
HER2検査は、乳がんや胃がんをはじめとするがん患者に行われる重要な病理検査です。HER2というタンパクが腫瘍細胞の表面で過剰に発現しているかどうかを調べ、抗HER2療法の適用可否を判定します。
検査には免疫組織化学(IHC)と蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)の2種類があり、これらを組み合わせることで最終的なHER2陽性・陰性の判断が下されます。IHCスコアが「2+」と判定された場合にのみFISHが追加されるという二段階の流れが標準的です。
近年は「HER2低発現」という新たな概念が乳がん薬物療法に変革をもたらしており、HER2検査の対象範囲はさらに広がっています。本記事では、検査の手順や判定基準から最新の治療との関係まで、患者目線でわかりやすく解説します。
HER2陽性か陰性かで、使える薬が根本から変わる
HER2検査の結果は、がん治療において使用できる薬の種類を直接左右します。HER2陽性と判定されれば、がん細胞の増殖シグナルを標的にした抗HER2薬が選択肢に加わります。一方で陰性であれば別の治療戦略が選ばれるため、検査結果の意味をきちんと把握しておくことが大切です。
HER2はがん細胞の表面で増殖シグナルを受け取る受容体だ
HER2(Human Epidermal Growth Factor Receptor 2)は、細胞表面に存在するタンパクで、細胞の増殖・生存に関わるシグナル伝達を担っています。通常の細胞でも少量のHER2が発現していますが、がん細胞ではHER2遺伝子が増幅し、受容体が大量に産生されることがあります。
過剰な受容体が絶えず増殖シグナルを受け続けることで、がん細胞は急速に増殖します。HER2陽性がんが比較的悪性度の高い経過をたどりやすいのは、このシグナル過多が背景にあるためです。
乳がんと胃がんにおけるHER2過剰発現の頻度
HER2の過剰発現や遺伝子増幅が確認されるがんの代表が乳がんと胃がんです。乳がんでは全患者の約15〜20%にHER2陽性が認められ、HER2陰性の乳がんと比べて増殖が速い傾向があるとされています。
胃がん・胃食道接合部がんでは約20〜22%の患者でHER2陽性が確認されており、特に腸型と呼ばれる組織型と胃食道接合部に発生した腫瘍で高い陽性率を示します。
がん種別HER2陽性率と代表的な治療薬
| がん種 | HER2陽性率の目安 | 代表的な抗HER2薬 |
|---|---|---|
| 乳がん | 約15〜20% | トラスツズマブ、ペルツズマブ等 |
| 胃がん・食道胃接合部がん | 約20〜22% | トラスツズマブ |
| 大腸がん | 約2〜5% | 一部で承認済み薬あり |
HER2陽性と確認されると、どのような薬が検討対象になるのか
HER2陽性の乳がんや胃がんに対しては、トラスツズマブをはじめとする抗HER2薬が選択肢として浮上します。トラスツズマブはHER2に直接結合し、がん細胞への増殖シグナルを遮断します。さらに近年は、抗体と化学療法薬が連結した抗体薬物複合体(ADC)も承認され、より多くの患者が治療の恩恵を受けられるようになっています。
HER2陰性の患者にこれらの薬の効果は期待できないため、正確な検査が治療成功の出発点となります。
HER2検査に用いるIHCとFISH、二つの手法が調べていること
HER2検査では、タンパクの量を染色で評価する免疫組織化学(IHC)と、遺伝子コピー数を確認する蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)が用いられます。一方の検査だけでは判断できないケースがあるため、両者を連携させることで高い精度の診断が可能になります。
免疫組織化学(IHC)はHER2タンパクの量をスコアで評価する
IHCは、抗HER2抗体を使って腫瘍組織中のHER2タンパクを染色し、その発現量を「0・1+・2+・3+」の4段階で評価します。検体は手術や生検で採取した組織をパラフィン包埋した切片で、顕微鏡下に染色パターンと強度を病理医が判定します。
タンパクの量が多いほどスコアが高くなり、3+はがん細胞の膜がくっきりと強く染まる状態を指します。比較的短期間で結果が得られ、多くの施設で標準的に実施されている検査法です。
蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)でHER2遺伝子の増幅を直接確認する
FISHは蛍光標識したDNAプローブを使い、腫瘍細胞の核内にあるHER2遺伝子のコピー数を直接数えます。HER2シグナル数と第17染色体シグナル数を比較することで、遺伝子増幅の有無と程度を判断します。
IHCに比べてコストや時間がかかるものの、遺伝子レベルの情報が得られるため、タンパク発現量と遺伝子増幅の両方を確認したい場面に有用です。
IHCが「2+」のとき、なぜFISHで追加確認が必要なのか
IHCのスコア「2+」は「判定保留(equivocal)」とされ、HER2陽性とも陰性とも断定できない中間の状態です。この場合にFISHまたは他の核酸in situハイブリダイゼーション(ISH)法を追加して遺伝子増幅の有無を確認することが、国際ガイドラインで推奨されています。
2+でFISHが遺伝子増幅を示せばHER2陽性、示さなければHER2陰性と最終判定されます。「2+で検査が終わった」と思う必要はなく、このプロセスは確度を高めるための手順です。
HER2検査の一般的な流れ
- 腫瘍組織にIHCを実施し、スコアを「0・1+・2+・3+」で評価する
- スコアが3+の場合は追加検査なしにHER2陽性と判定される
- スコアが2+の場合はFISH(またはISH)を追加し遺伝子増幅を確認する
- FISH陽性であればHER2陽性、陰性であればHER2陰性(HER2低発現に該当)
- スコアが0・1+の場合はHER2陰性とされるが、1+は「低発現」として近年注目されている
「0・1+・2+・3+」で何が変わるのか、IHCスコアの判定基準と読み方
IHCスコアは「何が染まっているか」「どの程度の強さか」「どれだけの割合の細胞が染まっているか」の組み合わせで決まります。乳がんと胃がんでは判定ルールが一部異なるため、担当医や病理医との確認が重要です。
各スコアが示す染色パターンと細胞割合の違い
スコア0は染色なし、または10%未満の腫瘍細胞に弱い不完全な染色が認められる状態です。1+は10%を超える細胞に弱い染色が見られるものの、完全な膜染色は確認できません。
2+は10%以上の細胞に弱〜中程度の完全な膜染色、または強い染色が10%未満の状態を指します。3+は10%以上の細胞に強い完全な膜染色が確認され、HER2陽性の判断基準となります。
3+はHER2陽性、0と1+はHER2陰性と判断される根拠
スコア3+は、HER2タンパクが高度に過剰発現している状態で、追加検査なしにHER2陽性と確定されます。0と1+は過剰発現なしと判断されHER2陰性とされます。2+は中間域であり、FISHによる追加確認が必要です。
スコア判定には細胞の割合、染色の強度と均一性など複合的な要素が絡むため、HER2検査に精通した病理医の判定が結果の信頼性を高めます。
IHCスコアの判定基準一覧(ASCO/CAP基準、乳がん)
| スコア | 染色の状態 | HER2判定 |
|---|---|---|
| 0 | 染色なし、または10%未満に弱い染色 | 陰性 |
| 1+ | 10%超に弱い不完全な膜染色 | 陰性(低発現として注目) |
| 2+ | 中程度の完全膜染色または強い染色が10%未満 | 判定保留・FISH要 |
| 3+ | 10%以上の細胞に強い完全な膜染色 | 陽性 |
乳がんと胃がんでスコア判定のルールが異なる点に注意が必要だ
乳がんのHER2判定では、膜の全周性の強い染色が求められます。一方、胃がんでは腺管構造をなす細胞の特性から、側面や底面のみの不完全な膜染色でも陽性スコアとしてカウントする独自ルールが適用されます。このため乳がんの基準をそのまま胃がんに当てはめることはできません。
胃がんのHER2判定に精通した病理医が評価を担うことで、不正確な判定を防ぐことができます。乳がん担当の病理医が胃がんを評価する際には、追加のトレーニングや専門的な確認が推奨されています。
乳がんにおける「HER2低発現」の発見が、薬物療法の選択肢を大きく広げた
長年「HER2陰性」として一括りにされてきた乳がんの中に、「HER2低発現」と呼ばれる新たなサブグループが識別され、治療の幅が大きく変わりました。IHC 1+またはIHC 2+/FISH陰性という検査パターンが、新薬の対象を選び出す重要な指標になっています。
HER2低発現はIHC 1+またはIHC 2+/FISH陰性のケースを指す
HER2低発現(HER2-Low)は、IHCスコアが1+の場合、またはIHCスコアが2+でFISH検査が遺伝子増幅なしを示した場合に該当します。従来の「HER2陰性」に包括されていたカテゴリーですが、治療の観点から改めて注目されています。
乳がん患者全体の40〜50%程度がこのHER2低発現に分類されると推計されており、決して稀な状態ではありません。したがって、IHC 0と1+を正確に区別する病理判定の精度が、これまで以上に重要な意味を持ちます。
トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)がHER2低発現に作用できる理由
T-DXdは、HER2に特異的に結合する抗体にトポイソメラーゼI阻害薬が連結された抗体薬物複合体(ADC)です。HER2タンパクが少ししか存在しない細胞に対しても結合し、細胞内に薬物を送達できます。さらに周囲の腫瘍細胞にも薬物が作用するバイスタンダー効果があるとされており、低発現の腫瘍でも一定の抗腫瘍効果が期待されます。
従来の抗HER2薬が効かなかった「低発現」の腫瘍に対しても有効性が示されたことで、HER2検査の意味合いが従来の「陽性か陰性か」から「どの程度発現しているか」へと広がっています。
DESTINY-Breast04試験が証明したこと、そして治療の世界が変わった
2022年に公表されたDESTINY-Breast04試験では、既治療のHER2低発現転移性乳がん患者にT-DXdを投与したところ、医師選択化学療法と比較して無増悪生存期間と全生存期間の両方で有意な延長が認められました。この試験結果は、HER2の発現量を細かく評価することの臨床的意義を改めて示した画期的なものです。
試験結果を受けてHER2低発現という概念が世界的に広まり、IHC 0と1+を明確に区別する病理判定の精度向上が強く求められるようになっています。
HER2の発現カテゴリーと治療対象の比較(乳がん)
| カテゴリー | IHCスコア / FISHの状態 | 主な薬物療法の対象 |
|---|---|---|
| HER2陽性 | IHC 3+、またはIHC 2+かつFISH陽性 | トラスツズマブ、ペルツズマブ等 |
| HER2低発現 | IHC 1+、またはIHC 2+かつFISH陰性 | トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd) |
| HER2陰性 | IHC 0 | HER2標的薬の適用外 |
胃がん・食道胃接合部がんのHER2検査、ToGA試験が切り開いた薬物療法への道
胃がんにおけるHER2検査は、ToGA試験(Trastuzumab for Gastric Cancer)の結果を受けて一気に普及しました。HER2陽性の進行胃がん・食道胃接合部がん患者では、化学療法にトラスツズマブを加えることで生存期間の延長が初めて示され、HER2検査の標準化が後押しされました。
胃がんでHER2が陽性になる確率と特有の不均一な染色パターン
胃がんのHER2陽性率は約20〜22%と報告されており、特に腸型がんや胃食道接合部に発生したがんで高くなる傾向があります。乳がんと異なり、胃がんのHER2染色は腫瘍内での発現が不均一(heterogeneous)なことが多く、採取した生検サンプルの部位によっては真の陽性を見逃すリスクがあります。
このため、複数部位から採取した生検検体でHER2を評価することが推奨されています。内視鏡的生検では5個以上の組織片を採取することで、不均一性による偽陰性のリスクを下げられます。
ToGA試験が立証した、トラスツズマブの全生存期間への効果
ToGA試験は24カ国122施設で実施されたHER2陽性進行胃がん・食道胃接合部がんを対象とした第3相試験です。トラスツズマブ+化学療法群は化学療法単独群に比べ、全生存期間中央値が13.8カ月対11.1カ月と有意に延長されました。
特にHER2高発現(IHC 2+/FISH陽性またはIHC 3+)の患者では、全生存期間中央値が16.0カ月対11.8カ月とさらに大きな改善が認められました。
ToGA試験の主要成績(HER2陽性進行胃がん)
| 指標 | トラスツズマブ+化学療法 | 化学療法単独 |
|---|---|---|
| 全生存期間中央値 | 13.8カ月 | 11.1カ月 |
| ハザード比(OS) | 0.74(95%CI:0.60〜0.91) | 基準 |
| 高HER2発現患者のOS中央値 | 16.0カ月 | 11.8カ月 |
胃がんのHER2検査で乳がんとは異なる判定基準が使われる理由
胃がんのHER2スコアリングでは、管腔構造を形成する細胞の側面・基底面のみの染色でも「完全な膜染色」として評価します。乳がんでは膜が全周性に強く染まることが求められますが、胃がんの細胞構造上それが難しいためです。また、生検検体では5個以上の染色陽性細胞集団があれば陽性とみなす特別ルールも存在します。
こうした違いを知らずに評価すると陽性・陰性の誤判定につながるため、胃がんのHER2検査に精通した病理医による判定体制が整った施設で検査を受けることが大切です。
検体の質と施設の選択がHER2判定の精度を決定づける
HER2検査は同じ患者の腫瘍でも、検体の採取方法・保存条件・検査施設の技術水準によって結果が変わることがあります。信頼できる判定を得るためには、検体の質の確保と、HER2検査の実績が豊富な施設への依頼が重要です。
生検や手術で採取する組織の量と部位が結果の信頼性に影響する
HER2検査に用いる組織は、内視鏡的生検や外科的切除術で得られます。生検の場合は十分な量(推奨は5個以上の生検片)を採取することで、不均一な発現を見逃すリスクを減らせます。また、原発巣と転移巣でHER2発現が異なることもあるため、どの部位の検体で検査するかも重要な判断となります。
ホルマリン固定・パラフィン包埋(FFPE)処理の条件も精度に影響するため、採取後の迅速な固定処理が求められます。固定が不十分な場合、タンパクが変性してIHCスコアが本来より低く出ることがあります。
腫瘍内の不均一性(heterogeneity)がHER2の判定を難しくする
胃がんに特に顕著ですが、一つの腫瘍の中でHER2発現が強い領域と弱い領域が混在することがあります。生検で採取できるのは腫瘍のごく一部であるため、採取した部位が発現の少ない場所であれば「偽陰性」となるリスクがあります。
逆に発現が強い部位だけを採取した場合は治療が開始されても、腫瘍全体では陰性が優勢というケースも理論上はあり得ます。この不均一性を完全に克服する手法はまだなく、複数部位からの採取と専門的な評価が現実的な対策となっています。
病状の進行後に再検査が有用なケースと、そのタイミング
HER2陽性で治療を開始したが効果が薄れてきた場合、再生検を行ってHER2の発現状態を確認することが選択肢になります。治療経過の中でHER2発現が変化すること(HER2消失や新たなHER2陽性転移巣の出現)も報告されており、進行がんの管理において再評価が治療方針の見直しに役立つことがあります。
再検査のタイミングや必要性については、主治医や腫瘍内科専門医と相談の上で判断することが勧められます。
正確なHER2検査のために確認しておきたいポイント
- 生検は5個以上の組織片を採取しているか(特に胃がん)
- ホルマリン固定は採取後速やかに行われているか
- 検査施設はHER2検査の経験が豊富で、がん種に応じた基準を使っているか
- 胃がんの場合、乳がんとは異なる判定ルールが正しく適用されているか
- 治療効果が不十分になってきた場合、再検査の可能性を主治医に相談したか
乳がん・胃がん以外でも広がりを見せるHER2検査、大腸がん・肺がんへの応用
HER2陽性は乳がんと胃がんで最も重要視されてきましたが、大腸がんや非小細胞肺がんでもHER2の異常が見つかることが明らかになってきました。HER2検査の対象は着実に広がっています。
大腸がんにおけるHER2の過剰発現と抗HER2療法が期待される背景
大腸がんのHER2陽性率は2〜5%程度と高くありませんが、RAS野生型の転移性大腸がんでHER2陽性の場合に抗HER2薬の有効性を示す臨床データが蓄積されています。RAS変異が存在すると抗EGFR療法の効果が限定されるため、HER2陽性が確認された患者には別の治療戦略として注目されています。
主なHER2陽性がんの種類と検査の現状
| がん種 | HER2陽性率の目安 | 検査の現状 |
|---|---|---|
| 乳がん | 15〜20% | 標準検査として確立 |
| 胃がん・食道胃接合部がん | 20〜22% | 標準検査として確立 |
| 大腸がん | 2〜5% | 一部で承認済み薬あり |
| 非小細胞肺がん(HER2変異型) | 2〜4% | 適応拡大が進む |
非小細胞肺がんでのHER2変異と薬物療法への応用が進んでいる
非小細胞肺がんでは、HER2遺伝子の変異(過剰発現とは区別される変異型)がドライバー変異として機能するケースが報告されています。変異率は2〜4%程度と低いながら、HER2変異陽性の肺がんに対してT-DXdなどのADCが有望な効果を示す試験結果が報告されており、承認に向けた動きがあります。肺がんの遺伝子パネル検査にHER2変異が含まれるようになってきた背景もここにあります。
こうした動きは「特定のがん種だけがHER2検査の対象」という従来の枠組みを変えつつあります。
がん遺伝子パネル検査と液体生検がHER2診断を変えつつある
複数のがん種にまたがって遺伝子変異を網羅的に調べるがん遺伝子パネル検査では、HER2の増幅や変異も検出対象に含まれます。一度の検査で幅広い遺伝子情報が得られるため、予期せずHER2異常が発見されるケースもあります。
また血液中の循環腫瘍DNA(ctDNA)を解析する液体生検でも、HER2の状態を非侵襲的にモニタリングする研究が進んでいます。組織検査と液体生検を組み合わせることで、HER2診断の利便性と精度がさらに向上する可能性があります。
よくある質問
HER2検査はどのような手順で受けることになるのでしょうか?
がんと診断された際、担当医の判断により腫瘍組織を採取する生検または手術が行われます。得られた組織はホルマリン固定・パラフィン包埋処理を経て、病理検査室でIHC染色が実施されます。
スコアが2+の場合は引き続きFISHが行われ、最終的にHER2陽性か陰性かが確定します。IHCの結果は一般的に数日以内、FISHは1〜2週間程度で得られることが多いです。検査の流れに疑問があれば、担当医や看護師に遠慮なく質問してください。
HER2検査のスコアが「2+」と判定された場合、HER2陽性ということになるのでしょうか?
2+という判定はHER2陽性とも陰性とも言えない「判定保留」の状態です。この段階で陽性か陰性かを断定するのではなく、追加のFISHまたはISH検査を行って遺伝子の増幅を確認します。
FISHが陽性であればHER2陽性、陰性であればHER2陰性(もしくはHER2低発現)と最終判定されます。2+の段階で検査が終わることはありませんので、追加検査の説明を担当医から必ず受けるようにしてください。
HER2検査の結果が病院によって異なることはあるのでしょうか?
残念ながら、施設間で判定結果に差が生じることは実際に報告されています。病理医の熟練度や使用する試薬・検査機器、ホルマリン固定の条件などが結果に影響します。
特に胃がんのHER2判定では乳がんとは異なるスコアリング基準が必要であり、専門的なトレーニングを受けた病理医が関与することで精度が向上します。結果に疑問がある場合は、専門施設でのセカンドオピニオンを検討することも一つの選択肢です。
HER2検査で「HER2低発現」と診断されると、どのような治療が選択肢になるのでしょうか?
HER2低発現(IHC 1+、またはIHC 2+かつFISH陰性)と診断された転移性乳がんでは、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)が治療選択肢として登場しています。2022年のDESTINY-Breast04試験でその有効性が実証され、既治療患者において標準化学療法を上回る生存期間の延長が示されました。
ただし、HER2低発現という概念は現時点では主に乳がんに適用されており、胃がんなど他のがん種への応用はまだ研究段階にある部分があります。治療の選択については担当医と十分に相談した上で判断することが大切です。
胃がんに行われるHER2検査は乳がんのHER2検査と何が違うのでしょうか?
胃がんのHER2検査では、乳がんとは異なるスコアリング基準が用いられます。胃がんでは腺管構造をなす細胞の特性から、膜の一部しか染まらない不完全な染色でも陽性スコアとして評価する独自のルールがあります。また、生検検体では5個以上の染色陽性細胞集団があれば陽性とみなす基準も適用されます。
腫瘍内のHER2発現が不均一なことも乳がんより顕著で、複数部位からの生検が推奨されます。乳がんの検査と同一の基準で評価すると誤判定につながるため、胃がんのHER2検査に精通した専門施設で受けることが大切です。
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この記事を書いた人 Wrote this article
前田 祐助 医学博士 / 医師
慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医