がんで解雇されることはある?労働基準法による守られ方と不当な扱いの相談先

がんで解雇されることはある?労働基準法による守られ方と不当な扱いの相談先

がんと診断されても、解雇が有効かどうかは病名だけで決まるのではなく、病名以外の事情も含めて判断されます。治療の説明を受けた直後に仕事の話まで迫られると、判断する余裕を持てないのも自然です。

会社から「治療に専念しては」と退職届を渡されたら、それが解雇の通知なのか、退職への同意を求められているのかを確かめましょう。返事を急ぐ前に書面を受け取り、働き続けたい意思と会社の説明を分けて残すところから始められます。

この記事では、がんで仕事を失う背景、労働基準法と労働契約法による守られ方、退職前の確認事項、不当な扱いを受けたときの記録と相談先を解説します。

がんの診断後に仕事を失いやすくなる事情

仕事を続けにくくなる背景には、治療による負担と雇用の不安定さが重なっています。診断名だけから退職の必要性を決めず、自分の病状と契約の状態を分けて整理するのが出発点です。

治療が続く時期と仕事内容の負担

治療中に通院や休業が必要になると、従来どおりの業務を続けるのが難しくなる場面があります。体調の変化に加え、欠勤が続いた際に会社からどう扱われるのか分からない状態も、退職を急ぐ背景になり得ます。

仕事への影響を考える際は、病名だけでなく、治療の種類やがんの部位による違いにも目を向ける必要があります。日本の健康保険の請求データで捉えられた、18〜55歳のがん経験者112,964人を含む集団では、がんのない人に比べて失職の起こりやすさを表すハザード比は1.40で、治療の種類やがんの部位によっても違いがありました1)。

ただし、この研究は健康保険の資格喪失を失職として扱っており、解雇と自己都合の退職を区別していません。数字から、自分が解雇される確率を読み取るのは不適切です。

雇用の形によって異なる契約終了への不安

正社員と、契約期間が決まったパートや契約社員では、仕事が終わる場面の確認事項が異なります。期限のある契約では、途中で打ち切られるのか、満了時に更新されないのかによって、相談時に調べる内容も変わります。

日本の雇用されていたがん経験者750人のウェブ調査では、診断後に辞めた人は12.4%で、有期雇用の人では22.2%でした2)。ただ、回答者は調査会社の登録者であり、全国の退職割合をそのまま示す数字ではありません。

契約期間のある人は、満了日と更新についての記載を雇用契約書で確認しましょう。「契約終了」と言われた際には、終了の時期と理由を併せて聞くと、契約書と照らして相談できます。

生活費や心の不調が重なると決断を急ぎやすい

退職を考える際には、体力だけでなく、生活費への不安や心の不調も相談の対象です。乳がんや婦人科のがんと診断された日本の働く女性では、年齢の高さ、低い収入、うつ病の既往が退職と関連したとの報告があります。

この結果は女性の特定のがんを対象とし、退職の理由までは分からないため、対象者の背景と退職の関連を示す範囲にとどまります。自分の状況を整理する際は、仕事を続けたい気持ちと、いま負担に感じている条件を別々に書き出せます。

働く意思があるのに「迷惑をかけるから」という理由で退職へ傾いているなら、その気持ちも含めて相談先に伝えると、会社から何を言われたのかを一緒に整理できます。

がんを理由にした不利な扱いは解雇以外にもある

退職を命じられていなくても、病名だけを理由に仕事や機会を失っているなら相談できます。業務上の必要から行われた調整なのか、働く力への思い込みなのかを、会社の説明と実際の変化から確かめます。

働ける範囲を確かめず仕事から外される

「がんだから仕事は無理」と決められた場合は、担当業務の何が難しいと判断されたのかを尋ねられます。診断前と同じ仕事を続けられるかという問いと、すべての仕事ができないかという問いでは、確かめる範囲が違います。

職場の両立支援を定める厚生労働省の「治療と就業の両立支援指針」では、2026年4月1日から事業主に支援へ取り組む努力義務があるとされ、病気にかかっただけで安易に就業を禁止せず、医師の意見を踏まえて就業の機会を失わせないよう留意する旨が示されています。

会社に説明を求める際は、外された業務とその理由を対応させると、病名だけの判断なのか、具体的な作業への懸念なのかが伝わりやすくなります。

配慮の拒否や繰り返される退職の勧め

必要な配慮を申し出たときに説明なく断られたり、退職を繰り返し勧められたりした経緯も、相談する理由になります。断られた事実だけで違法と決めつけず、何を求め、会社がどのような理由を述べたのかを残しておきましょう。

職場での出来事確かめたい点残す内容
担当業務を外された理由と予定期間変更前後の業務
配慮の申出を断られた拒否の理由申出と回答の文面
退職を勧められた提案か会社の決定か発言と返答の期限

カナダの面接研究では、がん経験者から、働く能力や再発への思い込みを背景とした配慮の拒否や嫌がらせが語られています。ただし、差別の頻度を測った研究ではなく、日本の職場での発生率や違法性を示す根拠にはなりません。

昇進や研修、復職の機会が変わったとき

不利な扱いは、雇用が続いている間にも起こり得ます。米国のがんのある人による差別の申立てでは、昇進や研修、復職をめぐる訴えもあり、退職の有無だけでは職場での困りごとを捉えきれないと分かります。

一方、日本でその対応が不当と判断されるかは、実際の職務や会社が示す理由を踏まえて個別に検討されます。「治療中だから」と説明された場合も、どの条件を満たせば対象に戻れるのか、評価基準は変わったのかを確かめられます。

病気を伝える前後で扱いが変わったなら、時期を並べて記録しましょう。前後の違いは相談材料になりますが、それだけで病気が理由だったと確定するものではないため、説明された言葉も添えて残します。

労働基準法と労働契約法で守られる範囲

解雇が有効かという問題と、会社が予告の手続きを守ったかという問題は分けて確認します。確認する基準は、労働契約法の解雇の基準、労働基準法の解雇制限と解雇予告です。

労働契約法第16条は解雇の理由と相当性を問う

解雇とは、会社が一方的に労働契約を終了させる意思を示す行為です。労働契約法第16条では、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は、権利の濫用として無効とされます。

解雇理由が「がんの治療中」とだけ示された場合には、業務にどのような支障があると判断されたのかを確かめます。確認するのは、会社が挙げた解雇理由、実際に働ける範囲、契約や就業規則の内容です。病名以外にどのような事情が検討されたかを、相談窓口で整理します。

「会社の規則に書いてあるから有効」と説明された場合も、その説明と該当する規定を持って相談できます。個別の有効・無効の判断は、通知だけで即断せず、弁護士などに事実関係を伝えて検討してもらいます。

労働基準法第19条の解雇制限は業務上の病気が対象

労働基準法第19条による病気やけがの療養中の解雇制限は、業務上の負傷・疾病による休業期間と、その後30日間が対象です。業務上とは仕事が原因となった病気やけがを指し、単に働いている間に診断を受けたという意味とは異なります。

仕事と関係のない病気である私傷病には、この解雇制限は当てはまりません。がんのために休職しているという事実だけで、第19条による解雇禁止の対象になると考えるのは誤りです。

ただし、第19条の対象外でも、解雇が無条件に認められるわけではありません。私傷病での休職や解雇は就業規則と労働契約法第16条の基準に照らして検討されるため、休職中という理由で相談を諦める必要はないのです。

解雇予告は原則30日前で、理由の正当性とは分けて確認する

労働基準法第20条では、会社が解雇するときは、原則として少なくとも30日前の予告が必要です。予告をしない場合は、30日分以上の平均賃金に相当する解雇予告手当を支払う仕組みになっています。

法律の規定確認する問題会社に確かめる内容
労働契約法第16条解雇理由と相当性具体的な理由と根拠
労働基準法第19条業務上の傷病による解雇制限休業理由と期間
労働基準法第20条解雇予告の手続き通知日、解雇日、手当

予告や手当の支払いがあっても、解雇理由の妥当性まで認められたとはいえません。手続きの確認には労働基準監督署、解雇の有効性を含む争いには総合労働相談コーナーや弁護士というように、相談内容を分けられます。

会社から予告の扱いに例外があると説明された場合も、自己判断で納得せず、適用される根拠を確かめましょう。通知を受けた日と終了予定日を控えておくと、窓口で具体的に尋ねられます。

退職届を出す前に雇用終了の理由を確かめる

退職を勧められた段階では、会社が解雇を決めたのか、自分の同意を求めているのかの区別が先です。働き続けたいなら、退職届への署名を返事の代わりにせず、会社の意向を言葉と書面で確かめます。

解雇、退職の勧め、契約満了は同じではない

退職勧奨とは、会社が本人に退職を勧める働きかけを指します。解雇の通知とは異なり、勧められたというだけで、その場で退職に同意する義務が生じるわけではありません。

伝えられた内容主な確認点
会社から雇用を終了すると通知解雇の理由と効力が生じる日
自分から辞めるよう勧められた同意を求める提案かどうか
契約を更新しないと言われた満了日、更新の記載、過去の更新

雇止めとは、期間の定めがある契約を満了時に更新しない扱いです。契約の途中の解雇とは検討する内容が異なるため、「次の契約はない」と言われた場合には、契約書とこれまでの更新に関する書面をそろえて相談しましょう。

署名によって自分の意思の伝わり方が変わる

退職届や合意書は、本人が退職を申し出た、あるいは雇用終了に同意したと判断する材料になり得ます。納得していないのに署名すると、後から「本当は続けたかった」と説明する際に、署名に至った経緯も伝える必要が生じます。

たとえば、人事面談で退職届を差し出され、その日の返事を求められたら、まず書面の名称と退職理由欄を確認しましょう。会社側には、働き続ける意思と、書面を持ち帰って確認したい意向を伝えます。そのうえで、受け取った書面を相談窓口へ持参する流れです。

すでに提出した場合も、提出した日時や、退職を迫られた際の発言を記録して弁護士などへ相談できます。撤回できると決めつけず、何に同意した文面なのか、会社へいつ届いたのかも含めて確認します。

職場に残って相談できる余地を確かめる

自分から退職を決める前には、雇用が続いている間に会社と検討できる余地を確かめる価値があります。退職すると元の職場への復帰を前提とした話合いが難しくなり、次の仕事を探す負担も生じ得るためです。

退職後に次の仕事が見つかるとは限りません。日本の乳がん経験者にも、仕事を失った後に次の仕事が見つからなかった人がいます。これは過去のインターネット調査で捉えた状況であり、現在の再就職の見通しを示すものではないため、「辞めてから探せばよい」と簡単には決められない問題です。

休職期限が近いなら、会社がどの規定に基づいて何を決める予定なのかを早めに確認します。辞めるかどうかを検討する材料は、終了予定日、会社が求める条件、現時点の病状に関する意見です。

がんで不当な扱いを受けた経緯を記録に残す

相談相手が会社の対応や雇用条件の変化を把握するためには、病名に加えて、会社がいつ何を伝えたかの記録が役立ちます。説明が必要な点を絞るため、結論への不満と、実際に起きた出来事を分けて残しましょう。

面談の日時と発言を時系列で残す

面談の記録には、日時、出席者、会社の発言、自分の返答を入れます。後から思い出すことに頼らず、記憶が新しいうちに、言葉や前後の状況を書き留めましょう。

「解雇されたと思った」という受け止めと、「来月から来なくてよいと言われた」という発言は分けて書けます。会社が病気を理由にしたか、ほかの理由も挙げたかを残すと、相談先で確認すべき論点がはっきりします。

また、面談後に認識を確認するメールを送った場合は、送信した文面と会社の返信を一緒に保存します。返答がない場合も、確認を求めた経過を説明するため、その事実と送信日時を記録しておきましょう。

通知や契約書は変更前後が分かる形で保管する

相談には、会社から受け取った通知だけでなく、契約内容が分かる資料も役立ちます。勤務条件が変わった場合は、変更前と現在の資料を並べ、どの条件が変わったかを説明しましょう。

手元に残す資料確認に役立つ点
雇用契約書、労働条件通知書契約期間と当初の条件
就業規則の該当部分休職や雇用終了の規定
解雇通知、退職を求める書面会社の意思と予定日
会社へ提出した文書と回答申出が検討された経緯

資料が不足していても相談は可能です。まず手元にある通知を示し、不足する資料のうち何を先に確保すべきかを窓口で尋ねられます。

希望する解決と返答期限も書き添える

相談先と話を進める際は、経緯に加えて、自分が求める対応も伝えましょう。記録の最後に「働き続けたい」「退職を迫る面談をやめてほしい」など、いま希望する状態を具体的に書き添えます。

まだ結論が出ていないなら、退職への同意を決めかねていると伝えてよいのです。体調への配慮を求めたいのか、雇用終了を争いたいのかという希望は、相談相手が適した窓口や確認事項を案内する手掛かりになります。

窓口が確認の順序を判断する材料として、返答を求められた日と雇用終了の予定日も、経緯と一緒に伝えましょう。日付を示せば、急いで相談する理由も相手に伝わります。

相談先は求める解決に合わせて選ぶ

解雇や退職の圧力に困ったら、総合労働相談コーナーで状況を整理できます。手続きの違反を確認したいのか、会社との交渉を依頼したいのかによって、次に利用する窓口が変わります。

総合労働相談コーナーで相談内容を整理する

総合労働相談コーナーは、都道府県労働局や労働基準監督署などに置かれた、労働問題を無料で相談できる窓口です。解雇、退職の勧め、不利な扱いをまとめて伝え、利用できる対応や適した担当窓口を確認しましょう。

最初の相談で違法かどうかを言い切れる状態にしておく必要はなく、会社から言われた内容をそのまま伝えられます。持参した資料を見ながら、何が確定した通知で、何が同意を求める提案なのかを整理します。

産業医という職場の健康管理を担う医師や人事労務担当がいない小さな職場でも、産業保健総合支援センターや地域の総合労働相談コーナーに相談でき、配慮の申出を断られた際も両方が相談先になります。

労働基準監督署には予告や手当の扱いを尋ねる

解雇予告や解雇予告手当など、労働基準法上の手続きに疑問がある場合は、労働基準監督署へ相談し、通知日、いつから来なくてよいと言われたか、どのような支払いの説明があったかを伝えましょう。

一方、解雇の有効性をめぐる争いは、手続きの確認だけでは決着しない場合があります。相談の目的が復職や解雇の撤回であれば、その希望も伝えたうえで、総合労働相談コーナーや弁護士への相談につなげます。

監督署の中に総合労働相談コーナーがある場合でも、相談内容ごとに担当が異なり得ます。受付で「予告の手続きと、解雇そのものの両方を相談したい」と伝えると、用件が明確です。

交渉や法的な対応は弁護士、費用の相談は法テラスへ

解雇の撤回を求めたい、会社との交渉を任せたい、提出した退職届の扱いを確かめたい場合は、労働問題を扱う弁護士に相談できます。依頼する際は、目指す解決に加え、相談料とその後の費用を確認します。

法テラスは、法的な問題の相談先や支援制度を案内する機関です。費用面が心配な場合は、無料法律相談や費用の立替えなどを利用できるか、収入・資産等の条件を含めて問い合わせられます。

会社への返答期限が近いときは、その日付を予約時に伝えましょう。相談の場では雇用契約書や通知を示し、退職に同意する前に確かめるべきことから順に尋ねます。

よくある質問

がんで休職していれば、解雇は必ず禁止されますか?

休職しているという理由だけで、必ず解雇が禁止されるわけではありません。労働基準法第19条の病気やけがに関する解雇制限は、業務上の負傷・疾病による休業が対象です。

私傷病でも、解雇の有効性は労働契約法第16条の基準に照らして検討されます。会社から通知された理由と就業規則を持ち、総合労働相談コーナーなどへ相談できます。

パートでも解雇について相談できますか?

パートで働く人も、総合労働相談コーナーなどで解雇について相談できます。雇用契約書を用意し、契約の途中で終了を告げられたのか、満了時に更新しないと言われたのかを伝えると、確認すべき問題を整理しやすくなります。

退職届をすでに出してしまった場合も相談できますか?

提出後でも相談できます。退職届の写しと提出日時、会社から受けた説明を用意し、退職を望んでいたか、どのような状況で署名したかを弁護士などに伝えます。

撤回や合意の効力については、書面の内容と経緯によって判断が変わります。会社からの通知や返答期限も添え、退職の扱いが確定しているのかを早めに確認しましょう。

解雇予告手当が支払われれば、解雇は有効になりますか?

手当の支払いだけで、解雇の有効性は決まりません。解雇予告の手続きと、会社が示す解雇理由の妥当性は分けて検討されます。

手当の説明と一緒に合意書への署名も求められた場合は、その文面も相談先に示せます。支払いの案内なのか、雇用終了への同意まで含む書面なのかを確かめてから判断するのが大切です。

References

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医