
がんの治療を任せる医師は、有名かどうかより、自分のがんと予定される治療をどれだけ診てきたかで選びます。診断を受けて病院を探している方も、いまの主治医のままでよいか迷っている方も、先に確かめたい点は共通しています。
評判のよい医師に診てもらいたいと思うのは、自然な気持ちです。ただ、症例数や肩書は判断材料の一部です。治療を勧める理由を自分が理解できるか、質問にどう答えてもらえるかまで見ると、選ぶ根拠がはっきりします。
この記事では、がんの名医を探すときの症例数と認定資格の見方、相談先、初診での質問、医師を支えるチームの確かめ方を解説します。
がんの名医は自分の病気との適合で選ぶ
がんの名医を探すときは、評判の高さより、自分の病気と予定される治療を専門に診ているかを優先します。話を聞きやすい医師かどうかも、実際の診察で確かめる判断材料です。
同じ臓器でも得意な治療は異なる
自分のがんができた臓器と、受ける治療の両方に合う専門分野を確認します。同じ臓器のがんでも、手術を担当する医師と、抗がん剤などの薬を使う治療を担当する医師では、積み重ねてきた経験が異なるためです。
がんの疑いを指摘された段階では、診断の確定や広がりの確認が先になります。治療名が決まっていなければ、紹介元の医師に「いま必要な検査と、その結果を踏まえて相談する診療科」を尋ねると、名前だけを頼りに探す迷いが減ります。
口コミの点数を治療技術に置き換えない
口コミは、説明をどう受け止めたかなどを知る参考として読みます。投稿した人の病気が自分と同じかは分からず、待ち時間への不満と治療技術への評価が混ざっている場合もあります。そのため、点数は治療の質とは切り分けて考えます。
米国の医療機関で調べられた口コミと診療の質の関係からも、点数だけで医師の実力を判断する限界が示されています。日本の口コミサイトを直接調べた結果ではないため、国内の評価が一律に役立たないとまではいえません。
評判を具体的な確認項目へ変える
よい評判を見つけたら、その内容を受診時に確認できる質問へ変えます。「説明が丁寧」という評価なら治療の理由を尋ね、「手術経験が豊富」という評価なら自分と同じ術式の経験を聞く形です。
逆に、悪い口コミを読んだ場合も、文面だけで候補から外す前に、気になった点を整理できます。説明の受け方に関する不安は診察で、担当する治療の範囲は病院の公開情報で確かめると、印象と事実を混同しにくくなります。
執刀医の手術数は同じ術式の経験を確かめる
手術を予定しているなら、執刀医が自分と同じ手術をどれくらい担当しているかを確認します。すべてのがんに共通する「この件数以上なら安心」という線はなく、数だけで個人の技量を判定するのは困難です。
食道や膵臓の難しい手術では経験に注目する
食道がん手術では、執刀医の経験の多さが長期の経過にも関わる可能性があります。食道がんで食道を切除した患者さんを扱う7か国16研究をまとめた解析では、病院や執刀医の手術数と長期生存の関連が検討され、執刀医の経験にも注目する必要が示唆されています1)。
膵臓の頭側と十二指腸などを切除する膵頭十二指腸切除でも、執刀医の件数と術後の安全性との関連が報告されています。臓器名だけでまとめた総数より、予定される術式を継続して担当しているかが確認の中心です。
ただし、経験の多さだけが結果を変えたと断定できる根拠ではありません。食道や膵臓の手術で得られた結果をほかのがんへ広げず、別の手術を受ける場合は、その術式の経験と周囲の診療体制を合わせて尋ねます。
病院全体の件数と本人の担当数を分ける
公開されている手術数は、まず病院全体の件数か、自分を担当する医師の件数かを確かめます。外来で診察する医師が、その病院の手術をすべて執刀しているとは限らないためです。そのうえで、何の手術を、いつの期間で数えた数字なのかを確認します。
| 確認する点 | 数字の読み方 | 診察での質問 |
|---|---|---|
| 数えた対象 | 診療科全体か執刀医本人か | 私の手術はどの先生が担当しますか |
| 手術の種類 | 同じ臓器の総数か同じ術式か | 予定される術式の経験を教えていただけますか |
| 集計の期間 | 累計か最近の一定期間か | いまも継続して担当されていますか |
合併症、つまり手術に伴って起こる別の病気や不調への対応も含め、経験をどのように生かすかまで聞くと判断しやすくなります。件数が公表されていないときも、経験が乏しいと即断する必要はなく、担当医から具体的な説明を受けられるかを見ます。
薬物療法と放射線治療は施設の経験も見る
薬物療法や放射線治療では、医師個人の件数だけでなく、施設の経験も確認します。薬の量の調整や副作用への対応、放射線を当てる範囲の設計など、診察以外の仕事も治療を支えているためです。
再発や進行の危険が非常に高い前立腺がんの男性25219人を対象とした米国の観察研究では、放射線治療とホルモン療法を受けた場合、施設の治療件数と生存期間に関連がみられました2)。前立腺がんの特定の状態で得られた結果であり、ほかのがんや薬物療法全般には当てはめられません。
がんを診る医師を探す相談先と公開情報
医師の候補を探すときは、まず自分に必要な治療の担当分野を絞ります。主治医に尋ねるほか、診療情報の探し方や相談先を整理できるがん相談支援センターの利用、専門医名簿の確認が選択肢です。説明のわかりやすさや質問への応答は受診後に確かめると、情報を集める目的が明確になります。
主治医には紹介する理由まで聞く
診断した医師や主治医に相談するときは、「名医を教えてほしい」だけで終えず、自分に必要な治療と紹介先の得意分野を尋ねます。その候補が病気の種類や治療方針にどう合うかを、診断の内容を知る医師から説明してもらえるためです。
希望を伝える際は、手術の経験を重視したいのか、薬の治療について詳しく相談したいのかを言葉にしましょう。紹介された理由が分かれば、受診先で聞く質問も絞れます。
がん相談支援センターで情報の探し方を相談する
がん相談支援センターは、候補の医師を順位づけてもらう場所というより、診療情報の探し方や相談先を整理するために利用できます。病気の名前や分かっている検査結果を伝えると、必要な情報へ進みやすくなります。
| 相談先・調べる場所 | 受診前の確認内容 | 確認が必要な点 |
|---|---|---|
| 主治医 | 専門分野と候補の理由 | 紹介先で相談する治療 |
| がん相談支援センター | 情報の探し方と相談先 | 個別の治療判断は診察で相談 |
| 各学会のホームページ | 専門医名簿と対象領域 | 現在の所属と担当する診療 |
| 病院の公開情報・電話 | 担当分野と受診方法 | 個人の経験は診察で確認 |
電話では診療科や外来の担当分野を中心に確認し、検査結果を踏まえた治療の可否は診察で説明を受けます。一般的な案内と個別の医学的判断を分ければ、電話だけで結論を急がずに済みます。
公開情報は対象と更新時点をそろえる
所属や資格を調べる際は、病院の医師紹介と、各医学分野の専門家が研究や教育を行う団体である学会の専門医名簿を照らし合わせます。名簿は各学会のホームページから調べられます。掲載されている所属や資格が現在の情報かも確かめましょう。
掲載情報だけでは、いま担当している治療の範囲まで分からない場合もあります。確認できた事実と未確認の点を分けて残しておけば、情報が少ないという理由だけで医師を低く評価せずに済みます。
認定資格は分野と取得条件を読み分ける
資格は一定の学習や経験、審査を経ているかを確かめる材料です。肩書の数よりも、その資格が自分のがんや予定される治療に関係するかを先に見ます。
専門医と指導医は一列の順位ではない
専門医や指導医の名称は、分野ごとに定められた認定を表します。一般に専門医はその領域の知識や経験、指導医は医師への指導に関する条件などが関わりますが、名称や取得条件は認定する団体によって異なります。
指導医という肩書を見る際は、どの能力が審査され、更新にどのような条件があるかを確かめます。自分の治療を担当する能力がほかの医師より高いかどうかは、肩書だけでは判断できないためです。
技術認定は対象の手術に結びつけて見る
特定の技術を審査する認定は、その手術の技量をある程度示します。おなかに小さな穴を開けてカメラを使う腹腔鏡手術では、日本で技術認定を受けた外科医が関わった直腸がん手術で、術後の合併症が少なかったという報告があります。
ただし、対象となった手術の短期的な経過を示す結果で、長期生存やほかの資格の価値まで判断できるわけではありません。予定する術式に関係する資格か、認定された医師が自分の手術にどう関わるかを尋ねます。
資格と現在の診療内容を組み合わせる
資格の確認は、実際に担当している治療の確認と組み合わせると役立ちます。取得した資格だけでは最近の担当数や個々の患者さんへの説明まで分からないため、公開情報から読める範囲を区別するためです。
| 資格の種類 | 主な確認内容 | 資格だけでは分からない内容 |
|---|---|---|
| 専門医 | 専門領域と認定の条件 | 同じ病状の診療経験 |
| 指導医 | 指導の条件と対象領域 | 個別の治療で誰が担当するか |
| 技術認定 | 審査する技術と対象の手術 | 全治療の成績や説明の受けやすさ |
資格名が似ていても同じ制度とは限らないので、略称だけを比べず、認定団体まで確認します。肩書が少ない医師についても、現在の担当分野を聞いたうえで判断できます。
説明のわかりやすさは治療を続ける力になる
医師との対話の質は治療の続けやすさに関わると報告されているため、治療を任せる際は、説明を理解し、困ったときに質問できる関係も判断の軸にします。
治療の目的と負担を自分の言葉で説明できる
説明を聞いた後に、何のための治療か、どんな負担があるかを自分の言葉で言えるかを確かめます。医学用語を覚えるより、治療で期待する効果と生活への影響を結びつけて理解できるかが大切です。
たとえば、治療名だけ分かったときと、なぜその治療を勧めるかまで分かったときでは、納得の内容が変わります。「私の理解では、この治療の目的はこういう意味でしょうか」と伝えると、認識のずれを確認できます。
分からないと伝えた後の応答を見る
質問しやすさは、話し方の柔らかさだけでなく、分からない点に説明を加えてもらえるかで判断します。聞き直したときに別の言葉や図で補ってもらえるか、質問した内容への答えが返ってくるかが具体的な確認点です。
一方、診察が短いという理由だけで、対話の質を決めるのは早計です。その場で解決しなかった疑問について、次の診察で確認するか、担当の看護師に説明の補足を頼めるかまで含めて見ます。
困りごとを伝えられる関係を確かめる
仕事の予定や薬への不安を伝えたときに、必要な相談へつながるかを見ます。副作用を我慢してしまいそうな場合は、どのような変化を誰に伝えるかまで説明を受けられると、治療中の行動を決めやすくなります。
対話と治療継続の関係を調べた研究は、がん以外の病気も含んでおり、話しやすさががん治療の成績を直接高めると断定する根拠ではありません。大切なのは、理解できない点や続けにくい理由を伝え、具体的な説明を受けられる関係です。
初診で確かめたいがん治療の提案と応答
初診では、治療を勧める理由と自分への当てはまりを聞き、その質問への応答を確かめます。聞きたい内容を前もって書き出すと、緊張していても優先した疑問を伝えやすくなります。
治療の提案を聞く質問を用意する
初診での質問は、担当医の経験と治療の理由に分けて準備します。いま決める治療に関わる疑問を先に伝え、残った内容をどう確認するかまで相談すると話がまとまります。
| 聞きたい内容 | 質問の例 | 応答で確かめる点 |
|---|---|---|
| 担当医の経験 | 私と同じがんや治療をどの程度担当されていますか | 治療に即した経験の説明 |
| 提案の理由 | この治療を私に勧める理由は何でしょうか | 病状や体調との結びつき |
| 選べる治療 | ほかに選べる治療はありますか | 効果と負担を含む説明 |
| 不明な点 | まだ決まっていない点は何でしょうか | 追加確認の内容と判断の見通し |
答えをその場で出せない質問でも、何を調べてから判断するかが説明されれば、不確かな点を共有できます。病状との関係が分からないまま結論だけを伝えられた場合は、理由の説明を求める余地があります。
標準治療かを主治医と公的情報で確かめる
標準治療とは、有効性と安全性についての根拠を踏まえ、現時点で広く勧められる治療です。「標準」は古い治療という意味ではありません。自分に勧められた治療がこれに当たるかは、主治医に直接尋ねられます。
「私の病状で一般に勧められる治療ですか」「別の治療を選ぶ理由がありますか」と尋ねると、自分への当てはまりを確認できます。治療選択の指針である診療ガイドラインの患者さん向け解説や、国立がん研究センターが提供する「がん情報サービス」で、説明された病名と治療名を照らし合わせる方法もあります。
ただし、病気の広がりや持病によって、一般的な説明と個別の提案が異なる場合があります。違いを見つけたら、その理由を主治医に聞くのが確認の順序です。
診察後は答えと残った疑問を分ける
診察後は、説明を受けた内容と、まだ分からない内容を分けて書き残します。治療の目的や負担を理解できたかが残れば、「感じがよかった」という印象に加えて、担当医に任せたい理由を具体化できます。
進行がんの患者さんを対象とした研究でも、質問を前もって書き出す方法は、診察で質問しやすくなる点で役立つとされています。質問数が増える点を支持する結果であり、健康状態そのものの改善まで期待して使う方法ではありません。
治療が複雑なときは医師を支えるチームも選ぶ
複数の治療を組み合わせる場合や、治療中の調整が必要な場合は、担当医を支えるチームまで確認します。経験豊富な医師がいても、診断の検討や副作用の手当てをすべて個人で担うわけではないためです。
複数の専門分野の判断が必要な場面
手術、薬物療法、放射線治療の選択や組み合わせに迷う場面では、担当医個人の経験を補う検討が役立ちます。複数の診療科や職種で検討すると、診断や方針が見直される場合があるためです。異なる専門分野の意見を取り入れられるかを尋ねます。
その体制があるだけで、生存期間が延びるとまではいえません。患者さんが確認したいのは、判断が難しいときに別の専門家の意見も踏まえて説明を受けられるかという点です。
副作用の手当てを誰に相談するか
薬や放射線の治療が続く場合は、医師以外にも、副作用の相談を受ける看護師や薬剤師が関わっているかを確認します。症状の伝え方や薬の使い方を相談できれば、診察時間だけで解決しにくい疑問にも対応を求められます。
| 相談したい内容 | 確認する相手 | 尋ねる内容 |
|---|---|---|
| 治療の変更や継続 | 担当医 | どの症状や検査結果で判断するか |
| 副作用のつらさ | 担当の看護師 | 症状をいつ、どのように伝えるか |
| 薬の使い方 | 担当の薬剤師 | 飲み合わせや服用方法の疑問 |
| 仕事との両立 | がん相談支援センター | 働きながら治療するための相談先 |
相談先の名称が並んでいるだけでなく、実際に自分が相談する方法まで分かるかが大切です。初診で治療方針が決まったら、受ける治療に応じて誰につながるかを尋ねます。
担当医が不在でも相談がつながるか
担当医が外来にいない日でも、治療中の困りごとを伝えられるかを確かめます。判断が必要な相談を別の医師へ引き継げるか、診療記録を共有して対応できるかは、個人の評判からは読み取れない部分です。
医師を選ぶときは、専門分野の一致を軸に、同じ治療の経験と説明への納得を重ね、相談がつながる体制を確認します。候補を絞るための公開情報と、診察で得られる答えを合わせて判断します。
よくある質問
病院の手術数が多ければ、担当医の経験も多いのでしょうか?
病院全体の手術数と、担当医本人が執刀した数は一致しません。公開された件数を見るときは、病院全体か個人か、自分と同じ術式か、どの期間を数えたかを確かめます。
自分の手術を誰が担当するかが分かった段階で、その術式を継続して行っているかを尋ねましょう。本人の件数だけでなく、手術後の対応を担うチームについても説明を受けられると判断が具体的になります。
専門医と指導医なら、指導医を選ぶほうがよいですか?
まず、自分に必要な治療との適合を確かめます。指導医を肩書だけで優先するのではなく、現在の担当分野や同じ治療の経験を聞きましょう。資格の名称や条件は認定する団体によって異なるため、どのような認定を受けているかも合わせて判断します。
名医かどうかを初診だけで判断できますか?
初診だけで治療技術の全体を判断するのは難しいものの、提案の理由や質問への応答は確かめられます。治療の目的、選べる治療、負担について聞き、自分の病状に結びついた説明かを見ます。
聞けなかった疑問は書き残し、次の診察で尋ねるか、担当の看護師に説明の補足を相談できます。話し方の印象だけで結論を急がず、必要な答えを得られるかまで確かめます。
症例数が公表されていない医師は避けるべきですか?
症例数が見つからないという理由だけで、候補から外す必要はありません。情報が公開されていない状態と、経験が少ない状態は区別して扱います。
病院の医師紹介で専門分野を確認したうえで、診察では同じがんや術式をどの程度担当しているかを尋ねます。数だけで答えが得られない場合も、担当の範囲や治療方針の説明を受け、資格やチーム体制と合わせて判断できます。
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この記事を書いた人 Wrote this article
前田 祐助 医学博士 / 医師
慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医