活費を補う健保組合・協会けんぽ
がん相談支援センター費用や制度の悩みに対応がん診療連携拠点病院

それぞれ申請先や条件が違います。順番に見ていきましょう。

健康保険組合の付加給付による上乗せ

大企業の健康保険組合などでは、高額療養費とは別に独自の上乗せがあることがあります。これを付加給付と呼びます。

たとえば自己負担が月2万5,000円を超えた分を組合が補う、といった形です。加入先によって有無も内容も異なるため、一度確認しておく値打ちがあります。

保険証や組合の案内に、付加給付の記載がないか目を通しておくとよいでしょう。中小企業が多く加入する協会けんぽには、この上乗せはありません。

医療費控除で税金の一部が戻る

1年間に払った医療費が一定額を超えると、確定申告で医療費控除を受けられます。所得から差し引かれ、納めた税金の一部が戻ってきます。

高額療養費で払い戻された分は差し引いて計算します。それでもCAR-Tのような大きな治療では、控除の対象になりやすいといえます。

申告には1年分の領収書や、保険からの支給額がわかる書類が必要です。生計をともにする家族の医療費とまとめられる点も、負担を軽くする手がかりになります。

傷病手当金と生活費への備え

会社員が病気で長く休むときは、傷病手当金で生活費の一部を補えます。給与のおよそ3分の2が、最長で1年6か月支給される仕組みです。

治療費そのものではありませんが、収入が減る時期を支えてくれます。お金の不安を全体で見直すうえで、覚えておきたい仕組みのひとつでしょう。

申請には勤め先や主治医の証明が必要です。休職が決まったら早めに会社の担当者へ相談し、支給の条件や時期を確かめておくと安心できます。

海外と比べた日本のCAR-T療法の費用と自己負担

日本のCAR-Tは高すぎる、と感じる方は少なくありません。けれども国際的に見ると、日本の薬価はむしろ低めで、患者さんの自己負担はさらに小さく抑えられています。

欧米のCAR-T療法の費用との違い

米国ではCAR-Tの薬価が日本より高く、製剤によっては5000万円を超えます。入院や副作用対策まで含めると、総額が1億円に届くという報告もあります。

ドイツや英国でも、薬価はおおむね4000万円前後です。同じ治療でも、国によって価格にかなりの幅があります。

こうした差が生まれるのは、国ごとに薬価の決め方や保険のしくみが違うためです。公的保険が価格交渉に深く関わる国ほど、薬価は抑えられる傾向にあります。

主な国・地域のCAR-T費用の目安

国・地域CAR-T薬価の目安自己負担の特徴
日本約3200万〜3500万円高額療養費制度で月数十万円まで
米国約5000万〜6000万円加入する保険で負担が大きく変わる
ドイツ・英国約4000万円前後公的制度で大半をまかなう

数字の上では、日本は薬価も自己負担も抑えられた国だといえます。公的医療保険と高額療養費制度の組み合わせが、その背景にあります。

費用対効果評価はどう行われているのか

日本では、CAR-Tのような高額な治療について費用対効果の評価を行っています。価格に見合う効果があるかを検証し、薬価の見直しにつなげる試みです。

海外でも、延びる生存期間と費用を比べる研究が数多く積み重なってきました。日本のCAR-Tを対象にした分析でも、一定の条件のもとでは費用に見合うという結果が示されています。

こうした評価は、限られた医療費をどう配分するかという社会全体の判断にもつながります。患者さん個人の負担とは別に、制度を長く続けるための土台づくりでもあります。

日本の制度が患者の家計を支えてくれる

総額の大きさだけを見ると、治療をあきらめたくなるかもしれません。けれども日本では、保険制度がその負担の大部分を引き受けてくれます。

高額療養費制度に勤め先の保険や税の還付を組み合わせれば、実際の負担はさらに小さくできます。海外の患者さんと比べても、日本は支えの厚い環境だといえるでしょう。

費用の不安は、制度を知ることで小さくできます。

よくある質問

CAR-T療法の費用は総額でどのくらいかかりますか?

薬剤の薬価だけで3000万円台にのぼります。日本で承認された製剤はおおむね3200万〜3500万円で、ここに入院費やアフェレーシスの手技料などが加わります。

これらを合わせた1人あたりの総額は、3000万円台後半になることもあります。ただし、いずれも保険診療の枠に入る費用です。

CAR-T療法で高額療養費制度を使うと自己負担はいくらになりますか?

1か月の自己負担には、所得に応じた上限が決まっています。年収約370万〜770万円の方なら、ひと月の上限はおよそ40万円台にとどまります。

上限を超えて払った分は、後から戻ってきます。治療が長引いて支給が重なる場合は、4回目から上限がさらに下がります。

CAR-T療法の高額療養費は窓口で先に抑えられますか?

前もって限度額適用認定証を用意しておけば、窓口での支払いが最初から上限額までで済みます。健康保険組合や市区町村の窓口で申請できます。

マイナンバーカードを保険証として使う場合は、認定証がなくても上限が当てはまります。間に合わなかったときは、後から申請して払い戻しを受けられます。

CAR-T療法を受けるとき、高額療養費制度以外に使える支援はありますか?

勤め先の健康保険組合に付加給付があれば、自己負担をさらに抑えられます。1年間の医療費が一定額を超えれば、医療費控除で税金の一部も戻ってきます。

会社員が長く休むときは、傷病手当金で生活費の一部を補えます。費用や制度の悩みは、がん相談支援センターでも相談できます。

CAR-T療法の費用は海外と比べて日本では高いのですか?

総額の数字は大きいものの、国際的に見ると日本の薬価はむしろ低めです。米国では製剤の薬価が5000万円を超え、総額が1億円に届くという報告もあります。

さらに日本には高額療養費制度があり、患者さんの自己負担は月数十万円の単位まで抑えられます。負担の面では、恵まれた環境だといえるでしょう。

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医