BSC(ベスト・サポーティブ・ケア)とは?「治療をしない」のではなく苦痛を和らげる選択

BSC(ベスト・サポーティブ・ケア)とは?「治療をしない」のではなく苦痛を和らげる選択

BSC(ベスト・サポーティブ・ケア)は、がんそのものへの治療を行わず、痛みや息苦しさ、気持ちのつらさを和らげるケアに力を注ぐ方針です。「何もしない」という意味とは違い、症状を診てもらい、必要な治療や生活の支援を受け続けられます。

主治医から提案され、抗がん剤をやめた後は何をしてもらえるのか不安になったかもしれません。選ぶかどうかは、治療に見込める効果と体への負担、大切にしたい過ごし方を主治医と話し合って決めていきます。

この記事では、BSCで受けられるケア、抗がん剤を続けるかどうかの判断材料、療養する場所や主治医・家族との話し合い方を解説します。

BSCは苦痛を和らげる医療を続ける方針

BSCを選んだ後も、体の状態を診る診療と、苦痛に対処する治療は続きます。何をやめ、何を続けるかは、がんへの効果と暮らしへの負担を分けて捉えると整理できます。

治療の目標を暮らしのつらさに移す

がんを小さくする治療から、痛みを抑えて眠れるようにするなど、日々のつらさを減らす医療へ重点を移します。がんの進行を抑える薬を使うかどうかと、苦痛を和らげる薬を使うかどうかは、それぞれ目的に沿って判断する内容です。

方針行うこと主な目的
がんそのものへの治療手術や抗がん剤などでがんに働きかける治癒や進行の抑制を目指す
BSC症状を診察し、薬や生活面の援助で対処する苦痛を和らげ、過ごしやすさを支える
何も対応しない状態症状の評価や対処も行わないBSCとは異なり、苦痛への対応が欠ける

「治療をしない」という説明だけでは、がんに対する治療を指すのか、症状への治療も含むのかが曖昧になります。診療で使われる言葉は、実際に受ける医療の内容まで具体的に聞いておきましょう。

名前だけで受けるケアは決まらない

BSCでは、症状を繰り返し評価し、医師や看護師などが協力して対処します。薬を処方した後も、効き方や副作用を見ながら調整する継続的な医療です。

診察では略語だけで受け止めず、今の症状に対して何を受けられるかを主治医と確かめましょう。

緩和ケアとのつながり

緩和ケアは、病気に伴う体や気持ちの苦痛を和らげる医療で、がんと診断されたときから、がんへの治療と並行して受けられます。BSCを選ぶ場面では、こうした苦痛への対応を医療の中心に据えます。

抗がん剤の終了後も、診察のたびに症状や日常生活の様子を伝えましょう。痛みが軽くなった後に眠気が増えたときも、楽さと生活への影響の両方が、薬を調整する際の判断材料です。

BSCで受けられる症状と気持ちへのケア

痛みだけでなく、息苦しさや食べにくさ、不安もケアの対象です。まず優先したいのは、今いちばんつらい症状です。つらさの原因と生活への影響を一緒に捉え、困っている程度に応じて対処します。

症状に合わせて薬や過ごし方を調整する

症状が同じでも、がんの影響か、薬の副作用か、ほかの原因かで必要な対応は異なります。薬を増やす前に、いつ始まり、何をするとつらくなるかを診察で評価します。

つらさ受けられるケアの例診察で伝える内容
痛み痛み止めの種類や量、使う時間の調整痛む場所、動作や睡眠への影響
息苦しさ原因に応じた治療、姿勢の工夫、症状を和らげる薬安静時にも苦しいか、急に悪化したか
食欲低下・食べにくさ吐き気や便秘への対処、食べ方の調整食べるとつらい理由、水分を取れるか
不安・気分の落ち込み話を聴く支援、必要に応じた専門職による診療眠りや食事への影響、心配の具体的な内容

複数の症状があるときは、睡眠を妨げる痛みなど、暮らしを大きく妨げるものを先に扱います。息苦しさが急に強まったときは、次の予約日を待たず、担当の医療機関へ連絡してください。

食べられない理由と薬の負担も見直す

食欲が落ちたときには、食事量だけでなく、吐き気や口の中の痛みなど、食べるのを妨げている原因にも対応します。食べられる量や形を探す支援も、BSCに含まれるケアです。

また、これまでの薬についても、今の症状への効果と服用の負担を見直します。飲む量が減ったときや錠剤をのみ込みにくいときは、薬の種類や使い方の調整が必要です。薬の中止や増減は診療で判断するため、自己判断で一括してやめるのは避けてください。

不安や生活の困りごとも診療で扱う

気持ちのつらさや、家で過ごす際の困りごとは、体の症状と一緒に伝えてよい内容です。眠れないほど心配が強いときには、看護師の支援や、心のつらさを診る専門職の診療につなげられます。

生活の質とは、体の状態だけでなく、気持ちや日々の過ごしやすさも含めた言葉です。苦痛への対応は、痛みの点数だけでなく、眠れる時間や家での過ごしやすさも目標にできます。

抗がん剤からBSCへの変更が話題になるとき

治療による利益が小さくなり、体への負担が大きくなったときは、BSCが話し合いの対象になります。年齢や治療回数だけで一律に決まる方針ではありません。

効果と負担の釣り合いが変わった場面

抗がん剤を続ける判断には、がんへの効き方だけでなく、副作用からの回復や日常生活への影響も含まれます。以前は受けられた治療でも、体の状態が変われば、見込める利益と負担を改めて比べます。

  • 治療中もがんが進行し、次の薬に見込める効果が小さい状況
  • 副作用が強く、回復までのつらい時間が長くなっている状況
  • 体力や臓器の働きが低下し、薬による負担が大きい状況
  • 通院や治療後の不調が、大切にしたい過ごし方を妨げている状況

1つ当てはまっただけで中止が決まるわけではなく、負担を減らして続けられるかも含めて判断します。

全身状態は日常の動きから捉える

全身状態とは、歩行や身の回りの動作などからみた体力や日常生活の状態です。着替えを自分でできるか、日中どの程度をベッドや椅子で休んでいるかなどが評価に含まれます。

体力の低下が薬の副作用や対処できる症状によるのか、がんの進行によるのかで、次の治療の判断も異なります。今のつらさを軽くする対応と、がんへの治療を続ける判断を、同時に検討する場面です。

主治医には、「私にBSCを提案した理由は、治療の効き方と体の負担のどちらが大きいですか」と聞いてみましょう。

本人が大切にしたい時間も判断に入れる

同じ程度の効果が見込めても、治療の負担を受け入れて続けたいか、通院を減らして家で休みたいかは、本人の希望によって異なります。判断の中心は、治療への期待と日々の過ごし方の希望です。

たとえば、治療後の不調で家族と食卓を囲む時間が減ったなら、診察では「食事の時間に起きていられることを大切にしたい」と具体的に伝えられます。生活のどの部分を守りたいかが言葉になると、薬の負担を減らす案も、BSCへ移る案も、その希望に照らして比べられます。

終わりが近い時期は生活への影響も大きい

病状が進んだ時期の抗がん剤は、期待する効果とともに、治療後の不調が生活に及ぼす影響を丁寧に比べる必要があります。治療を受ける日の体力だけでは、その後の過ごしやすさまで判断できません。

動ける日と治療後に休む日の両方を見る

診察日に歩けていても、治療後は吐き気やだるさが続き、家で横になっている時間が長くなることがあります。病院で見える体調と、自宅で実際に過ごせた時間の両方が大切です。

米国の進行がんの患者さんを対象とした観察研究では、最期の時期の化学療法、つまり抗がん剤による治療と生活の質との関係は、全身状態によって異なる可能性が示されています1)。日本の診察でも、動ける程度だけでなく、治療後に何ができなくなったかまで判断材料に加えられます。

処置や入院に使う時間まで比べる

治療の負担には、副作用のつらさに加え、検査や通院にかかる時間、体調を崩したときの入院も含まれます。がんを抑える利益があっても、本人が望む過ごし方にどれほどつながるかは、別に評価する必要があります。

米国の進行がんの患者さん386人を追った観察研究では、亡くなる数か月前に化学療法を受けていた人は、最期の1週間により積極的な処置を受ける割合が高かったと報告されています2)。治療方針を選ぶときには、期待する効果と、体調が悪化した際に想定される医療の両方が説明の対象になります。

続ける場合も生活の変化を振り返る

抗がん剤を続ける方針を選んだ後も、食事や睡眠、身の回りの動作への影響を見ながら判断を更新します。前回の治療後から体力が戻っていないときは、治療前の体調と比べると負担が伝わりやすくなります。

続けるか迷っているなら、次の診察で「治療が効いた場合に期待できる生活」と「効かなかった場合の負担」を主治医に確かめましょう。

治療を受けた回数だけでは、本人にとっての利益を評価できません。望んでいた過ごし方に近づいているかが、続ける判断にも区切りをつける判断にも関わります。

BSCと過ごせる時間の関係は一律に決まらない

BSCを選べば必ず時間が短くなるとも、抗がん剤をやめれば長くなるとも言えません。がんの種類、治療に見込める効果、現在の体力によって、両者の釣り合いが異なります。

効果が期待できる治療には時間を延ばす利益がある

がんへの治療が効く見込みがあり、体の負担に耐えられるときには、治療を加えることで過ごせる時間が延びる可能性があります。BSCと抗がん剤の比較は、どのがんの、どの状態の患者さんについての説明かが大切です。

肺がんの一種である進行した非小細胞肺がんの16試験、2,714人を統合した解析では、症状への対処などの支持療法だけを受けた群より、化学療法を加えた群で生存期間が長くなりました3)。治療を受けるかどうかは、その効果の見込みに加え、本人の希望と全身状態を踏まえて判断します。

負担が大きく利益が小さい状況もある

治療を重ねてもがんが進み、体力も落ちている状況では、次の薬で得られる利益と副作用の負担を慎重に比べます。薬が効くまでに必要な時間を、今の体の状態で過ごせるかも関わる判断です。

一方、抗がん剤をやめた後に食事や睡眠が改善しても、がんの進行を抑える効果と同じ意味にはなりません。楽に過ごせる時間と生存期間は、それぞれに見通しを聞いておくと安心です。

自分に残る治療の利益を具体的に聞く

判断に使うのは、「抗がん剤は時間を延ばす」という一般論より、今の病状で次の治療に何を期待できるかという説明です。症状が軽くなる見込みと、がんの進行を抑える見込みを分けると、説明を受け止めやすくなります。

主治医には、治療を続ける場合とBSCを選ぶ場合で、体調や生活にどのような違いが予想されるかを聞きましょう。

判断が難しい点も含めて説明を受けられれば、期待する利益のためにどの負担まで受け入れたいかを検討できます。時間の長さと過ごしやすさのどちらを重く受け止めるかは、本人の希望が関わる部分です。

病院・自宅・緩和ケア病棟で受ける支援

BSCは、病院への通院や入院、自宅での診療、緩和ケア病棟で受けられます。療養する場所は、症状の強さと本人の希望に、地域の診療体制を合わせて検討します。

場所ごとに診療と支援の受け方が異なる

症状が落ち着いて通院できるときと、移動自体が負担になったときでは、受けやすい診療の形が異なります。緩和ケア病棟は、苦痛を和らげるケアを専門に行う入院病棟です。

療養する場所受けられるケア主に関わる人
病院の外来・一般病棟通院での症状調整、必要時の入院による対応担当医、外来看護師、病棟看護師など
自宅訪問での診療や看護、日常の症状への対処訪問診療の医師、訪問看護師、家族など
緩和ケア病棟入院して受ける専門的な症状の緩和病棟の医師、看護師、ほかの専門職など

受けられる処置や時間外の対応は、施設や地域の体制によって異なります。場所の名前だけで判断せず、受けたいケアに対応しているかを施設に確かめましょう。

自宅での療養は連絡先と対応体制が支える

自宅を選ぶときには、日中の診療に加えて、夜間や休日に症状が強くなったときの連絡先を決めておく必要があります。家族が手助けできる時間と、訪問する医療者が担う内容を分けると、無理のある部分が見えてくるでしょう。

夜、自宅で痛みが強くなるのが不安なら、退院前に、追加で使う薬の指示と、効かないときに電話する相手を具体的にしておきます。連絡先と対応方法が分かっていれば、困ったときに家族だけで判断を抱え込まずに済みます。

場所を移る際もケアをつなぐ

BSCへの変更と、すぐに転院や退院することは同じ意味ではありません。今の病院で続けられる診療と、ほかの場所へ引き継ぐ診療は、症状や医療体制に応じて決まります。

入院の受け入れ条件や準備に必要な期間も施設で異なるため、病院の退院支援部門や地域連携室に、希望する場所への調整を相談しましょう。

移る日までの処方と、移った後の診察日や連絡先がつながっていれば、途中で薬や相談相手が途切れる不安を減らせます。自宅で過ごすのが難しくなった場合も、その時点の症状に合わせて療養先を見直します。

主治医や家族とは期待と負担を分けて話す

BSCを選ぶかどうかは、本人が何を大切にしたいかと、医学的に見込める利益や負担を持ち寄って話し合います。家族の心配も言葉にしながら、本人の希望を中心に方針を検討します。

主治医に聞きたい内容を絞る

一度の説明で決めきれないときは、まだ分からない点を具体的にすると、次の話し合いで必要な説明が見えてきます。「BSCと言われて不安」という気持ちに加え、何が途切れると心配なのかも伝える内容です。

  • 提案の理由 … がんへの効果、体への負担、全身状態のうち何を重く見ているか
  • 続ける治療 … 痛み止めや診察など、今後も受けられる医療の内容
  • 生活の見通し … 抗がん剤を続けた場合とBSCの場合に予想される体調
  • 診療の担当 … 次の診察を受ける場所と、症状が悪化したときの連絡先

今いちばん困っている症状への対応は、方針を決める話し合いと並行して進められます。

本人・家族・主治医が持ち寄る情報

本人が望む過ごし方を出発点にして、主治医からその希望に合う医療の案を説明してもらうと、話し合いが具体的になります。家族には、本人の希望に加えて、暮らしを支えるうえで難しい点も伝えてもらいます。

話す人伝える内容話し合いへのつながり
本人楽にしたい症状、続けたい日常、受け入れにくい負担方針を選ぶ際の優先順位
家族自宅での体調、手助けできる範囲、心配な点生活を支える体制の調整
主治医治療の利益と負担、BSCで続けるケア、判断が難しい点希望に合わせた医療の提案

家族と意見が違うときには、治療を続けるかという結論の前に、それぞれが何を心配しているかを主治医のいる場で話しましょう。

迷いが残る間も症状への対応は進める

BSCの提案に驚き、気持ちが追いつかないのは無理もありません。結論を出せずにいる間も、痛みや吐き気への対応を受けながら、必要な説明を重ねられます。

抗がん剤をやめると診てもらえなくなるのが心配なのか、がんへの効果をまだ期待しているのかで、次に必要な説明も違うものです。迷いの内容がはっきりすれば、今の病状で続けられる治療と、その後も受けられるケアを主治医から具体的に聞けます。

方針が決まった後も、ケアの内容は症状や本人の希望に応じて調整していくものです。選んだ方針のもとで何を受けられるかを具体的にしておくと、日々のつらさを我慢せずに伝えられます。

よくある質問

BSCを選ぶと、今の薬をすべてやめるのでしょうか?

すべての薬を一度にやめるわけではありません。痛み止めなどの症状を和らげる薬は、効き方や副作用に合わせて継続・調整し、ほかの病気の薬も今の体調と目的に応じて扱います。

中止する薬と続ける薬は、担当医や薬剤師から具体的な説明を受けます。飲みにくさや眠気があるときも、自分で一括して中止せず、薬の名前と困っている症状を伝えると調整につながります。

痛みがまだなくても、BSCの対象になりますか?

痛みがなくても、がんへの治療の利益と負担に応じてBSCが検討されます。息苦しさや食欲の低下、気持ちのつらさにも対応し、症状が落ち着いている間も体調の変化を診てもらえます。

BSCに決めた後で、抗がん剤を希望してもよいですか?

抗がん剤を希望する気持ちは、決めた後でも主治医に伝えられます。実際に再開できるかは、使える薬の効果の見込みと、その時点の全身状態によって判断されます。

再開したい理由が、痛みの悪化や「何か治療を受けたい」という不安なら、その内容も一緒に伝えましょう。症状への治療を調整する案も含め、今の希望に合う医療を検討できます。

家族が抗がん剤の継続を望むときは、どう話せばよいですか?

本人が感じている治療の負担と、家族が続けてほしい理由を、主治医を交えて話すことから始められます。家族の希望の背景には、治療をやめると支援まで途切れるという心配が含まれているかもしれません。

「治療後の数日間がつらい」「家で食事をする時間を増やしたい」など、本人の体験と希望を具体的にすると、何を大切にしたいかが伝わります。主治医から今後も続くケアを説明してもらえば、同じ情報をもとに話し合えます。

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医