頭頸部がんに対するBNCTの効果|切除不能・再発がんにおける新しい選択肢

頭頸部がんに対するBNCTの効果|切除不能・再発がんにおける新しい選択肢

BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)は、がん細胞の内側からピンポイントで攻撃し、すぐ近くにある正常な組織への負担をできるだけ抑える、新しいタイプの放射線治療です。

手術での切除がむずかしい頭頸部がんや、一度放射線をかけた場所に再び現れた再発がんなど、これまで打つ手の少なかった状況でこそ持ち味が生きると考えられています。1回の照射で治療が終わる点も、からだへの負担を気にする方には大きな関心事でしょう。

この記事では、BNCTが頭頸部がんに働くしくみから、国内の臨床試験で示された効果の数字、気になる副作用、治療を受けるまでの流れ、受けられる施設までを順に整理します。判断に必要な材料を、むずかしい言葉をかみくだいてお届けします。

ホウ素中性子捕捉療法という頭頸部がんを狙い撃ちする治療

BNCTは、がん細胞に集まる薬剤と中性子を組み合わせ、細胞の内側からがんだけをこわす放射線治療です。正常な組織への影響を抑えながら攻撃できる点が、ほかの放射線治療と大きく違います。

項目従来の放射線治療BNCT
攻撃のしかた外から放射線を当てるがん細胞の内側から反応を起こす
正常組織への影響周囲もある程度受ける比較的抑えやすい
照射の回数数週間かけて複数回原則として1回

がん細胞の内側から壊す核反応が正常組織を守る

BNCTのかなめは、ホウ素という元素と中性子が出会ったときに起こる小さな核反応です。あらかじめがん細胞にホウ素薬剤をためておき、そこへエネルギーの弱い中性子を当てると、細胞の内部でごく短い距離だけ進む粒子が生まれます。

この粒子はがん細胞を内側から傷つけますが、届く範囲がとても狭いため、薬剤が少ない正常な細胞はダメージを受けにくいといえます。狙った細胞だけを選んでたたく、生物学的に的を絞った治療と表現できるでしょう。

ホウ素薬剤ボロファランが効果のカギを握る

治療効果を左右するのは、がん細胞にどれだけホウ素を届けられるかです。日本ではボロファランという薬剤を使い、点滴でからだに入ったあと、増殖の盛んながん細胞へ多く取り込まれる性質を利用します。

がん細胞と正常な細胞でホウ素のたまり方に差が出るほど、放射線の効きめにめりはりが生まれます。薬剤の集まり方には個人差があるので、治療前の検査でその取り込みを確かめることが大切でしょう。

反応が届くのは細胞およそ1個分の距離

中性子とホウ素の反応で生まれる粒子が進む距離は、わずか5〜9マイクロメートルほどです。これは細胞およそ1個分にあたり、髪の毛の太さの10分の1にも満たない、ごく短い長さといえます。

この短さこそがBNCTの持ち味です。ホウ素をためたがん細胞のなかでだけエネルギーが解き放たれ、すぐ隣の正常な細胞までは届きにくいため、ピンポイントの攻撃が成り立ちます。

1回の照射でその日のうちに終わる治療

頭頸部がんへのBNCTは、原則として1回の中性子照射で完了します。点滴でホウ素薬剤を入れ、時間をおいて中性子を当てる流れで、照射そのものは数十分から1時間ほどです。

何週間も通って少しずつ放射線をかける従来の方法とくらべると、通院の負担を減らせる可能性があります。一度治療を終えたあとは、効果や副作用を見ながら経過を追っていきます。

治療が1日で区切りを迎えるため、遠くから通う方や長い入院がむずかしい方でも見通しを立てやすい治療といえます。仕事や家庭の予定と折り合いをつけながら検討できる点は、心の負担をいくらか軽くしてくれるかもしれません。

切除不能・再発の頭頸部がんでBNCTが選ばれる理由

手術や再びの放射線がむずかしい状況でこそ、BNCTは検討する値打ちが出てきます。切除不能ながんや、一度治療した場所に再発したがんは打つ手が限られがちで、そこに新しい道を開く治療だからです。

もう一度放射線をかけられない再発がんの壁

頭頸部がんの治療では、放射線を強くかけたあとに同じ場所へ再発することが少なくありません。ところが、一度大量の放射線を浴びた組織にもう一度同じだけかけると、ひどい副作用が出る心配が高まります。

そのため再発がんでは、再照射に踏み切れずに行き詰まる場面がしばしばあります。正常組織への負担を抑えやすいBNCTは、こうした壁を越える手がかりとして期待を集めます。

再発のたびに選べる治療がせばまっていくのは、本人にとっても家族にとってもつらいものでしょう。負担を抑えながら攻撃できる手立てが一つ増える意味は、けっして小さくありません。

手術がむずかしい場所のがんでも検討できる

頭頸部は、のどや舌、鼻の奥など、食べる・話す・呼吸するといった働きが集まる場所です。がんが大きく広がっていたり、太い血管や神経に近かったりすると、手術で取りきるのがむずかしくなります。

BNCTはメスを入れずにがんを攻撃できるため、切除をためらう症例でも選択肢に挙がります。形や働きをできるだけ残したいと願う方にとって、検討の余地がある治療といえるでしょう。

どんな人がBNCTの対象になるのか

対象になりやすいのは、標準的な治療をひととおり受けたあとに、それでも局所にがんが残ったり再発したりした方です。遠くの臓器への大きな転移がなく、照射する範囲がからだの表面に近いことも目安になります。

BNCTの対象になりやすい状態

  • 過去に放射線治療を受けた場所での再発
  • 手術での切除がむずかしい局所のがん
  • 遠隔転移が目立たない頭頸部のがん
  • ホウ素薬剤が十分に取り込まれる腫瘍

ただし、これらに当てはまればだれでも受けられるわけではありません。がんの位置や深さ、全身の状態によって判断が変わるため、最終的には専門の医師による診察が決め手になります。

頭頸部がんに対するBNCTの治療効果はどのくらい期待できる?

国内の臨床試験では、頭頸部がんへのBNCTでおよそ7割の方にがんの縮小が確認できました。すでに治療法が乏しくなった再発・進行がんでこの数字は心強く、治療の手応えを示す結果といえます。

国内の臨床試験が示した奏効率という数字

日本で行われた臨床試験では、再発した扁平上皮がんと、再発・進行した非扁平上皮がんを合わせて、奏効率はおよそ71%と報告されています。奏効率とは、治療でがんが目に見えて小さくなった人の割合を指す言葉です。

このうち一部の方では、がんが画像で確認できないほど小さくなる完全奏効も得られました。ほかに手立ての少ない状況での数字として、注目に値する効果といえるでしょう。

扁平上皮がんと非扁平上皮がんで効果は分かれる

効果の出方は、がんのタイプによって少し色合いが変わります。臨床試験では、再発した扁平上皮がんで完全奏効と部分奏効を合わせた割合が高く、非扁平上皮がんでも多くの方でがんの縮小が見られました。

頭頸部がんといっても種類はさまざまで、もとの組織によって性質が異なります。自分のがんがどのタイプかによって見込みが変わるので、主治医に確かめておくと安心です。

縮んだがんを抑え込む局所制御という課題

がんが小さくなることと、その状態を長く保つことは別の話です。BNCTは高い確率でがんを縮めますが、時間がたつと照射した場所の近くで再び大きくなる例も報告されています。

そのため、効果をどれだけ持続させるかが今に続く課題といえます。ほかの放射線治療を組み合わせて局所制御を高めようとする試みも、国内外で重ねられてきました。

縮んだ状態をどれだけ保てるかは、がんの性質やもともとの大きさにも関わってきます。治療後も画像で注意深く確かめながら、必要に応じて次の一手を相談していく姿勢が頼りになるでしょう。

効果を左右する腫瘍の大きさという因子

治療の見込みは、がんの大きさや過去の治療歴にも左右されます。国内の実際の治療成績をまとめた報告では、腫瘍が大きいほど治療後の経過が厳しくなる傾向が示されました。

逆に、がんが小さいうちに治療できれば、よい結果につながりやすいと考えられます。だからこそ、再発に早く気づき、適応を早めに相談することが効果を引き出すうえで大切でしょう。

臨床試験で報告された奏効の傾向

がんのタイプおもな対象報告された奏効の傾向
再発扁平上皮がん放射線後に再発完全奏効を含む高い縮小率
非扁平上皮がん再発・局所進行多くで部分的な縮小
全体切除不能・再発およそ7割で縮小を確認

こうした数字はあくまで集団全体の傾向であり、一人ひとりの見込みとは異なります。自分の場合にどの程度期待できるかは、画像や検査をふまえた個別の評価が頼りになります。

知っておきたいBNCTの副作用とからだへの負担

BNCTは正常組織にやさしいといっても、副作用がまったくないわけではありません。多くは照射した部分に限られた反応で、命にかかわる重い症状は比較的少ないと報告されています。

時期起こりやすい症状おもなケア
治療の最中・直後だるさ、吐き気、一時的な発熱安静と水分、点滴での対応
数日〜数週間後粘膜炎、皮膚の赤みや痛み保湿、痛み止め、口の清潔
しばらくあとむくみ、味覚の変化経過観察と症状に応じた処置

治療の最中と直後に起こりやすい反応

中性子を当てている最中や直後には、だるさや軽い吐き気、一時的な発熱などが起こることがあります。多くは数日でやわらぐ一過性のもので、安静や点滴で対応できる範囲におさまる場合がほとんどです。

ホウ素薬剤の点滴にともなって血液検査の数値が一時的に動くこともあります。治療チームが数値を見守りながら進めるため、変化があれば早めに手を打てます。

粘膜炎や皮膚の赤みとそのケア

頭頸部の治療でとくに気になりやすいのが、口やのどの粘膜の炎症です。照射した範囲の粘膜が赤くなったり痛んだりして、食事や飲み込みがつらく感じられる時期があります。

皮膚にも赤みやヒリつきが出ることがありますが、保湿や痛み止め、口の清潔を保つケアでやわらげられます。つらいときは我慢せず、症状を主治医に伝えて早めに相談しましょう。

食事がとりにくい時期は、やわらかい食べ物や水分を少しずつ口に運ぶと楽になります。栄養が足りなくなりそうなときは、治療チームに相談して食べ方の工夫を一緒に考えてもらうと安心です。

重い副作用が起こる頻度はどれくらいか

重い副作用の頻度は、従来の再照射とくらべて低めに抑えられると報告されています。国内の臨床試験では、命にかかわるような最も重い段階の副作用はまれで、起きても適切な処置で乗りこえられた例が中心でした。

とはいえ、ごくまれにのどのむくみや出血など注意の必要な症状が出ることもあります。治療を受ける際は、起こりうる症状とその備えについて事前によく説明を受けておくと心強いでしょう。

頭頸部がんのBNCT治療を受けるまでの流れと準備

再発や切除不能と告げられて途方に暮れている方も、まずは適応の相談から始められます。BNCTは、検査で対象かどうかを確かめ、薬剤の点滴と一度の照射を経て、経過を追う流れで進みます。

治療前の検査と適応の確認

治療の入り口は、画像検査や血液検査による適応の確認です。がんの位置や大きさ、過去の治療歴を調べ、ホウ素薬剤がどれくらい取り込まれそうかも見たうえで、治療に向くかを判断します。

治療前に確かめておきたいこと

  • がんの位置・大きさと広がり
  • これまでの放射線や手術の履歴
  • 全身の状態と持病の有無
  • 通院や入院に必要な備え

これらをていねいに確かめることで、効果と安全性のバランスを見ながら計画を立てられます。疑問があれば遠慮なく質問し、納得したうえで次に進むことが何より大切です。

照射当日のからだの動きと過ごし方

照射当日は、まずホウ素薬剤を点滴で時間をかけて入れます。薬剤ががん細胞に十分たまったタイミングを見はからって、専用の装置で中性子を当てていきます。

照射のあいだは決められた姿勢を保つ必要がありますが、痛みをともなう処置ではありません。終わったあとはしばらく安静にし、体調を確かめてから帰宅や入院の過ごし方に移ります。

当日は付き添いの方がいると、移動や説明のやりとりで心強く感じられます。気がかりなことを前もって書き出しておけば、あわてずに確かめられるでしょう。

治療後の経過観察と再発のチェック

治療を終えたあとは、定期的な通院で効果と副作用の両方を見守ります。画像検査でがんの縮み具合を確かめ、粘膜炎などの症状が落ち着いていくかも合わせて追っていきます。

再発の早期発見には、こうした定期チェックの積み重ねが役立ちます。気になる症状が出たときは次の予約を待たず、その場で連絡することが安心につながるでしょう。

通院の間隔は、治療からの時期や経過に応じて少しずつ変わっていきます。体調の変化を手帳などに書きとめておくと、診察のときに伝えやすく、小さな兆しの見落としを防ぐ助けになります。

BNCTを受けられる施設と他の治療との使い分け

BNCTを受けられる施設は、国内でもまだ数えるほどに限られます。専用の中性子発生装置がいるため、どこの病院でもできる治療ではなく、まずは実施施設を知ることが第一歩です。

国内でBNCTを行っている施設は限られる

日本では、加速器を使った中性子源を備えた専用の施設で頭頸部がんへのBNCTが行われています。装置の数が少ないため、お住まいの地域によっては受診のために遠方へ出向く必要が出てきます。

受けたいと考えたときは、主治医に紹介の可否を相談するのが近道です。実施施設では、適応の判断から治療、その後の経過観察までを専門の体制で担っています。

陽子線・重粒子線・再照射との違い

頭頸部がんの再発には、BNCTのほかにも陽子線や重粒子線、通常の放射線の再照射といった道があります。それぞれ得意とするがんの大きさや位置、からだへの負担の出方が異なります。

BNCTは細胞単位で的を絞れる点が持ち味で、表面に近いがんや再照射がむずかしい例で力を発揮しやすいといえます。どれが向くかは画像や全身の状態しだいで変わるため、横並びでの比較が役立つでしょう。

主治医とどう相談して決めればよいか

治療を選ぶときは、効果の見込みと負担、生活への影響をあわせて考えることが大切です。BNCTを含めて複数の選択肢を並べ、それぞれの長所と短所を主治医とともに整理していきましょう。

セカンドオピニオンを求めることも、納得して決めるための正当な手段です。あなたの希望や暮らし方を率直に伝えることが、自分に合った治療へたどり着く近道になります。

切除不能・再発頭頸部がんで検討される治療

治療向きやすい状況特徴
BNCT再照射が難しい局所再発細胞単位で的を絞る
陽子線・重粒子線深い場所のがん線量を集中させやすい
放射線の再照射限られた範囲の再発負担と効果の慎重な判断が必要

表はあくまで大まかな目安で、実際の選択は一人ひとりの状態で変わります。迷ったときは、複数の専門家の意見を聞きながらじっくり決めていくのがよいでしょう。

よくある質問

頭頸部がんに対するBNCTの治療効果はどのくらいですか?

国内の臨床試験では、切除不能・再発の頭頸部がんに対してBNCTを行い、およそ7割の方でがんの縮小が確認できています。ほかに手立てが少ない状況での結果として、心強い数字といえます。

ただし、効果の出方はがんの種類や大きさ、過去の治療歴によって変わります。自分の場合にどこまで期待できるかは、画像や検査をふまえて主治医とよく相談してください。

BNCTは切除不能・再発の頭頸部がんでも受けられますか?

切除がむずかしいがんや、一度放射線をかけた場所に再発したがんは、BNCTがとくに検討されやすい状況です。正常な組織への負担を抑えながら、がんを狙って攻撃できるためです。

とはいえ、すべての方が対象になるわけではありません。がんの位置や深さ、全身の状態によって判断が分かれるので、まずは適応の確認から始めるとよいでしょう。

頭頸部がんのBNCTにはどのような副作用がありますか?

おもな副作用は、照射した部分の粘膜炎や皮膚の赤み、治療直後のだるさや軽い吐き気などです。多くは一時的で、保湿や痛み止め、口の清潔を保つケアでやわらげられます。

命にかかわるような重い副作用は比較的まれと報告されています。それでも注意の必要な症状はあるため、事前に起こりうる反応とその備えを聞いておくと安心です。

頭頸部がんのBNCT治療は何回くらい受ける必要がありますか?

頭頸部がんへのBNCTは、原則として1回の中性子照射で完了します。点滴でホウ素薬剤を入れ、十分にたまったところで照射する流れで、当日のうちに治療そのものは終わります。

治療後は、効果や副作用を見ながら定期的に通院して経過を追います。状態によっては追加の治療を相談する場合もあるため、その都度ていねいに説明を受けてください。

頭頸部がんのBNCTはどこの施設で受けられますか?

BNCTには専用の中性子発生装置が必要なため、受けられる施設は国内でも限られています。お住まいの地域によっては、治療のために遠方の専門施設へ出向くことになります。

受けたいと考えたときは、まず主治医に紹介の可否を相談するのが近道です。実施施設では、適応の判断から治療後の経過観察までを専門の体制で行っています。

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医