標準治療と臨床試験(治験)の選び方|自分にとって最善の選択肢を見極める基準

標準治療と臨床試験(治験)の選び方|自分にとって最善の選択肢を見極める基準

がんの標準治療と臨床試験は、治療の目的と効果の確かさを軸に、体の状態や生活への負担を合わせて選びます。新しい治療のほうがよいと決まっているわけではなく、新しさ以外の点も含めて比べるのが基本です。

診察で両方を提示されて迷っているなら、まず「今の自分に使える治療は何か」を並べてみましょう。比べる相手が具体的になり、主治医に聞く内容も絞れます。

この記事では、標準治療と臨床試験を比べる基準、試験の段階や治療成績の読み方、主治医との話し合いで整理したい点を解説します。

がん治療の選択は目的と生活の両方から

選ぶ基準は、治療の目的、使える標準治療、試験の段階、通院の負担、大切にしたい生活の5つです。いずれか1つだけで決めるより、同じ項目で両方を比べると判断の理由がはっきりします。

治療で目指す結果をそろえる

最初にそろえるのは、治療によって何を目指すかです。

がんを治すための治療と、進行を抑えて過ごせる時間を延ばすための治療では、選ぶときに重く見る結果が違います。画像でがんが小さくなる見込みを聞いたときも、それが症状の軽減や長く生きられる見込みにどこまでつながるかによって、受け止め方が変わります。

比べる対象は、勧められている手術や薬物療法などの具体的な治療です。「標準か試験か」という名称の比較から、今提案されている治療で何を目指せるかという比較に移すと、説明の食い違いも捉えやすくなります。

確かさと負担を同じ項目で比べる

標準治療は、科学的な根拠に基づき、ある状態の患者さんに現在広く勧められる治療です。臨床試験は、人を対象に治療の効果や安全性などを調べる研究で、そのうち薬などの承認を得るために行う試験を治験と呼びます。

比べる項目標準治療臨床試験
治療の目的を聞く現在の病状で期待する治療効果期待する治療効果と、研究として調べる課題
効果の確かさを比べるこれまでの根拠を使って見込むまだ答えの出ていない部分を含む
治療の決まり方を聞く病状や希望を踏まえて選ぶ試験の計画に従う。割り付けを伴う試験もある
通院予定を比べる治療と体調に応じた診療日程治療に加え、研究で定めた検査や受診の日程

試験によっては標準治療も比較する側に含まれるため、参加後に受ける治療の内容まで見て比べる必要があります。参加で期待する利益や負担、途中で参加をやめられる点は主治医から説明を受けたうえで、選ぶ理由を整理します。

続けられる生活を判断に入れる

同じ治療でも、通院先までの距離や仕事の休みやすさによって、生活に及ぶ負担は違います。効く見込みだけでなく、受診に使う時間や家で過ごす時間も、治療を選ぶ材料になります。

  • 治療の目標 … 治癒、進行を抑える期間、症状の軽減のどれを重く見るか
  • 残っている治療 … 今の状態で受けられる標準治療の有無
  • 試験の段階 … 何が分かっていて、何を調べている段階か
  • 通院の負担 … 受診の頻度、移動時間、付き添いの調整
  • 守りたい生活 … 仕事や家事を続ける時間、家族と過ごす時間

治療を始めるまでに余裕が少ない状態なら、まず開始時期を優先して比べます。次の診察では、この中で譲りにくい項目を1つ主治医に伝えましょう。

がんの標準治療を勧められる理由

標準治療は、効果と副作用を合わせた根拠から、同じような病状の患者さんに勧められます。「標準」は治療の質が並程度という意味ではなく、今の判断の基準になる治療を指します。

期待する効果と危険を合わせて評価する

勧められる治療を決めるときは、がんに対する効果と、治療が体に与える不利益の両方が評価されます。

がんが小さくなる割合だけでなく、生存期間や症状への影響、副作用の重さも判断の材料です。効果が見込めても重い副作用の危険が大きければ、体の状態によって勧められる治療は異なります。

判断の土台は、似た病状の患者さんで積み重ねられた根拠です。そのうえで、今の体力や持病を踏まえ、自分が受けたときの利益と負担を比べます。

根拠の確かさにも幅がある

診療ガイドラインは、治療を選ぶために根拠をまとめた指針で、推奨には根拠の水準も示されます。根拠の厚みは、がんの種類や治療で答えようとしている課題によって違うものです。

多数の患者さんを対象に直接比較した結果がある治療と、限られた患者さんの情報を中心に判断する治療では、説明できる確かさも異なります。自分に勧められる理由を聞くときは、「どんな病状の人で、何の効果が確かめられていますか」と尋ねると、根拠の内容が具体的になります。

自分に当てはまる条件が勧めを左右する

同じがんの名前でも、広がり方やこれまで受けた治療が違えば、勧められる標準治療は変わります。

たとえば、腎臓の働きが低下している患者さんと、十分に保たれている患者さんでは、同じ薬を同じ量で使えるとは限りません。前の治療による副作用が残っているときも、効果の根拠に加えて安全に受けられるかが判断されます。

標準治療の候補が複数あるときは、どれを選んでも同じ経験になるわけではなく、通院の頻度や副作用の現れ方にも違いがあります。試験への参加を比べる際にも、実際に受けられる標準治療を基準に置くと良いでしょう。

臨床試験の段階で違う、まだ分からない部分

試験への参加を提案されたら、段階の名前と、その試験が何を調べるかをセットで捉えます。安全に使う量を探している試験と、標準治療と比べている試験では、残っている不確実さが違います。

第1相から第3相までの主な違い

薬の臨床試験では、第1相は主に安全性や用量、第2相は効果の兆し、第3相は比較による効果と安全性を調べる段階です。用量は、薬を1回または一定期間に使う量を指します。

試験の段階主に調べる内容選ぶ際に受け止める点
第1相安全性、使える量や投与方法効果に加え、安全な使い方にも未確定な部分がある
第2相特定のがんに対する効果の兆し、副作用効果が見込まれても、標準治療よりよいかは別途比較が必要
第3相標準治療などと比較した効果と安全性どちらがよりよいかを調べており、結果は確定していない

実際には複数の段階を組み合わせた試験もあり、名称だけから受ける治療や検査の内容までは決められません。

第1相では安全な使い方も調べている

第1相への参加では、治療効果への期待と、安全な使い方を調べるという研究の目的を分けて受け止めます。

効果を望んで参加を検討する気持ちは自然です。使う量や組み合わせについて分かっている情報が限られる段階では、どのような副作用がどの程度起こるかにも不確実さが残ります。

また、同じ第1相でも、すでに人に使われた情報の量や、対象となるがんの条件は異なります。自分が受ける治療について、これまで分かった効果と安全性を、主治医に分けて説明してもらいましょう。

第3相でも新しい治療が優れるかは未確定

比較を行う段階まで進んだ治療にも、標準治療よりよいかという未解決の問いが残っています。前の段階で効果の兆しがあっても、対象となる人数や患者さんの条件が広がると、利益と副作用を合わせた評価は変わり得ます。

試験で比べる結果が「がんの進行を抑える期間」なのか、「生存期間」なのかも大切です。進行を抑える期間は、治療後にがんが悪化せずにいる期間を指し、長く生きられる期間とは区別して読みます。

自分が望む結果と試験が主に調べる結果が重なっているほど、参加を考える理由を言葉にしやすくなります。

参加した人の成績をそのまま自分に重ねない

試験に参加するという事実だけで、治療成績がよくなるとは言い切れません。参加した人と参加しなかった人の結果を読むときは、受けた治療に加え、もともとの体の状態も比べる必要があります。

参加者と通常診療の患者さんでは条件が違う

試験の参加者には、研究で定められた条件を満たした患者さんが含まれます。

臓器の働きや日常生活を送る体力に条件がある試験では、参加者と通常診療を受ける患者さんの間に、治療前から違いが生まれます。がんの状態に加えて、こうした違いもその後の生存や副作用に影響するため、結果の差を参加そのものの効果と結びつけるのは慎重さが必要です。

比べる相手が「同じ治療を試験の外で受けた人」なのか、「別の治療を受けた人」なのかでも、数字が答えている問いは異なります。

条件の偏りを抑えると差が見えなくなる

抗がん剤の試験参加者と非参加者を比較した39論文をまとめた解析では、参加者の生存がよいという結果がある一方、両者の条件の偏りを抑えた研究では差が見られませんでした1)。

国内で自分の治療を選ぶときも、「試験に入る人の成績」と「自分に提案された治療の効果」を分けて受け止めると、期待を整理できます。参加するかという問いに答えるには、病状が近い患者さんで、どの治療と比べた情報なのかが必要です。

自分に近い患者さんの結果を読む

治療成績の説明では、同じがんの種類だけでなく、広がり方と前に受けた治療が自分に近いかを見ます。最初の治療として受けた患者さんの結果と、複数の治療を受けたあとの患者さんの結果は、そのまま置き換えられません。

数字を見る際の中心は、何を測った結果かです。がんが小さくなった割合と、症状が軽くなった割合では、日々の過ごし方への意味が異なります。

「自分に近い人では、何の効果をどの程度期待できますか」と主治医に尋ねましょう。

新しい治療への期待と、分かっている事実

新しい治療への希望を持ちながら、分かっている効果の範囲を分けて整理できます。期待が強いときほど、望んでいる結果と、説明された見込みを別々の言葉にする作業が役立ちます。

希望の強さは効く確率と同じではない

「自分に効いてほしい」という願いの強さと、「何人に効く見込みか」という予測は、違う内容を表しています。希望が大きいままでも、効果の見込みがまだ分からない部分を受け入れて判断することはできます。

米国の早期の臨床試験に参加した患者さんでは、利益への期待は質問の仕方によって変わり、実際より高く見積もる人もいると報告されています2)。日本で説明を聞く際にも、「どのくらい願っているか」と「どの程度の効果が示されているか」を分けると、希望だけで数字を受け取るのを避けられます。

勧められた理由と効果の根拠を分ける

主治医への信頼や家族の希望は判断を支えますが、治療の効果の根拠とは分けて整理します。

参加を提案される理由には、病状が試験の対象に合うことや、標準治療のあとに検討できる治療であることなどがあります。提案された事実だけで大きな効果が約束されるわけではなく、自分に合うとされた理由を聞くと、その勧めを落ち着いて受け止められるでしょう。

家族が新しい治療に強く期待しているときも、本人が大切にしたい生活が判断の中心です。家族と同じ結論に急いでそろえるより、期待する効果と引き受けられる負担をそれぞれ言葉にすると、意見が違う理由を整理できます。

説明のあとに迷いが強くなったとき

帰宅後に試験の説明文書を読み、「新しい薬を選ばなかったら後悔するかもしれない」と不安が強くなるなら、気になる文と自分の希望を別々にメモしましょう。読み返すたびに迷いが増すときも、何に答えが出ていないかが見えると、次の診察で話す内容を絞れます。

たとえば、「効果が期待される」という説明から「自分にも効く」と受け取ったのか、「受診が増える」点が気になるのかで、必要な答えは異なります。迷っている理由を1つにまとめきれなくても大丈夫です。

次の診察では、結論を急ぐ前に、メモに残した未回答の点を主治医に尋ねましょう。

くじ引きで決まる治療を受け入れられるか

ランダム化は、比べる治療のグループを、くじ引きのように偶然で割り当てる方法です。参加を選ぶ際には、新しい治療を受ける希望だけでなく、どちらのグループになっても受け止められるかが判断の中心になります。

偶然の割り当てで公平に比べる

ランダム化には、患者さんの体の状態などが片方の治療に偏るのを抑え、公平に比べる目的があります。

体力のある患者さんばかりが新しい治療を受けると、結果がよかった理由が治療なのか体力なのかを分けにくくなります。偶然による割り当ては、そのような偏りを抑えるための仕組みであり、割り当てられた治療が個人によりよく効くと予測する仕組みではありません。

参加するかどうかは選べても、入るグループは患者さんや主治医の希望で選べないという点を、治療の内容と合わせて受け止めます。

どちらに決まっても受ける治療を具体化する

「くじ引き」という説明だけでは、自分が受ける治療を十分に想像できないことがあります。比較する両方の治療を具体的に並べると、受け入れにくい点が治療内容なのか、選べない仕組みなのかを分けられます。

主治医に聞く内容選ぶ際に整理できる点
それぞれのグループで受ける治療は何か標準治療との違い、受ける薬や治療の組み合わせ
どの割合で各グループに割り当てられるか割り当ての仕組みと、自分で選べない範囲
各グループの受診や検査はどう違うかどちらに決まっても続けられる日程か
試験の外で標準治療を受ける場合と何が違うか同じ治療名でも増える検査などがあるか

同じ割合で分かれるとは限らないため、割り当ての比率は個々の試験の説明に沿って受け止めます。

特定の治療を強く希望している場合

どちらか一方の治療だけを希望しているなら、その希望とランダム化を受け入れる判断を分けます。新しい治療のグループになる前提で参加を決めると、実際の割り当てとの間に大きな隔たりが生まれるでしょう。

一方、両方の治療に納得でき、まだ分からない差を調べる点も受け入れられるなら、ランダム化を含めて参加を検討できます。試験の外で受ける標準治療の内容が分かっていると、参加する判断と参加しない判断を同じ土台で比べられます。

特定のグループを強く希望しているときは、その理由を含めて主治医に伝えましょう。

がん治療の経過に合わせて参加の時期を選ぶ

臨床試験は、標準治療を終えたあとだけでなく、最初の治療を受ける前にも検討されます。今受けられる標準治療があるか、参加条件を満たすか、治療開始を待てるかによって、比べる内容が変わります。

最初の治療前と標準治療後で比較する相手が違う

最初の治療前なら、今勧められている標準治療と、試験で受ける治療を比べます。標準治療のあとなら、次に使える治療が残っているか、その治療でどの程度の効果が見込めるかが判断の出発点です。

検討する場面主に比べる内容主治医に聞く内容
最初の治療の前標準治療と、試験で受ける治療の目的や確かさ標準治療の開始時期と、参加までに必要な期間
標準治療を受けたあと残っている治療の見込みと、試験の不確実さ今の体の状態で受けられる治療と、試験の参加条件

参加条件にはこれまで受けた治療が関わるため、希望する時期に必ず参加できるとは限りません。

標準治療のあとは期待と体の状態を合わせる

使える標準治療が少なくなったときは、効果への希望に加え、今の体力で試験の治療や受診を続けられるかを重く見ます。

標準治療が尽きた患者さんが中心だった英国の第1相試験外来の調査では、受診前の396人が試験を考える理由に、がんが小さくなる期待、ほかの治療がない状況、主治医の勧めが挙がりました3)。日本で自分の参加を検討する際にも、参加したい理由を整理したうえで、今の体の状態が条件に合うかを合わせて判断できます。

治療を受けたい気持ちが強くても、前の治療の副作用が残る場合や臓器の働きが低下している場合は、安全性の面から参加が難しくなることがあります。試験の募集人数に空きがあるかも関わるため、本人の希望だけで参加時期は決まりません。

治療を待てる期間を含めて話し合う

参加の検討では、治療を始めるまでに待てる期間も判断に入れます。病状の進行が速い場合と、落ち着いている場合では、参加のための検査を待つ意味が異なります。

  • 受けた治療 … 治療の名前、終了した時期、効果について受けた説明
  • 現在の体調 … 残っている副作用、食事や歩行など日常生活への影響
  • 通院できる条件 … 移動手段、仕事の調整、付き添いを頼める日
  • 優先したい希望 … 期待する効果と、生活の中で保ちたい時間

体調が変わっているときは、以前の説明を受けた時点より、今の症状や生活への影響を優先して判断します。検討のために治療を自己判断で延期せず、開始時期を主治医に確認しましょう。

よくある質問

標準治療を選んだら、新しい治療の機会を逃すのでしょうか?

標準治療を選んだだけで、その後の臨床試験への参加が一律に閉ざされるわけではありません。受けた治療の種類や回数が参加条件に関わるため、参加できる試験は治療の経過によって異なります。

すでに具体的な試験を提案されているなら、「先に標準治療を受けると、この試験の参加条件はどうなりますか」と主治医に尋ねると、順番を選ぶための情報が得られます。治療開始を遅らせてよいかも、同時に判断する必要があります。

第3相の試験なら、標準治療より効くと考えてよいですか?

第3相でも、標準治療より効くと決まったわけではありません。第3相は、標準治療などと効果や安全性を比べる段階で、参加を考えるときには何を比べ、何がまだ分かっていないかを受け止めます。

くじ引きで標準治療に決まるのが心配なときは、どう選べばよいですか?

どちらのグループになっても治療内容を受け入れられるかを基準に選びます。新しい治療だけを受けたい気持ちが強いときは、その希望とランダム化の仕組みに隔たりがあります。

試験で標準治療を受ける場合と、試験の外で同じ治療を受ける場合の違いまで分かると、比較が具体的になります。主治医には、選べない点が不安なのか、標準治療の効果に不安があるのかを伝えると、必要な説明を受けやすくなります。

標準治療が残っていても、臨床試験を検討してよいですか?

標準治療が残っていても、参加条件に合う臨床試験は検討できます。最初の治療として標準治療と比較する試験もあり、治療を始める前から検討の対象になります。

判断には、残っている標準治療で期待できる効果と、試験でまだ確かめられていない点の両方が必要です。主治医に提示された治療を具体名で並べ、治療の目的と始める時期をそろえて比べると、自分の希望に沿って選びやすくなります。

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医