
甲状腺がんと診断されたとき、治療の中心は手術や放射性ヨウ素内用療法だと耳にする方が多いでしょう。しかし、がんの進行度や組織型によっては、体の外から放射線を当てる「外照射」が治療の選択肢に加わります。
外照射は、手術で取りきれなかった微小な病変や切除が難しい部位に対して、局所の再発を抑えるために用いられる治療法です。すべての患者さんに必要なわけではありませんが、リスクの高い方にとっては心強い味方になり得ます。
この記事では、甲状腺がんに対する外照射の適応となるケースや、期待できる効果、副作用への備えまで、わかりやすく解説していきます。
甲状腺がんの放射線治療には「内用療法」と「外照射」の2つがある
甲状腺がんの放射線治療は大きく2種類に分かれます。放射性ヨウ素を体内に取り込む「内用療法(アイソトープ治療)」と、体の外から放射線を照射する「外照射(EBRT)」です。両者は目的も適応も異なるため、混同しないことが大切でしょう。
放射性ヨウ素内用療法は分化型甲状腺がんの基本治療
乳頭がんや濾胞がんのように、ヨウ素を取り込む性質をもつ分化型甲状腺がんでは、手術後に放射性ヨウ素(I-131)を服用する治療が広く行われています。残った甲状腺組織や転移巣を内側から破壊するのが狙いです。
この内用療法は、甲状腺がん全体の9割以上を占める分化型に対する標準的な術後補助療法として確立されています。国内外のガイドラインでも、リスクに応じた適切な使用が推奨されてきました。
外照射(EBRT)は体の外から腫瘍に放射線を当てる方法
一方、外照射は直線加速器(リニアック)という装置を用いて、体の外側から標的となる部位へピンポイントに放射線を照射します。ヨウ素を取り込まないタイプのがんや、手術で取りきれなかった残存病変に対して効果を発揮するのが特徴です。
甲状腺がん全体のなかで外照射が必要になるケースは限られますが、高リスクの局所進行例や再発例では治療成績の向上に寄与することが複数の研究で報告されています。
| 項目 | 放射性ヨウ素内用療法 | 外照射(EBRT) |
|---|---|---|
| 放射線の当て方 | カプセル服用(体内から) | 装置で体外から照射 |
| 主な対象 | ヨウ素を取り込む分化型 | ヨウ素非取り込み型・残存病変 |
| 治療回数の目安 | 1〜数回の入院治療 | 数週間の通院照射 |
2つの治療を組み合わせるケースもある
局所進行した分化型甲状腺がんでは、手術後に放射性ヨウ素内用療法と外照射を併用する場合があります。とくに甲状腺の外に大きく浸潤しているケースや、断端陽性(切り口にがん細胞が残っている状態)のケースでは、両方の治療を組み合わせることで再発抑制効果の向上が見込まれるでしょう。
外照射が適応になる甲状腺がんの種類と病期を整理する
外照射は、すべての甲状腺がんに行うわけではありません。がんの組織型と病期(進行度)を見極めたうえで、手術や他の治療だけでは再発リスクを十分に下げられない場合に検討されます。
分化型(乳頭がん・濾胞がん)で外照射が検討される場面
乳頭がんや濾胞がんは予後の良い組織型ですが、腫瘍が気管や食道に浸潤しているpT4症例、切除断端にがん細胞が残った症例、放射性ヨウ素治療への反応が乏しい症例では、術後補助として外照射が考慮されます。年齢が45歳以上で、顕微鏡レベルの残存病変があるケースでは、外照射によって局所再発率の低減が期待できると報告されています。
髄様がんでは術後の局所再発を減らす手段になる
髄様がんはヨウ素を取り込まないため、放射性ヨウ素内用療法の対象にはなりません。手術が治療の柱ですが、甲状腺外への浸潤やリンパ節転移がある高リスク例では、外照射による術後照射が局所制御率の改善に寄与する可能性があります。
ただし、髄様がんにおける外照射のエビデンスは限定的で、全生存期間への明確な影響は確認されていません。そのため、リスクと利益を十分に検討したうえで、適応を判断する姿勢が求められます。
未分化がん(退形成がん)では集学的治療の柱として外照射が欠かせない
未分化がんは甲状腺がんのなかで最も悪性度が高く、進行が極めて速いのが特徴です。手術だけでは局所制御が困難なことが多いため、外照射と化学療法を組み合わせた集学的治療が標準的な治療方針となっています。
外照射単独よりも、放射線と化学療法を同時に行う化学放射線療法のほうが局所制御率と生存期間の両面で良好な結果が報告されており、切除可能な場合は手術との三者併用も試みられます。
| 組織型 | 外照射の適応場面 | 期待される効果 |
|---|---|---|
| 分化型(乳頭がん・濾胞がん) | 切除断端陽性、pT4、ヨウ素非反応例 | 局所再発率の低減 |
| 髄様がん | 甲状腺外浸潤、リンパ節転移陽性の高リスク例 | 局所制御率の改善 |
| 未分化がん | 大半の症例で化学療法と併用 | 局所制御と生存期間の延長 |
甲状腺がんの外照射に使われるIMRT(強度変調放射線治療)で副作用を減らせる
かつての外照射では、周囲の正常組織にも高い線量がかかり、食道炎や喉頭の損傷といった副作用が課題でした。近年ではIMRT(強度変調放射線治療)の普及により、腫瘍への線量を維持しながら正常組織への負担を大幅に軽減できるようになっています。
IMRTは従来の照射法と何が違うのか
従来の3次元原体照射法(3D-CRT)では、前後対向照射などシンプルなビーム配置で治療を行っていました。IMRTでは、放射線の強度をコンピュータ制御で細かく調整できるため、甲状腺周囲の複雑な解剖構造に沿った線量分布を実現できます。
喉頭・食道・脊髄・唾液腺といった照射に弱い臓器を効率よく避けつつ、ターゲットに必要な60Gy以上の線量を確保できる点が大きな利点です。
治療期間とスケジュールの一般的な目安
外照射の治療期間は、1日1回2Gy前後の分割照射を週5日行い、合計30〜35回程度にわたるのが標準的なスケジュールです。治療全体でおよそ6〜7週間を要します。
照射1回あたりの所要時間は15〜30分程度で、実際に放射線が出ている時間はそのうち数分にすぎません。通院しながら日常生活を維持できるケースがほとんどです。
IMRTと従来法の比較
| 比較項目 | 従来法(3D-CRT) | IMRT |
|---|---|---|
| 線量の均一性 | やや粗い | 高い精度で調整可能 |
| 周囲臓器への影響 | 比較的大きい | 大幅に低減 |
| 晩期合併症の頻度 | 12%前後 | 2%前後との報告あり |
照射線量は病変の状態によって段階的に設定される
がんの肉眼的残存部位や切除断端陽性の領域には66〜70Gy、顕微鏡レベルの高リスク領域には約60Gy、予防的に照射する低リスク領域には約54Gyと、段階的な線量設定が行われます。この差をつけられるのもIMRTの大きな強みです。
外照射で懸念される副作用と体への負担はどのくらいか
外照射の副作用は、治療中から治療直後にかけて現れる「急性期の反応」と、数か月から数年後に出てくる「晩期の反応」の2つに分けられます。いずれも照射技術の進歩に伴い、軽減されてきていることは知っておきたいポイントです。
急性期に起こりやすい症状と日常生活への影響
照射開始から2〜3週間ほど経つと、照射部位の皮膚が赤くなったり、のどの痛みや飲み込みにくさを感じたりすることがあります。唾液の量が減って口の中が乾燥する症状も比較的よく見られます。
これらの症状の多くは治療終了後、数週間から1〜2か月程度で徐々に回復していきます。治療中は柔らかい食事にするなどの工夫で、日常生活への支障を抑えることができるでしょう。
晩期合併症で注意したいのは喉頭と食道への影響
外照射を受けた数か月〜数年後に、声のかすれや飲み込みにくさが続くことがまれにあります。従来の照射法ではこうした晩期合併症の頻度がやや高かったものの、IMRTの導入によって頻度は大きく低下しました。
とくに甲状腺がんの患者さんは長期生存が見込まれるため、晩期の副作用を減らすことは生活の質(QOL)を守るうえで重要です。そのためにも、精度の高い照射技術を用いた治療計画が求められます。
放射線治療後に気をつけたい二次がんのリスク
外照射を受けた領域では、長期的に二次がん(放射線誘発がん)が発生するリスクがゼロではありません。ただし、甲状腺がんに対する通常の照射範囲と線量であれば、その絶対リスクは低いと考えられています。
若年の患者さんほど長い余命があるため、二次がんへの配慮が重要になります。45歳未満で放射性ヨウ素に反応する限局的な病変であれば、外照射を行わずに経過を見る選択が推奨されることもあります。
| 副作用の分類 | 主な症状 | 回復の見通し |
|---|---|---|
| 急性期(治療中〜直後) | 皮膚炎、咽頭痛、嚥下困難、口腔乾燥 | 多くは数週間〜2か月で改善 |
| 晩期(数か月〜数年後) | 嗄声、嚥下障害、皮膚の線維化 | IMRTで発生率低減、一部は持続 |
| 長期リスク | 二次がん | 絶対リスクは低いが長期観察が必要 |
外照射を受ける前に主治医へ確認しておきたいこと
外照射の必要性を主治医から提案されたとき、多くの方が「本当に必要なのか」「他に選択肢はないのか」と不安を感じるのは自然なことです。納得して治療に臨むために、受診時に確認しておきたいポイントを整理しましょう。
自分の病期・組織型で外照射が勧められる根拠を聞く
まず確認したいのは、なぜ自分のケースに外照射が必要だと判断されたのかという点です。切除断端の状態、甲状腺外への浸潤の有無、放射性ヨウ素治療への反応性など、具体的な判断根拠を聞くことで、治療への理解が深まります。
外照射の適応は患者さん一人ひとり異なるため、「一般的に行われるから」ではなく、ご自身の状況に即した説明を受けることが大切です。
照射計画の内容と通院スケジュールを事前に把握する
治療の回数・期間・1回あたりの照射時間、照射範囲と線量、使用する照射技術(IMRTかどうか)を事前に確認しておくと、仕事や生活の調整がしやすくなります。治療開始前にCTシミュレーションという照射計画用の検査が行われるため、そのスケジュールも確認しておくとよいでしょう。
主治医への確認ポイント
- 手術で切りきれたかどうか(切除断端の評価)
- 甲状腺の外にがんが広がっているか(甲状腺外浸潤の有無)
- 放射性ヨウ素治療が効くタイプかどうか
- 年齢や全身状態から見た外照射のリスクとメリットのバランス
セカンドオピニオンも選択肢の一つ
外照射の適応判断は施設によってばらつきがあるのが実情です。ランダム化比較試験のエビデンスがないため、施設ごとの経験や方針が治療判断に影響する面があります。迷いがあるなら、甲状腺がんの外照射に経験豊富な放射線腫瘍医のセカンドオピニオンを求めることも有効な手段です。
手術後に外照射を受けるタイミングと治療の流れを把握しておこう
外照射は多くの場合、手術の後に計画される術後補助療法として実施されます。手術からの経過期間や、放射性ヨウ素治療との順序など、治療の流れをあらかじめ把握しておくと不安を和らげることができるでしょう。
手術から外照射開始までの推奨される期間
術後の傷が回復してから外照射を開始するのが一般的で、手術から6〜8週間以内に照射を始めることが推奨されています。創傷治癒が遅れている場合は開始時期がずれることもありますが、あまり間隔を空けると残存腫瘍が増殖するリスクがあるため、適切なタイミングが大切です。
放射性ヨウ素治療と外照射の順番はどう決まるのか
分化型甲状腺がんで両方の治療を受ける場合、通常は先に放射性ヨウ素内用療法を行い、その後に外照射へ移行する流れが多く見られます。放射性ヨウ素治療の効果を評価してから、外照射の必要性を再検討することも少なくありません。
一方、未分化がんのように進行が速い組織型では、手術後できるだけ早く外照射と化学療法を開始する方針が優先されます。治療の順序はがんの種類や緊急性に応じて個別に判断されます。
治療中の生活で気をつけておきたいポイント
外照射は通院で行えるため、治療期間中も自宅で過ごすことができます。照射部位の皮膚を強くこすらないこと、直射日光を避けること、刺激の強い食べ物を控えることが基本的な注意点です。
のどの痛みが強くなった場合は、鎮痛薬の処方や食事の形態変更で対応できる場合がほとんどです。気になる症状が出たら、我慢せずに担当医や看護師へ相談してください。
| 治療の段階 | 時期の目安 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 手術後の回復期間 | 手術後4〜6週間 | 創部の治癒確認、全身状態の評価 |
| CTシミュレーション | 外照射開始の1〜2週間前 | 照射計画用CT撮影、固定具作成 |
| 外照射期間 | 約6〜7週間(毎日通院) | 1回2Gy前後、計30〜35回照射 |
| 経過観察 | 治療終了後定期的に | 画像検査・血液検査による評価 |
甲状腺がんの外照射に関する研究報告と治療成績を正しく読み解く
外照射の効果を示す研究の多くは後ろ向き(レトロスペクティブ)の観察研究であり、ランダム化比較試験は存在しません。それでも複数の大規模施設からの報告を合わせると、一定の治療効果が認められています。
分化型甲状腺がんにおける局所制御率のデータ
MDアンダーソンがんセンターの報告では、高リスクの分化型甲状腺がんに対してIMRTを含む外照射を行った結果、4年時点の局所再発回避率は79%でした。肉眼的残存病変のある群では成績がやや劣るものの、顕微鏡レベルの残存に留まる群では良好な局所制御が得られています。
- 4年局所再発回避率:79%
- IMRTにより晩期合併症が2%まで低減
- 肉眼的残存がある群では予後不良因子
未分化がんでは化学放射線療法の併用が生存率を改善している
全米がんデータベースを用いた研究では、切除された非転移性未分化がん496例のうち、外照射を受けた群の生存期間中央値は12.3か月、化学放射線療法を受けた群では14.0か月でした。手術と放射線治療と化学療法の三者を組み合わせた場合に、全生存率の改善が示されています。
髄様がんに対するエビデンスはまだ発展途上
トロント大学の研究では、髄様がんの高リスク患者(顕微鏡的残存、甲状腺外浸潤、リンパ節転移のある40例)において、術後外照射を受けた25例の10年局所再発回避率は86%、受けなかった群の52%と比べて有意に良好でした。
ただし、この分野のデータは少なく、全生存への恩恵は明確に示されていません。今後のさらなる検証が待たれます。
よくある質問
甲状腺がんの外照射はすべての患者さんに必要な治療ですか?
外照射が必要になるのは、甲状腺がんの患者さん全体のなかでごく一部に限られます。手術と放射性ヨウ素治療で十分に治療できるケースが大半であり、外照射は手術で取りきれなかった高リスク例や、ヨウ素を取り込まないタイプに対して選択されます。
主治医がお一人おひとりのがんの進行度や組織型を評価したうえで必要性を判断しますので、すべての患者さんが受ける治療ではないとご理解ください。
甲状腺がんに対する外照射の治療期間はどのくらいかかりますか?
一般的には、週5日の通院照射を6〜7週間にわたって行います。1回あたり2Gy前後の線量を照射し、合計で30〜35回程度の治療が標準的なスケジュールです。
1回の照射にかかる時間は準備を含めて15〜30分ほどで、照射そのものは数分程度です。入院せずに通院で治療を続けられるため、生活リズムを大きく崩さずに済む方がほとんどでしょう。
甲状腺がんの外照射と放射性ヨウ素内用療法はどちらを先に受けるのですか?
分化型甲状腺がんで両方の治療を行う場合、先に放射性ヨウ素内用療法を実施し、その効果を確認してから外照射に進む流れが一般的です。放射性ヨウ素治療の反応を見て、外照射の必要性や範囲を再検討することもあります。
未分化がんのように急速に進行するタイプでは、手術後すみやかに外照射と化学療法を開始する方針が優先されるため、順番が異なる場合もあります。担当の医療チームが状況に応じて判断します。
甲状腺がんの外照射で用いられるIMRTにはどのような利点がありますか?
IMRT(強度変調放射線治療)は、放射線の強度をコンピュータ制御で細かく調整できる照射技術です。甲状腺の周囲には喉頭・食道・脊髄・唾液腺といった照射に弱い臓器が密集しており、IMRTを使うことでこれらの正常組織への被ばくを抑えながら腫瘍に十分な線量を集中させることができます。
従来の照射法と比較して、晩期の合併症(嗄声や嚥下障害など)の頻度が大幅に低減されたことが報告されています。甲状腺がんの患者さんは長期にわたる経過観察が必要なため、晩期の副作用を減らせることは生活の質を守るうえで大きなメリットといえるでしょう。
甲状腺がんの外照射を受けた後はどのような経過観察が行われますか?
外照射の終了後は、定期的な画像検査(超音波検査やCTなど)と血液検査(サイログロブリンやカルシトニンなどの腫瘍マーカー)を組み合わせた経過観察が行われます。治療直後は副作用の評価を含めて受診間隔が短くなることが一般的です。
長期的には、照射領域の再発の有無だけでなく、晩期合併症の有無や二次がんの早期発見にも注意が払われます。定期検診を途切れさせずに受け続けることが、治療後の安心につながるでしょう。
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この記事を書いた人 Wrote this article
前田 祐助 医学博士 / 医師
慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医