
がんの病院ランキングは、順位より先に「何を、どの患者さんについて数えた数字か」を確かめると、病院選びの材料になります。手術数は経験の積み重ねを、生存率は一定の条件で集めた患者さんの経過を示すもので、自分の治療結果をそのまま予測する数字とは違います。
診断のあと、いまの病院より順位の高い病院を見つけて、選び直すべきか迷う方もいるかもしれません。順位の差が自分と同じがんや治療についての差なのかを分けて読むと、主治医に確かめたい点が見えてきます。
この記事では、手術数と生存率の意味、比較するときにそろえる条件、ランキングの数字を診察での質問に変える方法を解説します。
がんの病院ランキングは集計条件から読む
順位は、集計する項目や対象の病院によって変わります。病院名を見比べる前に、まず数字の出典と並べ方を確かめます。
手術数順と総合評価では比べている内容が違う
手術数順の一覧は、決められた期間に数えた手術の件数を並べたものです。生存率順なら治療後などの経過を、総合評価なら複数の項目を組み合わせた点数を比べており、同じ「ランキング」でも答えている問いが違います。
また、総合評価には専門家の評判など、主観的な項目が含まれることもあります。評判への配点が大きければ順位への影響も大きくなるため、点数の内訳が見えないまま治療成績の順位と受け取るのは不適切です。
集計した組織と元のデータをたどる
掲載した媒体と、数字を集めた組織は分けて確認しましょう。公表データの転載なのか、病院への独自調査なのかによって、掲載される施設や回答の条件が変わります。
| 確認する場所 | 読み取る内容 | 判断で気をつける点 |
|---|---|---|
| 出典・調査方法 | 登録データか独自調査か | 集計対象の範囲 |
| 対象施設の説明 | どの病院を含むか | 未掲載と低評価の区別 |
| 評価項目・配点 | 件数か成績か評判か | 順位が表す内容 |
たとえば、回答した病院だけを並べた一覧では、載っていない病院の成績は不明です。地域や施設の種類を限定した集計なら、その範囲の中での順位として読みます。
更新日よりも診療を受けた年を見る
ページが最近更新されていても、掲載された成績は過去に診療を受けた患者さんの数字です。件数の対象年や、生存率の対象となる診断年を読むと、いつの診療について比較しているかが分かります。
手術数が単年の合計か複数年の合計かも確認点です。期間の長い集計ほど件数は増えるので、集計期間が異なる数字をそのまま並べると、診療の規模を取り違えてしまいます。
手術数が多い病院で期待できること
同じ手術を多く扱う病院の経験は、治療先を調べる際の判断材料になります。手術数と成績の関係は手術の種類によって変わるため、多さだけで安全性を決める読み方は避けたいところです。
胃がん手術では集約後に死亡が減った報告がある
胃がん手術を受けた7,204人を対象に、オランダで手術を経験の多い病院へ集める前後を比べた観察研究では、集約後に術後の死亡が減ったという報告があります1)。
ただし、この比較には同じ時期に起きた診療の変化も含まれ、手術数が増えた効果だけを切り分けることは困難です。日本の個々の病院や、別のがんの手術にも同じ程度の差が生じると読み替えることはできません。
死亡と合併症を同じ成績として扱わない
手術後の死亡が少ないことと、合併症が少ないことは区別して読みます。合併症とは、出血や感染など治療に伴って起こる問題で、死亡率だけを示した資料から、その起こりやすさまで判断するのは無理があります。
| 示された数字 | 分かる内容 | 追加で確かめる内容 |
|---|---|---|
| 手術数 | 対象期間の実施件数 | 自分が受ける手術の件数か |
| 術後死亡率 | 定めた期間内の死亡の割合 | 退院後も含むか |
| 合併症率 | 定義された問題の発生割合 | 重さや対象とする問題 |
さらに、入院中の死亡だけを数えるか、退院後も含めて追うかで死亡率の意味が変わります。比較したい数字の名前が同じでも、いつまで、何を数えたかという定義まで確かめてから比べます。
全がん共通の「多い件数」は決められない
手術数に、すべてのがんへ共通して使える合格ラインはありません。がんの種類や手術の内容によって実施される件数が違うため、一律の数字を超えた病院だけを残す選び方には根拠が不足します。
胃がん以外の手術を検討している場合も、同じがんの同じ手術に限った実施状況を確認すると、経験の比較に役立ちます。件数と成績の関係を示す根拠が分からない段階では、「多いから安全」と結論づけず、成績の公表内容も合わせて読む扱いが適切です。
がんの種類と治療内容で件数の意味が変わる
自分が受ける治療と集計された治療が重なっているかが、件数を読む際の確認点です。病院全体の大きな数字から、自分に関係する範囲へ絞って読みます。
病院全体の件数より同じ手術の内訳
消化器の手術全体の件数には、胃以外の臓器の手術や、がん以外の病気への手術が含まれ得ます。胃がんの手術を予定しているなら、胃がんについての内訳があるか、さらに予定する手術の範囲が分かるかが確認点です。
表の名称だけでは対象が判別できないときは、注記にある病名や手術の定義を読みます。内訳が公表されていない部分は不明のまま残し、病院全体の件数を自分の手術の件数とは扱いません。
件数の順位と成績の順位は一致するとは限らない
ドイツで5種類のがんの難しい手術を受けた158,079人を解析した研究では、手術数が多いことと、患者さんの背景をそろえた死亡率が良いことは必ずしも一致しないと報告されています2)。
手術数を調べる意味は、経験の規模を把握する点にあります。死亡率は決められた条件で数えた結果を表すため、両方を確認しても一致しない部分が残る、という読み方が適切です。
手術以外の治療を受ける人は対象から外れていないか
薬物療法という薬を使う治療や、放射線を当てる放射線治療を受ける患者さんの経過は、手術数の一覧の対象外です。がんの種類が同じでも、手術を受ける人だけを数えた実績から、手術を受けない人の治療を評価することは困難です。
生存率も、「診断された人全体」か「手術を受けた人」かで集計対象が違います。予定する治療が手術ではない場合は、手術件数の順位で候補を絞るより、自分に提案されている治療を受けた人が成績の対象に含まれるかを確認しましょう。
5年生存率が表している範囲
5年生存率は、起点から5年後の生存を一定の方法で数えた集団の数字です。自分に残された時間や、治療でがんがなくなる確率を直接示す数字ではありません。
生きている割合と再発していない割合を分ける
生存率を読む際は、最初に「何を起点にした5年か」を確認します。診断を起点とする数字と手術を起点とする数字では対象期間がずれ、同じ患者さんを数えていても意味が変わります。
再発とは、治療後にがんが再び確認されることです。生存率には再発後に治療を続けている人も含まれ得るため、再発していない割合と置き換えることは不適切であり、5年という区切りを一人ひとりの余命と読むのも誤りです。
ほかの死因をどう扱った数字かを読む
がん以外の病気による死亡を含むかどうかで、生存率の数え方は変わります。名称を省いた「生存率」だけの表示では区別がつかないため、計算方法についての説明まで確かめます。
| 生存率の表記 | 数え方の概要 | 比較前の注意 |
|---|---|---|
| 実測生存率 | 死因を問わず生存を数える | 持病などの影響も含む |
| 純生存率 | ほかの死因の影響を除くよう推定する | 推定に用いた方法を確認 |
| 計算方法の記載なし | 数え方を特定できない | 異なる資料との比較を保留 |
純生存率の「純」は、治療の効果だけを取り出したという意味ではありません。がん以外の死因の影響を調整しても、がんの進み具合や治療を受ける患者さんの違いは、別に確かめる必要があります。
追跡して得る数字には時間の隔たりがある
長期の生存率を把握するには、診断後の経過を追う時間が必要です。掲載日が新しくても対象の診断年は以前のことがあるため、その間の治療内容の変化まで反映した数字とは限りません。
また、追跡とは対象となった患者さんの生死などを継続して確認する作業です。追跡できた割合や確認方法が違う資料は、見かけの数値だけを比べず、データをどのように集めたかも合わせて読みます。
がんの進み具合や年齢で成績は動く
生存率の低さには、重い状態の患者さんを多く診ている影響が含まれ得ます。数値の差を病院で受けた治療の差と解釈する前に、どのような人が集計されているかを確かめます。
早い段階と進んだ段階を混ぜると比較がずれる
病期は、がんが体の中でどこまで広がっているかを分類したもので、「ステージ」とも呼ばれます。早い段階の患者さんが多い病院と、広がった状態の患者さんが多い病院では、同じがんでも全体の生存率に違いが出ます。
そのため、がんの種類だけをそろえた数字より、同じ病期に分けた数字のほうが自分の状態に近づきます。全体の生存率が低くても病期別では違う見え方をする可能性があり、全体の順位だけで治療の質を判断するのは早計です。
持病や体力も病院ごとにそろっていない
オランダの51病院で肺がん手術を受けた8,040人を調べた研究では、年齢や持病、体力、がんの広がりといった患者さんの背景が病院ごとに違い、それをそろえずに手術成績を比べると誤解が生じることが示されています3)。
これは手術後の短期成績についての報告で、長期の生存率そのものを調べた研究とは区別が必要です。長期の数字を読む場合も、同じ病期であることだけで全身の状態まで同じだと受け取らず、どの背景が示されているかを確かめます。
リスク調整は背景の差を減らして比べる方法
リスク調整とは、年齢や病期など、治療結果に影響する患者さんの条件の違いを統計的に調整する方法です。比較する集団を完全に同じ人たちへ置き換える方法ではなく、記録された情報を用いて条件の差を減らします。
| 比較方法 | そろえようとする内容 | 残る確認点 |
|---|---|---|
| がんの種類別 | 病気の種類 | 病期の分布 |
| 病期別 | がんの広がり | 年齢や持病の違い |
| リスク調整後 | 計算に含めた患者さんの条件 | 調整項目と不足する情報 |
大阪府の胃がん・大腸がん・肺がんの患者さんのデータを用いて3年生存率を比較した研究では、背景をそろえても病院間に差が残ることがあると報告されています4)。背景の違いを理由に成績の差をすべて無視するのではなく、何をそろえた比較なのかを読み取ります。
生存率を比較する前にそろえる条件
同じがんと病期に加え、集計対象、期間、計算方法がそろった数字ほど比較しやすくなります。条件が異なる資料は、差の大きさを評価する前に並べ直す必要があります。
同じ見出しでも対象集団まで読む
「肺がんの生存率」と書かれていても、診断された人全体を数えた資料と、手術を受けた人だけを数えた資料では対象集団が違います。比較する資料の説明欄に戻り、対象となる病期や受けた治療の範囲を確かめましょう。
| そろえる条件 | 資料で探す記載 | 異なる場合の扱い |
|---|---|---|
| 病気と病期 | がんの種類・ステージ | 該当する内訳を探す |
| 対象集団 | 全診断例・手術例など | 同じ対象の数字を探す |
| 期間と定義 | 診断年・起点・計算法 | 直接の比較を保留 |
| 背景の調整 | 年齢・持病などの調整項目 | 残る違いを意識する |
これらの条件が資料に記載されていなければ、数値の差の解釈には限界があります。比較できない部分を無理に順位づけせず、分かる範囲だけを病院選びの材料にするのが妥当です。
集計人数が少ない数字ほど揺れやすい
生存率や死亡率は、分母となる集計人数が少ないと、少数の出来事で値が大きく動きます。小さな数値の差をそのまま優劣に結びつけるのは慎重であるべきです。
数字の横に信頼区間があれば、それは推定値の不確かさを表す幅です。幅が広い成績には推定の揺れが大きいという情報があり、割合だけでなく対象人数も読むと、順位が安定した差を示しているかを考えやすくなります。
非公表と低い成績を結びつけない
成績が掲載されていない理由は、公表の対象となっているか、掲載基準を満たすかといった、データの扱いによっても変わります。非公表という事実だけで、その病院の治療成績が悪いと結論づけるのは不適切です。
日本では、がんの公的な情報を発信する国立がん研究センターの「がん情報サービス」などで、病期別の施設別生存率が公表されています。探すときは数値のページだけでなく、対象施設や集計方法を説明したページも一緒に読むと、比較できる範囲を把握できます。
数字を診察で確かめる質問へ変える
ランキングは候補を調べ、診察で確かめる内容を整理するために使えます。順位だけで結論を急ぐより、自分に関係する数字と不明な条件を書き分けるほうが、治療についての話し合いに結びつきます。
受診前は公開資料の条件を整理する
受診前に調べられるのは、病院が公表する治療件数や生存率、それらの対象期間などです。確認の軸は、自分のがんの種類、分かっている病期、予定する治療。まだ決まっていない項目は推測で埋めず、未確定として残します。
数字の掲載場所や集計対象が分からなければ、病院への電話で公表資料について問い合わせる方法があります。がん相談支援センターには、病院情報の探し方や数字の説明をどこで確認できるかを相談でき、資料を読む準備に役立ちます。
受診後は自分が数字の対象に入るか尋ねる
診察では「この成績には私と同じ病期や治療の人が含まれますか」と尋ねると、公開された数字と自分の状態の重なりを確かめられます。「手術数は予定している手術の件数ですか」という問いも、病院全体の実績との取り違えを防ぐ質問です。
持病などの理由で公開データの集団と条件が違う場合は、その違いが治療の選択や見通しにどう関わるかを主治医に確認しましょう。集団の平均から個人の結果を正確に算出することは難しくても、数字をそのまま当てはめられない理由は整理できます。
小さな順位差より比較できた内容を残す
条件をそろえて読んでも、病院どうしの優劣がはっきりしない場合はあります。そのときは、件数の内訳や対象人数まで分かった情報を残し、条件の不明な順位差には大きな意味を持たせません。
候補を選ぶ際には、数字に加えて説明の分かりやすさや通いやすさも合わせて判断します。調べた結果を「同じ条件で比べられた点」と「診察で確かめる点」に分けると、順位への不安を治療についての具体的な質問へ変えられます。
よくある質問
いまの病院がランキングに載っていない場合は、治療先を変えるべきですか?
掲載されていないという理由だけで、治療先を変える必要があるとは判断できません。まず、その一覧がどの病院を対象に、どのような方法で集計したものかを確かめます。
いまの病院で自分が受ける治療の実施状況や成績の対象を確認し、分からない部分は主治医に尋ねましょう。治療の予定を判断する材料は、掲載の有無よりも、自分の病気と治療に関係する内容です。
生存率が100%なら、必ず治療がうまくいきますか?
生存率が100%でも、今後治療を受ける人の結果を保証する数字ではありません。対象人数や追跡期間が限られた集団の成績であり、再発していないことまで意味する数字でもないため、人数と生存率の定義を一緒に読む必要があります。
手術数が多い病院と生存率が高い病院では、どちらを優先すればよいですか?
どちらか一方を一律に優先するより、先に自分の治療に対応する数字かを確かめます。手術数が病院全体の合計で、生存率が特定の病期だけの成績なら、そのまま優先順位を決める材料として使うのは不適切です。
同じ手術の件数を確認し、生存率については病期や集計対象がそろうかを読みます。それでも判断が難しい場合は、条件の違いを主治医に示し、自分の治療先を決めるうえでどちらの情報が参考になるかを確認しましょう。
がんの疑いがある段階でも生存率で病院を比べられますか?
がんの種類や病期が確定していない段階では、自分に対応する生存率を選ぶことが困難です。疑われている病気の数字を見つけても、検査で確定した患者さんの集団と自分の条件が同じかは、まだ判断できないためです。
まずは、予定されている検査で何を確かめるのかを担当の医師に聞くと、今後どの情報が病院選びに必要かが整理できます。公開された数字は集団の説明として受け止め、診断の内容が分かってから該当する条件で読み直す扱いが適切です。
References
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2) Baum, P., Lenzi, J., Diers, J., Rust, C., Eichhorn, M. E., Taber, S., Germer, C.-T., Winter, H., & Wiegering, A. (2022). Risk-Adjusted Mortality Rates as a Quality Proxy Outperform Volume in Surgical Oncology-A New Perspective on Hospital Centralization Using National Population-Based Data. Journal of Clinical Oncology, 40(10), 1041-1050. https://doi.org/10.1200/JCO.21.01488
3) Beck, N., Hoeijmakers, F., van der Willik, E. M., Heineman, D. J., Braun, J., Tollenaar, R. A. E. M., Schreurs, W. H., & Wouters, M. W. J. M. (2018). National Comparison of Hospital Performances in Lung Cancer Surgery: The Role of Case Mix Adjustment. The Annals of Thoracic Surgery, 106(2), 412-420. https://doi.org/10.1016/j.athoracsur.2018.02.074
4) Morishima, T., Okawa, S., Koyama, S., Nakata, K., Tabuchi, T., & Miyashiro, I. (2022). Between-hospital variations in 3-year survival among patients with newly diagnosed gastric, colorectal, and lung cancer. Scientific Reports, 12(1), 7134. https://doi.org/10.1038/s41598-022-11225-5
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この記事を書いた人 Wrote this article
前田 祐助 医学博士 / 医師
慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医