
私たちの体内では毎日膨大な数の細胞分裂が起きていますが、その過程で遺伝子に変異が蓄積し、がんへと進行するケースがあります。なかでも「ドライバー遺伝子」と呼ばれる特定の遺伝子変異は、がんの発生や増殖を直接的に引き起こす”原動力”として注目されています。
ドライバー遺伝子の変異は、正常な細胞をがん細胞へと変貌させ、際限のない増殖を引き起こします。近年の研究では、こうした遺伝子の特定が進み、個々の患者さんに合わせた治療法の選択が現実のものとなりつつあるでしょう。
この記事では、ドライバー遺伝子の基本的な仕組みから代表的な種類、がん種ごとの特徴、検査方法、そして分子標的治療との関係までを幅広く解説します。がんと遺伝子の関係を正しく知ることが、ご自身やご家族の健康を守る第一歩となるかもしれません。
ドライバー遺伝子はがんの発生を直接引き起こす「原因遺伝子」である
ドライバー遺伝子とは、変異が生じることで正常な細胞をがん化させ、腫瘍の成長を促進する遺伝子のことです。がん細胞のゲノムには多くの変異が見つかりますが、すべてが発がんに関与しているわけではありません。
がん細胞に見つかる変異の大半は「乗客」にすぎない
がん細胞のDNAを詳しく調べると、数十から数千もの変異が検出されます。しかし、これらの変異のうち、がんの発生や進行に直接関わるものはごくわずかにすぎません。
がんの原因となる変異を「ドライバー変異」、がんの成長に関与しない変異を「パッセンジャー変異(乗客変異)」と呼びます。自動車にたとえるなら、ドライバー変異はハンドルを握って車を動かす運転手であり、パッセンジャー変異はただ同乗しているだけの乗客といえるでしょう。
1つの腫瘍に含まれるドライバー変異は2個から8個程度
大規模なゲノム解析プロジェクトの結果、典型的ながんには2個から8個程度のドライバー変異が含まれていることが分かっています。残りの数百から数千にのぼる変異は、がんの成長に有利な影響を与えないパッセンジャー変異です。
つまり、がんという病気は少数の「鍵となる遺伝子異常」が段階的に蓄積することで発症するといえます。この考え方は「多段階発がんモデル」として広く受け入れられています。
ドライバー変異とパッセンジャー変異の比較
| 項目 | ドライバー変異 | パッセンジャー変異 |
|---|---|---|
| がんへの影響 | 発生・増殖を直接促進 | 影響なし |
| 出現頻度 | 1腫瘍あたり2~8個 | 数十~数千個 |
| 治療標的 | 分子標的薬の標的 | 治療の標的にならない |
| 検出方法 | 遺伝子パネル検査等 | 全ゲノム解析で検出可能 |
正常な細胞ががん細胞へ変わる段階的な流れ
正常な細胞は通常、増殖と死のバランスが厳密に保たれています。ドライバー遺伝子に変異が入ると、このバランスが崩れ、細胞は制御を失って増殖を始めます。
1つの変異だけでは多くの場合がんにはなりません。複数のドライバー変異が年月をかけて蓄積されることで、細胞は段階的にがん化していきます。喫煙や紫外線、加齢などの要因がこの変異の蓄積を加速させることも分かっています。
がん遺伝子と抑制遺伝子|ドライバー遺伝子を構成する2つのタイプとは
ドライバー遺伝子は、大きく分けて「がん遺伝子(オンコジーン)」と「がん抑制遺伝子」の2つに分類されます。がん遺伝子は変異によって過剰に活性化し、がん抑制遺伝子は変異によって機能を失うことで、がんの発生につながります。
がん遺伝子は「アクセルの暴走」を引き起こす
がん遺伝子の元になる正常な遺伝子を「プロトオンコジーン(がん原遺伝子)」と呼びます。プロトオンコジーンは本来、細胞の成長や分裂を適切に制御する遺伝子です。
ところが、この遺伝子に変異が起きると、細胞増殖のシグナルが常にオンの状態になってしまいます。いわばアクセルペダルが踏みっぱなしになった状態で、細胞は止まることなく増え続けてしまうのです。代表的ながん遺伝子としてKRAS、EGFR、BRAFなどが知られています。
がん抑制遺伝子は「ブレーキの故障」を意味する
がん抑制遺伝子は、細胞の増殖を制御したり、DNA損傷を修復したり、不要な細胞にアポトーシス(プログラム細胞死)を起こさせたりする「ブレーキ」の働きを担っています。
この遺伝子に変異が生じると、ブレーキが効かなくなり、異常な細胞が除去されないまま増殖を続けます。TP53やRB1、BRCA1/2などが代表的ながん抑制遺伝子として有名です。TP53は全がんの約半数で変異が確認されており、「ゲノムの守護者」とも呼ばれています。
がん遺伝子とがん抑制遺伝子の変異が同時に起こるケース
多くのがんでは、がん遺伝子の活性化とがん抑制遺伝子の不活化が同時に認められます。アクセルの暴走とブレーキの故障が同時に起こることで、がんの発生リスクはさらに高まるでしょう。
9,000例を超える腫瘍を解析した研究では、89%の腫瘍において少なくとも1つのドライバー変異が確認されました。がん遺伝子とがん抑制遺伝子の両方を理解することが、がんの全体像を把握する上で大切になります。
| 分類 | 変異の影響 | 代表的な遺伝子 |
|---|---|---|
| がん遺伝子 | 機能が過剰に活性化 | KRAS, EGFR, BRAF |
| がん抑制遺伝子 | 機能が失われる | TP53, RB1, BRCA1/2 |
| DNA修復遺伝子 | 修復能力が低下 | MLH1, MSH2, BRCA2 |
肺がん・大腸がん・乳がん|がん種ごとのドライバー遺伝子変異パターンを押さえよう
ドライバー遺伝子の変異パターンはがんの種類によって大きく異なります。肺がんではEGFR変異が治療戦略を左右し、大腸がんではKRAS変異が薬剤選択の決め手となり、乳がんではHER2やBRCA遺伝子の状態が治療方針に影響を及ぼします。
肺がんで多いEGFR変異とALK融合遺伝子
非小細胞肺がん(NSCLC)において、EGFR遺伝子変異は日本人を含む東アジアの患者さんで特に多く認められます。EGFR変異のある肺がんは、ゲフィチニブやオシメルチニブなどの分子標的薬で高い治療効果が期待できます。
ALK融合遺伝子やROS1融合遺伝子も肺がんの代表的なドライバー変異であり、それぞれに対応した分子標的薬が開発されています。非喫煙者の腺がんに比較的多いことも特徴の1つです。
大腸がんはKRAS・BRAF変異が治療薬の効果を左右する
大腸がんでは、KRAS遺伝子の変異が全体の約40%に確認されます。KRAS変異がある場合、抗EGFR抗体薬(セツキシマブやパニツムマブ)は効果が期待できないため、治療前の遺伝子検査が欠かせません。
BRAF V600E変異は大腸がんの約8~12%に見られ、予後が不良であることが知られています。APC遺伝子やTP53の変異も大腸がんの発症に深く関わっています。
肺がん・大腸がんの主なドライバー遺伝子変異
| 遺伝子変異 | 出現頻度(日本) | 対応する主な治療薬 |
|---|---|---|
| EGFR変異 | 約40~50% | オシメルチニブ等 |
| ALK融合 | 約3~5% | アレクチニブ等 |
| KRAS G12C | 約4~5% | ソトラシブ等 |
| ROS1融合 | 約1~2% | クリゾチニブ等 |
| BRAF V600E | 約1~2% | ダブラフェニブ+トラメチニブ |
乳がんではHER2増幅とBRCA変異が鍵になる
乳がんの約15~20%で見られるHER2遺伝子の増幅は、トラスツズマブをはじめとする抗HER2療法の対象となります。かつて予後不良とされたHER2陽性乳がんは、分子標的薬の登場により治療成績が大幅に向上しました。
BRCA1/2遺伝子の変異は遺伝性乳がん・卵巣がんと関連しており、PARP阻害薬による治療が選択肢になります。PIK3CA変異も乳がんの約30~40%で確認されており、対応する治療薬が使われるケースも増えています。
ドライバー遺伝子変異はどの検査で見つかるのか|遺伝子パネル検査の流れ
ドライバー遺伝子変異の検出には、遺伝子パネル検査やコンパニオン診断など複数の方法があります。がんの組織や血液からDNAを抽出し、標的となる遺伝子の変異を一度に調べることで、個人に合った治療方針を導き出せます。
遺伝子パネル検査は数百の遺伝子を一度に解析できる
遺伝子パネル検査とは、がんに関連する数十から数百の遺伝子を同時に解析する方法です。日本では「がんゲノム医療」の一環として、FoundationOneやOncoGuideといった検査が承認されています。
手術や生検で採取した腫瘍組織から遺伝子を読み取り、ドライバー変異の有無を確認します。結果は「エキスパートパネル」と呼ばれる専門家チームが評価し、治療方針の検討に活かされます。
リキッドバイオプシーは血液から遺伝子変異を検出する
リキッドバイオプシー(液体生検)は、血液中に含まれるがん由来のDNA(ctDNA)を分析する手法です。組織を採取する従来の生検に比べ、患者さんの体への負担が少ないメリットがあります。
リキッドバイオプシーは腫瘍の経時的な変化をモニタリングする際にも有用で、治療中に出現する新たなドライバー変異の検出にも活用されています。ただし、ctDNAの量が少ない場合は検出感度が下がるため、組織検査と組み合わせて判断することが一般的です。
コンパニオン診断検査は特定の薬剤の使用可否を判断する
コンパニオン診断検査は、特定の分子標的薬を使用する前に、その薬剤が効果を示す遺伝子変異が存在するかどうかを調べる検査です。たとえば、EGFR変異陽性を確認してからEGFR阻害薬を処方する、という形で使われます。
コンパニオン診断検査は薬剤ごとに承認されているため、治療選択肢が増えるほど検査の種類も多くなります。遺伝子パネル検査が普及しつつある現在でも、迅速に結果が得られるコンパニオン診断は大切な検査方法として利用されています。
| 検査方法 | 対象 | 特徴 |
|---|---|---|
| 遺伝子パネル検査 | 腫瘍組織 | 多数の遺伝子を網羅的に解析 |
| リキッドバイオプシー | 血液 | 低侵襲で繰り返し検査可能 |
| コンパニオン診断 | 腫瘍組織・血液 | 特定薬剤の適応を判定 |
ドライバー遺伝子変異に基づく分子標的治療で、がん治療はこう変わった
ドライバー遺伝子変異の特定は、従来の「臓器別」の治療から「遺伝子変異別」の治療へと、がん治療のパラダイムを大きく転換させました。分子標的薬は、がん細胞が持つ特定のドライバー変異を狙い撃ちすることで、正常細胞へのダメージを抑えながら高い治療効果を発揮します。
分子標的薬はドライバー遺伝子変異を「狙い撃ち」にする
従来の抗がん剤は、増殖の速い細胞を広く攻撃するため、正常な細胞にもダメージを与えやすいという課題がありました。分子標的薬は、がん細胞のドライバー変異に起因する異常なタンパク質やシグナル伝達経路をピンポイントで阻害します。
たとえば、EGFR変異陽性の肺がんに対するオシメルチニブは、変異したEGFRタンパク質の働きを選択的に抑えます。その結果、従来の化学療法と比べて高い奏効率(治療に反応する割合)と長い無増悪生存期間が報告されています。
薬剤耐性とドライバー遺伝子の二次変異が治療の壁になる
分子標的薬で優れた効果が得られても、治療を続けるうちにがん細胞は新たな変異を獲得し、薬が効かなくなることがあります。これが「獲得耐性」と呼ばれる現象です。
EGFR変異陽性肺がんでは、第1世代・第2世代の阻害薬に対してT790M変異が耐性の原因となりましたが、第3世代のオシメルチニブがこの変異に有効であることが示されています。さらに、オシメルチニブ耐性後のC797S変異に対する第4世代の薬剤開発も進められています。
がん種を問わない「臓器横断的治療」の広がり
- NTRK融合遺伝子陽性のがんに対するエヌトレクチニブ
- 高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)に対するペムブロリズマブ
- BRAF V600E変異陽性のがんに対するダブラフェニブ+トラメチニブ
複数のドライバー遺伝子変異を同時に標的とする併用療法
1つの標的だけを狙う治療では限界があるため、複数の経路を同時に阻害する併用療法の研究が活発に進んでいます。たとえばBRAF変異のあるがんでは、BRAF阻害薬とMEK阻害薬を組み合わせることで、単剤よりも高い治療効果と長い生存期間が得られています。
がんゲノム解析の結果、1つの腫瘍のなかに複数のドライバー変異が共存するケースが多いことも明らかになりました。どの変異の組み合わせが治療効果に影響するのかを見極めることが、今後の治療戦略を練る上で重要になるでしょう。
ドライバー遺伝子変異は遺伝するのか|がんの家族歴が気になるあなたへ
がんのドライバー遺伝子変異の多くは「体細胞変異」といって、生まれた後に後天的に起こるもので、親から子へ受け継がれることはありません。一方で、一部の変異は「生殖細胞系列変異」として遺伝し、がんの発症リスクを高める場合があります。
体細胞変異と生殖細胞系列変異は根本的に異なる
体細胞変異は、個人の生涯のなかで特定の組織の細胞に発生する変異であり、次の世代に引き継がれません。喫煙や紫外線、加齢といった外的・内的要因がきっかけとなって蓄積していきます。
一方、生殖細胞系列変異は精子や卵子に含まれるDNAの変異であり、子どもに受け継がれる可能性があります。BRCA1/2やTP53(リ・フラウメニ症候群)、APC(家族性大腸腺腫症)の変異は、遺伝によって高いがんリスクをもたらす代表的な例です。
遺伝性腫瘍症候群が疑われるサインとは
家族のなかで若い年齢でがんを発症した方がいる場合や、同じ系統のがんが複数の血縁者に発生している場合は、遺伝性腫瘍症候群の可能性も考慮する必要があります。
遺伝カウンセリングを受けることで、遺伝性変異の有無を調べる検査が適切かどうかを専門家と相談できます。検査を受けるかどうかは個人の意思に基づいて判断されるものであり、十分な情報提供と心理的サポートが欠かせないでしょう。
遺伝性の変異が見つかった場合にできること
遺伝性のドライバー遺伝子変異が確認された場合、がんの発症リスクに応じたサーベイランス(定期的な経過観察や検診)が推奨される場合があります。
BRCA1/2変異の保有者に対しては、乳がんや卵巣がんの早期発見を目的とした定期的な画像検査が行われることがあります。ご自身の家族歴を振り返り、気になることがあれば主治医に相談してみてください。
| 変異の種類 | 遺伝 | 発生するタイミング |
|---|---|---|
| 体細胞変異 | しない | 出生後、生涯を通じて蓄積 |
| 生殖細胞系列変異 | する場合がある | 受精の段階から存在 |
ドライバー遺伝子変異と12のシグナル伝達経路|がん増殖のカギを握る分子ネットワーク
ドライバー遺伝子の変異は、細胞の生存・増殖・死を制御する12のシグナル伝達経路のいずれかに影響を及ぼすことが大規模なゲノム研究で示されています。個々の遺伝子変異だけでなく、それが属する経路全体を理解することが、効果的な治療戦略を考える上で大切です。
RTK-RAS経路はがん全体で変異頻度が高い経路の1つ
RTK-RAS経路は、受容体型チロシンキナーゼ(RTK)を介して細胞増殖のシグナルを伝える経路です。EGFR、KRAS、BRAF、HER2など、多くのがんで変異が確認されるドライバー遺伝子がこの経路に含まれます。
- KRAS変異:膵がん、大腸がん、肺がんなど幅広いがん種に関与
- EGFR変異:肺がん、頭頸部がんなど
- BRAF変異:悪性黒色腫、大腸がん、甲状腺がんなど
- HER2増幅:乳がん、胃がんなど
PI3K-AKT経路とp53経路もがんの増殖を強力に制御する
PI3K-AKT経路は細胞の生存と成長を促進する経路であり、PIK3CA遺伝子の変異やPTEN遺伝子の機能喪失が多くのがん種で確認されます。この経路が異常に活性化すると、細胞はアポトーシスを逃れて生き延びるようになります。
p53経路は、DNA損傷が検出された際に細胞周期を停止させ、修復不可能な場合には細胞死を誘導する「監視システム」です。TP53遺伝子はがん全体で変異頻度がもっとも高い遺伝子の1つであり、この遺伝子の不活化はあらゆるがん種に共通する特徴といえるでしょう。
複数経路の同時異常がお互いを強め合うことがある
がん細胞ではしばしば複数の経路に同時にドライバー変異が生じます。たとえば、RTK-RAS経路の活性化とp53経路の不活化が同時に起きると、がん細胞はより強い増殖力と生存力を獲得します。
ある経路の阻害薬で治療を行っても、別の経路が活性化して耐性を示すケースも少なくありません。そのため、どの経路にどのような変異があるのかを包括的に把握し、治療戦略を立てることが求められます。
よくある質問
ドライバー遺伝子の変異はすべてのがんに共通して存在するのですか?
ドライバー遺伝子の変異はほとんどのがんで確認されていますが、具体的にどの遺伝子に変異が起きるかはがん種によって異なります。たとえば、肺がんではEGFR変異が多い一方で、大腸がんではKRAS変異が高頻度に見られます。
がんの種類ごとに特徴的なドライバー遺伝子のパターンが存在し、同じ臓器のがんであってもサブタイプによって変異の構成は異なるケースが珍しくありません。
ドライバー遺伝子の検査を受けるにはどのような条件が必要ですか?
遺伝子パネル検査は、標準治療が終了した方や、標準治療が存在しない希少がんの方が対象となるケースが多いです。がんゲノム医療中核拠点病院や連携病院で受けることができます。
また、特定の分子標的薬の使用前に行われるコンパニオン診断検査については、主治医が治療上必要と判断した場合に実施されます。検査を希望する方は、まずかかりつけの医師にご相談ください。
ドライバー遺伝子に対する分子標的薬はすべての患者さんに効果がありますか?
分子標的薬は、対応するドライバー遺伝子変異を持つ患者さんに高い効果を示しますが、すべての方に同等の効果があるわけではありません。がん細胞の遺伝子構成は患者さんごとに異なるため、治療反応にも個人差が生じます。
加えて、治療を続けるうちに薬剤耐性が生じることがあり、別のドライバー変異が出現して薬の効果が低下するケースも報告されています。定期的な検査で治療効果を確認しながら、必要に応じて治療方針を見直すことが大切です。
ドライバー遺伝子の変異は生活習慣によって防ぐことができますか?
ドライバー遺伝子の体細胞変異は、喫煙、紫外線、発がん性物質への曝露、加齢などの要因で発生リスクが高まることが知られています。禁煙や日焼け対策、バランスの良い食生活を心がけることは、変異の蓄積を減らす一助となるでしょう。
ただし、遺伝子の変異には偶発的に起こるものもあるため、生活習慣の改善だけで完全に防げるものではありません。定期的な検診を受け、異常の早期発見に努めることが、がんへの備えとして重要です。
ドライバー遺伝子のパッセンジャー変異が将来的に治療標的になる可能性はありますか?
現時点ではパッセンジャー変異は治療標的として注目されていませんが、一部の研究では、パッセンジャー変異ががん細胞の免疫応答に影響を及ぼす可能性が指摘されています。
パッセンジャー変異によって生じる異常タンパク質(ネオアンチゲン)が免疫細胞に認識され、免疫療法の効果に影響する場合があるためです。今後の研究でパッセンジャー変異の新たな価値が見いだされるかもしれません。
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この記事を書いた人 Wrote this article
前田 祐助 医学博士 / 医師
慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医