放射線皮膚炎のスキンケア|治療中の赤み・かゆみを防ぐための正しいケア方法

放射線皮膚炎のスキンケア|治療中の赤み・かゆみを防ぐための正しいケア方法

放射線治療を受けている方の多くが、照射部位の赤みやかゆみ、乾燥といった肌トラブルに悩まされています。これらの症状は「放射線皮膚炎」と呼ばれ、治療を受ける方の85〜95%に生じるとされています。

症状が軽いうちから正しいスキンケアを続けることで、つらい悪化を防げる可能性が高まります。この記事では、日常の洗い方や保湿ケアから、赤みやかゆみへの対処法、医師に相談すべきサインまで、放射線皮膚炎のケアに必要な情報をまとめました。

治療と並行して肌を守るための知識を身につけ、少しでも快適に過ごしていただければ幸いです。

放射線皮膚炎は放射線治療を受ける方の約95%に起こる

放射線皮膚炎(ほうしゃせん ひふえん)とは、放射線治療によって照射部位の皮膚に炎症が生じる状態を指します。軽い赤み程度で済む方もいれば、強い痛みを伴うほどの皮膚トラブルに進行する方もおり、個人差があります。

放射線が皮膚に与えるダメージはどのように起きるのか

放射線はがん細胞を破壊する一方で、照射範囲にある正常な皮膚細胞にも影響を及ぼします。皮膚の表面にある表皮の細胞分裂が妨げられ、新しい細胞の生成と古い細胞の脱落のバランスが崩れてしまうのです。

さらに、炎症反応としてヒスタミンやセロトニンが放出され、真皮層の毛細血管が拡張して赤みや熱感が生じます。こうした変化は照射開始から1〜4週間のあいだに現れ、治療終了後も2〜4週間ほど続く場合があります。

放射線皮膚炎の症状には段階がある

放射線皮膚炎のグレード分類

グレード主な症状外見上の特徴
グレード1軽度の赤み、わずかなかゆみうっすらとした紅斑
グレード2中程度の赤み、痛み、乾燥乾性落屑(皮がめくれる)
グレード3強い痛み、浸出液湿性落屑(じくじくする)
グレード4壊死・潰瘍皮膚の深部まで損傷

肌質や治療部位によってリスクが変わる

皮膚が薄い首や胸、脇の下などは放射線皮膚炎が起きやすい部位です。肥満の方や糖尿病を合併している方、抗がん剤との併用治療を受けている方は、症状が重くなりやすい傾向があります。

また、もともと肌が敏感な方や、日焼けしやすい肌質の方も注意が必要でしょう。治療開始前に主治医や看護師に自分の肌質について伝えておくと、適切な予防策を一緒に考えてもらえます。

放射線治療中のスキンケアが症状の悪化を左右する

放射線皮膚炎の多くは、日常的なスキンケアの工夫によって悪化を防ぐことが可能です。治療中の肌はバリア機能が低下しているため、普段以上にやさしいケアが求められます。

治療初日からケアを始めるべき理由

放射線皮膚炎は、症状が目に見える前から皮膚の内部で変化が進んでいます。赤みが出てから慌ててケアを始めるよりも、照射初日から予防的に保湿を行ったほうが、のちの重症化を抑えやすいことが報告されています。

「まだ何ともないから大丈夫」と思わずに、治療スタートと同時にケアの習慣を取り入れてみてください。

自己判断で市販薬を塗るのは避けたい

照射部位に市販のクリームや軟膏を自己判断で塗ることは、思わぬトラブルを招く場合があります。製品に含まれる成分が皮膚への放射線の吸収に影響を与える可能性も指摘されており、使用前に必ず担当医に確認をとりましょう。

特に金属成分(亜鉛やアルミニウムなど)を含む制汗剤やデオドラントについては、以前は使用禁止とされていた施設が多かったものの、近年の研究では皮膚反応を悪化させないという報告もあります。施設ごとに方針が異なるため、主治医の指示に従ってください。

照射部位を物理的な刺激から守ることが大切

照射部位の皮膚は、衣類との摩擦や強い日差し、極端な温度変化にも敏感になっています。締め付けの強い下着や合成繊維の服は避け、綿素材のゆったりした衣類を選ぶとよいでしょう。

入浴時に照射部位をゴシゴシこすることも厳禁です。やさしく押さえるように洗い、タオルで水分を拭くときもそっと押し当てるようにします。

照射部位を守るための生活習慣

場面避けるべき行動推奨される対応
入浴熱いお湯、ナイロンタオルぬるま湯、手で洗う
着衣化繊、締め付け下着綿素材のゆったりした服
外出直射日光に長時間当たる日傘、帽子で遮光
就寝硬い素材のシーツ柔らかい綿のシーツ

放射線皮膚炎を悪化させない毎日の洗い方と保湿の基本

日常のスキンケアで柱になるのは「やさしく洗う」「しっかり保湿する」の2つです。特別な道具は必要なく、シンプルなケアを丁寧に続けることが症状コントロールにつながります。

ぬるま湯と低刺激の石けんで洗う

照射部位を洗う際は、36〜38℃程度のぬるま湯を使いましょう。熱いお湯は皮膚の乾燥を助長し、炎症を悪化させる原因になります。石けんは無香料・低刺激タイプを選び、しっかり泡立ててからやさしく肌にのせるようにします。

すすぎ残しがあると刺激になるため、泡が残らないよう丁寧に流してください。洗った後はタオルを肌に押し当てるように水分を取り、決してこすらないようにしましょう。

保湿は照射の前後で塗るタイミングに注意する

保湿剤を塗るタイミングについては、施設によって指示が異なります。一般的には、照射の直前にクリームやローションが皮膚表面に残っていると照射に影響するという考え方があるため、照射の2〜4時間前までに塗るか、照射後に塗るよう指導されることが多いでしょう。

保湿は1日に2〜3回が目安で、入浴後の肌が柔らかいタイミングは特に効果的です。指の腹を使ってやさしく広げ、すりこまないように注意してください。

保湿ケアのタイミングと方法

タイミングケアの方法注意点
朝(照射前)薄く保湿剤を塗布照射2〜4時間前に塗る
照射直後肌の状態を確認して保湿皮膚が湿っている場合は乾かしてから
入浴後タオルドライ後すぐに保湿こすらず押し当てるように塗る
就寝前乾燥が気になる場合は追加厚塗りしすぎない

マーキング(照射位置の印)を消さないよう気をつける

放射線治療では、照射位置を正確に合わせるために皮膚にマーキングが施されています。洗う際やクリームを塗る際にこの印を消してしまうと、再度マーキングのために来院する手間が増えることになりかねません。

マーキング周辺は特にそっと扱い、強くこすらないように意識しましょう。どうしても薄くなってきた場合は、自分で描き直さずに担当スタッフに相談してください。

赤み・ヒリヒリ感が出たら試したい自宅でのセルフケア

照射を重ねるうちに赤みやヒリヒリとした灼熱感が出てきたら、悪化を食い止めるために早めのセルフケアが効果を発揮します。担当医の指示を守りつつ、自分でできるケアを取り入れましょう。

冷却は「冷やしすぎない」のが原則

赤みやほてりが強いとき、冷たいタオルを当てると一時的に楽になることがあります。ただし、氷を直接当てたり、保冷剤を長時間押し当てたりするのは皮膚をさらに傷める原因になるため避けてください。

清潔な柔らかいタオルを水で軽く湿らせて、そっと照射部位に当てる程度にとどめましょう。

赤みが強いときに担当医から処方されやすい外用薬

グレード2以上の赤みや乾性落屑が見られる場合、ステロイド外用薬が処方されることがあります。モメタゾンフランカルボン酸エステルやベタメタゾンなどの中〜強力なステロイド外用薬は、炎症を抑えて症状の悪化を防ぐ効果が複数の研究で示されています。

ステロイドと聞くと抵抗を感じる方もいるかもしれませんが、医師が適切な強さと使用期間を判断して処方するため、指示どおりに使用すれば副作用のリスクは低く抑えられます。自己判断で使用を中断せず、気になる点があれば遠慮なく相談してください。

衣類や寝具で摩擦を減らす工夫

赤みのある部分に衣類が触れると、摩擦で症状が悪化しやすくなります。通気性のよい綿100%の肌着を選び、縫い目が肌に当たらないよう裏返して着る方法も有効です。

就寝時には柔らかいガーゼやシリコン製のドレッシング材で照射部位を軽くカバーすると、シーツとの擦れから皮膚を守れるでしょう。担当の看護師にどのような被覆材が適しているか聞いてみるのもよい方法です。

  • 綿100%の肌着を選び、縫い目は肌に触れない向きで着用する
  • ガーゼやシリコンドレッシングで照射部位をやさしくカバーする
  • ブラジャーのワイヤーが当たる部位はスポーツブラやノンワイヤータイプに替える
  • 寝返りで擦れやすい場合はクッションや枕で体勢を調整する

放射線治療中のかゆみを和らげるために今日からできること

照射部位のかゆみは、皮膚の乾燥と炎症反応の両方が原因となって生じます。掻いてしまうと傷がつき感染リスクが高まるため、「掻かずにケアする」方法を身につけておくと安心です。

かゆみの原因は皮膚のバリア機能の低下にある

放射線によって表皮の水分保持力が落ち、皮膚のバリア機能が弱まると、外部からのわずかな刺激にも敏感に反応するようになります。乾燥が進むほどかゆみは強くなるため、保湿を徹底することがかゆみ対策の基本です。

また、炎症に伴って放出されるヒスタミンもかゆみを引き起こします。かゆみが我慢できないほど強い場合は、抗ヒスタミン薬の内服が有効な場合もありますので、担当医に相談してみてください。

保湿でかゆみの悪循環を断ち切る

かゆみ対策における保湿剤の特徴比較

保湿剤のタイプ特徴向いている場面
クリームタイプ油分と水分のバランスがよい乾燥がやや強い時期
ローションタイプべたつきが少なく塗りやすい広範囲の照射部位
軟膏タイプ保護力が高いが重い使用感皮膚の荒れが進んだ時期

掻かないための具体的な対策

無意識のうちに掻いてしまうことを防ぐには、爪を短く整えておくことが大切です。就寝中に掻いてしまう方は、柔らかい綿の手袋をして眠るという方法もあります。

かゆみが強い瞬間に気を紛らわせるために、照射部位から離れた場所を軽く押す、深呼吸をするといった方法も試してみてください。ただし、これらはあくまで応急的な対処であり、かゆみが持続する場合は薬物療法について医師に相談するのが望ましいでしょう。

放射線皮膚炎ケアに適した保湿剤・外用薬はどう選ぶべきか

保湿剤や外用薬は、自己判断ではなく担当医の指導のもとで選ぶことが原則です。市販品を使う場合も、成分や使用タイミングについて事前に確認を取りましょう。

担当医に推奨されることの多い保湿剤

医療機関で放射線皮膚炎のケア用として紹介されることが多いのは、ワセリンやアクアフォアなどの皮膚保護剤、ヘパリン類似物質を含むクリームなどです。いずれも香料や着色料を含まず、刺激が少ない点が共通しています。

ヒアルロン酸配合のクリームやジェルも、肌への刺激が少なく使いやすいとされていますが、効果に関する研究結果はまちまちです。主治医と相談しながら、自分の肌に合うものを見つけていくのがよいでしょう。

ステロイド外用薬は怖いもの?

「ステロイド」と聞くと不安を覚える方もいますが、放射線皮膚炎に対するステロイド外用薬の予防的使用は、複数のランダム化比較試験で有効性と安全性が示されています。特に中程度の強さのステロイド外用薬を照射期間中に塗布することで、グレード2以上への悪化を抑えられたという報告があります。

副作用が心配な場合は、どの程度の期間使うのか、どのタイミングで塗るのかを医師に確認し、納得した上で使い始めると安心です。

使用を避けたほうがよい成分や製品

アルコール成分を含む化粧水やローションは、照射部位への使用を避けるべきです。清涼感のあるメントール配合の製品も、炎症を起こしている皮膚にはかえって刺激となります。

香料・着色料が添加されたスキンケア製品や、ピーリング効果のある成分(AHA・BHAなど)を含む製品も、照射中は使わないようにしましょう。

  • アルコール含有のローションや化粧水
  • メントール・カンフル配合の清涼系クリーム
  • AHA・BHA配合のピーリング製品
  • 強い香料や着色料を含むボディクリーム

皮膚の異変を見逃さない|医師に相談すべきタイミング

放射線皮膚炎の多くはセルフケアで対応できますが、症状が急に悪化したり、通常とは異なる変化が見られたりした場合は、すみやかに医師の診察を受ける必要があります。

「いつもと違う」と感じたら受診のサイン

受診を検討すべき皮膚の変化

症状考えられる状態対応
水ぶくれ、びらん湿性落屑への進行すみやかに受診
黄色い浸出液、悪臭細菌感染の疑い早急に受診
38℃以上の発熱感染による全身症状当日中に受診
痛みで眠れない重度の炎症鎮痛処置の相談

感染の兆候には特に注意が必要

放射線で傷ついた皮膚は、細菌が侵入しやすい状態になっています。照射部位に膿がたまったような黄色い液体が出てきたり、周囲の皮膚が異常に腫れたりした場合は、感染が起きている可能性があります。

感染が広がると全身の発熱や倦怠感につながることもあるため、早めに医療機関を受診してください。自宅での手当てだけで済ませようとせず、専門家に判断を仰ぐことが大切です。

治療終了後もケアを続ける

放射線治療が終了した後も、皮膚の回復には数週間から数か月かかります。照射終了後すぐにケアをやめてしまうと、回復途中の皮膚が再び乾燥してトラブルを起こすことがあるでしょう。

担当医や看護師から「もう大丈夫」と言われるまでは、保湿ケアと紫外線対策を継続してください。照射部位の皮膚は長期間にわたって紫外線に対する感受性が高まるため、日焼け止めの使用も含めたケアが求められます。

よくある質問

放射線皮膚炎のケアはいつから始めれば間に合いますか?

放射線皮膚炎のケアは、放射線治療の初日から始めることが望ましいとされています。皮膚に目立った変化が出る前の段階でも、照射によるダメージは内部で進行しています。

早い時期から保湿を習慣づけておくことで、症状が目に見えて現れたときの重症度を軽減できる可能性が高まります。「まだ何ともない」と感じている時期にこそ、予防的なケアが力を発揮します。

放射線皮膚炎のかゆみは市販の保湿クリームで抑えられますか?

市販の保湿クリームでも、無香料・低刺激のものであれば乾燥によるかゆみをある程度和らげることが期待できます。ただし、照射部位に使用してよい製品かどうかは、必ず事前に担当医へ確認してください。

かゆみが強い場合は、保湿だけでは十分にコントロールできないことがあります。そうした場合、抗ヒスタミン薬の内服やステロイド外用薬の処方について医師と相談するとよいでしょう。

放射線皮膚炎がある部位にお風呂で石けんを使っても大丈夫ですか?

放射線皮膚炎のある部位でも、無香料・低刺激の石けんを使って洗うことは問題ないとされています。ぬるま湯でやさしく泡洗いし、すすぎを十分に行ってください。

以前は「照射部位を洗ってはいけない」と指導されることもありましたが、近年のガイドラインでは、適度な清潔保持が感染予防につながるとして洗浄が推奨されています。ゴシゴシこするのではなく、そっと押さえるように洗うことが大切です。

放射線皮膚炎にステロイド外用薬を使うと副作用が心配なのですが?

放射線皮膚炎に対してステロイド外用薬を短期間・限定的に使用する場合、副作用のリスクは低いとされています。複数の臨床試験で、照射期間中のステロイド外用薬の使用が安全かつ有効であることが報告されています。

「ステロイド=怖い薬」というイメージをお持ちの方は少なくありませんが、医師が肌の状態を見ながら適切な強さと使用期間を決定しています。不安がある場合は、遠慮せずに担当医へ相談してみてください。

放射線治療が終わった後も皮膚のケアを続ける必要がありますか?

放射線治療が終了した後も、皮膚が完全に回復するまでには数週間から数か月を要します。治療終了直後にケアを中断すると、回復途中の皮膚が再び乾燥や炎症を起こすことがあります。

特に照射部位は紫外線に対する感受性が長期間にわたって高まるため、日焼け止めの使用や遮光の習慣は継続が必要です。いつまでケアを続けるべきかは個人差がありますので、担当医の判断を仰いでください。

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医