
加速器BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)は、ホウ素を含む薬剤と中性子の反応を使って、がん細胞だけを内側から壊す放射線治療です。まわりの正常な組織を守りながら、狙った細胞に集中してダメージを与えられます。
これまで中性子をつくれるのは原子炉に限られていましたが、加速器を使う方式が実用化し、病院の中で治療を受けられる道がひらけました。日本では再発した頭頸部がんへの治療として承認されています。
この記事では、加速器BNCTのしくみとメリット、対象になるがん、治療の流れや副作用、受けられる病院まで、検査や治療を考える方に向けてやさしく整理します。
加速器BNCTとは|がん細胞をねらい撃ちするホウ素中性子捕捉療法
加速器BNCTは、がん細胞だけをねらい撃ちにする放射線治療です。ホウ素を含む薬剤を体に取り込ませ、外から中性子を当てて、細胞の内側で小さな核反応を起こします。
| 比べる点 | 一般的な放射線治療 | 加速器BNCT |
|---|---|---|
| ねらう単位 | 病変とその周囲をまとめて照射 | ホウ素をため込んだがん細胞が中心 |
| 効果が届く距離 | 数ミリから数センチに及ぶ | 細胞ひとつ分(約5〜9マイクロメートル) |
| 照射の回数 | 数回から数十回に分けることが多い | 基本的に1回で完結 |
同じ放射線治療でも、ねらいを定める単位がまるで違います。細胞の中で起きる反応をそのまま利用する点が、加速器BNCTならではの持ち味だといえます。
ホウ素10と中性子が出会うと何が起こるのか
鍵をにぎるのは、ホウ素10という安全な物質です。放射線を出さない普通のホウ素の一種で、これを薬剤の形にしてがん細胞へ届けます。
そこへ弱いエネルギーの中性子が当たると、ホウ素10が中性子を捕まえて核反応を起こします。生まれるのはアルファ線とリチウムの原子核で、どちらもごく近い範囲だけにエネルギーを放ちます。
核分裂と聞くと身構えてしまうかもしれませんが、起きているのは細胞の中のごく小さな出来事です。届く範囲が狭いからこそ、ねらった場所だけに効かせられます。
中性子そのものは体をすり抜けやすく、ホウ素がなければ大きな害を与えません。ホウ素と中性子がそろって初めて効果が生まれる、二つでひと組の治療だといえます。
アルファ線が届くのはがん細胞ひとつ分の距離
アルファ線が届く距離は、細胞ひとつ分ほどしかありません。だからホウ素を多くため込んだがん細胞の中では強く働き、となりの正常な細胞にはほとんど届かないのです。
たとえるなら、室内の一点だけを照らすスポットライトのようなものでしょう。光が部屋全体に広がらないので、当てたい場所の外には影響が及びにくくなります。
正常な細胞を巻き込みにくいという性質は、治療後の回復のしやすさにもつながると考えられています。からだへのやさしさは、加速器BNCTが注目される理由のひとつです。
治療は基本的に一度の照射で完結する
加速器BNCTは、基本的に一度の照射で治療が終わります。何週間も通い続ける負担が少ない点は、体力に不安をかかえる方にとって心強いところだと考えられます。
とはいえ、効き方には個人差があります。腫瘍の性質や場所によって結果は変わるため、担当医とよく話し合って進めることが大切です。
治療の前には、ホウ素薬剤がどれくらいがんに集まるかを画像で調べる検査も行われます。あらかじめ効きやすさの見当をつけることで、より納得して治療を選べます。
加速器BNCTのメリットは正常な細胞を守りながらがんを狙えること
いちばんのメリットは、正常な細胞を守れることです。がん細胞に集中してダメージを与えるため、まわりの組織への影響を小さく抑えられます。
なぜ正常な組織へのダメージが小さいのか
理由は、ホウ素薬剤ががん細胞に多く集まる性質にあります。代表的な薬剤はアミノ酸に似た構造を持ち、栄養を活発に取り込むがん細胞ほど、たくさんため込みます。
正常な細胞のホウ素は少ないままなので、同じ中性子を浴びてもダメージは限られます。標的とそのまわりの差をはっきりつけられる点が、治療の安全性を支えています。
がん細胞は増えるために栄養をどんどん取り込みます。その食いしんぼうな性質を逆手にとって薬剤を届けるのが、この治療の巧みなところです。
すでに放射線を当てた場所にも検討できる
過去に放射線治療を受けた部位は、もう一度当てるのが難しいとされてきました。加速器BNCTは正常組織への負担が小さいため、再発した部位への治療を検討できる場合があります。
加速器BNCTが選択肢として挙がりやすいのは、次のような状況です。
- 以前に放射線を当てた部位の再発
- 手術が難しい場所にできた腫瘍
- 大切な臓器のすぐそばにある病変
いずれも従来の方法では手を打ちにくかった場面です。打つ手が限られたときに、新しい道を開く可能性をもっています。
再発した部位の治療は、選択肢が少なくなりがちです。もう一度ねらえる可能性があること自体が、患者さんにとって大きな希望になります。
手術が難しい場所のがんにも届きやすい
目や脳に近い場所、入り組んだ部位のがんは、メスが届きにくいことがあります。加速器BNCTは細胞の単位でねらえるため、こうした場所でも治療を考えやすくなります。
もちろん万能ではありません。深いところの腫瘍には届きにくいといった限界もあり、向き不向きの判断が必要になります。
どんな人に向いている治療なのか
向いているとされるのは、再発や手術の難しさで治療の幅がせまくなった方です。標準的な治療をひととおり受けたあとの選択肢として、相談にあがることがあります。
一方で、深い場所に広がったがんや全身に及ぶ状態には向きません。あくまで限られた範囲の病変に力を発揮する治療だと理解しておくことが大切です。
原子炉から加速器へ|病院内でBNCT治療が可能になった理由
中性子源が原子炉から加速器に変わったことが、大きな転換点でした。研究施設に頼らず、病院の中に装置を置けるようになったのです。
原子炉でしかできなかった時代の壁
かつて中性子をつくれるのは原子炉だけで、治療できる場所はごくわずかでした。研究用の原子炉まで足を運ぶ必要があり、広く使われるには高い壁がありました。
原子炉は管理も運用も特別で、医療の現場に気軽に置けるものではありません。技術としての可能性は早くから知られていたものの、普及はなかなか進みませんでした。
限られた人しか受けられない治療は、どれほど有望でも広がりません。多くの人に届けるには、治療できる場所を増やすことが欠かせなかったのです。
加速器で中性子をつくる発想の転換
そこで進んだのが、加速器で中性子を生み出す技術の開発です。陽子のビームを的に当てて中性子を取り出すしくみで、病院に収まる大きさにまとめられました。
原子炉のような大がかりな施設がなくても、医療機関の中で中性子をつくれるようになりました。治療を提供する場所の選択肢が、一気に広がったといえます。
中性子を効率よく取り出すには、的やビームの調整など細かな技術の積み重ねが要ります。地道な工夫の連なりが、病院で使える装置という形に結びつきました。
日本で世界に先がけて承認された頭頸部がん治療
2020年、日本でホウ素薬剤と加速器による中性子源、線量を計算する仕組みがそろって承認されました。対象は、切除が難しい局所進行や再発の頭頸部がんです。
国の承認を受けた治療として動き出したことは、加速器BNCTの普及を後押しする出来事でした。研究の世界から、実際の医療の場へと一歩を踏み出したのです。
原子炉と加速器による中性子源のちがい
| 比べる点 | 原子炉による中性子源 | 加速器による中性子源 |
|---|---|---|
| 置ける場所 | 限られた研究施設 | 病院などの医療機関 |
| 受けやすさ | 遠方まで通う必要 | 身近な施設で受けやすい |
| 普及のしやすさ | 広がりにくい | 広がりが期待できる |
装置が病院に入ることで、治療と日常の通院が結びつきやすくなりました。患者さんが治療を選びやすい環境に近づいたといえます。
身近な医療機関で受けられる治療が増えることは、患者さんの負担を軽くします。遠くの施設まで通わずに済む可能性が広がる点は、普及の大きな意味のひとつです。
加速器BNCTの対象になるがんと頭頸部がんへの効果
いま公的に承認されているのは、再発・局所進行の頭頸部がんが中心です。そのほかのがんは、研究の段階での検討が続いています。
| がんの種類 | いまの位置づけ | 補足 |
|---|---|---|
| 頭頸部がん | 承認された治療 | 切除が難しい再発・局所進行が対象 |
| 悪性脳腫瘍 | 臨床研究の段階 | 再発膠芽腫などで検証中 |
| 悪性黒色腫 | 研究の段階 | 表在性の病変で検討 |
| 髄膜腫など | 研究の段階 | 症例の報告が中心 |
承認ずみの頭頸部がんと、研究が進む段階のがんは、はっきり分けて理解しておくと安心です。研究段階のものは、誰でもすぐ受けられるわけではありません。
頭頸部がんで報告された効果
頭頸部がんを対象にした臨床試験では、多くの患者さんで腫瘍が小さくなったと報告されています。再発して打つ手が限られた状況での結果という点に、大きな意味があります。
顔やのどの周りは、見た目や食べる・話すといった働きに直結する場所です。機能をできるだけ保ちながら治療をめざせることは、生活の質を考えるうえでも見のがせません。
ただし、試験に参加した人数は多くありません。結果の読み取りには慎重さが要り、今後の積み重ねが待たれている段階です。
数は多くないものの、再発例での前向きな報告は、次の一歩を考える材料になります。データの積み重ねが、治療への信頼を少しずつ育てています。
研究が進められている、ほかのがん
脳腫瘍やメラノーマなどでも、加速器BNCTの研究が続いています。これらは承認された治療ではなく、臨床研究という形で慎重に効果と安全性を確かめています。
期待される領域は広いものの、確かな結論を出すには時間がかかります。一つひとつの研究が、次の患者さんへの道をならしているところです。
研究に参加するには、決められた条件を満たす必要があります。興味がある場合は、実施している施設に問い合わせて、いまの受け入れ状況を確かめてみてください。
自分のがんが対象になるか確かめるには
対象になるかどうかは、がんの種類や場所、これまでの治療歴によって変わります。気になる方は、加速器BNCTを行う施設の専門医に相談するのが確実な近道です。
相談の場では、これまでの治療の記録や画像を持参すると話が早く進みます。対象から外れる場合でも、ほかに合う治療を一緒に考えてもらえることがあります。
加速器BNCT治療の流れと知っておきたい副作用
副作用が心配で迷う方は、少なくありません。加速器BNCTの副作用は、これまでの報告では比較的軽いとされています。
点滴と中性子照射で進める治療の組み立て
治療はまず、ホウ素薬剤を点滴で体に入れるところから始まります。薬剤ががん細胞に十分たまった頃合いを見はからって、中性子を当てます。
照射そのものは数十分ほどで終わることが多く、入院しても短い期間で済む場合があります。長く拘束されにくい点は、心と体の負担をやわらげてくれるでしょう。
薬剤を入れてから照射までの時間配分は、治療チームがていねいに管理します。落ち着いた環境で進められるよう、当日の流れも事前に説明を受けられます。
あらわれることがある副作用
報告されている副作用は、照射した部位の粘膜の炎症や皮膚の赤み、だるさなどです。唾液腺に薬剤がたまることで、血液検査の数値が一時的に上がる場合もあります。
おもに次のような症状が知られています。
- 照射した部位の粘膜炎
- 皮膚の赤みや軽い炎症
- 一時的なだるさ
- 唾液腺への集まりによる検査値の変化
多くは時間とともに和らぐとされますが、感じ方には個人差があります。気になる症状は、遠慮なく担当医へ伝えてください。
重い副作用を抑えるための備え
重い副作用は比較的少ないと報告されていますが、ゼロではありません。脳腫瘍の治療では、再照射によるむくみに対して薬で備える工夫も行われています。
体調や持病によって注意点は変わります。事前の検査と説明をていねいに受けておくことが、安心して治療にのぞむ支えになります。
持病のある方や薬を飲んでいる方は、その内容を事前に伝えておくと安心です。一人ひとりの状態に合わせて、無理のない計画を立てていきます。
治療のあとに気をつけたいこと
治療のあとは、照射した部位の状態を定期的に確認していきます。気になる変化が出たときに早く気づけるよう、通院の予定をきちんと守ることが安心につながります。
口やのどの周りを治療した場合は、食事や口のケアに少し気を配ると過ごしやすくなります。困りごとは小さなうちに相談しておくと、対処の幅が広がります。
加速器BNCTを受けられる病院と治療を検討するときの注意点
どこの病院でも受けられるわけではありません。加速器BNCTを行える施設は、国内でもまだ数えるほどです。
治療できる施設がまだ少ない理由
加速器の装置は大きく、設置や運用には専門の体制が要ります。そのため治療を行える施設は限られ、地域によっては通院に時間がかかることもあります。
装置の運用には、医師や技師、物理の専門家などが力を合わせる体制が欠かせません。こうした準備が整って初めて、安全に治療を届けられます。
受診の前に確かめておきたいこと
まずは、自分のがんが対象になるかを専門医に確認することから始まります。紹介状や検査の結果がそろっていると、相談がぐっと進めやすくなります。
遠方の施設に通う場合は、移動や滞在の段取りも考えておくと安心です。家族とも早めに見通しを共有しておくと、心の余裕につながります。
通院のたびに同じ説明をくり返さずに済むよう、これまでの経過をまとめたメモを用意しておくのもよい方法です。準備が整っているほど、限られた時間を相談に使えます。
主治医に相談しながら進める大切さ
加速器BNCTは、ほかの治療と比べて確かめる材料が多い選択肢です。標準的な治療と並べて、利点と限界を一緒に整理してくれる主治医の存在が支えになります。
迷ったときは、ひとりで抱え込まず、別の医師の意見を聞く方法もあります。納得して選ぶことが、その後の安心につながるでしょう。
通院の負担や生活への影響も、判断の材料になります。気になることは遠慮せずに書き出して、相談の場で一つずつ確かめていきましょう。
受診の前に確認しておきたいこと
| 確かめる項目 | 見るポイント | ひとこと |
|---|---|---|
| 対象のがんか | 種類・場所・治療歴 | 専門医に相談 |
| 通える施設か | 距離や通院のしやすさ | 家族とも相談 |
| ほかの治療との比較 | 利点と限界 | 主治医と整理 |
情報を一つずつ確かめていけば、自分に合うかどうかの判断がしやすくなります。あせらず、納得できるまで質問を重ねてください。
よくある質問
加速器BNCTはどんな治療法ですか?
ホウ素を含む薬剤と中性子の反応を使って、がん細胞の内側からダメージを与える放射線治療です。薬剤を取り込んだがん細胞の中だけで小さな核反応が起こります。
効果が届く距離はとても短く、まわりの正常な細胞への影響を抑えやすいのが特長です。基本的に一度の照射で治療が完結します。
加速器BNCTのメリットは何ですか?
正常な組織を守りながら、がん細胞に集中して効かせられる点が大きな利点です。ホウ素薬剤ががん細胞に多く集まる性質を利用しています。
すでに放射線を当てた部位や、手術が難しい場所のがんでも検討できる場合があります。打つ手が限られたときの選択肢になりえます。
加速器BNCTはどんながんが対象になりますか?
いま承認されているのは、切除が難しい再発や局所進行の頭頸部がんが中心です。臨床試験では、多くの患者さんで腫瘍が小さくなったと報告されています。
脳腫瘍やメラノーマなどは、まだ研究の段階にあります。対象になるかは、がんの種類や治療歴によって変わるため、専門医への相談がおすすめです。
加速器BNCTにはどんな副作用がありますか?
照射した部位の粘膜の炎症や皮膚の赤み、だるさなどが報告されています。唾液腺に薬剤がたまり、血液検査の数値が一時的に上がることもあります。
これまでの報告では比較的軽いとされますが、感じ方には個人差があります。気になる症状は、早めに担当医へ伝えると安心です。
加速器BNCTはどこの病院でも受けられますか?
いいえ、行える施設はまだ限られています。加速器の装置は大きく、設置や運用に専門の体制が必要だからです。
受診を考える際は、自分のがんが対象になるか、通える距離かを専門医に確認しておくとよいでしょう。紹介状や検査結果があると相談が進めやすくなります。
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この記事を書いた人 Wrote this article
前田 祐助 医学博士 / 医師
慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医