遺伝子パネル検査 category

がん遺伝子パネル検査は、がん細胞に起きた数百個の遺伝子の変化を一度にまとめて調べ、その人のがんに合う薬の手がかりを探す検査です。
多くは標準治療を終えた後の新たな選択肢として行われ、2019年からは公的医療保険でも受けられるようになりました。ただし費用や対象には一定の決まりがあります。
この記事では、検査の中身から保険適用の条件、費用の目安、受けられる病院、結果でわかること、知っておきたい注意点までを順を追ってまとめました。
がん遺伝子パネル検査とは?数百の遺伝子を一度に調べてがんの特徴をつかむ検査
がん遺伝子パネル検査とは、がん細胞のDNAに生じた多数の遺伝子変化をまとめて調べ、その特徴に合う治療の手がかりを探す検査です。従来は1つずつ確認していた遺伝子を、一度に数百個まで読み取れる点が大きな違いといえます。
| 項目 | 従来の単一遺伝子検査 | パネル検査 |
|---|---|---|
| 調べる遺伝子の数 | 1〜数個 | 数十〜数百個 |
| 一度にわかること | 特定の薬の適否 | 幅広い変化と複数の手がかり |
| 主な使いどころ | 標準治療の薬選び | 次の治療の選択肢探し |
一度に多数の遺伝子を読み取る次世代シークエンサーの働き
この検査の中心にあるのが、次世代シークエンサーと呼ばれる装置です。膨大な量のDNA配列を高速で読み取り、がんに関わる数十から数百の遺伝子領域を集中的に解析します。
調べられる変化は1種類ではありません。塩基の置換や欠失、コピー数の増減、遺伝子どうしが融合する異常など、複数のタイプを同時に拾い上げます。こうした幅広さが、単一の検査では届かない情報をもたらすわけです。
検査の仕組みや目的をまとめました
がん遺伝子パネル検査の仕組みと目的の解説
ドライバー遺伝子を見つけて治療薬につなげるしくみ
がんは、細胞の増殖をうながす遺伝子に変化が積み重なって進みます。そのなかでも、がんの成長を強く後押しする変化を持つ遺伝子はドライバー遺伝子と呼ばれます。
パネル検査でこうした変化が見つかると、その働きを抑える分子標的薬が候補になることがあります。一人ひとりのがんの設計図を読み解き、合う薬を探すという発想が土台にあります。
一人ひとりに合う治療を選ぶ考え方をチェック
がんゲノム医療と個別化治療の基礎知識
がんを増やす遺伝子の働きについて詳しく見る
がんの増殖を左右するドライバー遺伝子のはなし
がん遺伝子パネル検査の保険適用は誰が対象?条件を整理
すべてのがん患者が同じように受けられるわけではありません。公的医療保険で受けられるのは、主に標準治療を使い切った固形がんの方などに限られています。
保険で受けられる人の主な条件
対象となるのは、標準治療がない固形がん、または標準治療を終えた(終える見込みを含む)固形がんの方が中心です。あわせて、検査後に次の薬物療法へ進める全身状態であることも目安になります。
主治医が、関連学会のガイドラインなどをもとに適応を判断します。当てはまるかどうかは、現在の治療状況や体の状態によって変わってきます。
保険診療で対象になりやすい方
- 標準治療がない固形がんの方
- 標準治療を終えた、または終える見込みの固形がんの方
- 次の薬物療法に進める全身状態の方
- 主治医が適応と判断した方
最終的な可否は一人ひとりで異なるため、まずは担当医に確認するのが近道です。
検査を受けられるのは原則として一度だけ
パネル検査は、一度の解析で幅広い遺伝子を調べられるよう作られています。そのため同じ仕組みの検査を繰り返し受けることは、基本的に想定されていません。
検体の状態や時期によっては、いつ受けるのがよいか悩む方も少なくありません。タイミングの判断は、治療全体の見通しとあわせて主治医と相談するとよいでしょう。
保険で受けられる条件をくわしく知りたい方へ
遺伝子パネル検査が保険で受けられる条件
がん遺伝子パネル検査の費用はいくら?保険適用後の自己負担と高額療養費
保険診療なら、検査の総額はおよそ56万円です。自己負担は加入保険の負担割合で決まり、3割の方でも窓口での支払いは17万円ほどに収まります。高額療養費制度を使えば、さらに軽くなります。
保険診療の総額と窓口で支払う自己負担の目安
パネル検査の保険点数は、検査そのものと結果の説明をあわせて56000点とされています。点数を金額に直すと、総額はおよそ56万円です。
実際に窓口で支払う金額は、加入している保険の負担割合によって変わります。負担割合が大きいほど支払いも増えるため、事前のおおまかな見積もりが安心につながります。
負担割合ごとの自己負担の目安
| 負担割合 | 自己負担の目安 | 補足 |
|---|---|---|
| 1割 | 約5万6000円 | 年齢や所得で異なります |
| 2割 | 約11万2000円 | 同上 |
| 3割 | 約16万8000円 | 同上 |
これらはあくまで検査部分の目安で、診察や画像検査などは別にかかります。
高額療養費制度や医療費控除で負担を抑える方法
1か月の医療費が一定額を超えると、超えた分が払い戻される高額療養費制度があります。年齢や所得で上限額が決まっており、検査費もその対象に含められます。
確定申告での医療費控除も使えます。通院の交通費まで含められる場合があるため、領収書はまとめて保管しておくと役立つでしょう。控除額は所得で変わるので、税務署などに確認すると確実です。
高額療養費など費用を抑える方法の解説を読む
遺伝子パネル検査の費用と高額療養費の使い方
がん遺伝子パネル検査を受けられる病院と検査までの流れ
検査は、どこの病院でも受けられるわけではありません。国が指定したがんゲノム医療の拠点が窓口になり、原則として担当医を通じて申し込みます。
中核拠点病院・拠点病院・連携病院に分かれる指定の仕組み
がんゲノム医療を担う病院は、役割に応じて中核拠点病院、拠点病院、連携病院に分かれています。どこに住んでいても検査につながるよう、全国に配置されている仕組みです。
いま通っている病院がこれらに含まれていなくても、条件に合えば紹介を受けて検査へ進めます。まずは担当医に、対象になりそうか尋ねてみるとよいでしょう。
検査を受けられる病院の探し方をまとめました
がんゲノム医療を受けられる病院の探し方
申し込みから結果説明までの流れと期間
大まかな流れは、申し込みと検体の準備から始まります。採取したがんの組織や血液を解析にかけ、得られた変化を専門家の会議で検討します。
この会議はエキスパートパネルと呼ばれ、複数の専門家が結果の意味を話し合います。検体を出してから説明までは、おおむね4週間から6週間が目安です。
検査を受けるまでのおおまかな流れ
| 段階 | 主な内容 | 目安 |
|---|---|---|
| 申し込み | 担当医と相談して同意 | 数日〜 |
| 検体準備 | 組織や血液を採取・準備 | 数日〜 |
| 解析 | 遺伝子の変化を読み取る | 数週間 |
| 検討と説明 | 専門家会議のあと担当医が説明 | 4〜6週間後 |
待つ時間は長く感じるかもしれませんが、その間に体調を整えておくことも次の一手につながります。
がん遺伝子パネル検査の種類一覧と検査ごとの違い
国内で保険を使って受けられるパネル検査は、1種類ではありません。大きく分けて、がんの組織を使う検査と、血液を使う検査があります。
| 検査名 | 遺伝子数の目安 | 主な検体 |
|---|---|---|
| ファウンデーションワンCDx | 324個 | がんの組織 |
| NCCオンコパネル | 124個 | 組織と血液 |
| ファウンデーションワン リキッドCDx | 324個 | 血液 |
| ガーダント360CDx | 74個 | 血液 |
組織を使う検査と血液を使う検査の違い
組織を使う検査は、手術や生検でとったがんそのものを調べます。情報量が多く、まず候補に挙がるのが一般的です。
一方、血液を使う検査は、血液中を流れるがん由来のDNAを調べます。組織がとりにくいときや体への負担を抑えたいときに役立ちます。それぞれ得意な場面が異なるといえるでしょう。
代表的な検査の特徴とどう選ぶか
検査ごとに、調べられる遺伝子の数や得意分野には差があります。ファウンデーションワンCDxやNCCオンコパネルは組織を使い、幅広い変化を一度に確認できます。
どの検査を使うかは、がんの種類や検体の状態をふまえて医療機関が決めます。自分で選ぶというより、状況に合うものが提案されると考えておくと安心です。
代表的な2つの検査の違いをわかりやすくチェック
FoundationOneとNCCオンコパネルの違い
がん遺伝子パネル検査の結果でわかることと知っておきたい注意点
結果が出ても、すぐ薬につながるとは限りません。治療薬の使用に結びつくのは受けた人の1割から2割ほどで、生まれ持った体質に関わる発見が含まれることもあります。
結果レポートの読み方とエキスパートパネルでの検討
検査の結果は、見つかった遺伝子の変化と、それに関わりうる薬の情報がまとまった報告書として返ってきます。内容は専門的なため、まず専門家の会議で意味づけが行われます。
その検討をふまえ、担当医が一人ひとりに合わせて説明します。難しい用語が出てきたら、遠慮なく問い直すことが理解への近道です。
検査結果のレポートの見方の解説を読む
がん遺伝子パネル検査の結果レポートの読み方
治療に結びつかない可能性と二次的所見の注意点
あらかじめ知っておきたいのは、変化が見つかっても使える薬や試験が国内にないことがある点です。期待だけがふくらまないよう、限界も含めて理解しておくと落ち着いて臨めます。
また検査では、生まれつきの遺伝子の変化(二次的所見)が分かる場合があります。これは血のつながった家族にも関わることがあり、知るかどうかを含めて相談できる窓口が用意されています。
受ける前に知っておきたいこと
- 必ず治療薬が見つかるとは限らない
- 結果が出るまで4〜6週間ほどかかる
- 生まれつきの体質に関わる発見があり得る
- 気になる点は遺伝カウンセリングで相談できる
家族にも関わる二次的所見の情報を詳しく見る
二次的所見と家族への影響について
よくある質問
がん遺伝子パネル検査は何歳まで受けられますか?
年齢による一律の上限はなく、全身の状態や臓器の働きから主治医が判断します。次の薬物療法に進める見込みがあるかどうかが、ひとつの目安になります。
高齢でも条件に合えば検討できますし、若くても体の状態によっては難しいことがあります。気になる場合は、まず担当医に相談してみるとよいでしょう。
がん遺伝子パネル検査の結果はどのくらいで出ますか?
検体を提出してから結果がそろうまで、おおむね4週間から6週間が目安です。そのあと専門家の会議で内容を検討し、担当医から説明があります。
検査の種類や検体の状態によっては、前後することもあります。待つ間に疑問を書き出しておくと、説明のときに役立ちます。
がん遺伝子パネル検査を受ければ必ず治療薬が見つかりますか?
必ず見つかるわけではありません。検査を受けた人のうち、実際に治療薬の使用につながるのは1割から2割ほどと報告されています。
変化が見つかっても、使える薬や試験が国内にない場合もあります。可能性と限界の両方を知っておくと、結果を落ち着いて受けとめやすくなります。
がん遺伝子パネル検査で家族の体質まで分かることはありますか?
まれに、生まれつき持っている遺伝子の変化(二次的所見)が見つかることがあります。これは血のつながった家族にも関わる可能性がある情報です。
知りたいかどうかを含め、遺伝カウンセリングで相談できます。ひとりで抱え込まず、専門の窓口を頼ることが心の負担を軽くしてくれます。
がん遺伝子パネル検査はどんな検体を使いますか?
手術や生検で採取したがんの組織を使うのが基本です。組織が使いにくいときは、血液中を流れるがん由来のDNAを調べる検査もあります。
どちらを使うかは、がんの状態や採取のしやすさをふまえて医療機関が決めます。検体の準備で迷ったら、担当医に確認しておくと安心です。
Reference
Tjota, M. Y., Segal, J. P., & Wang, P. (2024). Clinical utility and benefits of comprehensive genomic profiling in cancer. The Journal of Applied Laboratory Medicine, 9(1), 76–91. https://doi.org/10.1093/jalm/jfad091
Chakravarty, D., & Solit, D. B. (2021). Clinical cancer genomic profiling. Nature Reviews Genetics, 22(8), 483–501. https://doi.org/10.1038/s41576-021-00338-8
Cescon, D. W., Bratman, S. V., Chan, S. M., & Siu, L. L. (2020). Circulating tumor DNA and liquid biopsy in oncology. Nature Cancer, 1(3), 276–290. https://doi.org/10.1038/s43018-020-0043-5
Marabelle, A., Fakih, M., Lopez, J., Shah, M., Shapira-Frommer, R., Nakagawa, K., Chung, H. C., Kindler, H. L., Lopez-Martin, J. A., Miller, W. H., Jr., Italiano, A., Kao, S., Piha-Paul, S. A., Delord, J.-P., McWilliams, R. R., Fabrizio, D. A., Aurora-Garg, D., Xu, L., Jin, F., … Bang, Y.-J. (2020). Association of tumour mutational burden with outcomes in patients with advanced solid tumours treated with pembrolizumab: Prospective biomarker analysis of the multicohort, open-label, phase 2 KEYNOTE-158 study. The Lancet Oncology, 21(10), 1353–1365. https://doi.org/10.1016/S1470-2045(20)30445-9
Sunami, K., Ichikawa, H., Kubo, T., Kato, M., Fujiwara, Y., Shimomura, A., Koyama, T., Kakishima, H., Kitami, M., Matsushita, H., Furukawa, E., Narushima, D., Nagai, M., Taniguchi, H., Motoi, N., Sekine, S., Maeshima, A., Mori, T., Watanabe, R., … Kohno, T. (2019). Feasibility and utility of a panel testing for 114 cancer-associated genes in a clinical setting: A hospital-based study. Cancer Science, 110(4), 1480–1490. https://doi.org/10.1111/cas.13969
Drilon, A., Laetsch, T. W., Kummar, S., DuBois, S. G., Lassen, U. N., Demetri, G. D., Nathenson, M., Doebele, R. C., Farago, A. F., Pappo, A. S., Turpin, B., Dowlati, A., Brose, M. S., Mascarenhas, L., Federman, N., Berlin, J., El-Deiry, W. S., Baik, C., Deeken, J., … Hyman, D. M. (2018). Efficacy of larotrectinib in TRK fusion-positive cancers in adults and children. The New England Journal of Medicine, 378(8), 731–739. https://doi.org/10.1056/NEJMoa1714448
Mosele, F., Remon, J., Mateo, J., Westphalen, C. B., Barlesi, F., Lolkema, M. P., Normanno, N., Scarpa, A., Robson, M., Meric-Bernstam, F., Wagle, N., Stenzinger, A., Bonastre, J., Bayle, A., Michiels, S., Bièche, I., Rouleau, E., Jezdic, S., Douillard, J.-Y., … André, F. (2020). Recommendations for the use of next-generation sequencing (NGS) for patients with metastatic cancers: A report from the ESMO Precision Medicine Working Group. Annals of Oncology, 31(11), 1491–1505. https://doi.org/10.1016/j.annonc.2020.07.014
Kohno, T. (2018). Implementation of “clinical sequencing” in cancer genome medicine in Japan. Cancer Science, 109(3), 507–512. https://doi.org/10.1111/cas.13486
この記事を書いた人Wrote this article
前田 祐助医学博士 / 医師
慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。
【保有資格・所属】
医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医