
遺伝子パネル検査を受けたいと考えたとき、「どの病院で受けられるのか」「どうやって探せばいいのか」と戸惑う方は少なくありません。
この検査は厚生労働省が指定した「がんゲノム医療中核拠点病院」「がんゲノム医療拠点病院」「がんゲノム医療連携病院」のいずれかで受けることになります。全国に約280の対象施設があり、お住まいの地域から通える病院が見つかる可能性は十分あるでしょう。
この記事では、遺伝子パネル検査の対象病院を具体的に探す方法や、病院ごとの役割の違い、検査を受けるための条件、そして費用面のことまで、不安を一つひとつ解消できるよう丁寧に解説していきます。
遺伝子パネル検査を受けられる病院は全国に約280施設ある
遺伝子パネル検査は、厚生労働省が指定した全国約280の医療機関で受けられます。がんゲノム医療中核拠点病院が13施設、がんゲノム医療拠点病院が32施設、がんゲノム医療連携病院が約240施設という内訳です。
遺伝子パネル検査とは何をする検査なのか
遺伝子パネル検査とは、がんの組織や血液を使って、一度に100以上のがん関連遺伝子の変異(遺伝子の変化)を調べる検査です。
次世代シークエンサーという高速解析装置を使うことで、従来は1つずつしか調べられなかった遺伝子を一括で分析できるようになりました。検査の目的は、患者さんのがんにどんな遺伝子変異があるかを明らかにし、その変異に効く可能性のある薬や治療法を見つけることにあります。
臓器別に薬を選ぶ従来のアプローチとは異なり、がんの「遺伝子レベルの特徴」に合わせた治療を模索できるのが大きな特徴です。
なぜ限られた病院でしか検査を受けられないのか
遺伝子パネル検査は、検査結果をもとに「エキスパートパネル」と呼ばれる専門家チームが治療方針を検討します。分子生物学や病理学、遺伝医学などに精通した医師・専門家が集まり、一人ひとりの結果を丁寧に読み解くため、高度な体制を整えた施設でなければ実施できません。
厚生労働省は、こうした体制を備えた医療機関を「がんゲノム医療中核拠点病院」「がんゲノム医療拠点病院」「がんゲノム医療連携病院」として指定しています。質の高い検査と治療提案を全国どこでも受けられるように、国が仕組みを整えているのです。
がんゲノム医療の指定病院数(2025年時点)
| 病院の種類 | 施設数 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 中核拠点病院 | 13 | 研究・臨床試験を主導する中心的存在 |
| 拠点病院 | 32 | 単独でエキスパートパネルを開催できる |
| 連携病院 | 約240 | 中核拠点・拠点病院と連携して検査を提供 |
指定病院は年々増えている
がんゲノム医療の指定病院は、2018年の制度開始以降、段階的に拡充されています。特にがんゲノム医療連携病院は年々追加されており、都市部だけでなく地方の患者さんもアクセスしやすい環境が整いつつあるといえるでしょう。
C-CAT(がんゲノム情報管理センター)への登録患者数も2025年3月末時点で10万例を超え、日本のがんゲノム医療は着実に広がっています。
がんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院それぞれの特徴を押さえよう
遺伝子パネル検査の対象病院には「中核拠点病院」「拠点病院」「連携病院」の3種類があり、それぞれに担っている役割が異なります。どの病院で受けても検査自体は同じですが、治療方針の決定方法や臨床試験へのアクセスのしやすさに違いがあります。
がんゲノム医療中核拠点病院は研究開発の司令塔
中核拠点病院は全国に13施設あり、がんゲノム医療を牽引する役割を担います。自施設でエキスパートパネルを運営するだけでなく、臨床試験や治験を積極的に実施し、新たな治療法の開発にも取り組んでいます。
国立がん研究センターや慶應義塾大学病院などが代表的な施設です。遺伝子変異に対応した治験に参加できる確率が高い点も、中核拠点病院ならではの強みでしょう。
がんゲノム医療拠点病院は地域医療の中核を担う
拠点病院は全国に32施設あり、中核拠点病院と同様に単独でエキスパートパネルを開催できます。お住まいの地域で高度ながんゲノム医療を提供する中心的な施設として機能しており、連携病院からの紹介を受け入れる体制も整っています。
がんゲノム医療連携病院は身近な窓口として機能する
連携病院は約240施設あり、中核拠点病院や拠点病院と連携して遺伝子パネル検査を実施します。検査で得られた結果は、連携先の中核拠点病院または拠点病院のエキスパートパネルで検討されるため、質の面で遜色はありません。
お住まいの近くにある連携病院から検査をスタートすれば、遠方の大病院まで何度も通う負担を軽減できるかもしれません。
3種類の指定病院の比較
| 項目 | 中核拠点病院 | 拠点病院 |
|---|---|---|
| エキスパートパネル | 自施設で開催 | 自施設で開催 |
| 臨床試験・治験 | 多数実施 | 一部実施 |
| 連携病院への支援 | あり | あり |
| 全国の施設数 | 13 | 32 |
自分の住む地域で遺伝子パネル検査の対象病院を見つける手順
遺伝子パネル検査の対象病院は、インターネットで簡単に検索できます。まず担当医に相談するのが一番確実な方法ですが、ご自身でも事前に調べておくと話がスムーズに進むでしょう。
担当医やがん相談支援センターにまず相談する
現在治療を受けている病院の担当医に、「遺伝子パネル検査を受けたい」と伝えることがスタートラインです。担当医が適切な時期や紹介先を判断し、がんゲノム医療の指定病院への橋渡しをしてくれます。
担当医に言い出しにくい場合は、病院内に設置されている「がん相談支援センター」に相談する方法もあります。専門のスタッフが、検査や紹介の手続きについて具体的に案内してくれるでしょう。
国立がん研究センターの検索システムを活用する
国立がん研究センターの「がん情報サービス」では、都道府県別にがんゲノム医療の指定病院を検索できます。検索ページで都道府県を選択し、「がんゲノム医療拠点病院等」にチェックを入れると、該当する医療機関の一覧が表示されます。
病院を探すときに確認したい情報
- 対象施設の種類(中核拠点・拠点・連携)
- 自宅からの通院距離や交通手段
- 現在の担当医からの紹介状が必要かどうか
C-CAT(がんゲノム情報管理センター)の公式サイトも役立つ
C-CATの公式サイトでは、がんゲノム医療の指定病院一覧がPDFで公開されています。中核拠点病院・拠点病院・連携病院のすべてが網羅されているため、お住まいの地域にどの種類の病院があるかを一覧で確認できます。
かかりつけ病院が連携病院かどうかを確認する
現在がん治療を受けている病院が、すでにがんゲノム医療連携病院に指定されている場合もあります。その場合は転院せずに同じ病院で遺伝子パネル検査を申し込めるため、治療の継続性を保ちやすいでしょう。
がん診療連携拠点病院の約6割はすでにがんゲノム医療の指定を受けているといわれており、通い慣れた病院で検査を受けられる可能性は高いといえます。
遺伝子パネル検査の対象になる患者の条件を確認しておこう
遺伝子パネル検査は、すべてのがん患者が無条件に受けられるわけではありません。検査を受けるにはいくつかの条件があり、事前に知っておくことで担当医との相談がスムーズになります。
標準治療が終了した(または終了見込みの)固形がん患者が主な対象
現在の制度では、がん遺伝子パネル検査の対象となるのは、標準治療が終了した固形がん(臓器にできる固形のがん)の患者さんです。「標準治療の終了見込み」の段階でも対象になるケースがあり、完全に治療が尽きてからでなくても相談できます。
加えて、原発不明がん(がんの発生元がわからないがん)や希少がん(患者数が少ないがん)の方も対象になります。
全身状態や臓器機能が一定の基準を満たしていること
検査結果をもとに治療を行うことが前提のため、検査後に薬物治療に耐えられる全身状態と臓器機能が求められます。担当医が患者さんの体調を総合的に判断し、検査の適切な時期を見極めることになるでしょう。
検査は一人につき1回だけ受けられる
遺伝子パネル検査は、1人の患者さんにつき1回のみ受けることができます。そのため、検査のタイミングが非常に大切です。標準治療の途中であっても、将来の治療選択肢を広げるために早めに担当医と相談しておくことをおすすめします。
遺伝子パネル検査の対象条件まとめ
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| がんの種類 | 固形がん(原発不明がん・希少がんを含む) |
| 治療の状況 | 標準治療が終了または終了見込み |
| 全身状態 | 検査後に薬物治療に耐えられる見込みがあること |
| 回数 | 1人につき1回 |
遺伝子パネル検査の費用と経済的な負担を軽くする方法
遺伝子パネル検査の費用は、検査自体に約56万円がかかります。ただし、自己負担額は加入している制度や高額療養費制度の適用によって大きく変わるため、事前に確認しておくと安心です。
遺伝子パネル検査にかかる費用の内訳
遺伝子パネル検査の費用は、検体を提出する段階で約8万円、検査結果の説明時に約48万円の2段階に分かれています。合計で約56万円ですが、これは医療費全体の金額であり、窓口での支払い額はこの金額から自己負担割合に応じた額になります。
高額療養費制度を活用すれば自己負担を抑えられる
高額療養費制度を利用すると、ひと月の医療費が自己負担限度額を超えた場合に、超過分が後から払い戻されます。年齢や所得によって限度額は異なりますが、多くの方にとって実質的な負担は大幅に軽くなるでしょう。
自己負担割合ごとの費用目安
| 自己負担割合 | 窓口支払い額(概算) |
|---|---|
| 3割 | 約16.8万円 |
| 2割 | 約11.2万円 |
| 1割 | 約5.6万円 |
限度額適用認定証を事前に取得しておくと窓口負担が減る
高額療養費制度は原則として後から払い戻しを受ける仕組みですが、事前に「限度額適用認定証」を取得しておけば、窓口での支払い額をあらかじめ自己負担限度額までに抑えられます。加入している健康保険の窓口で手続きが可能です。
経済的な不安がある場合は、病院のがん相談支援センターや医療ソーシャルワーカーに相談すると、使える制度を具体的に案内してもらえます。
遺伝子パネル検査を受ける病院を選ぶとき、ここだけは確認したい
どの指定病院でも検査自体の質に差はありませんが、通いやすさや治療方針の決定体制など、病院選びで確認しておきたいポイントがあります。納得のいく選択をするために、いくつかの視点を押さえておきましょう。
通院のしやすさと主治医との連携体制
遺伝子パネル検査を受ける場合、検体の提出から結果の説明まで複数回の通院が必要です。自宅からの距離や交通手段を考慮して、無理なく通える範囲の病院を選ぶことが大切でしょう。
連携病院であれば現在の主治医のもとで検査を進められる場合もあるため、転院の負担を減らせます。主治医と指定病院の間でスムーズに情報共有がなされる体制かどうかも確認しておきたいポイントです。
エキスパートパネルの運営体制と治験へのアクセス
中核拠点病院や拠点病院では自施設でエキスパートパネルを開催するため、結果が出てから治療方針の提案までの時間が比較的短い傾向にあります。一方、連携病院の場合は連携先の拠点病院でエキスパートパネルが開かれるため、多少時間がかかる場合もあるでしょう。
遺伝子変異に基づく臨床試験や治験に参加したい場合は、中核拠点病院を選ぶことで選択肢が広がります。
遺伝カウンセリング体制が整っているか
遺伝子パネル検査では、がんの治療に関する情報だけでなく、遺伝性のがん(遺伝性腫瘍)に関する情報が見つかる場合もあります。これを「二次的所見」と呼び、血縁者の健康にも関わる情報が含まれることがあります。
そうした結果が出た場合に備え、遺伝カウンセリングの体制が整った病院を選んでおくと安心です。認定遺伝カウンセラーや臨床遺伝専門医が在籍しているかどうかも、病院選びの判断材料になるでしょう。
病院選びで押さえたいポイント
- 自宅からの通院距離と交通アクセス
- エキスパートパネルを自施設で開催しているかどうか
- 臨床試験・治験の実施状況
- 遺伝カウンセリング体制の有無
- 現在の主治医との連携がスムーズにできるか
遺伝子パネル検査の結果が出るまでの流れと期間の目安
遺伝子パネル検査は、申し込みから結果説明まで数週間かかります。検体の提出、解析、エキスパートパネルでの検討という複数の段階を経るため、余裕をもったスケジュールで臨むことが大切です。
検査の申し込みから検体提出まで
まず担当医から遺伝子パネル検査の説明を受け、同意書にサインします。その後、以前の手術や生検で摘出した腫瘍組織が使えるかを確認し、使用可能であればその組織を検査に回します。新たに組織を採取する場合は、生検の日程を調整する必要があるでしょう。
検査の流れと所要期間の目安
| 段階 | 内容 | 期間の目安 |
|---|---|---|
| 説明・同意 | 検査の説明を受け同意書に署名 | 初回受診時 |
| 検体提出 | 腫瘍組織・血液を提出 | 1〜2週間 |
| 解析 | 検査会社で遺伝子を解析 | 3〜4週間 |
| エキスパートパネル | 専門家チームが結果を検討 | 1〜2週間 |
| 結果説明 | 担当医から結果を説明 | 解析完了後 |
エキスパートパネルで治療の方向性が検討される
検査結果が出ると、がんゲノム医療の専門家が集まるエキスパートパネルで結果が検討されます。見つかった遺伝子変異に対して効果が期待できる薬があるか、参加できる臨床試験があるかなどを多角的に評価し、治療の提案が行われます。
すべてのケースで新たな治療につながるわけではなく、遺伝子変異に合う薬が見つかる割合は約10%前後とされています。それでも、がんの遺伝子プロファイルが明らかになること自体が、今後の治療方針を考えるうえで貴重な情報になるでしょう。
結果説明時に確認しておきたいこと
結果説明の場では、見つかった遺伝子変異の内容と、それに基づく治療選択肢が伝えられます。わからないことは遠慮なく質問し、必要であればセカンドオピニオンを求めることも選択肢の一つです。
二次的所見として遺伝性腫瘍に関する情報が見つかった場合は、遺伝カウンセリングを受けるかどうかを改めて相談する機会が設けられます。結果を聞くかどうかは患者さん自身が決められるため、無理に知る必要はありません。
よくある質問
遺伝子パネル検査はどの都道府県でも受けられますか?
がんゲノム医療の指定病院は全国に約280施設あり、すべての都道府県に少なくとも1つ以上の対象施設が設置されています。ただし、お住まいの地域によっては中核拠点病院や拠点病院がなく、連携病院のみの場合もあります。
連携病院であっても検査の質に違いはありませんので、まずはお近くの施設を担当医やがん相談支援センターに確認してみてください。
遺伝子パネル検査を受けるには紹介状が必要ですか?
多くのがんゲノム医療指定病院では、現在治療中の病院からの紹介状が必要です。紹介状には、これまでの治療経過やがんの種類、使用した薬剤の情報などが含まれており、エキスパートパネルでの検討に欠かせない資料となります。
担当医に遺伝子パネル検査を受けたい旨を伝えれば、紹介状の作成から指定病院への予約手配まで対応してもらえるのが一般的です。
遺伝子パネル検査で必ず自分に合う治療薬が見つかりますか?
遺伝子パネル検査を受けたすべての方に、遺伝子変異に合った治療薬が見つかるとは限りません。現状では、検査結果に基づいて実際に治療につながる割合は約10%前後と報告されています。
それでも、がんの遺伝子プロファイルを把握できること自体が大きな意味を持ちます。将来的に新しい薬が開発された場合に役立つ情報になりますし、遺伝性腫瘍の有無を確認できる点でも検査を受ける価値は十分にあるでしょう。
遺伝子パネル検査の結果が出るまでにどのくらいの期間がかかりますか?
遺伝子パネル検査は、検体の提出から結果説明まで通常4〜6週間程度かかります。解析に3〜4週間、エキスパートパネルでの検討に1〜2週間というのが一般的な目安です。
使用する検査キットの種類や医療機関の体制によって多少前後する場合もあります。担当医に事前にスケジュールの見通しを確認しておくと、治療計画を立てやすくなるでしょう。
遺伝子パネル検査で見つかった二次的所見は必ず聞かなければなりませんか?
二次的所見とは、本来の検査目的とは別に見つかる遺伝性腫瘍に関する情報のことです。遺伝子パネル検査では、がんの治療に直接関わる遺伝子変異のほかに、こうした二次的な情報が見つかる場合があります。
二次的所見の結果を聞くかどうかは、患者さんご自身が選べます。結果を聞く場合は遺伝カウンセリングを受けることが推奨されており、血縁者への影響なども含めて専門家に相談できる体制が整っています。無理に聞く必要はないので、ご自身のペースで判断してください。
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この記事を書いた人 Wrote this article
前田 祐助 医学博士 / 医師
慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医