
両立支援コーディネーターは、治療を受けながら働きたい人の相談を受け、主治医と職場の情報をつなぐ調整役です。診察では仕事の話をする時間が足りず、会社には病気をどう説明すればよいか迷う。そんなときに、伝える内容や相談する相手を一緒に整理してくれます。
復職を決めるためだけの窓口ではありません。休職していなくても、働き続けるうえで何に困っているかを話すところから利用できます。
この記事では、両立支援コーディネーターが手伝う内容、相談できる場所、面談で伝えたい情報を解説します。
医師と会社で「働ける」の意味がずれるとき
主治医に仕事の負担が伝わらず、会社に治療上の注意点が伝わらないと、同じ「働ける」という言葉でも受け止め方がずれます。間に入る調整役と、どの情報が足りないかを整理しましょう。
診察室で仕事内容まで伝わっているか
主治医に伝える仕事の情報は、会社名や職種だけでは足りない場合があります。同じ販売職でも、座って接客できる職場と、立ったまま品物を運ぶ職場では、治療中に確かめたい負担が違うためです。
日本の肺がんの患者さん287人を対象とした調査では、42.9%が薬物療法の開始前に仕事の話がなかったと答えています1)。ウェブ調査の回答者に限られる結果ですが、治療の説明を受けるだけで仕事の相談まで済むとは限らない点がうかがえます。
仕事の話が出ていなければ、診察時に「治療を続けながら働くために相談したい」と切り出しましょう。
病名だけでは職場が配慮を決めにくい
会社が仕事の調整を検討するには、病名に加えて、どの作業にどんな支障があるかという情報が必要です。「無理をしない」という説明だけでは、本人と上司の間で任せられる仕事の認識が食い違うおそれがあります。
| 伝えた内容 | まだ確かめたい情報 | 調整役に頼める整理 |
|---|---|---|
| 仕事は続けられる | 実際の作業を踏まえた注意点 | 主治医へ確認する質問 |
| 通院が必要 | 決まっている日程と未定の予定 | 会社に伝える時期と内容 |
| 体が疲れやすい | 負担が強くなる作業や時間帯 | 困る場面を示す説明 |
確定していない治療予定まで言い切る必要はありません。予定が変わり得る点を含めて伝え、決まった情報を誰に届けるか、会社が次に誰に確認するかを決めておきましょう。
本人だけが説明を往復する負担
医師の説明を会社へ伝え、会社からの質問を持って受診する往復は、治療中の負担になり得ます。関係する専門職の受け持ちが曖昧なままだと、患者さん自身が連絡を始め、誰の返答を待っているかまで管理する状況につながります。
病気の説明を繰り返すだけでも疲れるなか、職場への伝え方まで抱えるのはつらいものです。ただ、相談の場で話を整えるところから助けを借りられるので、うまく説明できる状態になるまで待つ必要はありません。
両立支援コーディネーターが手伝う内容
両立支援コーディネーターは、本人の希望を聞き、医療と仕事の情報を整理しながら、関係者のやりとりを支えます。治療の判断や会社の決定を代わりに行う人ではありません。
希望を聞き、相談の順序を整理する
相談の出発点は、本人がどのように働きたいか、何に困っているかです。復職したい気持ちがあっても時期を決められない、治療の予定が読めず会社への返事に迷うといった状態から話せます。
コーディネーターと整理するのは、主治医に確かめる内容と、会社に相談する内容の区別です。最初に共有したいのは、今いちばん困っている場面です。すべての問題を同時に解決しようとせず、返事の期限や次の診察日を踏まえて相談の順序を定めます。
主治医・産業医・会社との違い
主治医は治療と体調から仕事上の注意点を示し、産業医は職場で働く人の健康を支える医師として、治療の情報を実際の業務に照らして検討します。コーディネーターは、それぞれの判断に必要な情報が届くよう調整を支える立場です。
| 相談する相手 | 主に扱う内容 | 本人から伝える情報 |
|---|---|---|
| 両立支援コーディネーター | 相談内容の整理と関係者間の調整 | 希望、困りごと、連絡の状況 |
| 主治医 | 治療の見通しと仕事上の医学的な注意点 | 作業内容と負担を感じる場面 |
| 産業医 | 体調と職場の条件を踏まえた意見 | 主治医の意見と実際の業務 |
| 人事労務担当 | 勤務の扱いや社内での手続き | 希望する配慮と必要な医療情報 |
働き続けるか、復職できるかの最終的な決定は、主治医の意見を基に産業医等の意見を踏まえ、本人と十分に話し合ったうえで事業主が行います。この進め方は、治療を受ける人への職場の対応を示す厚生労働省の「治療と就業の両立支援指針」に沿ったものです。
養成研修を受けた調整役に相談する
両立支援コーディネーターには、治療と仕事の両立を支えるための養成研修が用意されています。厚生労働省は、社内で相談や調整を担う人材の育成を勧め、ウェブで無料の研修を受けられるとしています。
相談先を選ぶときは、肩書だけで判断せず、仕事内容の整理から医師や会社との連絡まで、どこを手伝ってもらえるかを確かめておくと、相談の中身が具体的になります。医療機関に所属する人か社内の人かによって、連絡を取りやすい相手や相談の進め方も変わります。
調整役と一緒に進めると変わること
説明がまとまらず話合いが止まっているなら、調整役と情報を整理し、誰に何を確かめるかを明確にしましょう。相談を受けるだけで復職が決まるわけではなく、治療と職場の条件に応じた対応が必要です。
「無理なく働きたい」を具体的な相談へ
たとえば、通院日の帰宅後に次の勤務予定を見て、翌日の作業をこなせるか不安になったなら、その作業の内容をメモして相談に持参しましょう。「体力が心配」という言葉に、立つ時間や物を運ぶ場面を添えると、医師に尋ねる内容を絞れます。
コーディネーターに頼めるのは、その不安を仕事の条件に結び付けて整理する支援です。医学的に避けるべき作業を確認したいのか、会社に調整できる仕事があるか尋ねたいのかを分ければ、話合いの行き先が定まります。
調整の希望を出す前に、負担を感じる場面を自分の言葉で残しておきましょう。
仕事の相談と体調への支援をつなぐ
仕事について話し合っていても、体調や体力の問題が残っていれば、その面への支援も必要です。相談で見えてきた困りごとを主治医に伝え、治療の状況に合う対応を確かめると、職場での調整だけに負担を集中させずに済みます。
がんの患者さん1,477人を含む15件の試験をまとめた研究では、職業の相談や患者さんへの説明に運動などを組み合わせた支援は、通常のケアより復職を助けると考えられています2)。ただし、研究は高所得国で行われ、乳がんを対象とした試験が中心なので、日本のコーディネーター単独の効果を示す結果ではありません。
相談後も体調の変化を伝え直せる
支援の内容は、治療中か、回復を待っているか、仕事を再開しているかに応じて変わります。初回の相談で伝えた体調を基準にし続けると、その後に増えた負担や、できるようになった作業が話合いに反映されにくくなります。
また、以前は問題のなかった業務でも、治療予定や担当する仕事が変われば相談し直す対象です。次の連絡先が主治医なのか、産業医なのか、人事労務担当なのかをコーディネーターと確認しておくと、変化が起きたときに話を戻せます。
両立支援コーディネーターに会う方法
相談するには、通院先で両立支援を担当する人がいるか尋ねる方法と、地域の産業保健総合支援センターに連絡する方法があります。社内で相談できる人が分かっていれば、会社側から調整の支援につなげる道もあります。
通院先で仕事の相談を申し出る
病院や、がんについて幅広く相談できるがん相談支援センターに、両立支援コーディネーターがいる場合があります。主治医や病院の受付に、治療中の仕事について相談したいと伝え、両立支援を担当する人へのつなぎ方を尋ねてみます。
予約時の確認事項は、相談を受ける人の立場と、会社との連絡の調整まで扱うかどうかです。病院に相談できる人がいても、希望する日に面談できるとは限らないため、会社への返答期限があるなら予約の時点で伝えると話が具体的になります。
産業保健総合支援センターへ本人から連絡する
産業保健総合支援センターは、働く人の健康や治療と仕事の両立を支える都道府県ごとの支援機関で、本人からも相談できます。住んでいる地域や勤務先の都道府県のセンターを調べ、電話やウェブで両立支援の相談方法を確認しましょう。
同センターでは、専門スタッフが相談や事業主と労働者の間の個別調整などを無料で行います。初回の連絡では、がんの治療中である旨と、医師と会社の間でどの話が止まっているかを伝えて、必要な支援を相談します。
| 最初に伝える情報 | 伝え方の例 | 連絡時の確認事項 |
|---|---|---|
| 現在の仕事の状況 | 勤務中、休職中、復職を相談中 | 本人の相談の受け方 |
| 困っているやりとり | 主治医への質問を整理したい | 面談の方法と予約 |
| 会社との連絡状況 | 人事労務担当にはまだ話していない | 会社への連絡を相談する時期 |
社内に調整を頼める人がいるか尋ねる
会社に人事労務担当や産業医がいるなら、両立支援コーディネーターとして相談を受ける人がいるかを尋ねられます。直属の上司に治療の話をしていても、医療機関との情報調整を誰が受け持つかまで決まっているとは限りません。
ただし、社内に専任の人がいると想定して相談を待つ必要はありません。社内で受け持ちを確認できないときは、通院先や産業保健総合支援センターへ、会社との話合いをどう始めるか相談しましょう。
相談では仕事の場面と本人の希望を伝える
初回は、治療の予定、仕事で困る場面、今後の希望を分かる範囲で伝えれば相談を始められます。資料を完璧にそろえるよりも、何が未定で、誰からの返事が必要なのかを共有すると調整につながります。
職種名より実際の作業を説明する
仕事内容は、始業から終業までを思い浮かべ、負担になる作業を中心に説明すると伝わります。事務職なら座っている時間だけでなく、来客への対応で席を外せない場面や、集中して判断を続ける場面も相談の材料です。
| 相談の材料 | メモする内容 | まだ分からないとき |
|---|---|---|
| 治療と受診 | 決まっている受診日、説明された予定 | 次の診察で確認する内容 |
| 作業と体調 | 負担を感じた場面、続けられている作業 | 困りそうだと感じる理由 |
| 働く希望 | 続けたい仕事、心配している点 | まだ決められず迷っている点 |
| 連絡の状況 | 既に話した相手、返答を求められた日 | 会社で相談する相手が不明な旨 |
また、作業のつらさだけでなく、支障なく続けられている仕事も一緒に伝えると、任せる範囲を決めやすくなります。
未定の予定や迷いもそのまま話せる
治療の予定が定まっていないときは、分かっている範囲と未定の範囲を分けて相談しましょう。会社への返答を急ぐあまり、確認できていない復職日や作業の可否を自分だけで決めると、後から説明を修正する負担が増えます。
まず整理したいのは、次の話合いまでに答えが必要な問いです。「今の作業を続けられるか主治医に聞きたい」「会社が何の情報を求めているか分からない」など、判断に迷っている点そのものをコーディネーターに伝えられます。
会社へ連絡する前に共有の範囲を確認する
相談で話す内容と、会社へ共有する内容は、コーディネーターとの間で区別しておくと安心です。病状についての不安まで相談したときも、その話を誰に伝える予定なのか、会社への連絡を始める前に確かめられます。
確認したいのは、連絡する相手、伝える内容、連絡する時期です。診療の情報を広く知らせるのが心配なら、その気持ちを先に共有し、仕事の調整に必要な説明をどうまとめるか相談しましょう。
会社に相談の体制がなくても頼れる支援
会社に産業医や人事労務担当がいなくても、医療と仕事の調整を相談する道はあります。社内で解決しようとして話が進まないときは、外部の支援を使って、誰とどんな話合いをするかを整理しましょう。
小さな職場では社外の調整支援も使う
人事労務担当や産業医がいない小さな職場で働く人は、都道府県の産業保健総合支援センターへ本人から連絡し、地域で受けられる調整の支援を相談できます。
小さな職場では社内の医師にすぐ相談できない場合があるため、診断を受けた時点から主治医に仕事の話を伝えておくと、医療側でも困りごとを把握できます。会社に伝える相手が経営者や直属の上司であれば、その相手との話合いをどう進めたいかまでコーディネーターに説明すると、相談が具体的に進みます。
パート勤務でも働く希望から相談できる
治療と仕事の両立支援は、正社員だけを対象とするものではなく、パート勤務の人も希望を伝えて相談できます。支援の対象は雇用形態を問いませんが、実際に利用できる社内制度は、勤め先の就業規則を見るか人事労務担当に尋ねて確かめます。
自営業の人も、通院先で仕事の悩みを相談するところから始められます。ただし、雇用されている人と事業主の間を調整する支援はそのまま使えるとは限らないため、相談先で対象と支援できる範囲を確かめておきます。
配慮を断られたら理由を整理して相談する
希望する配慮を断られたときは、会社が何を難しいと説明したのかを整理し、産業保健総合支援センターへ相談しましょう。医療情報が足りないのか、仕事の条件に問題があるのかで、次に確かめる内容が変わるためです。
一方、会社の対応をめぐる労働問題として相談したい場合は、都道府県労働局の総合労働相談コーナーが相談先になります。相談時に経緯を説明するため、会社へ伝えた希望と返答された内容を分け、いつ、誰と、何を話したかを記録しておきましょう。
よくある質問
休職していなくても相談できますか?
勤務を続けている間も相談できます。通院と仕事の予定が重なり始めたときや、主治医の説明を会社にどう伝えるか迷うときは、その困りごとから両立支援コーディネーターに話せます。
会社に病気を話す前に相談できますか?
会社へどう話すかを整理する相談から始められます。通院先で両立支援を担当する人や産業保健総合支援センターに、会社にはまだ伝えていない旨を話せます。
会社との調整に進む前の確認事項は、誰に何を伝えるかです。相談だけを希望している段階なのか、会社への連絡も希望する段階なのかを伝え、コーディネーターと意向を共有しましょう。
コーディネーターに相談すれば復職できますか?
相談によって復職が保証されるわけではありません。体調と仕事の条件を踏まえ、主治医の意見や産業医等の意見を基に本人と会社が話し合う必要があります。
話合いが進まないなら、判断に必要な情報のうち何が足りないかをコーディネーターと整理しましょう。医師の返答待ちなのか、会社が業務を検討中なのかを確かめ、次に連絡する相手を明確にします。
相談に費用はかかりますか?
産業保健総合支援センターの両立支援の相談や個別調整は無料です。ほかの場所で受ける相談や書類の作成については、予約時に費用の有無と、どこまでが相談に含まれるかを確認すると安心です。
治療予定も復職の希望日も未定ですが、何を持っていけばよいですか?
分かっている受診予定と、仕事で困っている場面を書いたメモから準備できます。初回相談のためだけに希望日を決めたり、未確認の見通しを埋めたりする必要はありません。
予約時に両立支援コーディネーターへ必要な書類を尋ね、会社から返答を求められているなら、その期限も伝えましょう。治療の見通しが未定である旨も共有すれば、主治医へ確認する内容を一緒に整理できます。
References
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この記事を書いた人 Wrote this article
前田 祐助 医学博士 / 医師
慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医